それでもいいよ!
という方は第五十八話をお楽しみください!
蹴り開けられたドアから外に出ると、暗くあまり光の入ってこない部屋でずっと倒れていたせいで明るさに目が慣れず、薄暗い魔法の森の中だというのにやたらと周りが明るく感じる。
床で寝ていたというか、気絶していたせいで布団などで寝たときと違って体がきちんと休まっておらず、体が重い。いざという時にきちんと力を出したいときに出せるか不安である。
近接戦闘などは基本的に魔力の出力に依存するが、もとからある筋力も関係がないわけではない。基礎ができていなければその分だけ火力は低下する。
今回に限ってはそう言った力が出ないとかの類ではないが、力を出したいときに反応が鈍くなり、瞬間的な火力が落ちてしまうことが私にとっては恐ろしい。まあ、しばらく活動していれば体の調子も元に戻って来るだろう。
短い時間ではあるが体の調子が戻るまでは戦闘は避けるべきだが、もうすでに体の感覚がいつもの感覚に戻ってきているため問題は無いはずだ。
そういえば、と先日ルーミアに食いちぎられた小指のことを思い出した。回復薬で傷を修復させて痛みが和らいでいたことや、霊夢たちが私の家についていなかったことなどが重なって忘れていたが、現在私の左手の小指は丸々なくなっている。正直、見てるだけでも気分が悪くなってきそうであるため、包帯か何かで見えないようにしておこう。
そう思って左手を眺めると、小指はきちんと手についている。
「あれ?」
右手だっただろうか。私の薄っすらとある記憶では左手だった気がしたが、気のせいだったか。
右手を見てみてもそこの一番端っこの小さい指はきちんと存在している。噛みつかれた跡なども一切残っていない。
「うん…?…あれ?」
前日は指がなかったように見えたが、今は生えている。極限での状態でありもしない幻覚だった?それにしてはだいぶリアルだったが、頭に血が回っていなくてボーっとしていて見間違えてしまったのだろう。指が無いのなら問題だが、あるなら別にいいや。
気を取り直して自宅から北に約一キロとちょっと、アリスの家はそこにひっそりと建っている。いつも通っている見慣れた道を通る。道といっても人が踏み入っていない森の中で獣道すらないため完全に記憶して通っているわけだ。しかし、一番の近道であるため、今までに何度も通ってきていたせいで木の細い枝などが折れてしまっていたりして、本当に注意深く見れば折れた形跡のある木の枝で道ができているようにも見える。
私を見つけようと目を血眼にして、草の根分けても探し出そうとしている咲夜たちはこれを見逃さないだろう。とゆうか、私が霊夢たち以外の誰かを頼るんだとしたらアリスだとすぐに察するはずだ。道を変えても意味は無いはずだ。
急ごうと飛ぶスピードを速めようとするが、不安が頭の中をよぎる。アリスまで霊夢たちと同じように私に攻撃を仕掛けてきたらどうしよう、と。
さっきは敵と味方の識別ができると思ったし、あまり飛ぶ速度の速くないアリスからならある程度攻撃されても逃げられる自信も攻撃に耐えられる自信もあった。だが、耐えられないのは私の精神の方かもしれない。霊夢、咲夜、早苗、それに次いでアリスも、となったら精神にだいぶ来る。
私は顔を左右に振って雑念を払った。まだ、そうと決まったわけではない。霊夢たちが誰にも相談せずに独断で行動している可能性だってある。今回の異変にはアリスは関与しておらず、関係がないため私を裏切るということを伝えていないかもしれない。
そうやってごちゃごちゃと考えを無駄に膨らませていたら、いつの間にかアリスの家が木々や草の合間から少しずつその輪郭が見えてくる。
「……」
心臓の拍動が速くなっていき、顔が緊張してわずかにこわばる。朝早くとは言えない時間帯であるため、おそらくアリスはいるだろう。
カーテンは閉め切られていて彼女がいるということを確認できない。物音も聞こえず、アリスの家も含めて周りがシンっと静まり返っている。眠っているのだろうか。
「……」
私の精神状態に影響されて心臓が高鳴る。それが私が思っているよりも早く、強く拍動しているため落ち着けない。地面に降りて入り口である木のドアに近づいて手の甲でノックする。
木の乾いたノックした音が扉からする。周りが静かなせいなのといつもよりも音に敏感になってしまっているせいもあるだろうが、嫌に木々の合間をノックした音が響き続けていく。
「…」
待ち伏せされているかもしれないということも考えて、私は森の中から誰かがこちらを見ていたり、飛びだして来ようとしていないか警戒を続ける。二分ほどアリスが出てくるのを待ってみるが、一向に彼女が出てくる気配がない。というか、家の中からは人の気配が感じられない。
試しにドアノブを捻って扉を手前に引いてみるが、鍵がかかっていて開かず、アリスは本当に出かけてしまっているようだ。会わなくてよかったような、よくなかったような、そんな微妙な気分になるが気持ちを入れ替える。
仕方がないが一度ここから離れるとしよう、一か所にとどまり続けるのは見つかる可能性が高くなって、それはあまり良くない。アリスの家の玄関から離れてあてもなく歩き出す。アリスだけとは限らないが何度もこの場所を通った足跡が木々の間を通って村の方へと続いている。
最近は雨も降っていないし、魔法の森だといっても夏で猛暑なのには変わりはなく、村などと同じように地面乾いて硬くなっていて足跡が付きにくい。
村の手前ぐらいまではこの足跡が重なってどれが私の足跡なのかわかりにくい道に沿って歩こう。あとはそこからどうするかだが、そこまで親しい人間や仲のいい妖怪、信用できる奴などもいないため、本当に宛がない。今はそれでもよかったかもしれないが、私も人間である以上は休息が必要で、それをする場所が要る。
「…」
魔法の森は一部の妖怪達などを除いて、立ち寄る者は片手で数えられるぐらいに少なく。身を隠しやすい。でも、魔法の森にいるというふうに自分の行動をパターン化してしまうと、探す方も魔法の森に慣れて見つかる可能性が高くなる。一度、魔法の森から出て別の場所に移動した方が、相手も私の動きを予測しずらくなるはずだ。
「…」
そうだとしても、今は慣れている魔法の森で行動した方がいいだろう。地の利があるのとないのとではだいぶ逃げやすさが違う。それに、他の森と違って木も多いし、場所によってその濃さは違うが、瘴気が常に漂っていて視界も悪い。敵から見つからないようにするのにはこの森はうってつけだ。
木の葉っぱが頭上を完璧に覆っていて、上から姿を見られて見つかるということはほとんどないだろう。しかし、だろうというだけで絶対とは言いえない。目がいい連中だって霊夢に手を貸すかもしれない。振り返り、見える範囲で辺りを見回してみるが、人影らしいものは無い。
遠くからだとしても、薄く立ち込めている霧のおかげで体の輪郭などがぼやけ、そこにいるのが誰なのかを特定するのには、ある程度の距離まで近づかなければならない。であるため、近づかれる前にこちらが離れて逃げればいいだけだが、足の速い奴だと追いつかれるかもしれない。それについてはどう対策するか。
霊夢たちのことを考えたくなく、夢中になって頭を働かせて歩いていたら、いつの間にか魔法の森の切れ目ぐらいにまで来てしまっていたらしく、いまだに各地域から黒い黒煙を上げている村が見える。
昨日というよりも今日であるが、失神する前に霊夢にぶっ飛ばされてきた方向とは違う地点から森の切れ目についたわけだが、もう少し違う方向へとしよう。
方向としては昨日自宅へと向かった方とは反対方向となる。その方向にあるのは私やアリスが住んでいる場所よりも森が深くなっていて、瘴気も濃い場所だ。
物などを拾いに行くときにはそこら辺に行くのだが、暗くて気味が悪いし凶暴な妖怪も多い。あそこには極力立ち入りたくないんだが、あそこほど身を隠すにはちょうどいい場所もないだろう。だからどうしたらいいか。
安全を考慮し、嫌な場所でも我慢して魔法の森の深部に向かうか、嫌な場所では精神が持たないと少し安全ではないがこの辺りをうろつくか、立ち止まって悩んでいると、村の方向から誰かが歩いてくるのが見えた。
先日にあった花の化け物との戦闘で発生し、まき散らされた大量の岩石がその人物を遮っていて、かなり近くまで接近されてしまった。
霧がかかっているとは言えこちらから見えているということは、あちらからも見えているということであり、あまり下手に動くと余計に目立ってしまうため、近くの木の後ろにゆっくりと移動して、森の方向に来ている人の様子を観察する。
歩き方やぼやっと見えるシュルエットからアリスではないことが何となくわかるが、咲夜や早苗、勿論であるが霊夢でもない。
隠れた場所で屈み、草木の間を移動して歩いてきている人物から見えないように、他の木の陰から眺めてみると、歩いてきている人物が近づいてきたことでよく見ることができた。
真っ白な白髪、緑色の上着に刀を腰のベルトから提げている。その彼女の周りをふわふわと飛んでいる綿菓子のようなものは霊魂だろう。
なんでこの場所に、と焦りかけるが妖夢はこの場所を通って白玉桜に帰るらしく、買い物帰りで食べ物が入っている袋を左手で持っている。
さっき岩陰から出てこられた時には見つかったかと思ったが、見つかってはいなかったみたいで、こっちには目もくれずに歩いてきている。そのまま私がいる位置を通り過ぎていってくれるかと期待ときに、彼女は丁度よく立ち止った。
「……」
一応は彼女から見えないように体を木の陰に隠して気配をできるだけ殺すが、静かな妖夢の木々で反響した声が耳に届く。
「さっきから隠れて見てきている人、何なんですか?」
霊夢が先日、文に幻想郷にいる住人全員が異次元の連中の標的である可能性があり、それを警告してもらっていた。そのことから、堂々と姿を見せずに眺めていたのを妖夢は感じ取り、自分が狙われているのかと余計に警戒しているのだ。
「すまないな、妖夢。私も敵が来たのかもしれないと思ってとっさに隠れちまってたんだ」
妖夢がこちらの正確な位置を見ていて、仕方なく私は木の陰から彼女から見える場所に出た。
「あなたは…」
妖夢が私のことを見た途端に目を見開く、別にそんなに驚くことでは無いはずだ。普通ならな。
私の予感は当たったようで、持っていた買い物袋をその場に落とすと彼女は素早い動きでダッシュし、腰に下げていた長い刀の楼観剣の鞘を左手で掴むと、右手で鮫肌模様の柄を掴み取り、抜刀。
ヒュッと空気が切り裂かれる音が聞こえてくる。刀を振る速度が速すぎたのといきなりのことで対応が間に合わず、刀を目視で捉えることはできなかったが、おおよその軌道は何となく予測できて後方に下がりつつ上体をのけ反らせると、鼻先を何かが通って行った風を感じる。
「っ!」
いきなりの酷いご挨拶に驚かされたが、彼女は剣士としては自分のことをまだまだ未熟者だと言っていた、そのおかげで助かった。妖夢が達人の域にまで達していたら、頭が地面に転がっていてもおかしくなかったかもしれない。
その証拠に私のすぐ近くに生えていた草や木が、妖夢の振った楼観剣の軌道を境にしてズレが生じ、重力方向へ落ちて行く。
木の幹を難なく両断するその刀の切れ味、恐ろしいものだがそれができるほどの太刀筋もすごいし、何よりも刀が触れていないはずなのに、地面に切れ目が付いている。
魔力が刀から放出しているため射程がわずかに伸びているわけだが、直接刀が当たっている場所よりは威力が低いとはいえ、それですら地面を十五センチ程度も抉っていて、当たり所によっては致命傷になりそうだ。
魔力で体を防御するとしてもそれなりに肉体にだってダメージは通るだろうし、刀の軌道とそれの延長には気を付けなければなければならない。
それと、間違っても勘違いしてはいけないのは、未熟者と言ってもそれは剣術を使っている奴の目線ではということに限る。
剣の訓練などもしたことのない私からしたら。正面から戦えばどちらの意味でも勝負にならないだろう。
五日から一週間後に次を投稿すると思います。早まることもあるかもしれません。そこは期待しないでください。