東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第二十九話をお楽しみください。


東方繋華傷 第二十九話 標的

 風見幽香はずっと考えていた。自分のことや奴らのこと、そして、これからのことを、

「……」

 奴らに殴られてから約二時間が経過していて、真上にあった太陽も傾いてきている。空気が吸収する光の波長が変わり、青かった空に赤みがかかってオレンジ色に変色をはじめ、徐々に暗い色に更に移り変わろうとしている。

 誰かが後方から来ているのを魔力の流れで感じる。こんな時間でタイミングなら霊夢たちで間違いはないはずだ。気配を容易に完治できたということは、気配を隠そうとしていないということだ。

 ワザと私に見つかって私の出方を見ているのだろう。魔理沙や早苗はともかく、霊夢が自らの気配を消せないはずがない。

 ずっとボーっと考え事をしていて、私は着替えるのを忘れていた。今頃になって服に泥や砂がこびりついているのに気が付き、軽く払って後ろを振り向いた。

「……」

 振り向いた視界の前方数十メートル先に、霊夢たちが空を飛んでこっちに向かって浮かんできているのが見える。

 近づいてきてようやく顔が見える位置についたが、私の表情からは何の感情も読み取れないらしく、彼女らは何か解せずに眉をひそめた。

「遅かったわね…待ちくたびれたわよ」

 真横から私たちの顔を太陽の光が照らし、顔に出て来た影で彼女らの深刻そうにしている険しい表情がいっそう出ている。

「…さてと、さっさと初めていいかしら?」

 私が呟いて傘を構えると霊夢たちの間に緊張が走り、これから始める戦いを乗り切るために気を引き締めている。

 霊夢の隣にはいつも一緒にいる魔理沙は、数時間前には乗っていなかった箒に乗っている姿が見える。

 自分や捉えられている者を助けるために私は標的となる普通の魔法使いを名乗る人間を睨み付けて狙いを定めた。

 

 

 しばらく空を飛んでいると、遠くの方に幽香がいるとされている太陽の畑が見えてきて、人間よりも背の高いヒマワリ畑がよく見える。

 私を含めてこの場にいる全員が、異変の手伝いをしているとされている妖怪が私を睨んでいることに遠くからだが気が付いた。

 少しだけ降下して、ヒマワリの咲いていない広場のような場所の中心に、目標が立っているのが見える。

 すべてを投げだして逃げたくなるほどに怖い顔をしている幽香の顔は、元から顔立ちが整っていてきれいではあるが、それによってさらに怖くなっているというのもある。

 戦闘態勢に入っていていつでも戦える準備はできているらしく、すぐさま私たちは散開して幽香を取り囲もうとするが、それよりも前に花が育ちやすいように手入れされている土を幽香は踏みしめ、こちらに向けて跳躍した。

 ドンッ!!

 後方に土をまき散らし、幽香がゆっくりにも弾丸のようにも早く見える動きに私は出鼻をくじかれてしまう。

 近距離での戦闘が得意な霊夢と咲夜が、飛び込んできた幽香を左右から各々の得物で切り付け、殴りかかる。

 右側から頭部に向けて鬼の剛腕に引けを取らないほどの攻撃力で、霊夢が魔力で強化したお祓い棒を振り下ろす。

 左側からは咲夜が両手に持った銀ナイフで、幽香の脇腹を下側から心臓に抉り込ませるようにして容赦のない一撃を食らわせる。

 避けるそぶりを見せない幽香は霊夢と咲夜の攻撃をもろに受け、首の骨が折れるほどの勢いで跳ね上がり、全身に血を送り出すために心臓にはかなりの圧力がかかっていてそこに銀ナイフの刃が到達したらしく、どんな人間でもショック死するだろう勢いでわき腹から血を吹き出した。

 幽香が跳ね上がった顔を背中や腹などの筋肉を使って元の位置に戻し、顔を苦悶にゆがませながらも退くこともせずに、両側にいる霊夢と咲夜に手を伸ばす。

 二人が後ろや横に体をずらして避けようとしたが、攻撃している最中に等しいタイミングであったため、両者ともかわすことができずに咲夜は頭の左側を掴まれ、霊夢は右側から頭を掴まれてしまった。

 二人が幽香に掴まれたてを振り払おうとするが、その矢先に幽香が両手でつかんだ彼女たちの頭をタンバリンみたいに打ち付けあう。

 ガツンと硬いもの同士がぶつかる音がするが、その音の中には人間などの生物を叩いた身の毛もよだつ音が含まれていて、私はぶるっと身を震わせた。

 霊夢と咲夜の息を押し殺した悲鳴が私にまで聞こえてくる。

「…あぐっ…!?」

「うぐっ…!?」

 幽香は怯んだ霊夢を持っている傘で薙ぎ払い、魔力を足の裏から放出して硬質化させ、それを足場にして霊夢と同じく怯んでいる咲夜を蹴り飛ばす。

 作った足場を使って、地面を飛んだ時と同様に幽香は足場を砕いて私に向けて跳躍する。

 早苗は私から数メートルほど離れていて、数十センチ先にまで迫ってきている幽香の方が圧倒的に私に到達する時間は速く、早苗からの援護は望めないだろう。

 幽香は普通の傘とはかけ離れた耐久力を持つ傘を持ち直し、バットなどと同じく薙ぎ払って殴るのではなく、槍などのように突いた。

 フヒュッ

 と空気を切り裂く小さな音が顔のすぐ横から聞こえ、傘が頬を掠った。ギリギリで顔を傾けたおかげで頭部に傘が突き刺さらずにすんだ。

 しかし、今の攻撃は眉間のど真ん中への攻撃、幽香は確実に私を殺しに来ている。霊夢たちの心配をしている暇はないだろう。

 霊夢と咲夜が先に前に出てくれていた内に右手に溜めておいた魔力をレーザーとして目の前にいる幽香にぶっ放そうとするが、突き出していた傘を薙ぎ払うことで私はいる位置と体勢を変えられ、放ったレーザーがあらぬ方向へと飛んでいく。

 振りかぶっての攻撃ではないが、それでもかなりの威力を持っているため、衝撃で脳が揺らされてクラクラして、首がもげそうになるほどに痛い。

「うぐぁっ!?」

 地面に背中を打ち付けた衝撃が強く、その衝撃は胸などにまで届く。肺の中にあった空気がすべて肺が変形したことで押し出されて口から洩れだしてしまう。

 肺の形が治るまでのほんの少しの時間だけ呼吸ができなくなり、私の頭は混乱するがせき込んだことで肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

 呼吸をすることができて、体の筋肉と地面を使って宙返りをし、地面に着地しようとするが、幽香が迫ってきていて目と鼻の先に彼女の顔があり、反射的にレーザーを撃とうとするが急いでしまったせいで威力も弾速もないただの弾幕が手のひらから打ち出された。

 水面に手を強く打ち付けたような破裂音を響かせ、幽香が撃ちだされた弾幕を傘で打ち消す。

 弾幕を魔力で形成されているため、傘でたたき割られた弾幕は力を入れて握ったマシュマロみたいに変形し、ガラスの結晶に見えるほどに細かくはじける。

「っ!!」

 後ろに飛びのいて逃げようとしたが、幽香の伸ばした手に握られている傘によって射程が伸び、私が後ろに飛んで逃げられたとしても足りないぐらいだ。

 身を守るために体を強化しようとしたが、そのタイミングで早苗が後方から幽香に向けて体とお祓い棒を魔力で強化して殴りかかる。

 だが、さすがは幻想郷で最強レベルの妖怪と言われた奴だ。早苗の動きを即座に察知し、私へ攻撃しようとしていた傘を引っ込めて、振り向いて傘を振るう。

 霊夢程とは言わないが、早苗も結構修羅場をくぐり抜けているため、幽香が攻撃に反応するのは予想で来ていたらしく、薙ぎ払った傘に魔力で強化したお祓い棒を打ち付けた。

 金属と金属を打ち合わせたのと変らない耳をつんざく鋭い音が響く。得物同士を包んでいる魔力がはじけ、ガラスか雪の結晶があるみたいに周りをキラキラと漂う。

 幽香の想像以上に強い攻撃の衝撃に早苗の顔が驚きで歪む。私は昔幽香と交戦したことがあってこいつの実力はある程度は知ってはいるが、早苗はこいつとの戦闘の経験は皆無だ。だから幽香の実力が想像以上で驚いているのだ。

 あれでは二撃目をどうにかするのがせいぜいだろう。三撃目で傘の攻撃をモロに受けることになるのは想像でき、そうさせないために後ろに下がりつつ手のひらにレーザーを溜める。

 幽香が今度は逆方向から傘をぶん回し、その短い時間では逃げることはできなかった早苗は、逃げることを放棄して攻撃に対して正面から打ち合った。

 使われた魔力の塵が武器と武器の触れ合った部分から飛び散り、思っていた通り早苗は二撃目の強い衝撃に手がしびれて武器を落としそうなっている。

「っ…!」

 さらには早苗の腕が跳ね上がり、三撃目までに幽香が傘を振ろうとしてる軌道上までお祓い棒を戻し、さらに攻撃に耐えられるだけの強化もしなければならないが、そんな時間はなさそうだ。

 霊夢たちもまだ立て直しておらず、早苗を援護できるのは事実上私だけということになっている。

 早苗に当たらないように気を付け、かつ、できるだけ大きなダメージを与えられる場所、つまり頭部に狙いを定め、レーザーを幽香に向けて放つ。

 ライトの光が出ている部分を覗き込んだような光から発生し、レーザーが幽香に向かって真っすぐに高速で伸びていく。

 背の関係で幽香よりも私の身長は頭二つ分ぐらい小さい。そのため、幽香の頭に向けてレーザーを撃てば、その先にいる私よりも身長が少しだけ高い早苗には攻撃は当たらない。

 幽香の頭部をレーザーが貫こうとしたが、彼女が屈んだことで攻撃が空振りに終わり、早苗が幽香の横から薙ぎ払った攻撃を食らって後ろに弾かれてしまう。

「くそっ…!」

 自分では落ち着いていたつもりだが、そうではなかったようだ。わずかに焦ってしまったことで少し考えれば逆手に取られるような場所を狙ってしまった。

 普通に考えればわかることだ。下半身から胴体にかけては味方に体が重なっていて、外せば味方に自分の攻撃が当たってしまう。

 であるため、狙うは上半身に当たれば致命傷にもできる頭部を狙うのは必然的で、そこまで絞り込むことができているのならばあとは簡単だろう。レーザーに光の魔法を含ませて貫通力を上げているのが仇になった。

 レーザーが強い光を放ち、射撃のタイミングを幽香に悟られてしまった。あれだけ撃ちまくっているのだ。タイミングを掴むことなど容易だろう。

 幽香が吹っ飛ばされながらもお祓い棒でガードしようとしている早苗に近づき、彼女の胸に後方から勢いを載せて傘を振りぬいた。

「あがぁっ!?」

 早苗が悲鳴を上げてぶっ飛ばされそうになるが、その前に幽香が早苗の手を傘を持っていない方の手で掴むと、自分の方向に引っ張って今度は上方向から早苗に傘を振るう。

 初めに胸に攻撃を受けた時点で一時的に戦闘不能になるほどの威力に、戦闘不能になりかけている早苗は抵抗することができず、槍のように突く形で振りぬいた幽香の傘を腹に受けた。

「…はっ…!……う…くは…っ…!?」

 地面に叩きつけられ、ぶっ倒れた早苗は腹に受けたダメージと胸に受けたダメージが大きすぎて呼吸ができないらしく、不規則に息を吐きだしている。

「早苗!」

 私は叫んで幽香にレーザーを放とうとするが花が腕に巻き付き、上に向けさせられて狙いを大きく変えさせられてしまった。

 白色に少しだけ光るレーザーが空を切り裂き、空に橋をかけたようだ。もう片方の手にも魔力を集中させ、レーザーを幽香に撃った。少し下がっていたことで幽香がこっちにつくかつかないかギリギリで撃てるかと思ったが、一歩彼女の方が速かったらしく折られるほどの力で腕を握られ、照準をつけていた高さから下げられて放ったレーザーが地面を焼き焦がす。

 掴まれている手首を引っ張られて幽香の方に引き寄せられると、彼女の顔が目と鼻の先に映し出される。額がくっ付いてしまうほどの距離に花のいい香りが幽香から漂ってくるがそんなのに気を向けている場合ではない。反撃しよとするが両手は拘束されているため反撃することができず、気が付いたころには蹴りを腹の真ん中に受けていた。

「あがっ……あぁ…っ…!!?」

 グギッ!メキッ!

 体の中で内臓がかき混ぜられているような感覚がし、背中にまで届くような形容しがたい鈍痛に喉が反射的に叫びそうになるが、出たのはとぎれとぎれの悲鳴だけだ。幽香が私を掴んでいたことで吹っ飛びはしなかったが、固定されていたことで衝撃を逃がすこともできず、ひどい痛みが全身に広がる。

「早く気絶した方が身のためよ、魔理沙」

 送られている鈍痛の情報で脳がパンクしそうで、地面に膝から崩れ落ちそうになっていた私は、幽香に膝でわき腹を蹴り上げられ、その衝撃で体がふわりと浮き上がった。

「~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

 蹴られている場所は腹ではあるが、痛みで喉がひきつって声を上げることもできない。体内で内臓がゆれる感覚というのは何とも耐え難く、腹に受けたけりで変形して傷ついていたらしい胃から上がってきた血が混ざり、血なまぐさくなっている胃液を私は吐き出した。

「ごぼっ…!?」

 そうしているうちに幽香は掴んでいた手を離し、持っていた傘を振りかぶり、腹を抱えて痙攣している私に振り下ろす。

 なんとか頭を傾けたことで傘が頭に直撃することを避けたが、蹴られた時と変わらないような音が肩からして、私は地面にたたきつけられた。

 三度の攻撃を受け流すこともできずに受けたことで身動き一つとれなくなってしまっている私に、幽香が足を上げて土が付着している靴で踏みつけようとしているのが影からなんとなくわかり、私が目を動かして幽香を見上げると、彼女は持ち挙げた足で私を踏みつぶした。

 




五日から一週間後に次を投稿すると思います。
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