東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいよ!
という方は第七十一話をお楽しみください。

前回のあらすじ

咲夜が頑張った。


東方繋華傷 第七十一話 切断

「……」

 戦いながら移動しているのだろう。咲夜の姿は紫から伝えられた座標に行ってみても見当たらない。

 でも、地面に残っている血痕と濃い血の匂いからこの場所か、少なくても近くで戦闘が行われていたはずだ。物凄く気分の悪くなるほどの血の匂いがする。

 それを証明する銀ナイフが辺りに散らばっているが、その数は優に百を超えていそうだ。

 砕けている物や表面に傷がある物と様々であるが、どれも咲夜が使う銀ナイフのデザインとはわずかに違うため異次元咲夜が使っている武器だろう。

 しかし、どういうことだろうか。周りに刺さっている銀ナイフに魔力の形状維持の性質が含まれている銀ナイフは一つも存在しないのだ。それはつまり、全て本物の銀ナイフということだ。

 これだけの銀ナイフを異次元咲夜はどうやってこっちの世界に持ち込んでいるのだろうか。一本一キログラムもいかないようなナイフだが、数が揃えば数十キロにもなるだろうからだ。

 咲夜は本物の銀ナイフはいつも数本しか持っていないと言っていた。身軽さと機動性を重さで邪魔されずに保ちたいと。だから魔力で複製を作り魔力の温存するために投げたものを回収する。

 異次元咲夜の戦い方にはそれが見られない。咲夜と同じ戦い方とは限らないが、同じ武器に能力を持っている以上は似た戦い方になるはずだ。

 もしそうでないとしたら、向こうにも紫がいるわけだから銀ナイフを随時補給して戦うこともできなくはないだろう。

 だが、それは考えにくい。なぜなら咲夜は時を操るため、戦っている最中は私たちと時の流れが違うことが多い。

 時間の流れが違うことで援護する側の紫は、異次元咲夜と咲夜の戦闘速度にはついていくことはできないだろうからだ。

 そうしていると、吹き抜けていく風の音に混じって何かが聞こえてくる。耳を澄ませてみるとそれは硬いもの同士を打ち合わせる金属音だということがわかる。近くもなく遠くもないと言った程度の距離が離れていそうだ。

 そう言えば、私が知っている範囲ではまだパチュリーや美鈴達は永遠亭で治療を受けていたはずだ。私が寝ているうちに退院したのだろうか。

 私がなぜこんなことを考えているのかというと、この広い丘で死体が見えていないのに血の匂いがむせ返るほどに匂ってくる時点で、一人の人間が流せる血の量を大幅に超えているからだ。血の匂いの主がパチュリーや美鈴じゃあないだろうな。

 私はそう思いながら丘を登り切り、息をのんだ。丘の頂上から逆の方向にもなだらかな下り坂が続いているが、そこには数を数えるのがバカらしくなるほどに大量の死体が転がっている。

 紅魔館にいる警備を担当している妖精メイド達を連れて来たらしいが、時を操る奴の前では数の多さはあまり意味をなさなかったようだ。

 咲夜以外に動いている生物の姿は見当たらず、全身のあらゆる急所に銀ナイフが刺さっている死体や首を掻き切られている五十を超える死体からおびただしい量の血液が流れ出している。

 まるで雨が降った後のように、地面や草が血の赤で染まってしまっている。そして、その中心で咲夜と異次元咲夜が闘っている。

 妖精たちの血が二人の足元に溜まり、踏み込んだり左右にステップを踏むごとに血が跳ねて二人の靴や肌を濡らしていく。

 咲夜は全身が血まみれで、返り血かと思ったがそのほとんどが本人の血だ。致命傷になるほどの切り傷が多数みられ、私は間に合ったとはいえない状況だ。

 異次元咲夜の体に高密度の魔力が集中していて、筋肉上昇の性質を含んでいる。次に重い一撃が来るはずだ。

 咲夜はというと今までの戦いで、疲労がたまっているのか息を切らしている。全身に酸素を十分に循環できていないらしく、動きが遅くてその一撃に耐えられるのかわからない。

 全身に十分な酸素が送られていないということは、単純に脳にも酸素が行き届いていないことを示し、それは確実に脳の回転や反応を鈍らせるはずだ。

 命のやり取りをしている時では、その短い時間でさえ命取りになるだろう。咲夜は遅れてしまったが、新たに魔力で銀ナイフを作り出そうとしている。でも得物の形成がかなり遅い。

 咲夜たちが常に移動しながら戦闘してたおかげで、今は私からかなり近い位置にいる。魔力を手のひらの上に溜めてレーザーに変換して撃つよりも、今なら走って近づいた方が速い。

「よくも私に膝をつかせてくれましたね。苦しませてからじわじわと殺して差し上げようと思いましたが、止めました」

 異次元咲夜が言い。銀ナイフを構えた。間に合いそうになかったが、彼女はまた話を始めた。

「そうですね。せっかくですし、お前の主と同じように殺して差し上げましょう」

 私は、何とか間に合った。

「させるかぁ!!」

 とっさにそう叫んでいて、近くに倒れ込んでいる妖精メイドの死体から異次元咲夜の銀ナイフを引き抜いた。

 異次元咲夜が私の存在に気が付いた。異次元咲夜が驚きで口元を今度はイラついたようにゆがめる。

 異次元咲夜に向けて、妖精メイドの血で赤く染まっている銀ナイフをぶん投げた。投げることに特化している得物は、素人の私が咲夜が投げる姿を真似て投げてもまっすぐに飛んでくれた。

 当たらないかと思ったが、異次元咲夜の振り下ろす銀ナイフに投げた銀ナイフは丁度良く命中してくれた。

 火花を散らして異次元咲夜の持っていた銀ナイフが弾かれ、私が近づくまでの時間がさらに稼げた。

 咲夜の使っていた銀ナイフなら、以前から今回の異変までで腐るほど見て来た。イメージは十分にできている。それでも、コピーの更にコピーで耐久性や切れ味などは相当ひどい物だろう。

 でも、奴の銀ナイフも耐久力が咲夜と私の攻撃でかなり低下しているはずだ。まがい物の武器でも破壊できる。

 異次元咲夜は確実に殺したいのか、私には目もくれずにボロボロの銀ナイフを咲夜の首に叩き込もうとした。

 もし、異次元咲夜の銀ナイフを振り下ろす速度やタイミングがもう少し早ければ、咲夜の頭は今頃地面を転がっていただろう。

 まあ、それはもしの話で合って私は咲夜と異次元咲夜の間に、血だまりの血を周りに飛ばしながら滑り込んで銀ナイフを振り上げた。

 事前に時を止め、生物に触れて時の流れを元に戻したのだろう。時を操っているわけではない異次元咲夜の動く速度は異常なほど早いというわけではなく、辛うじて目だけはついていける。

 異次元咲夜が左右に二度銀ナイフを振るい、私はそれを得物で受け流した。その行為をやったとはいっても所詮は素人の見様見真似の受け流しであって、刃が刃によって抉られてしまった。

 だが、奴の銀ナイフにも亀裂が入り、もう少しで破壊することができそうだ。以前咲夜がやっていたように指の動きを思い出し、銀ナイフを逆手に持ち替える。

 三度の攻撃は私から異次元咲夜へ行った。

 得物がぶつかり合うと、私と異次元咲夜の持っていた銀ナイフが両方ともひしゃげて砕けてしまう。

 異次元咲夜から時を操る魔力を感じる。時を止めた後にある時を止められない時間帯が終わったらしい。その性質は自分の時を速めるもので、目に見えて奴の速度が上がっていく。

 私が新たな銀ナイフを作り出す前に、お腹に魔力で強化された拳を異次元咲夜に二度叩き込まれた。

「は…が…ぁぁっ!?」

 お腹を抱え、崩れ落ちそうになるが踏みとどまった私は、異次元咲夜が伸ばしてきた手で首を絞めつけられてしまう。

「あっ…かぁ…っ!?」

 息ができない。身体の活発的な動きをした後であるため、脳が酸素を欲している。首を絞められたことによって頭がほんの短い時間だが働かず、息を吸い続けようとしてしまう。

 動きの止まっている私を異次元咲夜は自分に向かって引き寄せると、手を離して胸に蹴りを入れて来た。完全に上半身が後方に投げ出され、二度目の蹴りによって吹き飛ばされてしまう。

「うぐっ!?」

 咲夜の隣に倒れ込み蹴られた胸の痛みに呻いている暇はない。異次元咲夜のいる方向から高密度の魔力を感じる。

 スペルカードを使うつもりだ。異次元咲夜の周りに高密度の形状維持の魔力と鋭い物体となるイメージが伝わって来た。

 これほどのスペルカード、一人で撃ち落とせるわけがない。でも、やらなければ隣にいる咲夜は死ぬ。

 異次元咲夜のスペルカードは起動に時間がかかるらしいので、そのうちに私も魔力でプログラムを書いて回路を作成した。

 私は一歩前に歩み出し、肩から下げているポーチに手を伸ばした。

 出し惜しみや手加減はなしだ。今まで使っていた時には加減をしていたが今回はミニ八卦炉に使われているヒヒイロカネでも、熱に耐えきれずに融解してしまうかもしれないがその時はその時だ。

 製作した回路に魔力を流し込むために密度の高い魔力を練ろうとすると、後ろにいる咲夜に肩を掴まれ彼女の方を向かせられた。

「これは私の戦いです…、首を突っ込まないでいただきたいですね…!」

「そんな魔力切れで戦えなさそうなやつが何を言ってんだ?…助かる秘策なんかなかったくせに」

 そう呟くと図星だったのか咲夜は押し黙った。彼女の顔を見ると困惑が混じっている。霧雨魔理沙という存在に助けに入られたことで、私の立ち位置が余計にわからなくなっているのだろう。

「あなたは…いったい何なんですか…。なんで私を助けたんですか」

「……まあ、私はお前が思っている以上に味方ではあるぜ。それに間接的ではあるが、お前を助けることで私の知り合いが生き残る確率がわずかに高くなるんでな」

 咲夜は幻想郷がどうなろうが知ったことじゃあないだろう。それについては私も同じだが、咲夜に死なれたら霊夢の相手にする敵の数が増えてその分だけ死ぬ確率だって必然的に上昇する。だから咲夜を助けた。友人だから助けたという理由も少なからずあるが。

 私がスペルカードを起動する準備を再開しようとしていると、異次元咲夜の周りにちりばめられていた魔力の密度が低下し、形状維持や切れ味の増加など銀ナイフの性質から、時の流れに関与する魔力に変換されていく。フェイントだ。

 咲夜は魔力切れで時を操ることはできない。今は奴が咲夜に邪魔をされずに時を操って戦える。

 それを発動される前にマスタースパークを放とうとしたが、ミニ八卦炉をポーチの中から取り出そうとした私の目の前に時を止めて移動した異次元咲夜が現れた。

「っ!?」

 異次元咲夜がポーチに伸ばしていた私の右腕に銀ナイフを突き立て、あと数センチで目的の物が掴めるということころで引っ張り出されてしまう。

「あぐっ…!」

 代わりに左手に魔力を集めてレーザーを放とうとするが、腕を異次元咲夜に向けようとする段階ですでに跳ねのけられてしまっている。

 異次元咲夜は腕に刺したまま銀ナイフから手を離し、私の後頭部へその手を伸ばすと髪を掴んだ。

 奴の方に引き寄せられ、異次元咲夜は自らの頭を前に振り出し、額に頭突きを食らわせられた。

「がっ!?」

 ぶつけられた額がじりじりと痛み、衝撃が頭蓋骨を伝って減衰しながらも脳にまで達して来て、軽く眩暈を起こしてしまう。

 頭の中を駆け回っている衝撃が弱まる前に、異次元咲夜が後方へ大きく跳躍して飛びのいた。私たちに攻撃する絶好のチャンスなのに、なぜだ。

 そう思って飛びのいた異次元咲夜に向けて、攻撃を始めようとしている頃には答えは出ていた。斜め後ろに立っている咲夜の足元に、小さな金属音を立てて銀ナイフが突き刺さったのだ。

 形状維持や形の形成などのない本物の銀ナイフで、それの内部には爆発系で密度の高い魔力の性質が感じられた。魔力切れで咲夜はそれを使って体を覆ったり強化するなどで身を守れない。

 私は咲夜に手を伸ばして突き飛ばそうとする間もなく、足元の銀ナイフが内側で爆発を起こしはじけ飛んだ。

 魔力の炎を膨らませ、銀ナイフの大きさからその数十倍にまで爆発が広がったことによる衝撃波に初めは巻き込まれた。

 高温の炎には直接巻き込まれることもなく、魔力で体を強化していたから胸に受けた爆風で肺は潰れなかったものの、発生した熱に皮膚がさらされて熱いと脳が感じ始めた。

 体が浮き上がり後方へと進み出すと頬や手など、服に覆われていない私の体に生暖かい感触のするものが飛び散った。

「んな!?」

 視線を斜め上に向けると私よりも爆心地に近かった咲夜が、爆発に巻き込まれ少しだけ高い位置に浮かんでいるが自分の目を疑った。彼女の右足の膝から先がどうやっても見当たらないのだ。

 こちらに飛び散ったと思った何かは、咲夜の足の肉や骨の欠片で、血しぶきだったというわけだ。

 言葉にならない苛立ちが込み上げて来た。咲夜を助けに来たというのに、何だよこのザマは。いったい何のために私はここに来たんだ。

 でも、今はどこがいけなかったのかと考える時間ではない。この状況をどうにかして切り抜けて、できるだけ咲夜に怪我を負わせずに助けることが最優先なのだ。すぐ斜め上にいる咲夜に手を伸ばそうとしていると、彼女の更に上に奴の姿が現れた。

 両手に銀ナイフを握っているのが見え、切れ味の強化に大量の魔力が使われている。魔力の爆発で発生した青白い炎に反射して、異次元咲夜が持っている得物が煌めく。

 急いで目の前を浮遊している咲夜に手を伸ばすが、体が同年代の女性よりも一回りも二回りも小さい私の伸ばした手は数センチ彼女まで足りない。

「っ…くそ…!」

 私は手のひらに魔力を溜め、咲夜の上を浮遊していて今にも高速で落下してきそうな異次元咲夜に魔力からレーザーに変換した弾幕を2分割し、片方をぶっ放した。

 咲夜の顔のすぐ横を熱線が通り過ぎたため、彼女はレーザーから放出されている熱を浴びて相当熱いだろうが、四の五の言っている場合ではない。

 頭を私たち側の地面に向け、空の方を向いている異次元咲夜の足元から硬質化した魔力を感じる。足場を作ってこちらに跳躍するつもりだ。

 私の放ったレーザーを異次元咲夜は形成した足場を破壊して跳躍し、体を捻って熱線をすり抜けてかわした。

 だが、そうなることは予想済みだ。二分割にしていた内の残しておいた魔力をレーザーに変換した。レーザーを撃っている最中にも追加で魔力を続き足していたおかげで一発目よりも遥かに強力だろう。

 それを数メートルの至近距離から異次元咲夜へと照射した。

 前回撃ったものよりも威力の高いレーザーが異次元咲夜の皮膚を焦がし肩を抉る。ほんの一秒前に撃っていれば奴の胸のど真ん中にお見舞いできていたが、咲夜の陰に逃げられてしまって撃てなかった。

 当てられはしたが、奴の攻撃はあの程度では止めることはできないだろう。自分の体を魔力で浮遊させ、高い位置にいる咲夜へと手を伸ばした。

 異次元咲夜は私がレーザーを撃ったことで光エネルギーが体にかかり、下へと進む速度が減速したのだろう、そのおかげで咲夜のメイド服を掴めた。

 離してしまわないようにしっかりと握り、その手を引き寄せて異次元咲夜の攻撃を避けさせようとした矢先、時を加速させて落ちて来た異次元咲夜の銀ナイフが咲夜の腹部に潜り込んだ。

「が…ぁっ…!?」

 銀ナイフを刺された咲夜の消え入りそうなか細いうめき声が聞こえ、私はとっさに異次元咲夜へ向けてレーザーに変換された魔力が溜まる手のひらをかざした。

「やめろぉぉぉぉぉっ!!」

 魔力を凝縮し、レーザーへと変換した球状にとどまっていた弾幕を、異次元咲夜の額に叩き込んだ。

 と、私は甘い幻想を抱いていた。放つために魔力から変換されていたレーザーが、魔力だった塵となって霧散して消えていく。

 私がそれを理解する前にいつの間にか手のひらに数本の銀ナイフがそれぞれに深くも浅くも突き刺さっているのが、手の甲を貫通してきた刃が目に映り込んできたことで分かった。

 痛みが腕の神経を伝わってくるのは、目の前の光景が脳に視覚情報として送られることよりも遅く、間をあけてやって来た痛みに反射的に手を引っ込めてしまった。

 今からでもいいから、異次元咲夜が咲夜に突き刺している銀ナイフを引き抜かせようとするが、奴は突き刺していた銀ナイフを笑いながら横に薙ぎ払った。

 異次元咲夜の銀ナイフは魔力でかなり切れ味を強化していて、あまり勢い良く振ったようには見えなかったが、あふれ出した血が私の顔に飛んできて嫌でも咲夜が切られたことを思い知らされた。

 顔に飛び散った血が目に入って見えなくなるが重力にひかれて落下をはじめ、咲夜を掴んだまま私は地面に転がり落ちた。

 そして、地面を転がっているうちに手で掴んでいる咲夜の体が異様に軽く、嫌な予感が頭をよぎる。

 私は恐る恐る目を開いたが、目の前で起こっていることが初めは理解できなかった。でも、徐々に視覚から得られる情報が増えていき、把握もしたくない状況を把握した。

 異様に咲夜の体が軽いわけだ。彼女の下半身は腹部を境に切断され、どこかへと消えていた。

 この耐え難い状況に、私は絶叫していた。

 




次も一週間後ぐらいに投稿できたらいいなと思います。


もし、アドバイス等がございましたら気軽にご連絡ください。
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