それでもいいという方は第三十七話をお楽しみください。
「この世界の人間じゃない……って」
みんな、少しは感づいてはいたが大なり小なり驚きを隠せないようだ。三人とも眉をひそめて私を見ている。初めに私に質問を投げかけて来たのは早苗だった。
「つまり、魔理沙さんは並行世界……パラレルワールドから来たってことですか?」
「ああ、……パラレルワールド、異世界、異次元ともいうな」
私が言うと、早苗は信じられないような顔をするが、昼間に見た異次元霊夢に始まり異次元咲夜、それに同じ顔をした自分を見てしまったら信じるしかないだろう。
「魔理沙を狙っていたようですが、奴らの目的は何ですか?」
私が言い終わると、少ししてから咲夜が近くの丸椅子に座って言う。
「……それについてはすまないが、私にもわからないんだ」
「わからない?わからないってどういうことですか?」
そのままの意味ではあるが、きちんとなぜ説明をしなければ三人が納得しないのは明らかである。
「昔のことだからってわけじゃないんだが、なんというか…その辺の記憶が抜け落ちている感じがするんだ……でも、何かがあった」
昔のことを思い出そうとしても、なんだか靄がかかっていて、その時のことを思い出すことができない。
「…たぶん、魔理沙が自然と忘れたわけじゃないわ……」
思い出そうと頭を抱えて記憶を探っているが、まったく思い出せない私に霊夢が言った。
「それってどういう…」
早苗は私に言った霊夢にそう聞き、彼女はそれに答える。
「…咲夜と早苗は知らないと思うけど、私が初めて魔理沙にあったのは十年前…体中のあちこちに怪我をしていたから…そこでこっちに来たとしても……その頃の魔理沙の年齢は十歳……十歳なんてまだまだ幼い子供でしょう?…そんな時に血まみれになるようなことがあったのよ?トラウマにならないわけがないわ……自分が壊れないように記憶を忘れさせたのかもしれない」
最近まで幻想郷の外で平和に暮らしていた早苗にはピンと来なかったみたいだが、霊夢がそう説明すると早苗は確かにとうなづく。
「ですが、少なからず奴らについて知っていることぐらいはありますよね?魔理沙」
怪我がまだ痛むのか、咲夜は少しつらそうな様子で私に尋ねてくる。
「いやほぼないし、知っていたとしても情報なんて言えるようなものは無い。それに私が知っている物はすべて十年前のものだし…今はあの時とは違うと思うけど、それでもいいか?」
「構いません」
私がそう聞くと咲夜は短く返事を返して私はこれから言うことに耳を傾ける。
「十年前は、奴らは各自で奪い合いをしていた。私の何について奪い合いをしていたのはさっきも言った通り不明だ……私がわかるのは本当にこんなもんしか知らないんだ……ある日いきなりみんなが豹変して襲い掛かってきた。無我夢中で逃げてるうちにこっちの世界に来ていたから理由もわからないままなんだ」
三人にきちんとした情報を伝えられず、申し訳なくなってしまうが、咲夜が少しの間をあけて言った。
「いや、十分ですよ……なぜそんなことを始めたかなどの目的についてはおいおい調べるとして、奴らは昔各自で魔理沙を狙っていて、時には戦って奪い合っていた……それであっていますよね?」
「ああ」
咲夜が再度私に確認し、私がそれにうなづくと咲夜は霊夢の方を見る。
「…太陽の畑での戦いから見るに、争うことをやめて彼女らは手を組んだ……そこからわかることは、向こうの世界の私たちに対して敵対している団体が一つかそれ以上あるってことね」
「…なぜそれだけでわかるんですか?みんなが考え直して向こうの世界の霊夢さんに手を貸しているのかもしれませんよ?」
早苗がそう言うが、咲夜はそれは無いと否定して、その否定した理由の説明を始めた。
「奴らが初めはバラバラに魔理沙を狙っていたということは、全員が魔理沙をほしがったということです。しかし、霊夢などにはやはりかなわないため一部の奴らがしかたなく強い連中を倒すために手を組み始めます。そうなるといくら巫女でも一度に相手をできる数には上限があるので、大人数が来た時のためと自分の敵を倒す量を減らすために仕方なく仲間を何人か作る。おそらくそう言った流れでしょう。向こうの世界の霊夢以外にも一応は利点はあります。強敵である巫女の力が一時的とはいえ、味方になり自分が倒すはずだった連中を倒してくれる可能性がありますからね」
「でも、そうなると霊夢が誘ったやつはそんなに数はいないと思うぜ、私の何を狙っているのかわからないが、万が一に他の連中を押しのけて自分らの手に入ったときに大人数を相手にするのは得策とは言えないからな」
私が言うと霊夢はそれもそうねと呟き、更に言った。
「…あと、敵対しているのはたぶん向こうの世界の紫を抜いた一部の妖怪側ね…鬼とかの妖怪側は人間たちと違って根強い縦社会であるから、伊吹萃香や星熊勇儀を中心にした組織を作っているんじゃないかしら」
確かに筋は通る。敵が数を増やしたのなら自分たちも数を増やした方がいい。自分が相手にする数も減らせて運が良ければライバルも死んでくれる。少人数なら仲間を作ることは多少のマイナスには目を瞑るとしても、完全なマイナスではないのだ。
「それに、向こうの世界の霊夢さんたちと敵対している人たちがいたとしても、目的が魔理沙さんを奪うことですから…手を組むこともできませんし…これからもっと異世界の敵が増えるわけですね」
向こうにも殺されていなければ、文やはたてもいる。私が見つかっていたことがばれるのも時間の問題だ。だが、
「私たちが相手にするのは向こうの霊夢とその仲間、あとは紫だけでいい」
こっちの世界に来るには境界を操る程度の能力を持つ紫が不可欠であり、初めに現れたのが異次元霊夢の時点で紫は異次元霊夢の方についている。
つまり、敵対している奴らをわざわざこっちに輸送する真似はしないということだ。そんなことをすれば狙っている私を捕まえられる可能性が低くなってしまうからだ。
「私たちが倒さないといけないのは、こっちの世界に霊夢たちを飛ばしてきている紫だな」
私がそう言うが、早苗が疑問を私に問いかける。
「確かに、境界を操る奴がいなければ私たちのところにはやつらはこれません。…でも、さっきの戦いでは姿を確認することはできませんでした。それは今回だけかもしれませんが、姿が確認できなければどうやって倒すつもりなんですか?魔理沙さん」
「スキマがあるということは、その中かもしくは近くに必ず紫がいる…向こうの世界に行くつもりで引きずり出すしかないだろうな」
一か八かの作戦で、しかもリスクが大きすぎる。やる奴なんていないだろう。
「…そもそも、魔理沙が向こうに引きずり込まれたら近くに紫のいない私たちは手出しすることができなくなってしまいます。魔理沙はあの亀裂に近づかないようによろしくお願いします」
それもそうだ。でも、奴らが私を向こうに引きずり込むことは無いだろう。鬼などに私を奪われるリスクをわざわざ犯すとも思えない。
そうだとしてもあまりの状況の悪さに頭痛がしてくる。異次元霊夢たち以外の相手をしなくてもいいといったが、もし、私たちが異次元霊夢を倒せたとしたら、紫が別の連中と手を組んで敵を送り込んでくるはずであるため、異次元霊夢たちよりも先に紫を倒さなければならない。
しかし、その作戦も異次元霊夢たちの尋常ではない強さに打ち勝つ必要があるわけだが、勝ち負けの前に勝負になるのかすらも疑問だ。
「…」
そもそも、霊夢たちを奴らとの戦いに巻き込む必要はないのではないのだろうか。奴らを何とかしてあっちに送り返して私も一緒に入ってしまえば、奴らがこっちに来る理由はなくなる。
そう考えていると、廊下の方から走ってくる足音が聞こえて来た。ウサギたちと何やら言い争いをしていたが、この病室の前まで来ると扉を蹴り開ける勢いでその人物は開け放つ。
「咲夜…さん!」
現れたのは、紅魔館のパチュリーがいる図書館で本の整理などをしている下級悪魔の小悪魔だ。
「小悪魔?こんなところでどうしたんですか?」
体のところどころにたくさんの切り傷が付いていて、血まみれの小悪魔に咲夜は驚いて近づく。
「お……お嬢様と……パチュリー様…が…!!!」
小悪魔が瞳に溜めていた涙をポロポロと零し、震えた涙声で咲夜に叫ぶ。その表情から緊急事態だということがうかがえた。
「っ!?」
咲夜が目を見開き、表情を引きつらせると次の瞬間にはすでに彼女の姿はなくなっていて、小悪魔だけとなっていた。
「霊夢さんと魔理沙さんはここで休んでいてください!私が咲夜さんを追って紅魔館に行きます!」
早苗はウサギたちに小悪魔を任せると、開け放たれた病室のドアから外に走っていく。
「…まさか……」
霊夢が小さくつぶやくと彼女は考え込む。小悪魔の言動からすぐに私にも何があったのかがわかり、一つの疑問が解けた。
なぜ、異次元霊夢と同じ場所から出てこなかったという疑問が。
「やつら…レミリアを…!?」
「…十中八九そうでしょうね…!」
私が呟くと霊夢はくそっと小さく罵り、拳を握りしめる。幻想郷を守るのが博麗の仕事。すでに幻想郷の住人であったレミリアたちだってその対象になる。それができず、霊夢は自分の不甲斐なさに苛立っている。
「幻想郷を守るのが博麗の巫女であるお前の仕事だ。でも、見えない敵は倒せないぜ……お前のせいじゃない……あいつらを呼び込んだ私のせいだ」
レミリアたちだってかなり強い。疲弊している私たち以上に戦えるはずであり、生きていると思いたいが、異次元の連中が相手ならば生存は絶望的と言えるだろう。
そして、私がもう一つ気になるのは異次元咲夜と異次元早苗がきた方向は、両方ともが別々の方向だったということだ。
五日から一週間後に次を投稿します。