薔薇の騎士   作:ヘイ!タクシー!

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前回の虐待は果たして上手く書けていたのだろうか………もうちょっとエグい展開にしたかったな。
だれかあの辺り書くの変わってほしい。

ついでに、評価宜しくお願いします。




呪いの炎

 前回の話。

 

 ローズリィは拷問によって四肢を失った。

 

 

 

 

 

 ____________________

 

 

 ローズリィは強い。それ故に彼女の生命力は高く、それ故に彼女は苦しむこととなる。

 

 処刑が執行される日まで、彼女は己の肉体に起こる症状と戦っていた。

 四肢が欠損したことで起こる幻痛。放置された傷と不衛生な環境で起きた病気。

 それらが彼女を苦しめ、時に命を蝕んでいった。

 ただ彼女は生命力が高いが故に、死ぬことはできなかった。

 

 そして処刑の日。

 

 度重なる苦痛が彼女を磨耗させる。頭の中ではぼんやりと、今日処刑されると言うのがわかる程度にしか、自意識はなかった。

 あと少しで自分は死ぬ。ローズリィの中にあるのはそれだけであった。

 

 そんな状態のまま、彼女は処刑場に連れていかれる。

 

 処刑の方法は火炙りによる、火刑。

 そのため、薪の束の上に身体を置かれるローズリィ。

 後はその薪に火を付けられるのを待つばかり…………と言う筈だったのだが。

 

「リィル?」

 

 ローズリィの耳に、ふと懐かしい声が届いた。

 

―――忘れることのない、大切な人の声。

 ずっと、ずっと聞きたかった。もう一度だけ会いたい、せめて一目だけでも見たかった。

 彼女の心の支えであり続けた人の声。

 

 それによってローズリィの意識が浮上し始め、声が聞こえた方向へと目を向けた。

 

「…………ジャン……ヌ?」

 

 音にならない程に酷く掠れた声が、彼女の潰れた喉から漏れでる。

 しかし、それは感極まって呼んだのではない。ジャンヌの姿を見て無意識に声が洩れ出たのだ。

 

 声の主。ジャンヌは彼女のすぐ近くにいた。ほんの目と鼻の先。

 ただ彼女の姿がおかしかった。

 

 ジャンヌは木でできた十字架に貼り付けにされていたのだ。

 まるで、いつかの自分と同じように、身体を拘束されている。

 その光景がローズリィには信じられなくて、彼女の鈍くなった頭が、この状況を理解することを拒否する。

 

 そんなジャンヌは、ボロボロな身体、四肢を切断され、片方の目を潰されてしまった彼女の姿に耐えられず、涙を流していた。

 

「ああ…………ああ、リィル!リィル!!なんて……なんて惨い姿に…………私がリィルを一人にしたばかり、貴女をこんな酷い目に合わせてしまったのですね………」

 

 

 普段なら、ちゃんと聞き取る筈ジャンヌの声が理解できない。

 それほどまでにローズリィは追い込まれていた。

 

(…………………………………………………………………………なんで)

 

 次第に彼女の頭が今の状況を理解し始める。

 何故?と声にならない声が彼女の中で訴える。

 

(…………………なん、で…………なんで……なんで、なんで。………なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!?!?)

 

 ようやく。ようやくジャンヌが己のように処刑されると理解したローズリィは、ただただ何故だと心の中で訴え続けた。

 

(なんで彼女が捕まって!? …………しかも、処刑されなければならないのですか!!?)

 

 自問自答するが答えはでない。

 

 そして時は彼女を待ってくれなかった。

 

 時間だとばかりに、ピエール・コーション司教がジャンヌとローズリィの罪状を読み始め、処刑場の外から二人の処刑を一目見ようと、群がっている民衆が二人に罵倒を飛ばす。

 

 

 

 

 訳がわからない。

 民衆の冷たい視線を浴びるローズリィの素直な気持ちだった。

 

 何せ、前世の知識通りにこのまま彼女は処刑されるのだから。

 あれほど自分が警戒していながら。処刑の場に立ち会っているのに。ジャンヌの処刑を止められないでいる。

 

 それが彼女にとってどれほど耐え難いモノか。既に様々な虐待を受けてきた彼女の心を折るのには十分だった。

 

(だって、おかしい………じゃないですか。彼女は一人の兵士も殺していないのですよ? なのに何故、ジャンヌは魔女と呼ばれているのですか? ………それに捕虜は賠償金を払えば解放されるはず………)

 

 そこまで思考を重ねてローズリィは気づいた。

 

 

 ジャンヌは

 

 あれだけの功績をフランスに捧げたジャンヌは。シャルル七世に、フランスの兵士達に、国民全員に裏切られたのだ。

 

 いや、そもそも何故捕らわれたのか。

 

 ―――ローズリィは知らないことだが、ジャンヌは兵達を逃がしながら、砦前でひたすらローズリィの帰還を待っていたのだ。不運だったのは、ブルゴーニュの別動隊がいたことか。ジャンヌが一人になったところを襲い、彼女は捕獲された。

 

 だがローズリィは知らない。

 

(フランスが最初から彼女を裏切っていた? でも、なぜ? いや、仮に裏切ってなかったとしたら、ジャンヌが処刑されるこの状況と辻褄が合いません)

 

 結果はわからない。だがフランスがジャンヌを裏切ったのは事実だった。

 しかし、彼女にとって最も許しがたい事実。それは自分自身である。

 この状況で何も出来ない自分が許せない。自分がジャンヌの処刑を防げなかったことが憎い。悔しい。

 

 

(私が…………私がいればジャンヌを処刑させることはなかった! なのに…………………

………………………………………まって)

 

 後悔の中、彼女はある違和感を覚える。

 

(―――出来すぎている。…………これは出来すぎていませんか?

…………私があの怪物達に邪魔されなければ、仮にジャンヌが捕らえられていたとは言え奪還していた。いや、そもそもです…………今の私が五体満足なら、この状況だろうと彼女だけでも生還させることはできます………)

 

 そもそも、なぜあの男はローズリィに死を招くような虐待をするほどの性癖を持ちながら、看守に選ばれたのか。

 処刑は確実に行われなければならない。

 それは国の威信や、政治的な理由など様々あるが、裁判で判決を下された限りそれは絶対である。

 そして、あれが常人ならとっくに死んでいただろう。

 

 仮に拷問が目的なら、あの男が死んだ後、次の拷問官が派遣されるべきだ。

 なのにそれがなかった。

 

 つまりは。

 

(…………すべて、仕組まれていた。あの異形達も。私が受けた痛みも、この傷も。そして、ジャンヌが捕らえられて処刑されることも、全て………!)

 

 全てを予定調和に物事を進める者など、ローズリィの中では一人しかいない。

 

 

 そこまで彼女が思考した所で、罪状の読み上げが終わったのだろう。

 ついにジャンヌ・ダルクの処刑が始まろうとしていた。

 

 二人の兵士が燃える松明をジャンヌの下に敷き詰められた薪へと入れようとする。

 

「ぁ………ま゛っで! ま゛っでぐだざい!! まだワダジはーーーーーー」

 

 彼等の行いを止めようと、潰れた喉に鞭打ちながら叫ぶ。が、兵士達は止まらない。

 

 薪に火が移された。

 

「あ゛あ゛!? いや! いやです、ジャンヌ!!」

 

「ごめんなさいリィル。貴女を巻き込んでしまって。…………貴方には幸せに生きて欲しかった。純粋で誰よりも優しい貴女に………例え主が助言しようと、私の事情を手伝わせたくなかった………………いえ、これは言い訳です。

―――――ああ。全て、私の罪なのですね」

 

 泣き叫ぶローズリィに優しい目を向けるジャンヌ。

 下から熱気が襲って来ているだろうに、それを無視して最後までジャンヌは彼女を気に掛ける。

 

 だがそれも終わりは近かった。

 

 火がジャンヌの纏うスカートに引火し、瞬く間に彼女を包み込んだ。

 

「やめて! やめてぐださい! どうが、どうか!!

やめてぇぇええええええ!!!!」

 

「主よ、この身を委ねます」

 

「いや!!! いやぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 ローズリィの泣き叫ぶ声が、彼女が灰になるまで続く。

 

 最後までジャンヌは聖女として生き、聖女としてその人生を終わらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __________

 

 

 次の処刑はローズリィの番。

 だがそんなことを気にする余裕は、彼女には無い。

 

「…ぅぅ……ジャン、ヌ………ジャンヌぅ」

 

 ジャンヌが死んだことに嘆き、絶望している彼女に、自分の処刑などと言う、どうでも良いことを気に掛けている余裕は無かった。

 

「……………なぜ………なぜなのですか、神よ」

 

 聖女は死んだ。

 それがわかっているから、彼女は問わずにはいられなかった。

 

 

 

 「何故彼女を殺した!!!!!」

 

 

 その叫び声は罵倒が飛ぶ民衆を黙らせ、近付いてくる兵士達の足を止まらせた。

 

「神託で彼女を操りながら! お前の言う言葉を信じて行動したジャンヌを!! 何故お前は殺した!!!」

 

「おい! 早く奴を殺せ!」

 

 潰れた喉を痛めたのだろう。血を吐きながらも叫び続けるローズリィに恐れを抱いた司教が、兵士達にそう叫び命令した。

 その命令に慌てて足を動かした兵士達が、ローズリィのいる場所に松明を投げ入れた。

 

「これもフランスのためか! 世界のシナリオの為か!! そんなことの為に彼女を殺したのか!!? これでは………これでは、単なる使い捨ての道具ではないか!!!!!」

 

 迫り来る炎を恐れず、ローズリィは天に吼える。

 その思いを、その感情を、激情に乗せて叫ぶ。

 

―――炎が彼女に燃え移り、その身体を焼き始める。

 

「あぐぅ………わ、たしは、許さない! 呪ってやる!! 殺し尽くしてやる!! 人も! 神であるお前も!! この世界もッ!!! 何もかも呪い殺してやる!!!」

 

 焼き尽くされながら尚、彼女は叫び続ける。身体の端は灰になり、喉は焼やかれ、その顔が原型を崩そうと、彼女は叫び続けた。

 

「――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!」

 

 それは単なる叫びではない、呪いの呪詛だ。

 

 彼女は灰になるまで燃え尽きる。だが、それだけでは終わらなかった。

 

 風が彼女の灰を飛ばし、ルーアンの街へと飛び散る。

 彼女の灰に触れた物は黒く、黒く燃え盛る。その黒炎が消えることはない。

 

 まるで、この呪いを忘れることを許さないとばかりに。彼女達にしでかしたことを、忘れることは許さないとばかりに。

 

 

 この日、ルーアンの街は大火災に陥り、彼女の憎悪の炎は数千人の住民の命を奪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 復讐の怨嗟は消えない。例え、その身体がこの世から無くなろうと、魂まで焼き尽くす。

 いつか神を焼き殺すまで、憤怒の炎は消えることはない。

 

 

 

 

 

 




闇に堕ちたのはローズリィでした。

という訳でようやく本編です。
と言っても、もしかしたら十数話くらいfateやらせて、多作品の派生にさせるかもしれません。

せっかく作ったオリ主なので、色々なところで活躍させたいのが心情です。その時はどうかご容赦下さい。

まあ、ジャンヌが主役のアニメが始まったので、そちらにローズリィを登場させるかもしれませんが。

ちなみに頑張って鬱にしようとしましたが、出来ているんですかね?

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