東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

面白くなくても責任は取りません。それでもいいという方は第三十五話をお楽しみください。


東方繋華傷 第三十五話 敗北

「…魔……魔理沙……!」

 二度目の爆破を受けて舞い上がる粉塵の中でぐったりと横たわり、呼吸をしているのかもわからないぐらいに瀕死に追いやられた魔理沙が見える。

 早く助けなければと、すべての針を数十秒かけて引き抜き、動けるようにはったが足を引きずって無理やり歩いているというのと変わらず、その足取りは遅い。

 魔理沙に弾幕を放ったもう一人の私がこちらに向き直り、懐から新しい妖怪退治用の針を取り出した。

「…っ!!」

 お祓い棒を構えて針を投げられた時に備えようとしたが、とっさにあげようとした腕が上がらなくなっているのに気が付いた。自分の手に視線を落とすといつの間にか右手の手の甲から手のひらへ針が貫通している。

 針に込められていた霊力の作用によって、腕の機能が一時的に麻痺して著しく運動能力が低くなり、握っていたお祓い棒を取り落としてしまう。

「…なっ…!?いつの間に…!?」

 異次元霊夢に針をいつ投げられたのか、まったく察知することができなかった。幽香からの長い戦闘に集中力が切れてきているのもあるが、実力の差が激しい。

「まずは、あんたからやってやるとしましょうかぁ」

 手に刺さっていた針に気を取られてしまっていた内に、目の前にまで近づいていた異次元霊夢が、真っ赤な紙が貼りつけられているお祓い棒を振り上げ、私の方に振り下ろした。

 ゴキッ!!

 右肩を強打されたことによって肩の骨が外れ、筋肉や皮下組織など筋肉組織だけで肩が繋がっている状態になり、糸の切れた操り人形みたいに腕がプラプラと垂れ下がっている。

「…うぐっ!?」

 左手で針を取り出そうとするが、異次元霊夢の方が私よりも速い動きでお祓い棒を腹に薙ぎ払われてしまう。

 その寸前、視界の端から何かが異次元霊夢にぶち当たる。

 異次元霊夢は今まで通りに斜め後ろからの攻撃にまで反応し、私を攻撃するのを中断してお祓い棒で受け止めるが、もともとガードする為の体勢ではなかったことで、吹き飛ばされて私のわきを通り過ぎていく。

 殴られた異次元霊夢は驚いているだろう。もちろんだが私も驚いている。敵を殴り飛ばしたのが顔の三分の一を吹き飛ばされ、爆発を至近距離から受けて全身を血まみれにしている魔理沙が立ち上がれるはずがないと。

 だが、彼女は起き上がり普通の人間ならば死んでいるほどの重症の体で、異次元霊夢を殴り飛ばした。

 顔を含むあらゆる部分から大量の血が溢れ出ていて、その量は花の化け物にやられた時の比ではない。

「…魔理沙!これ以上動いちゃダメ!死ぬわよ!?」

 左手で魔理沙の肩を掴んで異次元霊夢に向かおうとするのを止めようとするが、彼女は周りが見えていないらしく、押さえる力以上の力で前に進んで私の手を振り切った。

 魔理沙に殴られたお祓い棒を握っていた手がその威力で痺れたのか、異次元霊夢は珍しく手を握ったり開いたりしていたが、魔理沙が素手で向かってきているのを見て聞き手にお祓い棒を持ち替え、迎え撃つ。

 メキメキッ!!

 魔理沙の拳が触れたとたんに異次元霊夢の持っているお祓い棒が異常なほど湾曲し、圧力に耐えきれなかった部分にひびが入り、小さな木片が飛び散る。

「!?」

 異次元霊夢が後ろに下がり、後方上向きに使えなくなったお祓い棒を投げ捨て、懐から針を流れる動作で取り出して突撃してきている魔理沙に向けて投擲した。

 投擲された針が体の脇腹や首に突き刺さり、ほんのわずかな時間の間だけ魔理沙の動きが悪くなるが、彼女は関係なく獣のように突き進む。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 血反吐を吐き、全身を血で真っ赤に染める魔理沙の声帯が壊れてしまうのではないかと思うほどの大声を叫んでこぶしを握り、針を持たずに素手で魔理沙を迎え撃つ異次元霊夢に突っ込んでいく。

 魔理沙が血で汚れている拳をはじめに異次元霊夢に繰り出すと、異次元霊夢は左手の拳を右手で受け流して、魔理沙の脇腹に拳を下からめり込ませる。

「あがっ…!?」

 魔理沙の体がガクッと折れ曲がり、わずかだが殴られた衝撃で体が浮き上がる。普通の人間ならばそこで止まるであろうが、それでも彼女は止まることはなく、異次元霊夢の頭を掴むと頭突きをかました。

 額に頭突きをかまされた異次元霊夢の体が後ろにのけぞり、攻撃するのには絶好な大きな隙が生まれる。

 魔理沙は隙を見せた異次元霊夢の腹に蹴りを入れた。自分が受けていたらと思うと寒気がする一撃で、敵を戦闘不能にするのには十分と思われたが、敵はのけぞっていた状態だが体を後ろに移動させて蹴りの威力を半減させて涼しい顔をして体勢を立て直している。

 それでも多少のダメージは通ったらしく、小さく眉をひそめている。腹を片手で押さえている異次元霊夢に対して、魔理沙は敵が下がった分だけ前に進み、地面に突き刺さっている針を引き抜く。

 二十センチほどの長さがあり、掴んでいる部分を合わせれば全長が三十センチ程度にはなる針を魔理沙は異次元霊夢の胸に突き刺そうとする。

 体勢を立て直した異次元霊夢が、魔理沙の腕を殴ったことで軌道が少し変わってしまう。だが、わき腹に持っている部分を残して深々と突き刺さった。

 小さく見開かれた目、開かれた口から痛みに対する叫び声が発せられるかと思ったが、奴が発したのは叫び声などではなく。

「ふふっ…」

 笑い声だった。

「痛み…怪我をしたのは、何年ぶりだったかしらぁ…」

 右足を地面に固定し、そこを軸にして左足を持ち上げ、自分の腹部に針を刺している魔理沙の顔面に蹴りを容赦なく当て、魔理沙を引き離した。

 魔理沙はだいぶ弱っているのか蹴りを受けて大きく後ろによろけると、私のすぐそばに背中から倒れ込んだ。倒れた魔理沙は気管にダメージを追っているらしく、喀血して血を吐き出す。

「がはっ…!!」

 全身に打撲や骨折、裂傷、擦り傷、切り傷などあらゆる怪我を負い、針も体中に突き刺さって一部の物は体の反対側にまで針が達している。顔に受けた弾幕の傷も霊力で修復できるものではなく。そんな重体にまでなっている魔理沙はまだ立ち上がろうとしている。

「…魔理沙!!動かないで…!これ以上は本当にあんたが死んじゃうわ!!」

 魔理沙を押さえつけようとするが、いつも穏やかな彼女が醸し出しているとは想像もつかない殺気に、私は伸ばした手を引っ込めかけてしまうが、後ろから魔理沙を抱きしめて異次元霊夢の方向に行かせないようにした。

 獣のように荒い息遣いに血走った右目、なおも異次元霊夢に向かおうとしている魔理沙は、もはや理性的とはいえず、本能のままに敵に向かっている。

 魔理沙を押さえつけている今もダラダラと彼女からは血が流れ出していて、早く異次元霊夢から離れて永遠亭に行かないといけない。そう思って魔理沙を担ごうとした時、私の掴んでいる力が弱まったのを期に魔理沙が拘束を振りほどく。

「…魔理沙!?」

 こぶしを握り、片腕一本で異次元霊夢に向かって行く魔理沙は地面が割れるほどに踏み込み、奴に飛びかかった。

 しかし、奴は先ほどとは違い。余裕の笑みを浮かべて拳を構えることなく魔理沙を迎え撃つ。余裕のその理由はすぐにわかった。

 上空、魔理沙のすぐ真上から何かが彼女に向けて降り注いだからだ。

「あ……がぁっ…!?」

 背中や腕、足に何かが突き刺さったことで走行速度がいきなり遅くなり、走っていた魔理沙が地面に崩れ落ちる。

「…なっ!?」

 なぜ、この可能性をすぐに思いつかなかったのか。私は自分を叱咤する。別世界の私がいるのならば、別世界の彼女もいるということに、

 上空から飛んできたのは私たちがよく知る咲夜の使う銀ナイフだ。しかし、咲夜の使っている銀ナイフとは若干デザインが違い、こちらの世界の咲夜が投げたものではないことが分かった。

 空中からゆっくりと霊力でブレーキをかけて滑走してきた異次元咲夜は、異次元霊夢の傍らに降り立った。

「殺してないでしょうねぇ?」

 異次元霊夢が突如として現れた異次元咲夜に解いた。

「見ればわかることでしょう?」

 冷やかに返答した咲夜が数メートル先に倒れ込んで起き上がろうとしている魔理沙を見下ろした。

 普通に街で会ったら咲夜と見分けがつかないほどに瓜二つであったが、決定的に違う部分が異次元咲夜には存在し、右腕のひじのあたりから二の腕、肩、頬、右目にかけてとても古い傷があるのだ。

「さてと」

 異次元咲夜は銀ナイフを太ももの内側に巻いてあるベルトから取り出し、魔理沙に向かって行こうとするが、異次元霊夢が待ってと止めたことで足を止めた。

「すぐにやった方が確かに手っ取り早いと思うけど、まだ魔理沙の準備ができてないわぁ……それに簡単に殺してしまったらつまらないでしょう?私たちにこの傷をつけた魔理沙には、たっぷりと苦しんでもらってから死んでもらわないとぉ」

 異次元霊夢がそう言うと確かにそうですねと肯定し、銀ナイフを太もものベルトに収める。

 敵2人がそうしていると魔理沙が次に取った行動は、バックからミニ八卦炉を取り出して二人に構えた。頭に上っていた血が退いたのか、動けなくなったのかはわからないが、すでに大量の霊力が流し込まれているミニ八卦炉の金属部が熱で赤く光り始めている。

「…私の…記憶じゃあ、お前らは…敵同士…じゃあ、なかったのか?」

 どうやら多少は冷静になっていたらしく、彼女は呟いた。

 ミニ八卦炉に溜めている熱エネルギーなどに霊力を効率よく変換できなかったらしく、余分な熱エネルギーとなってただでさえ熱くなっているミニ八卦炉がさらに熱くなり、オーバーヒートして火を噴き始めている。

「あらぁ、よくおぼえているわねぇ…でもこの十年で状況が少し変わったのよ」

 異次元霊夢がそう言ったとき、私たちから見て左後方から誰かがミニ八卦炉を構えている魔理沙の目の前に立ちふさがった。

「…!?」

 後方からヨタヨタと危ない足取りで歩いてきていた早苗が息をのむ気配がする。魔理沙の目の前に現れたのは全く同じ姿の早苗だったからだ。

「さぁ、撃ってみてくださいよ!魔理沙ぁぁ!!」

 狂気じみた笑みを浮かべている異次元早苗の胸元には異次元咲夜と異次元霊夢と同様に同じような傷がついていて、それでなんとか向こうの世界の住人だと見分けることができた。

 限界まで霊力をミニ八卦炉に溜め、それを魔理沙は三人に当たるように角度を調節して、一気に開放した。

 熱が放出され、魔理沙から前方に向けて放射状に草や土が高温に酔って自然発火し、石などはほんの数秒のうちに融解を始める。

 次に魔理沙がマスタースパークと呼んでいる村一つ程度なら簡単に焼き払うことができそうな超極太のレーザーが、まぶしい光をまき散らして一瞬にして三人を包み込む。

 いくら強くても、魔理沙のマスタースパークを正面から受けて立ち上がった人間、もしくは妖怪はいない。かすったとしても当たればまずただでは済まない威力だ。

 だが、三人を包み込んでいたマスタースパークが数秒後にミニ八卦炉から放たれていたマスタースパークの中をかき分けてきていた異次元早苗が、マスタースパークをかき消した。

 地面を見ると異次元早苗がいた位置の地面にはまったくマスタースパークの光線は到達しておらず、草の生えている地面がそのまま残っている。それがその後方にいる霊夢たちの場所にも伸びていて全員が無傷で立っている。

「…なっ!?」

 魔理沙が驚愕で目を見開いていて、私たちも開いた口が塞がらない。どうやったのかはわからないが、異次元早苗どころか、そこから後方にいる二人まで無傷なのだ。

「残~念っ!!」

 異次元霊夢とは違う形のお祓い棒が魔理沙の顔面を正確にとらえ、彼女をこちらの方向にぶっ飛ばした。

 飛んできた魔理沙が私にぶつかり、私は後ろに彼女と一緒に地面を転がりこんでしまう。

「あん……二人と…、きちんと………きた…でし……ね?」

 後ろに転んだ時に頭をぶつけてくらくらする意識の中で異次元霊夢の声がとぎれとぎれに聞こえて来た。

「ええ」

「もちろん」

 二人は手短に答え、異次元霊夢も満足げにうなづく。

 私は頭を振って意識をはっきりさせ、傍らに倒れている魔理沙を抱き寄せた。

「私が一人も殺せなかったのは少し残念だけど、今回はこれでいいわ。時間もないし一度引き上げるとしましょうか」

 異次元霊夢はそう言うと初めに現れたときに出て来た、空中に浮いているガラスのひび割れた空間の割れ目に二人と一緒に向かう。

「ぐっ………っ」

 立ち上がろうとしている魔理沙に、異次元霊夢は振り返って言った。

「この針はあんたから受けた十年ぶりの傷ってことで記念に刺したままにしておいてあげるわ」

 異次元霊夢は頭がおかしいとしか思えないことを言って、空間の中に残りの二人を連れて消えていく。

 三人が空間の割れ目に入るとすぐに割れ目が閉じ、このあたり一帯を覆っていた殺気が消え、張り詰めていた空気がわずかにだが緩んだ。

「……く……そ………」

 異次元霊夢に挑もうとしていた魔理沙はそう呟くと、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。

「…魔……理沙……!?」

 気が張り詰めていたことで何とか気を失わないようにしていたが、奴らが去ったことでわずかに気が緩んでしまい、ついに限界を迎えた私たちは倒れてしまう。

 死体のように沈黙して動きを見せない魔理沙の手に触れるが、永遠亭に連れて行こうとする前に私は気を失ってしまった。

 




多分、五日後から一週間後に次を投稿します。
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