それでもいいよ!
という方は第五十話をお楽しみください。
瓶の中には私が調合した粉末状の物質が入っていて、それらは空気に触れることで爆発的に酸素と反応する。
瓶の中身を真空にすることで気圧の差を持たせ、瓶の蓋が取れないようにするのと中身の物質が空気に触れないようにしていたが、そこにレーザーで穴を開けたことで瓶内部に空気が流れ込み、燃焼性の高い物質が初めに酸素との反応で炎を発生させ、他の物質に反応が飛び火していく。
瓶を撃ち抜いてから一呼吸の間をあけ、私が撃ったレーザーよりも強い光が瓶から発生し、短く粉末物質が燃焼する音がした後に鋭い爆発音がして瓶が砕け散る。離れているのに熱をわずかに感じる光がまき散らされる。
普段はあまり使わない閃光瓶を持ってきておいてよかった。酸素と反応するため常に周りを真空にするために瓶に入れているわけだがかさばって仕方がないのだ。
中にはマグネシウムなどが含まれていて、マグネシウムは燃やすと元から強い光量を出すが、魔力で強化されてたことでそれの数倍は光が強い。
手で目を覆ったぐらいでは少し足りない。腕を上げて顔の皮膚に密着させ、瓶から発せられる光から目を守る。
しかし、閃光瓶から出されるのは光だけでない。耳を塞いでいないため化学物質と火薬の発火により耳をつんざく爆発音が響き、周りの音が聞こえなくなって金属と金属をすり合わせたものに似た音が聞こえてくる。聴力は少しの間使いもになりそうにない。
そうだとしても、目さえ見えれば関係ない。異次元早苗は至近距離で閃光を食らってはいたが、手で目を覆っていて多少であるが威力が半減している。
光で目が見えなくなっている状態は持って十秒から二十秒といったところだろうか。閃光瓶の光が収まったことに目を覆っていた腕を下ろすと、燃焼の火花が消えて目がくらんで顔を押さえている異次元早苗が前方に見える。
奇跡を起こす程度の能力で私のレーザーなどに当たらないようにしているはずであり、それに当てるようにするにはとにかく詠唱した分の呪文をすべて消費させることだ。
それには一発の強力なレーザーを撃つのでは時間がかかりすぎて異次元早苗の目が見えるまでには足りない。魔力を三つに分割してそれを異次元早苗の方に走りつつ自分の周りに配置、そこからさらに三つにレーザーが3発ずつ異次元早苗に発射される。
奇跡を起こす程度の能力が私の攻撃のどこに作用しているかわからないが、当たる確率や消える確率を変動させているとしたら、一つのレーザーでは一つの確率しかない。複数回の攻撃を加えるのならばそれぞれの確立を変動させなければならず、単発よりも命中精度や威力は低いが詠唱した呪文を削るには効果的だ。
そう思っていたがどれだけ撃っても異次元早苗にレーザーはかすりもせずに魔力の塵となって消えていく。
もしかしたら、魔力などで形成されたものよりも剣などの物理的な物で攻撃する方が効率がいいということもあるかもしれない。魔力で作られたものは別の魔力を形成した物の内部に直接流し込まれると魔力の流れが乱れて消えてしまう。そういうふうに確実に存在しているといえない物では存在する確率を操作されて消されてしまうのだろう。そこで物理的な攻撃方法であれば確率の操作も難しいと思われ、こちらからすれば奴の呪文詠唱を削りやすくなり、多少危険ではあるが私はレーザーでの攻撃から直接拳を異次元早苗に叩き込む攻撃方法に作戦を移行する。
異次元早苗へと近づきながらレーザーを撃っていたため彼女までの距離はすでに五メートルを切っている。右手先に溜めていた魔力を腕だけでなく体全体にいきわたらせて強化に使い、左足で大きく踏み込んで殴りかかる。
霊夢や咲夜などのキレのある攻撃とは程遠いが、少しでも異次元早苗の呪文詠唱を削るためには目を瞑るしかない。
「くらぇっ!!」
こぶしを握り締め、異次元早苗の胸のど真ん中へと拳を叩き込んだ。
レーザーで異次元早苗の奇跡に使う呪文詠唱をだいぶ削り取ったと思っていたが、異次元早苗の手30センチで拳の速度が減速し、止まっているのと等しい速度となって異次元早苗に当たった。
「こいつ…どれだけ詠唱を溜めて…!」
手を引っ込めて異次元早苗から離れようとするが、手首へと伸ばしてきた手によってその動きが封じられてしまう。
「魔理沙さぁん。目で見えなかったり音が聞こえなくなっても、地面を走って来るわずかな振動でどれだけ近くにいて、どの程度の速度なのかわかるんですよ。残念でしたねぇぇ!!」
閃光瓶で周りの音が聞こえていなかった耳の聴覚が少しだけ戻ってきているらしく、そう叫んでいる異次元早苗の声がわずかに聞こえてきた。
私が見えていなかったのだろう異次元早苗の視覚が回復してきたらしく、さっきまでずれた位置を見ていた眼がこちらを正確に視認する。
「っ!!」
異次元早苗に向けてもう片方の手で拳を握り、全体重を乗せて振りぬくが焦りすぎたと自分の行動を後悔した。今は奴の手を無理やり振り払って距離を置くべきであったと。
減速した拳が異次元早苗に掴まれ、奴に引っ張られて引き寄せられたと思ったころにはすでに逆方向へと吹っ飛んでいた。
「あぐ…ぁ…っ…!!?」
体が衝撃でがくんと曲がり、腹部を蹴られたと辛うじて認識できたが痛みはまだ神経を伝わってきている途中らしく、痛みはまだ感じられない。
どんっ!
痛覚から伝わってくる痛みよりも先に体に伝わってきたのは型を地面にぶつけた衝撃で、舞い上がった土から独特な匂いが漂うのを感じる。
だが、それをいつまでも感じていられない私はバウンドして空中に体があるうちに上体を腹筋を使って無理やり起き上がらせ、蹴った体勢でいる異次元早苗へとレーザーをぶっ放した。
閃光瓶よりは弱い光がきらめき、レーザーが異次元早苗の顔面に向かって飛んでいくが、奴の頭に風穴を開けることはできない。
「ぐ…ぅ…!!」
遅れて腹部に神経を伝わってやってきた鈍く体の奥にまで響く痛みが地面に二度目に落ちたときに感じ、うめき声が自然と漏れた。
二度も地面に衝突したことで高く体がバウンドするほどの運動エネルギーが残っておらず、地面を転がってしまう。起き上がろうにも体がどっちを向いているのかもよくわからない状態で、ようやく把握ができて魔力で体を浮きあがらせようとしたが、十センチも体が浮き上がらない状態でうちに強い衝撃を食らった。
「あぐぅ…!?」
他の誰かからの攻撃かと思ったが違う。乾いた木材に私がぶつかったことで木が叩き折れた音がして、それによってわかった。
木材が折れる音と骨が折れる音は似ていないこともないため、骨が折れたのかと少し驚いたがそんなこともなく、腹がめちゃくちゃ痛い以外は特に問題はなさそうだ。
問題があるとしたら状況だ。今私がぶつかったのは民家の壁であり、村の端ではあるが村に到着したということとなる。
霊夢と合流できたことを喜ぶべきか、異次元早苗の出現。異次元霊夢と異次元咲夜以外に異次元早苗もいたことに焦ればいいのかよくわからないな。
壁に少しだけめり込んでいる体を抜け出させるために壁に手をつき、力任せに出ようとすると折れた木材のギザギザの断面に服の繊維がひっかがるが無視して抜け出した。
勢いをつけすぎて体が前に飛びだして四つん這いになってしまい、無防備な姿をいつまでも晒せずにすぐに立ち上がろうとするが、腹などへ度々の攻撃により足が少しだけふらついてしまう。
「……畜生…こんな時に…!」
後ろに少しだけ下がって壁に寄りかかり、小さく震えている足に魔力を送り込んで回復させ、震えを無理やり止めようとしていると私を蹴り飛ばした異次元早苗が目の前で立ち止まった。私が逃げ出そうとしたらいつでも対処できるようにお祓い棒を握りしめていたが、
「さて」
異次元早苗が小さくつぶやくと右手に持ったお祓い棒をしまうと、いきなり私までの距離を詰めて胸倉を掴む。
胸倉を掴まれた私が掴んだ手を離させようともがく前に、異次元早苗は握った拳で私の顔をぶん殴った。
「ぐうっ…!?」
向かってきた拳が頬にめり込み、その威力に顔が右側へと跳ね飛ばされる。口の中が殴られた影響で切れたらしく、うっすらと血の味がする。
異次元早苗の二回目のパンチはわき腹にめり込む、肋骨が変形してその内側にある肺を圧迫、空気が口から悲鳴として漏れ出した。
「があ…っ!?」
下から突き上げらえる衝撃に内臓を直接攻撃されているのかと錯覚するほどの痛みに、体が言うことを聞かない。
異次元早苗のいやらしく笑う顔が目の前にあり、その後方から勢いをつけてきた拳が眉間に叩き込まれ、顔が上に跳ね飛ばされた。
このままでは一方的にやられてしまう、殴られてクラクラしてきた頭をフルに回転させて拳を握り、異次元早苗へと殴りかかる。
異次元早苗も私が殴りかかる間に殴る準備ができていたが今回は私の方が速く、異次元早苗の拳は私よりも一歩遅れて突き出される。私の拳が減速し、遅れてきていたはずの異次元早苗の拳が初めに側頭部に直撃した。
「ぐあぁっ!!」
頭にダメージを負ったことで後ろにのけぞりかけるが、掴まれている胸倉を引き寄せられてもう一度殴られてしまう。異次元早苗が手を離したことで後ろに倒れかけるが、ギリギリで持ち直して何とか倒れずに済んだ。
唇の血管が切れ、そこから漏れてきた生暖かい血が空気に触れて少しずつ熱が奪われて冷えていき、それが私の唇の端からダラッとこぼれる。私の想像よりも唇の傷は深そうだ。
よろけた私が完全に立て直すよりもはるかに早くに異次元早苗が私に走り寄り、取り出したお祓い棒で殴りかかって来る。
「っ…!?」
明らかに遅いタイミングで防御の体勢に入ろうとした私の鼻のあたりにお祓い棒の先がめり込むはずだったが、腕を掲げて動かし、直後でその動きが停止しているのだ。
フェイントではない、この有利な状況でフェイントをかけるメリットなどは無い。理由は異次元早苗の後方ではためいている白と青の巫女服を着た女性、早苗がお祓い棒で殴りかかってきていたからだ。
「無駄なことを!」
そう言った異次元早苗の手前でお祓い棒が減速し、威力の無くなった状態で異次元早苗にポンっと触れる。奴は振り向いて口角を吊り上げて嗤った。
異次元早苗は私をさっきまでいた壁の方に突き飛ばし、後方にいた早苗のお祓い棒を持つ手を弾き飛ばして無防備となった彼女の胸倉を掴むと、私の方に向かって早苗を投擲してくる。
「うあっ!?」
数メートルという短い距離ということもあって、早苗も受け身を取ったり魔力操作で立て直す暇もなく私に正面から激突した。突き飛ばされていた私に自分と同じかそれ以上の重量があるものを受け止めることなどできず、後方の壁へと押し付けられた。
私がぶつかっていたことで耐久度が低下していたらしく、薄くはない壁をあっさりと突き破ってしまうと無人で妹紅の炎が燃え移り、壁や天井、一部の床などが燃えている家の中を転がる。なんとか燃えていない床の上で止まることはできたが、炎のむせ返る熱に私は顔をしかめた。
「ぐ…っ……う…っ……!!」
早苗がぶつかってきた衝撃で胸と背中を打ち、それがズキズキといつまでも尾を引いていたい。
上に覆いかぶさっていた早苗がすぐに立ち上がり、お祓い棒を握りしめて異次元早苗の方へと走り出そうとする。
自分にのしかかっていた物が無くなったことで、私も彼女に続いて胸を抑えたまま立ち上がり、異次元早苗に向かって行こうとする早苗に手を伸ばした。
「待てよ、早苗!」
立ち上がっている最中で体のバランスを崩しかけるが、早苗が私の手の届かない範囲へと言ってしまう前に、彼女の手を何とかつかむことができた。
「なんですか?…離してもらってもいいですか?」
口調はいつもの早苗だが怒りの込められた声と鋭い目つきに掴んだ手を緩めそうになるが、しっかりと掴み直す。
「奴に突っ込まない方がいいぜ。もう少し様子を見て遠距離で攻撃していった方が今のところは安全だ。奴の奇跡を起こす程度の能力が作用している間では、近接戦闘を挑んだところでダメージを与えることができないからな」
「わかっています。魔理沙さんは関係がないんですから引っ込んでいてください。あいつは私が殺します」
早苗は私が掴んでいた手を無理やり振り払おうと、腕に力を籠めるがその手を掴んだまま私は離さない。
「わかってない。お前が本当にわかっているなら、初手に近接戦闘なんて挑まないはずだ。確実に倒すのなら、遠回りでも安全な策をうつはずだからな」
早苗が異次元早苗の場所に現れたということは、奴を追ってきたか奴を見つけたから来たということだろう。時間の差からして奴を見つけたから来たはずだ。ということは近づいてきている間はずっと私と異次元早苗の戦いを見ているはずなのに、奴はわざわざ近接戦闘を仕掛けた。冷静ではないだろう。
「それに、こいつらは私のせいでこっちに来たんだ。関係がないわけではない。首は突っ込ませてもらうぜ」
私がそう言って早苗の掴んでいる手を離すと、彼女はそれについて反論しようと口を開くが、論争はここまでのようだ。
私たちが突っ込んできた壁にある穴から真っ白く、直径が20センチはある球体がこっちに向かって突っ込んできた。
「っ!」
早苗がお祓い棒を構えて異次元早苗のはなった弾幕の射線上に立って迎撃しようとするが、その前に割り込んだ私が弾幕に向かって手を伸ばし、手先に手中させた魔力を凝縮してレーザーに変換するのではなく、そのまま大量の魔力を瞬間的に放出する。
その直後、私の魔力に当てられた異次元早苗の弾幕が瞬き、四方八方に爆発の衝撃をまき散らす。早苗との会話で魔力をろくに集めていなかったこともあり、出力が低くて相殺することができない。
爆風が伸ばした手と全身を叩き、衝撃と爆風の強さは私と後方にいる早苗も含めて体を浮き上がらせるのには十分以上で、早苗を巻き込んで後方へと吹き飛ばされた。
多分五日から一週間後に次を投稿します。
進みが悪いですなぁ。と我ながら思う…今日この頃。