東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第三十一話をお楽しみください。


東方繋華傷 第三十一話 異次元から

 霊夢さんを回復させている魔理沙さんを視界の端で少しだけ見ながら思う。

 私や失礼ではあるが魔理沙さんならともかく、まさか霊夢さんが一時的に戦闘不能になって前線から離れることとなるとは思わなかった。

 風見幽香と呼ばれている花の妖怪に、弾幕すら弾く傘でさっき殴られた胸がズキズキと痛み、体を動かすごとに体の奥から継続的に小さな痛みが神経を通じて脳に伝わり、痛覚と能が認識している。

「ぐっ…!」

 胸の痛みに耐えながら咲夜さんの方向を見ると、刃渡り十数センチしかない二本の銀ナイフだけで風見幽香の攻撃を完璧に受け流しているのが見え、驚きに混じって嫉妬心や羨ましさを感じる。

 幻想入りしてまだ日が浅い私は霊夢さんや咲夜さん、魔理沙さんと比べて戦闘の経験が少なく。霊夢さんたちのように風見幽香の攻撃をはじき返したり、何のダメージもなく受け流すことができるほどの錬度はない。それに、咲夜さんと一緒に戦うことも少なく、彼女の動きがわからない私の弾幕などで少し動きずらそうだ。

 風見幽香が私に狙いを定め、傘を薙ぎ払ってくる。予備動作があり、攻撃しようとしていたのを中断して受け流す体制へと移行する。

 私が予想していた風見幽香の傘の軌道から、二センチも離れた場所でお祓い棒に武器がぶつかり、私を少し焦らせる。

 それに加えて風見幽香が振ってきた傘の角度も予想よりも十度も高く、表面を滑る程度で終わるはずだった薙ぎ払う攻撃の威力の何割かが私の押さえている腕にかかり、魔力で強化されている腕の筋肉に痛みを感じる。

「うぅっ…!」

 歯を食いしばって押し返すつもりで力を籠めるが角度が高くて抉り込む傘の軌道を少し変えることしかできず、私は跳ね飛ばされてしまう。

 地面を転がり、隙を見せないようにと立ち上がろうとした時、すでに目の前に来ていた風見幽香が傘を振りかぶっていて、私はとっさにお祓い棒を前方に構えて彼女の攻撃を受け止めた。

 何百キロもある岩でも持っている感覚に襲われるほどの重い一撃だが、何とか体に掠ることもなくガードすることができた。しかし、風見幽香のした方向から上方向に向けての攻撃の強さに腕が跳ね上がり、手がしびれてお祓い棒を握っていた得物を落としてしまう。

「武器を離すな!」

 咲夜さんはとっさのことで声をあら上げて私に怒鳴るが手がしびれて感覚がなく、反対の手で拾おうとするが、一歩大きく前に出た風見幽香がサッカーでボールをけるのに似てる動作を見せた。

「っ!!」

 背筋にキンキンに冷えている氷でも突っ込まれたように寒気を感じ、危険を感じ取って全身の筋肉を使って私が全力で後ろに下がると同時に風見幽香が蹴りを放つ。下がったことには下がったがギリギリ顔に足が当たってしまうため、急いで顔を傾けると彼女の靴が右目の上の額を掠り、何かが抉り込んできたみたいな鈍い痛みを感じ、手で押さえようとするが感じているのは痛みだけでなく浮遊感もあり、私はいつの間にか宙に浮きあがっていた。

 少し掠っていただけでこの威力、直撃していたらと思うとぞっとする。頭に当たっていたら頭蓋が砕けるでは済まないだろう。

 魔力操作をして浮き上がった体をそのまま浮き上がらせ、蹴りが掠ったことで跳ね上がっていた顔を下げ、懐から取り出した札に魔力を吹き込んで弾幕として放つ。

 抉られた額から血が流れ出し、その下にある右目に流れ込んでしまい。右半分の視界に赤みが含まれ、若干だが視界が見づらくなってしまった。

 大した被害でもないかもしれないが、死活問題ではある。下手をしたら攻撃を見逃すこともあるかもしれないからだ。

 私の弾幕を無視して風見幽香がさらに追撃を加えてこようとしてくるが、後方から咲夜さんの声が聞こえて来た。

「早苗、そのまま動かないでください」

「えっ…!?」

 時を止めたのだろう。いつの間にか私の後ろに移動していた咲夜さんが体を硬直させた私の後方から、大量の銀ナイフをスレスレで当たらないように投げ、風見幽香に突き刺していく。

「ぐっ!?」

 首、腹などの重要な器官や肩や腕にまで銀ナイフが刺さった風見幽香はわずかに顔を苦痛に歪ませるが、それを無視して魔力で足場を作り、それを使ってさらにこっちに向けて加速して突き進んでくる。

 武器がないので、風見幽香に対処するためにスペルカードを発動しようと取り出したカードに魔力を流し込もうとしたが、時を止めた咲夜さんが前に回り込んでいたらしく、ふっと現れると、風見幽香の攻撃を銀ナイフで受け止める。

 耳をつんざく金属音を響かせ、魔力が火花となって散って消えていく。

 銀ナイフを振る咲夜さんと傘を振り回す風見幽香から一時的に離れ、お祓い棒の中に溜めておいている魔力に呼びかけ、魔力の力によって自分のもとに呼び寄せた。

 そうしているうちに二人は十数回にもなる回数も得物同士を打ち合わせていく、受け流しの上手な咲夜さんは吹き飛ばされることなくその場にい続けている。それを横目に飛んできたお祓い棒をキャッチする。

 魔力を足から放出し、足場にして上空に向けて跳躍し、咲夜さんたちを飛び超えて風見幽香の後ろに回り、弾幕を浴びせた。

 咲夜さんに当たらない様にきちんと配慮はできているため、傘を振っている幽香にしか弾幕は当たっていない。

 幽香の太刀筋が後方からの攻撃でわずかに変わって小さな隙が生まれ、咲夜さんが風見幽香の胸を銀ナイフで深々と切りさく。

「ぐっ!?」

 風見幽香が自分の胸を切り裂いた咲夜さんの腕を掴み、逃げられないように拘束されてしまった咲夜さんは銀ナイフで風見幽香の腕を切り落とす前に蹴り飛ばされてしまう。

「がはっ!?」

 蹴りの威力に咲夜さんは吹っ飛ばされ、すでに倒れているヒマワリの上を転がり、倒れ込む。

「っ!」

 私は倒れた咲夜さんに傘を向けて、レーザーを放とうとした風見幽香の傘をお祓い棒で殴りつけ、射線の向きを大きく変えさせることには何とか成功した。

 しかし、早々にそれを察知していた風見幽香に回し蹴りを食らわせられていて、咲夜さんと同様に吹っ飛ばされ、あらゆる器官が潰されたような痛みに動けなくなってしまう。

「か……は……っ!?」

 体が痙攣して思うように手足を動かすことができず、私に近づいてきた風見幽香は地面にへばりついている私の首を掴んで静かに目の高さまで持ち上げた。

 風見幽香の鋭い眼光が目に入り、恐ろしさで手が震える。掴まれている首が閉まり、とても苦しい。お祓い棒で反撃しようとするが畏怖により体が硬直してしまう。

 風見幽香が無表情のまま表情を変えずに私のことを見ていたが、傘を振りかぶって私の頭に叩きつけようとしたところで、彼女はいきなり私のことを投げ捨てた。

 体が浮き上がる感覚を感じている状態で風見幽香を見ると、急いで手を引っ込めていたが、指先を魔理沙さんが放ったレーザーに焼かれ、黒く焦げている。

「二人とも!すまない!もう少しだけ頼む!」

 空中で体勢を立て直してレーザーが飛んできた方向、風見幽香に手のひらを向けている魔理沙さんを見ると、彼女は私に無理難題を押し付けて来た。

 咲夜さんはまだ立つことができておらず、霊夢さん回復中で、魔理沙さんは霊夢さんの回復を手伝っているが、時々は援護してくれるだろうがあまり期待はできないだろう。

 そうなると咲夜さんと霊夢さんのどちらかが体勢を立て直すことができるまで、私一人風見幽香を抑え込まないといけない。

 戦う前からすでに無理だろうという雰囲気が漂い始めていたが、実力では負けても気持ちだけは勝つために気持ちを入れ替え、私のことを見ている風見幽香を見た。

 彼女は魔理沙さんに焼かれた指先を修復し終えたところであり、自分に向けてレーザーを撃った魔理沙さんの方向を見ようとしたが、私が戦闘体勢に移行したことで、まずは目の前の敵を倒すことにしたのだろう。傘を握りしめ、私の方にゆっくりだが大股で歩み寄り、慣れた様子で傘を片手で剣のように構える。

 風見幽香の呼吸から攻撃のタイミングを読もうとしたとたんに彼女は私に向けて走り始め、こちらも負けじと一騎打ちのように走り、得物を振りかぶって振り下ろす。

 全体重をかけた私の一撃は、風見幽香の下から上に向かう薙ぎ払いによって簡単にはじき返されてしまうが、そんなことは想定内だ。

 元からこの妖怪に腕力で勝てるわけがないのだから、鍔迫り合いなんか言語道断である。

 車には轢かれたことはないがおそらく、突っ込んで来たらこうなるのだろうなというほどの衝撃を受け流すために後方に体を移動させたとき、土を踏む音が後ろから聞こえて来た。

 目の前にいる風見幽香の歩くタイミングとは全く違うタイミングでの足音に、咲夜さんかと思ったが目の前にいる妖怪と同じ殺気を放っていることから絶対に違うと確信を持つ。

 後方に向けて弾幕を撃とうとしたが、二人に分かれて後方からもう一人で襲い掛かってきていた風見幽香の距離が予想以上に近く、弾幕を放つために伸ばしていた手を万力で絞められたと錯覚するほどの握力で握りしめられる。

「い……っ!?」

 手を引っ込めようにも、引っ込める頃にはすでに背中に風見幽香の蹴りを叩き込まれていた。

 ドゴッ!

「か……っ…あっ……!?」

 か細い声を喉から絞り出した私は風見幽香の足から伝わってきた運動エネルギーに従い、前方にいる風見幽香にむけて吹っ飛ばされてしまう。

 私が向かう先で傘を振り下ろそうとしている風見幽香の姿が薄っすらと見え、お祓い棒を構え、防御することには成功した。しかし、お祓い棒ごと私は地面に叩きつけられてしまった。

 地面に体が衝突すると、そこから反作用で跳ね返ってきた衝撃に体の中身がすべて飛びだしそうになる感覚が体を襲い、私は体の防御力を魔力で最大にまで高める。

 体の中から内臓が飛び出すことはなかったが、その代わりに体が引き裂かれる痛みが全身に回り、痛みで体が痙攣し、立ち上がらなければならないのに体がそれを拒否して立ち上がることができない。

「…っ!!?……がはっ…!!」

 体内で胃が動き、胃の中で溢れてきている血という異物を口から吐き出した。

 目の前にある地面が真っ赤に染まり、花の白い花びらや緑の葉っぱなどを赤く染め上げる。

 口のなかで強い鉄の香りが広がり、気分が悪くなってくるため、口の中にある残りの血を吐き出した。

「…っ」

 まだ立ち上がることのできていない私のすぐ横に風見幽香が着地し、私の背中を革靴で踏みつけて地面に押さえつけさせられてしまう。

「…邪魔しないでくれないかしら?…ついででもあるけどあなたたちのためでもあるのよ…だから、おとなしく魔理沙を引き渡しなさい」

 風見幽香が荒々しさなどを見せずに静かに私に言った。叫んでいたりしているわけではないというのに、なぜか焦っているように感じられた。

 ただ、私たちのためという言葉、風見幽香を利用している奴からということだろうか。だが、今はそんなことを考えている暇なんかない。

「…無理です…!…仮にあなたに魔理沙さんを引き渡したとして、そのあとはどうなるんですか?…あなたが魔理沙さんに何かをするのではなく、その先にいる人に受け渡しするんでしょうけど……魔理沙さんをこんな異変を起こした連中に引き渡したらただではすみません。殺されてしまうことぐらい貴方だってわかってるんですよね?」

「ええ、わかってるわ……その程度のことは、幻想郷全体から見れば大した問題じゃあないじゃない」

 幽香の返答に若干驚かせられたが、これが人間と妖怪の価値観の違いだろう。妖怪にとって人間が一人死ぬことぐらいどうってことないのだ。

「なぜ、そんなに命を軽く奪えるんですか…」

「…人間が持つ倫理の価値観を私たち妖怪に求めること自体が間違ってると思わないかしら?それに、あなたたちだって似たようなことをやって来たでしょう?」

 風見幽香の言葉に私は意味が分からず眉をひそめると、彼女はゆっくりと話し始める。

「今回は命だったけど、今までだって妖怪たちが何かを成し遂げるために異変を起こした。でもそれに理由をつけて阻止をした。それ自体は争いなわけだから悪いことではないかもしれない。でも、大人数のために少数のしたかったことを無理やりなかったことにして奪ったことは変わりない。……まあ、私が言いたいのは、今回は貴方たちが奪われる側だったってだけよ。今までそうしてきたんだから、一度奪われる側だったぐらいで騒がないで頂戴」

 風見幽香が私を踏んで押さえつけている足に更にさらに力を入れ、地面に押し付けられてしまうが、私は自分の役目を全うできたらしい。

「…あんたの言うことは一部は正しいところもあるかもしれないけど、魔理沙を引き渡すわけがないじゃない…」

 ある程度は回復した霊夢さんが風見幽香の斜め後ろから踏み込み、風見幽香の持っている傘を絡めとるようにして弾き飛ばした。

「そう、じゃあ頑張りなさい」

 風見幽香は驚くこともなく、焦った様子も見せずに霊夢さんの二撃目を右腕を盾にして耐え凌ぎ、折られた右腕を庇いながら霊夢さんのお祓い棒の届く範囲から抜け出す。

 霊夢さんはそのまま深追いはせずに動きを止め、風見幽香に向けてお祓い棒を構えると、治っていない右腕を下ろしたまま、左手だけ戦えるように構えた。

 普段通りに見えるが、私が危なくなったせいで回復を中断してきたようだ。動きがまだぎこちない。

 霊夢さんが走り出すフェイントを風見幽香にかけ、彼女の意識が霊夢さんに集中したすきを狙って、後方から咲夜さんが背中を切りこんだ。

 鮮血がパッと飛び散り、背中からお腹までわき腹を通る軌道を銀ナイフで切られた風見幽香の服が、赤い血で真っ赤に染まり始める。

「ぐっ!?」

 風見幽香の数倍は速く動いているように見える咲夜さんは、時間を操作して相手よりも速く動くことができるようになるスペルカードを使用しているのだろう。幽香を後方から前方に移動して切り裂いていたが、切られた幽香がうめいているころにはすでに彼女の周りを回って銀ナイフで何度も切り付けていた。

 体の弱点分を狙った容赦ない斬撃にたった数秒で幽香の体が血まみれとなっていく。

「…っ!?」

 幽香はそれでも切り傷を無視して、高速で周りを回っている咲夜さんに向けて拳を放つ。

 お祓い棒でガードしていたらお祓い棒を持っていられないほどの衝撃が来るだろうという拳を、咲夜さんは体を後ろにそらせることで避けたようだ。

 ほんのわずかな時間ではあるが驚いた顔が見られ、等倍の速さであったらさっきの攻撃は咲夜さんに当たっていたかもしれない。

 咲夜さんは幽香が伸ばした腕を引き戻す前に、彼女の両肩の関節部に銀ナイフを根元まで突き刺し、空中に飛ばすように腹部に蹴りを入れて吹っ飛ばした。

 幽香の体が後方に吹き飛んでいき、魔力で足場を作ろうとしていたが、彼女は何かに気が付いて焦った表情を見せる。

 その視線の先にはミニ八卦炉ではなく、掌を構えた魔理沙さんがいて、マスタースパーク並みのレーザーを幽香に放ち、撃ち落した。

 

 

「…それで、あんたは誰かに言われて魔理沙を狙った……あんたが誰かの命令を聞くとも思えないけど、その命令を下したのは誰?」

 霊夢が札で何重にも封印をかけている幽香に向けて何度目かの質問を投げかけた。

「…………」

 それに対して幽香は聞こえてはいるが無視を決め込んでいる。霊夢もとっくにわかっているだろうが、おそらくこいつは敵の情報を言わないだろう。

「お前は物につられるようなやつじゃない」

 霊夢が形だけでも次の質問に移ろうとしたが、私は彼女には荷も言わずに幽香に話し始めた。

「どんなに脅されても、その連中に従うようなやつじゃない…普通なら」

 私は封印されて座っている幽香の目の前に膝をついて目線を合わせ、彼女の顔を覗き込んだ。

「…」

 私は静かに幽香の首筋に手を伸ばし、動脈の鼓動を感じる部分に触れてから彼女に言った。

「深い理由は知らないが、誰かを使って脅されてたってところか?」

 目を閉じて指先に意識を集中させると、幽香の鼓動の速さと強さを感じ取った。

「少しだけ鼓動が速くなった……お前にもそんな人物がいたなんて驚きだな」

「そんな方法で本当に嘘か本当かわかるんですか?」

 私が呟くと、後ろから早苗が言ってくるがそう言う気持ちもわからなくはない。心臓の拍動なんかで嘘か本当か見分けることなんかできなさそうではある。

 運動をしていたり精神の安定具合などが影響して、こんな状況では普通の人間や妖怪なら効果は薄かっただろう。

 だが、幽香相手なら問題ではない。戦闘から大分時間も経過していることで心臓の拍動も平常に戻っている。それに、幽香の精神は私たち以上に図太く、私たちが尋問で暴力を振るわないとわかっているだろうから、緊張もない。現段階なら表情や仕草などから読み取るよりもこっちの方が正確だろう。

 そして、なによりも、

「…拍動は魔力で調節することが難しいから、それでだますことはできない。例え騙そうとしてもすぐにばれるから幽香みたいな性格の奴には意外と有効なのよ」

 私に代わって霊夢が言ってくれたがその通りだ。普段心臓などの筋肉は脳のどこかの器官が無意識のうちに調節してくれている。だから、自分が意識して心臓などの筋肉を動かしているという動物はいないだろう。それを魔力を使って自分の意思で無理やり変えるため、拍動の速さやテンポ、強さがバラバラとなり、騙そうとしたりごまかそうとしているのがわかるのだ。

 私は次の質問に移る。

「人数は?五人以上か?」

 彼女の拍動が自然にわずかに加速する。

「お前を脅しているのは、そとの世界から来たやつか?」

 拍動のわずかな加速。

 私が幽香の拍動が収まるのを待とうとした時、質問をしていないのに彼女の鼓動が早まっていくのを指先で感じる。

 彼女が魔力で拍動を調節しているのかと思ったが、違う。あまりにも拍動が自然すぎるのだ。

「…っ…!……奴らが…来る…!」

 焦りや戸惑い、おびえすら見せている幽香なんて初めてみた私たちは驚きで困惑した。

「奴らが来るって、この異変を起こさせた奴か!?」

 私が幽香の肩を掴んで問いただそうとすると、私の手を掴んだ彼女は静かに言い放つ。

「…ええ、そいつらのことを…あんたはよく知っているわ」

「お前をねじ伏せることができる幻想入りしてきた奴なんて、私は知らないぜ」

 私がそう言うと、彼女はそんなことはないという。

「たぶん、あんたが幻想郷に幻想入りをする前に繋がりがあったやつよ…あいつらは、古い友人だとか言ってたわ」

 幽香のその言葉に私は思考が停止しかけ、体が凍り付いたように動かせなくなってしまう。

「…え……?」

 そうしている間に回り一帯にさっきから感じ始めていた嫌な気配が強くなってきていて、どこから来るかわからない霊夢たちは頭が真っ白になっている私を置いて周りを警戒し始める。

「…魔理沙、この異変を起こした奴に心当たりがあるのね?」

 霊夢がそうたずねてくるが今の私には受け答えをするだけの余裕はなく、思い出したくもない懐かしくもある奴の気分が悪くなる魔力を感じてしまう。

「うそ……だろ……」

 幽香の肩を掴んでいた私の手が小刻みに震えていて、いつの間にか泣きそうな声で誰に言うわけでもなく、呟く。

 その私から幽香は視線を外して、緊張した様子で回りを警戒し、魔理沙の返事を待っている霊夢に声をかける。

「霊夢」

「…?…なに?」

 だいぶやばい魔力の持ち主が近づいていることで、焦りながらもいつでも迎撃できる体勢でいる霊夢は話しかけるなと言いたげに返事をする。

「こんなことを頼める立場じゃないのはわかってるけど、一つ…頼まれてほしい」

 幽香の真剣な言い草が気になったらしく、霊夢が幽香の言葉に耳を傾けた。

「…私の家の中に……妖精たちが捕まっている……札が張ってあって妖怪である私は剥がせない…だから、あなたたちがあの子たちを奴らに殺されないように逃がしてほしい」

 霊夢が何かを言おうとする前に、幽香がさらに続けて呟く。

「今から逃げても死ぬまでの時間を稼ぐだけかもしれない。でも、それでもあの子たちを逃がしてほしい」

 幽香が幽香らしくないことを言っていて、霊夢は不信感を抱いているようではあるが、彼女の真剣なまなざしに静かにうなづいた。

「…一つ教えて、異変を起こしたのは…誰…?」

 霊夢が言い、幽香がそれにこたえようとした時、感じ取れる敵の魔力の強さが最高潮に達し、私たちの周りの空中にヒビが入る。

 ビキッ!!

「…なっ…!?」

 ガラスを置き、それに亀裂を入れたようなものが何もない空中でできるという初めての現象に、霊夢だけでなく咲夜や早苗までもが驚き動くことができていない。

「全快してても勝てるかわからない相手に、こんな状況で勝てるわけがない…今は……逃げろ…!」

 幽香の一括に我に返った霊夢たちは空間にひびが入っている場所から離れようとし、他の三人よりも反応の遅れた私は幽香に突き飛ばされ、逃げ遅れていた私を連れ出そうと引き返そうとしていた霊夢にぶつかった。

 バキン!!

 見た目通りにガラスの割れる小気味いい大きな音が響き渡り、空中が割れて幽香の周りに真っ黒な空間が現れる。

「あらあらあら、駄目じゃない…こんなにヒントを上げちゃあぁ」

 凛とはしているが、どことなく狂気を感じる高くも低くもない声が割れた空間から聞こえ、その中から異変の首謀者は手だけを出して、すぐ近くにいる幽香の口を押える形で後ろから顔に触れる。

「…っ…!」

 幽香が手を振り払おうとしたが、奴は手だけを出していた状態から体全てを空間から出し、幽香が逃げられないように後ろから抱き着く。

 その幽香を捕まえた人物の姿を見た私たちは絶句し、言葉を失った。

「なん……で………お…おま……え…が……」

 私のかすれてとぎれとぎれになって、何を言っているのかよくわからない言葉が奴には聞こえたらしく、こっちを見ると、口角を上げてにやりと笑い。一言だけ言った。

「久しぶりねぇ……魔、理、沙」

 割れた空間から出て来た奴は、私たちがよく知る霊夢と全く瓜二つの顔をしていて、狂気に歪めて笑う顔を私に向けた。

 

 注意 ややこしくなるため、以後は異次元から出て来た霊夢を異次元霊夢と表記します。

 




一週間から五日後に次を投稿します。
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