東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第三十話をお楽しみください。


東方繋華傷 第三十話 本当の始まりの前座

 ガツッ!!

 幽香に後頭部を踏まれ、私は地面に顔を押し付けさせられてしまう。

 土が手入れされて柔らかくなっているとは言え、幽香の踏みつける力というのは魔力で体を強化したとしても耐えきれるものではない激しい痛みが頭を襲う。

「んーーっ!?」

 ちょうど顔を地面に押さえつけられていることもあり、悲鳴を上げることができずにくぐもった声が出た。

「あら、気絶するかと思ったけど、意外と丈夫ね」

 ミシミシっ!!

 私は自分の頭の中で鳴り響いている頭蓋がゆがむ音を聞き、一刻も早く幽香の足を離させようともがいたり攻撃をしようとしたが体に負っているダメージが抜けきっていないのと、痛みで頭の処理能力を攻撃することに回せず、魔力が手のひらに集まってくれない。

 それに対して幽香が踏みつけてくる力が一層強くなっていき、それに比例して私の声も絶叫へと変わっていく。

「…魔理沙ぁ!」

 叫び声の中で薄っすらと霊夢の声が聞こえた気がし、限界に近付いていた私の頭にかかっていた圧力が消え去る。

「う……ぐ…っ………!」

 どんなにひどい怪我をしたときでも、ここまでの痛みを伴たことは覚えている範囲ではない。

「…大丈夫!?」

 彼女も頭へのダメージが向けきっていないのか、いつものキレのある動きとは程遠い動きでフラフラと歩み寄ってきた霊夢が、押さえていた咲夜の側頭部にぶつけられた部分から流れてきた血で赤く染まっている手で私を抱き起した。

「な…なんとかな…」

 私が霊夢の肩を借りて立ち上がると幽香はそれを待っていたのか、ゆっくりと傘を肩に担いでいる。

「…くそ……痛ぇぜ…」

 まだ戦いが始まったばかりだというのに、何百メートルも走ってきたかのように体が疲れている。このままではろくに戦えないのではないだろうか。

 魔力を送り込み、思い通りに体を動かせるように筋肉に無理やり働きかけ、手をニギニギと開いたり閉じたりするが、まだ慣れていないこともあって、若干だが私が動かそうと思ってから若干のラグがある。

 だが、それをし始めたことで肩を借りないと立つこともままならなかったが、自分で飛んだり走ったりすることができるぐらいには動けそうだ。

 しかし、間違ってはいけないのはこれは治ったのではなく無理に動かせるようにしているだけであるため、無理をすればどうなるかわからない。できるだけ慎重に行かなければならないだろう。

「…咲夜が早苗を助けに行ってる…彼女が戦えるようになるまで私たちだけで時間稼ぎをしましょう……行けるかしら?魔理沙」

 霊夢が肩を貸してくれていたが私はお礼を言って離れ、こっちにゆっくりとだが飛んできている幽香を見た。

「当たり前だ……幽香を押さえつけるんじゃなくて、さっさと倒そうぜ…この後にも何かひどい祭りが控えているらしいからな」

 私は言って手のひらに魔力を溜め、五メートル以内に近づいてきた幽香に私は先手を仕掛ける。

 レーザーというよりも、魔力をエネルギーに変換して塊にした。キャノンのようなものを幽香にぶっ放した。

 透明に近い青い魔力の塊が幽香に一秒以内に到達し、魔力操作によって彼女の胸の前で爆弾のように爆ぜる。

 それによって幽香の体が後方に吹っ飛び、後ろにあるヒマワリ畑のヒマワリをなぎ倒して地面を転がっていく。

「霊夢…いまだ」

 私が霊夢に言ったころにはすでに彼女は低空を跳躍している。ゴロゴロと転がっていた幽香が傘を使って進んでいた速度を落とし、立ち上がってすぐに立て直す。そしてその直後に突っ込んできた霊夢の攻撃をギリギリだが傘で受け止めた。

 打撃音と言われたら首をかしげるだろうという爆発音に似た打撃音が周りに響き、私が村に行って来た時に見たような衝撃波によって、二人を中心に花が放射状に倒れていく。

 ガンッ!ガンッ!ガンッ!!

 残像を残すレベルで幽香と霊夢が武器を打ち合わせていく中で、霊夢の体の隙間から時々見える幽香に向けて、私は針に糸を通す精密さでレーザーをコンマの時間だけ放つ。

 できるだけレーザーを引き絞り、ほんの一から二センチ程度の太さの熱線が幽香の脇腹をやすやすと貫通する。

「っ!?」

 幽香が表情を険しいものに変えるが、休む暇も与えずに攻撃をする霊夢のお祓い棒に、片手で腹部を押さえてもう片方の手で持った傘を打ち付けた。

 二人の攻撃力が釣り合っているのか、どちらかが弾かれることもなく鍔迫り合いとなってギリギリとお互いの得物を押し付けあうと、武器を強化している魔力が役目を果たして火花のように散る。

 私は集中力を高め、霊夢の体のところどころからはみ出している幽香の足や肩をレーザーでさかさず撃ち抜く。

「ぐっ!?」

 肩を撃ちゆかれたことで力が分散し、足を撃ち抜かれたことでバランスを大きく崩し、幽香は霊夢に押し切られて傘を上に跳ね飛ばされる。

 霊夢は幽香の脅威をできるだけなくすため、上に跳ね上がった幽香の傘を更にお祓い棒を叩きつけて弾き飛ばした。

「っ!」

 傘が後方に回転しながら飛んでいき、幽香は丸腰となるが妖怪である彼女は素手でも上級の妖怪を簡単に屠るため、霊夢に跳ね上げられた腕をレーザーで撃ち抜く。

 霊夢の体に幽香の腕は重なっていないため、幽香の腕を太いレーザーで撃ち抜いたことにより、拳を握りしめようとしていた彼女の腕が千切れ落ちる。

「くそ…っ!」

 幽香が腕を再生させようと魔力を腕に送り込んだらしく、焼けて無くなっている腕の断面から新しい細胞が作られ、肉が膨れ上がると腕を形成する。

 それと同時並行で幽香は残っていた左手で握りこぶしを握り、薙ぎ払うようにして目の前にいる霊夢を殴り飛ばす。

 金属音に似た音が鳴り響き、霊夢と幽香の強化に使われていた魔力がさっきの攻防よりも大量にはじけ飛ぶ。

 私と比べれば接近戦にたけている早苗でさえ、受け流しても武器を持っている手、もしくは両腕が折れている可能性があったというのに、霊夢は簡単に受け流して何事もなかったと見えるほどに戦闘を再開する。

 これを見ると。霊夢はどんな奴よりも強いと思わせられる。もし霊夢が敵だったらと思うとこんなに恐ろしいことはないが、仲間であればここまで頼もしい奴もそうそういないだろう。

 上方向から斜めに繰り出された拳を、霊夢は懐に潜り込むようにして受け流したが、幽香のパンチの威力が高かったらしく、上半身が後方に引っ張られてしまっている。とても不安定といえる格好だ。

 あれではどう頑張っても体勢を戻している間か、戻したときに引き戻した幽香の左手か、もしくは再生した右手の第二撃がきてしまう。

 再度右手か左手を撃ち抜こうと手先に溜めていた魔力を、レーザーとして放とうとしたが止めた。霊夢はお祓い棒を持っている右腕に引っ張られて後ろに体をそっているが、体を無理やりに沿っている方向に捻り、体を回転させて下側から幽香の脇腹を殴り飛ばす。

 幽香の魔力で強化されていた肋骨をいくつか砕いたらしく、木の棒を折った音に似た乾いた音が鳴り響いて幽香の顔が驚愕を示し、少しだけ苦痛に歪む。

 さっき撃とうとしていたレーザーを、霊夢の体の隙間から見えた幽香の太ももを撃ち抜く。

 霊夢は幽香に反撃する暇を与えず、回転していた動きを止めて下から上に殴り上げていたお祓い棒を、わき腹を押さえている幽香の顔面に叩き込んだ。

「ぐ……っ……あ…ぐ……っ!?」

 幽香との身長差があったことで顎を下側から殴り、彼女のことを後方に山なりにぶっ飛ばした。

 宙を舞う幽香が霊夢に向けて反撃ができないように、貫通力にたけているレーザーを数発ぶっぱなして胸や手を撃ち抜く。

 ゆったりとした動きで吹っ飛んでいる幽香は空中に魔力で作った足場を作ろうとはせず、立て直すこともなく地面に背中を打ち付けて転がっていき、仰向けになってようやく止まる。

 倒れた幽香に霊夢が間髪入れずに走り寄り、お祓い棒を向けてこれ以上抵抗できないように制する。

「…動かないで」

 霊夢の静かで無視をしたら何をされるかわからないような、容赦のない声で幽香に告げる。

 私もすぐに倒れている幽香に少しだけ近づくが、掌を向けてレーザーをいつでも撃てるようにする、彼女は動くことをせず霊夢の言ったことに従っているのかと思ったが、幽香は顔を上げてどこかを見つめたまま、動かない。

「…王手よ、幽香……抵抗するならするでもいいけど、ここからは命の保証はできないわよ?」

 霊夢が静かに言うと、幽香は見上げて空ではなく、自宅へと向けていた顔を下げ、私たちを見上げる。

「そう…」

 そう呟いた幽香の目には先頭への意欲も戦いの喜びも感じられず、それを見た私たちは困惑した。一部を除くが力を持った強い妖怪のほとんどが好戦的で、戦いが好きな連中が多い。彼女もその中の一人で、殺し合いまではいかなくても戦いは好きだったはずだ。でも今の幽香にはそれがないように見えた。それのせいでいきなりの幽香の反撃に反応が遅れた。戦う気力がないのかと思ったからだ。

 地面を手で掴み、そこを中心にして腕力だけで体を浮き上がらせ、私とすぐ横に立っていた霊夢の足を薙ぎ払う。

 立っていた向きにより足を払われた私は前のめりになるように体が浮き上がって回転し、霊夢は少し後ろからの足払いだったらしく、霊夢に背を向けて宙を舞っている。

 足払いをした幽香は腕の力だけで立ち上がり、私に傘を振るい、霊夢に回し蹴りを放った。

 ほぼ一瞬のうちに傘を振るわれて蹴られた私と霊夢は、何かを思考してそれを実行する間もなく体が後ろに引っ張られていく感覚を感じ、急速に幽香から体が離れていく。

 殴られた直後は感じなかった痛みが胸を中心にして全身に広がり、叫び声が喉から絞り出されそうになったときに横からの強い衝撃を受け、私の飛んでいた軌道が大きく変わる。

「うっ…!?」

 背中ではないが衝撃を受けたことで肋骨がわずかに歪み、骨の内側にある肺から空気が抜けだす。

 誰かが背中側から手を回してきて掴んでくるが、赤と白を主張している巫女服に霊夢が私にぶつかってきたのだとわかる。

 しかし、私たちは別々の方向に飛ばされたわけであるため、霊夢が私にぶつかって来るのはおかしい。そう思った直後、私がいた位置を幽香が放った巨大なレーザーが空を切って空気と地面を焼け焦がす。

 魔力を足から放出して足場を作り、空中で受け身を取るという余裕がなかった私は霊夢のおかげで助かったが、彼女も私を掴んだまま空中で立て直すことは無理らしく、私たちは地面に肩から転がり、地面の上を数メートル滑る。

 ようやく止まったとき、幽香からの二射目が来る前に立ち上がろうと、体を持ち上げるが霊夢が私のことを地面に押し倒し、周りに札をばらまいて地面に伏せた。

「っ!?」

 霊夢が手を私の目に重ねて覆い、幽香がぶっ放してきたレーザーの光量から私を守ってくれる、だが、光が強すぎてあまり意味を成してはいないが、それのおかげで目が見えないというほどではない。

 霊夢が周りにばらまいた札が、幽香のレーザーに今のところは耐えていてくれているおかげで、私たちにダメージは無い。

 しかし、強力すぎるレーザーにより、かなりの枚数の札を守るために使って負担を分散させていたが、それらの札に尋常ではない負荷がかかり、結界が悲鳴を上げ始めている。

 ギギッ!

 物がよじれるような歪な音が聞こえた直後、薄いガラスと変わらないように見える結界が幽香のレーザーに耐えきれずに砕け散った。

「…くっ…!」

 霊夢が私を守るためにレーザーがきている方向に自分の体を向け、その体で私の盾になる。

「…うっ……あああっ…!!」

 とっさに数枚の札を取りだし、自分の負うダメージを肩代わりさせようと弱い結界を作るが、あまりの威力に数枚では一枚一枚の負担がデカすぎてすぐに悲鳴を上げて札は焼け焦げてしまう。

「…が……ああああああああっ!?」

 霊夢の悲鳴にいてもたってもいられずにすぐに飛びだして、いる場所を交換しようとするが霊夢は私が移動することができないように強く私を抱きしめていて、身動きを取ることができない。

「霊夢!!」

 私の叫び声も聞こえているかわからないが、彼女の悲鳴は聞いているだけで胸に穴が開きそうなほど痛々しい。霊夢も魔力で体を守っているが押され気味で、服が焦げたりし始めている。

 彼女の負担を減らすために私も魔力をレーザーがきている方向に向けて放ち、少しでもレーザーが阻害されるようにした。

 数秒もすると幽香の放っていたレーザーが途切れて明るくて何も見えなかったが、周りが見えるようになる。

 私を抱きしめていた霊夢の体のあちこちには、火傷で皮膚が真っ赤になっていて、服も所々が焦げたりしている。

「…はぁ……はぁ……」

 大量の魔力と熱などに耐えきるために体力を使ったのだろう。息の荒くなった霊夢が私を抱きしめていた力が緩くなり、後ろに倒れそうになった。私が彼女の背中に手を回して押さえたことで何とか倒れる前に支えることができた。

「霊夢!大丈夫か!?」

 今度はこっちが霊夢を抱き寄せて言うと、彼女は掴んでいた私の二の腕を弱々しく握る。

 幽香が三度、私とぐったりしている霊夢に向けてさっきと同じ超極太のレーザーを放とうとしたが、周りにいきなり出現して自分に向かって高速で飛んで来る銀ナイフが現れ、仕方なくレーザーを中断して、傘で叩き落とす。

 咲夜が幽香の後方からいきなり現れ、両手に持った刃渡り十数センチはある銀ナイフで切りかかり、咲夜の方向を向いた幽香の更に後方から早苗が走り寄りお祓い棒で殴りかかる。

 二人が霊夢が立て直すための時間稼ぎをしているうちに短い魔法のスペルを唱え、氷結系の魔法を発動して弱い冷気で彼女の体を冷やしてやる。

 魔力の作用もあってか、比較的すぐに火傷の発赤は退いたがすぐには動けないほどのダメージを追っていて、早くても数分以上は体を休めないと満足に戦える状態にはならないだろう。

「二人とも!足止めを頼む!」

 ダメージで動くことのできない霊夢を先に叩こうとする幽香を押さえている咲夜と早苗に言い、私はポーチの中をまさぐる。

 目的の物はすぐに見つかった。治癒を促進させる液体の入った小瓶をポーチの中から取り出し、蓋がわりのコルクをねじり取って応急処置のために霊夢に飲ませた。

「うぐ…っ…!」

 回復薬の液体が舌に触れたらしく、霊夢が眉をひそめて百ミリリットル程度の液体を数十秒かけて飲み下す。

 この薬はあまりおいしいものではないというか、全然おいしくないが、多少なりと回復が速くなるため我慢して飲んでもらうしかない。

 液体には体に吸収されやすい素材や魔力の効果を体に効きやすくする物も入っている。それもあって小瓶の中の液体が無くなるころには、霊夢の熱にさらされて赤く変色していた皮膚は、黄色人種にしては少しだけ白っぽい肌へと戻っていく。

 火傷により苦しそうにしていた霊夢の表情も緩和されてだいぶ良くなり、十数秒もすると荒かった息も彼女の弛緩していた体に力が戻っていくのを感じる。

 だが、まだ立てるほどではなく四肢に力が入らないらしく、霊夢は立ち上がることができずに幽香と交戦している早苗と咲夜を悔しそうに見た。

「今は回復に専念しよう……無理をして今戦いに参加しても足手まといになるだけだぜ」

 私がお姫様抱っこで霊夢を抱え、幽香から見えない位置に移動して回復に専念することにした。

「…わかってる、今はあの二人に任せるわ」

 




戦いの部分は長かったので、これでもカットしました。

今回は五日から一週間ではなく、明日に次を投稿します。次で一章は終了です。
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