東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第三十八話をお楽しみください。


東方繋華傷 第三十八話 復讐者

 時を止めて永遠亭から出てから十数分が経過した。そろそろ集中力も魔力も尽きてきて、一度時を制止させるのを解除した。

 すると、木々などでまだ紅魔館は見えていないが、焼けた石の匂いや物の焼けたわずかに乾燥して、焦げた匂いが湖を渡っている途中であるがすでに匂ってきている。

 さらに湖を加速して進むと、消火活動によりある程度は炎が消火されているとは言え、まだ煙が立ち上っている紅魔館が見えた。

 激しい戦いがあったのだというのは遠目から見ても明らかで、城門や城壁が破壊されて、一部は爆発や火災の炎で黒く焼け焦げ、紅魔館の屋根も一部が崩れているのが見える。

「…お嬢様……!」

 自分の主のもとに一刻も早く戻るために、精神を統一して残り少ない魔力を使って時を止め、紅魔館の方に飛ぶ。まだ図書館の消火を終えていないらしく、メイドの妖精たちが消火している。

 ようやくお嬢様とパチュリー様、妹様を運び出したらしく城門の前に寝せられているのが、近寄っていくとわかる。そして、お嬢様の体のパーツが圧倒的に足りていないのもなんとなく見えてくる。

「…」

 時止めを解除すると静止した時が徐々に加速していき、時の流れが通常の速度となって妖精メイドたちに私の姿が視認できるようになる。

「さ…咲夜さん!申し訳ございませんでした!!私たちには……どうすることも……できませんでした…!!」

 傷だらけのメイドが私に気が付き、走り寄ってきて頭を下げて叫んだ。嗚咽を耐えていて後半は途切れ途切れになってしまっている。向こうの世界のやつらと交戦したのだろう。

「仕方がないです。あなたたちはよくやってくれました……一刻も早く図書館の消火をお願いします」

 私が言うと、メイド妖精は頭を深々と下げてから図書館の方向へと走っていく。そして、私は少し門に近づき、その近くに横たわっている自分の主を見下ろした。

「……お嬢様……申し訳ございませんでした……私が不甲斐ないばかりに……」

 自分が覚えている限り涙を流したことはなかったが、自然と溢れてきた涙を抑えることができず、溢れてきた涙が瞳からこぼれて頬を伝う。胸が上下していないことから呼吸をしていないことが近くで見るとさらにわかり、皮膚の色も血色が悪く白いインクでも塗ったようだ。

 失礼ながらもお嬢様のことを私が抱きかかえると、顎から零れ落ちた私の涙が首が無くなり、そこからあふれ出した血によって真っ赤に染まっている服に落ちて吸い込まれていく。

「咲夜……さん……」

 パチュリー様や妹様でもメイド妖精でもない人物の声が聞こえる。門にいないと思っていたが、やはり奴らと交戦して移動していなかったということらしい。

「美鈴…」

「ああ、本当の咲夜さんだ………やっぱり……さっきの人は……咲夜さん…では……なかったんですね…」

 呟いて美鈴が力なく微笑むが、彼女の左腕はあるはずの場所には存在せず、その後方の半壊した紅魔館が見える。

 美鈴がその場に崩れ落ちるとそのまま気を失い。立ち上がることはなくなった。

 本当の咲夜さん。それにさっきの人は、咲夜さんではなかった。という美鈴の言葉。それらから、向こうの世界の私によって美鈴は片腕を失う重傷を負い。パチュリー様も美鈴よりは軽傷ではあるが、それでも切り傷で体中が血まみれとなっている。そして、お嬢様は死んだ。

 異変に関与した時点で奴らに攻撃を受けても文句は言えないだろう。しかし、奴らの行動はなんだが手慣れている。初めからこうする算段だったのだろう。

 つまり、私たちが異変に関与しようが、しなかろうが、お嬢様を殺す予定だったというわけだ。

 ギリッ。噛み合わせた歯が強く擦れて嫌な音を立てる。

 もう、異変なんてどうでもいい。奴らを、一匹残らず草の根をかき分けてでも探し出して、お嬢様のために、この手で殺す。

「……」

 誰もが図書館に放たれた炎や行方不明者の捜索、遺体の回収でせわしなく動き、咲夜の変化には誰も気が付かない。

 復讐に燃える鬼となった咲夜はレミリアを抱きしめた。

 

 

 同時刻。

 咲夜を追って永遠亭を出た早苗は山に住む妖怪に守矢神社が襲われたことを聞き、大急ぎで向かっていたが、妖怪が言っていたことが本当だと今わかったところだった。

「…早……苗……」

 体中のあらゆる骨を折られ、内臓を叩き潰されている加奈子様は血反吐を吐き、小さく息を吐くと、息を吸い込むことなく呼吸が止まって、絶命する。

 目から光が無くなり、呼吸も止まった加奈子様の血が付くのも気にせずに彼女を抱え上げ、庭の一角に向かう。

「……冗談………ですよね……?」

 こんな状況なのにまだ現実を受け止めることができていなかった私は、庭の木に持たれて倒れている諏訪湖様に近づき、呟いた。

「冗談……なら………よかったんだけどね……早苗…」

 じわじわと抉られた腹部から血を流した諏訪湖様は、そう呟くと苦しそうにせき込み、目をゆっくりと閉じ喋らなくなってしまう。

「………………」

 奴らの目的とか、理由とか、そんなことはどうでもいい。

 奴らを、

「殺す」

 

 

 

 咲夜と早苗の二人が永遠亭を出て行ってからしばらく時間がたった。時計を見ていなかったため、あとどのぐらいで永琳が義眼を持ってくるのかよくわからない。

「…魔理沙、そういえば怪我は大丈夫?疲れているなら寝ててもいいのよ?」

 霊夢と当たり障りのない話をしていたが、怪我をしている状態の時には何かをするだけでかなり体力を使う。霊夢はそれを気にして言ってくれたのだろう。

「いや、大丈夫だぜ」

 私はベットの縁に移動し、椅子に座っている霊夢に正面から向きあった。

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だぜ」

 壁に取り付けられている時計を見ると、八時を指していてすっかり夜の時間帯だ。異次元霊夢たちとの戦いはこのぐらいからだったため、すでに一日が経過しているのだろう。

 体を動かしてみると永琳の薬によって既に怪我の九割は治っていて、痛みは感じないので私は腕に巻かれている包帯を試しに解いてみた。

 包帯の下の皮膚には針やナイフが貫通していたとは思えないほどに後も残さずに完璧に完治している。

「やっぱり永琳の薬はすごいな、もう治ってるぜ」

「魔理沙、勝手に剥がしちゃダメでしょう?」

 私がそう言って霊夢に傷があった場所を見せていると、いつの間にか部屋に入ってきていた永琳がベットを囲んでいるカーテンを片手で開く。

 カルテを持っていない方の手には袋に入った義眼が握られていて、それとカルテを机の上に置いた。

「わかってるぜ。でもちょっと痒かったんだよ、完治してるし問題ないだろ?」

「その考え方から駄目よ、風邪と怪我は別物だけど風邪が治ったからと言って薬をすぐに飲むのをやめてはいけないのと同じよ」

 へいへいと軽く永琳の言葉を受け流し、彼女の方を見る。永琳は霊夢がいる方とは逆方向に回り込むと、私をそっちに寄せさせて包帯やわずかだが血の付着したガーゼを私の頭から丁寧に剥がしていく。

 顔を拘束していた物が無くなっていき、少しずつ頭にかかっていた重さが解消されていく。

 そして完全に包帯が無くなったというのに左目で物を見ることができず、本当に左目が無くなってしまっているのだと実感する。

「魔理沙、目を開いて」

 無菌操作されていた義眼を取り出し、永琳は目を開いている私の目の周りに触れ、私では開くことのできない大きさに開くように瞼を引っ張り、慣れた手つきで目の中に義眼を入れた。

「初めは違和感があるでしょうけども、慣れればそうでもなくなるはずよ。それと今は麻酔で痛みは感じないけど、今日は痛みで寝れないと思うわ。痛み止めは出しておくけど、あんまりあてにしないでね」

 彼女が言う通り、いままでにない異物が目に入って来る不快な感じが目からする。

「まじかよ…まあ、わかった…それで?この義眼で物を見るためにはどうすればいいんだ?」

「魔力を流せばすぐに目として使えるわ」

 永琳がそう言い、私はその通りに視神経から魔力を義眼に通してみると、すぐに神経が繋がって見えていなかった視界が見え始めた。

「どう?上とか下、左右に動かしてみて、動かせるようなら問題は無いわ」

 目を上下左右に動かしてみると潰される前と感覚が変わらないぐらいで動かすことができる。だが、視界については左目の方が若干悪く、右目との視力の差で少しだけだが違和感を感じる。だが、魔力で調節すれば支障はないだろう。

「問題はなさそうだ」

 目の周りに触れてみると肌の感触がいつもとは違い、自分がエネルギー弾を撃った後がある。

「それならよかったわ。あと一時間もすれば完治だから、退院するならそれでいいけど休んでいく?」

 どちらにしようか悩むが、いい加減腹も減ったし病院食でない物を帰って食いたい。

「いや、いい…私はもう行くぜ」

 いつもの服に着替えようとするが、病衣の下をのぞくとそこには素肌ではなく包帯が見える。もう何かで隠す必要もないほどに包帯が体中に巻かれていて、霊夢たちに出て行ってもらわなくてもよさそうだ。

「そう、じゃ、包帯は返さなくてもいいわ。一時間したら取って捨ててね」

 カルテに何かを書き込むと、永琳はそう言って近くのウサギに私の服を持ってくるように言いつけた。ウサギは了解とすぐに病室から出ていく。

「魔理沙、休まなくて本当に大丈夫なの?」

「ああ、体のどこかに痛む場所は無いし、ほとんど問題は無いぜ」

 すぐに戻ってきたウサギの持っている魔女の服を受け取り、ベットから立ち上がって近くの机に置いた。

 病衣の胸元のボタンに手をかけて外し、上着を脱いだ。

「…ちょ、魔理沙…!隠すぐらいはしなさいよ!」

 珍しく頬を赤面させた霊夢が顔を傾けて大声で言った。顔を下に傾けて自分の体を見てみるが、胸と股間部分は包帯が巻かれていて見えないようになっている。顔をそむける必要はないと思うが、霊夢の言う通りにここは隠しておくとしよう。

 来ていた病衣を胸元に寄せ、ベットに置いておいた服に着替えた。歩き出そうとするとずっと寝ていて歩かなかったせいで頭の中と足の動きに若干のラグがあり、よろけてしまうが、すぐに慣れてくる。

「そうそう、言い忘れてたけど死にかけてたあなたたちを運んできたのは、仙人の…何て名前だったかしら…えーと、確か茨木歌仙だったはず…彼女に会うことがあったらあとでお礼を言っておきなさい」

 歌仙か、また珍しい名前が出て来たもんだ。

「わかった。あったら例でも言っておくぜ…また世話になっちまったな…次があったらまた頼む」

 私は靴を履こうとするが足首などにも包帯が巻かれていて、履きづらいが無理やり押し込んで履き、永琳に言った。

「…次があったらなんて縁起の悪いことは言わないの、魔理沙」

「すまんすまん」

 包帯が巻かれていることで少し動きが制限されるが、問題のない範囲だし大丈夫だろう。

「…永琳、そういえば運ばれてきた小悪魔は大丈夫なの?」

 永遠亭から出る私の準備がそろそろできそうになったころ、座ったままの霊夢が永琳に言った。

「彼女なら大丈夫よ、あの傷で戻るなんて言うから今は鎮静剤を打ったから静かにしているわ。傷が深かったことには深かったけど、さすがは紅魔館の住人ね。来る最中に魔力である程度の出血は収まってたから、すぐに血は止められたわ」

「…そう、だいじょうぶならいいのだけど」

 霊夢と永琳の話を聞き流し、マジックアイテムの入っているポーチを肩から下げ、行ける準備を万端にした。

「…さてと、魔理沙の準備もできたみたいだし、私たちはそろそろ行くわ」

 永琳に礼を言って病室を出て玄関に向かうと、一回目にここに来た時のように人で溢れてはいない。大部分の人はすでに治療を終えたということだろう。それでも、床や壁に沁みついた血の匂いは簡単には消えないらしく。きれいにふき取られていてもわずかに匂いが漂っている。

 そのロビーを横切って私は霊夢と一緒に外に繋がる扉を押し開けた。私の家とは違い、立て付けの悪いドアの音はせず、スムーズに扉が開く。

 そこから出ると永遠亭の少し先ぐらいまでは石畳がひいてあるが、それから先には石畳はひかれていないため道は無い。そこから先は自力で出るしかなさそうだ。

 霊夢と道のない道を歩き出そうとすると、正面から誰かがやって来るのが見える。青色のメイド服と膝にも届かないスカート、永遠亭からわずかに漏れている光に反射する銀色の髪の毛、身長などこの身体の特徴を持っているのは咲夜しかいない。

 しかし、様子がおかしい。無表情なのに怒っている。そんな風に見えたのだ。

「咲夜…」

 よく見ると彼女は誰かを抱えていて、永遠亭に向かっているが、その抱えられている人物はレミリアではなさそうだ。

 彼女が抱えている人物は背中から羽と言えるような形をしていない水晶のようなものが付いている羽が生えていて、レミリアと同じぐらいの身長に赤色の服を着ている。

 フランドールだ。重症になるほどの怪我は見られないが、気絶しているらしく、目を閉じてじっと動かない。

 彼女に気を取られて見えていなかったが咲夜の後ろには他の妖精メイドが美鈴やパチュリーを抱えている。レミリアの姿が確認できず、もしかしたら大丈夫なのではないかと藁にすがる思いで聞いた。

「咲夜、レミリアは…?」

「…………お嬢様は……死にました…」

 静かに淡々と咲夜は告げる。少しだけ彼女の目が腫れていて、泣いたところなんて見たことがないが、涙を流したのだろう。

「咲夜……すまなかった……私がもっと早くに思い出していれば…こんなことにはならなかったのに…」

 私が咲夜に言うが彼女は私の横をフランを抱えて進みながら呟く。

「謝らないでください。終わったことは仕方がないです……どっちみちあの情報量では私たちだって気が付けていたかわかりません。……それと一つ言っておきます……向こうの世界の私は、私が殺します」

 私たちの横をお通り過ぎた咲夜の目には光がなかった。復讐の炎だけが目の奥でチラついていて、私はそんな彼女の目に息をのんだ。

 咲夜の見たこともない雰囲気に圧倒されて何かを言うこともできなかった。そのうちにパチュリーや美鈴を抱えている少なからず怪我をしている妖精メイドたちは、私たちに一礼をして咲夜の後ろについていく。

「…私たちも行きましょう」

 霊夢に背中をポンと叩かれ、それでようやく歩き出すことができた。しばらく何もしゃべることもなく霊夢と歩いていると、木や竹の数が減っていき、視界の開けた場所に出た。

「…ここから歩くのはだいぶ疲れるし、飛んでいきましょう」

「ああ……そうだな」

 元気なく霊夢に返事を返した私は少しだけ体を浮き上がらせていた彼女に手を掴まれ、手を引かれて私も空を飛んだ。

「……」

 空を飛んでからも咲夜たちのことが頭から離れない。咲夜はああ言ったが直接的にレミリアの死に私が関わらなかったとしても、私が思い出していればと思うと間接的にかかわっているのではないだろうか。

 しばらくそう言った考えが頭の中でグルグルと回っていたが、不意に霊夢が私の手を離して言った。

「…そういえば、咲夜を追って行った早苗はどこに行ったのかしら…」

 咲夜たちのことでそこまで頭が回っていなかったが、言われてみればフランたちを連れてきていた咲夜たちの中には早苗の姿は無かったと思う。

「わからん……あいつのことだからフランたちを運ぶのを手伝うと思うが、今の状態では断られたのか?」

 かもしれないわねと霊夢が言うと、またそばらく私たちは口を開かなかったが、私が自宅に行くために彼女と別れようとしたき、霊夢が口を開いた。

「…魔理沙、今日は家に泊まっていきなさいよ」

「へ?…なんでだ?」

 唐突にそう言ってきた霊夢に聞き返すと彼女は一呼吸間をあけて言う。

「当たり前でしょう?だって一人でいる時に奴らが来たとしたらどうするのよ」

 それもそうか。一人でいるときほど狙いやすいときは無い。今の私では抵抗をすることもできずに捕まり、何かをされて殺されることだろう。

「でも、お邪魔していいのか?」

「…いいわよ、良くないんだったら言ってないわよ」

 私が恐る恐る聞くと、当たり前という感じで霊夢は遠くに小さく見えている博麗神社の方に行くわよと促している。

「じゃあ、……お言葉に甘えて」

「…ええ」

 私がそう霊夢に言うと彼女は嬉しそうにうなづき、自宅の方向から方向転換して、霊夢と並走して一緒に神社へと向かった。

 十数分もするとあんなに小さかった神社も大きく見えてくる。飛んでいる角度から見える博麗神社は昨日出ていった時のままだ。

「…魔理沙、お腹すいたでしょう?一日中眠ったままでご飯食べてなかったし」

 自分の顔を吹っ飛ばしたのが夜中とかそのぐらいだったが、今は夕方を過ぎてもう夜で、いつもなら夕食を食べているか食べ終わっている時間帯だ。

「そうだな……腹減ったし早く飯が食いたいぜ」

 私はそう言って博麗神社の庭に降り、霊夢はその横に着地した。霊夢は障子の一部に穴が開いていたり、タンスが倒れていたり、床に砂が散らばっている茶の間を見てそこで食事をするのは無理だとすぐに判断し、靴を脱いで縁側に上がると寝室の前まで移動して、しまっている寝室の襖を開けるとそこまで幽香の攻撃の影響が及んでいないことを確認する。

「…台所でご飯の準備してくるから、魔理沙は寝室で休んでて」

「いや、お邪魔させてもらってるわけだし、私もなんか手伝うぜ?」

 縁側の下に脱ぎ捨てられている霊夢の靴を拾い、玄関の方に持って行きながら言うと、霊夢はそれでも大丈夫と言って台所に向かって行く。

「そうか、じゃあ寝室でも待たせてもらうとするぜ」

 私は玄関の扉をスライドさせて開き、靴箱に霊夢の靴を入れて自分の履いている靴を脱いで玄関の端に置いた。

 霊夢は後ろを横切って廊下を歩いて行き、台所へ入っていく。靴を脱ぎ終えて廊下に出ると、廊下だというのに霊夢の匂いがする。

 霊夢に言われたとおりに荒れ放題となっている茶の間を横切り、霊夢が襖を開けたままにした寝室に入ると、私と違って整理整頓されていていつも通りに綺麗な部屋が見えた。部屋の中央には卓袱台がおかれていて、その傍らに私は座った。

「…」

 茶の間や廊下などよりも霊夢のいい匂いで溢れていて、こういうところにいるだけでもいくらか落ち着くことができた。襖を閉めてはいるが霊夢が何かを調理し始めた音が襖越しに聞こえてきて、お腹が鳴ってしまう。

 昨日の夜からであるため、実質的に一日中何も飲み食いしていないことになるのだから仕方がない。

 電子ではないアナログの時計が秒針を一秒単位で正確に刻むごとに小さな音を発する。普段ならそれで終わるが、精神が少しだが不安定である今は、霊夢の調理している音が小さく、それが嫌に大きく聞こえる。

 いろいろな音があって静寂というわけではないのに、私はなぜか落ち着くことができなくなる。そうすると今度は嫌な想像が頭の中で膨らんでしまう。

 霊夢のいない今、異次元霊夢に襲われたらどうなってしまうのだろうか、それが頭をよぎると秒針よりほんの少し早いか同じぐらいだった心臓の鼓動が、それよりも速いスピードで拍動する。

 不安で緊張し、息が荒くなってしまう。周りにも聞こえているのではと思うほどに心臓の音が大きく聞こえ、バクバクと動く。

 一人という不安で周りの音が聞こえなくなっていた私は、霊夢の歩いてくる音に気付かず、襖を彼女がガラッと開けるとその音に少しだけビクついてしまう。

「…?どうしたの?顔色が悪いわよ?」

 何枚かのお皿と食事が盛りつけられているお盆を持った霊夢が足で器用に襖を閉めて、私に言った。

「な…何でもない…ただ傷が痛んだだけだ」

 霊夢がいないのが不安で仕方なかったなど、口が裂けてもいなかったため、とっさに嘘をつく。でも、彼女のおかげで不安が解消され、早くなっていた心臓の拍動もおさまっていく。

「…そう、大丈夫?」

「ああ」

 霊夢が短く受け答えするとちゃぶ台を挟んで私の正面に移動し、御盆に押せている皿を机に並べる。千切りで刻まれたキャベツに、一口大にカットされているトマト、焼かれた肉などが皿に盛りつけられていて、とても彩がいい。

 肉と野菜が盛りつけられている皿に目玉焼きを霊夢が置いてくれて、見た目や卵や肉の香ばしい匂いに空腹を余計に感じてしまう。

「…さ、食べましょうか」

 霊夢が私に箸とご飯がよそられている茶碗を手渡し、自分もそれを御盆から取って机に置くと手を合わせた。

「「いただきます」」

 二人で一緒に挨拶をし、食事を始めた。肉などを頬張ると霊夢が作ってくれた料理は自分で作った料理よりも味付けがちょうどよく、とてもおいしい。

「うまいな」

「まあ、そうは言ってもお肉を焼いたり野菜を切ったりしただけよ」

 自然とそう呟いていた私に野菜を食べて飲み込んだ霊夢は言うが、まんざらでもなさそうな顔をしている。

「それでも、霊夢の味付けはとてもおいしいぜ」

 霊夢にそう言いつつも卵などを口に運ぶとこれもとてもおいしい。彼女の言う通り焼いているだけなのだろうが、味付けが絶妙でご飯が進む。私が作っていたらキノコまみれになるか焦げるのどちらかだろう。

 そうして、話したり時々喋らなかったりとしながら私たちは食事を終えた。

 




少しだけ、三十八話の後半部分のような日常が続きます。

多少の百合要素も出てくるので苦手な方は申し訳ございません。

五日後から一週間後に次を投稿します。
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