東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもええで!
という方は第八十七話をお楽しみください。

出来れば一週間に一度のペースで投稿していけたらいいなと思います。


東方繋華傷 第八十七話 どちらの人間か

「……」

 なだらかとは言えず、急な坂を無言でゆっくりと上る。獣道だったり多少なりとも人の手が加わった坂ならばもう少し早く歩けるのだが、草や木が伸び放題で中々足が出せず一歩歩き出すのにも苦労する。

 休み始めた時間から一時間程度の時間が経過した。魔力で治癒力を促進させていたとはいえ、普通なら治すのに何週間もかかる骨折をこの短時間で治せたからいいのだが、それでも痛みが引くまでかなり長く感じた。

 それよりも今はこの坂を上ることに集中しよう。空を飛んでいきたいがそれだと神社にいるかもしれない異次元霊夢に見つかり、奇襲を仕掛けることができなくなってしまう。

 木の下を低空飛行で進めばいいのではと思うかもしれないが、正規のルートではないこの辺りはかなり荒れ放題で、とてもじゃないが飛びながら進めたものではない。今は地道に上っていくしかないわけだ。

 しかし、それは私にとっては悪いことだけではない。これだけ木や草が伸び放題なら気配を消しやすくもなる。

 あと坂を五メートル登れば神社につくのだが、ここからは慎重に上っていくとしよう。ある程度は草木が音を吸収してくれるが、それでも限度があるはずだからな。

 しゃがみ込んで乾いた地面に手を付き、青い草をかき分け音を立てずにゆっくりと四つん這いで進んでいく。

 異次元霊夢は霊夢と同様に勘が鋭い。見つからないように細心の注意を払わなければならない。

 そう思って十数分かけて一メートルを進んでいたのだが、その必要がないことに気が付いた。魔法で光を屈折させ、ここからでも坂を超えて博麗神社を見ることが出来る。

 光を屈折させるための簡単な回路を構築し、魔力を注いで起動させる。物が見えているのは光が当たり、その光が反射して自分の目に入り込んでいるからであり、相手側から飛んできた光のみを屈折させているため、こちらの姿があっちに見えることはない。

 地面と草しか見えなかった視界が、魔法を発動させたことで明るい博麗神社の景色へと変わる。

 以前に他の妖怪からか攻撃があったらしく、庭の一部が爆発で抉れていたり壁が壊れている。

 神社の縁側には異次元霊夢の姿はなく。神社の中にいるのかと思ったが、見える範囲に赤と白の巫女装束を身に着けている女性は見当たらない。

 光を屈折させる回数を一段階増やし、神社の中を覗き見ると台所や茶の間にはいないらしい。更に屈折の回数を増やし、風呂場やトイレ、納屋、屋根裏や縁の下まで確認したが異次元霊夢の姿は見つけることが出来なかった。

 だが、扉が締め切られて探すことのできなかった場所が一つある。寝室だ。少しでも扉が開いていれば光を屈折させて探すことが出来たのだが、ここだけは自分で探すしかないようだ。

 向こうからこっちが見える範囲ではいないということがわかり、私は一気に坂を駆け上がった。魔力で体を浮かせ、神社の寝室までの最短距離を飛行した。

 鞄の中からミニ八卦炉を取り出し、いつでもスペルカードを発動できるように回路を作成する。

 たった一人で異次元霊夢に勝てるのかという不安が頭をよぎるが、その邪念を振り払う。相手が現段階まで気が付いていなければ、チャンスはある。

 しかし、緊張で心臓の拍動が相手に聞こえてしまうのではないかと思うほどに大きく拍動し、それがまた不安を煽る。

「……」

 魔力で身体能力を強化し、閉じられた襖を異次元霊夢に感づかれる前に蹴り開けた。靴を伝ってやってきた衝撃に若干足が痺れるが、蹴られることを想定して作られていない襖は外枠の木が砕け、張られた紙が破れて吹き飛んだ。

 ミニ八卦炉魔力を溜めて構えたまま部屋に転がり込み、端からクリアリングしていくが、異次元霊夢がこの部屋にもいないことを確認する。

 この部屋もいないとなると、彼女は本当に神社にはいないらしい。異次元霊夢が返ってきた時のために罠でもしかけてやろうと思ったが、突入の仕方を間違えたな。

 襖が壊れていたらそりゃあ警戒して近づこうとは思わない。罠を仕掛けたとしてもかかることはないだろう。奴はそれほどバカじゃあない。

「…はぁ」

 無駄骨ではあったが、潜伏先を割り出すための情報になったことを喜ぶとしよう。寝室を出て行こうとした時、壊れた襖が何かを下敷きにしているような角度でふとんの上に落ちていることに気が付いた。

 誰かがいる。そう分かったが、異次元霊夢じゃあない。奴なら私が飛び込んできた時点で襖を破壊し、そのまま突っ込んできていてもおかしくはない。

 じゃあ誰がいるのか。

 それを確認するため、私はミニ八卦炉を再度構えて壊れた襖にゆっくりと近づいていく。ゆっくりしゃがみ、片足で襖を蹴ってどかした。

 誰がいようとミニ八卦炉の前に留めてあった炎をぶっ放すつもりだった私は、彼女のことを見た瞬間に思考が停止する。

 厳密にいえば、彼女を見て思考が停止したのではなく、他のことに脳の処理が向かなくなったからであるが、事実上停止したに近い。

 転がった襖が床や壁に当たって立てる音が嫌に遠くに聞こえる。ズキッと頭の奥で鈍い痛みが発生する。

「っ……」

 彼女を凝視したまま動けなくなっていた私の持っているミニ八卦炉。その前に留まっていた炎が、魔力の供給を断たれたことで形状を維持することが出来ずに魔力の結晶となって消えていく。

 しかし、それすらも私は理解していない。痛みの波が回をなす事に大きくなっていき、頭の中で小さな妖精でも暴れていると言っても否定できない激痛へと頭痛が変わっていく。

「あ…が……っ…!?……く…ぁ…っ!!」

 ミニ八卦炉を放り投げ、両手で頭を抱えて床に這いつくばり、頭を打ち付ける。頭の奥底から発生している極度の激痛に吐き気が込み上げ、何も入っていない胃からは胃液が込み上げて来た。

「ああああああああああああああああっ!!」

 床が吐き出した胃液でまみれ、額から血が滲もうとも頭を床から離すことが出来ず、喉が壊れるほどの絶叫をした。自分がどういう恰好をしているのか、何をしているのかもわかっていない私の頭にはノイズだらけのイメージが流れ込んでくる。

 

 

 縛り上げられた十数人の子供や大人。その中には泣き叫んでいたり、目を吊り上げて怒鳴っていたり、壊れてしまったのか何の感情も浮かべていない者もいる。

 そして、私の隣には血でまみれた異次元霊夢が立っており、目の前には多数の死体が転がっている。

 どういう状況なのか私が理解する前にノイズに覆われ、何も見えなくなった。

 

 ノイズが晴れると場面が変わっていた。

 異次元霊夢が女の子を一人抱えている。何かをこちらに話しているがノイズが酷すぎて何を言っているのか聞こえない。

 異次元霊夢が何かをしようとしているが、ノイズが視界を遮り、二人の姿が見えなくなった。

 

 次にノイズが晴れると、私は倒れ込んでいるようで天井が大きく視界に広がっている。

 ただそれだけなのかと思ったが、そうではないらしい。明るめの薄紫の長髪、かわいらしい大きなウサギの付け耳、そのかわいらしい付け耳とは対称的な恐怖を誘う細まった赤い瞳、黒い三日月の模様が入った赤いネクタイをしていて、その上にはブレザーを羽織っている。クリーム色の長いスカートを履いている鈴仙が視界の端から現れた。

 戦闘でもあったのか、彼女の服は砂や黒い煤でまみれている。破れている部分もあり、戦いの激しさが窺えた。イメージの中の私が彼女に気が付いたのか、そちらに顔を傾けると鈴仙もこちらを見る。

 少し怪我をしているのか、わき腹を押さえているが出血はなさそうである。近くで爆発でもあったのか地面を衝撃が揺らし、鈴仙が周りを見回している。

 それでも衝撃は来たらしく、屋根裏に積もっていた埃が木の間からパラパラと零れ落ちて来ている。

 部屋が壊れて崩れそうにないと判断すると彼女は安心した様子だが、焦っているようにも見えた。

 服の所々に血をこびり付けた彼女はすぐそばに膝をつくと、私の額に真上からピストルのように人差し指を突き出した手を構えた。

 イメージの中の私は怯える仕草もなく、ただその指先をじっと見つめている。彼女は目を閉じて顔を背けると呟いた。

「ごめんなさい」

 

 

「かっ…あぁ……う…ぁぁ………」

 イメージが途切れると頭をバットで殴打されているような激痛が引き始める。体を起こそうとするが四肢に力が入らない。気持ち悪さも退いてくれず、何も吐き出すものが胃の中にないのに、胃袋が何度も大きく収縮する。

 思い出したくもないトラウマの一部に、体が拒否反応を起こしているのだ。昔のことを体が思い出しているのか節々が痛みを主張し、喉や口には何かを詰め込まれるような圧迫感すらある。

 私がまともに体を起こせるようになるまで回復するのに、そこから約三十分の時間を要した。それまでに何度も嘔吐を繰り返し、全身の痛みにのたうち回ったのは言うまでもないだろう。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 どれだけの時間が経過しても動機が収まらず、呼吸が整えられない。ヨタヨタと目的地もなく歩き出そうとしていた私はバランスを大きく崩し、床に倒れ込んだ。

 さっきのあの映像。私のこっちにいたころの記憶だろう。断片的ではあるが、何があったのかは分かった。しかし、異次元霊夢達が何をしたかったのかはわからなかった。

 できるだけ見たイメージのことは思い出さないように気を付け、トラウマの症状を緩和させようと別のことを考えることにした。

 得られた情報のみを分析する。場の状況から察するに、人々を異次元霊夢が殺していた。ということだろうか。ほんの数秒の映像からはこのぐらいしか推測することが出来ない。

 二つ目の映像では少女が映っていたが、私が忘れているだけかもしれないが彼女に見覚えは無い。それに映像も一番短くこれから何かあろうとしていたぐらいにしかわからなかった。でも、何があったのかは何となくは想像がつく。

 三つ目の映像。

 あの鈴仙は、今目の前で倒れている裸の彼女で間違いないだろう。こちら側の鈴仙は死んでいるからな。

 なぜ裸なのかはわからないが、神社にいるということは異次元霊夢らに掴まっていたと考えるのが普通だろう。

 そして、今までの連中とは違う部分が一つだけあった。映像の時間が短くて間違っている可能性もなくはないが、明確な殺意を私に向けていた。

 今までの動きから異次元霊夢らは私を殺さないようにしていたし、異次元チルノたちは力を手に入れようと何かしら殺すとは違う動きが入っていた。

 だが、目の前にいる異次元鈴仙にはそれは無く、ただ私を殺そうとしていた。異次元霊夢らに力が渡るのを阻止するために殺そうとしていた。と考えられる。永琳が力を求めているのならば、殺すのではなく連れて帰るはずだからな。

 しかしだ。連れて帰るのが目的だったが、追い詰められて殺そうとしたとも取れる。

「……」

 結論から言えばあの映像だけでは、彼女がどちら側の人物なのかがわからない。もし、本当に私を殺そうとしていたのであれば、力を求めているわけではないため共闘が可能だろう。

 私に反撃ができない状況下で彼女に問い詰めるしかなさそうだ。

 動機が収まり、呼吸も整ってきた。頭痛もだいぶ退いてきて、ほぼないに等しいぐらいだ。

 口元を拭い、さっそく彼女を運ぶために近づいた。あれだけの音や声で目を覚まさないところを見ると眠っているというよりは、気を失っているに近い。

 整っていてきれいな顔をしているが、とても疲れている印象を受けた。彼女の体には暴行の痕跡はあまり見られないが、一つ気になるとすれば股間から出血の跡がみられることぐらいだろう。

「……?」

 なんでこんなところから出血しているのだろうか。例えば、腹部にダメージを与えれば出血することもあるだろう。跡がないのは魔力を使える者だからか。

 裸で異次元鈴仙を抱えていくわけにもいかず、何か彼女に被せられる物がないか寝室のタンスを探すと、適当に詰め込まれてしわくちゃになってはいるが、シャツやネクタイ、ブラウスなど服を見つけることが出来た。

 しかし、長い間洗われていないのか、着られていないのかわからないが、少し埃っぽい。彼女には申し訳がないが、この服で我慢してもらうとしよう。

 下着は上半身の方は見つけることが出来なかったが、何とかパンツは見つけることが出来た。異次元鈴仙のような大人っぽい下着だ。

 それを始めに履かせ、シャツやブラウス、スカートを履かせていく。自分で履くのとは全然違い、意識のない者に服を着させるのは思ったよりも大変だ。

 ぐったりしていて裾に腕を通させるのが特に手間取る。10分かそこらの時間をかけて服を身に着けさせた。

 私よりも身長が高いのは服を着させるよりも前からわかっていたが、いざ抱えようとすると重くて持ち上げることが出来ない。

「……重いぃ………」

 私の筋力がないからであるため、彼女には大変失礼なことを言っている。魔力で体の筋力を強化し、再度彼女のことを持ち上げると今度はすんなりと持ち上がってくれた。

 思ったよりも軽く感じて後ろに倒れかけた。これから彼女のことを治療して起こすわけだが、どこで治療するか。十年前に使っていたこっちにある私の家は使い物にならないだろうし、そもそも薬品もない。一度向こうにある自宅に戻るとしよう。

 走ろうとも考えたが、走るよりも飛んだ方が圧倒的に早いだろう。魔力調節をして体を浮かび上がらせ、高速で紫がスキマを開いていた位置に向かう。

 その前に紫に連絡してスキマを開けて置いてもらわなければならない。バックの中から彼女から貰っていた通信用の黒いボールを取り出すが、片手で異次元鈴仙を持ち上げるのは少々厳しい。

「紫、聞こえるか?」

 魔力をボールに通し、通信を開始する。このボールには魔力を通すとそれに反応して電波に変換する回路が組まれているようで、電波の性質を持った魔力が発信されていく。

 受信先は紫で、受信するための回路を紫は自分に付けているのだろう。これが当たる位置にいるのか不安ではあるが、前方に進みながら紫の連絡を待っていると、ボールから彼女の声が聞こえて来た。

『魔理沙、どうしたのかしら?』

「一度そっちに戻る。スキマを開けておいてくれ」

『ええ、別にいいのだけど…何かあった?』

 異次元鈴仙が起きる前にことを済ませたかった為、急いでいる様子が少し紫に伝わってしまったようだ。

「ああ、有益な情報を得られるかもしれないんだ」

『有益な情報を得られるかもしれない?誰か捕まえたのかしら?』

「まあ、そんなところだぜ。」

『……』

 何か言いたげな紫の沈黙が続く。彼女が言いたいことは何となくわかる。危険はないのかということだろう。

 異次元霊夢の罠である可能性も捨てきれないのだろう。異次元鈴仙がもしかしたら大丈夫かもしれないというのは、映像の様子や、昔のイメージからわかったことだ。それを見ていない紫が渋るのは当たり前だ。

『そいつをこっちに連れてくるのは許可できないわ』

「それはわかる。危険じゃない可能性がゼロとは言えないからな……だが、そのリスクを負ってでも連れて帰るだけの価値がある。話が通じない相手ならスキマに閉じ込めておけばいいだけだ」

『…………、まあ…それはそうね……じゃあ、連れて来る代わりにその話し合いには私も参加するわ』

「いいぜ、場所は私の家だ。霊夢達も戻ってくるはずがないとマークしてないはずだ」

 私がそう呟くと紫は了承したらしく、ボールでの通信が途切れた。後はゲートのある位置まで戻るだけだ。

 ここからその場所までは約10分ほどかかるだろう。その間にまた異次元チルノたちに出くわさなければいいのだが。

「…」

 光の魔法で、周りの人間に私の姿が見えないようにして飛行しようかとも考えたが、完全に姿をみえないようにするのには魔力の消費が激しすぎる。

 安全に向かうのであればそうするのがいいのだろうが、異次元鈴仙もいつ起きるかわからないため、ここはスピード重視で行きたい。

 魔力を使用し、自分が出せる最大速度で飛行を開始した。その直後、後方から飛んできた何かに私は弾き飛ばされた。

「がっ……!?」

 皮膚に当たった感じは人間の拳などの柔らかい感触ではなかった。もっと硬い物がぶつけられたらしい。弾き飛ばされたことで抱えていた異次元鈴仙を離してしまった。

 誰に攻撃されたのかを確認する前に、地上に向けて落下していく異次元鈴仙を追い、私も降下を始める。地上から見つからないように高度を取っておいてよかった。

 彼女が高速で地面に頭から叩きつけられる直前に、抱え直すことに成功した。しかし、加速して落ちて行く異次元鈴仙を追うために、私もかなり無茶な加速をして追っていたため、地面に落下した。

 横から斜めにキャッチしていたのが功を奏し、私が地面に激突することは免れたが、両足でしっかり着地して減速することが出来ずに結局地面を転がった。

「っ…痛っ…なんだっていうんだ…」

 異次元鈴仙に怪我がないことを確認して上空を見上げると、私がさっきまで飛んでいた位置よりもずれてはいるが、未だに何かがそのまま直進を続けている。

 目を凝らして見てみると回転して飛んで行っているのは、私の身長を大きく上回る巨大な岩石だった。

 加速がもう少し遅ければ、あれが直撃していた可能性があるのか。当たっていたらかなりの重症になる。ぞっとする。

 いったい誰がこんなことをするのか、飛んできている方向を見ると更に第二、第三と巨大な岩石がこっちに飛んできている。

 森の中に入って逃げたいが、ここからスキマのある位置まで木々は生えていない荒野だ。飛んでくる岩石を避けつつ逃げるしかなさそうだ。




一週間後ぐらいに投稿すると思います。
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