東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

知れでもいいよ!
という方は第八十四話をお楽しみください。


東方繋華傷 第八十四話 暗殺

 林と言うよりも森に近いぐらい木が密生しているため昼だというのに少し暗い。でも、魔法の森ほどではないため見通しが悪くなるほどではない。

 しかし、見通しがよくなる分だけ木の葉っぱの量が少ないため上から発見されやすい。早く抜けたいところだ。

 紫と別れてから約三分程度の時間が経過したが、一向にこの林を抜けられる気配がしない。

「……」

 人の目であれば木の下を歩いている一人の人間程度なら見えることは無いだろう。だがそれは自分と同じ人間というカテゴリーに当てはめた場合だ。

 例えばだが、自然界に存在する鳥類に鷲という動物が存在するのはご存じだろう。その動物は空高く飛びながら地上にいる小動物や遠くで飛んでいる鳥類を視認し、更には時速数百キロメートルという速度で降下しながら得物を捕まえる。目の良さもさることながら動体視力も人間とは比べ物にならない。そんな奴がいるとすればおそらくここでじっとしていたとしても見つかってしまうだろう。

 なぜ私がこんなことを考えているか、それは鷹以上の速度で空中を移動する人物がこの世界にも存在しているからだ。幻想郷一早いといわれている射命丸文…あいつが本気で誰かを探そうと思えば、地中や四方を周りから見えないように囲われた場所でない限り見つかるだろう。

 秒速百メートルを軽々と超えていそうな速度で飛び回っているあいつが、木の下にいる私程度の人間を見つけられないわけがない。

 現に、さっきの異次元ルーミアとの騒ぎを聞きつけて来たのか、数百メートル上空に羽のようなものを生やした人型の飛行体が見える。異次元文かもしくは別の鴉天狗だろう。

 あいつらがすぐに飛んできたということは、ここでの役割は情報屋ということか。喧嘩っ早い奴ならすでに地上に降りているだろうし、戦っていた辺りを飛び回っているということは情報でも探りに来たのだろう。

 異次元霊夢たちと敵対している勢力もあるだろうし、どちらが勝ったのかと。しかし、小さな小競り合いでは来ないだろう。そんなの、遠くに見えるいくつもの黒煙の下かまたは周辺で行われているからだ。

 なら、よりによってなぜ私が闘っていた場所に来たのか。絶対とは言い切れないが異次元ルーミアに顔をかじりつかれた時、上空へ向けてレーザーをぶっ放していた。あれが目印になってしまったのだろう。

 ほとんどの戦いが近接戦で、弾幕を使うこと自体が珍しく、球状の弾幕ならまだしもあまり使い手のないレーザーが見えたためだろうか。

 その辺は確証はないためわからないが、まったく面倒だな。

 こっちで地の利があるのは向こうなのだ。前にここにいたといわれればそうなのだが、どこに何があるのかは十年も前のことなのでよく覚えていない。

 呪文を詠唱して、魔法を発動した。光の屈折を調節し、望遠鏡と同じ原理で上空を飛んでいる人物をズームして観察をした。

「……あれは…」

 こっちの奴と大体同じ恰好をしている。赤い山伏風の帽子、白いワイシャツにフリルのついた黒いスカート。異次元射命丸文が上空を旋回しているようだ。

 よりによって情報に深く絡んでいる異次元文に見つかったら、一日と立たずに私がこの世界に戻ってきたと幻想郷中に知れ渡ることだろう。

 魔力の供給を止めて魔法を停止させた。飛んでいるのが異次元文だとわかった時点でこの場所から遠ざかる理由が増えたわけだし、早めに移動するとしよう。襲ってこられても困る。

 異次元霊夢が存在している時点で博麗神社は未だに健在だろう、どこか見通しのいいところに出て異次元霊夢のいる場所へと向かうとしよう。

 こっちとバランスが同じとは限らないが、博麗の巫女が一番強いという常識は変わらないだろう。大元を叩くのが手っ取り早い。

 歩きながらそう考えるが、一番強い彼女に勝てる可能性は極めて低い。こっちでは誰も助けてはくれないから助けを求めることもできない。状況次第では異次元霊夢達が狙っている物をチラつかせて手を組ませることも可能かもしれないが、リスクがデカいためあまりこれは試したくはない。

 それに情報不足が否めない。短期決戦であるのであればあまり関係は無いが、どうも異次元霊夢たちは私をワザと殺さない風潮がある。目的があるのもそうだが、目的があるのならさっさとやればいいはずであるのに彼女たちはやらない。

 初めて異次元霊夢が私たちの前に現れた時、奴らは言っていた。私の準備がまだできていないと、それが理由だとしたら長期戦になるのは明らかだろう。彼女らに私を捕まえる意志も殺す気もないのだから。

「……」

 異次元霊夢がなぜそうするのかを私は覚えていない。それに関連したことも思い出したいところだが、いくら思い出そうとしてもなぜか思い出すことが出来ない。

 だから、情報収集して奴らの目的を聞き出せばその対策もできるかもしれない。のだが、先ほどの異次元ルーミアとの戦いで少し私は焦っていた。

 死んでも生き返れるとは言え、妖精があれほどの力を持っているということは他の連中は相当な力を持っているかもしれない。情報を集めるのにもかなりのリスクを負うことになるはずだ。誰かに話しかけるたびに襲いかかられたんじゃあ、疲労がたまるのはこっちだ。全力を出せる今のうちに早めに異次元霊夢に挑んだ方がいいのではないか。

 異次元霊夢に挑むのには情報を集める以上のリスクはあるが、すでに私の中では結論が出ていて、その足は博麗神社を見つけるために見晴らしのいい場所を求めて歩き出していた。

 百メートルほど進むと数十メートル先で木々が少なくなり、森の麓に差し掛かった。進んでいる方向が間違っていなかったことがわかり、胸をなでおろした。森の中を彷徨うことにはならないようだ。

 しかし、肝心なことに気が付いていなかった。森の麓に差し掛かってきたということは、先ほどまでのように木々は密集して生えてはいないということになる。

 つまりは上空から異次元文に発見される確率が高くなっていることを意味している。

 ヒュウッと風が吹く。普段ならそれに違和感を持つことは無かっただろう。だが無風状態の森の中で、周りの草木が揺れずに後ろから風だけが来れば、警戒している私が振り向くだけの理由になる。

「あやや、お久しぶりですね。魔理沙さーん」

 口元を嬉しそうに歪め、片手にカメラを持っている異次元文が立っていた。彼女の見た目はこっちの文とあまり変わらず、口元や表情が歪に歪んでいなければパッと見は見分けがつかなかっただろう。

「っ!?文…!」

 手に魔力を送り込み、そこでレーザーへと変換した。異次元文に手のひらを向け、いつでも放てるようにする。

「あやや、怖いですねー。私は戦いに来たわけではないので、そこまで警戒しなくてもいいですよ」

 明らかな敵意を向けられているというのに構えようともしない異次元文は、私には勝てるという自信があるのか、そう呟きながらこちらから目を離してカメラを弄り始めた。

「信用できると思ってんのか?」

「まあ、そうなりますよねー。どうでもいいですが。……私はただあなたがこの世界に来たという話をお聞きしたので本当かどうかを確認しに来ただけですよ」

 誰かから聞いたということは、吹き飛ばした異次元ルーミアから聞いたということだろうか。しかし、あれだけの大火力を間近で受けて、この短時間で活動を再開するのは難しいと思うが、私が思っている以上に奴の回復力は高かったのだろうか。

 いや、異次元ルーミアが異次元文に私の存在を教えたとは思えない。力を自分の物にしたいのに、力を手に入れる確率を低くするような行為はしないはずだからだ。

 しかし、奴と戦っているときに、異次元霊夢達のような私から何かを奪おうとしている感じはしなかった。

 となると、異次元文にバラさない理由にならないのだが、異次元ルーミアが全身を焼かれ、ほんの数分で喋れるレベルまで回復したとは思えないと結論付けた。いくら妖怪でもこの短時間では無理だ。

 多分、彼女はただあの場所にたまたまいただけで、力などは求めていないのだろう。ということはこいつの仲間である異次元椛の千里眼などで遠くから見られていた。と考えるのが辻褄があうのだが、どこにいるかもわからない人物をピンポイントで見つけることなどできるのだろうか。

 以前、椛に能力を使っているときの話を聞いたことがあるのだが、特定の誰かを見つけようとするのには、詳しい座標が必要だと言ってた。

 椛の能力は位置が既にわかっていたりするのならばいいが、不特定多数の人物を広い範囲で探し出そうとすればかなり使い勝手が悪い能力だ。

 ただし、特定の決まった狭い範囲を探すことに向いているため、ある程度の位置を絞ったうえで探したというのなら納得ができる。椛もそれで天狗のいる森の中という、ごく狭い範囲を監視しているからだ。

 しかし、この森はおそらく天狗たちの森ではない。もし天狗たちの森ならば異次元ルーミアとの戦いで囲まれていただろう。いや、戦う以前に現れることすらなかったはずだ。そうなると、異次元椛が探し出したと言う線はなさそうだ。

 疑問は残るが、今は異次元文をどうするかが問題だ。

「それで、私をどうするつもりだ?捕まえて奴らに引き渡そうっていうのか?」

「いいえ、そんなことはしませんよー。私は力なんかには興味はありませんからね」

 それなら何が目的なのだろうか。力が目的でないということは、そっち関係の利益で動いているわけではなさそうだ。

「じゃあ、何が狙いだっていうんだ?なぜここに来た?」

「私は、面白いスクープを見つけて記事にするだけですよー。近頃は進展がないので面白い物が書けなかったんですよ。なのであなたが帰ってきてくれたことには感謝ですよ」

 私の質問に対して彼女はそう答える。こいつは力などの利益は必要としていない。戦況を記事にすることでゲームの審判のような立ち位置になる。異次元文はこの状況を楽しんでいるようだ。

 やはりこっちの連中はそろいもそろって頭のねじが外れている。異次元文は誰にも追いつけないほどのスピードがあるからできることだろう。それがあったとしても、普通なら戦争を楽しんでみるというこういうはしないはずだろうからだ。

「こんなところ、帰ってきたくもなかったぜ…」

「そうでしょうね。それじゃあー、私はこれからやらなければならないことがあるので、御機嫌よう」

 異次元文は背中の黒い羽を羽ばたかせ、地面の砂を舞い上げながら空中に浮き上がる。そして、手に持っていたカメラのシャッターを押し、私のことを撮影する。

「私のことを広めるつもりか…」

「ええ、そりゃあそうですよー。ある意味主役のあなたが返ってきたわけですから、おもてなししないといけないじゃあないですか」

 こちらを見下ろしていた異次元文は、私の質問に対してそう答えた。

「お前だって殺される可能性があるのに、よくそんなことが言えるな」

「そりゃあー、殺される危険がないわけではないですよ。貴方をここで殺して霊夢さんたちの計画を潰すことだってできます。でも、それじゃあつまらないじゃないですか」

 彼女がこの状態を楽しんでいるため殺されなかったわけだが、面白い面白くないに重点を置いている奴が私を殺すわけもないか。

 ここでこいつが私のことを広めて困るのは異次元霊夢達だ。戦い合ってくれれば私の負担も減る。後のことを考えればこいつと無理に戦うことは無い。

「見下げた奴だ」

「なんとでも言ってくださいなー。そんなことは私にとってはどうでもいいことなので」

 彼女はそう言うと羽を羽ばたかせ、弾丸のようなスピードを出して上空へと飛んでいく。マッハほどのスピードは出ていないとしてもそれなりに衝撃波も発生し、異次元文を中心に暴風によって草木が揺らされる。

 木の葉を避けずに行ったのか、木の枝や千切れた葉っぱが落ちてきた。

「…」

 これで、異次元霊夢は私に向かってくる奴らを無視することが出来なくなったはずだ。奴らに勝てる算段もなく、力も手に入れられないのなら計画をぶち壊すために殺そうとする奴も少なからずいるだろうからだ。

 森を抜けると、数百メートル先に村が見えた。その村から黒い黒煙がいくつも上がっている。戦闘が行われているのか、行われていたのかはわからないが、重要なのは誰が誰と戦っているということだ。

 異次元霊夢が闘っているのか、または他の勢力同士が戦っているのか。潰しあってくれているのなら、私としては嬉しい限りだ。

 村までの道のりで、新しくも古くもある戦闘の痕がかなり目立ち、骨になっているような死体から半分腐っているようにも見える死体がぽつぽつと転がっている。

 ろくな世界じゃないな。常に鼻につく腐ったような匂いや煙の匂いが充満していて、慣れるまでに時間がかかりそうだ。

「……」

 博麗神社はどこにいるだろうか。周りを見渡してみると、村から少し離れた位置にある山に石造りの階段が見えた。それを登っていく方向に目で追うと、赤い鳥居に小さな神社が姿を見せた。

 十年も昔で形などは覚えていないが、一部壊れている部分も確認できた。襲撃で壊されたとしてもどれだけ続くかわからない戦争に、治しても壊されるだけだと治していないのだろう。

 あそこに異次元霊夢はいるはずだ。私はまっすぐそこに向かうのではなく、大回りで村を迂回して向かった。現在あそこでは戦闘が行われているのが遠目にもわかる。

 現地では大きいのだろうが、小さな爆発が起った爆音が一歩遅れてここにまで届いていた。それに巻き込まれるのは御免だ。それに、村は立地的に森に囲まれている。どこから見られているかわかって物ではない。

 時間はかかるだろうが、無理に危険を冒すような真似はしなくてもいいだろう。木々の間から見える博麗神社を目指し、再度歩き出した。

 風が吹くと葉が揺らされ、ガサガサと音がそこら中から聞こえてくる。上を見上げると、葉っぱの間から時折雲一つない晴天。見える角度が真上に行くごとに、空の青色が海の奥のように濃くなっていく。

 漂っている死肉と硝煙の匂いや爆発音に目を瞑って情景だけ見ていれば、この場所であっても平和に感じる。

 それぞれの器官で感じることのできる状況のギャップに、違和感が生じた。

「…」

 こうして一人で歩いていると、いろいろと考えてしまう。私は異次元霊夢に勝てるのかということや倒せなかったらどうなってしまうのかと不安が募る。

 一度考え出してしまうと止まらず、私は戦場にいるというのにボーッとそれらについて考えていてしまっていた。

 目の前が見えておらず、歩いていると頭から何かにぶつかってしまった。木にぶつかってしまったのかとも思ったが、それにしては柔らかすぎる。

 そして、背中に人肌ほどの温かさを持つ物が触れられたことでそれが木などでないことを確信した。

 悪寒が背筋を撫で、鳥肌が立つのを感じた。バッと顔を上げると頭一つ分以上、紫と身長がそう変わらない二人組の女性が立っていた。一人が横に立っていて、もう一人は私の背中に手を回している。

「お前…!」

 掴んできている女性の口が左右に裂けて白い歯がのぞいた。固まって呟くことしかできなかった私に顔を近づけて来ると、口を開いて噛みついて来た。

 

 

 無風。

 特殊な場所に位置している場所だと空気はあるというのに、風という概念がないらしくこうしてしばらく歩いているというのに全く風が吹く様子がない。

 まあ、それはいつものことではあるのだが、違うのは周りと違ってかなり緩い平和ボケした空気が館中を漂っている。

 木も葉っぱが無駄にお生い茂らないように丁寧に切り取られ、雑草などが一本もないほど庭の端から端まで丁寧に手入れが施されていて、几帳面さがよく分かった。

 その庭を横切り、大きな館へと向かう。石畳を歩くと靴が石に当たるごとにコツコツと音が鳴る。無風で静かなこともあってそれがやけに大きく聞こえた。

 縁側まで行くと部屋を仕切っている襖が開いていて、室内が見えるが住人はいないようで、面倒であるが探さなければならない。

 ここにいてくれれば楽だったのにと、自然とため息が漏れてしまう。まあ、ここでため息を付いていても仕方がないし、失礼してここから入るとしよう。

 そう思って靴を脱いで縁側から上がろうとすると、ヒタヒタと素足で木の床を歩く音が近づいているのが聞こえてくる。

「……」

 縁側に上がろうとしていたのを止め、脱ぎかけた靴のつま先で石畳を叩いて履き直した。

「あら、もう帰って来たの?時間がかかりそうって言ってなかった?」

 彼女はそう言ってこちらを見た。

「ええ、そうなんですよ」

 私はそう言って彼女に笑いかけた。

 




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