それでもいいという方は第三十六話をお楽しみください。
気が付くとまた水中を漂っていた。だが、前回と違うのは水面がすぐ近くにあるということだ。
水が周りを満たしていて、それを手でかき分ける水流の音が水を通して私の耳に入って来る。
「ぷはっ…!」
強い息苦しさを覚えていた私は目の前に迫っていた水面から顔を出し、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
「げほっ…!ごほっ…!!」
顔が水面から空気中に十分に顔が出る前に息を吸い込んでしまっていたらしく、気管に水が入り込んでせき込んでしまう。
俯いてせき込んでいたが、髪の毛や顔などの皮膚を水が伝って胸の高さを漂っている水面に落ちて行く。
「…けほっ…!」
目に水が入っていたせいでよく周りが見えていなかったが、手で目元をぬぐったことで余分な水が無くなり、ようやく周りが見え始め、私は目を見張った。
夢から目覚めた私は今見ていた夢を思い出す。あの後、私は何を見て、どうなったんだろうかと。
ぼーっとそんなことを考えていたが、じきにそんなことを考えていられなくなってくる。
「……うっ……」
かすれた声が聞こえて気がする。これは私の声なのだろうか。ひどくかすれていて録音されていて後に聞かされたとしても、それが自分の声だとは思えないだろうというほどに掠れている。
眠っていて皮膚などの感覚がマヒしていたが、体に巻かれている包帯の圧迫している感覚が全身にあり、どれだけの怪我を負っていたのかが見なくてもよく分かった。
目を開けようとすると、左目を抉り出されるような激痛が私にいきなり襲いかかって来る。
「あ…う……ぁ……!?」
左目を押さえようと利き腕である右腕を持ち上げようとする。だが、二の腕や前腕部に鋭い痛みを感じで腕を持ち上げることができない。
「う…ぐ…っ…!」
体の内に意識を向けると体中の至る場所に何かしらの痛みがあり、痛みのない場所を探す方が難しいぐらいだ。
左手は自分の記憶通りでは、動かせなくなるほどの重症となる怪我は追っていなかったはずだが、そっちの腕も鉛が巻き付けてあるのではと疑うほどに重く、動かせない。
しかし、腕に力は入っていていつも通りとはいかなくても右腕よりは動くはずなのに、動かないことに疑問を覚えたが、包帯越しに感じる人肌のぬくもりと何かが乗っている重さが左腕にかかっていることですぐに疑問は解決した。
「……」
左目を開けないように慎重に右目だけを開けるがいつも連動して開けている左目の筋肉も目を開けようとする仕草をし、再度目玉を抉られる痛みが頭の中で反響するが、少しずつゆっくりと右目を開くと目を閉じていたことで瞳に入って来る光の量を瞳孔が制御できず、周りがかなりまぶしく見える。
数分の時間をかけて光に目を慣れさせると、案の定、誰かが腕に乗っているのが見えた。
「霊夢……」
白と赤を主としている巫女服に頭に結ばれている大きな赤いリボン、顔の両側にあるもみあげに髪飾りをつけているのは、この地球上どこを探しても彼女しかいないだろう。
よく見ると霊夢の体のあちこちには包帯やら湿布やらが巻かれたりしていて、結構な怪我覆っているがまた私を看病してくれていたらしい。でも、彼女も疲労していて眠ってしまっているようだ。
一つのベットごとにカーテンで区切られていて、咲夜たちの様子はわからないが霊夢の隣を見ると古い機械がおいてあり、それの端子から伸びてきているいくつかの線が私の胸などに続いていて、心臓の拍動を探知している。
これが私に付けられているということは、死にそうなくらい危ない状態だったということだろうか。
「霊……夢……」
かすれた声で椅子に座っている状態で私の腕に寄りかかって眠っている霊夢を起こそうとするが、すっかり熟睡しているらしく起きる気配はない。
もう一度霊夢を揺り動かそうとするが、そのために使う筋肉は異次元霊夢の攻撃で損傷していたらしく、ズキッと体が痛んで動かすのは断念した。
そもそも、霊夢も奴と戦って疲れているのだろうし、今は無理に起こさなくてもいいだろう。
今起きているだけでも体には負担になっているのか、体の痛みをすでに眠気が上回っていて目も開けていられなくなっていき、すぐに眠りに落ちてしまった。
それからどれだけの時間がたったかわからないが、周りで動く人の音や話す声で再度私は目を覚ました。
「……」
「…か…と……る?」
永琳の声だろうか。途切れ途切れで何を言っているのかわからないのは、私が寝起きできちんと頭が働いていなくて言葉の処理ができていないのだろう。
「…?…魔理沙、起きたみたいね……永琳、魔理沙も目を覚ましたみたい」
今度は起きていた霊夢が目を覚ました私の顔を覗き込んで永琳に言った。左目は包帯で覆われていてそっちの目では見えないが、右目では彼女のことは見えている。
「霊夢……怪我は…大丈夫か…?」
聞くと霊夢は泣きそうにも私が起きてくれてうれしそうな顔をして、こっちのセリフだと呟き、私の頭を撫でた。
「待たせたわね」
ベッドとベッドを区切るカーテンを開いて入ってきた永琳が霊夢の後ろを通って私の心拍を計っていた機械に近寄り電源を切る。
「そこまで…待ってはいないぜ」
私がそう言うと永琳は何かをカルテに書き込んで言う。
「意識はちゃんとしているみたいね、自分のこととか私のことはわかる?」
永琳は私を見下ろして質問をして来る。
「………。薬を作る程度の能力のくせに、時々薬を作るのを失敗する奴だろ?」
私が小さな声で見下ろしている永琳に呟くと顔に小さく青筋を立てて、ああ…そうと呟く。そうだよとうなづいていなくて青筋を立てているのを見ると意外に気にしているのだろうか。
「まあ、私のことがわかってるなら他も大丈夫でしょう…。それよりも、あなたには伝えないといけないことがあるわ」
イラッとしていた顔から深刻そうな表情となった永琳は霊夢が座っていなかった丸椅子に座り、静かに私に告げた。
「…ああ」
あの怪我ではさすがの永琳でも、完璧に完治させることは難しかったのだ。霊夢も不安そうな表情で永琳を見る。
「まず、初めに……聞いた話では、霊夢に似ている人物に食いちぎられた耳……無理やり引きちぎられたせいで中耳のあたりの肉まで持っていかれてたけど、何とか再生させることはできたわ。食いちぎられた耳の一部を回収してくれたおかげでね」
確かに食いちぎられたのは右耳で、まだ動かすのは困難ではあるが右手で耳に触れるとそこには、戦闘中にはなかったはずの耳が存在している。
「体のあちこちにあった裂傷、打撲、骨折、切り傷、針による刺し傷なんかも治したわ」
傷の数が多いせいなのだろう。まだ完全には治っていないらしく、まだ痛む場所は多い。しかし、一度目に起きた時よりは痛みが和らいでいる。
「それと…」
次の傷の説明に移ろうとしていた永琳の話を遮って私は呟いた。
「そろそろ本題に移ってくれてもいいんじゃないか?」
私がそう言うと永琳はカルテを眺めていた視線を私に移し、重い口を開く。
「まあ、そうね」
次の説明に移ろうとしていた永琳は、私の左目に対する説明を始めた。
「魔理沙、結論から言うと…あなたの左目は治らないわ」
永琳は静かに、だが、聞き間違えることはないようにはっきりと私の目を見て言い放つ。霊夢が目を見開き、隣のベッドには咲夜や早苗がいて、この話が聞こえないはずもなくさっきとは打って変わって病室が静まり返る。
「………」
部屋の中にいる人間の息遣いだけが地味に聞こえてくる。それがやたらと反響して防音室の中にでもいるようだ。
「………冗談………だろ……?」
永琳の言葉にショックを受けた私が十数秒かけて呟いた言葉がそれだった。永琳は私言ってから数秒して、口を開いた。
「冗談でこんなことを言うと思っているの?…あなたの顔に当てられた弾幕は斜め下から顔に抉り込み、左目に近い頬骨の直前で進行方向に向けて爆発した…骨の上を滑る感じで爆発したから骨はギリギリ大丈夫だったけれど、一部の顔の肉が吹っ飛ばされて、顔のあざは一生残るわ。瞼とか表情筋を治すのが精いっぱいだったの…ごめんなさい」
今は治療されて包帯で隠れているが、これの下は相当ひどいことになっていたのだろう。
「………永琳…謝るな、命があっただけでも儲けもんだぜ…」
私は寝ていた状態から体に負担を掛けないようにゆっくりと上半身を起こし、こちらを見ていた永琳に言うと、霊夢が言った。
「…永琳でも、治せないの?」
小さな声で霊夢が永琳に聞くが、永琳は小さく首を縦に振る。傷ついたりしたものを治すことはできても、無くなってしまったものはどうやったって戻すことはできない。仕方のないことだ。
「…そう」
さっきから左目だけ目を動かす感覚がなかったから予想はしていたが、いざないと知らされると結構きつい。でも、そんなことは言っていられない。
「永琳、何とかして左目をみえるようにできないのか?」
私は霊夢の方を向いていた永琳に言うと、永琳はうーんと考え込んでから思い出したように言った。
「確か、神経を繋ぐことによって目が見えるようになる義眼の余りはあったけど……初めのうちは使い方に慣れないし痛みを感じることもある。視力も並み程度しかないけど、それでもいいの?」
「それでもかまわん、目が見えるようになる義眼を目に入れてくれ…これからの戦いを片目だけで戦うのは心許ない」
私は永琳の言う義眼のデメリットを軽く受け流して、義眼を貰うのを頼み込んだ。
「わかったわ、ならいつ義眼をつける?」
「できるだけ早く頼む。…できれば今日中に…傷が治り次第に義眼を入れたい」
私が言うと、永琳は今日中に義眼を私に入れることができるか、少し考え込む。
「傷はあと一時間かそこらで治ると思うから、それから義眼を入れるとしましょう。それまではできるだけ安静にしてて」
永琳は義眼の準備をするのだろう。丸椅子からカルテを小脇に挟んで立ち上がると、早足に病室から出ていった。
「…魔理沙、私が付いていながら…こんなことになるなんて……ごめんなさい…」
霊夢は今まで聞いたこともないぐらいに落ち込んだ声で私に言う。俯いていて表情は見えないが、見なくても落ち込んでいるのはわかる。
「霊夢が謝ることじゃあないだろ…謝るのはむしろ私の方だぜ」
「…あんた、何言ってんのよ…目が無くなったのよ!?なんでそんなに落ち着いていられるのよ!」
だいぶ体の調子が戻ってきた私が手足を小さく動かして体を動かせるか確認していると、霊夢が声をあら上げた。
「霊夢、お前が一番わかってるだろう。今は私の怪我で自分を責めたり悲しんだりしているときじゃない……咲夜も早苗も含めて私に聞きたいことが山ほどあるんじゃないか?」
私が部屋にいる霊夢と彼女ら全員に呟くと、その会話を聞いていた体のあちこちに包帯を巻いている咲夜と早苗がベッド同士を区切っているカーテンを開く。
「ええ、ショックなことがあったばかりだというのに申し訳がないんですが…魔理沙、あなたにいくつか聞かないといけないことがあります」
「ああ、言うさ……話を始める前に、奴らとの会話でうすうす気が付いているとは思うが……私は…この幻想郷の…いや、この世界の人間じゃあないんだ」
私はこの世界に来て初めて、自分の正体を周りの人間に明かした。
五日から一週間後に次を投稿します。