それでもいいという方は第七話をお楽しみください。
ドォォッ!!
大きすぎる爆発音に耐えきれず私は両手で両耳を塞ぐが、それでもビリビリと鼓膜を揺らす爆音に、一時的に音を聞くことができなくなってしまう。
爆発で耳が聞こえなくなる寸前に何か、小さなものが高速で移動する空気を切り裂く甲高い音が真横や真上を通り過ぎていく音も聞こえてきた気がするが爆発音に紛れていたため確信はなかった。
だが、私が顔を上げると自分の身を守るために使っていた木と結界に何かがぶち当たっていて、飛んできた何かが木の中に抉りこんだことで木片が小さくはじけ、数えようとするのがばからしくなるぐらいの量の種子が私が張った結界にめり込んでいる。
だいぶ強固に作ったはずなのに、結界にはひびがはいっていてそれが全域に広がっているのが見回してみてわかった。
一匹の化け物が爆発すればその衝撃は空気を伝わってほかの化け物にも伝わり、連鎖的に巻き込まれた形で爆発を起こしたらしく、果実が残ったままの化け物はいなさそうだ。
結界を解除して立ち上がって周りを見ると木や建物に二センチ程度の種がめり込んでいて、まるで散弾銃の散弾の弾痕のように見え、その弾痕に似た跡が数百から数千も周りにできている。
花粉を飛ばした奴以外の化け物は完全に動きを停止していて、動く気配を見せない。
爆発初植物ということだが、種を飛ばす方向は自分では決められないのだろう。自らがまき散らした種に巻き込まれて絶命したと考えるのが妥当だろう。
それを肯定するように目を凝らしてみると、化け物の複雑に絡み合ってできている茎や蔓の体に、木や壁についているのと同じような多数の弾痕に似た跡がついている。
自分の攻撃で死んでくれたのならばそれはそれでいい。しかし、今はさっき以上にやばい事態であり、種子が成長して人を襲うようになる前に片づけていきたいところだ。
あらゆる場所に種子がめり込んでいて、しっかり数えてはいないが千数百個は弾痕の跡が見える。それらがすべて花の化け物となると思うと、ぞっとする。
炎の魔法を使うために呪文を唱え始めようと息を吸い込もうとしたとき、耳がようやく音を聞くことができるようになってきて、大きい音を聞いたときとかによくなる甲高い音しか聞こえなかったが、鼓膜が周りの音をわずかに拾い始めた。
悲鳴のような絶叫が後方から聞こえてきて、私が後ろに振り返るとさっき外で逃げまどっていた村人たちの大部分が体のあちこちに、弾丸のみたいに飛んできた種子を受けて地面に倒れている。
「おい!大丈夫か!?」
一番近くに倒れている村人に近寄りながら話しかけると、その男性の体にはすでに異常が起き始めていた。
「んな…!?」
種子がめり込んでいる場所からすでに急速に成長をし始めている蔓と茎が伸び始め、体のあちこちから根っこなどが飛び出し、男が叫び声をあげる。
「…なんだよ……これ!?……早すぎる…!?」
私はどうしたらいいかわからず立ちすくんでいると、数センチ程度の茎などで体を形成している小型の二足歩行の化け物が傷口から飛び出してきた。
男性の血で全身を真っ赤に染め、花の化け物の黒板をひっかいている音に似ている金切声に私は数歩後ろに後ずさりしてしまう。
次々と傷口から化け物が飛び出していくが、頭部付近にある傷口からは一向に化け物は出てこず、その場にとどまり続けて根っこなどを男の体の中に張り巡らせていき、茎と根っこが男の頭をすっぽりと巻き込んでしまった。
そうしていると男の叫び声がぴたりとやみ、まるで操り人形のような動きで立ち上がり、私に向かってよたよたと歩き始める。
「っ……っくそ…!」
体に種子がめり込んだ村人がほぼ全員、同じような状態になっていて近くの人間などを襲い始めた。
頭部には全身を操るための司令塔といえる脳があり、そこを花の化け物に乗っ取られたと考えるのが妥当だろう。男の動きに人間的な感情が見受けられない。
頭を花の化け物に乗っ取られたと思われる男から離れながら、男の足をレーザーで撃ち抜くと男はバランスを崩して盛大に地面にこけた。
しかし、その男は使い物にならないほどの負傷を受けた足を酷使し、こっちに向かって進もうとしている。
茎や根の合間からわずかに見える人間の部分の口から、多量で粘性の高い真っ赤な血液を垂れ流し、血で赤く染まっている眼球が私をしっかりととらえている。
気持ち悪くなってくるような光景に耐えきれず、顔を背けようとしたが男の体が急激にやせ細り始めていくのが目に見えてわかった。
「…なんだ?」
なぜかはすぐにわかった。
生物が成長するには養分が少なからず必要であり、花の化け物は寄生した男の体にある養分を吸って成長しているのだ。
人間に寄生した花の化け物が人間から養分を吸い取るということは、地面などにめり込んだ種子の中にいる花の化け物は地面から養分を吸い取るということか。
私がそう思って周りを見ると、千数個も地面に埋まっている種子が成長して来ているのか、地面や木、壁などにあいている穴から蔓などが出てきている。
そして、私が盾にしていた木や近くにある畑の野菜などが見たこともないスピードでやせ細り、腐っていく。
「……っ!」
「アアアアアアアアアアアアアアッ!!」
大量の養分を周りから吸い取ったことで、種子をまき散らす前と変わらないぐらいの大きさにまで成長した花の化け物たちが、黒板をひっかくような甲高い声で咆哮を上げ始めて、動きやすいように体の形を変形させ始める。
たった十数匹が千数百匹にまで増え、すでに私の手に負えるレベルを大きく上回っている状態となっている。
奴らは元の形態から少しだけ体の形を変え、完全に体の成長を終えたらしく周りに存在している動物、つまり、私に向けて殺到し始める。
「くそ…!」
魔法の呪文を唱え終え、魔法を発動させようとするが体の重さが数トンはありそうな花粉を飛ばしていた花の化け物がこちらに向けて、猛ダッシュして来ているのが視界の端からの情報と地面を伝わってくる振動と、花の化け物が地面をたたくひときわ大きな音がしてようやく私は気が付いた。
その巨体からは考えられないほどに俊敏で動きの速い化け物は、ほんの数秒で四十メートル以上もあった距離を詰め、さらに人間の胴体ほどもある蔓と茎で形成されているオオカミの手で私のことをぶん殴った。
避けようにも体が思うように動かすことができず、受け流す態勢に入る前に腹をぶっ叩かれたことで体がくの字に折れ曲がり、三十メートル以上の距離をバウンドもせずに吹っ飛ばされ、半壊している民家の壁に体を打ち付けてしまうが、それでもとまらずに壁を破壊して家の中に転がり込んだ。
壁にぶつかったことで多少は運動エネルギーが分散したらしく、床を転がるまでには減速されたが、それでも殴られたときのエネルギーは衰えず、私の体は転がりながら破壊した方とは逆方向の壁も破壊して外に飛び出してしまう。
家を飛んできた種子などによって破壊されてしまい、外に逃げることしか逃げ道がなかったのだろう。外を走っている村人を巻き込んで突き飛ばし、私はようやく止まることができた。
「げほっ…!!……ごぼっ……!!」
胃が収縮し、中身の異物を吐き出そうとする胃の動きにより口の中が大量の血であふれかえり、鉄臭い匂いにむせ返ってせき込んだ。
それにより地面に口いっぱいに入っていた血を吐き出すことができたが、吸った息が鉄臭くて気分が悪くなりそうである。
ずきずきと痛む腹などを押さえて私は冷や汗をかいた。もう少し体の強化が弱かったら背骨が断裂し、胃腸などのほかの臓器にも深刻なダメージが及び、背中側から臓器が飛び出していたかもしれない。
私が付き飛ばした村人は足を痛めたようで、足を引きずってよろけながらも走って逃げていった。
「う…く……ぁぁっ……ごほっ……!」
もう一度、胃から上がってきた大量の血を口から吐き出し、私は地面に真っ赤な花をもう一つ咲かせた。
「…っ……はぐっ……」
体内の臓器などにも届いている花の化け物の攻撃の威力はすさまじく、臓器がスクランブルエッグのようにぐちゃぐちゃになっているのではないかと錯覚するほどだ。
口の端から血の水滴がツウっと顎に伝っていき、私はそれを手でぬぐい取る。
「アアアアアアアアアアアアアアッ!!」
野太く、木製のもの同士を強くガリガリとこすり合わせた大きくて不快な音が奴の声のようで、私が通ってきた家の残骸を破壊して咆哮しながらこちらに向かっていている。
「……くそがっ……!」
私はずっと温存して置いた炎の魔法を発動させた。
「verbrennen(燃えろ)!!」
私は魔法の回路に魔力を注ぎ、今まさに私を殴ろうとしている化け物に炎の魔法を浴びせかけ、三十メートルほどの高さまで吹き上がる火柱に花の化け物は包み込まれる。
十メートルも離れているはずではあるが、ヒリヒリとした強い熱を全身に感じる。遠赤外線という奴だろう。
数千度にもなる炎に焼かれれば、体長がおよそ六メートルもある花の化け物といえどもただでは済まないはずだ。
私は花の化け物が燃え尽きたことを確認するために魔法の炎を弱めようとしたとき、火柱の中で何かが動いた気がし、魔力を送り込んで炎の強さを最大まで上げようとしたが、焼き殺したと思っていた花の化け物が火柱の中から飛び出して、私に向かって突っ走って来る。
「なっ…!?」
巨大な骨格を持つ化け物からすれば、さっきの炎は自分の皮膚の表面を少しあぶった程度にしかなっていないのだろう。あの巨体を少し甘く見ていた。
全身を焼かれて体の表面が炭化し、真っ黒になってはいるが、動くごとに炭化して焼け焦げている蔓や茎が剥がれ落ち、その下から新しい何のダメージも負っていない真新しい茎や蔓が顔をのぞかせてくる。
「なんて野郎だ…!」
絶句しているところにやつが走りこんできて上に手を振り上げ、私を押しつぶすために腕を振り下ろした。
この花の化け物の大きさからすれば、私など軽くひねっただけで殺すことなど可能だろう。
今更になって逃げようとしてももう遅い。視界いっぱいに広がっている花の化け物の手は、すでに目と鼻の先にあるのだから。
三日後から五日後に次を投稿します。