東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

遅れましたが投稿します。

こんな調子でやっていきますが、それでもいいよ!
という方は第六十六話をお楽しみください。


東方繋華傷 第六十六話 違和感

 天気は天気もいいし、風通しも悪いわけではない。湿度もちょうどいいぐらいで過ごしやすいはずだが、空気が少し緊張していて少しいずらいような気がする。

 それもそうか、文々丸新聞を出版している射命丸文が、博麗霊夢の伝言で私たちも例外なく異次元から来ていると思われる連中に襲われる可能性があると聞いたあたりから、みんなピリピリしている。

 箒で玄関先に並んでいる石畳の上にある土を払いながら、私は小さくため息をついた。横を歩いて行くウサギたちの波長が少し乱れていて緊張しているのがわかる。

 例の連中が来る予定の日はまだ先ではあるが、攻撃側からしたら倒した奴を治されるというのが一番厄介で、消したい存在なはずだ。だから、永遠亭が一番襲われる可能性が高いと皆不安になっているのだ。

 不安じゃないわけではないが、行く当てもないし何よりも、私を受け入れてくれた師匠を裏切るようなことはしたくは無い。

 石畳はあと十メートルほど続いているが、早く終わらせて別の仕事に移ろう。地面を掃く速度を早くしていると、あまり強くは無いが風が吹いた。

 耳に付けているウサギの付け耳が、風に吹かれて取れそうになっているのが髪から伝わって来る振動でなんとなく感じ、私はそれを付け直すために手を伸ばした。

 どうやら固定が甘かったようだ。左側に固定していたウサギの付け耳を一度外し、私は再度髪の毛に金具で固定すると、今度はしっかりと髪に止められたようだ。

 試しに軽く引っ張ってみてもウサギの付け耳が髪から取れることは無い。生あくびを噛み殺して掃き掃除を再開して間もなく、一人の人間が近づいてきていることが分かった。

 人里からの患者かと思ったが、通院時間まではまだ時間がある。人里の人間ならわかっているはずだが、早めに来る人間もいるためそう言った人なのかと思い、顔を上げるとそれは違うとわかった。

 始めは波長だけを感じ取ったのだが見知った人間の波長で、よくよく視線を向けると予想通り知っている人間がいつの間にか石畳の上に立っている。

 予想した物とは違う彼女のその容姿に、私は息をのんだ。

「以前怪我をした時以来ですね、鈴仙」

 紅魔館のメイド長を務めている十六夜咲夜は全身が血まみれで、紅魔館のメイドに房渡しい色となっている。

「そ、それ……怪我をしたって…わけじゃあなさそうね…」

 普通に話をしたと思っていたが、声が上ずっている気がする。表情も患者さんに接するのと変わらないようにしたと思っていたが、若干だがひきつってしまった。

「はい。要件はこいつです」

 咲夜が持っていたのは人間で、咲夜と同様に全身が血まみれで一体化していて、いることに気が付かなかった。

 咲夜と違うところを上げるとするならば、返り血でまみれているのではなくそれは本人の血で、切り傷だらけというところだ。

 咲夜は抱えていたその女性をこちらに投げてよこした。さっきまで見えていなかった部分も真っ赤で、すでに虫の息といった状態だ。石畳の上に落ちた姿が糸の切れた操り人形と似ていて、気絶しているのがわかる。

 この扱い方、仲間というわけではなさそうだ。彼女をどうしろというのだろうか、まさか毒殺しろだなんて言い出すんじゃあないだろうな。

「彼女は向こう側の人間です。何かしらの情報を持っているようですので、それを聞き出すために治療をお願いします…これ以上やったら死んでしまいますので」

「う、うん…わかった…」

 さっきまでは感じなかったが、血の鉄臭い匂いが今はやたらと鼻について仕方がない。いや、それよりも血にまみれている咲夜と本人、加えてそれ以上の血が流れ出ている。危険な状態だ。

「咲夜、気を失ってからどのぐらい経った?」

「そうですね…運び出す直前ですから五分も経っていないです」

 向こうの世界の人間で、こちらに来ているということは魔力の扱える妖怪、または人間ということになるが、それにしても出血が多すぎる。

「わかった、あとはこっちで何とかしてみる」

 出血のし過ぎによる失神で気を失っている。ピクリとも動かないが、動かな過ぎて死んでいるのではないかと思えてくる。

 彼女に近づいてみると、離れていたら分かりにくいが、胸がわずかに上下に動いていて呼吸はまだしている。師匠ならまだ助けられるはずだ。

「よろしく頼みましたよ」

 怪我の様子を見ている私に咲夜はそう言うと、来た道を引き返して行こうとする。

「ちょっと、師匠にあんたたちの手伝いをするようには言われてるけど、向こうの世界の奴らなんて危険じゃない?」

 いくら手伝いをするといっても、戦うことが専門ではない。治療を終えたそばから襲いかかってくる可能性が高い。戦えたとしても、私たちは今まで戦う機会があまりなかったから、この一人にさえ全員がやられる可能性だって捨てきれない。受けるリスクが高いため、護衛の一つでもしてくれないと割に合わない。

「…それもそうですね。それならとりあえず、こいつが目を覚ますまではここにいるとしましょうか」

「まあ、そうしてくれると助かるけどね」

 首の後ろと足に手を回し、魔女の恰好をしている女性を抱え上げ、師匠の下へ運び始めた。

「それと、治療までは時間がかかるし、シャワー室でも使ったら?血なまぐさいわよ」

「はい、お言葉に甘えて使わせていただきます」

 私に続き、咲夜が永遠亭に入り、シャワー室へと向かって行く。

 私の方は診察室に向かい、鉄の扉を蹴って横にスライドさせて開き、デスクで師匠が座って何かの薬を作っているのか、作業をしている。

「師匠!緊急で重症患者さんです!治療をお願いします!」

「わかったわ」

 薬品が目に入らないようにするために付けていたゴーグルを外し、試薬の入っている褐色瓶の蓋を締め、立ち上がった。

 私は血まみれの女性をそのまま治療室へと連れていき、診察室の時と同様に鉄の扉を蹴り開け、外傷のある緊急重症患者に対して主に使われている治療台に寝かせた。玄関先でも思ったが荷物を持っているとは言え、結構軽い女性で助かった。

 肩に下げている鞄を外させ、治療台に備え付けられている裁ちバサミで上半身の服を切って魔女の服を脱がせた。

 傷の深さは私には判別できないが、切り傷の数は無数に存在している。二十から三十はありそうだ。瓶に入った重たい回復薬と輸血用の点滴をいくつか棚から取り出し、治療台の端に置いた。

 手を消毒した師匠が鉄の扉を押し開け、治療室の中へと入ってくる。

「鈴仙、怪我の様子は?」

「外傷は切り傷で、傷の深さはわかりません。ですがその数は多数存在しています。出血多量なので輸血のために血液型テストを行います」

 私も師匠に言いながら手の消毒を済ませた。

 魔力を扱う者ということと、咲夜の話では経過時間は約五分と言っていた。余分に時間がかかっていたとして、十分と見積もったとしてもまだ余裕は少しだけある。

 それに簡易的ながらも応急処置の跡がいくつか見られ、まだ体内には血は残っているはずだ。

 駆血帯と注射器を取り出し、彼女の左腕へ巻き付けた。外側の静脈を圧迫したことで血流が滞り、血管が膨らんで大きくなる。

 針を刺す位置にアルコールを含ませた脱脂綿で消毒を行い、乾いてから浅い角度で注射針を突き刺した。

 血管内に針が到達した段階で注射器を固定し、ピストンを手前に引いて注射器内を陰圧にして血液を吸い出した。

 それを試験管へと移し、遠心機にかけて血漿と血球に分けた。

 血球上と血漿中にある血液型を判別する物質は、血液型によって変わるため、それを調べられる試薬と試験管をいくつか用意し、血液型テストを開始した。

 試薬と血球、試薬と血漿を混ぜて遠心機にかけ、その凝集によって血液型を特定。その血液型の輸血パックで女性に輸血を開始した。

「鈴仙、止血用の脱脂綿を取ってくれない?」

 殺菌された脱脂綿を師匠にいくつか渡した。血が邪魔で回復薬が上手く作用していないのだろう。

「それで、この女性はどういう経緯で誰に連れてこられたの?」

 師匠が脱脂綿で血をふき取り、回復薬を適量かけて女性の肩にある傷周辺の細胞分裂を促進させ、傷が治っていっているのを見ながら言った。

「咲夜です」

「あー、てゆうと……こいつは…」

「はい、向こうの世界にいる奴ららしいです」

 敵ということに気が付くと師匠の手が少し止まるが、すぐに治療を再開した。小さくため息をつくと別の傷に回復薬を振りかける。

「鈴仙からはこの子はどう見える?」

「この女性ですか?…そうですね…。向こうの世界の住人というのを直で見たことがないのではっきりとはわかりませんが、さっき会った咲夜とか…博麗の巫女、私があった中でもかなり波長が穏やかだったので、本当に向こうの世界の人間なのかと疑いました」

 三百メートルも四百メートルも離れた位置から異次元の連中というのを見たこはあるが、ほぼ全員の波長が荒々しいものだった。だから、この女性が異次元の人間とは思えなかった。正直に言って私よりも、師匠よりも温厚だ。

「まあ、でも見た目は温厚そうに見えるけども、運転で正確が豹変するタイプの人間もいるし、そういう子かしらね?」

「いや、そういうタイプでもないんですよね。だから、違和感があるんです」

 私がそう言うと師匠が視線をこちらに向けてきて、なぜと呟いた。

「人を殺せるような奴らとつるんでいる人間の波長ではないです。だから、ただ利用されてるだけなのかなと思ったんですが…波長だけではわかりませんね」

「そうね、それにしても…この傷の量……大分時間がかかりそう」

 

 彼女の治療を終えるのに約二時間という長い時間を有した。その最中にも、その後にも全く目を覚ます様子は無く、既に一日が経過していた。

「…師匠が言うには、血を流しすぎたことによって体内が低酸素状態になり、脳がダメージを受けた可能性がある。だから目を覚まさない。…そうよ」

 師匠からそういうふうに説明しろということを言われていたため、それをそのまま腕を組んで治療をした女性を見下ろして聞いている咲夜に言った。

「そうですか…」

 納得がいっているのかいないのかわからないが、明らかに後者ではある。まあ、彼女がいくら女性が起きることを望んでいても、無理なものは無理だ。

「いくら咲夜が起きろと言っても、この人は起きないわよ。やりすぎたわね」

「そう…。ですね!」

 腕組をしていた咲夜は、ベットの上で寝ている治療されて包帯が巻かれている女性の腕に、いきなり銀ナイフを突き刺した。

「んな!?何してるの!?」

 咲夜のことを突き飛ばそうとするが、その手を振り払われてしまい。彼女のことを女性から引き離せない。

「いや、意識のないフリをしているのかと思っていたのですが…でも、本当に意識がないみたいですね」

 銀ナイフを刺した痛みによって起きているのかを判断したらしいが、彼女の顔の表情は一切変わっていない。であるため、意識がないことを意味している。意識があればどんな人間だろうと、何かしらのリアクションは起こすはずだ。

 魔力で作られていた銀ナイフであったらしく、咲夜が引き抜く前に魔力の結晶となって消えていく。あとには空洞が残り、傷口から血液が漏れ出している。

「だからって、こんなことをしなくてもいいじゃない!?」

「黙ってください。もし意識がないことが芝居なら、寝静まったころにやられる可能性がありますよ」

 確かにそれもそうだが、検査などでもっとやりようがあったのではないだろう。

「とりあえず起きることがないなら、私は帰らせていただきます」

「いや、まだ決まったわけじゃないわ。目を覚ますかどうか、意識がないのかを師匠が脳波を測定するそうよ」

 刺し傷を押さえ、近くにいたウサギに治療室から回復薬を持ってくるように言った。

「そうですか、ならよろしくお願いします」

 咲夜はそれだけ言うと近くに置いてあった丸椅子に座り、私の治療の様子を見ている。ウサギが持ってきた回復薬を傷に振りかけて止血し、包帯を巻き直した。

 そして、師匠の指示通りに持ってきておいた電極を女性の頭部に張り付け、いつでも脳波を読み取ることができるように準備を終えた。

 普通はテンカンと言われる疾患や脳死の判定などにも使え、単純に意識がないだけなのか、脳の一部がダメになっているのかがわかる。

 準備を終えてから十数分後、師匠が鉄の扉を開けて部屋に入ってきた。私は機械を作動させて、脳波がどういった波形になっているのかを記している紙を師匠に見せた。

「これは…脳死を起こしているわけじゃあないわね。波形は魔力による調節を受けていない滑らかな物、…あと、この波形は睡眠中の波形ね…寝ているようね」

「さっきナイフで切り付けてみたのですが、起きませんでした。それはなぜですか?」

 十六夜咲夜がそうたずねるが、現在進行形で測定して見えている波形を眺めている師匠はうーんと唸っている。

「原因不明。それしか言いようがないのよね。波形的には夢を見ているみたいだけど、その段階ならちょっとの刺激で起きるはずなのだけど、どういうことかしらね」

 師匠にわからないんだ。私や咲夜にわかるはずもない。やはり脳へのダメージで昏睡しているとしか言えない。

「…とりあえず聞きたいのですが、こいつは目を覚ますんですか?それともこのまま寝たきりになるのですか?」

「あまり詳しくないし何とも言えないわ。経過を見ていかないとわからないわ。これだけじゃあまだ判断のつけようがないもの」

 まあそうだ。過去とこの先の物を比較しなければわからない。

「っち…」

「っち。じゃあないでしょうが、咲夜がもう少し手加減していれば目を覚まさないなんてことにはならなかったんだから」

 やめなさいと師匠が私を制するが、納得がいかない。確かに治療は私たちの仕事だが、原因を作った人間に文句を言われる筋合いはない。

「とにかく、この女性が目を覚ますかどうかは、経過を見ていかないとわからないわ」

「そうですか、次の奇襲まであと一日を切っているので、奴らの性格や癖などを詳しく知りたかったのですが…」

 確かに戦ううえで敵の性格を知るのは重要だ。性格がわかれば戦いの手口がある程度は絞れる。そう言った細かいことも時には勝敗を左右することもある。

「十二時間後にもう一度測定してみるわ」

 カルテに結果を書き込んだ師匠はそれを小脇に抱え、仕方なく納得した様子の咲夜に伝えた。

「わかりました。それでは結果は後に伺います」

 小さく頷いた咲夜はそれだけを呟くと、ため息をつきつつも病室から出て行ってしまう。確実ではないのなら護衛はしないということだ。

「鈴仙…人里に薬を売りに行くことはしばらくはしなくてもいいわ」

「その間に、私は何をすればいいですか?」

 師匠が言いたいことは大方予想できるが、一応は人里に行くことの代わりにすることを聞いてみる。

「あなたが言うように穏やかな性格でも、この女性が危険な人物ではないとは限らないし、いつ攻撃を仕掛けてきても対応できるように見張っててほしいのだけど、いいかしら?」

「はい。わかりました」

 私は今までいろいろな人間もしくは妖怪の波長を見て来た。逮捕の際に抵抗した容疑者が怪我を負い、その治療で運ばれてきたことやサイコパスで長年周りを騙してきた多重人格の人間など、数は少ないが誰もが普通の人間とは違う波長をもっていた。

 だが、この女性はそれらのどれにも当てはまれない、私は彼女に少しだけ興味がわいた。

 師匠も咲夜に続いてこの部屋を出て行ってしまう。見張るために壁際にあった丸椅子に座ろうとしたが、女性が寝ているベットに隣接して設置されている机に彼女のバックが置かれている。

 誰もこのバックには触れてはいないため、中は弄られてはいないはずだ。人の物を勝手に見るのは少々気が引けるが、ボタンをはずして中を覗き込んだ。

 感想としては、綺麗好きといった風ではないように見えた。連れてこられた時と同じ魔女の服がいくつか畳まれた状態で入っているが、綺麗とは言えない畳まれ方だ。戦闘によって畳んだ服がよれてしまったのかと思ったが、それにしては綺麗すぎる。

 他には瓶が乱雑に大量に入っていて、振ってみると粉末状の物が入っているような音がしたり、液体の状のものが入っている音がする。

 女性が張り付けたらしいラベルを見てみるが、私には読めない字が書いてある。字が汚いとかではない。見たこともない文字で書いてあるため、なんて書いてあるのかがわからないのだ。

 この辺りはあまり触れない方がいいだろう。下手なことをしてドカンといっても困る。

 瓶を元の場所に戻し、他に物がないかを見てみると奥の方から小さい八卦炉が出て来た。普通はかなり大きいものだが、これは手のひらサイズにまで小型化されている。

 これは確か仙丹と呼ばれるよくわからない物を練る時に使われると聞いたことがあるが、それを扱うのは神だけだ。彼女が神かと言われたら波長的には全く違う。

 神にもよるが人間とは違う波長をみんな持っている。しかし、この女性も人間にしては少し波長がずれている気がする。犯罪者たちとは違うズレだ。

 まあ、いいか。詳しいことは彼女に直接聞けばいいのだ。おそらくは話の通じる人間のはずだ。

 この小さい八卦炉には別の用途があるのだろう。鞄に戻して壁際の椅子に座り、女性が目を覚ますのを待った。

 




次は一週間後ぐらいに投稿できたらいいとな。と思います。

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