東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいよ!
という方は第八十三話をお楽しみください。

来年の二月くらいまでこの投稿ペースになります。申し訳ございません。


東方繋華傷 第八十三話 入り込む

 魔力を手のひらの中へと貯め込み、光の性質を含ませる。更に貫通性能にも特化させ、こっちに向かって走り出した異次元ルーミアへとレーザーを撃ち放つ。

 相手はかわすかと思ったが、腕の表面に硬質化した魔力を覆い、その手でレーザーをガードすると押し切る形で突っ走って来る。

 紫が怪我をしつつもダメージを与えてくれたおかげだろう。異次元ルーミアの動きが鈍いように見える。そのため奴の攻撃を避けることは容易だ。

 早めに攻撃を切り上げ、大振りの握り拳を繰り出してきた異次元ルーミアのパンチをしゃがむことでかわした。私は奴よりも頭一つ分以上も小さいことで体格差もあるが、身体強化された妖怪の攻撃には当たらない方が吉だ。

 こうして普通通りに戦えてはいるが、トラウマを乗り越えらえたわけではない。ただこうしているだけで、なぜかわからないのに恐怖を感じ、気分が悪くなって気持ち悪い。

 でも、戦えているのは以前紫から聞いていた話を思い出したからだ。霊夢は私と戦うことで100%かそれ以上の力を発揮することができると。しかし、異次元霊夢に一時的に記憶を操作されていることで力を引き出すことが出来ない。

 記憶を消されたまま私が死ねば、力を引き出せない霊夢は異次元霊夢によって殺されるだろう。自分としては、そっちの方が怖かった。

 大好きで、心から愛している人間が死ぬ、殺されると考えただけで何とも言えない脱力感に全身が襲われ、眩暈と頭痛に襲われた。吐き気も出てきてトラウマ以上の恐怖が沸き上がって来る。

 だから私は異次元ルーミアに立ち向かうことが出来た。でも、恐怖を原動力にするのは付け焼き刃で長くは続かない。なぜならそれを原動力にしてしまえば先に待っているのは恐怖に押しつぶされての精神崩壊か、または耐えきることが出来ずに精神崩壊するかの二つに一つだろう。

 だから、私は怒りを原動力とすることにした。それが正解かはわからないが、今はそうやっていなければまた発狂してしまいそうで、このトラウマを乗り越えられるまでこうしているしかないだろう。

 身体能力、耐久性能を同時に魔力で強化。しゃがんだまま地面と平行に異次元ルーミアの足めがけて蹴りを打ち放った。霊夢や美鈴のような強い攻撃ではないが、足払いで転ばせることぐらいはできるだろう。

 異次元ルーミアの踵に私の足がぶつかった。鈍い音が鳴るが、奴の体が宙を舞わなかった。自分の足が振り払いきられることは無く、痺れるような痛みが走だけでそこに奴との力の差を感じた。

 異次元ルーミアが握った拳を私へと突き出してくる。これを食らえばただでは済まないことは食らう前からわかる。

 腹へと向かう拳に当たらないように体を捩じり、躱そうとするが攻撃の直後だったため十分に捩じることが出来ず、わき腹に拳がめり込んだ。

「がっ……ああああああああああっ!!」

 衝撃によって拳と地面に挟まれ、内臓が押しつぶされるよな感覚を感じたころには激痛が体に走った。

 まともに食らったわけではないが、この威力はこれ以上当たるわけにはいかない。異次元ルーミアの胸に手を添え、エネルギー弾をぶっ放す。

「がっ!?」

 エネルギー弾の運動エネルギーをほぼ百パーセント胸に与えられたらしく、弾幕が弾けると爆発でも食らったかのように上空へと吹き飛んでいく。

「紫!」

 彼女の名を呼ぶがもうすでに準備ができているらしく、上へ吹き飛んで行った異次元ルーミアの周りに開いたスキマが配置された。

 その中央にいる異次元ルーミアへ、紫は二メートル近くある鉄の棒を大量に射出する。

 あらゆる方向から奴に向けて飛ばされているというのに、奴にまったく当たる気配がしない。

 時速数百キロメートルで飛んでくる鉄の棒を素手で折り曲げ、へし折っていく。そのうちの一本を異次元ルーミアは掴み取ると、それを武器として使って鉄の棒を破壊していく。

 魔力で浮遊し異次元ルーミアは樹木の裏へと隠れ、飛んでくる鉄の棒を回避してこちらへ接近を試み始めた。遮蔽物が多いため成功する確率は非常に高い。重症の紫に近づけさせるわけにはいかない。

 私も紫の攻撃に加勢し、レーザーを放とうとすると木の間から異次元ルーミアは持っている鉄の棒をこちらへと投擲してきた。木があるため、得物は必要ないのだろう。

 回転してこちらへ飛んでくる鉄棒を躱そうと地面を踏ん張ろうとするが、殴られた腹部に鈍痛が響いて膝がガクガクと笑い、動くことが出来ない。

「ぐっ…!」

 手のひらに溜めていた魔力をレーザーに変換し、回転しながら飛んでくる鉄棒へ迎撃のためにレーザーを放った。

 レーザーが鉄の棒を半ばから焼き切ったが、二つに分かれただけでこちらに飛来するのには変わりない。

 紫が私の目の前にスキマを展開しようとしているが、ギリギリ間に合わないだろう。でも何もしないわけではない。

 目の前の空間には何もないが、魔力を配置してそれにコイルの性質を帯びさせた。それに電気の性質を組み込んだ魔力を流し込み、強力な磁力を生み出した。その磁力は紫が飛ばしている鉄棒の軌道を変えられるほどだ。

 木や地面に突き刺さった鉄の棒がこちらを向き、高速で飛んできていた鉄の棒がビタッと、配置していた魔力に引き寄せられて場所で停止した。

 魔力の供給を止め、磁力を消滅させた。重力によって落ち始めた鉄棒を両方掴み、異次元ルーミアへと投げ返した。

 初めて扱う物であったため扱い方がわからず、うなりを上げて回転していく一本は異次元ルーミアが通り過ぎたところを横切り、もう一本は木の幹に突き刺さってしまう。

 投げた鉄の棒が自分に飛んできていないことを早くに察知した異次元ルーミアは、二本目が木に刺さるよりも早く私に向けて方向転換して走り出す。

 しかし、私に向かうには紫の前を横切らなければならず、絶好のチャンスで攻撃しない彼女ではない。

 異次元ルーミアが走る距離をできるだけ長くさせるために後ろに下がっていると、紫が開いていたスキマから時速数百キロにもなる速度で鉄の棒や岩を飛ばしていく。

 大量に物を飛ばしたとしても、やはり安全地帯は存在する。私に向かう速度が多少遅くはなるが異次元ルーミアに攻撃は当たらない。

 地面に鉄の棒が突き刺さり、土を抉りながら岩石が砕ける。その弾幕の中を走っている異次元ルーミアは突き刺さって取るのにはちょうどいい高さにある鉄の棒を地面から引き抜いた。

 三十センチほど地面に入り込んでいたらしく、湿っている土が鉄の棒にこびりついている。異次元ルーミアはそれを魔力で強化し、私ではなく紫に対峙する。

 向かってきている岩石や鉄の棒を叩き落すためかと考えたがどうやら違ったようで、得物は得物でも投げるために拾ったらしい。

 私にしたのと同じように、紫へと向けて鉄の棒を投擲する。身体強化も施されている異次元ルーミアの投擲した鉄の棒は、紫がスキマから放っている鉄棒などと同じかそれ以上の速度が出ている。

 二本とも紫に直撃するコースで飛んで行っているが、撃ち落そうにも今から魔力をレーザーにしていたのでは間に合わない。ここは彼女に頑張ってもらうしかなさそうだ。

 紫は飛来してきている鉄の棒へ向けて岩石など面積の広い物を飛ばしていく、魔力で強化されているため当たっても砕かれるばかりだ。あと数メートルで彼女に直撃するという所でようやく一本目の鉄の棒を破壊した。

 しかし、もう一本を撃ち落とすだけの時間も距離も足りず、二本目の鉄の棒が紫の右肩に直撃した。魔力で強化された鉄の棒は皮膚を突き破り、肩と首の間に存在する鎖骨を砕く。それでも勢いは死なず、踏ん張り切ることがでいなかった紫は後方へと吹っ飛んでいく。

 背中側にまで到達した鉄の棒が筋肉や皮膚を突き破り、それが飛ばされていた方向に茂っていた木に抉り込んだことで縫い付けられてしまう。

 スキマへの魔力の供給がストップしたのだろう。開いていた空間が閉じて紫の攻撃が止まった。

 紫は援護できる状態ではなく、奴からしたら邪魔者が入らないまたとないチャンスだ。こちらに向き直っていた異次元ルーミアは、さっきの倍以上の速さで走り出す。

「……き…………か…」

 左手のひらに溜めていた魔力をレーザーに変換し、放とうとした時だ。何か小さな声が頭の中に聞こえて来た気がした。

 異次元ルーミアが何かを言った訳でも、紫が話したわけでもなさそうだ。とすると、単純に私の聞き間違いだろう。

 手のひらサイズのレーザーを異次元ルーミアへと放とうとするが、聞き間違いをしてしまったせいで時間を無駄にしてしまった。

 もう少し早ければ異次元ルーミアの手は私には届かず、安全な場所からレーザーを撃てるはずだった。

 異次元ルーミアは伸ばしていた手で私の腕を掴むと、真上へと向けさせられた。放つ段階まで来ていた攻撃は空へと飛んでいく。

 私よりも図体がデカい異次元ルーミアに接近戦を挑まれれば、身体の強化を施したとしても体重の関係上、よほどのことがない限り不利になるだろう。

 エネルギー弾を放つため、手のひらに魔力を送り込む。しかし、十分な魔力を攻撃に回すよりもはるかに早く、異次元ルーミアが動き始める。

 左手を掴んできている方とは逆の手を私の首に伸ばしてきた。私よりもは圧倒的に手のひらは大きく、人間離れしたその握力で声帯を握りつぶされそうなほどに締め付けられる。

「あっ…!?……かぁ…っ…!?」

 首を絞められたことで脳にも血が回らなくなり、首を掴まれてからわずか十数秒で意識が遠のき始めることだろう。

 このくそ暑い夏だというのに長袖を着ているからわかりずらいが、そこまで筋肉質なわけではないくせに、身体強化を施した私が殴ってもビクともしない。

 魔力を持っている時点で見た目などあまり当てにはなりはしないが、他の連中もこれほどまでに耐久力が高いなら何か対策をしなければろくに戦うこともできないだろう。

 エネルギー弾を放ってやりたいが、奴が私をがっしりと掴んでいる以上は下手に吹き飛ばす攻撃をしてしまうと、掴まれているこちらにまで余計な損害が出てしまう。エネルギー弾を一度魔力へ還元し、レーザーへと再度変換を行う。

 首を絞められた時間が三十秒ほど経過し、チアノーゼで脳の回転が鈍りだす。その影響が既に出ているのか、頭の中がぼんやりとして、レーザーへの変換が上手く行かない。それどころか魔力を手のひらに維持することもできず、魔力が霧散してしまう。

「っ……う……あっ………!」

 もがく私を異次元ルーミアは持ち上げた。足が地面を離れ、体を空中で維持しているのが奴の掴んでいる首だけとなり、体重がそこに集中して苦しさに拍車がかかる。

 魔力を酸素に変換して体に循環させようとするが、脳へ行く血管を締められているため効果は全くと言っていいほどにない。

 そうしているうちに、抵抗が弱まってきた私は異次元ルーミアに引き寄せられた。奴は血生臭い口をグバッと開いた。

 上に持ち上げられていた左手の二の腕に顔を寄せると、異次元ルーミアは何の迷いもなく噛みついた。歯が皮膚を切り裂くと耐え難い痛みが神経を伝わる。叫び声も上げられず、何も発せない口がパクパクと開いたり閉じたりを繰り返す。

 歯が筋肉にまで到達し、筋線維をブチブチと断裂させる。ようやく歯と歯が合わさると、腕から口を引き離して腕の肉をひき千切った。

「~~~ぁ~~~~~っ!!?」

 食いちぎられて口の形に抉れている部分から、血が流れ出て地面に落ちて行く。ダラダラと流れ落ちていく血が地面で跳ねてズボンや靴に飛び散っても異次元ルーミアは気にも留めない。おいしそうに肉を咀嚼すると、噛み砕いた肉を数度に分けて飲み込んだ。

 口元を血まみれにしている異次元ルーミアは、楽しそうに口を小さく開くと私の顔に近づいてくる。

 腹を蹴ったり、右手で振り払おうとしても酸欠で頭が働かない私の抵抗など取るに足らないらしく、異次元ルーミアは私の顔に牙を立てた。

 唇が食いちぎられ、口を無理やりに開かせられる。一秒も立たずに口の中が血の味で満たされた。吐き出そうにも異次元ルーミアはそれすらも許してくれず、私の舌に歯を食い込ませた。筋肉の塊が歯によって切断される音が頭の中に響く。

 激痛が脳を埋め尽くし、逃げ出そうと一心不乱に暴れる。食事の邪魔にでもなったのか鬱陶しいという表情になった異次元ルーミアは顔を離すと私のことを投げ捨てた。

 受け身を取れず頭から地面に突っ込み、起き上がるのに十数秒を有した。

 停滞していた血が脳に流れ込み、酸素を取り込んだことで曇りがかっていた頭の中がはっきりとしていく。しかし、空気を吸える喜びを感じるはずもなく、舌や腕を食いちぎられた激しい痛みに打ちのめされる。

「あっ…が……!……う、あ……!」

 両手で押さえても流れ出ていく血を止めることができないことが、唇を引き裂かれた現実を強調しているかのようだ。

 絶えず激痛の走る腕や口を回復させようと魔力を送り込むが、既に後方から聞こえていた咀嚼音が止まり、すぐ真後ろまで異次元ルーミアが歩く土の音が迫っていたが、それも止まった。

 服の擦れる音、それは異次元ルーミアがしゃがむ動作をしたことを意味し、大きな両手で私の両腕を押さえつけると逃げられないように固定した。今更ながら抵抗を始めた私の首筋に、奴は後ろから噛みついた。

 魔力でさっきよりも体の耐久性能を強化していたが、異次元ルーミアの鋭い歯は難なく皮膚を切り進む。

「あああっ…!!?」

 異次元ルーミアの歯が硬い骨に到達する。簡単には噛み砕くことが出来なかったのか、彼女の方から顎の筋肉を強化する魔力を新たに感じた。

 レーザーを顔に浴びせてやろうとするが、それよりも早く何かが超高速で異次元ルーミアへと放たれる。

 私に食らいつくのに意識を向けていたため異次元ルーミアはそれに対応できず、飛んできた物体を腹部で向かい入れる。

「がっ!?」

 絞り出したような悲鳴と共に、私を拘束していた両腕と噛みつかれていた首筋が解放され、食いちぎられて動かしずらくはある左手をポーチの中に入れた。

 掴み取ったそれに魔力を込めながらポーチから引き抜き、刺さった鉄の棒付近を押さえて後ろによろけている異次元ルーミアへ、ミニ八卦炉を向ける。

 マスタースパークの回路を作る暇がなかったため、大量の魔力を炎へと変換し、ミニ八卦炉を通して異次元ルーミアに炎をぶっ放した。

 膨れ上がった赤い炎は異次元ルーミアどころか森を飲み込み、全てを燃やして吹き飛ばす。

 炎を照射する勢いが強すぎたらしく、踏ん張ることが出来ずに後ろへと体が移動するが、マスタースパークほどではない。

 ミニ八卦炉に送り込んでいた魔力が尽き、炎の勢いが減ると時期に蝋燭程度となり、数秒と立たずに消えた。

 炎によって地面や木が焼かれ、一部では炎が燃え移ったのか木々が燃え始めている。その焦げた地面に異次元ルーミアの姿は無い。

 燃え尽きたわけではない。魔力の炎で炭になっている木もあることにはあるが、大部分がまだ残っているのだ。魔力を使えるものがそう簡単に焼き尽くせるものではないだろう。

 かなり至近距離で撃ち、その勢いに遠くへと吹き飛んだらしい。見渡す限り異次元ルーミアの姿は無い。

 炎の照射はマスタースパークほどの負荷はかかっていないらしく、あまり熱くはなっていないミニ八卦炉をそのままポーチの中に入れた。

 例え吹き飛んでいなかったとしても、炎に焼かれてしばらくは異次元ルーミアも動くことが出来ないだろう。今は回復するとしよう。

 ポーチの中から回復薬を取り出し、蓋をしているコルクを抜いた。口の周りに振りかけて一部を口の中に含んだ。魔力で回復を促進させていたが、回復薬を加えたことで更に早くなることだろう。

 回復しているとすぐ横にスキマが開き、血の流れ出ている腹部を押さえた紫がその中から現れる。

「魔理沙、大丈夫?」

 彼女はそう呟いてくるが、それはこっちのセリフだ。明らかに私よりも重症じゃないか。舌を食いちぎられたことで言葉を発することが出来ず、無言で手に持っていた回復薬を紫に差し出すが使おうとはしない。

「?」

「戻って永琳にでも治療してもらうから大丈夫よ。それよりも今は元の世界に戻りましょう。ルーミア一人でこの有様、もっと強い奴もいるだろうからこっちに責めるのは自殺行為よ」

 そう言ってくる紫に対して、私は口の中に含んでいた血と混じった回復薬を飲み込んでから自分の意見を言おうとするが、舌が再生する間待ってもらい、普通にしゃべれるようになってから意見を言った。

「いや、私は戻らないぜ」

「どうしてかしら?」

「理由は二つ。一つは奴らが三日おきに責めてくる理由がわかったからだ」

 私が理由のひとつ目を話すと紫は首をかしげる。何かわかるようなイベントが特になかったからだろう。今のところは異次元ルーミアと戦ったということしかやっていない。

「ここら一帯…というか、おそらく幻想郷全体にここの霊夢達とは違う奴の魔力が充満してる……」

 姿が見えないのにその存在を感じる。

 厳密にはそうさせている魔力であるが、魔力の性質からは本人と密と疎をつかさどる物が感じられた。ということは、考えられるのはただ一人。

「霊夢達とは違うやつ?……」

「ああ、萃香だ。能力で全身か体の一部をそうさせているのかはわからない。多分前者だが、こうして密と疎を操る程度の能力で幻想郷全体に自分を漂わせているのは情報収集のためだろう。私たちの世界につなげることが出来るのは紫のいるここの霊夢達だけ。粒子の一部を送り込み、情報を集めて戻らせようとしていたんだろう。」

「なるほど、スキマを閉じれば戻って来る手段は無くなり、粒子にある魔力の量なんてたかが知れてるからそれらが死滅するまで時間を空けてたってことね」

 おそらくそういう意図があったのだろう。そうでなければこんなことはしないはずだし、そういう目的でなかったら怪我を負っていなかった異次元霊夢たちが数日おきに責めてきていた理由に説明がつかない。

「二つ目は、私がいるとこれでここの伊吹萃香にも伝わった。その状態で元の世界に戻ったとして、隠しておく理由もなくなったここの霊夢たちがスキマを開けっぱなしにしたらどうなる?連中が向こうに雪崩れ込んでくるぜ」

 確かに、と紫は食い下がる。目的が私の何かであるため、ここに私を送り込んだままにすれば異次元霊夢たちも元の世界に責める理由もなくなる。霊夢たちが闘わなくてもよくなるのだ。

「……いや、それでも…」

 私一人をここに残すことにためらいがあるのか、何かを言おうとするがそれを遮って私は言った。

「だから、紫はそのまま戻って霊夢たちがこの世界に来れないようにしてくれ」

「………。霊夢たちをこっちに送らなかったとして、あなたが負けて……奴らが目的を達成して、こっちに責めてきたらどうするつもり?……あなたが死んだら困るって言ったでしょう?」

「それもそうだが、……霊夢たちが混ざると状況がややこしくなる。私のことを敵対しているからな。会えば咲夜と早苗の仇だって襲ってきかねない。同士討ちなんてバカみたいだろ?だから、しばらくは一人でこっちにいた方が私は戦いやすいぜ。見分ける必要もないしな」

 理由を言うがそれでも紫は渋っている。まあ、そうなるのもわかる。さっきまで使い物になってなかったからな。でも、今なら大丈夫だ。

「私はお前が幻想郷のことを最優先に考えているのと同じで、霊夢の安全を第一に考えてるつもりだ。……巻き込んだ時点で安全もクソもないが、それでもできるならこれ以上は関わらせたくはない。それに、もう大丈夫だ」

「魔理沙あなたの気持ちは分かったわ。でも、今回は一度退きましょう。この怪我では満足に戦えないでしょう?」

「私の怪我は大したことは無いぜ。それに……私はもう十分逃げて来た。……それに、状況が変わったから逃げるわけにはいかないんだぜ」

 私がそう言うと紫は観念したようで、小さくため息を付くとわかったと私の考えを飲んだ。

「あなたにもあなたなりの考えがあるのなら、それでいいわ。でもこっちにいれば妙蓮寺の時みたいに助けることはできないわ」

「わかってる」

 別の次元であるため簡単には手出しできないということだと思ったが、紫から伝えられたことで違うとわかった。

「簡単に手出しできないっていうのも間違いじゃないけど……一つ分かったことがあるわ。こっちに来るために開いたスキマだけど、あそこから移動できないみたいなのよね」

 私よりも重体の紫はスキマについての説明を始めた。早く帰って治療をした方がいいのではないかと思うが、それでも話すということは重要なことなのだろう。彼女がスキマの方へ指をさすのでその方を見た。

 入ったときとは違った、空中にヒビが入っているような亀裂となっているスキマ。彼女はつなげていたスキマを解除したらしく、亀裂が修復されていく。

「もう一度今度は目の前に向こうにつながるスキマを開こうとしたのだけれど、さっきと同じ場所にしかスキマを開けなかった」

 スキマの場所が固定されているということだろうか?今の彼女の説明ではまだわからないため耳を傾けた。

「こっちに来る際に、自分で行ったのとあなたの前。二か所で問題なくつなげられた…でもこっちの世界ではこの場所でしかスキマを開けないようなの」

「つまり、来る際には必ずここに来るしかないわけで…帰るのにもこの場所に戻ってくる必要があるのか」

「そういうこと、…それで思ったのだけれど…」

 紫はそう呟くと一拍の間をあけて再度話し始めようとするが、彼女の言いたいことはもうわかった。私たちにその法則が適用されるということは、異次元霊夢たちも例外ではないということだ。

「ここの霊夢達…なんで直接博麗神社とかにスキマをつなげて奇襲をかけないのかと疑問だったんだが、そういう理由があったのか」

「ええ、そういうことでしょうね。幽香と戦い終わったときにここの霊夢が現れたのよね?…なら、奴らが現れるのは太陽の畑からということになるわね」

 別の世界に行くのには元の世界ではつなげる場所は限定されない。しかし、つなげた先は固定され、そこにしか移動することはできない。これを知れたのは大きい、どこから奴らが現れるかわからないという恐怖が無くなりはした。しかし同時に弱点でもある。亀裂の周りに待ち構えられ、移動した途端に攻撃を受ける可能性があるため、そう簡単にここには来れないから手出しが難しいということか。しかし、法則を知ったためそれは向こうも同じだ。

「……とりあえず、太陽の畑の周りに藍とかに見張らせよう」

「ええ、勿論そのつもり」

 奴らの移動先で待ち構えていることが分かれば、来ようとする考えの抑止力になる可能性もある。私以外は来る予定はないため、こちらにとっては良い情報だ。

「それじゃあ、戻りたいときには連絡するから、紫は帰って傷を治してくれ」

「ええ……くれぐれも無理しないようにね」

「ああ」

 紫がスキマを開き、それをくぐるのを私は見送った。その時、もう逃げないと考えていた決心が揺らいだ。この場所に居たくないという昔のトラウマがくすぶり、スキマをくぐってこの世界から逃げ出したくなった。

 スキマが閉じ始め、亀裂が小さくなっていくごとにその気持ちは大きくなっていく。前に動き出しそうになった足を気力が抑えた。

 亀裂が完全に閉じると、その場に残された私は喪失感や虚脱感を覚えた。不安が沸き上がり、どうしようもない感情に埋め尽くされる。

 落ち着け。そう自分に言い聞かせた。ここで逃げてどうするんだと、何のために私はここに来たんだ。もう逃げないと誓った。私が闘わず、霊夢が殺される方が怖い。そうだろうと。

 深い深呼吸をして、早くなっていた鼓動を押さえる。

「ふう」

 食いちぎられた二の腕や唇と舌は回復薬のおかげもあり、この十数分の間で完治させることが出来た。

 魔力は総量の一パーセントも使ってはいない。だが、磁力を発生させるようにするため魔力にコイルの性質を持たせるという行為は初めての試みであり、余計な魔力を食ってしまった。これから使うのならもっと効率の良い方法を見つけるとしよう。

「行くか…」

 異次元霊夢は腐っても一応は巫女だ。博麗神社にいるだろう。私は黒煙が上がっている村のさらに奥に見える博麗神社へと向かうことにした。

 

 異次元ルーミアに魔理沙と紫が交戦している最中。二人と一人の注意がお互いに向いている間に、亀裂をくぐる者がいたことを三人が気が付くことは無かった。

 




次もいつになるかわかりません。

なので気が向いたら見てやってください。
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