それでもいいよ!
という方は第五十四話をお楽しみください。
地面に陶器を叩きつけたことでそれを掴んでいた手が、割れた破片によって浅くではあるが切り付けられ、出血する。しかし、それが気にならないほどに私は緊張していた。
陶器が割れて異次元早苗に使っていた時と同様に中身の物質が酸素と触れ合うことで燃焼を開始し、火の粉と光、爆音をまき散らして爆発する。光によって視覚、音によって聴覚が障害されて、物を見たり聞き取ったりすることがまったくできなくなってしまう。だが、それと同時に私は起き上がって後ろへと走り出していた。目が見えないことで少しよろけるが、平衡感覚にはある程度は自信がある。
後ろにすぐに走り出していたことにより、咲夜と早苗のどちらの攻撃も受けることなく進めた。私が二人の目が見えなくなる前から焦って行動していれば、動きを予測されて攻撃を受けたはずだ。なびいた髪に彼女らの得物がかすめる感触が伝わってくる。
時間帯が夜ということもあって強い光を発する閃光瓶の効果はより長くなり、しばらくは2人が追いかけて来ることは無いだろう。
当たり前なことだが、目が見えていない状態から目が見え始めれば私の足跡を探して追跡を始めることだろう。普段から魔法の森は人が立ち寄ることはそうそうない、重なっているのなら難しいが、一つしかない私の足跡をたどるのはかなり楽だろう。
そうさせないためにも私は魔力で空を飛んで足音と足跡を残さないようにした。風などがあまりなく、静寂で静かな魔法の森では音というのは反響して意外といつまでも残る。森で長く生活しれいればそこからでも音源を特定することはできるだろう。だが、咲夜たちは魔法の森では生活はしていないが、あっさりとやりそうだし何よりも、奴らに追わせないためにもできることはやっておきたかった。
至近距離ということでかなり目がくらんでいたが、顔を背けていたことで光の影響が直視した咲夜たちと比べて少なく、空を飛んでいると視力が回復して目が見え始める。
しかし問題はまだまだある。
「げほっ…!?」
木の枝とはっぱをかき分けて空を飛んでいた私は、それらの上に出れたころに吐血で血を吐き出してしまい、下方に見える緑色の草に私の真っ赤な血が飛び散った。この出血、魔力でもそう簡単に止める子はできなさそうだ。これを止めるためには自宅にある回復薬が必要だ。
しかし、あまり時間がないがまっすぐ自宅に帰るのはとても危険だ。なぜなら手負いの人間が逃げる際に情報を全く残さないのは不可能だからだ。私が残している情報は、血だ。血という情報を残してしまっている。
今吐血してしまったものもそうだが、腹部から流れ出した血が足を伝って常に靴からしたたり落ちていて、葉っぱや地面に血痕を残してしまっている。あの二人ならばそれを絶対にこれを追ってくるはずだ。
それに、魔力で嗅覚を強化すれば犬並みとは言わないが、人間がかぎ分けられる範囲を大きく超える。血の跡が直接見えなかったとしてもそこから漂っている血の匂いを追えばいずれは私に追いつくだろう。
始めに時間稼ぎのために、家とは全く違う方向へと向きを変えて飛んだ。かなり大回りなルートとなるが、追ってくる2人の追撃をその分だけ撒ける確率が高まるだろう。
だが、余計に大回りしたとしても、血の跡を追えばすぐにではないが逃げ込んだ自宅につくことができるだろう。だから、私はこの先にある川に用がある。
百数十メートル先にある、木々の生えていない川が流れているのが見える草木の割れ目に到着すると、そこに流れている川に飛び込んだ。
思っていたよりも川の深さが深く、腰の高さ程度だと思っていた川に頭の頭頂部までどっぷりと浸かる。ただでさえ森の中を流れている川の水は冷たいというのに、それが夜で低くなった気温なども影響して水温はすごく冷たい。
水に浸かったことで体についている水を洗い流した。水が冷たいというのも私からしたら願ってもないほどに都合がいい。体の体温が下がれば血の循環も悪くなるし、血管が寒さで収縮して出血も最低限に抑えることができる。
水に浸かったまま川の流れに身を任せ、私は下流へと流される。川があったことによるもう一つの利点は上流か下流か、どちらに逃げたのかわからなくさせることができる。
地面や草木などとは違って水に血は溶け込んで無くなるため、川から上がる場所をずらしてやれば時間稼ぎになるはずだ。
川の流れに身を任せていたが、さすがにずっと息を止めていることもできず、水の中から顔を出すのは少々怖いが、水の中から頭を出して呼吸をしようとする。
だが、右手と腹部を貫いている銀ナイフの様子がおかしいことに気が付いた。この銀ナイフは本物ではなく、咲夜の魔力によって形成された物らしく、銀ナイフ内部に蓄えられていた魔力が底をつきたのだろう。形状を維持できずに少しずつ形が崩れていく。
「っ!?」
これはまずい。銀ナイフを腹に刺したままにしているのは、切断した血管などを抑えて出血を少なくしている。それが無くなってしまっては、ほんの数分で私は死ぬ。それは自宅まで行って治療するのには時間が足りなすぎる。
このまま咲夜の銀ナイフが消滅してしまえば、異次元霊夢たちと戦う前にくたばってしまう。それは困る。
私は右手の魔力を調節し、自分の魔力の波長を咲夜の魔力の波長へと切り替えた。それを銀ナイフに送り込み、形状の維持をさせた。
こういった作業は意外と繊細さを要求される。全く同じ形の人間がいないのと同じで、個人個人で魔力の波長というのは違う。
銀ナイフに含まれていた咲夜の魔力の波長に調節したと言ったが、それはあくまでも近づけただけであって完璧に魔力の波長を合わせたわけではない。それは私の魔力調節の上手さでどれだけ近づけるのかは変わってくるが、私が言いたいのは若干だが違う魔力を流され続ければ、元々の基礎とは違う魔力で満たされた銀ナイフはそのうち消滅してしまうということだ。
銀ナイフの形状を維持させるためだけの付け焼き刃だが、自宅に着くまでは形状の維持はできるだろう。
二分ほど川で流された後に、魔力で体を浮き上がらせて川から飛び出した。さっきとは違って木々の葉っぱの上を飛ぶのではなく、葉っぱの下を飛ぶ。
時間的にはすでに咲夜たちは視力と聴力が回復して、逃げていなくなっている私の追跡を開始していることだろう。私が木々の上を飛んでいたことはすでに知られているはずで、それを追ってきているのならば木々の上を彼女らは飛んできているはずだろう。だから、さっきと同じように木々の上を飛んでいれば遠くからでも私のことを確認できてしまう。それでは大回りで逃げている意味が無くなってしまうため、葉っぱの下を飛んでいる。単純な話だ。
私は今自分が通ってきた場所を振り返る。彼女たちはまだ来てはいない。わかっているはずなのだが振り返ってしまう。私が仕掛けたちゃちなフェイントなんて二人はかからないかもしれない。そう考えると振り返って、二人が追ってきていないかを確認せずにはいられなかった。
「くそ…」
怪我をしていない、いつも通りに振り返ろうとしてしまい、腹部の傷が痛む。ビリッと傷口に流れた痛みに腹を抱えて地面に落ちそうになってしまう。
めまいがして少しまずい状態だ。血が足りなくなってきている。バックの中に何かものなどがないか探すと、幽香と戦った際に霊夢を回復させるのに使った回復薬の残りが入っている小瓶が見つかった。残りは三分の一もないが今の私には何よりも欲しいものだ。
左手で小瓶の蓋を開け、右手で押さえている傷口に振りかけた。回復薬が傷口を再生させようと体に作用して、修復を促進させる。
「…ふぅ……これで、どれだけ持つかな…」
回復薬を振りかけると出血がものすごくというわけではないが、少し少なくなってきた。しかし、溢れてきている血によって回復薬が流されてしまい、これ以上の効果は望めなさそうだ。魔力で血の生産をできるだけ早めてはいるが、今の出血よりもその速度は遅く、まだまだ安心できる状況とは言えないだろう。
飛ぶスピードをできるだけ早くし、私は自宅へと向かう。
ここで、思うのは、普通なら咲夜たちと私は面識があるため、咲夜たちも私の家の場所を知っていて、大回りで逃げるとかそう言ったものは意味がないと思うだろうが、それは違う。
二人は博麗神社に行くことはあっても、私の家には来たことがないのだ。咲夜たちは意外と綺麗好きで、霊夢から私の家があまりきれいじゃないということを聞いて来たがらなかったのだ。
むこうには霊夢がいて、位置を二人に教えるだろうが咲夜と早苗が襲い掛かってきた際には近くに霊夢の姿は無かった。それに、もし私の見えない位置にいたとしても霊夢ならばすでに私に追いついているはずである。
でも、霊夢の姿はどこにもない。彼女は追ってきていないということになるだろう。それの何がいいのかというと、咲夜たちは始めは私のことを追うだろう。追跡できなくなるか私が大回りで帰っていることが分かった時点で、追跡を止めて霊夢から私の家の場所を聞いて直接そっちに向かうはずだ。
それをするのには探すのと霊夢がいる場所に行き、場所を聞いてそこに向かうという三拍子の時間がかかる。そうしているうちに私は自宅で治療を済ませて逃げさせてもらうとしよう。
後ろを振り向いた。二人または三人が追跡してきている気配はない。川を上がって進み始めてから数分が経過し、私は自宅の方向へと方向を転換した。
「…はぁ…はぁ…」
緊張で自然と呼吸が荒くなってくる。また振り返って今来た方向を見回す。真っ暗で鬱蒼と生い茂っている木々以外には人間などの生物の姿は無い。それに少しだけ安どして私はまた進みだす。
家まであと数百メートルとなったとき、私のすぐ横にある草むらがガサッと自然ではない生物が動かした音がする。
「っ!!?」
前方に進んでいた動きを止めて、ガサッと揺れた草むらに魔力を溜めた左手のひらを向けた。いつでも魔力を発射出できる状態であるが、片手しか使えないため不安しかない。
自宅まで追われないように回ってきたというのに、自宅で待ち伏せしているならわかるが回り込んでいる途中でこの場所を通ることを予測し、待ち伏せしていたのか到着したのかわからないが、そんなことが普通はできるだろうか。
勘のいい霊夢ならやってのけそうだが、予測はあくまでも事前の行動から次の行動を推測することであるため、事前の行動を見ていない霊夢には私がどこを通るのかわかるはずがない。
「…っ」
そうだと結論づけたとしても、もしかしたらという考えと最悪の事態が脳裏をよぎるが、緊張で震える手を押さえつけて音がした草むらの方へにじり寄る。
もし、本当に霊夢がきているのならば音を立てるなんてヘマはしないだろう。私を呼び寄せるための罠だとしたら、音が立てられた地点よりも周りを警戒するべきだろう。
だが、動いていた草から私がいる方向に、誰かが草むらをかき分けて近づいてくるのが見える。
十分に引き付けて、敵の姿をきちんと確認できてから撃とうとじっとしていると、私が撃とうと考えていた距離の内側に入ろうとした寸前にそいつはいきなり加速し、レーザーを放とうとしていたころには、向かってきていた人物に飛び付かれ、地面に押し倒されてしまった。
「うぐっ!?」
敵の全体重を乗せたタックルに、腹に銀ナイフが刺さっている状態では痛みで踏ん張れず、後ろによろけた拍子に木の根っこに足を躓いて背中から地面に倒れ込む。
「あう…っ!!」
倒れたときに無意識のうちにお腹に力を入れてしまっていたのか、痛みで悲鳴を上げてしまい、周りに生えている木々の影響で自分の声が反響する。
歯を食いしばって痛みに耐えているときに、倒れた私の胸の上に載っている人物が薄っすらと開けた目に映り込む。
暗くて詳しい表情はわからない。だが、そいつは歯をむき出しにして笑っていた。
次は一週間後くらいに投稿すると思います。