東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいよ!
という方は第六十二話をお楽しみください。


東方繋華傷 第六十二話 対立 ②

 真っ二つになった木が地面と他の木に衝突して粉々に砕けた音、それが辺りを未だに反響している。

 砕けて散らばった木片から、木の独特な香りが立ったまま武器を構えていた私の鼻につく。

「らしくないですね」

 敵と思われている人物を追うよりも先に、木をぶった切った妖夢は更に何かしらの追撃がきていないことを確認してから、私に言った。

「…そうね」

 それに対して私は一言だけ呟いた。

 前日での戦闘によって、接近戦があまり得意ではないとわかっている相手に攻撃を受け止められたのだ、接近戦に慣れている者からしたら私の攻撃がどれだけ遅く、悟られやすい軌道だったのかが想像できる。

 初めに庭の隅から出て来た時に殴ったが、その頃から体が鈍く感じる。

 先日の戦闘で怪我をしていたとはいえそこまで重症ではないし、ほぼ完治している体調に近く、調子も悪くなかったはずだ。

接近戦が苦手な相手だから、無意識のうちに手を抜いてしまっていたのだろうか。いくら接近戦が弱くても異次元の連中には変わりない、次からは慢心せずに行かなければならないな。

「それじゃあ、追いますか?」

 楼観剣を腰の鞘に戻し、素早く走れるように用意をした妖夢が言い、追跡を開始しようとするが、私は奴が消えた方向を見ながら彼女が走ろうとするのを止めに入った。

「…いや、追わなくてもいいわ。…追っても無駄よ。…今からじゃあ距離が開きすぎているし、振り切られるわ」

「どうしてですか?」

 異変にかかわっていなかった妖夢は、私たちが前日にも彼女に追跡を振り切られるということを知らないため、簡潔に説明した。

「なるほど、時間をかければ追いかけられるとは言え、あなたの追跡を逃げられるということは、相手は相当逃げるのが上手な相手ですね」

「…ええ、なんだか相手はこの森の地形をよく把握できてるようだし、あれを見て」

 私があの女性が走って行った方向に指をさして言う。妖夢は何があるのかと指をさした方向を眺めるが、特に何かを見つけることができず首をかしげている。

 私は妖夢に説明をするために仕方なくその方に歩き、魔法使いの恰好をした女性が弾幕に似たものを木に当てて吹き飛ばしていた場所を過ぎたあたりで立ち止まる。

「?…どうしました?何かあるんですか?」

 後ろをついてきていた妖夢はどうしたのかと追い越そうとするが、私が進行方向に手を突き出したことで彼女は止まった。

「…ここをよく見て」

 その場にしゃがみ、私は膝ぐらいの高さにあるものに指をさした。遠くからだと半透明でほとんど見えないが、近づけばある程度は視認できる。妖夢も気が付いたようだ。

 原理や魔力の構造は見ても私にはよくわからないが、魔力で作り出しているとしか言えない。

 アリスが人形などを操る際に使っている糸と形状が似てるようにも見えるため、同じ物だろうか。

 それが木の陰から木の陰へ道があるわけではないが、女性の通った場所を横切るように結んである。

「罠…ですよね?…どういったものかは全然わかりませんが」

 妖夢が木の陰を覗き込んで呟いた。

「…まあ、そうでしょうね…それで罠じゃなかったら逆に驚きよ」

 その魔力の帯なのか、糸に魔力を通したものなのかはわからないが、私もそれに触れないように身を乗り出して木の陰をみると、魔方陣が張られている。

 魔方陣には当然魔力が込められ淡く光り、それが起動しているということがわかる。魔方陣には持っている効果などが記されているらしいが、記号やよくわからない言葉などが使われていることが多く、これもそうだが、どういう効果を持っている魔法なのかがわからない。

 まあ、こういうのは触れないでおくのが一番だ。

「…追う気もないけど、また逃げられたわね…まあ、咲夜たちに報告を入れるぐらいはしておくとしましょうか…それより、あんたはいいの?」

「何がですか?」

 この魔方陣が囮で、遠距離から撃たれるということを危惧してか、楼観剣を構え直していたが危険がないと判断し、刀を鞘に納めている妖夢はそう聞き返してくる。

「…いや、あんたも聞いてるでしょ?異次元の連中のことを」

「ええ、一応は聞いていますが、それがどうしたんですか?」

「…異変に関与しようが関与しまいが狙われる可能性はあるけれど、あいつに手を出した時点で奴らに本格的に狙われると思うわ…それでも大丈夫なのかって聞いてるのよ」

 妖夢が楼観剣を収めたので、私も周りから見えない袖の中へお祓い棒をしまい込み、彼女にそれを聞いた。

「そういうことですか。それについては大丈夫です。幽々子様には了解をいただきましたし……それに、文さんから咲夜さんたちのことは聞きました。友人があんな目にあっているのに、見て見ぬふりはできなかったので、だいぶ遅れましたが私も異変解決を手伝わせてもらいます」

「…そう。助かるわ…でもスペルカードを作り替えた方がいいわ。今のスペルカードじゃあ太刀打ちできないから」

「わかっています。さっきの女性にも戦っている最中に言われましたから…白玉桜に帰ったら作り替える予定です」

 腰のベルトについている、小さな手のひらサイズの物しか入りそうにないポーチから妖夢はスペルカードをいくつか取り出すと、握りつぶした。

 魔力は込められておらず、握りつぶされても結晶化せずに紙はぐしゃりと折れ曲がり、小さくなる。

「…抜かりのないようにね」

 妖夢はうなづくと買い物袋を置いてきたままだということで、そこから分かれて私は神社へと帰った。

 紫に急ぎの用があるので早く現れてほしいが、こちらから呼んでも出て来やしないため、あいつから出てくるのを待つしかない。

「はぁっ…」

 まったく、別の世界の自分が攻めてくるなんて、面倒なことになったな。

 私はため息をついた。

 

 

 片手どころか両手でも数え切れない回数に達するほど、私は後ろを振り返る。様々な位置に魔力による罠を配置していたがそれのどれにも彼女らが当たった音はしない。

 この罠を上手いこと避けているのか、それとも追ってきてはいないのかそれはわからないが、十数個しかけたはずだがそれのどれにもあたっていないなんてことがあり得るだろうか。

 霊夢ならばそれをやりかねないが、それは私を知っている彼女なら、ということが前提である。

 私のことを忘れ、私の戦い方とその手口などをわかっていない。その状態であれば罠を警戒して追ってはこないだろう。

「…」

 昼なのに周りに生えている木々が濃すぎて、普段の日没に近い暗さになっている。黒い服を着ている私としては、それが保護色となり有り難いことだ。

 この辺りは魔法の森の中でも、特に木もそこらを漂っている自然に発生している魔力の霧も濃い。湿気も高く、地面をコケが覆っていて足跡があれば一目でわかる。

 ざっと見て幸いにもあるのはどれも裸足だったり、成人には程遠い小さな靴の跡しか見られない。妖怪か妖精しか訪れていない証拠だ。

 とある光の魔法を発動させた。組み込まれた術式の通りに目の前に、魔力のレンズが形成された。

 それは、目に入って来る普通なら見えない領域にある、特定の光線を可視化するための物だ。

 その光線というのは、熱を持っている物から発せられる赤外線だ。

 人間も体温があるため日陰で肌寒い魔法の森の中なら、赤外線で見える生物の体温はとても見やすいことだろう。

「…」

 赤外線をレンズを通すと、視界の中にある木々や地面が温度の低い青色に染まる。自分の手のひらを見下ろして見ると、手の輪郭に沿って指先まで体温があるという赤色に染まっている。

 そのまま森の中を見回してみるが、自分の体以外に赤色かもしくはオレンジ色の物体は見られない。生物はいないということだ。

「…ふう」

 まだ完璧に安全だとは言い切れないが、地面に降りた私は魔法を解除し、息をついて近くの木にもたれかかって座り込む。

 神社につくまでに長いこと走っていて喉が渇いた。バックのボタンをはずし、中に手を伸ばそうとするがそもそも水筒自体を入れていないことを思い出した。

 食料のことばかり考えていて水を持ってくるのを忘れていた。喉を潤したいがここからでは近くに川はない。

 鞄の中に水分補給ができるものが入っていないか探してみるが、やはり武器や服などしか入っていない。

「忘れてたなぁ…水筒でもあったらなぁ……まあ、いいか」

 さっきの戦闘ではそこまで戦っていたわけではないけれど、肉体的にも精神的にも少しくたびれた。

 これからどうするか、あの霊夢たちの様子から私のことを覚えている奴は、この幻想郷にはいない。それはある意味では、殺されているのとそんなに変わらないだろう。

 孤独という悲しみが込み上げてくる思いを私は何とか飲み込んで、涙をこらえる。

 いつまでも悲しんではいれない。気を紛らわすために私は今後のことを考え始めた。

 異次元の奴らはあと二日間この世界には来ない予定で、私はこの二日間をどうにかして生き残らなければならないわけだ。

 休むこともままならず、それ以上は私が闘えるかわからないため、できるだけ短期決戦を挑みたい。

 二日後を逃せば霊夢たちからの闘争と異次元霊夢たちとの戦闘によって疲労がピークに達し、集中力と判断力を欠いてやられてしまうことだろう。

 そうしないためにも、私はできるだけ霊夢たちと戦闘はしないで逃げなければならないわけだ。

 そこまで考えて、私は深くため息をついた。やらなければならないことが多いし、私のとった行動次第で自分の首を絞めることになりかねない。今更だが、これからは慎重に行動しなければならない。

 霊夢と妖夢に会ってしまったが追ってきているわけではないし、咲夜たちに私がいたということを伝えるにも時間がかかる。少しだけここで休みたい。

 だが、もしかしたらという心配が頭をよぎり、ちょっとでも隠れられる場所を探すことにした。

 どこかに捨てられた小屋なんかがあればそこでじっとしているのだが、魔法の森は地中に魔力が集まりやすく、それが地上に噴き出した霧が濃く漂っている。こんな場所に木造で作られた小屋があれば、それに当てられて手入れをしなければ数か月と持たずに腐ってしまう。

 であるため、魔法の森の深部には木造でも煉瓦でできた家も建っていない。

 体を魔力で浮き上がらせ、隠れることができそうな洞窟か、もしくは紛れ込むことができそうなぐらい葉っぱが茂っている木があればいいのだが、普段は光が入らないここら一帯は針葉樹林が広がっていて、身を隠すのにはあまり向かない。

 この辺りは滑らかな坂で洞窟がありそうな場所ではなさそうだし、木々もはっぱで隠れられそうなところはそれでもいくつか存在したが、私の体を支えられそうな枝が生えておらず断念した。

 隠れることができそうな場所を探し始めてから十数分が経過したころ、頬や肩がズキズキと痛みだしてくる。

 そう言えば、霊夢に殴られた頬や妖夢の楼観剣に切られていたということを思い出した。

 本来なら痛みを感じ続けているはずなのだが、妖夢および霊夢との交戦で精神が興奮状態となり、アドレナリンが分泌されてそれの作用で痛みが軽減されていたのだろう。

 興奮気味だった精神が落ち着きを取り戻してきてアドレナリンの分泌が収まり、頬はともかく肩が痛すぎる。

 それでも肩の傷は深く見えるが、出血はもうほとんど止まっている。意外にも血管には楼観剣の刃は到達していないらしい。

 緊急で治療を施さなければ死んでしまうほどの大怪我ではないため、手当は後回しでもよさそうだ。

 そう思って周りを見回してみると、さっきまでは見えなかった位置に生えている木が目に入る。

 おそらくその木はもともと地面の出っ張りがある場所に根を下ろして、成長していたのだろう。

 しかし、雨などの影響で土だけが水によって流されたのか、垂れ下がっている根っこの内側には空洞がある。

 太い根っこの間から中を見てみると細かい根が思ったよりも多く垂れ下がっているが、人一人ならば余裕で中に入ることができそうだ。

 でも、その細かい根っこが垂れ下がっている様子が、以前に戦った花の化け物に飲み込まれた際に見た胃の中を思い出して入りたくなくなってしまう。

 でも、ようやく見つけられた隠れられそうな場所であるため、我慢して四つん這いで木の下にある空洞に潜り込んだ。

 私が入ってきた方向と反対側は根っこの本数が多く、土を流れさせなかったのか穴は開いておらずそちら側から襲われる心配はなさそうだ。

 湿った土壁に座って寄りかかり、バックの中から原液の回復薬が入った瓶を引っ張り出した。

 魔女の服を上半身だけ脱ぐと、服に少しだけ隠れていた肩に付けられた切り傷が生々しくしっかりと見える。

「さてと……やるか」

 瓶を密閉しているコルクを引き抜いた。

 




五日から一週間後に次を投稿すると思います。

進みが遅くて申し訳ございません!
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