東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいよ!
という方は第七十六話をお楽しみください。


投稿が遅れてしまった申し訳ございません。これから不定期になると思いますが、気が向いたら見てやってください。


もし、なにかアドバイス等がございましたらご気軽にどうぞ―


東方繋華傷 第七十六話 理由

 気が付くとそこは森の中で、私は木の幹にもたれて座っていた。どれだけの時間の経過があったのかは知らないが、辺りは暗くて光源が無ければルーミアに能力を使われているようだ。

 おかしい。私は聖に見つかって霊夢に引き渡され、今頃は時間がわからなくなるような独房で尋問でも受けているかと思った。

 だがそうではないようだ。昨日起こったことは全て夢かもしくは、脳が極限状態にあまりにも長く陥っていたことで見ていた幻覚だったのだろうか。

 夢でも幻覚だったとしても、助かっているのならばそれでいい。しかし、腑に落ちないのはどこからが夢だったのかわからないところだ。

 夢にしては妙にリアルだった気がする。私は立ち上がるために両手を地面について起き上がった。

 布団で寝ているわけではないため、体が休まらず疲れ切っている。眠気も強く早く布団にダイブしたいところだ。

 さっさと歩き出そうとしたところで、私は何気ない行動をしていたがそれに違和感を感じた。

 私は今、起き上がるために何をした。と。

 両手を地面について、体を持ち上げたはずだ。でも、私は気を失う前に妖夢の攻撃で左手と肘の間を切断されていた。

 腕の高さの違いや切断された傷での痛みなど、様々な要因が重なってあそこまでスムーズに起き上がれること自体が不自然だ。

 自分が腕を切断されたことを認めたくはないが、私は引かれるように左手の方へ顔を傾けた。

 いつもある左手はきちんとそこに存在していた。嬉しくはあったが同時にしかし、私は困惑した。

「なっ…!?」

 妖夢に腕を切断される前から幻覚もしくは夢を見ていたのなら、あの激痛は何だったのだろうか。あれは幻覚や夢で済ませられるようなそんな生易しいものではなかったと断言できる。

 意味が分からずに驚いていると、後ろに生物的な者がいる気配を感じて振り返った。

 そこには見慣れた血のように赤い赤色と、純白の白色の布が使われている巫女服を着た博麗霊夢が俯いて立っている。

「…れ…霊夢…!」

 腕が無くなっていなかった時と同じぐらい驚かされた私は、すぐに飛びのいて距離を取った。

 攻撃をできるように右手に魔力を集めようとするが、私を見つけたはずなのに霊夢は全く動きださないため、今のうちに逃げ出そうとした。

 その直後。

「……し…」

 霊夢は丁度聞こえにくい声の大きさでボソボソと口元で呟いた。

「…え?」

「…この、人殺し!」

 彼女はそう叫ぶと私に敵意を向けてくると目を吊り上げて犬歯をむき出しにし、耳がおかしくなるほどに大声で叫んだ。

「っ…!?………違う…!…私は殺してない!」

「…黙れ!あんたが殺したのよ!二人の仇を取ってやる!」

 私の言葉を耳にも入れない霊夢がお祓い棒を握りしめ、歩み寄ってこようとする。それに対して手先に魔力をかき集めようとするが、前日切られたまさにその部分に鋭い痛みを感じた。

「うっ!?」

 霊夢が迫ってきているのも忘れて左手の前腕を見ると、見たことがある光景が目の前に映し出される。

 カミソリか何かで切ったような小さな切り傷からタラタラと血が流れていた。傷口が広がると出血量が倍々に増え、それが腕の周りを一周するとズルッと重力に従って地面へと落ちた。

 べチャッとあの時と全く同じ、水気の多い物が落ちた音が異様に響く。それと同時に今まで感じていなかった左手の痛みがズキズキと伝わってくる。

「あああっ……!!う…ぐぅっ…!」

 左手を押さえてうずくまろうとした私の胸倉を、正面に立っていた霊夢が手を伸ばしてきて掴みかかって来た。

「…二人の、仇だ!」

「ち…違っ…!」

 弁解を聞く間もなく霊夢は切断された私の左手に手を伸ばしてくると、動脈から零れている動脈血を物ともせず掴んで刺激を与えてくる。

「ああああああああああああああああっ!!!」

 左腕から脇の下や頸椎を通っている神経を伝って、痛みが電気信号で脳に送り込まれ激痛を感知した。

「うぐ…っ…!……だから、私じゃない…っ!……二人は…殺してな――」

 私の二人を殺したことを認めない言葉に、霊夢はさらに怒りを表して傷口の断面に爪を立てて来た。

「うあああああっ!?……ぁぁっ…!?……れ…霊夢……私は……殺して…ない……!」

 痛みで訳が分からなくなって涙が瞳に溜まり、溢れそうになる。

「黙りなさい。あの状況でそんな嘘がまかり通るとでも思ってるのかしら?」

 私の左手にある切断面を掴んでいる霊夢は、ギチギチと皮膚と肉が抉れるほどに握りしめてくる。

「ああああああああ~~~~~~~っ!!あぐ……あああああああっ!?」

 叫んでいる私の胸元から手を離すと、霊夢は口を塞ぐように顔を掴み直してきて地面へと私を押し付けた。

「んぐっ!?」

 霊夢は倒れ込んでいる私の左手に痛みをよく感じるように、靴の踵で思いっきり踏みつけてきた。

「んんんんっ!!」

 口がふさがれてうまく声を出すことができず、くぐもった私の声が静かに彼女たちの耳に届くが、顔色一つ変えずに霊夢ではなく妖夢が体を切りつけてくる。

 自分の体が切られる音が耳にまで届き、私は血の気が引いた。それ以上は聞きたくなくて体を捩じるが、霊夢が拘束を緩めたり開放するはずもなくさらに強く顔を掴まれ、腕を踏みつけられる。

「~~~~っ!!」

 それから随分と長い時間、彼女たちに痛めつけられた。ずっと私は違うと言い続けたが、塞がれた口から出た声は痛みに苦しむくぐもった叫びだけだった。

「さてと、それじゃあそろそろ死んでもいいわよ?」

 霊夢はそう呟くと全身を魔力で強化を施し、口元を掴んでいる手を離した。そして、足を顔の上で持ち上げると頭部を潰すために踏み込んだ。

「私は……ちが……う…………」

 叫びすぎてかすれた声と激痛、骨が割れる乾いた音を境にして視界が黒で染まり、何も見えなくなった。

 

 

 セミの甲高い鳴き声が私の耳にまで届く、ここは建物の結構奥にあり普段は耳を澄ましても聞こえることがないので聞こえたことに少し驚いた。

 現在時刻は夜中どころか丑三つ時すらも過ぎている。昼なら誰かしらが騒いでいるか遊んでいたり、話している声がするためここまでセミの声が聞こえることはないからだ。

 しかし、なぜ私が、いや私たちがこんな時間に起きているのかというと、少し前にたたき起こされたからだ。

「はぁ、なんでこんな遅い時間帯に危ない奴を私たちだけで看病しないといけないのさ」

 本当に、条件付きではあるがその意見には同感である。

 ぽつりと愚痴を漏らしたのは、錨のマークが入った帽子に寝間着などラフな格好ではなくセーラー服を来た村紗水蜜だ。

「まったくだ。私も寝ていたのだがな。ご主人が直々に来てなければ断っていたところだ」

 眠気であくびを噛み殺しながら私、ナーズリンは水蜜に言った。

「まあ、明日朝早く起きなくてもいい口実が作れたからいいんだけどさ」

 妙蓮寺を出入りし、そこに寝泊まりしている水蜜は朝がとても早いからだろう。不満を言いつつもメリットがあっていいじゃないか。私にメリットなど何もない。

「それで、君は彼女のことどう思う?」

「……うーん。わからんとしか言いようがない。聖が連れて来たってことは何かしら理由があるんだろうけど……」

 そうなのだ。一時間ほど前にぬえと一緒に聖は彼女を連れて来た。この、異次元の世界から来たと思わしき女性をだ。

 始めは誰かわからなかったが、文々丸新聞とかいうものを配っている鴉天狗の文から彼女の写真を見せてもらっていたおかげで、何者なのかは分かった。

 まあ、それはいいとしてここからが問題なのだ。

 聖の話ではあの十六夜咲夜と守矢早苗を殺していると聞く。この幻想郷で強さなら上から数えた方が強い二人を殺した人物を、あろうことか聖は博麗の巫女を騙して連れて来たという。

「いったい何を考えているんだか」

 多少なりとも聖を慕っているため水蜜の前でこの言葉を言ってしまい、しまったと思ったが彼女もそう思っているらしく、布団に寝かせられている女性を見つめたまま何も言ってこない。

 そりゃあそうだ。彼女を助けたということがバレれば、私たち全員が裏切り者と判断されかねない。いや、されるだろう。自分の身を守るのに必死な臆病者と罵られること間違いなしだ。

 そのリスクを負ってでも彼女を助けた理由を聖の口からまだ説明されていないのだ。不満の一つも言いたくはなる。

「……。しかし、久々に疲れたよ。治療なんてあんまりやったことがなかったからね」

「その割にはきちんとできてたけどね」

「本当、我ながらよくできたと思うよ。でも、成功した理由は彼女の生命力のおかげといえるよ」

 私がそう呟くと水蜜は危険人物であるため、女性に警戒をしたままこちらをチラリとみてくる。

「なんで?」

「運ばれてきた時点で既にかなり出血していて、意識もなかった。医療器具なんて気の利いたものがほとんどないこの妙蓮寺で治療したとしても、あの段階なら生存は絶望的だった。……でも、彼女はこうして生きてる」

 水蜜はなるほどと頷いて私から目を反らした。そうしていると。

「………がう………じゃ……い」

 どこからか声が聞こえてくる。

「村紗、何か言ったかい?」

「何も言ってないよ。怖いこと言い出すなよ」

 村紗がそう言ってジトッと私を睨んでくる、そこでそもそも君も妖怪だろう。という言葉が浮かぶが言わないでおこう。

 しかし、あれは空耳ではない。確かに声が聞こえた。

 部屋や廊下に私たち以外で生物の気配はしない。村紗じゃないならこの魔女の服装をしている女性しかいない。

 全身あらゆる場所を包帯でグルグル巻きにされている女性に目を向けると、さっきまでの普通に寝ていた状態とは違い、脂汗を浮かべている。

 彼女がしゃべったのだろうか。確かめてみるか。

「おい、君。起きているのか?」

 私がそう声をかけるが女性は応答することなく、脂汗を浮かべて布団の上に出されている右手がタオルケットを握りしめている。

 腕を切断されてその痛みとトラウマで悪い夢でも見ているのだろう。

「……っ……!」

 時折息をのむような息遣いも聞こえてくる。夏だからという理由では説明できないほどに女性は額に汗を浮かべていて、苦しそうだ。

「仕方がないな。水でも用意してきてやろう」

 私はそう言って立ち上がり、水をくむための桶とタオルを持って来ようと襖に手をかけると水蜜が言ってくる。

「こいつにそんなの必要か?こっちに責めて来た奴だろ?」

「村紗、聖は私たちに看病しろと言った。仕事を引き受けた以上は最後までやり切るまでさ」

 私がそう言って襖を開けるが、水蜜がさらに言ってくる。

「こいつが、人を殺すことにためらいがないくそ野郎でもか?」

「……そうだな。襲ってくるような奴ならいざとなったら村紗、君が助けてくれよ。私は戦えないからな」

 水蜜は呆れたような顔つきでため息をつき、女性から目を離してこちらを見上げた。

「あの二人を殺すほどの人物を私がナーズリンを守ったまま戦えると思ってるの?十秒も持たないね」

「おいおい、まだ彼女がそんな奴と決まったわけじゃないよ。君も言っただろう?聖が連れて来たんだ、そうじゃないという何かしらの理由があるはずだよ」

 

 

 数時間後。

「……っ…」

 彼女の悪夢はまだ終わらないらしい。数時間ずっとこの調子だ。女性の熱で温まったタオルを額からはがし、冷水の入った水桶の中に入れた。

 かき混ぜ水温と同じぐらいにまでタオルを冷やしてから取り出し、ある程度の水を絞ってから女性の額にまたかぶせる。

 この工程を何十回繰り返したところだろうか。既に辺りは明るくなり始めていて、そろそろ私も休みをいただきたいところだ。

 さっきまで居眠りをこいていた水蜜を小突いて起こしたが、また寝始めている。まったく、危険人物だと疑っている割には随分と無防備だな。

 眠くて目がしょぼしょぼする。瞼を軽く手の甲で擦り、あくびを噛み殺しているとさっきまでとは違う動きを彼女は見せた。

「……っ……う…っ……ゆ……夢……?」

 やはり悪い夢でも見ていたのか、眠りから覚めた彼女はそう呟く。

「起こしてしまったかな?」

 そう問いかけると起きたとはいえ意識がはっきりしないのか、彼女はぼんやりとした瞳だけを動かして私を見た。

「……ナーズリン………ここは…?」

 向こうの世界にも私と同じ顔をした奴はいるらしい。彼女は顔を見るとかすれた声でそう呟く。

「妙蓮寺だ。君は昨日のことは覚えてるか?」

「…………。かすかに……」

 あれだけの重症を負いながら博麗の巫女から逃げていたのだ。彼女の昨日の記憶は夢みたいに朧げだろう。

「それだけ喋れるなら問題はなさそうだな」

 私はそう彼女に言いながら、横で座りながら体を左右に小さく揺らして眠っている水蜜を小突いた。

「村紗。彼女が起きた。私は聖を呼んでくるよ」

「ふあ…。ああ、……わかった」

 眠い目をこすり、水蜜が起きると警戒した眼差しで横たわってぼんやりと天井を眺めている女性の方を見る。

 襖を開け、部屋の中よりも涼しい廊下を歩いた。聖の部屋に向かうとまだ明かりのついていない部屋が多い中で、彼女の部屋だけが明かりがついている。

「失礼するよ」

 障子を開けると部屋にはご主人と聖、ぬえたちがいる。私と水蜜以外全員が集まっていたらしい。

 雰囲気から察するに、聖を問いただしていたようだ。なぜ彼女を助けたのかと。

「……。お話し中に申し訳ないが、起きたよ」

「そうですか。わかりました」

 聖はそう言うと正座から足を解いて立ち上がり、私の方に歩いてくる。彼女が部屋から出るとご主人たちも小さくため息をつきつつ立ち上がり始めた。

 私は聖の横を並んで歩き、気になっていることを聞いてみた。

「聖、どうして彼女のことを助けたんだ?村紗も言っていたが、君のことだから何か考えがあるんだろうけど、リスクを負うのはこちらだ。……リスクを犯すわけを教えてもらいたい。皆が知りたがってる」

「そうですね。これから説明する予定なのですが……」

 聖はそこで一度言葉を切らし、私の方をチラリと横眼に見た。あれから数時間は立っているはずだが、まだ説明をしていないらしい。

 きちんとした理由ならもう喋っていてもおかしくはない、なのに話していないということは、まさか。

「ちゃんと私たちが納得できる理由なんだろうね?」

「……。」

 そう彼女をといただすと、苦笑いをしている。苦笑いをしている場合じゃないだろ。ここまで感情で動くタイプだとは、少し予想外だ。

「彼女らが怒りそうだな」

 不満そうに後ろをついてきているご主人たちを肩越しに眺めながら、私は聖にそう言った。

「そしたら一緒に弁解してくれませんか?」

「嫌だよ。私にも怒りの矛先が向くじゃないか」

 聖よりも早く足を動かして彼女を追い抜き、水蜜がいる部屋の閉じて置いた襖を開けた。眠そうな目つきで天井を眺めていた彼女は、私に気が付くと顔を傾けてこちらを見上げてくる。

 さっきよりはましになっているが、まだ意識がはっきりとはしていないのだろう。ボンヤリとした目つきは変わらない。多少の会話ができたから聖たちを呼んだが、ちゃんと会話はできるのだろうか。心配になって来た。

「調子はどうですか?」

 私よりも一足遅れて聖が部屋の中へと入って来ると、こちらを眺めている女性にそう声をかける。

「よくないからここに寝てるんだぜ、聖」

 力なく女性はそう答えた。私を知っていた時点で大方予想はできたが、向こうの世界には聖もいるのだろうか。

「まあ、そうですね。…昨日のことは覚えていますか?」

「………かすかに」

 私と同じ返答を聖に返した辺りでご主人たちがこの部屋の中に入って来た。あまり広くはない部屋に人口が密集し始めたため、途端に蒸し暑くなってくる。

 私は寝ている女性の足元に座り、聖は顔のすぐ横へと正座して座り込んだ。ご主人たちも彼女を囲むように座っていく。

 異次元から来た人物であると聞いているため、隠そうとはしているが何となく周りから女性に対する敵意を感じる。

「あなたにいくつか質問をしてもいいですか?」

「ああ。大丈夫だぜ」

 敵意を向けられているからだろう。女性のぼんやりしていた目つきが変わり、はっきりとした口調で聖に言った。

「いつまでもあなたと呼ぶのも面倒なので、まずは名前を教えてくれませんか?」

 確かに女性とか彼女とか表現するのにもそろそろ限界であるため、聖の提案は悪くはない。別に名前を知られたからと言ってそれが悪用されるということは無いだろうし、会話の最初としてはいい感じだろう。

「………あー…」

 しかし、女性はそれを聞くとばつが悪そうに急に歯切れが悪くなる。

「どうしたんですか?べつにあなたは記憶喪失で、自分の名前がわからないということではありませんよね?」

「まあ、そうだが…」

 言えない理由がよくわからない。私たちを警戒しているとしても名前を教えないのは不自然だ。どっかの世界のように名前を知られたら技までわかってしまうわけでもないだろう。

「助けてもらったくせに、なぜ名前程度も教えてくれないんだ。こっちがどれだけのリスクを負ってお前を助けたのかわかってるのか?」

 私がそう考えていると、一番敵意をむき出しにしていたぬえが、後ろから私たちの前に出て女性に言った。

「そ、それは十分にわかってるよ…!……ただ…その……」

 たじろいだ彼女はぬえにそう言うが、やはり言わない。言えないのか言いたくないのかは知らないがね。

「抑えてください」

 先が三つに分かれている槍を構えて、寝ている女性に向けていたぬえに聖は静かにそう言った。

「なぜですか!名前すら言わない奴なんて怪しすぎるじゃないですか!」

 ぬえの言い分はもっともだ。名前ぐらい言えないだなんて、怪しい。……ん?……名前が…言えない…ね。

 私が考え込み始めてから少しの間をおいて、聖は再度口を開いて威圧するように低い声で言った。

「みなさん…抑えてください」

 ゾクリと背筋に寒気が走る。殺気を出したわけではないが、聖の出した敵意にぬえも含めて女性に対して敵対心を持っていた全員が怯み、制することはできたようだ。

「そうだよ。一度、皆は深呼吸をするといい。聖の肩を持つわけではないけれど、不安で苛立っているんだろう。でも……聖もきちんと彼女を助けた理由の説明をしてくれ…そうすれば皆はこんなに敵意を丸出しにはしないんだから」

 今の聖のやり方では反感しか買わないだろう。それを少しでも薄れさせるために皆に言うと、仕方なさそうに大きく呼吸をして気分を落ち着かせている。

「そうですね。申し訳ありません…」

 そう言われた聖は申し訳なさそうな顔をして、ご主人たちを見回すと深々と頭を下げて私たちに謝罪をした。

「そんな。聖が謝らないでください。貴方のことですから何か理由があって助けたんでしょうけど、その理由がどんなものでも怒りませんので、正直に言ってくれませんか?」

 深呼吸をして落ち着いたご主人が頭を下げた聖にそう言うと、彼女はようやく女性を助けたわけを話し出す。

「わかりました。その…………彼女がとてもまっすぐな目をしていたので…」

 

 その日、普段は全く怒らないご主人が珍しくブチ切れた。

 




次の投稿はいつになるかわからぬ。でも、失踪はしないと思います。
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