前回の話を投稿した際に、文章が読みづらいので改行をもっと入れてほしい。という大変ありがたいご意見をいただきました。
今回試しに改行を入れた文章にしてみようかと思ったのですが、
不慣れな部分があり、本当に改行したい部分というのが自分でもわからなくなってしまい、元に戻してしまいました。
ご意見を送ってくれた方にはご要望に添えることが出来ず申し訳ございませんでした。
少しでも見やすいように工夫はしていこうと思うので、これからもよろしくお願いします!
自由気ままに好き勝手にやっていくので、それでもええで!!
という方は第九十七話をお楽しみください。
「…ちょっと、追いかけなくてもいいわ」
私の制止も聞かずに、鴉天狗たちが窓から出て行ってしまう。多分取り逃がすことになるだろうから、私はこの部屋を調べることにしよう。
何かメモなどの情報がないか探そうとしていたが、天狗の攻撃を受けて女性が取り落としていた銀ナイフが目に入った。
一見すればさっきの女性が見よう見まねで作っただけなのだが、なぜか私はその銀ナイフに吸い寄せられるように歩み寄り、拾い上げていた。
「…これは……」
見た目は本当にただの銀ナイフなのだが、なぜか私はそれに違和感があった。
それを説明することはできないのだが、これが魔力で作り出されただけの得物としては普通じゃないと感が言っているのだ。
「…ねえそこのあなた」
唯一部屋の中に残っていた鴉天狗に声をかけた。
あの私でさえも通るのに苦労しそうな小さい窓では、数人が同時に出ることはできない為、止めたのが聞こえたのだろう。
「なんですか?」
「…これの形状を維持したまま、紅魔館のパチュリーまで運んでほしいのだけれど」
「このナイフをですか?別にそんなことはしなくてもいいのではないですか?」
ただのナイフに見えるこれに対して、解析する意味を見いだせない彼女はもっともなことを言う。
「…いや、お願い。パチュリーに解析をしてもらいたいの」
確かに彼女が言う通り、見た目はただの変哲もない銀でできたナイフだ。でも、魔力で作ったにしては精工にできすぎている。魔力で形成した感じがないのだ。
これだけリアルに得物を再現するとなると、時間をかけなければならないのだがあの女性は、ベットから窓まで一秒もかからずにこれを作り上げた。
何か特別なことをしているから、あそこまで早く作り上げることが出来るのだろう。そう言ったコツを解析できればこちらとしては大きな力となるかもしれない。
「わかりました。一番早いのは文ですが、居ないので次に早い者に持って行ってもらいます」
彼女はそう言うと、形状維持のために銀ナイフに同じに近い波長に合わせた魔力を送り込み、部屋を出て行った。
「霊夢さんすみません。逃がしてしまいました」
それと入れ替わって、戻って来た鴉天狗の一人が部屋で待っていた私にそう言った。元々追ってもらおうとも思っていなかったし、深追いはするなと言ったから別に気にはしていない。
それにしても、この部屋の中を漂っている匂いは酷すぎる。
血のにおいが充満しているのだ。そのほかの匂いもするが、嗅いだこともない匂いで例えることが出来ない。簡単に言うと、良い匂いではない。
「…いいわよ。大切な情報源だけど、彼女は逃げるのが上手いから…今回もどうせ逃げられちゃうだろうし」
「そうですか。でも、なんで真っ先にこの部屋に来たんですか?」
それを聞かれると困る。八割以上は感で進んでいたから、なぜかというのを説明することが出来ない。
入り口からは反対方向に位置した部屋であるあから、そこから見えたという説明にはならない。
「…感よ」
「そ、そうですか」
若干引き気味に言われたが、真実だから仕方ない。しっかし、この部屋では何が行われていたのだろうか。
血の跡はベット周辺に集中しているから、そこで何かをされたのはわかるが誰が何をされていたのだろうか。
「………ここでは何があったんですかね」
「…さあ」
でも、出血量も少ないし死体が辺りに転がっていないから殺されたとかではないのだろう。
誰が何をされているのかなど考えたくもないが、ここでは殺しはしない暴力を受けていた者がいたはずだ。
その人物が彼か彼女かははっきりしないが、きっと生き地獄だったことだろう。
「…」
それにしても、なぜ彼女だけが紅魔館に残っていたのだろうか。
女性が一人しかいないと感じたのは、紅魔館に私たちが侵入してから約五分が経過しているのだが、戦闘音が全く聞こえてこないからだ。
そろそろ交戦が始まる音が聞こえてきてもおかしくは無いのだが、その音が全く聞こえてこないところを見ると誰もいないようだ。
そう簡単に異次元咲夜が自分の屋敷を手放すとは思えないのだが、この状況からして本当にここを放棄したと考えられる。
そうなると、放棄した場所になぜ彼女だけが取り残されていたのだろうか。それも、全身傷だらけの状態でだ。
体中が痣だらけで、まるでこの場所で暴行されていた痕があったように見えた。異次元咲夜と手を組んでいるのは、異次元霊夢達だから。
その彼女たちに暴行されていたということは、彼女は異次元霊夢達とは敵対しているということか。早い段階で私たちの世界に来ていたから、彼女らの仲間内かと思っていた。
でもそうなると、三日おきのアクセスを徹底していた異次元霊夢達の目をかいくぐり、どうやってこっちに来たのだろうか。いくら逃げるのが上手くても、逃げると向かうではだいぶ違う。
彼女は目に見えなくする魔法が使えるようだが、その程度で異次元霊夢たちを騙せるものだろうか。
「霊夢さん、来てください。…見てもらいたいものが…」
悪臭が漂う部屋の中では頭も働くものではない。
埃とうっすらと血の匂いが漂い、赤い絨毯の敷かれた廊下で考え事をしていると、白狼天狗がやってきて私に声をかけてくる。
「…何があったの?」
「見てもらった方が速いのですが、…その…死体です」
「…わかったわ。見に行く」
彼女が来た方向に歩み出してから、変化はすぐにあった。この一階にわずかに漂っていた血の匂いが、進むにつれて段々と強くなっていくのだ。
「…なるほどね」
しばらくまっすぐ進んだ後に突き当たりを曲がると、紅魔館を捜索していた他の鴉天狗や河童たちが一つの扉の前にたむろっている。
その部屋からこの鉄臭い血の匂いが漂ってきているらしく、部屋の前にいる彼女たちは鼻を押さえている。
十メートルほど離れた位置にいるのに、かなり血の匂いが匂ってきている。自分の服に血がこびりつているのではと思うほどだ。
「…中には誰が?」
扉の前に来ると、妖怪よりも鼻が利かない私ですら鼻を押さえたくて仕方がない。
そして、これだけ近くだからわかるが、ドアの下から茶色く酸化した血が少しだけ覗いている。
「……おそらく、永遠亭のウサギたちかと思います」
腐敗臭がしてない辺り、殺されたのは最近だろう。だが、異次元てゐの部下ともいえるウサギたちを殺されて彼女は黙っているだろうか。
「…てゐはいた?」
「わからないです。損傷がないのもありますが、その中にはいませんでした。ほかのも損傷がひどくて見分けが尽きません。」
「…そう」
とりあえず自分の目でも見てみるとしよう。人伝いに聞いた話と、自分で直接見るのでは感じる物も違う。
「…それじゃあ、とりあえずあなたたちは他のところを捜索して来て、私はここをもうちょっと調べてみる」
「わかりました」
すぐにでも離れたいのか白狼天狗からすぐに離れていき、続いて河童と鴉天狗たちが私の近くから離れて行った。
こんな時に紫は何をしているのだろうか、彼女の意見も少し聞いてみたかったのだが。いや、ずっと頼りにしているわけにもいかないし、ここは一人で調べるとしよう。
ドアノブを捻り、施錠を解除して扉を押し開けると、廊下の比ではないほど濃縮された血の匂いが肌を撫でまわし、鼻腔を刺激する。
「…うっ……」
すでに心が折れそうだが、ここから得られる情報も少なからずあるだろう。扉を閉めたい思いでいっぱいになるが、木のドアを押し開けて中に進んだ。
廊下で見た時は、ドア周辺で誰かが死んでいるから血が扉の下から出て来たのかと思ったが、どうやら違うようだ。
茶色い部屋と勘違いしそうだが、天井や周辺白と赤の塗装がされていて、それが本来の色だ。壁が茶色くなっているのは、飛び散った血が酸化したものだ。
今はこうして立ち入れるが、この血が飛び散ったばかりの当時ならば、とてもじゃないが私一人では入る勇気は無かった。、
部屋の中を見回すと、十数人にもなるウサギたちが横たわっている。一部は身を寄せ合って固まって倒れており、残りはベットの上や壁際にもたれかかっている。
倒れているウサギたちは首を掻き切られていたり、頭を潰されたりしている。ぱっくりと開いた切り傷から流れ出していたであろう血の跡や、陥没している頭部がとても痛々しい。半分ぐらいがそうして死んでいる。
見分けられる死体の中にてゐの姿は無い。顔がわからない遺体の中にあるのかどうか、見てみるが服装的に彼女のものは無い。
頭や体が床にへばりつき、内臓などをぶちまけている死体もあり、気を抜いたら胃の中身を吐き出してしまいそうだ。
次は、ベットに倒れ込んでいるウサギたちを調べてみることにした。
特に切り傷などの外傷はないが、首の皮膚が一部分だけ赤紫色に変色していて、それが首の後ろにまで伸びている。これは首が絞められた跡だ。
彼女の手には相手をひっかいてできた防御創がみらる。ほぼ全ての爪が剥がれているところを見ると、どうやら苦しめられてじわじわと殺されたようだ。
ウサギの体を観察していると、ベットの上にいるウサギ達は股間から血を流した後が残っている。
「……」
切り傷は無く、局部から流れ出ているから誰かに犯された後ということだが、どうされたらここまで出血するのだ。
ぐったりと横たわっているウサギの表情から相当苦しめられたのが何となくわかるが、それほどだったということか。
ベットには出血した痕らしい、十センチほどの茶色い染みが広がっている。のだが、この染み前も見たことがある。
さっきまでいたあの部屋のベットにも、同じような染みがいくつかあった。さっきの女性が、このウサギたちと同じように犯されていたのだろうか。
まあ、敵同士で潰しあってくれるのなら、こっちとしてはどうでもいいのだが、なんだろうか。
すごく……ムカつくな。
無意識のうちに私はお祓い棒を、軋むほどの力で握りしめていた。
別なところに意識を向けすぎていた。少し頭を冷やして、この部屋の分析へと移った。
「……紫」
見通しのきく川辺から離れ、森の中を歩きながら例のボールに魔力を流し、紫に語りかけた。受け取る側である向こうの状況もあるし、返答を待っているとすぐに声が聞こえてくる。
『魔理沙…何かしら?』
「何かしらじゃないぜ。なんで霊夢たちがこっちに来てるんだ?…こっちに来ないようにしておいてくれって言っただろ」
血を洗い流した私は、休まずに移動を開始した。紅魔館から天狗たちが追ってくる可能性は非常に低いが、無駄な体力を使いたくはない。
『ごめんなさい。私も止めようとしたのだけれど、あまり否定しすぎるのも霊夢に不審がられる可能性があったから、断り切れなかったの』
幻想郷自体を我が子のように思っている紫が、幻想郷のために動こうとしている霊夢たちの行動を否定するのは、確かに違和感がないことは無い。
「まあ……もう来ちまったもんは仕方がないぜ。できるだけ早く帰ってほしいんだが、何のために霊夢達は来たんだ?」
『情報よ。奴らがなんでこっちに来るのかわかってないから、それがわかれば対策もできるってこと来てるのよ』
紫は目的がわかっているから私が向こうに行けばいいだけだとわかっているが、それを言ったらそんなことをなぜ知っていると責められ、異次元の人間ではないかと疑われてしまうだろう。
「さっき、あいつらは紅魔館を放棄するって言ってたし、誰もいないんじゃないか?」
『ええ、その通り…入ってからしばらく経つけど…戦ってる音も聞こえてこないから連中はここにはいなさそうね……本当に情報が無ければ、もう少しここに滞在することになりそうね』
「はあ、気が乗らないぜ……」
異次元鈴仙に霊夢達に掴まってもらって、情報を提供するという手もあるが下手に私の名前を出されると困る。
やはり霊夢達には、自分らで頑張ってもらうしかないだろう。私が行ってもいいのだが、姿を見た途端に襲いかかって来た様子から、少なからず怪我を負わせられることだろう。できれば痛いのは嫌だし、仲間同士でそんなことをするのもバカらしい。
『申し訳ないわね』
「仕方ない。とりあえず無理はさせてくれるなよ」
歩いて森の中を抜けようとしていると、誰かがこっちに来ている気配を感じた。一度立ち止まり、音に集中すると一定の間隔で地面を踏みしめる音が聞こえてくる。
「また後で連絡する。敵が来た」
ボールに送り込んでいた魔力を切り、音の聞こえてくる方向に向き直る。木々で音が反響し、それが重なっているせいで少し相手の場所がわかりずらい。
だが、魔法の森で長く生活していたから、こういう状況でもある程度の方向はわかる。薄暗い森の中目を凝らしてみると、人影が安定した足取りでこっちに向かってきている。
相手との距離が十数メートルにまで迫ると、相手の輪郭がおぼろげながらも見えてきた。頭部からは大きな角のようなものが左右に伸びている。
あの特徴は、幻想郷でも指折りの実力を持っている鬼だ。
「……っち」
暗いのと遠いので誰かはわからないが、こっちに向かってきているとは最悪だ。幸いにも連中はあまり足が速くないし、このまま逃げるのも手だ。
よくよく考えれば左右の側頭部から大きな角が出ている人物など、一人しかいないだろう。
あれは、異次元萃香だ。そんな幻想郷でも屈指に実力者と戦っていたら、命がいくつあっても足りやしない。
密と疎を操る程度の能力を使っているようだ。彼女の身長は私よりも低いが、幻想郷では身長の大きさで戦闘能力は図れない。
戦闘体勢を解いて彼女から離れる様に逃げようとするが、それをする前に異次元萃香が私に声をかけてくる。
「なあ、待ってくれよ。人の顔を見た途端に逃げるんじゃあない。私はただ話に来ただけだ」
ピンポイントでこっちに向かう足取りからして、やはり見つかっていたようだ。
「信用するとでも?」
「してほしいね、攻撃ができるならもうしてる。それにあたしに敵意がないことはわかってるだろ?」
服の色や表情がわかるほど、歩いて近づいて来た異次元萃香がそう言った。確かに彼女の言う通り敵意は感じないのだが、それが信じる材料になるかは疑問である。隠しているだけ、ということもある。
「知るか…。私はここの霊夢達を早く殺さなきゃならないんだよ。……邪魔をするならお前もついでに殺すぞ」
「霊夢達を殺すのも、ついでで殺されるのもあたしとしてはやめてほしいところだが、魔理沙…お前にとっても悪い話はしない」
両手を頭よりも高い位置に持ってきて無抵抗の様子を示すのだが、素手で人間を簡単に殴り殺せる種族であるためそれでも警戒は解かない。
「なんだ?」
「あたしは、霊夢たちがやろうとしていることを止めたい。……魔理沙も奴らを倒したい…最終的な目的は同じじゃないか?」
確かにあいつを倒そうとしているのであれば、鬼の力はとても頼りになる。本当に倒すのが目的ならな。
最終目標が霊夢を倒すことみたいに言っているが、その先の力を手に入れるがないとは限らない。
「…」
「不服か?」
良いも悪いも言わない私に、異次元萃香はそうたずねてくる。彼女の雰囲気はかなり穏やかで、顔つきなどからも人を騙そうとしているようには見えないのだが。
「ああ…正直私としてはいい話ではある。でも、お前が嘘を付いている可能性を考えると首を縦には振れない」
首を縦に振らない理由はもう一つある。異次元萃香の目的は倒すこと、私の目的は殺すこと。そこには決定的な違いが存在しているからだ。
協力することになれば、そのうちそれを巡って戦うことになるのは目に見えている。それまでは彼女を利用できるだろうから、それは言わないがな。
「まあ、いきなり来て仲間になれって言われても困るだろうな。…それにそこを言われるとあたしは、自分が嘘を付いていないと証明する手立てを持っていないから、もっと困るな」
どうやって嘘を付いていないと証明できるか考えているのか、異次元萃香は顎に手をやって唸り始める。
「…」
この十年で幾度も戦ってきたらしく、彼女の服はボロボロだし髪も手入れが行き届いていないのかボサボサだ。
「あたしは嘘が大嫌いだがから、嘘はつかないって言っても、言うだけなら誰でもできるって言われそうだしなぁ……まあ、確かに…少しくらいは嘘もつくかもしれないけどさ……」
いい感してるじゃないか。でも、少しくらいは嘘もつくかもしれないけど、という言葉をここで言ってしまうところが、彼女が正直なところともいえる。
「力が目的じゃないなら。なんでお前は戦おうとしているんだ?」
当然ながらこの質問を私は彼女に投げかけた。これの返答次第で信用できるかも図れるだろう。
「………うまい酒が飲みたいから」
「……は?」
「いや、だからうまい酒が飲みたいからだって…一人で酒なんて飲んでても旨くもない。こんな状況で飲み会なんかしてくれる奴もいないし……また、皆で笑って酒を飲みたいだけだよ」
もっと、正義のためだとか抜かすかと思っていた。こんなに荒んだ世界でも、異次元萃香は萃香のようなことを言う。
この会話だけでも多少なりとも彼女は信用できるような気もするが、それでも私は一緒に戦おうと返事をすることはできなかった。なぜなら、
「萃香、やっぱり断られたか?」
彼女との共同戦線を受け入れるか考えていると、初めに異次元萃香が歩いてきていた方向から、一つの人影がこちらに向かってきてるのが見えたからだ。
「勇儀か、向こうで待ってろって言っただろ。お前がいると魔理沙が余計に警戒して話が進まない」
こっちの勇儀に少し似ている聞いたことのある声が異次元萃香に声をかけると、彼女ははぁっと小さくため息を付いて返答する。
「いいじゃねえか。一人で突っ立ってるだけっていうのも暇なんだよ」
額に赤くて太い角が一本生えており、腰辺りまである伸びきった長い髪。身長は190cmはあるだろうか。
女性の平均的な身長をぶっちぎりで追い越している彼女を、私は見上げた。身長差が1.5倍ほどあってかなり威圧される。
腕は少し筋肉質であるが、男性に比べれば細い腕ように見える。そこから地形を変形させるほどの力を出せるとは、誰が予想できるか。
彼女はこんな整備されていない森の中でも、関係なく下駄を履いている。木がぶつかる乾いた音が歩くごとに響く。全体的に赤っぽい服に、両手首には異次元萃香と同じように、手錠に似た物が嵌められている。
「全然よくないんだが……。まあいい。手を貸してくれる気になってくれたらいつでも来てくれ。…もしかしたら、こっちからまた声をかけるかもしれんがな」
異次元萃香はそう言うと、手錠に繋がっている鎖をジャラりと鳴らして手を振ってくる。
「ああ、その時はまた」
私がそう言うと、こっちに背を向けて歩き出した。彼女が帰り始めたことで、ここにいる意味もない異次元勇儀もそれを追って歩いて行った。
離れていく彼女たちを警戒したまま、私は異次元勇儀を睨み付ける。なんだかあいつは、気を許してはいけない気がしてならない。
木々に隠れて二人の姿が見えなくなった頃に、私もようやく動き始めた。連中が見えている段階で、背を向けるという隙を見せたくは無かった。
しばらく歩いたところで、話し声が聞こえてくる。
その声から遠ざかるために、足音を消して離れようとした。だが、会話次第ではもしかしたら、どこにいるかわかっていない異次元霊夢の場所がわかるかもしれない。
耳に意識を集中すると、話し声の中に水の音が聞こえる。どうやら、川の近くで会話をしているらしい。声のトーンや話し方から、異次元霊夢達ではないことはわかる。
枝などを踏まないように、ゆっくりと川へと向かって行く。木々の陰に隠れながらであるため、会話している二人の距離はわからない。さっきよりも近づいたことで、会話がよく聞こえてくるようになった。
自分の体を隠せる太さのある木の後ろに移動し、聞き耳を立てる。
「銃の調子が悪いって言ってたろ?直ったか?」
「一度バラして磨いたら、普通に撃てるようになったよ」
「メンテナンスは定期的にしないとダメだろ。こいつは連射がきく分だけそう言った部分は繊細なんだから」
どうやら装備の話をしているようだ。紅魔館でも使った相手からは見えないが、こちらからは見える魔法を使うことにしよう。
魔力で光を調節し、彼女らから反射して来た光を屈折させて私の目に入ってくるようにすると、会話をしている彼女たちの姿が見えるようになった。
「わかってるよ。でも、部品が多くて面倒なんだよね」
緑や青などの布が主体となっている洋服を着ているのは、河童たちだ。彼女たちがいまだに生き残っていることに少し驚いた。
天狗のように素早さがあるわけでも、鬼のように力が秀でて強いわけでもない。物が作れるだけの彼女たちが、どうして今まで生き残ってこれたのだろうか。
いや、むしろそれがあったからこそ生き残ってこれたのだ。彼女たちの技術力は時に、幻想郷には不釣り合いな物を生み出すことがある。
その証拠に、猟銃なんかよりも未来感のある武器を手に持っている。彼女たちの会話と、握っているグリップの銃身に近い位置にトリガーが付いていなければ、銃とはわからなかったかもしれない。
よく見るとライフルの形に少し近いが、長い銃身の上面には四角い箱のようなものが付いている。
だいぶ昔に、外の世界から流れて来た雑誌を香林に見せてもらったことがあるが、あれらによく似た物が映っている本があったのを思い出した。
当時は銃などには興味もなく読んでいてもよくわからなかったが、今はわかる。弾倉という物だろう。中に弾丸が詰められており、連続的に弾丸を射撃することが出来るのだ。あれは脅威になりそうだ。
「…そう言えば、にとりがなんか作ったらしいぞ」
あれについての対策をあれこれ考えていると、河童の片割れが水辺に座り込んで川を眺めているもう一人に声をかける。
「何を作ったんだ?」
「魔力で事前に作りたい物の情報を入力しておくと、それに形状が変化する物質を作ったんだと」
「なんだそりゃ、凄いな…さすがはにとりだな」
その話に少し私は興味を惹かれた。現在、私は武器を所持していない。持っていることには持っているが、私が自分の戦いで使っていい気はしないのだ。
彼女は異次元咲夜を殺すという条件で手を貸してくれた。私も奴は殺したいから利害が一致し、目的に向かっている。
私が彼女のナイフを使えるのは異次元咲夜と戦う時だけでなければ、使ってはいけない気がする。
自分の利益のためだけに使うのは、異次元咲夜を殺す目的には含まれないだろう。だから、私は自分の武器がほしいのだ。
「でも、作るのが難しすぎて量産するのは無理だという話だそうだ。私たちが使えるようになるのは、何年も後だろうな」
「なんだ…それがあれば戦うのがだいぶ楽になると思ったのに」
「でもまあ、私たち河童が例の力を手に入れられれば、こんな物をぶら下げて歩かなくてもよくなる。魔理沙が戻って来たらしいし、戦争の終わりは近いかもな」
2人の河童は時計を確認するとそう言って移動を始める。どうやら休憩時間だったようだ。
あの二人から、それが置いてある場所を聞き出すとしよう。少しより道になるが、そんな物があるのであれば自分に合った武器という物が作れるし、異次元霊夢を殺すのにも役立つことだろう。
自分の姿が見えないように新たに魔法を発動させ、会話をしながらゆっくり歩いて行く二人の河童の後を追った。
素早さや力が強くないとは言っても、それは妖怪を基準にしたらである。人間を基準に考えれば数倍の力は出せるだろうし、耳もそれなりに良いだろう。
砂利を踏む音で感づかれそうであるから魔力で体を浮かせ、足元の小石を蹴飛ばして遊びながらゆっくり進んでいる二人に接近する。
こうして近づいてみると、かなり未来感のある装備を身に着けている。防刃チョッキやブーツなど、軍隊の中に彼女らが居てもさほど違和感はないだろう。
私は手の平の中に魔力を送り込んで凝縮し、エネルギー弾へと変換した。連中に敵意を悟られる前にそれを片割れに放った。
彼女らからは五メートルほどの距離が離れているが、無音で発射されて尚且つ話に夢中になっているため、二人はエネルギー弾に気が付くことは無い。
銃のメンテナンスをしろと注意されていた河童の頭に、狙い通りエネルギー弾が直撃する。含まれている魔力が強力な運動エネルギーに置き換わり、進行方向に爆ぜた。
身体を強化していれば、多少なりとも怪我を負うことにはなっても吹き飛ぶ程度で済んだだろう。
でも、彼女らは戦闘の最中でもなかったから、体の強化をしていなかったらしい。頭だけが飛んでいくということもなく、跡形もなく頭部は消し飛んだ。
全ての肉と骨などの組織は、形状を維持することなくぐちゃぐちゃに混ざり合って宙を舞う。その先は水の中に落ちて行くか、砂利の上にまき散らされる。また、話していた何が起こっているか、まったく理解できていない河童の体に飛び散った。
「へ…?……え…?」
吹き飛ばしてからも、数歩はぎこちなくも前に進み続けたが長くは続かない。
生命の司令塔ともいえる頭部を失ったことで、筋肉などの支持組織に行っていた命令が途絶え、遅れながらも地面にどさりと倒れ込む。
それを見てももう一人の河童は何が起こったのか理解していない。いや、理解したくはないのだろう。今まで話していた友人がこんな姿になっているのだ、現実逃避もしたくなる。
だが、それはさせない。
光の魔法を解くと、いきなり現れた私に河童は驚きのまなざしを向けるが、この惨状を作り出したのが私だと察したらしく、こっちに銃口を向けようとする。
だが、私は既に第二射を放っている。仲間を撃ったり余計なものを撃たないようにするために、銃口を下に向けていたのが仇になった。
それでは私に向けるまでに、わずかであるが時間がかかる。
その軌道もおおよそ予想がつくから、自分でタイミングを調節すれば銃自体に当てることは簡単である。
河童の体に当てる方が簡単なのだが、身体を強化された可能性もあって吹っ飛ばしただけでは問題の先送りにしかならない。どんな形であれ、銃を手放せるのが目的だ。
こちらに向けようとしている銃口と、肩に当てるストック部分のちょうど中間あたりにエネルギー弾が命中し、さっきと同様に爆ぜた。
彼女はとっさのことで、身体を強化していなかったらしい。銃身を握っていた左手と、グリップを握っていた右手が両方とももげた。
「ぎゃあああああああああああああああっ!!?」
激痛に彼女は絶叫する。少しの間叫んでいたが戦闘は始まっており、私が近づいてきているのもあって、痛がっている暇はないと思ったらしく行動を開始した。
嫌に対応が速いが、動揺はしているから、無くなった手で銃を拾い上げようとしている。
鉄製の銃身はエネルギー弾によってくの字にひしゃげており、もう使い物にはならないだろう。
それはいいとして、本題に入るとしよう。
「さっきお前が言っていた魔力で形状を変えられる物質っていうのは、どこにある?」
魔力を手のひらに溜め、彼女に向けた。
「言う、……言うから…!これ以上はもうやめてくれ!」
両手が無くなったことがショックらしく、ボロボロと涙を流している河童は千切れて無くなっている手で降参を示した。
「そうか。なら教えてくれ」
「その物質があるのは…この川を、下流に下って行った先にある基地だ……」
川が流れている方向は彼女らが進んでいた方向だ。どうやらその基地に向かっている最中だったらしい。
「規模は?」
「五十人から…六十人ぐらいが…駐屯してる。……それより、……ちゃんと話すから、助けてくれ……」
「ああわかってる。いつまでも苦しめる趣味は無いんでな」
私がそう言うと、彼女は少し安心した様子だ。何をそんなに安心することがあるのだろうか。
「……その基地の真ん中には大きな施設があって、そこの地下だ。でも…警備はかなり厳重で十数人からなる分隊が常に警備してる」
基地にいるのが六十人と仮定して、その25%が物質の警備に回っているようだ。
「そうか、何階にあるんだ?」
「……二階に…あったはず。でも三重の扉があって、…鍵も別々の場所に保管されてる。いくら強くても、こんな場所からあれを取って来るのは無理だ。あそこにはにとりだっているんだ」
「にとりが?そんなに強いのか?てっきりお前らと同じような装備をだと思ったが」
「いや、あいつはその物質を使って装備をいくつか作ってるらしいから、私達とはもう企画が違う」
「なるほどな」
これだけ聞ければ十分だ。私は立っている彼女の腰についているホルスターから拳銃を取った。
「な!?約束が違うじゃないか!?助けてくれるって言ったじゃないか!!」
河童は血相を変えて、私から逃げようとする。
これの操作もさっきと同様の理由で分かっている。拳銃のスライドを引いて、薬室に弾倉に収まっている弾丸を送り込む。安全装置を解除し、走って逃げる彼女の足を撃ち抜いた。
火薬の弾ける破裂音が、中から発せられた。火薬臭い硝煙が排莢された薬莢と銃口から立ち上っている。
「おっと…」
意外と強い衝撃が手首、肘、肩へと抜けていく。大きな口径ではないから手が痺れたりは無いが、音と衝撃が相まって少し驚いた。
どうやら精度はいいらしく、足に命中して河童は倒れ込んだ。這いずって逃げようとするが、そんなことはさせない。
「言っただろ?私は苦しめるのは好きじゃない。だからその痛みから今すぐ解放してやるよ」
私がさっき言っていたのはそう言うことだったのかと今理解したらしく、彼女は怒りに顔を歪めて罵ろうと口を開けた。
だが、それから言葉を発せられることは無く、大きな破裂音が再度する。排出された金属の薬莢が地面に転がる甲高い音、それと共にその身体は地面に崩れ落ちた。
中々良い武器ではあるが、大きな爆音が鳴るのであればこれから行く基地では敵を呼びつけるだけだから使えない。
それに、基地に向かっていたのは補給のためだったようだ。二発撃っただけで弾丸の射撃と同時にブローバックするスライドが、スライドストップによって後退したままだ。弾が無くなった合図だ。
弾が無くなればこんなのはただの鈍器だ。私はそれを川に投げ捨てた。ドプンと水に入るとそれは浮くこともなく沈んで行く。
河童の装備を調べていると、無線機を見つけた。それがあれば少しぐらいは情報も集まるだろう。
早速、基地に向かうとしよう。私は川に沿って歩き始めた。
六月八日に投稿します。
投稿が無くても、一番新しい話の後書きでいつ投稿するのかを書きますので、気が向いたら見てください。
こういう情報というのは、あらすじ部分に書いた方がいいのでしょうか?よくわかりませぬ。