東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもいいよ!
という方は第八十五話をお楽しみください。

もしかしたら二月の辺りまで次を投稿できないと思います。


東方繋華傷 第八十五話 死者か生者か

「チルノちゃん。逃げられちゃったね」

「ごめんね大ちゃん!意外と力が強くて離しちゃった」

 声は大人びているはずなのに少し子供っぽい口調の二人は、お互いの名前を呼び合って拘束から逃れた私を見る。

 緑色の頭髪に黄色いリボンをつけ、ドレスのような洋服を着ている異次元大妖精。青い髪に青いリボンと胸元には赤いリボンのある洋服を着た異次元チルノ。

 異次元ルーミアと戦った時にも思ったが、こっちにいる幼い姿ではなく私を通り越して身長はかなりデカい。紫とそう変わらないぐらいだ。そして、どことなくまともじゃない奴の雰囲気がする。

 姿などは異次元霊夢達が霊夢たちとは違い、幼い面影は残ってはいる。彼女らはなぜそんなに成長しているのかは疑問ではあるが、今のところ三人にしか会っていないから確定はできないが、妖精は皆こうなのだろうか。だとすれば見分けるのは容易ではある。

「っち……」

 噛みつかれる寸前に顔を横に傾けたことが影響し、右目の上を噛みつかれてしまった。皮と筋肉を一部食いちぎられたおかげで血が流れ出し、目に入る。右側の視界が一部悪い。

 私は目の上を手の甲で拭い、二人に対して舌打ちをした。ボーっとしていて周りを見ていなかったとはいえ、まさかぶつかってしまうとは思っていなかった。この世界は全土が無法地帯にも等しい。気を抜いてはいけない。

「次はちゃんとやらないとね。チルノちゃん」

「わかってるよ大ちゃん!あたいはサイキョーになるために頑張るよ!」

「うん。私も手伝うよ、チルノちゃん」

 異次元大妖精はそう呟くとこちらを見た。会話の内容から私の力狙いだということがわかるが、異次元霊夢の言っていた準備というやつがこの二人にすらできることなのだろうか。

 少し情報を引き出してみるか。

「なんだ、お前らも力がほしいのか。…でもそのやり方を知ってるのか?」

「力がほしいのは当たり前じゃないか!それであたいはサイキョーになるんだ!…その為に名前忘れたけどお前を殺して、食って…その力を手に入れてやる!」

 私のことを食って力を手に入れる。異次元霊夢の言っていた私の準備というのに矛盾する。食うだけなら準備など必要ない。

 情報の出どころによるが、おそらくウソの情報を掴まされているか、噂話などの正確性のないものを信じているのだろう。

「だからお前は馬鹿だっていうんだぜ」

「なっ!?サイキョーのあたいのどこがバカだっていうのさ!」

「なら、情報のでどこを言ってみろよ。こっちにいるイかれた野郎ども(異次元霊夢ら)が、そう不用意に本当の情報を流すと思うか?情報操作をするはずだ」

 異次元チルノが私の言っていることを理解できたかはわからないが、バカと言われたことで子供のように癇癪を起している。

 二人が本当の情報を掴んでいないと知れたところで、次はどう対処するかを考えていると、異次元大妖精が私を鋭い目つきで睨み付けて来ているが、固有の能力特有の魔力の性質が感じられた。

 ボッと小さな音。ガスコンロの炎が付いたときのような破裂音が耳に届いたときには、異次元チルノの横に立っていたはずの異次元大妖精は、黒い少量の煙を残して消えていた。

 狐か狸に化かされたかのように、忽然と姿を消した異次元大妖精の姿を見つけようとした直後、荒々しい殺気が真後ろに出現して私に襲いかかる。

 こっちの大妖精はあまり好戦的ではなく、戦っているところをほとんどと言っていいほど見たことがない。だから彼女の能力を忘れていた。

 瞬間移動だ。

「嘘だったとしても、試す価値はあるとは思いませんか?」

 後ろから聞こえてくる冷えた低い声、こちらに向けられている敵意が木が枝を伸ばすかのように、私の方へ異次元大妖精は腕を伸ばしてきているのが振り返らなくてもわかった。

「っ!」

 振り返りざまにレーザーをぶっ放そうと、手のひらを後方の大妖精へと向けた。緑色でショートの鮮やかな髪が目の前でチラついたと思ったころには、また黒色の煙を少しだけ残して姿は無い。

 やられた。振り向いてしまっている以上は、今更異次元チルノの方を振り返るのは不可能だ。

 真後ろから聞こえてくる破裂音に、消えた敵意が背中を撫でる。

 霊夢など運動神経がいい人間なら、ここからでも十分に攻撃をかわせるだろう。しかし、無理やり体を捻ったとしても私が攻撃をかわすこと自体が難しいだろう。

「それと、チルノちゃんのことを馬鹿にするな!」

 斜め下からわき腹へ打ち上げるような蹴り、体の耐久性能を強化していたとはいえ体の中にまで衝撃が浸透していく。威力だけ見れば早苗たちの打撃とそう変わらない。

「うぐっ…!?」

 吹き飛びはしなかったが、体が軽いせいで少し持ち上がった。その表情を見た異次元大妖精は意地の悪い笑みを浮かべ、膝から崩れ落ちそうになっている私の髪を掴んでくる。

「い…づ……ぁ…っ…!?」

 蹴り上げられた痛みがわき腹から肺へと突き抜けていき、呼吸で使われる肋骨にある筋肉が硬直して息が吸えない。

 異次元大妖精に掴まれている頭を下に押し込まれた。曲がった体は相手からしたら蹴り上げやすい物らしく、顔に膝が叩き込まれた。

「あがっ…!!?」

 歯が砕け、鉄の味が舌に広がる。唇の毛細血管が潰され、その裂傷から血が滲む。一滴にも満たない血が付着している膝が顔から離れていく。

 痛みに耐えられない、振り払うこともできずに再度の蹴りが、押さえるために伸ばしていた手ごと顔面に叩き込まれた。

「ああっ!?」

 柔らかい小石でも潰したかのような軽い音。折れた骨が潰れ、粉々に破壊された。その破片が周りの組織を引き割き、皮膚を突き破る。

 三度の蹴りで歯が自分の口と手の皮膚を引き裂いた。異次元大妖精が押さえつけていた手を開いたらしく、蹴りの衝撃で押さえのなくなった頭が打ち上げられてしまう。

 異次元大妖精が拳を握った。その手を大きく振りかぶりこちらへ振り抜いた。指の折れた右手で顔を押さえたまま左手に魔力を集めた。

 魔力をレーザーに変換し、異次元大妖精へとぶっ放す。だが、二度に渡って移動していたのと同じように、小さな黒い煙と破裂音を残したままこちらを見ていた異次元大妖精は消え去ってしまう。

 レーザーは誰もいない空を切り、その先に生えていた木を貫いた。熱線によって加熱された木は発火を起こし、チリチリと小さな火を上がっている。

 前方から起こった反響して小さくなっている破裂音。それとは違ったわずかに大きい爆発音が後方から発生している。

 振り返るまでもなく、後ろに現れていた異次元大妖精が私の足首を強力な蹴りで打ち払う。

「うあっ…!?」

 その威力に頭とそう変わらない高さへと足が打ちあがった。それだけでは終わらず、いつの間にか私の上へと移動していた異次元チルノがツララ状に形成した氷の弾幕を数発はなって来る。

『……きこ…ま…か…』

 異次元ルーミアと戦っていた時に聞こえていた気がしていた声、それがまた聞こえた来た。今度は、より大きくよりはっきりノイズ交じりに聞こえた。

 あの時のあれは、聞き間違えではなかったのだろうか。しかし、この状況に何ができるというわけではない。一発が腕を貫き、一発がわき腹を抉る。太ももを一発が突き刺さる。

「ぐっ…!?」

 地面に背中を打ちつけた私の胸を、上から落ちて来た異次元チルノが掴みかかった。乱暴に掴まれた影響で爪が服と皮膚を切り裂き、持ち上げ上げられた。

 掴んだ腕を振り払おうにも指の骨が砕けていて掴むことが出来ず、間もなく異次元チルノにぶん投げられる。

 十数秒に渡る体の浮遊の後、その運動エネルギーが物体に衝突したことでいきなりゼロとなる。木に叩きつけられた私は、受け身を取ることもできずに頭から地面へ倒れ込んだ。

「かはっ……」

 体に力が入らないということは無い。しかし、折れた指、ツララの刺さった腕、足やわき腹を抉られているせいで力を入れることが出来ないのだ。

『……聞こえ…ます…か?』

 聞き間違えではない。今度はくっきりはっきりと女性の声が頭の中へと響いた。幻聴だろうか。でも、幻聴にしてはえらくノイズがかかっているし、聞いたことのある声だ。

 幻聴を聞いたことがないため本当に聞こえている物なのか、そうでないのかはわからないが、私のことを呼んでいるようだ。

「聞こえてるぜ。それで、お前は誰なんだ?」

 私は単刀直入に声の主へ語りかけた。聞き覚えのある声ではあるがノイズのせいで特定することが出来ない。

『もう忘れたんですか?あなたが言ったんですよ?私の目的を果たしてやると』

「………え…?」

 そのことについてはよく覚えている。それを言った人物など一人しかいないのだが、頭の中が混乱している。

「え…?生きてたのか?」

 いや、生きているわけがない。私の目の前で彼女は死んだ。それだけは絶対にありえないはずなのだ。しかし、実際に声を聴いていて記憶と矛盾している。

 しかし、実際に話しかけてきているのも事実であり、口調や声は十六夜咲夜の物だ。死んだふりをしていて隠れていたりしたのだろうか。

 混乱していていろいろな考えが頭をめぐるが、バックの中から咲夜の魔力を感じた。彼女の魔力が私の魔力に近い波長に変換されて流れ込んできている。

 手や腕、足の痛みを忘れて私はバックを開くと、魔力の発信先には咲夜から手渡された銀ナイフが転がっている。

 彼女は死ぬ寸前に、大量の魔力を銀ナイフへと注ぎ込んでいた。それの性質が複雑で何なのかがわからなかったが、今わかった。

 銀ナイフにある魔力は大きく分けて二つ。一つは咲夜の記憶だ。魔力でデータ化したものだ。もう一つは咲夜の膨大な量の魔力。

 あの時に咲夜は死んだが、本当ならばもっと生きるはずで合ったのだ。そこで彼女は自分の寿命を魔力へ変換し、所有している以上の魔力を生み出した。

 そして、魔力で記憶をこの銀ナイフへコピーしたのだ。これには膨大な量の魔力が必要であるだろうが、寿命で生み出した魔力の量は膨大だ。それ故にできた荒業だろう。

『返答するのであれば、生きてはいませんよ。死んでいます』

「………死んではいるが、一部分が厳密には死んでいない…存在が曖昧だな」

『どうでもいいです』

 自分の死だというのに、冷たい奴だな。まあ、それのおかげで話は速そうであり、私としても漫画にでもありそうなしゃべる妖刀ではあるが、咲夜であるためあまり取り乱すこともなかった。

「それで、何の用だ?……今、お取込み中なんだが…!?」

 咲夜と話していると、いきなり目の前へ異次元チルノが小さな破裂音を発生させながら出現し、氷の刀を私に突き刺すように突き出した。異次元大妖精の瞬間移動は他人を移動させることもできるようだ。

 体を捻ってかわした。直撃は避けることはできたが、刃先が頬を掠ったことで皮膚が切り裂かれ、血がだらりと頬を撫でる。

 追撃が来る前にその場から飛んで逃げだした。足に刺さったツララのせいで上手く走ることが出来ないのだ。

 腕に突き刺さっているツララを取るのは後回しだ。足のけがを治すことに集中しよう。魔力を足のケガへ向かわせる。

 刺さっているのがツララでよかった。氷で周りの肉組織や血管が冷却され、出血を押さえることが出来るからだ。

『こっちの私をあなたは殺してくれると約束しました。でも、あなた一人であいつを殺せるようには思えないです。それでは困るので私は手を貸そうと思います』

 私の魔力に波長を合わせるのに慣れて来たのか、ノイズはだいぶ無くなって聞き取りやすくなってきている。

「どうやって?そのまま飛んで行って相手と戦ってくれるのか?」

『そんな面倒なことはしません。私が貴方の頭の中に入り込んで戦いの補助をするのです』

 それは大丈夫なのだろうか。一時的にとはいえ別の人格を自分の中に入れるのだ。乗っ取られたりしないのだろうか。私の考えを汲み取ったかのように咲夜は言った。

『ご心配なく、無限にあるわけではない有限の魔力をあいつと戦うために温存しなければなりません。乗っ取りなどの非効率的な方法は取らないです。私がすることはせいぜいナイフを使用した戦い方や作り方を貴方に教えることだけです』

 なるほど。莫大な量の魔力を持っているとは言え、それで体を乗っ取られたとしても私も無抵抗なわけではない。永続的に押さえつけるのには持続的な魔力の消費が必要であり、これから戦う異次元咲夜は魔力がいくらあっても足りないような奴だ。自分から負ける要因を作るわけがないか。

 それに、異次元咲夜との戦いにむけて何かしらの武器や戦略が欲しいと思っていた。私の目標達成にも丁度いい。

「そうか、方法はわかった。でも、今は忙しいんでな…少しおとなしくしててくれ!」

 ボッと破裂音がすると、いきなり目の前に異次元大妖精の大きな体が現れた。武器を持たない彼女は私につかみかかるように飛びかかって来た。

「っ!?」

 魔力を使用し、自分の高さを調節する。魔力をジェットの炎として背中から噴出し、下方向へ体を高速移動させ掴みかかって来た異次元大妖精をかわした。

『いえ、私がこの状況で話しかけたのは戦うにあたっての事前準備のためです。』

「事前準備?」

『ええ、私があなたの補助をするだけとはいえもう一つの人格が入り込みますし、どんなことが起こるかわかりません。大丈夫かどうか見極めるためにも今のうちに一度、練習で私が入り込んだまま戦っておこうと思ったのです』

「なるほどな…」

 私が危惧したとおり、咲夜に乗っ取る意思がなかったとしても初めての試みで何が起こるかわからない。ぶっつけ本番で予想外のことが起こるのは困る。

「わかった、じゃあ、どうしたらいいんだ?」

『あなたは何もしなくてもいいです。貴方の魔力に変換した私の魔力を送りますのでそれを受け入れてください』

「ああ」

 咲夜の人格の一部が魔力によって複製され、それが私の魔力に変換される。咲夜のいる銀ナイフを、私は掴み取った。

 魔力の波長は同じように設定されているが、まったく同じわけではなく似た魔力が触れた銀ナイフから伝わって来る。もう一つの咲夜という人格が頭の中に流れ込んできた。

 魔力を使用して拒絶することなく、咲夜を受け入れると、彼女の記憶である銀ナイフの投げ方などの扱い方、得物の材質や重さや強度などの詳しい情報。そして、彼女の憎悪が頭の中を駆け抜けていく。

「っ!?…ああああっ!?」

 咲夜自身、記憶に憎悪をワザと入れたわけではないだろう。死んだ彼女はその時恨みや怒りなどで満たされていた。それが複製した記憶に深く根付いてしまったのだろう。

 背筋が凍るような想像を絶する異次元咲夜に対する怒りや恨みに不意を突かれ、それに飲まれないように気をしっかりと保つことに必死だった私は地面に落下した。

 異次元咲夜に対する。殺害欲求が頭の中を嵐のようにぐちゃぐちゃに駆け回っていく。その情報量に頭が割れそうだ。

『どうしました!?』

 やはり彼女自身は気が付いていないらしく、驚いた様子でそうたずねて来る。落ち着かせるために返答をしようとするが、気を抜いて人格を向かい入れたことで、思ったよりも強烈な台風のような憎悪に耐えるので精一杯で答えることが出来ない。

「っ…!」

『大丈夫ですか?』

「…………あ、ああ……大丈夫だぜ」

 私の後ろに着地していた異次元チルノが肩を掴んできて、そちらの方へと向かせられた。

「死ね!魔理沙!」

 握っている氷の刀を胸に突き刺そうと振りかぶっているが、私のことを見るや否や眉をひそめ、掴んでいた肩を離した。

「お前、何なんだよ!」

 憎悪に耐え、地面に転げ落ちた甲斐はあったようだ。驚いた異次元チルノが手を離したスキに、足が届く範囲にいる彼女のことを蹴り上げた。

「がっ!?」

 悲鳴を上げた異次元チルノは木々のすき間を縫って上空へと飛んでいく。

「なんなんだって…どういうことだぜ」

 自分の手のひらや腕、足などを見回してみても特に変化はない。となると、見えない範囲に変化がないということだろうか。

 異次元チルノらから逃げつつも体の変化を確認するが変わった部分を見つけることが出来ない。だが目の前で揺れている髪の色がいつもと全く違うことに気が付いた。

「へ?」

 走りながら肩に垂れ下がっている三つ編みを掴んでみると、黄色い色ではなく咲夜のような銀色の髪となっている。

「おい咲夜、これは一体どういうことだ?」

『ええ、見えています。』

 魔力を受け入れたことで咲夜と繋がっていて、そこから情報が彼女にも言っているらしく声が聞こえてくる。

『おそらくですが、私を受け入れた先が頭部であるのでその影響が髪に出ているのかもしれませんね』

 一番近い位置にある髪の毛が咲夜の魔力に当てられ、彼女の髪と同じ色へと変化した可能性が高いと。

「なるほどな…」

『とりあえず、あの二人をさっさと倒してしまいましょう。あの二人に勝てないようではこっちの私に勝つことはできないですよ』

 確かにそうだ。こいつらに勝てないようでは、異次元咲夜に勝つことなど夢のまた夢だ。咲夜の銀ナイフの性質を持った得物を魔力で作り出した。

 彼女の情報をもとに作り出したのだが、初めて作った割には上手にできたように思える。オリジナルの銀ナイフと見比べてみても見分けがつかない。

 小さな破裂音が後方から聞こえてくる。いきなり現れた異次元チルノが雄たけびを上げて突っ込んできたことで距離が測れ、横に飛びのいて氷の弾幕をかわした。

 二十センチはある氷のツララが半分ほどまで地面や木にめり込んでいる。ただの氷だというのに、この威力。

 私は気を引き締め、銀ナイフを強く握った。足のけがはほとんど治ることには治ったが、力むとまだ少し痛みが走る。

 腕に刺さっている氷の刃を引き抜き、足に回していた分の魔力を腕の傷への送り込み、後方から迫ってきている異次元チルノの氷の刀に銀ナイフを叩きつけた。

 銀ナイフと打ち合わせせると氷の破片が弾け、ぶつかった部分から氷の刀が半分にへし折れる。

 折れた刀を投げ捨て、異次元チルノは氷の刃をこちらへと飛ばしてくる。軌道的に私に当たる物のみを銀ナイフで破壊し、後ろへと下がっているそこへ魔力を凝縮したエネルギー弾をぶっ放した。

 後ろへ下がったとはいえ、異次元チルノまでの距離は五メートルもない。彼女は氷の弾幕を放とうとしているが、ある程度の大きさを持つ氷を素早く作り出すことが出来なかったらしく、こちらに伸ばしていた手にエネルギー弾が直撃し、はじけ飛ぶ。

 腕を惹かれるように異次元チルノは後方へ吹き飛んで行くが、その下を異次元大妖精が跳躍してくる。

 氷の刃が刺さっていた方の手には得物を持ってはいなかったが、腕の怪我も治ってきたため咲夜の銀ナイフの性質を持った武器を魔力で複製した。

 咲夜の記憶から銀ナイフの扱い方はわかっている。右手に持っていた銀ナイフを刃の方へ持ち替え、迫ってきている異次元大妖精へと投擲する。

 こちらを見ていた異次元大妖精の姿が黒い煙となって消え、銀ナイフと私の間に姿を現した。

 しかし、異次元大妖精は武器という武器を所有していない。身体強化の性質を持った魔力を感じるが、得物が無ければ咲夜の戦闘技術で対処は容易だ。

 記憶があるとはいえ実際にやるのは違うだろうが、注意をしなければならないのは、体格差である。相手の方が腕の長さや体重などが自分を上回る際、それらは大きなデメリットとなりうる。

 なぜならボクシングなどで体重によって級が分けられているのは、それが原因でもあるからだ。

 でも、それは武器を持ったもの同士、素手同士であればある程度なら適応される。武器持ちである今回の場合は、私の方が有利だ。

 突っ込んできた異次元大妖精の攻撃を一歩後ろへ下がったことで避け、逆手に持ち替えた銀ナイフで奴の左腕を肘から切断した。

「せえええい!」

 切れ味が抜群に高い銀ナイフのおかげでかなり切断しやすい。しかし、それでも肉や骨を切るという感触は気分の良いものではない。

 それが精神的に来たらしく、無意識のうちに握っている手から力が抜けてしまい、振り切ると同時にすっぽ抜けてどこかへと飛んでいく。

『攻撃ではない限り、武器は手放さないでください』

「わかってるぜ…」

 咲夜の言いたいことはわかるが、でも慣れていない者からしたらそれでも気分が悪くなるほどに不快だ。

「ぐっ…!?」

 飛びかかってきていた異次元大妖精は片腕が無くなったことで体勢をグラリと崩した。銀ナイフの性質を持った魔力により得物を作り出し、頭へ向けて振り下ろす。

 敵を切るということに少し抵抗感があり、振り下ろすのが遅れてしまった。こちらを見上げていた異次元大妖精は黒い煙を残して消えてしまう。

「気持ち悪い。さっきから何一人でブツブツ言ってるんだよ!」

自分らに話しかけるでもなく独り言を離していれば、異次元チルノがそう私に言うのもわかる。

「うるせえ。こっちにもいろいろあるんだぜ」

 真後ろに破裂音を発生させながら現れた異次元大妖精から離れ、前方から襲いかかってきた異次元チルノの攻撃を銀ナイフで受け止めた。

 今度はかなり強度に魔力を割り振ったらしく、銀ナイフに打ち付けただけで砕けることはない。

 だが、切断能力の性質をほとんど感じない。切るというよりは叩き潰すなどの打撃で攻撃してくるはずだ。

 いきなり息を吐けば吐息が真っ白になるほどに辺りの気温がぐっと下がった。まるで煙草でも吹かしたかのように口から漏れた息が真っ白な軌跡となってその場に残り、その煙を異次元チルノの氷が切り裂いた。

 彼女から一定の距離を取ると、気温が下がった理由がわかった。氷の剣をこん棒に作り替えたのだが、サイズが剣よりも一回りも二回りも大きくなっている。それならば作り出すのにそれだけ気温を下げる必要があったのだ。

 薄着の夏服では零度程度にまで低下した中での戦闘はまずい。時間の経過とともに動きが制限されてしまう。

「くらえええええっ!」

 細かった氷の刀の先端が凍結によりこん棒のように肥大化した武器を、高くジャンプした異次元チルノは重力を利用してこちらへ得物を振り下ろした。

 

 

 

 

「魔理沙が来たようですよ。霊夢」

 石で造られた床に赤い絨毯が引かれている廊下は数十メートル先まで続いており、そこを歩いていると後ろから咲夜の声が聞こえる。

「あらぁ。ついにばれっちゃったわねぇ。まあいいわ、こっちに来てもらった方がやりやすいところもあるしねぇ」

「しかし、他の連中も動き出すのでは?」

「あんたらと同じで連中はやり方は知らないからぁ。捕まえたところで同行できるわけじゃないわぁ」

 振り返った私は二の腕の辺りから肩、頬に古傷のある咲夜がそれでも眉間にしわを寄せ、苛立った顔をしている。殺されたらどうするつもりなんだと言いたげだ。

「大丈夫よぉ。誰もが魔理沙のあの力を欲しているからねぇ。捕まえはすれど殺しはしないわぁ……だって力をすぐに手に入れられなくても利用することはできるかもしれないからねぇ、この戦争に勝てる可能性を殺すなんてことは無いわよ」

「それは一理あります。しかし、自分たちが手に入れるのが不可能だと判断した屑どもが手に入れられないのなら、殺すという行動に出ることは無いのですか?霊夢」

「それも絶対にないわぁ。それが起こるのは本当に最後だからねぇ、その頃には私たちだって行動してるだろうしぃ、止められないはずがないわぁ……だから今は放置するわぁ」

 このとき彼女らは知る由もないが魔理沙は異次元霊夢たちはすぐにでも来るかと考えていたが、当たっている部分もあるが半分は外れたようだ。

 私がそう説明すると、多少なりとも納得したようだ。そんなことよりも私はとあることに飢えていた。

「ねえ咲夜。今日私のお相手になってくれないかしらぁ?」

「断ります。なぜ私があなたなどに付き合わないといけないのですか。まだウサギの残りが何匹か残っていたでしょう?そっちを使ってください」

「冷たいわねぇ」

 まあ初めからとらえている場所に向かっていたのだが、咲夜がちょうどよく来たため聞いてみたがやはり断られてしまった。

「でもまあぁ、つまらなかった戦争がようやく面白くなってくるわねぇ」

 私がそう呟くと、タイミングを見計らったと思えるほどに近い位置での爆発音が響き渡り、赤いレンガで作られた館を囲う壁の一部が破壊された。煉瓦の塊や砕けてゴルフボール程度から指先ほどの大きさの岩石が壁や窓に辺り亀裂を作る。

 壁を破壊したのは、時代的に不釣り合いな外の世界の兵器だ。巨大な鉄の塊で、両側についたキャタピラーで砕いた煉瓦の山に乗り上げ、庭の中へと侵入した。

 どうやら情報を聞きつけた河童たちが早くも行動を起こしてきたらしい。本体と思える錆びついた鉄の塊の上部には長細い筒が取り付けられており、そこから黒い煙がモクモクと漂っている。

 あの主砲がどうやら壁を破壊したらしい。

 窓越しに私たちを確認したらしく、主砲の向きをこちらへと向けてくる。そのほかにも戦車という外の世界にあるはずの兵器には、機関銃と呼ばれる弾丸を連続的に発射する武器が取り付けられているらしく。連続的に主砲よりも軽い発砲音が聞こえてくる。

 窓が砕け、煉瓦に大きな穴を作っていく。しかし、戦車自体が動き、さらには連続の射撃によって標準がブレているらしく、一向に私たちに当たる様子はない。

 こちらへと向けていた主砲がついに火を噴き、戦車を見つめていた私たちに向けて巨大な砲弾が発射された。だが、暴発を起こして主砲の筒が花のように蕾を開かせた。こんな都合よく暴発が起こる物か。

 隣にいる咲夜に視線を向けるとその手には銀時計が握られている。時を止めて主砲に石でも詰めて来たのだろう。

 私たちに攻撃できないと悟ったらしく、戦車は排気口から黒い煙を上げながら前進をはじめ、壁を突き破った。

 ひき殺すつもりらしい。

「本当、これからが楽しみですね。霊夢」

 あと一秒以上そこに留まればキャタピラに巻き込まれて死ぬ位置にいるというのに、咲夜と私は楽しそうに笑っていた。

 




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