それでもええで!
という方は第九十一話をお楽しみください!
「…さて、わざわざ集まってもらって悪かったわね」
縁側に座ったまま、庭に集まってもらっていたメンツにそう語り掛けると、二十にも及ぶ目が私に集まる。
「なんの用かしら?」
私の三分の二程度しか身長のない、フランドール・スカーレットがそう言った。少し苛立っているのは既に二人の死人を出していて、殺した異次元の連中を倒しに行きたいからだろう。
現在昼間であり、いつもなら銀髪のメイド長である咲夜が傍らに立っているはずだが、今は門番であるはずの片腕の無い美鈴が代わりに傘を持って立っている。
以前の戦闘で腕を切り落とされたという話を聞いていたが本当だったとは、左腕が収まるはずの袖が、風によってバタバタと揺れている。
「…少しあなたたちに聞いて起きたおことがあったのよ。これからどうするのかってね。奴らの戦闘力は計り知れないし、別行動をして分散するのはあんまり好ましくないわ」
そう言うと他にも、腰に二本の日本刀を下げている白髪でおかっぱの庭師、魂魄妖夢も確かにと頷く。
「そう、私たちは向こうに乗り込むつもりでいる」
大人っぽくなっているフランドールはそう言った。美鈴と同様に彼女も以前と比べてずいぶん違う、何があったのかはわからないが雰囲気がガラリと変わっている。
フランドールというよりは、なんだかレミリアのような雰囲気をどことなく感じる。よく似た姉妹だ。
「向こうに行くのは許可できない」
フランに対してそう言い放ったのは、スキマ妖怪である八雲紫だ。
「あんたに指図される筋合いはないのだけれど?」
私の横に立っている紫をフランドールは睨み付け言い放つ。その刺々しい言い方から苛立っているのがわかる。
「聞こえなかったかしら?霊夢も言ったでしょう?戦力が分散するのはよくないと。奴らは太陽の畑からしかこっちに来ることはできない。だから、今後戦力はそこに集中して防衛に当たるわ」
「知らない。それはそっちの仕事でしょう?こっちはもう2人やられてる。待ってるだけじゃあいつを倒せない」
「あら、姉とそんなに仲が良かったのかしら、知らなかったわ」
フランドールが紫に強い敵意を向ける。このままではこの二人の喧嘩が起こりかねない。まあ、お互いにただでは済まないことを理解しているから喧嘩はしないだろうが、この雰囲気で話し合いはできない。
「…二人とも落ち着きなさい。喧嘩するために呼んだわけじゃあないわ」
私が二人をなだめると、少し頭が冷えたのか睨み合っていたフランがこちらを見て、問いを投げかけてくる。
「じゃあ、霊夢はどうするつもり?」
「…そうね…私は、フランの向こうに行くっていう案に賛成かな」
私がそう言うと紫は眉をひそめ、困惑した様子で私を見る。まあそうか、前は彼女の言っていた太陽の畑周辺を固める方針で動くつもりだったから。
「霊夢、何を言っているの?」
「…よく考えたのだけれど、私たちは奴らの目的を何も知らないのよね。それを知ることが出来れば、多少なりとも対策を取れるんじゃないかしら?だから危険でも向こうに行くことは無駄にはならないと思うのよ」
そう言うとやはりというか、紫はそのプランに対して反論してくる。当たり前か。むしろ反論してこない方がおかしい。
「あなた自分の立場分かってる?博麗の巫女の使命は何?この幻想郷を守ることでしょう?」
「…わかってるわよ。でも、情報集めもその一環じゃないかしら?だって何もわからなければ対策のしようもないもの。それに、こっちで防御を固めるって言ったけど、そこに集中しすぎて一気にやられる可能性だってあるじゃない」
「情報集めに関しては一理あるけど、やられる可能性があるのは行っても行かなくても変わらない。だからわざわざ危険を冒す必要はない」
紫の言いたいことはわかるが、向こうの狙いが本当にわからない。こっちを滅ぼしたいのであればとっくの昔にできていたはずだからだ。
「…だってよく考えてみなさいよ。奴らが初めて来たときだって、私たちは瀕死だった。殺すチャンスはあったっていうのに、殺さなかった。……それに、それよりも前にドッペルゲンガー現象とか言ってたけど、それは連中の仕業だったじゃない。単純に殺したいだけならそんなことする必要あるかしら?」
さとり達や天狗たち、河童たちも来ているが、その一部が首をかしげている。言いたいことがわからないらしい。
「…普通に考えて悪さをしようとしているのならば、見つかるようなリスクは犯すのかっていうことよ。私だったら中心にいる博麗の巫女を倒すか、紫を狙うわ。でもそんなこともなく、ただふらっと現れてはいなくなる。殺すのならそんな意味のないことするかしら?そうなると、何か探しに来てた?ってことになる」
私がそう説明をすると、首をかしげていた人たちは納得したようで、ところどころで頷いているのが見える。
「…紫、ということよ。こういう理由が揃っててもダメなのかしら?それを知ることが出来れば、対策が立てられると思うんだけど…。それともなんか行っちゃダメな理由でもあるのかしら?」
私が紫に聞くと、黙って考え込んでしまう。そのまま防衛した際のリスクと、向こうに行って情報を集めた際のリスクを天秤にかけているのだろう。
「………。……わかった。そのかわり危険な状況になったらすぐに逃げてくること。いいかしら?」
いろいろとまだ何か言いたそうだが紫の許可は得られたし、私も準備しなければならないがその前に聞いておかなければならない。
「…そういう方針に決まったんだけど、フランたち以外に私らについてくる人はいるかしら?」
これを聞くために集まってもらったのだが、いきなりで向こうも返答に困っているようだ。仲間内でこそこそ話し出した。
「…紫はどうする?あなたも一緒に来るの?」
「そうね…。どうしようかしら。まあ、行かなければあなたたちの帰りたいタイミングで帰れないし、行くわ」
それもそうだ。でも大丈夫だろうか。向こうに一人で調査しに行ったと聞いたが、かなり重症そうな様子で帰って来た。あまり時間も経っていないし、傷は癒えていないだろう。
「…来てくれるのはありがたいけど、傷は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。これでも妖怪だから」
「…そう。でもダメそうなら無理しないでね」
この会話をしている間も周りの妖怪たちは会話をずっとしているが、まだ結論は出ないらしい。聖たちはもう決めているらしいが、数の多い天狗や河童たちは時間がかかっている。
「…」
座ったまま、庭を見回す。真上にある太陽に足をじりじりと熱し、汗ばむぐらいに熱い。庭の周りには何本か大きい木が生えていて、日陰はあるもののそれでも日向の割合のが高いだろう。
ボーッと返答を待っていると、自然と視線が隣を向いていた。紫の方を向こうとしていたのかと思ったが、彼女がいるのは反対側だ。
「…なんか、足りない…」
あったかもしくは、居た何かがない。そんな気がしてならない。座っていたこの場所は、こんなに広かっただろうか。
「何か言ったかしら?」
「…何も」
紫とそんな会話をしているうちに、全員の結論が出たらしい。文がこっちに歩み寄って来た。
「私たちも向こうの世界に行きたいと思います」
部下の椛は見えないが、天狗を代表して文が私にそう言ってくる。天狗は数が多いからこの人手の数は助かる。
「…ええ、わかった。それじゃあ、聖たちはどうする?」
「それなんですが、私から一つ提案があるのですが」
なんだろうか。
「私たちも行こうと考えていたのですが、こっちを手薄にするのも危険な気がするので、私たちはこっちに残ろうと思います」
そう言われればそうだ。誰もこっちを守る人が居なくて帰ってきたら何も残っていなかったなど、笑い話にもならない。
「…ええ、そうね。こっちを守るのは貴方たちに任せるわ……ニトリ達はどうする?」
「そうだね、私らとしてはどっちでもいいんだけど、戦力が分散するのが嫌だっていうし霊夢達についていくよ」
彼女が余裕そうな表情をしているのは、向こうの彼女らを見ていないからだろうか。奴らを見ていない河童たちを連れて行くのは危険だろうか。
しかし、ニトリが来ている服は幻想郷にはオーバーテクノロジーである光学迷彩スーツであり、見つかりにくい技術のある彼女が来てくれるのは大きい。
「…ええ、そうしてもらえると助かるわ。でも、向こうではこっちの常識は当てはまらない。油断は即死を招くことになるから、気をつけなさい」
私がそう言うと、河童の面々が緊張した顔つきへと変わる。緊張のし過ぎもあまりよくないが、油断しているよりはずっとましだ。
「霊夢!あたい達はもちろん行くよ!」
次はさとりに聞こうとしていた私に、元気な子供の声が聞こえる。自分のことをあたいという人物は一人しかない。
そっちの方に顔を向けると、フランドールと大して身長が変わらない自信満々に胸を張っているチルノが立っている。
青い髪に洋服。背中には六本のツララが左右対称に浮遊している。周りでは大妖精やリグルが止めようとしているが、チルノは頑として聞き入れていない。その彼女に声をかけた。
「…チルノ」
「何?止めたって無駄だよ!サイキョーのあたいは絶対に行くんだからね!」
「…あんたらは一時的にとはいえ、奴らに掴まってた。奴らの強さは知らないわけではないでしょう?そうだとしても行くの?」
そう聞いてもチルノの目は変わらない。向こうの世界に行くともう彼女の中では決まっているのだ。
「行くよ」
真剣な顔つきなチルノが自分で考えて出した結論を無理やり変えるのは、野暮という物だろう。彼女の意見を尊重するとしよう。
「…わかったわ。じゃあ、さとり達はどうする?」
「………私たちは、そちらについていくことにします。本当は残るつもりだったんですが、妙蓮寺の方々が残ってくれるといことなので…。でも、私とお空だけで行くことにします」
萃香と勇儀は来ないわけがないが、彼女らを除いても大部分はこっちに来るということらしい。文に情報を広めてくれと頼んだ効果があったようだ。正直、さとりや河童たちはそれでも来ないと思っていた。
でも、もっと意外な人物も向こうの世界に行くと名乗りを上げているのだ。
「…ここに来たってことは、貴方も来るってことでいいのかしら?歌仙」
「ええ、そのつもり」
肩にかからない程度のピンク色の髪、両側頭部には白色のシニョンキャップを付けている。中華っぽい洋服の胸元には花の形をした装飾がある。左腕は普通の腕だが右腕は全体に包帯が巻かれており、その手を腰に当て当たり前だと言いたげに言った。
「…そ、じゃあ。永琳たちはどうする?」
「こっちでバックアップするつもりだから、直接向こうにはいかないことにしようかしら」
戦おうと思えば戦えるが、永遠亭の中でまともに戦闘をおこなえるのは永琳と鈴仙ぐらいだった。ウサギたちは天狗らと違って戦うのは難しい、彼女たちは援護に専念してもらうとしよう。
「…わかった。それじゃあ準備ができている人はいいけど、できてない人もいるだろうから一時間後にまたここに集まるってことでいいかしら?」
そう言って解散するのを待っていたが、誰もここから移動しようとしない。
「…帰らないの?」
「私たちを呼んだのは何かしらするためだと思ってたので、もう準備は済ませています」
そう言ったのは文だ。なるほど、通りで集まった面々の持っている物が重装備なわけだ。準備ができていないのは私だけということだ。
「…少し待ってて、すぐに準備してくるわ」
自室に入り、タンスの扉を開いた。中から普通の異変では過剰すぎるほどの札と、予備の妖怪退治用の針を取り出した。
「…あれ、こんな服あったかしら…?」
タンスの隅に見覚えのない白と黒の洋服が畳まれた状態で置かれている。そこに何かを置いた覚えはないはずなのだが。
とりあえず服の中にそれらの装備を隠し持ち、その洋服に手を伸ばそうとすると、庭の方が騒がしくなっていることに気が付いた。
「…?」
タンスの扉を閉じて縁側に出ると、文が誰かを抱えている。よく見ると他の鴉天狗たちとよく似た服装を着ている。血だらけの椛が青い顔をしている。
「椛!何があったんですか!?」
腹部から流れた血が白い服を真っ赤に染めてしまっている。何をされたのかわからないが、背中まで貫通しているらしくお腹を押さえていても血が止まることはない。
「あの魔女のことを追っていたら……撃たれたんです…」
確かにあの魔女は攻撃手段としてレーザーを使用していた。レーザーは貫通属性が強く、威力によっては人体をも貫通するようだ。
しかし、何か違和感があるのだが、それを正確に言い表すことが出来ない。
「永琳さん!治療をお願いします!」
「ええ」
そうこうしているうちに文が椛を抱え、永琳と共に永遠亭へと向かい始める。椛が魔女にやられたことで天狗サイドに動揺が走っているが、向こうに行くのに大丈夫だろうか。心配していると、
「さてと、霊夢が用意もできたようだし、やられた奴のためにもあたしらはあたしらの仕事をするとしようじゃないか。」
萃香がそう切り出したことで、動揺は最小限で済んだようで、鴉天狗たちは頭を切り替えられたようだ。
さすがは鬼たちの中では極めて強く、ボス的なポジションで存在する萃香だ。まとめ上げ方がわかっている。
「…そうね。それじゃあ…行くとしましょうか」
「………げほっ」
器官に砂煙が入り込んだことで、咳き込んでしまった。顔の近くに立ち込めている砂煙を払い、視界と呼吸できる場所を確保する。
初めは反撃することもできたが、異次元美鈴が私の戦い方に慣れて来たのだろう。五分も経過すると攻撃に転じることが出来なくなってきた。
しかし、戦闘が始まってから十分が経過しても、私が立っていられているのは咲夜から貰った情報のおかげである。
それでも情報通りに動こうとしても、私と咲夜では筋肉量に差があり、あまりうまくいかない。
口の端からどろっと垂れて来た血を手の甲でぬぐい取る。口の中が鉄の味しかしなくて気持ち悪い。
「実力の差は歴然だというのに、まだ続けるのですか?」
前半戦で反撃したと言っても、当たったとは言っていない。ほぼ無傷の異次元美鈴は余裕の笑みを浮かべたままこちらに歩み寄ってくる。彼女が油断しているうちに気が付かれないように魔法を構築し、発動させた。
「諦めないのが私のモットー何でな…!」
手先の魔力だけレーザーに変換し、歩み寄ろうとしている異次元美鈴にぶっ放した。閃光を放つ熱線を彼女は体に掠らせることなく目の前に走り寄ってくる。
「それじゃあ、これで終わりとしましょうか!」
早い。十メートルはあったというのに二秒もかかっていない。握った左手を私の顔面に向けて振り抜いた。
左側から向かってくる拳を右腕で正面から受け止めるが、威力の高さにガードが崩され頬をぶん殴られる。
「あぐっ!?」
美鈴よりも圧倒的に軽い私の体は後方へ吹っ飛ばされる。方向的に紅魔館の壁に叩きつけられた。受け身を取ろうにも壁に跳ね飛ばされている私は、地面を転がっている。
「うぐっ…!!」
立ち上がろうとしている私に、異次元美鈴は間髪入れず蹴りをかましてくる。魔力で身体を強化しているからいいが、普通の人間なら場合によっては、この回し蹴りは頭が胴体からサヨナラする威力だろう。
だが、当たらなければそんなのは関係ない。立ち上がろうとしている私の顔の目の前を異次元美鈴の回し蹴りが通り過ぎる。
魔法を発動したと言ったが、光を屈折させ自分のいる位置を少しだけ前にずらした。一度使えば異次元美鈴は警戒してしまうため、これで終わらせるということだったから、使わせてもらった。
そのおかげで異次元美鈴に大きな隙が出来上がる。鞄に手を伸ばし爆発瓶を取り出しながら、足を最大まで強化し、片足に全力で蹴りをかました。
蹴りを放っている最中、かつ片足で体を支えている異次元美鈴の膝に狙いをつけたため、支えられずに彼女の体がガクンとバランスを崩した。
爆発瓶に魔力を流し込んで威力を上昇させ、蹴りが当たらなかったことが理解できていない異次元美鈴の口の中に無理やりねじ込んだ。
「おぐっ!?」
閉じている口に牛乳瓶よりも一回り小さいぐらいの瓶を押し付けたせいで、異次元美鈴の唇から血が滲んでくるが知ったことではない。
吐き出そうと異次元美鈴が瓶を舌や手を使おうとするが、それもできないように殴り入れた。
「げあっ…!?」
無理に押し込んだことで乳白色の瓶に小さな亀裂が入ったのが見えた。吐き出される前にあれを完全に叩き割らなければならない。
これまでにこんなことをされたことはないのだろう、混乱して行動に遅れの生じている異次元美鈴の顎に下から拳を叩き込んだ。
異次元美鈴の歯で瓶を叩き割ったことにより、空気と中の試薬が空気と爆発的に燃焼し、大爆発を起こした。
瓶の破片がそこら中にまき散らされる。近くにいた私にも例外なく飛んできた破片が腕に切り傷を作る。
でも、一番影響があるのはそこの中心にいる異次元美鈴だ。倒せたかどうか確認のために壁の近くに倒れ込んでいる彼女に近づくと、口の中ということで試薬が上手く空気と燃焼することが出来なかったのだろう。
思ったよりも外傷の少ない異次元美鈴が倒れ込んでいる。しかし、かなり酷い有様だ。頬の肉はズタズタに引き裂かれ、顎も衝撃で外れてしまっている。歯も一部分しか残っておらず、破片の影響で顔の皮膚も所々切り裂かれている。
酷い状況だが、瓶の破片が頬の肉など頬などを切りさかなければ、爆風が逃げずに彼女は即死していただろう。もしかしたらそうなっていた方が楽だったかもしれないが、この異変が終わるまでに復帰するのは無理だろう。永琳たちがこっちにはいないらしいからな。
まあ、彼女については放っておくことにしよう。他人に構っているほど私には余裕がない。本番はここからなのだから。
「……」
異次元美鈴に何度殴られたのかわからないが、全身が痛い。この状況で紅魔館の面々とまともに戦い合えるだろうか。
だが、ここで引くわけにはいかない。次に来たとき異次元美鈴がいたら、また勝てるかと言われたら絶対に無理だ。
油断してくれたから今回はうまく立ち回れたが、警戒している彼女に勝つのは至難の業ではない。いや、不可能だな。今の爆発で警戒されているだろうが、私はこのまま攻め込むしかない。
足に魔力を送り込み、強化する。閉まり切っている大きな城門を私は蹴り開けた。
1週間後ぐらいに投稿します。遅くなるかもしれないです。