自由気ままに好き勝手にやっています。
それでもいいよ!
という方は第六十九話をお楽しみください。
結局、あの魔女から何も聞き出せないまま来てしまったな。と村の近くで奴らが来るのを待っていた紅魔館のメイド長こと十六夜咲夜は思った。
初めから期待はしていなかったからあまり残念ではないが、多少なりと奴らについてあまり知れなかったことは少し痛手だ。
まあ、奴らを殺せればそれでいいだろう。
それと、なぜ村の近くなのかというと、私たちの幻想郷では人里は結界内の中心部に近い場所に位置していて、どこから現れてもできるだけ早く迎えられるからだ。
本当の中心は博麗神社であるため、神社で待ち構えるのが一番いいのだが、霊夢の家に五十人前後の妖精メイドを連れて行くのはさすがに気が引ける。
それで仕方なく人里近くで待機しているわけだ。
持っている銀時計に目を落とすと前回の奴らの侵入から、正確に三日が経過した。来るのならばこれ以降だ。
気を引き締め直し、後ろで黙って異次元咲夜が来るのを待っている妖精メイドを見回した。
彼女らを守って戦う余裕は私にはなく、おそらく三分の一も生き残ることはできないだろうと言ったが、彼女らは言うことを聞かずについて来た。
いつもは不真面目だったり気ままな妖精メイドがこれほどまでにお嬢様に忠誠を誓っていたことに、お嬢様の偉大さがわかる。
太ももに巻かれているベルトに銀ナイフが取り付けられており、それに手を伸ばして触れた。形を魔力で読み取ってより正確に、より実物に近く生成できるようにイメージを作る。
そうしていると今までの穏やかな空気とは一変。奴らが侵入してきたらしく、空気が異質で緊張した物へと変わっていく。
「……。来たようですね、行きますよ」
私が後ろにいる妖精メイドたちにそう伝えると、彼女らは無言で頷いて走り出した私についてき始める。
入った林の中を抜けると、なだらかな丘に出た。木々もない広いこの場所は、奴らを迎え撃つにはちょうどいい場所だろう。
奴の魔力はどういう波長なのか前回と前々回の戦いで既にわかっている。だが、距離がありすぎるのと複数ある魔力に邪魔をされてバラバラに移動している連中の中で、どれが異次元咲夜なのかがわからないし、こっちに来てもらわないといい立地で戦えないため、奴をおびき寄せることにした。
魔力を電波のように飛ばした。奴も二度の戦闘で私の魔力は覚えていることだろう。他に目的がなければ、こうやって私の場所を教えてやれば来るはずだ。
目を閉じて奴らの魔力の波長を探っていると、いくつかは分散して各々どこかに向かって行くが、一つだけ動きを止めた。
そして、ゆっくりとこちらに向かい始める。こいつが異次元咲夜で間違いなさそうだ。
走っているのか飛んでいるのかわからないが、やたらとゆっくりと進んできていてじれったくなってきた頃、五キロ以上は離れていたはずなのに、いきなり一キロ以内に出現すると馬とは比較できないほどに高速で走ってきた。
そこで、私は違和感というよりも疑問を感じた。なぜわざわざ遠い場所に出てきて、目的の場所に直接現れないのかと。
でも、今はそれを考えている状況ではない。あとで霊夢にでも考えてもらえばいい。疑問を脳の片隅に押しやり、戦闘に備える。
「十秒以内に来ます。散開してください」
奴の進んでいるスピードからそのぐらいの時間はあると判断し、周りに集まっていた妖精メイド達に言うと、いきなりのことで戸惑いながらも散開を始める。これで一度にまとめてやられるようなことはあまり無いはずだ。
荒々しい魔力で大まかな異次元咲夜の位置を把握しているため、魔力で複製した大量の銀ナイフを木々で姿は見えないが奴のいる方向へと飛ばした。
木々の間を飛んでいく銀ナイフが葉っぱに隠れて見えなくなる。だが、耳を澄ませると銀ナイフを弾く金属音が反響して重なり合いながらも私の耳に届いた。
座標は間違ってはいないらしい。だが、葉っぱをかき分ける音がすると、異次元咲夜はジャンプしたらしい。月明かりの中で淡く光る銀ナイフを両手に持った奴の姿が木々の上に現れる。
「一斉射撃!」
私は大量の銀ナイフを生成したそばから異次元咲夜へと投擲していく。周りの妖精メイド達は合図よりも一テンポ遅れて弾幕を撃ち始めるが、普段戦闘をしていない彼女らの放つ弾幕は小さくて遅い。威力もあまりない弾幕の八割が異次元咲夜に当たることもなく飛んでいき、消えていく。
ジャンプで最高高度に達していた奴は、私が放った銀ナイフを叩き割りながら降下を開始し、並行してわずかなスキを利用してこちらに銀ナイフを投げつけて来た。
「がっ!?」
「あうっ!?」
近くにいた二人の妖精メイドが投げつけられた銀ナイフを眼球と首に受け、小さな悲鳴を上げて片方は苦しむことなく絶命する。もう片方の妖精メイドは、切断された動脈から血を吹き出して倒れ込んだ。
あちこちから悲鳴が聞こえるが、それに構っている暇はない。やり返されないように続けて周りに生成しておいた銀ナイフを魔力で空中にキープし、それらを掴み取って銀ナイフを異次元咲夜に向けて飛ばした。
だが、得物は私から離れた時点で時間の流れが変わり、時の流れを早くしている私たちからしたらわずかに遅いため当たらない。
私が投げた銀ナイフをすべて叩き落とすか、避けた異次元咲夜が銀ナイフを飛ばしてきた。それを顔を横に傾けて避け、暗闇でも表情がわかるほどまでに接近してきている異次元咲夜に、追加で複製した銀ナイフを投擲する。
回転することなくまっすぐ飛んでいく銀ナイフを、奴は両手に持ったボロボロになった銀ナイフですべて砕くと地面にふわりと着地した。
ボロボロの銀ナイフを左右に投げると、その先にいた弾幕を撃とうとしていた妖精メイドの喉に後頭部から刃が突き出るほどに深く突き刺し、もう一方は妖精メイドが動いたことで狙いがそれたのか、首に刺さらずに掻き切った。
動脈をやられたらしい妖精メイドは首を押さえようとするが、切られた場所から心臓の拍動に合わせて血が噴き出していき、脳に血が回らなくなり白目をむいてその場に倒れ込んだ。
二人の妖精メイドは始めこそはぴくぴくと痙攣していたが、じきに動かなくなって行った。それよりもはるかに前に異次元咲夜が新たに銀ナイフを作り出し、私に切りかかってくる。
二度の切りあい。完全に受けきったと思っていたが、受けきれていなかったらしく腕や腹の辺りに浅い切り傷をつけられた。
「っち…」
そのまま後ろに通り過ぎていった異次元咲夜は、三人の妖精メイドの首を跳ねた。目にもとまらぬほど素早く、無駄のない動きだ。血管から大量の血液を吹き出した倒れ込んだ彼女らの間に立っている異次元咲夜は、髪の毛の先から足元まで血で体が真っ赤に染まっている。
「ふふっ…洗うのが大変そうですね」
口ではそう言っておきながら顔は楽しそうで、血まみれが合間って精神に病を持つ頭のおかしい人間にしか見えない。
着地してから一度の攻防までで十人の妖精メイドを殺された。更に十人程度の妖精メイドは友人を殺されたからか異次元咲夜を恐れたからか、腰を抜かして戦意を喪失している。やはり戦いを知らない妖精メイドでは戦う以前の問題のようだ。
そして、戦意を喪失した奴から異次元咲夜が投げた銀ナイフを体中にプレゼントされ、血まみれで地面に倒れ込んでいく。
そうさせないように奴と銀ナイフを交え始めるが、攻撃の合間に投げ捨てた銀ナイフで妖精メイドを殺していくため、破壊していく暇がないのだ。
十数本の銀ナイフを異次元咲夜へと至近距離から投擲。投擲から隙を生ませないために血なまぐさい敵へと切りかかる。
作り出された銀ナイフを投擲されたものに投げつけられ、ほぼすべてのナイフが迎撃されてしまう。
私が近づく程度の時間が稼げて鍔迫り合いとなるが、お互いの武器が二人の押し出そうとする力に耐えられずにぐにゃりと曲がる。
異次元咲夜は鍔迫り合いを振り払って終わらせ、曲がった銀ナイフを惜しみもなく捨てると、身を後ろに翻して私に踵で横から回し蹴りを放ってきた。
前かがみになってしゃがむ暇がなく、後ろにのけ反る形で蹴りをかわした。顔の横で爆発でも起きたような血の鉄臭い風が蹴りで生まれ、顔を撫でて通り過ぎていく。
鼻先を異次元咲夜のヒールを履いている足が通り過ぎてから、私は銀ナイフをお返しに投擲してやるが、魔力の浮遊と跳躍によってかわされてしまう。
今のところは私が若干押されつつも退かずといったところだが、いったいこれがどこまで続いてくれるだろうか。私が押し切るまでは続いてほしいところだ。
私は魔力で生成した銀ナイフを握りしめ、手の中で作り出した銀ナイフを弄んでいる異次元咲夜を睨み付ける。
へらへらと笑っている異次元咲夜に腹が立つが、その瞳はギョロリと蠢いていて、常に私の隙を伺っている。
すでに二十人前後が殺されているが、まだ戦う意思のある数少ない妖精メイドが小さい弾幕を異次元咲夜へと放つ。
異次元咲夜はノロノロと飛んでくる弾幕を左右に小さく動いてかわしていく。やはり時間軸の違う妖精メイドの弾幕は彼女に当たることは無いだろう。
異次元咲夜が通れないほどに弾幕で周りを埋め尽くしてやればいいだけだが、それができるほど戦う意思と実力のある妖精メイドはもういない。
だが、できたところではたき落とされるのが関の山だろう。
異次元咲夜が銀ナイフを弾幕を撃ってきている妖精メイドに向けて投擲した。それを撃ち落とすために、射線上に偏差をつけて銀ナイフを投げた。だが、まっすぐに飛んでいっている銀ナイフには紙一重で当たらず、通り過ぎてしまう。
妖精メイドの首を銀ナイフが掻き切り、また一人首の傷から血を吹き出して地面に倒れて絶命した。
「くっ…」
高速で動いて切りあっている私たちに、ついていけない妖精メイドが私たちに近づいてしまい、異次元咲夜に頭を半分に叩き切られて心臓を抉り出された。
私がそれをさせずと異次元咲夜に銀ナイフを叩きつけるが、あっけなく砕かれしまった。体勢を崩した私に彼女は地面を砕く勢いでこちらに踏み出すと、魔力で強化された腹に蹴りを叩き込んできた。
「ぐっ!?」
蹴り飛ばされ止まることができずに地面の上を滑り、体が後方に流されてしまう。異次元咲夜が両手いっぱいに銀ナイフを構えているのが見え、それならば止まる前に土を蹴って私は上空へと逃げた。
地面から飛びあがったところで、先ほどまで滑っていた位置を異次元咲夜の投擲した銀ナイフが、柄の赤と青の軌跡を残して高速で通過していく。
隠し持っていた魔力でプログラムを作ってあるスペルカードを取り出した。組まれているプログラム全体に魔力を通し、スペルカードを起動した。
「幻符『殺人ドール』」
空中で立て直している私がいる位置を中心にして、赤と青色の数十本の銀ナイフがまるで土星などを取り囲むリングのように正確な円の帯を作る。
銀ナイフの帯を形成してから私がプログラムを組んだ通りに正確に一秒後、異次元咲夜に向かって一斉に銀ナイフが飛んでいく。
異次元咲夜が手元にいくつかの銀ナイフを作り出すと、両手に持っているもの以外を上空へと投げた。そして、二本の銀ナイフを構えて迎撃しやすい位置に陣取ると、幻符『殺人ドール』の銀ナイフを迎え撃つ。
初めに飛んでいった三本の銀ナイフを異次元咲夜は二本の銀ナイフで容易く叩き壊す。次に飛んでいっていたナイフに対して斜めに切り込んでいたらしく、軌道が変わって後方に銀ナイフが流れていく。
次々に飛んで行く銀ナイフを奴はことごとく叩き壊し、片っ端から元の魔力の塵へと変えていく。
だが、私と同様に異次元咲夜が作り出している銀ナイフにも、当然だが耐久力の限界というものがある。七本か八本程度銀ナイフを破壊すると、さすがに奴の得物も耐え切れずに砕け散る。
奴の銀ナイフを作る速度からして、新しく作る暇はない。動く気配もない。そのまま串刺しになれ。
しかし、そう簡単に奴らは死んではくれない。
異次元咲夜はすぐさま刃のなくなった銀ナイフを足元に捨てると、落ちてきた初めに上空へと投げていたいくつかのうちの二本を空中で掴み取り、スペルカードの銀ナイフを塵へと変える。
異次元咲夜が一歩前に踏み出すと、他にも投げていた銀ナイフが落ちてきて、奴に突き刺さるはずだった銀ナイフを弾き飛ばした。
「……」
できる限り殺すことができるようにスペルカードを作り替えたとはいえ、あの程度のスペルカードでは傷一つ与えられないらしい。
より本物に近い銀ナイフを作り出すため、時間をかけて銀ナイフを形成しようとしていると、異次元咲夜が走り出した。直線的にではなく、スペルカードの銀ナイフを迂回する形でだ。
それによりマーキングしていた標的の座標が変わり、それを追って当たろうと銀ナイフが軌道を変えて弧を描いて飛んでいく。
だが、私が投擲した銀ナイフの時間よりも自分の時間を加速させたらしく、加速した異次元咲夜には一切当たらず、走った後の空間を銀ナイフが突っ切って地面に刺さり、役目を終えて銀ナイフが消えていってしまう。
蹴り飛ばされた勢いで後方に進んでいる私の落下位置を、すでに予測できている異次元咲夜がそこに向かって走り出しているが、時間をかけて本物にできる限り近づけて作り出した銀ナイフを握り、私から奴へと飛びかかった。
突きに対して異次元咲夜は銀ナイフをクロスして受け止めた。銀ナイフの鍔同士がぶつかって止まるまでに鋭い刃の上を刃が滑走した。それにより銀が削れて銀粉が得物同士の接点から舞い、摩擦の温度で発火して火花を散らした。
「どうしました?調子が悪いんですか?体術だけを見るなら、門番の方が強いですよ?」
そう言われてしまうのも無理はない。事実を言うのなら、私は初めて自分と同じ時間軸で動く敵と戦うのだ。苦戦しないわけがない。
異次元咲夜が私にグッと顔を寄せるとそう呟き、嘲笑う。その細めた目には頬から眉のあたりまで達している古傷がかぶさっていて、それが印象的だ。
受け止められている銀ナイフで更に押し進もうとするが、異次元咲夜はクロスさせた銀ナイフを使って私の銀ナイフを切断した。
「っ!」
私と奴が使っている銀ナイフは魔力で作られているはずで、本物にどれだけ似せて作って強化したとしても、本物をコピーして使用している以上は、オリジナルを上回ることはできない。
なのに、なぜ毎回私の銀ナイフばかりが砕かれるのだろうか。
魔力で複製を作る際には複製する物を理解することが非常に重要だ。私はこの銀ナイフをまだよく理解していないということになるのだろうか。いや、使っている私がその質量や材質、形を一番よく理解している。
奴の使っている元となっている銀ナイフが、他の妖怪たちと敵対している以上は、誰かに特別に鍛えられているなどはないだろう。
なら、どうしてこうも私の銀ナイフばかりが破壊されてしまうのだろうか。あり得る可能性を考えるとすれば、奴が本物の銀ナイフで戦っているということになる。
これだけの量の銀ナイフを本物で使うなど、あり得るだろうか。
もしかしたら、もっと別な可能性があるのだろうか。
次を一週間後ぐらいに投稿できたらいいなと思います。
期待しないでください。
もし、アドバイス等がありましたら気軽にどうぞ。