それでもええで!
という方は第九十九話を斧田沁みください!
町中に入っても連中に銃を撃たれるのは変わらない。けたたましく甲高い銃声が鳴り響く。
「くっ…!?」
逃げていた道の交差点に丁度良く差し掛かっていたため、横に伸ばしていた手先に溜めていた魔力をレーザーやエネルギー弾としてではなく、魔力の炎として一気に放出する。
身体を強化していたから何の問題もなかったが、炎の推進力が予想以上に強くて肩が外れそうだ。
それでも移動する手段としては申し分なく、散弾は肉体ではなく地面のコンクリートに大穴を開ける。
予想外の推進力に飛ぼうとするのを忘れて地面に落下しそうになるが、そのまま前方方向へ飛行をした。
後方を確認すると、角を曲がって来た三人の河童が全員ショットガンを構えている。ハンドガードを引いたらしく、大きな空薬莢が銃身から排出され、回転しながら床に落ちて行く。
「食らうか!」
手先に溜めている魔力をさっきと同じように横に放出し、まき散らされる散弾の射線を横切って家の割れた窓をくぐった。
破裂音と一緒に発射された散弾の雨が、コンクリートの床に大きな穴を開ける。頭に当てないように射線が下を向いているところから、捕まえようとしていることがわかるが、威力が高すぎて殺そうとしているようにしか見えない。
連中が家の中に来る前に、入ってきた方向とは反対の壁から外へと飛びだした。
この街で戦いを始めてから少し時間が経ってしまっており、どうやら増援が到着したようだ。
センサーによって来る方向がわかっていたらしいく、外へ飛び出した私に向けて上と左右からショットガンを両手に持った河童たちがこちらへ銃口を向ける。
「っ…!」
彼女たちが飛びだした私に向けて標準を合わせ、引き金を引くまでの僅かな時間で彼女たちに向けて手をかざした。
掌の上に溜めて置いた魔力にコイルの性質を含ませ、それに超強力な電流の性質を持った魔力を流し込む。
河童たちの装備は鉄製の物が多いらしい。発生した磁力によってぐんっと引き寄せられたことで、驚きを露わにするが私に向けて引き金を引くのを忘れなかった。
計六回の銃声が町中に響き、反響して様々な方向から破裂音が来ているように聞こえる。だが、小さな散弾の一発すら私の体には当たらない。
連続的な金属と金属が打ち合わさる小気味いい音が手先から発せられる。突如発生した強すぎる磁力によって散弾が全て手のひらの上に集まってきてたのだ。
「なっ!?」
今度は河童たちが驚愕する番だった。足や手など当たっても致命傷にはならない部分を狙い打ったはずなのに、銃創の一つもできていないことに脳の処理が追いついていないようだ。
そのうちに彼女らの下をすり抜け、大通りの方向へ飛びだした。基地で車を潰したときと同程度の磁力を使ってみたが、上手く行ってくれた。
手の上で散弾が固まり続けているそこまで重くはないが邪魔だし、捨てるとするか。それを投げ捨てようとするが、ジェット音が後方から聞こえてくる。
あのショットガンは手元で次弾を装填するタイプの銃らしく、片手で操作してあとは撃つだけという段階で銃口をこっちに向けようとしてくる。
体を180度回転させ、向かってきている三人の方を向き直った。手の上にある鉄の玉一つ一つにコイルの性質を持たせた。
さらに弾丸と手のひらの間に、もう一つ魔力でコイルを作り出す。これから私のしようとしていることは、小学生が理科の実験でするものの応用だ。
磁力の性質を知らない人はいないだろう。S極とN極がありSとNが合わされば引き寄せ合うが、SとSやNとNでは反発する力が発生する。
今回はその超強力バージョンだ。
コイルには同じ極が向くように性質を与え、あとは電流を流して磁力を発生させるだけとなる。
秒速340メートルを超える超高速の物体を引き寄せるほどの力があれば、火薬を使用して飛ばしているのと変わらない速度で撃ち出すことが出来るはずだ。
銃のバレル部分の役割をするものがないから精度についてはお察しだが、百発を超える量があれば当てることは可能だろう。
指のかかっている引き金が引かれる前に、全てのコイルに強力な電流を流した。発生した二つの磁力によって、魔力のコイルと弾丸が反発し合う。それらは目で追うことが出来ないほどの速度で、散弾が河童達へと向かって行く。
鉄の装備を着こんでいる河童たちの体に、私の飛ばした散弾が当たったのだろう。ところどころから火花を散らしている。
拡散したことで河童達には当たらなかった弾丸は、壁の岩や床のコンクリートを広範囲で破壊する。
「がっ!?」
金属の破片が燃えることで発生する火花ではなく、肉体に通っているはずの血肉をまき散らし、一人がバランスを失って高度をガクンと落とした。
三人の中で一番私の近くにいたため被弾率が最も高く、散弾が急所に当たってしまったのだろう。
頭から血を流しだした河童は、木偶人形のように体を脱力させてコンクリートの道路に頭から突っ込んだ。
体の重量に頭が耐え切れず、灰色の道路に一輪の赤黒い血と脳漿の花を咲かせた。死体は普通の人間ならあり得ない体勢でそのまま地面に倒れ込んだ。
残りの二人もあれだけの弾丸を浴びて無傷とはいかなかったらしく、腕や足から血を流している。それでも戦闘を続行できる程度の怪我であるため、彼女たちは私に銃口を向けた。
硬質化した魔力を河童たちの方に展開する。今回は魔力の放出よりも指でトリガーを引く方が速く、中途半端な状態の時に銃口が火を噴いた。
わき腹に散弾が命中し、弾き飛ばされた。森で射撃を受けた時よりもまともに食らってしまったらしく、倍以上の衝撃と与えられた運動エネルギーによって地面に引き寄せられる。
辛うじて硬質化は間に合ったが、その衝撃に落下は免れないだろう。
手に硬質化した魔力を集め、ステンレスなど金属の性質を含ませた。地面に落ちる直前までは体勢の立て直しを図るが、やはり間に合いそうになさそうだ。
コンクリートに魔力で覆われた手を付き、床の上を転がり込むことを防ぐ。すぐ後ろに敵がいるときに速度を落としたくはない。
コンクリートによって硬質化した魔力が削れていくが、金属の性質を持っていることでオレンジ色の光が手から迸る。
ステンレスは熱の伝導率が非常に低い金属の一つで、十数秒に渡ってコンクリートとの摩擦で火花を散らしていても、指先に熱を感じることは無い。
肩越しに後方を振り返ると、二人の河童がハンドガードをスライドさせて次弾を装填させている。
この先の道は緩やかに弧を描いているため、道なりに進んでいくと先に横転しかけて壁に寄りかかっている状態で馬車が放置されているのが見えた。速度を調節して後方にいる二人が、弾丸を魔力で強化したタイミングでその馬車の下に潜り込んだ。
二度の射撃音が町中に響くと、それとほぼ同時に馬車が被弾。人が座る座席と、何かもわからない積み荷ごと大穴を開けられ、半分に叩き割れた。
私に当たることは無かったが、もう少しで大量の積み荷に潰されていたところだ。隠れられる部分の少ない大通りは少し危険だ。
馬車の下をくぐった私は魔力で覆った手をブレーキ代わりに使い、少しだけ速度を緩めて手短な裏路地の中へと飛び込んだ。
魔力にワイヤーの性質を与え、細くて短い糸を複数作り出した。それらをこの狭い路地の左右にある壁と壁につなげる。
一本一本に回路を設定し、糸が切れたり何かに触れると回路が起動する仕組みだ。これは連中の持っている銃で言う所の引き金の役割だ。
両側の壁にはコンクリートの形を変形させて、鋭く飛びだす属性を魔力によって含ませる。触るか切る、二つの条件の内どちらかを満たせば、この攻撃が発動するようにした。糸が引き金ならこっちのこれが弾丸となる。
罠の設置が終わると終わるか終らないかぐらいで、河童たちがこの裏路地に到着する。移動しながら罠を仕掛けたため、少し路地の中に河童たちが入らなければならない。
細いとはいえ糸の存在に気が付かれるかと危惧したが、どうやらその心配は無用だったようだ。仲間がやられて頭に血が上っている河童は、視野が狭くなっていて気が付く様子を見せない。
飛んできている河童がこちらに銃口を向けようとしたが、引き金を引く直前で飛んでいるうちの片方が糸をその体で断ち切った。
組んでおいた回路はきちんと起動してくれたらしく、壁に含ませていた魔力が壁のコンクリートを流動化させ、とげの形状にして飛びださせた。
敵に突き刺さるように、液状のコンクリートはとげの先から固まるようにしたため鉄の防具を捻じ曲げ、片方の河童を両側から複数のとげが貫いた。
「がっ…!?」
何があったかわからない。そんな声を漏らして河童は絶命する。ベキベキと頭蓋骨をコンクリートが砕く音が私にまで聞こえてきて、身震いする。
「くそったれ!」
残った一人は運よく糸を切らずに通り抜けてしまったらしく、後方で串刺しになっている仲間を見るとそう叫んだ。
裏路地と言っても馬車が通れる程度には広いため予想していた通り、私が進んでいる方向に馬車が放棄されている。表の通りよりも人の通りは少ないのか、戦闘の被害はあまり受けていないように見える。
エネルギー弾を後方に放ち、河童が射撃をするまでの時間を稼いだ。頭のど真ん中に向かって行っていた弾幕を横に移動して彼女はさけた。
だいぶギリギリだったのか、エネルギー弾を躱した河童はしかめっ面をこちらを見せると、遅れてショットガンを構え直そうとしている。
そのうちに準備は整った。魔力にはアリスが人形を操るために使う糸の性質を含ませた。アリスの糸は刀などで切られるとすぐに千切れてしまうが、あれは何かを持ち上げるということに特化している。
その強靭さは私がぶら下がったとしても千切れることは無く、本人曰く百キロの物もつりさげたことがあると言っていたから、風化が進んでいる馬車の貨物ぐらいならば持ち上げることは可能だろう。
糸を魔力で操って、前方に停車している馬車に巻き付けた。糸を介して馬車に魔力を送り込み、耐久性能を最大まで強化した。
強化した魔力の一部を馬車の底面から地面に向けて噴出し、通り過ぎる時に車体を私と同じ高さまで持ち上げさせた。
通りに置いてあった馬車よりはボロボロではないが金具も完全に錆びつき、使われている木材はシロアリに食われたように穴が開いていたりしているが、形状を保ったまま浮き上がってくれた。
馬車の幅は道の八割を占めているため、いきなり下から現れたことで河童は躱すことが出来なかったのか、全速力のまま突っ込んで行く。
それを強化したのは持ち上げた際に崩れないようにするのもあるが、門来の目的は河童がぶつかってきた際に突き破らせないためだ。
ぶつかった衝撃で馬車から木片が飛び散るが、河童が車体を突き破って来ることは無く、狙い通り止めることが出来たようだ。
敵がその馬車から離れようとする前に、強化に使われていた魔力を変換した。強化から爆発の性質へと。
馬車から感じる私の魔力が爆発へと転じ、強化を加えさせたのと同じく糸を介してその爆弾を爆破した。
赤い光が瞬き、馬車から真っ赤な炎が噴き出した。高温により皮膚を焼かれるような痛みに顔を背けた。
馬車の体積の数倍は大きく膨れ上がった炎によって、爆風が発生する。周りの壁を叩きまくる風によって、壊れかけているコンクリートの壁が破壊された。
その衝撃は十数メートル程度しか離れていない私の元にまで届き、全身を衝撃波と爆風が弄ばれる。
バランスを一気に失ってしまい、煽られたまま地面に落下した。土じゃないコンクリートに頭から突っ込んだ。
身体を強化していなければ頭蓋が砕けていたか、皮膚が削れていたことだろう。髪の毛が抜ける程度で済んだが、結局は硬い床を転がる羽目になる。
膝をぶつけてしまったのか鈍い痛みが走った直後、今度は背中や肩周辺に痛みを感じた。ぶつけた方向から地面の方向を割り出し、魔力で体を浮遊させた。
ふわりと体が十数センチだけ浮かび上がり、私は地面に落ちるその間に体勢を立て直した。
転ばないように高速で動いている状態だが、靴でしっかりと床を踏みしめて移動する体を失速させた。
だが失速させたとしても、二十メートルは床の上を滑ってしまった。靴との摩擦によって足に熱を若干感じるが、我慢できないほどではない。
ようやく止まったというのに、止まった場所が悪すぎた。大通りに姿を晒していたようで、爆発を目印にしてきた三人の河童がこっちに向かってきている。
隠していたのかは知らないが、三人のうち真ん中の河童が背中から円柱状の九十センチはある筒を取り出した。
筒の下から四角く細長い握り手が飛びだしており、その前方に引き金が付いていることからそれも銃だということが分かった。
しかし、銃というにしては口径が大きすぎる。あのサイズの弾丸を放つとなると、撃っている本人が後方にぶっ飛んで行ってしまうのではないだろうか。
ショットガンは小さな散弾を撃ち出しているだけだというのに、数センチは銃が上に跳ね上がる。握り拳ほどもある弾丸を放てばやはり吹っ飛んでしまうだろう。
いや、今はそんなことはどうでもいいのだ。考えろ、捕まえようとしている私に向けて、どこに当たっても即死は免れないようなものを撃ってくるだろうか。
さっきの無線の会話とは矛盾する。となれば全くの別物ということになる。弾丸を大きくするメリットは確実に敵を殺すためか、物を破壊するためだ。
だが、今回は殺す可能性が少しでも高い物は使用を避けるはずだ。今あげた二つ以外で弾丸を大きくする理由は、その中に何かを詰め込んだのか。
私の考えを肯定していると言っても過言ではないタイミングで、その筒に詰まった弾丸に河童が魔力を流して強化を施す。
それは爆発の性質だ。ただの弾丸にそんなものがあるわけもなく。私の考えは間違っていないようだ。
あれの利点は直撃させなくてもいいところだ。加減は難しいだろうが、ある程度体を守っているから、直撃させなくても近くで爆発させれば私に怪我を負わせることが出来る武器だ。
俗にいうロケットランチャーという物のようだ。魔力で飛ぼうとしたが、その準備ができていない。私はそれから逃げるために向かってきている彼女たちに背中を向けて走り出した。
巨大な銃口をこちらに向け、引き金を引かれた。銃の射撃音とはまた違った燃料に引火する音が聞こえてくると、弾頭は後方から炎をジェットのように吹かして超高速でこっちに向かってくる。
数十メートル離れていたが音速を超える速度に、走り出してから二歩も行かないうちに弾頭に追いつかれ、すぐ横の地面に着弾した。
先に仕込まれている雷管が弾け、鉄でできた円筒状の弾頭内部に詰め込まれている火薬へと引火する。
爆発させることが前提で作られている弾頭の装甲が、火薬による爆発に耐えきれるはずもなく、粉々に砕けるとその破片を四方八方にまき散らした。
当然すぐ横にいれば当然その破片は猛威を振るい、肩と腹部に抉り込んでくる。その痛みを脳が近くする前に、衝撃波が全身を魔力でガードしかけの私を殴り倒す。
進もうとしていた力と爆発の力が重なって斜めに体が投げ出された。壁などに肩や頭を打ち付けることは無かったが、破片で切り裂かれた傷が痛い。
「うぐっ……!」
走ると腹部に刺さった傷が痛む。魔力で倒れた体を浮かせてこっちに向かってきてる河童達から距離を置こうとすると、ロケットランチャーを撃った奴ではない河童が私につかみかかって来た。
飛んだまま胸倉を掴まれている私は、河童によって地面に叩きつけられた。身体を強化していなければ、それだけで死んでいたかもしれない。
力任せに押し付けられる強さが、長年の戦闘によって強度が著しく低下しているコンクリートを上回ったらしく身体が地面の中に潜り込み始めた。
私が入り込んだことで進行方向のコンクリートに亀裂が生じ始め、そこを頭部や肩でコンクリートを無理やり砕かせられる。
皮膚が裂ける鋭い痛みが頭部に感じる。これ以上コンクリートに押し付けられると、意識よりも先に身体がダメになってしまいそうだ。
膝にエネルギー弾の性質を含んだ魔力を集め、掴みかかってきている河童の腹部に向けて膝蹴りをかました。装備の間を狙ったのだがうまいこと当てることが出来ず、鉄板に膝が当たってしまう。
当たれば何でもいいのだが砕けた岩が金属に当たる音ではなく、肉体が金属を叩く音が響くと、それらとは全く違うエネルギー弾がはじける破裂音がする。
その攻撃を予期していなかったのか河童は目を見開くと、地上から数十メートルの高さまで吹き飛んで行った。
ロケットの打ち上げじみた速度で吹き飛んだことで、私も空中に投げ出された。途中で彼女が離したからずっと一緒に吹っ飛んでいくことは無かったが、河童が掴んでいたことで襟元が少し破れてしまったが、着替えが必要なほどではない。
後方を見ると上に打ち上げられた仲間に注意が言っているのか、残りの二人は上を見上げている。私もチラリと視線だけそっちに向けると、致命傷になりえなかったのか体勢を立て直して高度を落とそうとしている河童が見える。
ただ吹き飛ばしただけなのと、装甲にエネルギー弾が当たったことで怪我を負わせることが出来なかったようだ。
無事だということが分かったのか、二人の河童がすぐさま戦闘体勢へと移る。連射力には上限はあるが、河童たちが連続的にショットガンをぶっ放し始める。
「っ!!」
高度を上げて道路の隅に立っているコンクリートでできた電柱や、家のベランダなどを盾にして射撃をさける。
そうやって避けていても、射撃の度に都合よく物が近くにずっとあるわけもない。いつかは限界が来る。連続的に撃たれる散弾を腕に受けた。
左手に強力な弾丸を受けた衝撃で、小指から中指までを手のひらの一部と一緒にどこかへと吹き飛んで行った。
それだけではなく、人差し指など残っている指にも散弾が当たったのか、骨が砕かれていたり肉が抉られている。衝撃によって手首の骨が砕けてしまったらしく、力が入らない。
「あぐっ…!?」
怪我の具合を見ようと手を上げると力の入らない手がダランと重力に従って地面の方向を向く。
指がつながっていたはずの手のひらから、血で真っ赤に染まっている骨と肉が丸出しになっている。
やばい。魔力で体を覆うのを忘れていた。急いで全身に魔力を巡らせようとすると、後ろから弾を装填する音が聞こえて来た。
私がガードを固めるよりも、ショットガンの引き金が引かれる方が速かった。ダン!と腹に響く轟音が鳴ると、垂れ下がっていた左手が肘ごと千切れて近くの壁に飛んで行った。
ベチャリと腕が当たると滲みだしていた血が壁に広がり、筆に付けた絵具を乱暴に紙に塗り付けた物に似た絵が出来上がる。
「ぐっ………あああああああああっ!?」
骨を砕かれ、肉が千切れる痛みが神経を通じて脳が情報を処理する。その痛みに気を取られているうちに体が落下していることに気が付かず、膝からコンクリートに崩れ込んだ。
いつの間にか上に打ち上げていた河童も合流していたのか、三人は地面に倒れ込んでいる私の真上を通り過ぎていく。
「くっ……うぐっ…!」
顔を上げると、彼女らは数十メートル先で小さく旋回してこちらに向き直り、高度を下げた。終わりと言わんばかりに、速度を上げて突っ込んでくる。
終わりとするのはこっちのセリフだ。
残っている右腕に大量の魔力を集めた。それは回復や強化に使うためではなく、とある性質を含ませてすぐさま地面に叩きつけた。
手から魔力を地面の中へと送り込み、河童たちが向かってきている前方方向に魔力を拡散させる。撒布させた魔力の十分の一を爆発する性質に変換すると、地中で爆発を起こして地面が盛り上がらせ、コンクリートを粉々にして空中に浮き上がらせる。
地面に座り込んでいる私でさえも爆発の衝撃で体が浮き上がり、彼女らにとって大きな隙を晒すことになってしまう。
だが、小さくて弱い爆発によって大量の土砂が浮き上がったおかげで、三人が射撃して来た散弾は土とコンクリートの破片で全て撃ち落され、私に到達する弾は一発としてない。
前方の地面に広げてある魔力に、さっき罠で仕掛けたような地面の土を棘状に伸ばす性質を含ませた。
コンクリートと違って、土の方が鉄製の装備を貫くだけの威力を出せるかわからないため、極度に強い圧力の魔力の性質を与えた。
土を凝縮した程度では、鉄の装甲を着こんでいる連中にはあまり効果はないのではないかと思われるが、圧力がかかり圧縮されている土は強度を増す。
これは地球上で起こっていることと同じことをしているだけだ。土は地中深くにまで存在しているが、地球の核に近づけば近づくほど加わっている圧力は上昇していき、鉄以上の硬度を持つ。
広げていた魔力の範囲に河童が到達したと同時に、罠を起動させた。地球の核周辺に近い圧力がかかっている凝縮した土が棘状に形を変え、河童たちに下から襲いかかった。
いくら硬い物体をぶつけたとしても、速度が無ければ相手にダメージを与えることはできない。
とりあえず性質に弾丸と同様のスピードに設定して置いたが、それほどの速度は必要なかったようだ。
鉄よりも固い土の針は河童たちの鉄の装甲をあっさりと貫通し、体を貫く。背中から飛び出した針の先端部分には、血液と内臓か筋肉などのよくわからない組織がこびりついている。
百前後もある棘がほぼ同時に飛びだしたことで、文とまではいかないにしても相当な速度の出ている河童たちの体をそこに縫い付ける。
運のいい河童は頭を貫かれ、何かが下から飛び出してきたことを認識する前に死んだ。運の悪い奴は棘が急所を外れ、死ぬまでに長い時間を要するだろう。
「あがっ…ああああああああっ!?」
真ん中にいる河童が苦しそうに絶叫する。手足はもちろん、腹部や胸にまで棘が複数突き刺さっているようだ。
胸に棘が刺さっているが、心臓やそこから伸びている動脈を避けてしまっているのだろう。両手を拘束されるため自分で死ぬこともできなさそうだ。
苦しませるのは趣味じゃない。棘の刺さった身体を捩り、逃げ出そうとしている河童に向けて手のひらを向けた。
頭のど真ん中にギリギリ当たらなかったのか、顔を上げた彼女の頬には棘によって抉られている。
線上についた傷から滲みだした血が、体から流れ出して顎から地面に落ちていく。
「や、止めろ…!」
河童が私に気が付いてそう叫ぶが、もう遅い。エネルギー弾へと変化された魔力が発射され、額に直撃すると同時に爆ぜた。
前方方向に対する小さな爆発を起こすと、それの持っておるエネルギーに耐えることのできなかった頭が骨格を無視して後方に吹き飛んで行く。
首が捩じれ折れ、ありえない角度に曲がった途端に喉の皮膚が張り裂ける。伸びた筋肉が耐え切れずに断裂し、亀裂の入っている頸椎が中の神経ごと半ばから千切れた。
「おがっ…」
胴体から解放された頭部は、普段から放つ弾幕などと変わらない速度で飛んでいくと、後方の壁にぶち当たってぐじゃりと潰れる。
放射状に肉片と骨片、血液が壁にぶちまけられる。数十メートルは離れているためこっちにまで血や肉が飛んでくることは無いが、あれをまじかで見る勇気はない。
これで追ってきていた河童を全員倒した。他の連中が来る前にここから離れるとしよう。
センサーを持っている河童たちから逃げるには、そいつらを倒すしかないから無傷で逃げるのは難しい。特に今はな。
吹き飛ばされて左腕を見ると既に再生を始めており、この短時間でもう肘から手首にかけて治っている。
「……」
あと数分もすれば、指先まで完全に治ってくれることだろう。再生を速めさせるため、腕と他の場所にある銃創に魔力を送り込む。
「…ふう」
これで主出血死することはなさそうだ。
きちんと河童たちを倒せているか、再確認するため顔を上げた。体と棘の間から血が滲みだし、河童の身体に抉り込んでいる棘が真っ赤に染まっている。
出血量や刺さっている場所からして、死亡を確認するまでもなかった。グロテスクな状況から目を反らし、私は村から遠ざかろうとした。
だが、さっきまで戦っていた河童たちのジェット音と同じ音がどこからか聞こえてくる。その重低音に周りに転がっている小石などが小さく振動している。
地面に立っているせいで家に隠れて見えないのかと思っていたが、上を見上げると上空に小さな光の点が見えた。
それは下降しているのか、ジェット音とその姿は徐々に大きくなってくる。西洋の騎士が来ているような鎧を全身に着込んでいるが、そこまで古臭くはない。もっと近代的で装甲のスキマというのが見当たらない。
地面に向けてジェットを噴射し、降下速度を押さえてそいつは着地した。目の前にある棘にはもう魔力での強化を施してなかったことで、貼り付けにされている仲間ごとやすやすと踏み砕いた。
コンクリートが砕かれ、亀裂はそこを中心に数メートルの範囲に広がっていく。
そいつは私の身長を大きく上回り、大きさ自体も一回りも二回りも大きい。こいつが噂の異次元にとりのようだ。
こっちのにとりによく似た魔力を、目の前にいるアイアンマンモドキの木偶の坊から感じる。
華麗にスーパーヒーロー着地を決めた異次元にとりは、立ち上がるとその大きな装甲に覆われた拳を私に向けた。
握った手の甲から、鉄の小さな槍が形成されるといきなり飛びだした。火薬の爆発によってそれが射出され、身体強化された私の皮膚に高速で抉り込んだ。
「あぐっ!?」
右肩に直撃したそのアンカーは抉り込んで骨にまで到達し、刃に備わっている返しによって固定された。
引き抜こうとしても抜くことが出来ず、無理に引き抜けば周りの組織を傷つけてしまう。そのアンカーをよく見ると細いワイヤーが仕込まれていて、その先には異次元にとりが立っている。
ワイヤーを巻き取る機構が仕込まれているのか、アンカーに引き寄せられ彼女の方に引き寄せられた。
「くっ!?」
空中で魔力を操作して抵抗しようとするが巻き取る力の方が強く、彼女の方に飛びだした私に向け、もう片方の装甲に覆われているバスケットボール程もある拳が振り抜かれた。
6月29日に投稿したいです。