それでもいいという方は第四十二話をお楽しみください。
霊夢と私は異次元の奴らがもう一度来るまでに、少しでも差を縮めるために修業をすることになったわけだが。
「なあ、修業をするのはそれでもいいんだが…疲れてるときに奴らに来られたらどうするんだ?」
私が冷たい麦茶を口に運ぶと、口の中の熱が麦茶に奪われて冷える。それでもいまだに冷たい冷えた水を嚥下するとそれが喉を通っていき、体を内側から冷やしてくれる。
「…多分大丈夫よ、先日姿を現したのは自分たちの存在を魔理沙に知らせるためと、ある程度の邪魔者を排除すること…それに、なんだか準備もあるとか言ってたし……向こうにはいくつかの勢力があって、現在こっちに来れるのは向こうの世界の私たちだけ、そう短期間に何度も出入りをしていれば敵対勢力に悟られる。…変に介入されないように日にちを置くはずよ」
それもそうか、異次元霊夢たちがこっちにいる間、ずっと亀裂は開いたままだった。誰かしらが見張っていたとしても、数で押されれば突破も時間の問題だ。奴らにとって面倒なことを考えると短期間で連続的に来ることは無いだろう。
「なるほどな、なら…できる限りのことをしよう……。でも、奴らはどのぐらいの期間を置くと思う?」
「…さあ、三日か…四日か…そこらだと思うわ」
それだけの時間があるのならば、こちらもある程度の準備と修業ができる。朝食を食べ終えた私たちは食器を洗い、すぐに修業に移ることにした。
修業の内容は戦って経験を積むことなどではなく、魔力を練ることによる魔力力の強化だ。
戦闘をして、経験を積んでいかなる状況にも対応できるようになるのは大事なことだ。だが、私たちの戦闘能力が高いのは魔力での身体強化によるものであり、戦闘能力は魔力の強さである魔力力に強く依存する。それを強くするということは必然的に攻撃力と防御力などの戦闘能力の向上につながることに他ならない。
しかし、問題があるとしたら魔力力はかなり上昇しにくいものだということだ。レーサーは自分の使う車の時速を上げるのにかなりのお金などを使うというがそれと同じで、魔力力を上げるにはそれなりの手間と時間がかかるのだ。
戦ったことによる経験などの実体のないものよりはわかり奴いものではあるが、欠点があるとすればそこだろう。
魔力力は魔力の強さと言ったが、それについて説明させてもらう。
魔力力はいわゆるエンジンのようなものと思ってもらっていい。他の要因もあるが、強いエネルギーを出すエンジンは出せる速度も速くなる。それと同じで魔力力の高さによって魔力の質力や質が変わる。
ここからは魔力力の高さについての利点となるが、いくら魔力の量が多くても魔力力が低くて魔力の質が悪ければ撃てる弾幕の威力も量も大幅に低下し、同じ数の弾幕を撃とうとしても、使う魔力の消費量も変わって来る。
上がりにくいことには上がりにくいが、上がればその分だけ戦闘能力の増加につながる。だから霊夢はこれを鍛えることにしたのだ。
「……」
私と霊夢のどちらも一言もしゃべらない静寂の中、正座をして自分の中の魔力を高める。だが、注意していてもわからないぐらい雀の涙程度だけしか魔力力が上がっていっていない。
隣にいる霊夢の魔力に意識を向けてみると、始めたころよりもほんの少しだけだが魔力が強くなっている気がする。
同じ時間だけ修業をしているのに霊夢の方が魔力力の上昇が速いのは、やはり魔力にも個人差があるからだろう。一人一人上昇のしやすさは違う。
そして、霊夢は何においても私の先を行くようだ。だが、うれしいことに魔力力には上限がない。つまり、時間さえかけることができれば私も霊夢並みの魔力力を持つことが可能なのだ。まあ、そうなるには途方もない時間がかかるが、
「……」
私と霊夢がそうやって自分の魔力を練り始めてから、なんだかんだ言って一時間が経過した。
「なあ、霊夢」
私が霊夢に声をかけると彼女は魔力力を高めるのを中断して、私の方向を向く。
「…どうしたの?」
「いつまでも霊夢の世話になってもいられないし、今日は家に帰るとするぜ」
霊夢の予想では奴らが来るのは最低でも三日後、それまでは自宅で待機していても問題は無いだろう。
「…もし、一人の時に奴らに襲われたらひとたまりもないじゃない。…それに、一人も二人も負担はあんまり変わらないし、今日も泊まってきなさいよ」
「でも、霊夢に予想では奴らが来るのは三日後だろう?なら明日とか明後日までなら大丈夫じゃあないか?」
何気なくいってみるが、予想は予想だ。天気予報だって予報で100%の確率ではない。連中が予定を繰り上げたりする可能性だってあるのだ。絶対に安全な日などは無いだろう。
「………そうだな、なら霊夢の家にお邪魔させてもらっても構わないか?」
考え直した私が霊夢に言うと、彼女は満足そうに微笑んで小さく頷いて行った。
「…ええ、勿論」
「でも、さすがに何日も霊夢の服を借り続けるのもよくないし、一度家に帰って寝間着とか予備の服とか戦いに必要なものを一式持ってくるぜ」
服も一部がボロボロだし、マジックアイテムも異次元霊夢たちと戦っている間にどこかに行ってしまった。それを補充したい。
「…そうね、なら一人じゃあ危ないし…私も一緒に行こうかしら」
霊夢が一緒にいてくれるだけでかなり心強くはあるが、寄り道しなかったら準備も入れて四十分程度で自宅から神社までを往復できる。わざわざ霊夢が出るまでもないだろう。
「いや、大丈夫だぜ…往復に一時間もかからんからな、お茶でも飲んで待っててくれ」
私がそう霊夢に伝えると彼女は少し心配そうだ。たしかに、いつ、どこから、どれだけの人数で襲ってくるかわからない。霊夢が心配になるのも無理はないだろう。
「…本当に気を付けてね?大丈夫だとは思うけど道中で奴らにあったらすぐに戻ってきてね」
「ああ、わかってる…前の戦いで十分に奴らの強さは味わった。一人で戦おうなんて思わないぜ」
私は明るいうちに自宅に戻るため、傍らに置かれている卓袱台に手をついて体を持ち上げ、立ち上がった。
「…あら、もう行くの?」
「ああ、今行っておかないと後々になって行こうとしても面倒になって行かなくなりそうだなから」
私の性格を知っている霊夢は少し考えた後に、確かにねと肯定する。自分の生活態度のせいであり、自業自得であるが地味に傷つく。
「とりあえず、行ってくるぜ」
私が前日靴を置いた玄関に向かい始めると、庭の縁側近くに影がゆらゆらと揺らめいているのが視界の端っこで見えた。
夏の強い日差しでも薄くて小さな影に、影の持ち主は天井で見えなくなっているが空にいるのがわかる。
「…魔理沙?どうしたの?」
いきなり立ち止まった私に霊夢が首をかしげる。ちょうど彼女からは障子などで見えずらい位置であるのだろう。そうしているうちに影が大きくなり、真っ黒な翼を背中からはやした人物が下りてくる。
赤い下駄に短くてフリルのついた黒いスカート、半袖のシャツ、頭には山伏風の帽子を被っているのは、鴉天狗の射命丸文だ。
黒いショートの髪に、いつも片手に持っていて使い古されているカメラをベルトに取り付けられている小さなポーチに入れ、シャツの胸ポケットに入れてあった手帖とペンを取り出してこちらに近づいてくる。
「霊夢さんに魔理沙さん、おはようございます!」
文はまず初めに元気よく私たちに挨拶をすると、手帖を開いて霊夢の方を向いた。
「霊夢さん、早速ですが今回の異変について、いくつか質問させてもらってもいいですか!?」
目を爛々と輝かせている文は飛び付かんとする勢いで縁側に近づくと、霊夢に言った。新しいネタもそうそう入ってこないため、異変が起こればそれに記者が食いつくのも無理はない。
「…別にいいわよ、私も文に頼みたいことがあったし」
霊夢がそう言いうと文はではさっそくと呟き、手帖のページを何度か捲っていき、自分で書いた字を指でなぞっていく。
「今回の異変、これを起こしたのは誰なんですか?…さっき異変を起こした奴に掴まってたっていう妖精たちから話を聞いたんですが、霊夢さんたちが霊夢さんたちと戦ってたなんて言うもんですから、本当かどうかわからないので異変にかかわっている霊夢さんに直接聞こうかと」
文は興奮気味でそういうと待ちきれないといった様子で霊夢の偏とを待っている。霊夢は少し間をあけてから静かに言った。
「…その話は事実よ」
「事実ですか!やはり巷で噂になっていたドッペルゲンガーと戦ったということですか!?」
この頃はドッペルゲンガーがでる。なんて噂が立っていて、そのあとにこの情報だ。だれもがドッペルゲンガーと私たちが闘ったと思うだろう。
「…確かに、自分と同じ恰好の者とは戦ったけど…ドッペルゲンガーとは存在自体が違う者だったわ」
「というと、妙蓮寺のぬえみたいに誰かが姿を変えていたということですか?」
新聞をかくための材料にするために霊夢の言っていることを文は一言一句聞き漏らさずに、手帖に聞いた内容をすらすらと書いていく。
「…私たちが闘ったのはドッペルゲンガーじゃない。異次元……いわゆる並行世界からやってきた私たちと戦ったわ」
「い…異次元?並行世界?…そんなフィクションの世界みたいなことが…」
文はネタを書いていた手帖から目を離して私たちを見上げて驚く。だが、彼女は合点がいったという感じで、すぐに手帖に目を落とすと更に何かを付け加えて行く。
「あんまり驚かないんだな、何か知ってるのか?」
あまり驚いていない様子の文のことが気になり、そう聞いてみると彼女は手帖に霊夢の言ったことをかきながら答えた。
「ドッペルゲンガーを見たっていう村の人に聞いてみたら、霊夢さんを見たことには見たけど、何かが違うように見えたって仰っていたので、いくつかの仮説を立ててそれに近いものがあったのでそれでですかね」
文はまあ予想は全部外れましたけどね、とカラカラと笑って書き込みを終え、次の質問に移る。
「その、並行世界の霊夢さんは何が目的で来たんですか?何か理由がなければ別の世界にまで戦いには来ませんよね?」
誰もが初めに思うだろうということを文は聞いてきた。
「それについてはまだわかってないわ。わかってるのは奴らが私たちに敵対してるってことだけ…まあ、それがあんたに頼みたいことに繋がって来るんだけどね」
霊夢がそう言うと文はペンで字を書いていた手を止め、私たちの方を見る。
「?…私にしてもらいたいことですか…私ができることなんてあんまりないと思うんですけど…私は何をすればいいんですか?」
文はそう呟き、残りを手帖に書き込んでから手帖にペンを挟んで胸元のポケットにしまった。
「幻想郷中の能力を持っている人間、妖怪、妖精問わずに伝えてほしい。奴らに気を付けろって」
「例の並行世界の人たちからですよね?霊夢さんたちが倒されるということはすごく強い敵なんでしょうけど、そんなに警戒するようなことなんですか?」
さすがは情報を扱っていることだけはあって、すでに私たちが一度やられているということはもう知っているらしい。
文は幽香やレミリア、諏訪湖もしくは加奈子のどちらか、もしくは両方が死んでいるということは知らないのだ。知っていたらこんなことは言わないはずであるからだ。
「…文、事の重大さがわかっていないようね…わざわざこっちの世界にまで来て戦うようなやつらよ?こっちのルールなんて向こうには関係ない。死人が出ようがお構いなしでしょうし、あんたは知らないと思うけどもうすでに何人か殺されているわ。厄介な能力を持っていれば狙われる可能性は高くなる。それに、あんただって例外じゃないわよ?」
「へ?なんで風を操ることしかできない私なんかが狙われるんですか?」
文は自分の能力が異次元霊夢たちから狙われる能力であるとは思っていなかったらしく、首をかしげている。
「…あんたの場合は、能力というよりも情報の伝達力ね」
霊夢がそう言うと文はなるほどと早くに理解をする。
「確かにそうかもしれませんね、戦場で場合によっては武器や戦闘能力よりも重宝されるのは情報。それを相手が追い付けない速度で情報を周りに伝達する情報屋がいれば狙われるのもうなづけます」
無線や電話が普及している外の世界にはない幻想郷ならではの問題だ。
「…わかってもらえたのならそういう感じで周りに伝えて貰ってもいいかしら?」
「わかりました。聞きたいことができたらまた来ます」
文はそう言うと、真っ黒な羽を広げてそれを羽ばたかせて全速力の私や霊夢が追い付けない速度で上昇し、飛んでいった。
「…。霊夢」
私が霊夢を呼ぶと文が飛んで行って見えなくなるのを見上げていた彼女はこっちを向いた。
「…ん?どうしたの?」
「文に言わなくてもよかったのか?私が関係していることを」
私が聞くと、霊夢は文と話すために縁側付近に移動していたが、卓袱台近くまで戻って一息ついた。
「…あんたのことを言ったら状況がややこしくなる可能性が大きいわ。魔理沙を殺して奴らがこっちに来る理由をなくすとか、奴らに魔理沙を引き渡すとかそう言ったふざけた連中が出てこないためにね」
霊夢の言うことは間違ってはいない。幻想郷の住人を疑っているようだが、こっちの平和な幻想郷でも戦い意外にも争いはある。例えば宗教。
妙蓮寺や守矢神社、霊夢の神社など信じている神や教えは違うが。それがどうやってややこしいことに繋がって来るかというと、
それは意見の違いだ。この狭い幻想郷ですでに宗教はさっき挙げた三つが存在している。祀っている神や教えなど意見の食い違いや信じている物の違いでできたわけだが、それと同じで、一つの物ごとによっても人間一人一人で感じ方や考え方はだいぶ変わって来る。
霊夢は私を助ける方向で動いてくれたが、他の連中はわからん。彼女が言った通り、私を殺して奴らが来る理由をなくすだったり、元凶である私を奴らに引き渡して帰ってもらうだったり、理由次第で奴らと同じように私を襲ってくるかもしれない。
それらを考慮して言わなかったのだろう。
「…まあ、そんなことを言い出す奴はいないと思うけど、念のためしばらくは奴らの目的が魔理沙だとは伏せておくわ」
「ありがたいぜ」
「…礼を言われるほどのことじゃないわ。それより、家に帰ってお泊りの準備をして来たら?ある程度の時間がたったら私がお昼の準備をしておくから」
霊夢は十一時ぐらいを指している、壁にかけられたアナログの木の時計を見上げて言った。
「ああ、よろしく頼むぜ」
私は霊夢に言って自宅に向かって空を飛んだ。
五日から一週間後に次を投稿します。