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呼びだされたのは復讐者
――――――…………
光の届かない闇が拡がる空間で、誰かの声が聞こえた。
何も感じない筈の世界で、確かに声を感じ取った。
――――――…………
懐かしい。それでいて何処か悲しい、誰かの声が聞こえる。
――――――…………!
真っ暗な世界の中、一条の光が灯る。
その光に引き寄せられるように、彼女は手を伸ばした。
「――――――告げる」
少女の声が響く。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
何かを決意する彼女の声が、力強く部屋中に響き渡る。
「誓いを此処に。
我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
宣言と同時に、5本の光の柱が現れる。
その光は薄暗い室内を明るく灯し、次第に縮小していく。
光が収まっていくのと共に、その中から五人の人影が現れた。
「――よく来ました我が
まるで聖女のようにサーヴァント達に話しかける少女。
マスター。つまり彼女がこの者たちを呼んだ召喚者なのだろう。
だが、彼女の発言は聖女とは思えないほどに物騒な言葉だった。
命令をサーヴァント達に告げた少女は、傍らにいる一人の男を呼ぶ。
「さあジル。彼を連れてきて頂戴」
「畏まりましたジャンヌ」
ジャンヌ・ダルクとジル・ド・レェ。
それは生前とはかけ離れた二人の姿だった。
__________
「た、助けて下さい!なんでもします!!」
「―――ハ、アハハハハハハハハ!」
二人の前に連れてこられた男、ピエールコーションは泣きながら彼女達にすがり付く。
男はジャンヌやローズリィが裁判に掛けられた時に、謂れの無い罪を着せて処刑を下した司教であった。
その時の威厳のある顔と、今の恐怖に染まった顔との違いを見て、ジャンヌは大笑いしてしまった。
「た、助けて下さいって! 可笑しい! 可笑しすぎるわ貴方!あれだけ私達を嗤い、嘲り、見下していた貴方が! 虫のように殺されるのだと、慈愛に満ちた表情で私達を焼き殺した貴方が! こんなにも無様に命乞いするなんて!!」
「ひぃっ!?」
「ああ―――悲しみで泣いてしまいそう。だってこれでは救われないのだから。
―――紙のようにペラッペラな信仰では天に届かない。羽のように軽い信念では大地に芽吹かない」
「た、助けて」
「くはッ。もうやめてくださいよ司教。私を笑い殺すつもりですか?まったく…………神に縋ることすら忘れて、貴方が魔女と呼んだ者に命乞いするなんて」
ジャンヌの笑っていた顔から、スッと表情が抜け落ちる。
「わかりますか司教。貴方は今、自分で異教徒であると認めたのですよ」
そう言うとジャンヌは残忍な顔をピエールに向けた。
「だから私は悲しくて悲しくて、気が狂う程に笑ってしまいそう!
―――思い出して司教。異端者をどう刑に処すのか、貴方は知っているでしょう?」
口が今にも裂けるのではないかと思うくらいに深い笑みを見せるジャンヌを見て、ピエールは彼女が行おうとしていることを理解してしまった。
「!?…………嫌、だ……嫌だ嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ!! たすけ、助けて!!」
「…………私が火刑に処された時、あの子もそうやって泣き叫びながら、私の助命を嘆願していましたね………それさえ無視した貴方に、救いがあると思って?」
ジャンヌの目の前に、黒く、闇よりも深い炎が立ち上る。
それを端から見ていたジルが歓喜の声で叫んだ。
「おお……おお!! なんて醜悪でドス黒い怨嗟の炎! これぞまさに復讐の聖女! 私が待ち望んでいた貴女の姿だ!」
「え…………なにこの炎」
テンションのアゲアゲなジルとは対称的に、突然現れた炎にジャンヌは事態が呑み込めないでいた。
だが、その二人の声をピエールの叫びが欠き消す。
「あ、あああああああああああああ!!!!」
「うわ、何ですかいきなり…………ほら見てジル。なんて情けないのかしらあの司教。汚水を撒き散らしながら逃げていくわ。ああ汚い」
悲鳴を上げながら、結界によって逃げることのできない部屋の扉を、何度も何度も叩き逃げようとする司教。
そんな哀れな彼の姿を見て、ジャンヌは可笑しそうに嗤う。
「本当に無様。何処まで道化を演じれば気が済むのでしょうか、あの司教は…………それにしても、この炎はなんなのかしら?どんどん膨れ上がっているようだけど」
「? 可笑しなことを言いますな。これはジャンヌが出した復讐の炎でしょう?」
「え?」
「はい?」
話の噛み合わない二人を他所に、その炎の柱はどんどん大きくなる。
それに合わせて控えていたサーヴァント達も警戒の態勢を取った。
「聖女よ。いや、マスターよ。その炎は危険だ、下がった方が良い」
バーサーク・ランサーのクラスで呼ばれた男、ヴラド三世がジャンヌに忠告を発する。
彼等も感じたのだ。黒炎がただの炎ではない。どんな現象よりも悪辣で、どんなモノよりも醜悪な、炎の形をした黒いナニか。
一度呑み込まれれば神さえ滅ぼしかねないその危険性を。
その意見にジルも同じなようで、ジャンヌを下がらせようとするが。
「―――理解しました。
…………それにしてもジル。何故、逃げなければならないのですか? 貴方はこの炎が何であるかも理解できない程に愚かなのですか?
これは復讐すらも生ぬるい、憤怒と絶望の業火………
――――喜びなさいジル! 役者は揃いました! 私達は最高の騎士を呼んだのですよ!!」
ジャンヌはジルの手を退け炎に近寄った。
まるで初々しい乙女のように、初恋の熱に浮かされた少女のように、軽やかに炎の前に躍り出る。
ジャンヌが近付いたことで、その黒い炎は闇よりも濃く、深淵よりも深く凝縮して染まる。
そして、限界まで縮小した炎は弾け飛んだ。
「ああ―――再び、貴女と共に。今度はフランスに復讐するための戦争ができるのですね、リィル」
弾けた炎の中から出てきたのは、一人の少女。
それは戦場で多くの殺戮を繰り返し、聖女・ジャンヌに勝利を捧げた忠信の騎士。
それはフランス及びイングランドを呪い続ける、史上最も恐れられた復讐の悪魔。
気狂いなほどに聖女の為に身を呈し、戦場で常に己を敵の血で染めたことから、畏怖と鎮魂を込めて彼女はこう呼ばれた。
薔薇の騎士、ローズリィ・ゲールと。
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