東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもええで!
という方は第九十二話をお楽しみください!


東方繋華傷 第九十二話 優れた魔術師①

 木で作成されている私の身長よりも圧倒的に大きい扉を蹴り飛ばすと、ガコォン!と両開きに開かれる。

 外壁から館までに二十メートルほど石畳の道が続いている。左右には、もともとは綺麗に手入れがされていたであろう噴水や庭が広がっている。

 今では噴水の水は枯れ、岩についている汚れやひび割れは落とされたり修繕されることなく数年は放置された跡がある。

 草や木も伸び放題で、そこの部分だけ見れば鬱蒼とした森に見えなくもない。この地形、十年以上前の記憶でおぼろげながらも何となく覚えている。

「……」

 まだ異次元美鈴を倒したことは、この中にいる連中には知られていないだろう。そもそも私が来た事自体気が付いていないのではないだろうか。そう思えるほどに静まり返っている。

 いや、見つかっていることが前提で動くことにしよう。

 とりあえずは館に入るまではどこに敵がいるかわからないため、魔法を発動させて光の屈折を調節し、一時的に周りに私の姿が見えないようにした。

 光を屈折させて私から反射した光を見えないようにしたが、音自体は周りにいつもと同じように聞こえる、できるだけ足音を立てずに紅魔館に近づいた。

 城門よりは小さい両開きの扉の片側に取り付けられている鉄製で球状のドアノブ、そこに手を伸ばそうとすると私が触ってもいないのにグルリと半回転する。

「…っ!?」

 やはり気が付かれていたか!私は一歩後ろに下がり、戦闘体勢に入る。

 扉が押し開けられていくと、錆びついた蝶番が嫌な音を立てる。誰が来るのか身構えていると扉の奥から顔を見せたのは、紅魔館に務めている妖精メイドだ。

 私が来ているとわかっているのであれば、異次元咲夜などもっと強い奴が来るかと思った。

 だが、妖精メイドの表情を見るとどうも戦いに来た様子はない。首をかしげていると後ろからもう一人の妖精メイドが現れ、こちらを見てくる。

 こっちを見ているというよりは、私の後方にある城門の方を見ている。少し様子を見てみようとしていると、二人が会話を始める。

「なんか大きな音がしたけど、美鈴さんが倒してくれたんだよね?」

「多分そうじゃないかな?美鈴さん強いし」

 妖精メイドはそう言うと、扉から手を離して館の中へと引っ込んでいく。妖精メイドの様子から気が付かれていないか、まだ情報が伝達できていないと考えられる。

 扉が閉まり切る前に手を開いている扉の間に滑り込ませ、私が入れる分だけ開かせた。

 さっきの妖精メイドと同様に、ギィィッと蝶番が嫌な音を立てて扉が開いた。急いで館に入り込み、扉を閉めた。

 バタンッと扉が閉まると、間から入って来ていた日差しが閉ざされた。窓が少ないせいか外と比べると日没程度の暗さがある。

 入ってまず最初に感じたのは空気の淀みと埃っぽさだ。この戦いが始まってから戦いばかりでろくに掃除もしていないのだろう。壁際の床を靴でなぞると埃取り除かれた線が出来上がる。

 それに加えて、弱くはあるが血の匂いがある。本当にうっすらで気を付けて嗅がなければ分からないほどだ。

 扉から離れ、壁際にぴったりとくっついて進みだした。左側にある壁に手を付き、魔力をほんの少しだけ与え、回路を組んだ。私がとある魔力を電波として発信するとそれに反応して発光するという物だ。

 なぜこんな下手をすれば見つかるようなことをするのか。それは私が逃げる際に道しるべが必要となるからだ。窓から逃げればいいだけかもしれないが、空中には異次元パチュリーの防壁があり、内側から通り抜けられない。

 周りを覆っている防壁の性質を見れば、それが含まれていないことはわかるのだが、触れたことで攻撃性のあるものへと切り替わる物も感じられたため、逃げる時には城門をくぐらなければならないということだ。

 だからこうして目印をつけている。進むときには全て左側に付けるように統一するとして、帰る時には右側にあるように進めばこの扉につくことができる。

「……」

 こっちの紅魔館の構造が全く分からないため、適当に歩いて行くしかないのだが、私の目標は異次元霊夢と異次元咲夜であるので、彼女らさえ見つけられて倒せればいい。

 だが、中途半端に手を出すと後の報復が怖い。やるならいけるところまでやらないとだめだろうな。

 外からこの館を見た時にはここまで広いとは思わなかったが、突き当たりの壁まで四十メートルはありそうだ。

 壁際を進み、突き当たりに差し掛かった。曲がる直前にもう一つの印を壁に着け、誰もいないかゆっくりとクリアリングしながら曲がる。

 廊下の中央には絨毯が引いてあり、その上を歩けば消音効果が期待できるが中央はよく目立つ。壁際に居れば柱などの凹凸あるため、例え誰かが来たとしても隠れられる確率が上がる。

「……」

 のだが、廊下の端の方には絨毯が引かれておらず、私が歩くごとにコツコツと音を立ててしまう。

 それがやたらと反響しているように聞こえてしまい、歩くごとに緊張感が増していく。高い気温の中異次元美鈴と戦っていたというのもあるが、緊張で額に汗が滲んでいる。

 ゆっくりと進んでいく中で扉をいくつか見つけたが、どこも人気がない。異次元美鈴が門を守っていた時点で誰かしらは紅魔館にいるはず、なのだがその考えが間違っているのではないのかと思えるほどに誰もいない。

 いない方がこっちとしては楽だが、それもそれで不気味だ。

 この雰囲気だと誰も一階にはいなさそうなのだが、半周しかしていないから正確にはわからない。でも、歩いているうちに気が付いたのだが上の階で誰かが歩いている足音が聞こえる。

 危険は高いが、そっちに警備があるということは、異次元霊夢達がいるということにもなる。

 階段を探さなければならないと思っていたが、十メートルほど前方で壁が途切れているのが見えた。

 壁に背中をつけ、曲がりかどを覗き込むと、そこは廊下が続いているのではなく二階へ移動するための階段がある。

 それに登ろうと考えたが、まずは偵察が必要だ。こっちの博麗神社で使ったものと同じ屈折の魔法を発動させた。目に入って来る光を調節してリアルタイムで見えない位置の情報を見ることが出来る。

 二回ほど光を屈折させると二階の様子が視界に映し出された。階段の前の廊下を丁度妖精メイドが横切っていくのが見える。もう一度光を屈折させた。

 今度は妖精メイドが歩いて行った方向とは逆方向の視界が映し出される。下と同じ構造であり、二十メートルほど先に曲がり角がある。

 反対側を見てみても構造は変わらない。思った通りだが異次元霊夢達は見つからない。妖精メイドが居る方向とは逆方向へ屈折を一段階増やしてやる。

 切り替わった視界には長い廊下が映し出され、数十メートル先の一番奥に、他とは構造の変わった大きな扉があることに気が付いた。

 頑丈で特別そうなあの扉の奥ならば、彼女らがいるかもしれない。何度か屈折を繰り返して廊下を確認するが、居るのは妖精メイドばかりだ。

 この状態ならば魔法を使わなくてもその部屋まで行くことはできそうだ。自分の姿を見えないようにする魔法は魔力をかなり消費する。節約できるところはしなければならない。

 魔法を切り、私はすぐさま行動を開始する。この階段には妖精メイドがいないことがわかっているので、絨毯の上を足音を立てないように一気に駆け上がった。

「……」

 廊下はいくらさっき見たとはいえ、まったく確認せずに行けるわけではない。妖精がいないかどうか細心の注意を払って壁の左側に印をつけた。

 顔を出して廊下を見ると予定通り誰もいない。実際に二階に来てみてわかったが、一階とは違って床に埃が溜まっていない。定期的に掃除が行われている証拠だ。

 理由はわからないが、一階は放棄して二階を拠点として使っているみたいだ。妖精が歩いて行った方向とは逆方向に向かい、曲がり角に到着する。

 今までと同様に体を晒さずに廊下を覗く。四十メートルか五十メートルぐらいかと思っていたが、それよりも扉までの距離は長そうだ。

 ここの廊下にも扉はいくつかあり、人気がある以上はどこに妖精メイドが潜んでいるかわからない。急いで移動するとしよう。

 後方を確認しつつ、大きな扉へ向けて歩き始めると、コツコツと自分の足音だけが長い廊下に響く。今のところ妖精メイドはたったの三人しか見ていない。これだけ広い紅魔館でそんなことはあり得るのだろうか。少なすぎる。

 のだが、異変が起きていてこれまでに何度も戦いがあったと聞いているため、それに巻き込まれて死んだとかだろう。

 どうでもいいことは頭の隅に追いやり、手のひらに魔力を溜めたままゆっくりと目標の扉に向かって行く。

「……」

 敵が近くに来た場合と遠くから見つかったことを考えて、レーザには変換せずに維持をさせた。

 左側にある壁に一定間隔で印をつけ、扉までの距離が三十メートルを切った。だが、ここまで詰めるのに大分時間を食ってしまった。

 一階の時と違って、所々に設置されている扉の向こうには人の気配がある。大声でも出されようものなら、どれだけいるかわからない妖精メイドに袋叩きにされる。

 誰かに見つかる前にさっさと通り過ぎてしまうとしよう。そう思って歩くスピードを速めようとした私の後方で、ガチャリとドアノブが捻られて、扉が開かれる音がする。

「っ!?」

 振り返るとすでに扉は半分以上開いており、ドアノブを握っている妖精メイドの腕がこっちから見えている。

 今から柱の後ろに逃げようにも、等間隔で並べられている柱と柱の間に立っているため、逃げているうちに見つかる可能性が非常に高い。

「それじゃあ、とりあえず見回って来るね」

 話しているところを見ると、一人以上の人物がその部屋にいるということだ。だがいい知らせがある。ため口なところを見ると同じ妖精メイドだろう。

 手先にある魔力にとある性質を含ませ、振り向いてそっちに手のひらを向けた。そのタイミングで部屋から出ようとしていた妖精メイドが私に気が付いた。

「ひっ…!?」

 目を見開き、息を飲んだ妖精メイドは口を大きく開いて大声を出そうとしている。それをさせる前に、手のひらから攻撃を放った。

 息を肺いっぱいに吸い込み、あとはそれを声として吐き出すだけだったが、その妖精メイドはきちんと食らってくれたらしく白目をむき、口からゴボッと泡を吹くと力らなく体が傾き始める。

 私が放ったそれは、今まで攻撃に使用していたレーザーなどの殺傷性の高いものではなく、非殺傷性のただの超音波だ。

 外の世界にはごく狭い範囲、特定の人物にのみ音を聞かせることができるという機械が存在するという話を聞いたことがある。

 手先の魔力にその機械の性質を含ませ、対象である妖精メイドには手のひらにある例の魔力から音波を放った。

 私達人間は具体的な数字で言うと、約130デシベルを超える騒音を聞くと失神すると言われているが妖怪が同じ規格とは限らないため、140デシベル程度の音を聞かせることにした。

 試したことがなかったから本当に失神するかどうか不安だったのだが、どうやら人間と同じで効果はあるようだ。そして、それだけの爆音だというのに私には全く音が聞こえてこないため、周りの妖精メイドの気が付かれることもない。

 ゆっくりと傾いていく妖精メイドに対して、部屋の中にいる妖精メイドがどうかしたの?と声をかけている。

 倒れた音で他の部屋にいる妖精メイドに気が付かれないよう、倒れる寸前に彼女のことを支え、そのまま部屋の中にいる妖精メイドへ手のひらを向ける。

 ここは妖精メイドの部屋らしく両側の壁に二段ベットが二つ設置されてあり、部屋の中央に置かれている机にもう二人の妖精メイドが座っている。

 私が倒れそうになっている妖精のことを支えるため、二人の視界に姿をさらしたことで彼女らは目を見開いて息を飲む。

「「っ!?」」

 片手で支えたまま、座っている二人に超音波を連続的に照射した。初めの時と同様、彼女らは白目を向くと受け身を取る様子もなく机に突っ伏した。

「ふう…」

 よかった。もう一人妖精メイドが多ければ、超音波の照射が間に合わずに大声を上げられていただろう。今抱えているメイドをこの部屋に放り込んで行ってもいいのだが、この部屋にあるベットは四つ。どの布団にも生活感がある。ここにはいない妖精メイドがもう一人部屋を使っているのだろう。

 そのうちもう一人帰って来るだろうし、このままこいつらを放置すれば見つかる時間が早まってしまう。

 できるだけ時間を稼ぐために少し違和感がないように工作してから行くとしよう。誰がどのベットに寝ているのか全く分からないが、適当に三人をベットに押し込んだ。

 すぐにばれてしまうだろうが、多少の時間稼ぎにはなるだろう。頭まで布団をかぶせ、毛布を取らなければ見えないようにした。一人ぐらい失神させずに捉えて、情報を吐かせればよかったかもしれないが、今回はいきなりでどうしようもなかったから仕方がないとしよう。

 彼女らを運ぶために椅子を移動させたりしたから、このままだととても不自然だ。自然に見えるように椅子などの家具を再配置した。

 この部屋から出て、扉を閉めた。前方と後方を確認するが、見回りは今のところ来ていないようだ。

 例の扉までは残り十五メートルほど、それを一気に走り抜けて扉を開いた。

 ドアノブを捻って押し込むとギィッと他のドアと同様に、金属と木が擦れる音がする。部屋の中に入ると、かなり暗くて周りが見えない。

 今までいたところが明るかったからという理由もあるが、この部屋が暗すぎるのだ。さっきの廊下とは違ってこの部屋にはカーペットはひかれていない。

 目が慣れるまでドアの近くにいた方がいいだろう。でも、あまり近くにいすぎるといつまでも明るさに慣れない為、少しだけ奥に行くとしよう。

 この部屋、なんだか嗅いだことのある匂いがする。クンクンと周りの匂いを嗅いで、ようやく思い出した。

 この倉庫にいるのではと感じる匂いは、古びた本の匂いだ。目が段々と慣れてきたところで、周りを見回すと私の二倍以上の高さはある本棚が無数に並んでいる。その棚には数百どころか数千にもなるかもしれない魔導書が保管されている。

 さて、ここには絶対に会いたくはないあらゆる魔法を使いこなす魔術師がいる。見つかる前に逃げるとしよう。

「戻るか」

 急いで踵を返してドアに向かおうとした時、独りでに開き切っていたドアがゆっくりと閉まっていく。

「なっ!?」

 私はとっさに閉まり切る前に走り出そうとしたが、扉は独りでに閉じて行っているわけではないことに気が付いた。

 外から差し込んできている逆光で途中まで見えなかったが、扉を閉めようとしている手の肌が光で映し出されたことで分かったのだ。

「どこに行くっていうんですか?」

 コウモリの羽の形状に似た悪魔の羽が背中から生えている。異次元美鈴とはまた違った濃い赤色の長髪、そして赤い瞳だけが暗闇の中で怪しく光っている。異次元小悪魔だ。

「っ!?」

 扉が閉まり切ったことで、彼女の姿を本格的に目で捉えることが出来なくなってしまう。一歩後ろに下がり、近づいてくる彼女から距離を取ろうとするが、向こうは暗闇で目がきくらしい。

 一定の距離を保ったま右左に移動し、私を挑発してきている。いや、挑発しているというよりはじりじりと追い詰められている。

 光の魔法で目に入って来る光の量を増加させ、暗闇でも目が見えるようにしようとした矢先、私が何かをしようとしているのを異次元小悪魔は察知したらしい。魔法を発動しようとした直前に、異次元小悪魔が一気に私との距離を詰めて来た。

 数メートルの距離を開けているはずだが、ダン!と異次元小悪魔の踏み込んだ衝撃が足に伝わって来る。大きく踏み込んだようだ。

 目がまだ慣れていない私は構えて警戒するのだが、異次元小悪魔がどこから来るのかが全く分からない。目を閉じて感覚で彼女の居場所を探ろうとするが、ヒュッと風を切る音がしたと思ったら、顔面に拳を叩き込まれた。

 顔が殴られた衝撃で右側に投げ出され、危うく棚にきっちりと仕舞われている魔導書に頭から突っ込むところだった。髪の毛が当たるか当たらないかの距離で踏ん張り、拳を握って反撃をする。

 異次元小悪魔の拳とは違って私のは空を切り、何にもあたることなく腕が伸びきった。急いで右腕を引っ込めようとするが、彼女の伸ばしてきている手の方が足が圧倒的に速い。

 右手首をがっしりと掴まれ、ぐんっと引き寄せられながら彼女の右手が私の脇腹に叩き込まれる。

 衝撃で体がくの字に曲がり、肺や心臓などに向けた打ち上げられる攻撃によって内臓が揺らされ、衝撃で筋肉が軋み呼吸ができない。

「かっ…!?……あぁっ…!?」

 わき腹を押さえて倒れ込もうとした私のお腹に、異次元小悪魔は更に膝蹴りを叩き込んでくる。鈍い鈍痛が体の中で内臓を躍らせる。中身が潰されたのではないのかと思える激痛に足に力が入らない。

 悲鳴を上げることもできずにただひたすら呼吸する私の胸倉を掴んだ彼女は、扉とは逆方向にぶん投げた。

 空中でゆっくりと回転している私は、飛んでいく先がちらりと見えた。高い場所に居るため、行き先が吹き抜けになっているのが目視できた。

 確かここは二階であるはずで、私が落ちる予定の場所は一階だ。何とかして空を飛ばなければ床に叩きつけられる。

 魔力を使って空を飛ぼうとするが、腹に加えられた痛みで魔力調節が上手く行かない。考えがまとまらず、一階の本棚に足をぶつけ、さらに体勢を崩したまま六メートルほど下の床に背中から転がり込む羽目になる。

 床の上を三度か四度転がり、仰向けでようやく止まることが出来た。体を起こそうとすると、私の視線の先には大きな机が並べられ、そこに一人の女性が座って魔導書を読んでいる。

 さっき見た時にはこんな書斎は見えなかったが、高さの関係と床で遮られて見えていなかったのだろう。

 その女性というのは、言わなくても誰だかわかる。紅魔館の図書館にいる魔女と言えば、パチュリーしかいないだろう。

「誰か入って来たとは思ったけど、まさかあなたとは思わなかったわね」

 大きな書斎に座って、魔導書を読んだまま顔を上げようともしない異次元パチュリーはそう言った。

 濃い紫の髪に、紫の瞳。頭にかぶっている帽子には月の装飾品がつけられている。肘をついたまま、真っ白のティーカップに手を伸ばし、中に入っている液体を飲む。

「こんなところ、来たくもなかったぜ」

 こっちを見ていないうちに逃げ出してやろうとするが、動いたのを察知した異次元パチュリーがギラギラと獲物を狙う瞳をこちらへと向ける。どうやら興味がはなさそうに見えただけらしく、逃がそうという気はないようだ。

 手先に魔力を溜め、攻撃態勢に入っていない異次元パチュリーへレーザーの射撃を行う。しかし、手のひらを彼女に向けた時には、私の手は上へ向けられていた。

 右手の手首辺りがジンジンと痛む。私を追ってすぐ横に着地した異次元小悪魔が手を殴って打ち上げたようだ。

「くっ!?」

 バランスの崩れている私に異次元小悪魔は蹴りをかましてくる。美鈴ほどのキレは無いが、腕が上がっているせいで腹にまともに食らうこととなった。

 メキッと蹴りの衝撃が腹の中を駆け抜け、背中側へと逃げていく。その威力に私は驚愕した。外で戦った異次元美鈴よりも強いのではと。

 踏ん張りがきかずに吹っ飛んだ私は、巨大な本棚に背中から突っ込んだ。本が置いてある面ではなかったことで、魔導書がまき散らされることは無かったが、木に亀裂が入るほどの威力はあったようだ。

 この図書館は異次元パチュリーが全体に魔力を巡らせて強化されており、壊れにくくなっているはずなのだが、異次元小悪魔の攻撃はそれも貫通するほどらしい。

「ぐっ…あぁっ…!!」

 腹部の刺す痛みが長引いている。今は攻撃が来ていなくてよかったが、そうでなくても一歩も動けないほどの痛みだ。

「私は、美鈴さんのように油断はしません」

「ああ……そうかよ……!」

 痛みに苦しみ、驚いている私に異次元小悪魔はそう言った。どうやらこっちの異次元美鈴には、そう言う癖があるようだ。

 私が侵入してきた時点で、異次元小悪魔達は彼女が油断して私にやられたと判断したらしい。それが正しいな。

 武術の達人である異次元美鈴の蹴りが、異次元小悪魔の蹴りよりも弱いわけがない。

「さてと、長らく待ったわ。…魔理沙、本当は殺してやりたいぐらいだけど、生け捕りにしないといけないようだから、今は殺さないでおいてあげるわ」

「おいおい、随分余裕じゃないか。私が勝ったらどうするつもりだぜ」

「大丈夫よ。そんなことは絶対にないから」

 彼女がそう言うと、辺りに濃密な魔力が散布する。それらにはは炎や雷など様々な属性に似た性質を感じる。その属性に合わせた色の魔方陣が魔力によって形成されていく。

 十個にも及ぶ魔方陣を同時に形成するとは、さすがは軽く百年は生きている魔女なだけはある。魔力で腹部の痛みを無理やり治し、こちらも弾幕を用意する。

「なるほどな。あらゆる魔法を使いこなすなら、使える魔法が少ない私からしたら魔術師同士の戦いでは最もやりあいたくない相手だ。だがな、私も簡単に負けるわけにはいかないんだぜ」

 私は魔力をレーザーへと変換し、異次元パチュリーへとぶっ放した。




次の投稿は来週の土曜日の予定ですが、遅れれば再来週になります。
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