それでもいいという方は第四十四話をお楽しみください。
今回は微百合話です。
「…随分と遅かったわね、支度に時間がかかっちゃったの?」
香林の家についた時点で結構時間も経っていて、そこから交渉してマジックアイテムを貰って来たので博麗神社に到着するのが20分ほど遅くなってしまい。そのことについて到着後、早々霊夢に突っ込まれてしまう。
「ああ、一つのマジックアイテムをどこにしまってたのか忘れちまってな。それで身支度を整えるのに大分時間がかかっちまってたぜ」
「…そう」
霊夢が呟き、息を吐いて魔力力を高める作業を中断し、背伸びをする。私が出て行ってからずっとこうして魔力を高めていたのだろうか。
「…お昼まではまだ時間があるし、もう少しこの鍛錬をしない?」
霊夢が壁に立てかけてある時計を見上げて言った。私もそれにつられて時計を見ると時計は十時を指している。
「そうだな、私は霊夢ほどこの鍛錬はしてないし…やるとするか」
私が縁側に近づき、靴を脱いで膝を縁側に乗せて体を持ち上げ、縁側の上に座り、靴を脱ごうと庭の方を見ようとすると、ちょうどすぐ後ろで砂を踏む音が聞こえた。
「ん?」
私が後ろを振り返ると、白と青色が主体となっている巫女服を着た女性が立っている。早苗だ。
前日咲夜を追っていったときとは違って、茶色く変色した血が服にいくつか付着している。しかし、服の破れ具合やほつれなどから昨日から着替えていないのだとわかる。
「早苗…」
目の下には濃い隈ができていて、寝ていないのだろう。そして、早苗のことを呼んだはいいがそれ以上の言葉が出てこなかったのは、彼女の目だ。
咲夜と同じ、濁った瞳の奥には復讐に燃える光がチラついていたのだ。
「奴らについて、前日言っていたこと以外に知っていることは無いんですか?」
特に早苗は怒鳴ったり力強く言ったわけではない。でも、彼女の言葉には強い怒りが含まれていて、私は息をのんでしまってすぐに答えることができなかった。
「っ…え…?……その……」
私がいつもと全く違う冷たい雰囲気を纏っている彼女に問われ、返答を戸惑っていると、早苗が私に歩み寄って来る。
「何か、知っていることは無いんですか?」
早く答えない私に苛立ちを覚えた早苗が更に詰め寄り、頭一つ分とは言わないがそれぐらいの身長差があるだけでやたらと彼女がデカく見える。
いつも温和な彼女が復讐のために動くマシーンのように豹変していて、私は怖くなってしまったのだ。
「どうしたんですか?何か言ってくださいよ」
早苗が目を細め、眉を吊り上げる。
「…早苗、少し抑えて…そんなに威圧してたら魔理沙だって喋れなくなるわ」
彼女が早苗をなだめていなければ、殴られるか叩かれるかわからないが早苗に何かしらされていたかもしれない。そんな雰囲気が彼女にはあった。
「……そうですね」
小さくため息をついた早苗は私から少しだけ離れ、改めて異次元霊夢たちのことについて落ち着いて尋ねてくる。
「早苗、申し訳ないが私が知っていることはもうすべて話した。話してないことと言えば…霊夢の予想では三日後か四日後に奴らが来るかもしれないっていう物だけだ」
「三日後から四日後?なぜそう言い切れるんですか?今日来る可能性だって捨てきれないじゃないですか?…その根拠を教えてください」
彼女の言うことはもっともだ。それだけ聞けば何の根拠もない仮説だからだ。推測は予測の域を出ることができない信頼性の薄いものだ。
「…確かにそうね…何の根拠もない。でも、目的である魔理沙を捕まえるのを放棄までして帰るのは変だと思わない?普通なら目的を果たすはずよね?」
「ええ、そうですね」
縁側の上に座っている霊夢を早苗は見上げて呟く。
「予定より時間がかかってしまったから、自分たちにいる敵に悟られないように帰る。でも、一番注目されている連中でもあるから、あんまり連続的にこの世界に来ると魔理沙を見つけたのだと悟られる。だからしばらくの間は異次元の私たちはこないと思うそういうわけよ。まあ、他の要因も考えられるけどね」
「そうですか、そういうことなら…それを参考にさせていただきます。……それと、向こうの世界の私は…私が殺します」
「…何か勝てる算段はあるのかしら?」
私から離れた早苗に、霊夢は重い腰を上げて縁側に座って言った。麦茶でも飲んでいたらしく、茶色い液体の入っているコップを傍らに置く。
「ええ、向こうの私は自分の能力に対して、私以上に過信しているように見えました。それは能力が強いという現れにもなりますが、同時に弱点が見えなくなっているともいえるので、そこを突きます」
奴の足元をすくおうというわけか。能力を持っている以上は奴らだって対処はしてくる。そう簡単にうまくいくだろうか。
「…そう、頑張ってね早苗…」
霊夢が机の上に置いたガラスのコップを拾うと、その縁に唇に付けて傾けるとすべての液体を飲み干した。
「はい」
早苗は手首に付けてある腕時計を見下ろして時間を見ると、もう一度座っている霊夢を見下げる。
「…どうかしたの?」
「申し訳ないのですが、私と手合わせしていただけませんか?私の実力を底上げするのには自分よりも強い方と戦うのが一番だと思いまして…」
早苗がお茶を飲んでふうっと息を吐いている霊夢に言った。確かにその通りではある。足の遅い人が足の速い人と走ると少しだけ早くなるということがあるらしいが、それと同じことだろう。
「…そうね…まあ、いいわよ」
霊夢は考え込むと小さくうなづき、縁側の私のすぐ脇に置いてある靴を履くと、いつの間にか取り出していたお祓い棒をクルクルと手の中で回している。
「それじゃあ、お願いします」
霊夢と早苗は並んで歩いて行くと、庭の中央で向き合って早苗もお祓い棒を取り出し、戦いを始めた。
魔力強化で身体能力の上がっている霊夢が早苗に向けて踏み込むと、その衝撃で地面が靴の形に陥没しするのが見えた。すさまじい踏み込みだ。早苗のもとまで一瞬で加速して近づくため、通り過ぎないように急停止する必要があるが、あそこまでの力がないと止まれないのだろう。
対する早苗は一歩後ろに下がると、お祓い棒と体を強化して霊夢に向けて得物を振りぬいた。
砂煙が舞い上がり、霊夢の攻撃を受けた早苗が地面に片膝をつく、勝負ありだ。
「…早苗も初めて会った時に比べると結構強くなったわね…でも、右からの攻撃の対処が少し甘いわ。…それと踏み込みが甘かったり踏み込みすぎていたり、状況をもう少し見極められるようになりなさい」
「…」
特に右腕と側頭部に打撲痕をつけ、わき腹を押さえている早苗に霊夢は淡々と告げる。早苗は小さくせき込んだ。
「…それと、弾幕を奇跡の力でかわすのはできるだけ止めなさい。簡単な軌跡なら短い呪文の詠唱で済ませられるけど、いざって時にそれが使えないと困るし、奇跡に任せている分だけ早苗が処理をする分が減る。それは能力的にはいいかもしれないけど、早苗自身の実力がついていないことにもイコールとなるわ」
「……確かに…そうですね。ありがとうございました…気を付けることにします」
早苗は悔しそうにつぶやくとわき腹を抱えたまま、空に飛んでいった。悔しそうにしていたのは負けたからではない。自分の実力がどれほどの物かを知ったからだろう。
「大丈夫か?霊夢」
相変わらず、霊夢は聖や幽香、伊吹萃香、咲夜など幻想郷で彼女に次いで強い者らを相手にしなければ、後れを取ることなどそうそうない。大したものだ。早苗との戦闘ではほとんどの傷を負っていない。
「…問題ないわ。でも、私もまだまだ足りないわね…」
早苗との戦闘で汗をかいた霊夢は袖で軽く拭い、縁側に置いたままにしたガラスのコップを倒さないように私の隣に座ると、日差しが強くなってきてじりじりと日の光で熱されている地面を見下ろし、ぽつりと呟く。
強いからこそ奴らの強さというものがよくわかるのだろう。
「…霊夢それじゃあ、お昼にしましょうか…運動したからお腹すいちゃったわ」
霊夢が砂が付いている裾を払い、靴を脱いだ。
「なあ、霊夢」
「…なに?」
運動をして少し汗をかいた霊夢は服の胸元を掴み、パタパタと振って空気を循環させて涼しんでいる彼女はこっちを振り向いた。
「飯の前に私とも手合わせを願いたいんだが、いいか?」
私がそうたずねると霊夢はうーんと考え込む。早苗との戦いで少しくたびれたのだろう。でも、お昼までは時間がないわけではない。時計を見上げた霊夢は再度こっちを見る。
「…いいわよ」
霊夢は脱いだ靴をもう一度履き、早苗と戦った時と同じように庭に歩いて行く。私も霊夢に続いて歩くと屋根で遮られていた真上にある太陽に光に照らされ、黒い魔女の服がよく光エネルギーを吸収し、めちゃくちゃ暑い。
「…準備はいいかしら?」
「ああ」
霊夢がお祓い棒と札を取り出し、私は手先に魔力を集中させていつでも戦闘を開始できるように準備を完了させる。
「…じゃあ、行くわよ」
霊夢は大きく踏みだすと、左手に持っていた札ではなくいつの間にか持ち替えられていた針を私に向けて投擲してきた。
「っ!?」
不意を突かれた。札ならば空気の抵抗でわずかにこれよりも遅く、十分に時間はあっただろう。しかし、空気抵抗の少ない針は私の予想よりもはるかに早くこっちに到達する。
普段、修業なんてやらないやつだが、いざやりだすと修業だからと言って霊夢は手加減はしない。それは修業にはならず、せっかく積んだ経験も実践では生かせないからだ。
でも、霊夢が本当に本気で戦えば私は一分も持たないかもしれず、彼女を本気にさせることができるかはわからないが、彼女を本気にさせることができるようにこちらも全力で戦わなければならない。
走り出した霊夢に向けていた手のひらから魔力を凝集したエネルギー弾を発射。青白いエネルギー弾が30センチも移動していないうちに、肩などに向けて飛んでいた二本の針を掴み取る。
私の魔力の霊夢の魔力が反応し針に込められていた魔力が爆ぜる。魔力で体を守っていたが強い電気で感電したように痺れ、ナイフで切り裂かれたように鋭い痛みを両手に感じた。
「ぐぅ…っ…!?」
体内を循環している魔力の流れを霊夢の魔力で乱されてしまい、手が痺れたまま動かせなくなるが魔力を送り込んで乱れを修復する。普通ならもっと時間をかけて戻すものだが戦いの真っ最中でちんたら治している暇はない。
異次元霊夢のエネルギー弾を弾き飛ばすところを何度も見ていたのだろう。エネルギーの受け流しが上手く、お祓い棒でエネルギー弾をはたき落としたのに後方に吹っ飛んでいかない。見ただけでこれだけできてしまうとは、恐ろしい奴だ。
次の攻撃をしようとするが、レーザーもしくはエネルギー弾を撃つまでに霊夢の速力では、彼女の攻撃射程範囲内に私が入ってしまう。
いつもそうだ。射撃系の魔法を使う私にとって、霊夢や奴らの戦いのスタイルは相性が悪い。それをどうにかして私は克服しなければならないわけだが。
私は短い時間、走って来る霊夢の姿を見て考え、結論を出した。それならば、私も霊夢たちと同じ接近戦で戦うしかない。遠距離で戦おうとしても、遅かれ早かれいつかは追いつかれて接近戦を挑まれる。ならば近接戦闘の訓練をするのも悪くはないはずだ。
「…」
左手に持っていた針をわきに捨て、右手に持っている三十センチほどの針に私の魔力を込めて強化し、お祓い棒を振り下ろしてくる霊夢に、彼女が闘っているときの姿を真似て針を打ち付けた。
「いてぇ……」
手を殴られた痛みで曲がった針を掴んでいることができずに滑り落としてしまい、石のタイルに当たってカランと金属音を発する。
「…魔理沙、なんで途中から接近戦でのスタイルに変えたのかはわからないけど、やっぱりあなたは後方で援護をしていた方がいいんじゃない?」
「まあ、そうだよな…魔法で戦ってたやつがいきなり接近戦で戦えるわけがないからな…」
打撃を受けた脇腹の鈍い痛みが広がり、私はうずくまって霊夢に言った。
「…そうね、向こうの世界の奴らに影響されてとかだろうけど、中途半端なことはやめなさい。筋は悪くないけど、踏み込みがでたらめでそんな戦い方じゃあ命がいくつあっても足りないわ」
「確かに……そうかも…なっ…!!」
うずくまった私は、その位置に初めに投げ捨てていた針を拾い上げ、魔力を込めて霊夢に投擲した。3、4メートル離れている位置にいる霊夢の胸に飛んでいった針を、彼女はあっさりと叩き落す。
「…武器を使っての近接戦闘の経験が圧倒的に足りてない。今からそれを伸ばすよりも今まで通り魔法や弾幕で戦っていた方法を伸ばした方がいいわね」
霊夢はそう呟いてうずくまった状態から起き上がって針を投げていた私に、ほんの瞬きするうちに走り寄ってきて下からお祓い棒を振り上げ、私の顎を殴った。
「ふぐぁ…!?」
顔が跳ね上がり、目の前にいる汗をかいている霊夢の顔が映し出される。
「…それじゃあ、お昼にしましょうか」
顎をたたきあげられた私は、その衝撃で脳を揺らされ軽い脳震盪を起こし、体を足で支えることができずに倒れそうになるが、霊夢に支えられ何とか倒れずに済んだ。
「…ねえ、魔理沙」
午後の修行などもすべて終えて夕食も風呂も入った。あとは寝るだけとなった私が霊夢の布団と自分の布団を敷いていると、霊夢が後ろから声をかけてくる。
「…電気、消すわよ?」
枕の位置などを調節してから後ろにいる霊夢に振り返ると、彼女は私が返事をする前に天井からつるされてる電球から伸びているひもを引いて電気を消した。
「あ、まだ布団に入ってなかったから、もうちょっと待ってほしかったぜ」
明るい場所に目が慣れていて、いきなり暗くなったことで周りが見えなくなってしまった私は、布団を敷いた四つん這いの姿勢のまま手探りで自分の布団に移動しようとするが、進行方向に回り込んでしゃがんでいた霊夢の胸に鼻をぶつけてしまう。
「いて!?」
あまり早くは動いていなかったはずだが、まったく霊夢の姿が見えなかった私には不意打ちに近い形でぶつかったせいもあって、涙目になってしまうぐらいには痛みがある。
「…ごめん」
霊夢は呟いて私を抱き寄せると、そのまま彼女の布団に倒れ込むように押し倒されてしまう。
「へ?…霊夢?……どうしたんだ?」
私の上に覆いかぶさってきた霊夢は、何も言わずに私をただただ抱きしめ続ける。何が何だかわからなかったが、私は霊夢の背中側に回している手が小刻みに震えているということにすぐに気が付いた。
「…ごめん、ちょっとね…」
初めに私に聞いたことに対して返答した霊夢の声は、彼女が意識して抑えようとしているが、その声は彼女らしくもない弱々しくて若干震えた声だ。
「…驚かせちゃってごめんなさい」
名残惜しそうにすぐに私から離れようとした霊夢の背中に脇の下から手を回し、離れないように今度は私が彼女を抱きしめた。
霊夢は少し驚いたらしく体を硬直させるが、すぐにさっきと同じく私を抱きしめてくる。
「霊夢、どうしたんだ?」
彼女と抱きしめあってから五分程度の時間が経過したころに、大体の予想はつくが私は霊夢に疑問を問いかける。
「…少し、怖くてね…」
私が抱きしめる前よりも声の震えがだいぶ収まっている霊夢がそう言った。霊夢がこんなふうになるなんて、考えられるのは奴らについてだろう。
「……ああ」
「…博麗の巫女である私がしっかりしないといけないのに……こんなざまだなんて…情けない話ね…」
霊夢は自分の気持ちの弱さが情けないのか、小さくため息をついて抱きしめている私の耳元で呟いた。
「そんなことないぜ、私だって怖い。…戦うために強くなろうとするが、そうなるごとに奴らの強さが嫌ってくらいに思い知らされる……そんな連中がまた来るっていうんだ。怖くないわけがないぜ」
「…ごめんなさい」
昨日は目の痛みで苦しんでいるときに私を助けてくれた。これぐらいどうってことは無い。
「気にすんな、この状況で怖くないっていう方が……」
おかしい。そう言おうとしたが、そうなっている人物が二人思い浮かび、それに少なからずかかわっていて、そこから先の言葉を言うことができず、言葉を詰まらせた。
「…魔理沙」
言葉を詰まらせてしまい、次の言葉を出てこなくなってしまっていた私に、しばらくしてから霊夢は少し体を離して言う。
「?」
「…ありがとう、だいぶ気分が落ち付いたわ」
暗くて表情はわかりずらく、霊夢が落ち着いた声で言って離れようとするが、私は彼女の背中に回した手を離さずに抱きしめ続ける。
「…魔理沙?」
「昨日、霊夢は私に言ったよな?無理をするなって…お前も無理するなよ」
私は抱きしめたまま目の前にある霊夢の瞳を覗き込んで呟いた。少しだが暗闇に目が慣れてきていて、彼女は気分が落ち着いたといって離れようとしていたが、不安が表情に色濃く出ていてほっとけなかったのだ。
「…ごめんなさい……魔理沙が言った通り、修業をしたり戦えば戦うほどに奴らがどれだけ強いのか、痛いほどにわかった」
霊夢がこれまでに弱音を吐くことなど一度としてなかった。それは私たちにとって厳しい状況だといえる。
「確かにな、奴らは強い。全快時の霊夢だって勝てるかわからないと思う…」
「…」
そこで言葉を切ると、霊夢はその続きを聞くために何も話さずにじっと私と目を合わせたまま待つ。
「でも、私たち二人なら…どうだ?」
私は何年も霊夢と一緒に戦ってきた。霊夢が次にする攻撃や軌道なんかは手に取るようにわかる。霊夢に隙があるのならばその隙を私が埋めてやればいい。彼女が倒れそうなら支えてやればいい。
一人ならば奴らに勝つことはできない。でも、二人なら奴らを上回ることができるだろう。
「…そうね……あなたとなら……勝てる…」
霊夢は優しく微笑むと、震えの止まっている手を背中から移動させ、両手で頬を両側から挟むように触れてくる。彼女の触れている指から心地よい熱を頬に感じる。
「ああ、奴らは私たちのように一緒に戦うことはしないはずだ。だから、それが弱点でもあるぜ…」
私がそう言うと、霊夢は少しの間をあけてから言った。
「…魔理沙、ありがとう」
表情から不安がほとんどなくなった霊夢が私に礼を告げてくる。そういうふうに目の前で向き合ったまま言われると何だか気恥ずかしい。
「た、大したことはしてないぜ」
言うと、私の上に覆いかぶさってた霊夢は首を少し下に下げた。
鼻先がくっ付いてしまうぐらい近くに顔立ちが整い、肌の白い霊夢の顔が近づいてきて、私の顔を覗き込んでくる。月明かりで照らされて少し緊張しているように見える。
「…正直、巫女として初めて仕事をした時から、私に幻想郷に住んでいる住人全員の命がかかっている、それが不安でどうしようもなかった。………。巫女がこんなこと言ったらダメなんでしょうけど、私は言ってしまえば小心者で、幻想郷全員の命を背負うなんて荷が重すぎてできない」
いつもそんな風に不安そうに戦っているようには見えなかったが、確かに、霊夢の実力次第で幻想郷の運命は左右される。だから、負けることは許されない。そういった不安が常に付きまとっていたのだろう。
「…だから、私はずっと、あなたを守る…それだけのために戦ってきた」
予想もしていなかった言葉の続きに、私は息をのんだ。彼女の真剣な顔に上段などではないということがうかがえた。
「…ずっと怖くて言えなかったけど……私は……魔理沙のことが………」
霊夢はそこで言葉を詰まらせる。緊張して次の言葉が出てこないのだ。私が彼女を抱きしめたまま体を捻ると霊夢はバランスを崩して倒れ込み、私がそのまま上に移った。さっきとは逆の位置関係になる。
「私は、ずっっっと前から、霊夢のことが大好きだったぜ」
霊夢に先に言われる前に、私は彼女に伝えたかった言葉を伝えた。
「…っ」
私が、さっきの霊夢と同じぐらい顔を近づけて告げると、霊夢は嬉しそうにも恥ずかしそうにも、表情を変える。頬を赤くしていることから恥ずかしさが勝っているのだろうか。
「………私も、ずっと…ずっと前から好きだった…」
彼女が少しだけ涙ぐむ、昔から好きだったというのは本当なのだろう。もし向こうにそんな気がなかったとしたら、関係が壊れてしまう。それを恐れて言い出すことができなかったのだ。
「…魔理沙」
「霊夢…」
お互いの気持ちを確かめ合うように、私は彼女の名前を呼び、霊夢は私の名前を呼んだ。抱きしめる彼女の体温が上がってきてるのが、密着している私の肌を通して感じた。しばらくそうして抱き合っていたが、上にいる私に霊夢は触れていた頬を離すと、彼女は首に腕を回して抱き寄せた。
もともと近かった私の唇と霊夢の唇がゆっくりと触れ合った。初めは驚いたがそれを受け入れ、私は彼女の頬に手を移動させた。
彼女の匂いや肌の感触、それらをもっと感じたい。そう思った私はもっと霊夢を引き寄せた。
五日から一週間後に次を投稿します。