東方繋華傷   作:albtraum

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自由気ままに好き勝手にやっています。

それでもええで!
という方は第九十二話をお楽しみください。


東方繋華傷 第九十三話 優れた魔術師②

「あが…かはっ…!」

 床にぶっ倒れた私は、強化されて傷一つない床に血を吐き出した。ビシャッと血が広がっていくが、それを見ている暇がなく、力の入らない腕で上体を起こした。

「ほらね。私の言った通りじゃない。これだけの魔導書があればあなたに負ける要素はないわ」

 常に十数個の魔方陣を展開し続けて順番に攻撃してくるため、あらゆる属性が雨あられで降って来た。魔法をやればわかるが、相当な芸当だ。

 そうは見えないがさすがに百年生きているだけはある。魔方陣の展開を複数できるだけで、これだけ戦力に差が出るとはな。

 火水木金土日月の属性を組み合わせた攻撃に加えて、属性が変われば攻撃方法が変わる。それにより対処も変わるため、臨機応変な対応が必要になる。頭をフル回転させなければならないため、ショート寸前だ。

 体を持ち上げられずにいる私を見て勝利が近いと確信しているのか、火と木の属性を含んだ魔方陣を複数展開する。

 相反する二つに見えるが、木は火の助けとなって組み合わせると火属性の威力が上がる。勝負を決めに来ている。

「くっ…」

 あらゆる属性を使いこなす異次元パチュリーだが、弱点がないことはない。

 固有の能力で実に七つの属性を操るが、一人でそれを制御し操るのはとても難しい。彼女が制御しているように見えるのは、魔導書があるからできる芸当ではある。

 周りにある魔導書の助けを借り、属性の力を正しく引き出していることは先の戦いで既にわかっている。彼女の戦闘能力は周りの魔導書に依存していると言っても過言ではない。つまり、異次元パチュリーに勝ちたいのであれば辺り一帯に存在している魔導書をすべて破壊すればいいのだ。

 だが、そうは言ってもこの強化された床や壁は、感じられる魔力の性質から特に火属性に対する耐性が抜群に高い。例え一か所発火させることに成功したとしても、周りに広がらないから意味がない。

「くそっ…」

 そして、厄介なのはそれだけではない。魔法の攻撃をかいくぐって異次元パチュリーに接近できたとしても、そこには異次元小悪魔が居る。

 攻撃を邪魔され、異次元パチュリーに攻撃できるチャンスもなくなってしまうのだ。阿吽の呼吸が取れていて、倒しづらいことこの上ない。

 魔力で身体を回復させ、倒れ込んだまま待機する。ギリギリまで治癒に専念したい。

「それじゃあ、これで終わりと行きましょうか」

 異次元パチュリーの周りにある、五つの魔方陣が炎を吐き出す。生け捕りにするつもりが本当にあるのかと聞きたくなるが、火炎放射器から放射された炎のように伸びてきている火の中には、爆発の性質を含んでいる魔力が隠されている。

 炎を拡散させて、範囲で攻撃するつもりのようだ。一発炎を当てるよりもダメージは低いが、範囲攻撃であるため数さえ放てば問題ないということらしい。

 ギリギリまで体を回復させえたおかげで、身軽に立ち上がることができた。魔力を辺りに撒き、それらに水の属性を与えた。

 火の属性は水の属性があるとその威力は著しく低下する。消火するまで行かなくても、威力を押さえられればいいと思っていたが、予想よりも効果があったらしく次々に炎は沈下していく。

「なっ!?」

 炎の衣を剥がせば後は爆発の弾幕とそう変わらない。温度などの関係で近づくことが出来なかったが、今は少し体を移動させるだけで全ての攻撃を躱せた。

 進みながら避けたことで後方で魔力の爆発が起こる。五つの着弾を音で確認、異次元パチュリーへ向けて手のひらを向けると、異次元小悪魔が立ちはだかる。

 ここに来る前に妖精メイド達にぶっ放した超音波を照射する。しかし、範囲も威力も低いものだ。

 あれは範囲を狭くすればするほど威力が上昇するが、当てられる人数に限りが出る。逆に広くすれば当てられる人数が多くなる分だけ音が拡散してしまい、威力は低下する。

 なぜ今回は拡散型にしたのかというと、異次元パチュリーの魔法構築を阻害するためだ。

 爆音ではないが、放った音の魔力には追加で高音の性質を含ませておいた。魔法の構築はスペルをあらゆる形で唱える必要があるのだが、音波によって集中力を乱れさせ作業を遅らせる効果が望める。

 こっちには聞こえないが音波が広がり、二人に到達すると目を見開いて驚き、顔を歪める。音を広めに設定して置いたが、中々大きかったらしい。

 二人とも耳を押さえて少しでも音から逃れようとしているが、手で押さえた程度では完璧に塞ぐことは無理だろう。

 いつもならもうすでに異次元パチュリーの次弾が飛んできていてもおかしくないが、現在は魔方陣の構築すらできていない。

 異次元小悪魔が音波の攻撃を止めさせようと、こっちに突っ込んできた。近づいてもらえればこっちのものだ。

 彼女の焦る気持ちが、大振りの拳をこちらに放ちさせた。右手でそれを受け流して範囲型超音波を切り、範囲の狭い物へと切り替えた。

 体制の整った状態ならかわすことは容易かっただろうが、異次元小悪魔は今は攻撃を行っている最中だ。当てることは簡単だ。

 妖精メイドへ放ったものと同じぐらいの超音波を当てると、異次元小悪魔の目がグルンと上に移動して白目を向く。力が全身から抜けている彼女は頭から床に横たわった。

 これで異次元小悪魔はこの戦いで立ち上がることはないはずだ。だが、超音波を切ってしまったことで異次元パチュリーの体勢が整ってしまっている。走って異次元パチュリーに接近するが、

「月符『サイレントセレナ』」

 魔法の構築ではなく、スペルカードに切り替えたらしい。手に持っている回路が書かれたカードに魔力を通し、起動させる。

 濃密な魔力で結晶化したカードを砕いて回路のみを抽出し、スペルカードが本格的に発動する。組んだ回路の通りに周りにレーザーなどの性質を持った魔力が分布されていく。

 地面ギリギリの高さに複数の上方へ向かうレーザの性質を持った球が複数形成される。異次元パチュリーまで五メートルという所まで近づいていたが、それは間違いだったかもしれない。

 数十個はある球が上へ向けてレーザーを照射し、それらは高速で縦横無尽に移動を始める。

「っ!」

 隙があると突っ込んだのは少し間違いだったかもしれない。完全にスペルカードの範囲内に飛び込んでしまった。

 床のギリギリ上で動き回っているレーザーは、他の弾幕と似たようなものなのだが、私が使っているような熱と光を加えて焼き切るという手法ではないようだ。含まれているのは切断の性質であり、単純に切りさくという物らしい。

 カードを使用してスペルカードを発動させたということは、戦いが始まる以前に回路が組まれた物ということになる。それは今の状況から作り出されたものではない為、躱すのは非常に容易だ。

 前後左右様々な方向からランダムにレーザーがこっちに迫って来るが、それらの進行方向も魔力の性質で分かるため、無駄な動きを削ぐことが出来る。

「お前…!」

 スペルカードを使用している硬直で動けていない異次元パチュリーがそう呻く声が聞こえてくる。

 スペルカード全体の動きが分かれば、その間を縫って攻撃を加えることもできる。このデメリットがあるから私はカードを使用するのは好かない。

 異次元パチュリーのいる場所を中心として、正確に半径一メートル離れた場所でレーザーが動きまわっているのだが、その内側に入ればダメージを受けることはない。

 レーザーの動きを先読みし、スペルカードの内側に私は滑り込んだ。このスペルカードの効果は長い。最低でもあと一秒は続くようだ。

 その時間さえあれば、一メートルなんて距離は余裕で埋めることが出来る。身体強化と耐久能力を強化し、大きく踏み込んだ。

「!!」

 異次元パチュリーの顔が初めて焦りに歪む。構えることなく棒立ちの彼女の腹部に、全力で蹴りをかました。

「げぇっ!?」

 普段から鍛錬もせず、ずっと図書館で本を読んでいる彼女は魔法に対する知識や耐性は大したものだが、打撃にはすこぶる弱い。

 それに加え、私が近接に切り替えたから身体の強化をしようとしていたが、スペルカードの硬直の中にいるため強化すらできずに生身で受けたようだ。

 私が異次元パチュリーを蹴り飛ばしたことで、スペルカードが崩壊し周りで動いていたレーザーが消えていく。

 書斎に背中から突っ込んだ異次元パチュリーの体から、ぐしゃりと嫌な音がしてゾクリと鳥肌が立つ。

 だが、これは戦いなのだ。他の人間のことなど構っていられない。

 倒れた彼女に走り寄り、胸倉を掴んで持ち上げた。私の掴んでいる腕を異次元パチュリーが振りほどこうとしているが、強化が弱くてできないようだ。

 焦りからなのか異次元パチュリーの身体強化が不十分で、私の手を離れさせることが出来ていない。

 そのうちに私は近くの本棚に向け、彼女を投擲した。思ったよりも早く飛んでいく異次元パチュリーが棚に叩きつけられた。

「ごぼっ…!?」

 その攻撃で彼女は倒れることは無かったが、ヨロヨロと今にも倒れてしまいそうな異次元パチュリーは口元を抑え込むとその指の間から血がダラダラと零れる。

 グラグラと異次元パチュリーの体が左右に揺れる。数秒は倒れずに耐えていたが、徐々に大きくなっていき、ゆっくりと倒れ込んだ。

「っ…」

 危なかった。異次元パチュリーが私に使ったのがスペルカードでよかった。初めから動きが全てプログラムされているため、次の動きがわかるからだ。

 それに比べて、スペルカード以外の攻撃であれば臨機応変にこちらに対応してくる。こっちも対応しないわけではないが、倒すのは困難どころの話ではない。

「っ……くそ…」

 だいぶ消費してしまった。疲労で足がガクガクと笑ってしまい、気を抜くと膝から崩れ落ちそうになる。

 十分でも二十分でもいいから少しだけ休みたい。でも、図書館でこれだけの騒ぎがあったのだ。五分と立たずに妖精メイド達が集まってくることだろう。

 私を逃がさないように異次元パチュリーが図書館全体に結界を張られていたのだが、それの性質には物体の物理的な移動を阻害するだけで、音や光などそういったものは普通に通してしまう。

 時期にこの結界も消えるだろうし、自分が入って来た扉から外に出ようと歩き始めた私の後方で、魔法の発動による魔力の気配を感じた。

「っ!?」

 油断した。倒れた様子から完全に気を失っていると思っていた。振り返った私の目に、真っ赤な魔方陣からバスケットボール台の火球が飛びだしてくるのが見えた。

 威力に魔力の大部分をつぎ込んでいるらしく、他のレーザーなどの弾幕に比べたらだいぶゆっくりだ。

 手先に魔力を集め、エネルギー弾へと変換する。火球へ狙いをつけて放ったはずだったのだが、焦って狙いを外してしまった。

 エネルギー弾が異次元パチュリーの足元ではじけると、衝撃で周りの床板を剥がすが彼女にはあまりダメージが入っていない。それに対して私の目の前で火球が弾け、炎と熱風に全身が包み込まれた。

「ぐっ…あああっ!?」

 全身を強化して魔力で覆としたが若干間に合わず、暖房器具の加熱部分に触れてしまった時のような感覚が体中で起こる。

 叫んだことで炎を吸い込むことは無かったが爆風が体の前面を叩き、呼吸をすることが出来なくなる。今回はこれのおかげで助かったが、もう少し爆発が強ければ肺が潰れていたところだ。

 体中を撫でまわした炎が弱まり、高温にさらされていた皮膚が通常の空気中に戻った頃に気が付いた。

 強化した体でも息が詰まるほどの爆風だったのだ。足が床から離れて、吹っ飛ばされていないわけがない。

 魔力で体を浮き上がらせようとしたが、気が付くのが少し遅かった。頑丈そうな木の棚に体を衝突させた。

 異次元パチュリーを棚に叩きつけた時には、身震いする嫌な音がしたがそれに負けないぐらいグロイ音がする。

 ぶつかった衝撃で本棚から本が飛びだし、倒れ込んでいる私に降り注ぐ。一冊一キロぐらいはありそうな魔導書が背中に当たり、追い打ちをかけてくる。

「魔理…沙…!あんたみたいな…光の魔法しか使えない三流魔法使いに、優れた魔法使いである私が負けるはずないでしょうがぁぁぁっ…!!」

 彼女は口内詠唱で私に聞こえないように詠唱を済ませていたらしく、十数個の魔方陣を一度に形成した。赤や黄色、水色など様々な色をしていて、遠目から見れば色とりどりで綺麗なことだろう。

 だが、その綺麗な光景からは想像もできないほどに、えげつない魔法が組み込まれている。どうやら、彼女は頭に血が上っているらしい。

「ばか…だな……」

 私は自分の上に散乱している魔導書をどかし、魔方陣を展開してあとは撃つだけとなっている異次元パチュリーにそう呟いた。

「なに…?」

 眉を吊り上げ、怒った顔をする彼女は今にも魔法をぶっ放してきそうだが、私は続けて言った。

「バカだって、言ったんだ。……多数の魔法が使えるからって、必ずしも優れているにつながるわけじゃあないぜ」

「寝言は寝てから言いなさい。私よりも重傷を負っているあなたにそれを言われても説得力がないわよ?」

「驚いたぜ、私が言っていることが理解できてないのか?もう一度魔法の勉強を初めからやり直してきたらどうだ?」

「ほざいてなさい…!…私を怒らせるとどうなるか、思い知らせてやるから…!」

 来る。全ての魔方陣に射撃の命令が下される。ここまでは計画通りだ。頭に血が上っていてくれてよかった。簡単に挑発に乗ってくれた。

 炎や雷、水や氷など様々な弾幕が私に向かって放たれる。それらの内側には爆発系の魔力が仕込まれており、完全に私を逃がさない配置で飛んできている。

 放たれた後では作られた炎や水を消すことはできない。しかし、真ん中にある魔力だけを撃ち抜いて爆発させないようにすることはできる。

 手先に溜めて置いたレーザーを数十個に分割。それら全てに爆発するという命令を阻害するという、性質を持った魔力を含ませた。

 異次元パチュリーの弾幕には爆発の性質を含ませているため、動きがとろい。撃ち落してくれと言っているようなものだ。

 飛んできている弾幕にそれを一気に照射した。数十個の弾幕に対して放ったが、分割のし過ぎで一発ずつが小さくなってしまい、上手いこと当たらなかったレーザーが多数あり、阻害ができたのは大体半分程度だろう。

 残りの半分は爆発するのだが、全て躱すよりはずっと楽だ。あとは気合で避けていくしかない。

 私の元に飛んできた一つ目の弾幕は、阻害のできなかった炎だ。体が近すぎると火傷してしまうため、大きく間を取ってかわした。

 本棚にぶち当たると炎をまき散らして爆発を起こす。飛び散る炎に当たることは無かったが、爆風にあおられたせいで雷の弾幕に腕が当たってしまう。

 阻害できている物で爆発は起きなかったものの、体を電気が走り抜け全身の筋肉が硬直して急いで体勢を整えたいのにそれができない。

 氷の弾幕がお腹をかすめて飛んでいき、爆発してその結晶をまき散らして私にいくつかの裂傷を作る。

 狙いを外した弾幕があちらこちらで爆発を起こしたり、そのまま床に落ちて行ったりしている。ようやく硬直から解放された私は、飛んできていた爆発の性質を含む二つの炎と雷の弾幕の対処を早急に始める。

 魔力を大量に放出し、それを岩のように硬化させる。結界の代わりに設置したそれに二つの弾幕が当たると、内部の魔力によって障壁と一緒にはじけた。

 多数の傷を負ったものの、何とか切り抜けることが出来た。膝を床につきそうになるが、戦いはまだ続いている。

 踏ん張って異次元パチュリーの方を見ると、すでに次の魔方陣を展開して、もうすぐで射撃の準備も整うようだ。

 だが、準備が整っているのは異次元パチュリーだけではない。電気で詠唱を中断させられたが、なんとか彼女の魔法が完成する前に、私の魔法も完成しそうだ。

「食らえ!」

 異次元パチュリーが魔法を発動しようとするが、その直前に私も魔法を発動させた。

 例えば、私たちが見ているこの景色は、その場所に光が当たり、それが反射して目に飛び込んでくるから見えるものだ。

 では、周りの異次元パチュリーの方へ向かう光だけを全て無くしたら、どうなるか。答えは簡単、ルーミアの生み出した闇の中にいるのと変わらない状況になる。

「っ!?」

 発動した途端に、異次元パチュリーが驚愕を顔に浮かべる。私の姿を見失ったらしく、周りを何度も見まわしている。

「何をした…!?」

 さて、なぜ私が異次元パチュリーにあんなことを言ったのかというと、挑発もあるが彼女はわかっていないからである。

 あらゆる魔法を使えるがイコールで優れているにはならないというのは、全ての魔法を平均的に使えるということは、逆を言えば得意な魔法の分野がないということになる。

 あらゆる分野の敵と戦うことはできるが、一つのことに特化した魔法使いと戦えば、手も足も出ないだろう。なぜなら、自分の得意分野に引き込むことが出来ないからだ。

 例え自分の戦い方に引き込もうとしても、相手のペースに乗せられて自分のペースで戦えないだろう。

 光の魔法にしか特化していない自分を優れた魔法使いというつもりはないが、見てわかる通りに彼女は何をされたのか全く理解できていない。

 つまりそれは、光の魔法だけを見るなら私の方が優れているということになり、あらゆる魔法を使って油断している彼女は、アイデア次第でどうとでもなるが光の魔法にのみ特化している私に勝つことはできないということになる。

 体が重くて異次元パチュリーの元に行くのにはだいぶ時間を食ってしまう。手先の魔力をエネルギー弾に変換し、慌ただしくしている彼女へぶっ放した。

 

 

 大きく、ただっぴろい部屋。中央には部屋を分断するように真っ赤な絨毯が横切っており、片方は大きな扉に続いていて、もう片方はこの大きな館に似合う岩でできた玉座が構えている。

 そこの傍らには、右腕の肘から肩、頬と右目にかけて大きな古傷のある咲夜がたたずんで、なにかをするということもなくボーっとしているようだ。

「あらぁ。咲夜…ここにいたのねぇ」

 立っている咲夜に声をかけると、そこでようやく気が付いたようで、なんだといいたげにこっちに顔を向けた。

「もう気が付いてると思うけど魔理沙が来たようねぇ」

「そうですね」

「あらぁ?捕まえに行かないのかしらぁ?」

 私がそう言うと咲夜は玉座の方に顔を戻して一礼し、一歩下がって離れると黒い革の手袋をつけて私が入って来た扉へと向かって行く。

「お嬢様に許可をもらってから行くつもりだったんですよ」

「……そぉ」

 扉のドアノブを捻り、押し開けてそのまま廊下を歩いて行ってしまった。扉がゆっくりと閉じていく。

「レミリアに……ねぇ」

 ガチャンと扉が閉じきるのを見届けた後、最初に咲夜が玉座を見ていたように私もそこを覗き込んだ。

「……だ、そうよぉ………レミリアァ」

 私がそう玉座に黙って座っている彼女にそう伝えるが、座っているレミリアからは返答は帰ってこない。

 こんなことをしていないで、私もぼちぼち向かうとしよう。殺すことはないだろうが、咲夜一人だとやりすぎないか心配だ。

「それじゃあねぇ」

 私はこちらに興味を示さないレミリアに手を軽く振り、歩いて行ってしまった咲夜を遅れながらも追った。

 

 

「ぐっ……く…そ……」

 意識が朦朧とする。異次元美鈴との戦いと、異次元パチュリーとの連戦が体に響いている。特に、火球で吹っ飛ばされたのが響いた。

 魔力の強化がほとんどできていないところに、あれを食らったせいで全身が痛い。いつの間にか肋骨にひびが入ってしまったのか、呼吸をするたびに胸に激痛が走り、うまく息を吸い込むことが出来ない。

「……っ…」

 きちんと呼吸ができないため、酸素が十分脳にいきわたらず頭が働かない。どこに行ったらいいのだろうか。異次元霊夢に戦いを挑んだとしても、この状況での勝率は絶望的だろう。

「うっ……」

 壁に手を付いて歩かなければならないほどに疲弊している。異次元美鈴と戦う前からの疲労も重なり、目を閉じて数秒もすれば立っていても気を失ってしまうだろう。

 まずい。敵がいつ来てもおかしくはないというのに、意識レベルを上げることが出来ず、ぼんやりしていて上手く魔力で回復させることが出来ない。

 気が付くと足を止め、壁にもたれて倒れそうになっていた。胸の痛みを承知で息を大きく吸い込んだ。

「ぐっ…!」

 亀裂の入っている骨が軋み、激痛となって呼吸を阻害する。だが、少しは酸素を取り込むことが出来た。肺から脳に酸素が巡り、意識がわずかにクリアになって行く感覚がする。

 そのうちに頭を働かせて、亀裂の入っている骨に魔力を注いで治癒を促進させる。ズキズキとした痛みは減ることはないが、じきに収まることだろう。

 意識は酷く混濁しているが立ち上がり、あてもなく探すために再度歩き出そうと顔を上げると、十メートルほど先に咲夜と瓜二つの異次元咲夜が立っていた。

「こんなところに居ましたか、魔理沙」

「………っ…!」

 魔力に咲夜の銀ナイフの性質を持たせ、得物を作り出して構えようとするが、体が限界を訴えている。鉛のように重い腕が上がらず、足がハンダ付けされてしまったかのように進めない。

「来ないのなら、こっちから行くとしましょうか」

 彼女はそう言うと光の反射でキラリと光る銀時計を掲げ、横から飛び出ているスイッチのようなものをカチリと親指で押し込んだ。

 気が付くと異次元咲夜が煙のように消えていた。私の頭が働いていないからかと思ったが、数秒かけてようやく能力だと結論を出したことには、後ろから背中の右側に銀ナイフを突き立てられていた。

「あぐっ…!?」

 一度距離を取ろうとするが、咲夜の左腕が後ろから伸びてきて首に巻き付くと、息ができないように一気に締め上げられた。

「あっ……!?…か…ぁっ……!?」

 その身長差から私の足は地面とサヨナラをし、首を絞めやすい彼女の高さを維持させられる。

 異次元咲夜が私の体を自分に押し付けさせると、背中に刺さっている銀ナイフの柄が押されてゆっくりと少しずつ私を切り進み始める。

「あっ…ぐっ……!っ……かっ……はぁ……!」

 異次元咲夜に手に持った得物を突き刺してやろうとするが、その手を掴まれて自分の太ももに突き刺された。

「~~~~っ…!?」

 頸動脈を締め付けられているため、急速に意識が闇の中に引き込まれ始める。あと数十秒もすれば完璧に気を失う。

 暴れたくても背中と足に刺さっている銀ナイフのせいで、身動きを取ることが出来ない。無駄だとはわかっているが、私はもう一本銀ナイフを逆手の手で作り出し、異次元咲夜の腕に突き刺そうとした。

「……………ぁぁ………………っ……………………」

 だが、もうすでに得物を持ち上げて突き刺すことなどできないほどに虫の息だった私の意識はブツンと途切れた。

 数秒後に作り出していた銀ナイフが手から滑り落ち、乾いた音をあたりに響かせた。

 




一週間後ぐらいに投稿できたらいいと思います。
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