それでもいいよ!
という心の広い方は第六十一話をお楽しみください。
今回は短めです。
「うぐぁっ!?」
明るい博麗神社の庭と霊夢が見えていたはずなのに、お祓い棒の衝撃が伝わってきたと思ったころには、頭が後方に投げ出されて薄暗い森の中が目に入ってきていた。
その景色も後方に流れていき、進行方向上に成長して伸びてきている太い木の枝に私は背中を強打してしまう。
殴られて飛ばされたわけだが、三十メートルという長い距離を移動しているうちにその勢いが弱くなって止まれたとはいえ、全体重が背中にかかり肋骨が変形して肺の中に存在していた空気がすべて押し出され、呼吸ができなくなる。
「かぁ…っ」
私がぶつかったことで木の枝が湾曲し、弓と同じでその形が戻ろうとする力で地面に振り落とされた。
「げほっ…!ごほっ…!」
しかし、そんな痛みよりも込みあがってきている熱いものが影響しているのか涙腺から涙が分泌されていく。
それは器に並々に注がれた水があふれそうになっているのと同じで、瞳にたまっていた涙があふれ出しそうになる。
霊夢が次の攻撃を仕掛けてくる前に逃げないといけない。そう思っているのは脳の一部だけで、体を含めて脳の大部分がどうしようもない悲しみに支配されて気持ちに余裕がなく、体を丸めてうずくまった。
大したことはしていないかもしれない。でも、友人関係など今まで私が積み上げて来た物を、人生をすべて無かったことにされた。
人に忘れられることほど、悲しい物もないだろう。
こんなことをした異次元の奴らにこの行き場のない怒りをぶつけたい。しかし、やつらはあと二日程度の時間が経たなければ現れず、行き場のない怒りに蓋をして鎮めることができず、頭を爪を立てた指で掻き毟った。
「……っ…!!」
指先に髪の毛などの繊維状の物ではない水などと同じ水気を感じた。爪が皮膚を抉って出血させているのだ。
頭を抱えていた私の近くにいつの間にか霊夢が近づいてきていたらしく、視界の端に見慣れた靴が見えた。恐る恐る顔を上げて見ると、お祓い棒を握りしめてこちらに向けている彼女が私を鋭い目つきで見下ろしてきている。
「なあ、霊夢…お願いだから…冗談だって、言ってくれよ…!!」
彼女の方に無意識のうちに手を伸ばしていた。この行為や投げかけた言葉などが無駄だとわかっていたはずなのに、何の希望もないのに私は霊夢に縋った。
彼女へと伸ばしていた手をお祓い棒を使って軽く払いのけられた。それが当たった手の甲がヒリヒリと痛む。
こうなるとわかっていたはずなのに私は呆気にとられて後ろにのけ反り、尻餅をついてしまう。
「…だから、あんた何言ってんの?訳が分からないことを言わないでくれないかしら?私たちを騙すつもりなのかは知らないけど、もっとましな手を使うべきだったわね」
霊夢がお祓い棒を持っていない方の手で私の胸倉を掴んだ。すると持ち上げられてそのまま彼女の方に引き寄せられた。
彼女の綺麗に整っている顔は普段は見とれるほど綺麗なのに、怒っている表情のせいで余計に怖く感じる。
「っ…!」
胸倉を掴んでいる彼女の手を離させようともがくが、振り上げられたお祓い棒で殴られ、突き飛ばされてしまう。
顔に当てられたお祓い棒で頭が揺らされ、めまいが起こる。
地面に倒れ込み、軽く意識が混濁してきていて目を回していた私に、霊夢は歩み寄ると私にも聞こえるほどにお祓い棒を強く握りしめる。
「…あんたにはいろいろと聞きたいことがあるし、少しの間眠っててもらうわ」
霊夢が懐に手を伸ばそうとした時、わきの背の高い草むらから誰かがかき分けてくる音が聞こえ始めた。
音が大きくなり奥の草が揺れ始め、それが手前の草まで移動するとさっきまで交戦していた妖夢が、楼観剣を手にして現れる。
磁力から抜け出そうともがいた後なのか、ここまで走ってきたからなのかわからないが妖夢は額に汗を浮かべている。
「…あら、妖夢じゃない…方向的にこの子を追ってきたってことでいいのかしら?」
持っていたお祓い棒を少し下げて、楼観剣を手に持ったままこちらに歩み寄ってきた妖夢に霊夢は言った。
「ええ、買い物帰りの途中で偶然会いまして、捕まえろというように聞いていたのでとりあえず追ってきてみたのですが、無駄足だったかもしれませんね」
私がやられて地面に倒れている状況を見て、彼女は言った。
「…そんなの聞いてないけど…まあ、いいわ。…買い物の途中だったんでしょう?あとは私がやっておくわ」
霊夢がそう言うと、じゃあ、お願いしますと楼観剣についている私の血を振り払った妖夢は鞘に刀を収め、今来た道を戻り始める。
霊夢も私があまり抵抗しなかったことと妖夢が現れたことで、ほんの少しだけ彼女の気が緩んでいる今、このタイミングでしか逃げることはできないだろう。
しかし、私は何のために逃げるのだろうか。逃げられたとして、その先はどうすればいいのだろうか。誰のために戦えばいいのだろうか、守りたい人は私を忘れてしまっていて、彼女が攻撃を仕掛けてきていることから、私を敵だと認識してしまっている。
裏切られた時よりも忘れられた時の方が、言いくるめて仲間に慣れる可能性が高いかもしれない。だが、警戒している彼女たちを納得させられる情報も証拠も語彙力もない。
私は彼女たちと敵対したままになるしかないのだ。いや、そもそも敵対することになるのかもわからない。
このまま捕まり、情報を吐かせられたら咲夜と早苗に殺される可能性が高い。なぜなら異次元の連中の仲間だと思われている以上は、彼女達からしたら私はレミリア達を間接的とはいえ、殺していることになるからだ。殺されない方がおかしい。
それではだめだ。私が殺されれば異次元の奴らが黙っていないだろう。報復を受けた霊夢たちは残らず八つ裂きにされてしまう。
巻き込んでしまっていてもう遅いが、霊夢たちを死なせたくは無い。だから、ここで私は霊夢に掴まるわけにはいかないのだ。
私は霊夢たちと対立して戦っていくということを、もっといい方法がないかと思っている考えを押しのけて腹をくくった。一度対立したら、後戻りはできないからだ。
歩き出そうとした妖夢とそれを見送ろうと霊夢が視線を私から外したのとほぼ同時に、妖夢が向かおうとしていた方向とは反対の方向へ体を投げ出し、魔力で身体を強化して霊夢に掴まらないように全力で走った。
いきなりの行動に反応がわずかに遅れていたというのに、霊夢の振り回したお祓い棒は走り出した私に追いついてみせる。
さすがは霊夢だ、とっさなのにキレがあり重たい一撃。でも、その攻撃はいつもよりも少し緩慢に見えた気がする。両手を使ってお祓い棒を掴んで受け止めた。
「!?」
霊夢は驚いているのか目を見開いて私のことを見ているが、こんなことができた自分が一番驚いている。
攻撃が遅く感じたのは、彼女は前日の戦いのダメージがまだ体から抜けきっていないのだろう。
それが心配になるが、目先のことよりも後のことを優先し、私はお祓い棒を振り払って彼女の攻撃範囲から抜け出した。
妖夢が逃げた私を追おうと楼観剣を鞘から抜刀しているが、霊夢とは一緒に戦う機会が私よりも圧倒的に少ないせいでお互いの戦い方を知らず、霊夢が移動の障害となって動き出した私に対して大幅な遅れをとる。
その隙に移動方法を走りから飛行に変更し、追いつかれないためにさらに加速した。
そのころに妖夢が霊夢を迂回して走り出そうとしているが、それをさせないために近くの木に向かってエネルギー弾を放った。
木の幹にエネルギー弾が直撃すると、そこに含まれていた全運動エネルギーが木へ移り、その威力に半ばからへし折れて妖夢たちの方向へ吹き飛んでいく。
鞘から抜かれていた楼観剣を構えて霊夢の前に飛びだしていた妖夢は、刀の柄で魔力が込められたスペルカードを叩き割った。
私に対して始めに使ったものと同じスペルカードが起動し、回転して飛んでいっていた木を、硬質化した魔力に覆われている切ることに特化した楼観剣が綺麗に両断する。
左右に木が分かれて飛んでいき、攻撃をやり過ごして私を追い始めようとした頃には、すでに私は彼女たちから見える位置にはいない。
「…くそ…っ…!」
彼女たちに追いつかれないように加速して飛んでいた私は、無意識のうちに呟いていた。
五日から一週間後に次を投稿すると思います。
確認はしているのですが、誤字があったら申し訳ございません。