東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいよ!
という方は第六十五話をお楽しみください。

追記
 今年はとても忙しくなるため、今までのように安定した周期で投稿することがでいないと思われます。
 申し訳ございませんが、四月からは不定期な投稿となります。


東方繋華傷 第六十五話 倒す目標

 泣きじゃくっている私に飛び付かれた紫は少し困惑しているようだったが、理由を察してなのか引き離したりすることもなく、高ぶっている感情が平常に戻るのを待ってくれた。

 それから十分ほどの時間が経過して、私はようやく落ち着きを取り戻した。頬を流れていく涙を手の甲でぬぐい取る。

「それで、紫はなんで私のことをまだ覚えているんだ?」

 ひゃっくりがまだ出てしまうが、私は紫から離れて身長差の関係から彼女を見上げながら言った。異次元霊夢の使用した記憶を消すスペルカードを打ち消す方法があるのだろうか。

「何があったのは霊夢たちの様子からおおよそ予想はつくけど、私は特に何かをしていたわけではないわ。この世界にいなかっただけよ」

「この世界にいなかった?奴らの世界に行ってたってことか?」

「いや、もっと単純にスキマの中の空間で仮眠を取っていたのだけれど、そこまでは影響は来ていないみたいね」

 わかっていてやっているわけではないとはいえ、運がいいな。あれはスキマの中にまで及ばないらしい。

「…そうか」

 私が呟いたとき、紫が続けていった。

「それについては別にどうでもいいわ」

 そこで紫は言葉を切り、小さくため息をついて黙った。

「?…ああ、紫が異変解決が無理だと判断した時点で向こうに送り込むって話か?…そう、だよな…約束だもんな」

 そう言えば忘れてしまっていた。霊夢が紫と交渉してくれていたおかげでこうして、私はここにいるわけだが、彼女はいないし覚えてもいない。

 協力している状況ならばまだ望みはあったかもしれないが、バラバラでしかも敵対しているときたもんだ。そんな状態では異変解決に向けて戦う以前の問題だろう。

 最終的には霊夢が負けるかもしれない。なら、その原因である私を向こうの世界に連れて行こうとするのは至極当然だ。

「向こうの世界に送った後は奴らはこっちに来ないだろうし、あとは私が頑張るよ」

 今更駄々をこねたところで紫の意思は変わらないだろうし、私は向こうの世界に行く覚悟を決めた。

 紫を見上げていると、彼女はまだ何か言いたげで、こちらを見下ろしている。

「どうした?」

「…。いや、何でもないわ」

 でも、紫は何でもないといっているが、それでも何か言いたげで、イラついているのが目つきで分かる。

「魔理沙、何か勝てる算段はあるのかしら?」

 私から視線を外した紫はこんなに暗いのに周りを見ているが、何か見えているのだろうか。

「さあ、どうだろうな…」

 向こうの世界に紫がスキマを繋げているのを待っていると、彼女は続けて言ってくる。

「そんな状況で生き残れるのかしら?」

「…」

 無言が彼女の質問を否定していると察したのか、紫は小さくため息をつくと私に視線を向ける。

「魔理沙、あなた…生きたくはないの?」

 彼女の無粋な質問に、私は声をあら上げて答えてしまっていた。

「生きたいに、決まっているだろ!!」

「なら、鏡で自分を見て見たら?誰だってそうは見えないっていうと思うけど?」

 彼女は小さくスキマを開くと、その中から今更ながら傘を取り出して雨よけに開いた。

「うるせぇよ、私がどうなろうが…お前が向こうに送り込んだ時点でもう関係ないだろうが!」

 向こうに送り込まれた私には逃げ場などは無く、勝機がほとんどない。それは実質的に私は殺されるために送り込まれるのだ。それを宣言していた本人に生きたくはないのかと無鉄砲に聞かれたため、そう紫に吐き捨てた。

 すると彼女は傘を持っている方とは逆の手をスキマの中へと突っ込んだ。目の前にスキマが現れて開いたスキマから紫の拳が出現し、殴られてしまう。

 不意打ちに戸惑い、焦るが尻餅をついて後ろに倒れ込んでしまう。紫の目的は私に追い打ちをかけたりすることではないため、私にさらに攻撃を加えてくることは無い。

「言い出したのは私だけど、訂正するわ…あんたを向こうに送り返したとしても状況は何も変わらないし、下手をすれば今以上にどうしようもなくなる可能性が高い。…だから、あなたを向こうに送りつけたりはしないわ」

「これ以上霊夢に迷惑をかけたくはないんだ。私を送り込めば奴らがこっちに来る意味がなくなるし、状況が悪くなることは無いじゃないか…だから、早くしてくれよ」

「魔理沙、今じゃなくて先を見なさいよ。確かにあんたを向こうに送り込めば奴らが来ることは無くなるわね。今は」

 紫の言わんとしていることがそこまで聞いてようやく分かった。私が殺されたとして、そこまでは霊夢には迷惑は掛からない。ということだ。

「…」

「あなたに目的があって奴らは現れた。話を聞くに復讐ではない。十年間ずっと追い続けたわけだから、そんな理由じゃあないはず。…例えばだけど、奴らが追っている理由が力を手にすることだとするわ。それを手に入れた向こうの世界の霊夢は、力を振るって幻想郷を支配したとする」

 紫は続けて言った。

「でも、支配したのはいいけど今度は力を持て余してしまい、力を使いたくて使いたくてたまらなくなってしまう。だから、次は他の世界に行って暴れることにする…その世界の一つに私たちが入らないとは限らないわ」

 確かに、力を手に入れた者はさらなる力を欲するか、その力に陶酔し溺れて振るい続けるか、自分と対等に戦えるものを探す。のどれかだろう。単純に力を振るいたいだけならばこの世界も例外ではないということだ。

「…でも、霊夢たちと対峙したまま奴らと戦いきれると思うか?私はそんなに器用なことはできん」

 乾いた土の上に尻餅をついていたおかげでお尻は雨水で濡れてはいない。立ち上がって痛む頬をさすりながら紫に聞いた。

「できないは通用しない。やらなきゃいけないのよ…あなただって守りたい人間はいるんでしょう?その人間を守りたいのならあなたが負けるわけにはいかないのよ。わかるわよね?」

「ああ…そうだな……でもどうすればいい?私には、どうにかして解決するだけの戦力がない」

 作戦はいくらでも立てられる。だが、人手が圧倒的に足りていないのだ。

「…幻想郷の存続がかかった案件だから私もいろいろと手伝えることは手伝いたいけど、あなたに味方をして霊夢たちとの関係をこじらせると後々面倒なことになるし、あなたと一緒に戦うことはできないわ」

 そりゃあそうだ。この世界では私は敵である。情報を回してくれるなどのわからないようにバックアップをするのならまだしも、こんなやつを助けたり擁護すれば紫だって敵なんじゃないかと疑われるだろう。疑われなくても信用できないとみなされるかもしれない。そうなると紫も動きようがないし、私にも情報が回ってこなくなってしまう。

 無理して手伝わせてもいいことは無い。戦力が足りていないのなら、アイデアで賄うしかないだろう。

「ああ、でも誰がどこで戦ってるとか…異次元の連中が現れたとかそう言った情報は教えてくれよ?」

「無論そのつもりよ、あなたに死なれたこっちが困るからね」

 さっき紫が言っていたこともそうだが、なぜ彼女は私にこだわるのだろうか。霊夢一人だけとは言わないが、聖や萃香たちの鬼や鴉天狗などと協力すれば十分に奴らと渡り合えると思うのだが。

「……。なあ、なんでそんなに私に拘るんだ?事件の発端を知りたいだとか、負担の解消なんかがあると思うが…、私には奴らを倒せるだけの力なんかない。…どうしてなんだ?」

 私が聞くと、紫はわざわざ息を吸い込んでから大きなため息をついた。

「はあぁぁ、あなたは自分の重要性をもう少し自覚したらどうかしら?」

 そんなことを言われても困る。思い出せやしないが、昔からなぜ追われているのかがわからない。そのような価値が自分にあるとは思えない。

「普通の日常や異変での戦い。霊夢とあなたはずっとそばにいて、それが普通になっていた」

 それがどういうことだろうか。

「いい?この十年で霊夢はあなたなしでの戦いはできなくなっているわ。…いや厳密にいうなら二人で戦った方が強く戦えるってところかしら。それが基本となったことで、霊夢の中で一人で戦うということ自体が非効率的となってしまった」

 そんなことがあるのだろうか。だって霊夢は一人で戦うこともあるし、私が必要ないぐらい彼女は強い。そう考えていると、紫はさらに言った。

「こう言った方がわかりやすいかしら、霊夢はこの十年であなたと二人で戦うということが身に沁みついていて、無意識にやっていることなのよ?そのまま戦えばどうなるかわかるわよね?」

「ああ、私と共闘している戦い方が身に沁みついていて、無意識のうちにやっているのなら、一人での戦いでも私と一緒に戦っていた時と同じように戦うはずだ」

 天才の霊夢がいくら強くても、癖を治すのは難しいだろう。それに同じ程度かそれ以上の技量を持つものが相手なら、私が補っていた隙を見逃すはずがない。

「その通り、でももし一人で戦うことを思い出したとしても、刀が砥がないとすぐに錆びてしまうのと同じで、霊夢の一人で戦うという技量や感覚はすでに鈍りに鈍って腐りきっているわ。だから、あなたが必要ってわけ」

「それは私にも言えたことだがな…」

 紫の言っていることは正しい。例え長年の月日をかけて磨き上げて来た戦闘能力だって使わなければ衰退していくからな。

「まあ、そういうことで私がこっちに残らないといけないのはわかったが、私が残ったとして、霊夢と手を組めなきゃ状況は変わらなくないか?」

 いくら紫が霊夢が一人で戦うことができなくなったと言ったところで、彼女はそれに気づいていない。

 紫が私を必要としたところで、手を組めなければただの理想に過ぎない。

「それについてだけど、霊夢たちがあなたを忘れた状況を教えてくれないかしら?」

 紫はその場にいなかったため、詳しい状況を教えればなにかの糸口を掴むことができるかもしれない。

「わかった」

 私は前日の夜の状況を事細かく紫に説明した。弾幕に紛れ込ませて記憶を消去するスペルカードを使ったと。

「記憶の消去は一瞬で、数秒後に霊夢たちに攻撃を受けたと」

 傘をクルクルと回している紫は、それを聞くと少し嬉しそうに口元を緩める。

「何か思いついたのか?」

「ええ、霊夢たちの記憶は戻るかもしれないわね」

 記憶に作用する魔法は存在し、やろうと思えば私のことだけを忘れさせたりなどの記憶の消去は可能だ。

 魔力で無理やり変えているため、精神崩壊などを起こす可能性も高い。しかも、消去された記憶は治らない不可逆的ななのにどうして記憶は戻ると言い切れるのだろうか。

 記憶関係の魔法は、弾幕はパワーという私のポリシーに反するし、消去には時間がかかるため実用的ではないので、あまり研究していない。

 あまり詳しくは知らないし、紫に聞――。

 ん?時間がかかる?

「魔理沙、記憶系の魔法は少しはかじったことぐらいはあるでしょう?その手順を良く思い出して見なさいよ」

「手順…。もし、記憶の消去をしたい人間から特定の人物の記憶を消したい場合は、相手に触れて魔力を脳の記憶をつかさどる部分に直接送り込み、一つ一つ地道に記憶を消す」

 確か、こんな手順だった気がする。

「そう、ならあなたが言った霊夢たちの記憶が消去された時と比較してみて…ここまでいえばわかるんじゃない?」

 照らし合わせてみると違いは明白だ。時間がかかっていないし、霊夢たちに直接異次元霊夢が触れているわけでもない。

 でも、それがどう霊夢たちの記憶を取り戻せるのかに繋がるのかがわからない。

 うーん。と唸って考え込んでいると、しばらくして紫が私にもう少し簡単に、柔軟に考えて見ろと言った。

「そうは言ってもなぁ…」

「……じゃあ、直接触れずに記憶を消せたのはなんでだと思う?」

 異次元霊夢がスペルカードを使用した時、衝撃のない衝撃波が発生した。それに含まれている魔力が霊夢たちに作用したと考えるのが妥当だろう。

 次に、時間が短かったのはなぜかということを考えてみた。

 記憶の消去にはかなりの時間がかかる。存在していた物をなくし、それによってできる違和感の修正も行わなければならないからだ。それらは完全に慣れになるが、複数人をほぼ同時にやるのは不可能だと言い切れる。

 あって間もない人間から私の存在を記憶から消すのとは訳が違う。十年という長い年月、霊夢とは過ごしていたのだ。それをすべて消すとなると数日から数週間はかかる作業だ。それが短くなるとしたら作業が荒い証拠で、精神崩壊を起こしやすくもなる。

 だが、精神崩壊した奴が霊夢たちの中にはいなさそうで、そこがわからない。いくら技術が進んでいたとしても、あの速度で記憶を消去するのは絶対に無理だ。

 それなら、記憶は消されていないということだろうか。あれだけの速度で私のことを違う誰かに置き換えるという記憶の書き換えも無理だ。であるならば、私のいる部分にだけ記憶の消去ではなく思い出せない改ざんを行っているということになる。

 私だけに蓋をして、思い出せないようにする。これだけならば消去の何千倍もの改ざんスピードを得られる。

「消したんじゃなくて、ただ、思い出せないようにしただけってことか…」

「おそらくね、単純に蓋をしているだけって感じね。……そこであなたに問題よ、魔術師の魔力で作られた破れない檻にあなたの仲間が捕まったとするわ。助けるにはどうすればいいかしら?」

 そんなの簡単だ。

「魔法を使った相手、魔術師を戦闘不能に陥らせれば檻は消えてなくなる」

 全く、紫は相変わらず大事な部分で回りくどい奴だ。簡単な話、異次元霊夢を戦闘不能に陥らせることができれば、霊夢たちの改ざんされた記憶は元に戻るということだ。

「ご名答」

 霊夢たちの記憶を戻すことができるかもしれない。しかし、異次元霊夢を倒すことは難しい。

 それでも、勝つための糸くずの端を掴んだのだ。あとは私次第だ。

「やるぞって顔ね」

 紫は口の端を少しだけ上げ、言った。

「ああ……。なあ、紫」

「何?」

「危険ではあるが、向こうの世界にスキマを繋いで奴らの邪魔をしてやることはできないか?鬼とか、そういう奴らも参戦して来てもっと面倒なことになるが、あいつら同士が争ってくれれば私たちの負担も分散する」

 私がそう提案してみるが、これ以上不安要素をこの世界に持ち込みたくないのだろう。危険すぎるリスクに紫は首を横に振る。当たり前か。

「危険なリスクは犯したくはないっていうのが本音だし、私たちは奴らの空間をまだ把握できてないから、無理よ…もしやるとしたら最終手段ね」

 まあ、そうなるか異次元霊夢たちと話し合いで解決ができていない時点で、他の連中もそういう奴らが多いだろう。そんなのまでがこっちに入ってきたらこの幻想郷はめちゃめちゃになってしまう。

「もうとっくに特定してるもんだと思ってたぜ」

 やはり物事はうまく進むものではないな。

「私の不在中だったから藍に任せてたけど、あの子が追跡してる途中で撒かれたらしくてね」

 まあ、一直線で帰るほど奴らもバカではないということだ。

「わかった、とりあえず次の奴らの襲撃まで私は身を隠すことにするぜ。現れたら教えてくれ」

「勿論、そのつも――」

 紫がなぜか言葉を途中で切り、私には見えないが別の方向を凝視している。

「紫?」

「長話しすぎたようね。魔理沙、ついてきなさい」

 紫が自分の足元にスキマを開くと、地面という体を支えるものが無くなったことで重力に従って身体が落下して、彼女はスキマの中へ落ちて行く。

「へ?」

 ついて来いと言っていたし、飛び込めばいいのだろう。だが、急でまだ状況に追いつけていなかった私は、遅れてスキマに飛び込もうとしたが紫は私が付いてきていることを急いでいて確認していなかったのか、飛び込む前にスキマが閉じてしまう。

 紫があんなに急いで逃げたということは、姿を見られたくはなかったということだろう。異次元の連中はここにはいないし、姿を見られたくはない相手など霊夢たち以外にはいないだろう。

 遠くの方向から私を見つけた誰かが走ってきている。その場から逃げるために走り出すが、足がもつれて転んでしまった。

 地面に手を突いたおかげで体はぶつけなかったというのに、不自然な痛みが太ももに走る。

 視線を向けてみるといつの間にか右足の太ももに銀ナイフが根元まで突き刺さっており、反対側まで貫通している。

「あぐっ…!!ああっ…!!」

 ビリビリと刃物を突き立てられた痛みが伝わって来きて、足がガクガクと痙攣して立つこともままならない。

 這いつくばってでも逃げようとしていると、咲夜がまた銀ナイフを投擲してきているのが視界の端で分かった。

 魔力で形成された銀ナイフだが、違和感を感じる。含まれている魔力の量が過剰すぎる。強度や切れ味を強化するとしても、それの何十倍もの魔力が加えられている。

 普通なら投げた直後が一番加速していて早いというのに、投擲後に銀ナイフが不自然な加速をする。私のいる方向に魔力を働かせているのだ。しかし、まだこれでも膨大な量の魔力の説明が付かない。

 だが、なんとなくわかってきた。単純に大量の魔力が含まれているだけではなく、それが細かく分割してあるのだ。

 これは私も時々使う手だ。魔力をいくつかに分割させたことで、威力は低いものの速射に優れさせたり、同時に複数のレーザーを発射して制圧などに使う。

 予想通り、咲夜の銀ナイフは一本が二本、二本が四本とその本数をネズミ算式に増やし私のいる場所に到達する頃には、その数は優に三十本を超えている。

 銀ナイフが刺さっていない方の足で踏ん張り、近くの木の陰へ飛び込んだ。紙一重で辺りに銀ナイフが突き刺さっていく。

 ギリギリ間に合ったかと思ったが、銀ナイフが腕を掠っていて血が滲んできている。これだけで済んだのならいい方か。

 光を調節する魔法を使い、自分の位置を変えようとすると、咲夜がいる方向とは別の方向から気配を感じた。視線を送ると目の前には五芒星の弾幕が迫っていて、とっさにガードするが、五芒星の弾幕に含まれている魔力は四散能力を持っており、着弾と同時に膨れ上がって爆発した。

 踏ん張れずに木の陰からはじき出された私に、咲夜が空中で掴みかかってきて、わき腹を蹴られた。体を小さく丸めた私の頭に今度は拳を叩き込み、吹き飛ばされてしまう。

 お腹と頬の痛みを歯をくいしばって耐え、右足の太ももに刺さっている銀ナイフを引き抜き、さらに追撃しようとしてきている咲夜に投擲した。

 受け身ではなく攻撃に手を回していたため、地面に着地できずに転がり落ちてしまったが、私から攻撃を受けたことで咲夜も追撃をあきらめたようだ。

「げほっ…!」

 お腹の鈍い痛みに、思わず体を丸めてしまいそうになるが、抑え込んでなんとか立ち上がった。

 早苗が私の後方に移動していて、咲夜はいつもと変わらない散歩しているような歩調で私に近づきつつある。完全に囲まれている。

 足を負傷している状態でこの二人から逃げられるだろうか。いや、逃げなければならない。手先に魔力を集中させ、走り出した咲夜に手のひらを向けた。

 

 

 抵抗はしたが結果的に言うなら、私は捕まった。

 二人はレミリアを殺した異次元咲夜と、諏訪湖たちを殺した異次元早苗について聞いて来た。何か弱点がないかということだろう。

 ここで知らなと言えば私は死ぬ。だが、知っている風を装えば死ぬまでの時間が延長され、その間に逃げることができるかもしれない。

 奴らと敵対しているのに、その奴らの仲間だというフリをしなければならないとは、しかも、それで生き残ろうとしているのだ。ひどい話だな。

 でも、霊夢を殺されたくはない。やりきるしかない。

「あなたたちの世界にいる私について聞きたいことがあります」

 ボロボロで身動き一つ取れない私に、咲夜は淡々と聞いてくる。

「………」

「知らないなら、あなたに生かす価値はありませんね」

 魔力で作り出した私の血が付いている銀ナイフを咲夜は握りしめた。痛みでそんな余裕はないが、なんとか口角を上にあげてひきつりながらも笑っているように彼女らに見せ、私は言った。

「私を殺せば、奴らについての情報を知ることがでいなくなるぜ?」

 そう呟いた私の手のひらに、銀ナイフが突き立てられた。貫通したらしく、地面に当たると金属音を発する。

「~~~っ!!?」

「なら、早く言ってくださいよ。聞き出すために私たちはあらゆる手段を使いますからね。あなたがそれなら言いたくはないというのなら、私たちは言うまでやりますから、…そこは覚悟してくださいね」

 早苗も咲夜のやり方に異論はないらしく、私にそう言った。

 なるほど、そういう路線で来たか。

「じゃあ、何でもいいので奴らについて話してください、癖や生活習慣、どういった性格なのかとかを」

 早苗が初めに投げかけてきた質問が既に私の知らない部分だ。どう答えるか迷っていると、左手に銀ナイフを作り出し、私の左肩に上から半分ほどまで突き刺した。

「あっ…がっ…!?」

「早く話してください。あなたも女性ですし、体に傷を作りたくはないでしょう?」

 やめる気は微塵もなさそうな咲夜が肩に突き刺した銀ナイフから手を離し、握りこぶしを握って言った。

「泣けるぜ」

 咲夜が握った拳を肩に突き刺した銀ナイフに叩きつけた。肩の骨と肉の中を刃物が切り進む痛みが走り、私は絶叫した。

 

 とても、長い一日になりそうだ。

 




一週間後ぐらいに次を投稿できたらいいなと思います。
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