東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいよ!
という方は第六十話をお楽しみください。


東方繋華傷 第六十話 記憶の喪失

「……え…?」

 妖夢が言ったことに対して、それしか言えなかったというか、その言葉を喉から絞り出すのが今の私には精一杯だったといえる。

「質問の意味が分からないわけではないですよね?あなたは何者なんですか?どこで私の名前を知ったんですか?」

「…嘘………だろ……」

 今度は私が妖夢の質問に答えることができなかった。

 これが芝居でないことは、すでに分かっているし彼女とも知らない仲でもないのに、この言葉。

 彼女は、私のことを忘れている。

 それ以外考えられない。そうでなければこんな質問自体をしてくることは無いはずだからだ。

「とりあえず答えるとするならば、あなたが提案した案については断ります。…次は私の質問を答えてください」

 彼女へ返事を返そうとしていたがショックで口が動かないし、どう返事をしていいのかがわからない。

 それ以前に、すでに頭は妖夢への返事のためにではなく、別のことについて働いていた。

 霊夢や咲夜たちが私の家の位置がわかっているのに、朝までに家に到着できなかった理由は、見逃されたり泳がせておくためではない。単純に私のことを忘れ、家の位置がわからなかったため探し出すことができなかったのだ。

 私は対峙していた妖夢の返答をするよりも前に、彼女に背を向けて走り出す。頭の中が混乱していた。

 彼女が私が忘れているとわかっているはずなのに、忘れていない。と何の根拠もない希望を自分に言い聞かせ、何も考えずに博麗神社へと向かう。

「…ちょっ!?待て!!」

 いきなり踵を返して走り出した私に、びっくりしたような声を妖夢はあっけにとられていたが、すぐに走り出して私の後を追い始める。

 嘘、なんだよな?霊夢が忘れるなんて、嘘だよな?奴らに何かをネタに脅されて、私を裏切らないといけないんだよな?

 現実味のない甘い妄想を膨らませ、ありもしないことを現実に持ち込もうとしている。

 完全に現実逃避をしているが、それに気が付いていない私は、妖夢に返答をすることや彼女と戦うということが頭の中から無くなっていた。

 向かった後のことなど、後のことを何も考えずに博麗神社に向かって走り続けた。

「敵に背を向けるとは、切ってくれと言っているととってもいいということですね?」

 私の周りにあった木の幹が一斉に両断され、切られた部分から上部がふわりと浮き上がる。

 斬撃の飛んできた後方からの強い敵意を感じ、肩越しに振り返るとその両断された木々の間から、妖夢の姿が見えた。

「…!!」

 周りの木々と一緒にスペルカードをぶった切ったらしく、淡く光っていた長方形の物質が横に真っ二つになっていて、それが結晶の塵となって消え失せた。

 すると、妖夢の楼観剣をさっきと同じように高密度の魔力が覆っていく。

 いや、同じように見えるが、瞑想斬とは全く違うスペルカードだ。刀を覆っている魔力は必要最低限で、硬質化もあまいしさっきよりも細いし短い。

 その代わりに足などの身体に刀に使うはずだった魔力が使われ、身体能力が強化されている。

 妖夢が一歩踏み出すとその脚力に足周辺の地面が陥没し、割れる。

 そして、そこからさらに前へ足を突き出して大きく踏み込み、後方に土をまき散らして走り出す。

 早い。さっきのように切ることのみに特化させているわけでない。高速移動による攪乱や移動による運動エネルギーを利用し、相手のことを粉砕する一撃を与えるスペルカードだ。

 だが、異変に関与していなかった妖夢はあいつらの強さを知らず、霊夢のように作り変えてもいない。彼女の持っているスペルカードは所詮は倒すスペルカード、殺すものではない。

 そこが勝敗の分かれ目だろう。一刻も早く博麗神社へと向かいたくて気持ちに余裕のない私は、手加減なしで彼女を迎え撃つ。

「人符『現世斬』」

 妖夢の姿がブレて見えるほどの速度で突っ込んできて、私はそれをレーザーで迎え撃つ。しかし、彼女を直接狙って撃ったものではなく楼観剣の周りを覆っていた魔力を剥がす、と同時にレーザーに含まれている凝縮された光エネルギーによって、振る方向と反対の力が加わってほんのわずかにだが、刀を振る速度が遅くなっていく。そうして、妖夢の刀を握っている手を私は足で押さえつけてやった。

 楼観剣を振るという行為は腕の一部の筋肉を緊張させたり、弛緩させたりなどをして行うわけだが、心臓の拍動と同じで刀を振るために筋肉を緊張させる直前というのが一番筋肉が弛緩している状態である。そこを私が押さえつけたため、腕の筋肉を一気に使ったいつもの瞬発力で刀を振れず、彼女の動きが少しだけ止まる。

 妖々夢異変で食らったことのある技で、あの時と軌道がほぼ同じであったため、こんなことができたが、賭けに近かった。

「っ!?」

「妖夢、スペルカードを使ってたら、この先では生き残れないぜ。お前みたいに得物を直接敵に当てなきゃいけないようなやつは特にな」

 彼女の今回使ったスペルカードは刀の強化だけではなく、行動まで制御されている物だった。

 これは何度も言っているが、それは使えばいかなる状況でも設定したとおりに行動することがでいるという利点があり、ある一定の攻撃力や速度しか出せないという欠点もある。

 そしてその欠点以外に行動が制御されるタイプには、もう一つの欠点がある。

 スペルカードで設定しておいた設定上の行動と、現実での行動に違いがあるとスペルカードが上手く作動せず、崩壊するというものだ。

 今それを実践しているわけだが、スペルカードのプログラムと同じ動きを妖夢は予定していた。だがその通りに楼観剣を振り抜けず、体と予定に誤差が発生したことでスペルカードが崩壊した。

 スペルカードの崩壊と一緒に、プログラムの拘束がいきなり溶けた妖夢の体のバランスも崩れ、前のめりに倒れそうになる。

 その彼女の顔を直接手で触れ、魔力で変換された電気を流す。

 高い電圧で全身の筋肉が硬直し、振り払ったり離れることもできずに私の触っている手で全身を支えられていて倒れることもできない。

 妖夢が動けないでいるうちに周りの土や石に含まれている鉄に、魔力でコイルなどの性質を持たせ、彼女には流れないように辺り一帯に電流を流した。

 コイルの性質を持つ地中に存在している鉄に電流が流されたことで、それらはいわゆる電磁石として一時的に強力な磁力を発する。

 磁力が発生したということは、妖夢が持っている金属である楼観剣と腰に提げているもう一本の白楼剣が磁力によって地面へと引き寄せられた。

「うっ!?」

 魔力によって発生した強力な磁場は、持っていた刀と鞘に収まっていた刀を地面にめり込ませ、刀の切れ味が高いせいか地面に段々沈み込んで行く。

 そこで妖夢に流していた電気を止め、数分間電力を発し続けられるだけの魔力と地中の鉄にコイルの性質を持たせ続けられる魔力を彼女の周りに撒布し、磁力の働いているこの辺りから離れて博麗神社へと向かう。

「待て!」

 体に流れていた電気が止まったことで筋肉の硬直が収まり、話せるようになった妖夢がそう叫ぶが止まるはずもない。

 二つの刀が予想以上に重たいらしく、うずくまったまま動けない妖夢はこちらに手を伸ばそうとするが、すでに私は彼女の伸ばしている手が届かない位置を走っている。

 不規則にたくさんの木が生えている森の中ということで、すぐに妖夢の姿が木々で隠れて見えなくなる。ここから博麗神社までは少しかかるが目的地を目指して私は突っ走る。

 彼女に会う。それ以外のことは考えずに十数分間走り続けた私は、木々を避けて坂を駆け上がる。ここを抜ければもう博麗神社の庭につく。体力を温存することを考えずに全力で走っていたせいで息が切れて苦しい。

 普段から人が立ち入らないため木の枝が伸び放題で、顔や腕などの肌が露出しているところをひっかき、坂の中盤に差し掛かったころにはすでにすり傷だらけになっていた。しかし、霊夢に会いたい一心で動いている私はその程度では止まらない。

 坂を駆け上がり、草むらをかき分けてある程度は手入れが行き届いていて、草や木の生えていない庭に行きついた。

「はぁ…はぁ…!」

 博麗神社の庭に飛びだすとずっと全力で走っていたせいで足が疲れてもつれ、倒れそうになったが踏みとどまって神社の方を見上げた。

 前日の奴らとの戦いで負った擦り傷などがある場所に絆創膏や包帯を巻いた霊夢が、縁側に座って湯呑み椀でお茶を飲んで空を見上げていた。

 庭の端から飛び出したことで物音と動きで霊夢がすぐにこちらに気が付き、首を傾けて私を見ると、緩んでいる気を引き締めて戦闘態勢に入る。

「…あんたは…!」

 いきなりの私の出現に彼女は驚いているようにも見える。でも、すぐに湯呑み椀を床に置き、お祓い棒をどこからか取り出すと私の方に走ってきた。

 その彼女に、私は震える声で語りかける。

「……私のことを忘れたなんて……嘘だよな…?…私に言ってくれたあの言葉も、今までのことも忘れたなんて……嘘……だよな…?」

 彼女の記憶が消えていないという根拠は何一つなく、前日に攻撃を受けていることから消えていない可能性はゼロだろう。だが、私はありもしない望みにすがっていた。

「…?あんた、何言ってんの?誰と間違えているのか知らないけど、あんた誰?…あんたのことなんて知らないわよ」

「…………そん……な…」

 忘れられたというある意味は殴られるよりも、裏切られることよりも精神的に傷つく。

 彼女らのせいではないがその酷薄な行為に熱いものが込み上げてきて胸が一杯になる。

 胸が引き割かれるような痛み、攻撃を受けたわけではないのになぜだろうか、胸が痛い。胸を押さえてその痛みを和らげようとし、後ずさりをした私に彼女は容赦なく殴りかかって来る。

 動体視力を強化したままだったのだろうか、ゆっくりに見えなくもない霊夢のお祓い棒が顔面に叩き込まれ、今しがた出て来たばかりの森の中へはじき返された。

「………霊…………夢…!」

 私のかすれた声は木々の間で短い時間反響し、虚空に消えた。

 




五日から一週間後に次を投稿すると思います。

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