薔薇の騎士   作:ヘイ!タクシー!

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徹夜で書いたせいか話が纏まらないです。
と言うか、話が長い








赤い刺

 例えるなら、それは殺意の嵐だった。

 そう思える程に、ローズリィは人形のように無機質な顔を歪め、膨大な魔力を放出させていた。

 

「………ぁぁ……ああ、ああッ、ああ! ああ!! ああ!!! 」

 

 激怒と形容するにはあまりにも足りない。憤怒と呼ぶだけでは彼女の一分たりとも、表現することはできないだろう。

 

「どこまで……………どこまで私達を馬鹿にすれば気が済むのだ貴様等は!? どれ程ジャンヌを弄べば気が済むのだお前達は!?

 再びジャンヌを玩具にして!! 死後の彼女すら辱しめて!! 信じ続けるジャンヌを! どうしてそこまで蔑ろにできる!? 裏切ることができる!!?」

 

 彼女が発するのは世界に対する呪いの言葉だった。

 限界だと、これ以上許容できないとばかりに、彼女は思いの丈に憎しみを込めて叫ぶ。

 

「地獄すら生温いこの世界に私の存在が邪魔だというなら、最初から殺しておけば良いのだ! 中途半端に余計な希望を持たせるな!! 今更しゃしゃり出て、貴様等は何がしたいと言うのだ!!」

 

 ジャンヌに寄り添う立香やマシュ達を見て、彼女は気付いてしまったのだ。

 

 もう、自分はジャンヌの傍に居られない。居てはいけないと。

 その資格はもう無くなった。自分は汚れてしまったのだと。

 

 人に否定され、神に否定され、世界に否定され。

 最後はジャンヌに否定される。

 

 

 彼女の限界はとうに越えた。

 もう十分だった。これ以上の何もかもを見たくない。地獄(現実)にいるのならいっそ死んで楽になりたい。

 

 ローズリィから溢れ出る憎しみが魔力へと変貌し、深淵のように深い黒炎が周囲を覆い尽くす。

 

「苦しみを与えたいのなら人を殺せッ!! 絶望を起こしたいのなら世界を壊せッ!!

――――これ以上、私の邪魔をするなぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 その悲鳴にも似た彼女の咆哮に。圧倒的な負の感情とその黒炎に。暴力的なまでの殺意に。

 

 立香やマシュ。ローズリィの味方であるサーヴァントやファヴニールも。その圧力に耐えられず地面へと叩き付けられる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 この世のモノとは思えぬローズリィの絶叫に呼応するかのように、大陸に仕掛けた彼女の呪いが溢れ出る。

 揺れる大地からは黒い炎柱が天高く昇り、空を暗く染めた。

 

 凝縮する魔力が膨れ上がり、世界が歪む。

 

『ヤバいヤバいヤバい!!? なんだこの魔力反応!? その特異点全体が彼の魔力に反応しているぞ!? このままじゃその空間が崩壊してしまう!!』

 

 唯一その場にいないロマニの声だけが、胎動する大地の轟音から逃れ皆に響き渡る。

 それによって呆けていた意識を戻し足掻こうともがくが、だからと言って動くことが出来ない。

 ローズリィの魔力が全員の身体に圧力を掛けているかのように、彼女達を地面に縫い付けた。

 

「ちょッ………ドクター! どうすれば、いいのっこれ!?」

 

『この魔力の元凶たる彼の魔力制御を上手く邪魔できればいいんだけど…………』

 

「くッ…………リィル!!!」

 

 声を絞るのがやっと。大英雄であるジークフリートすらも、その圧力に片膝を付いて耐えるのが限界であった。

 唯一立っているジャンヌと オルタでさえ、全身を覆う魔力に動くことが出来ずにいる。

 

 

 抵抗する彼等を嘲笑うかのように魔力は膨れ上がり、嵐の奔流が世界を壊しに掛かる。

 

 呪いはフランスと言う国、全てを覆っているのだ。

 むろん、各都市でもローズリィの魔力の影響を受ける。そのため、突如膨れ上がった呪いに人々が恐怖を抱き、結局は何も出来ず絶望することしか出来ない。

 未だ見ぬサーヴァント達でさえ、その現象を止めることは不可能だった。

 

 だからこそ、この場で唯一止められるサーヴァント。ジャンヌやジークフリート、マリーにアマデウス、そしてマシュが抗おうと必死になるが、それでも足りない。

 

 最後の手段として立香は右手に宿る令呪を構えた。

 

「くっ…………れ、令呪を持って命ず! ジャンヌ――――」

 

 

 

 

「なんだ? 存外、元気そうではないか」

 

 立香が令呪を解放するよりも早く。凛とした声がその場に響いた瞬間、嵐を貫く鋭い紅の閃光が迸った。

 魔力渦の流れを切るかのように、中心地たるローズリィの元へ閃光が突き進む。

 

「ッ■■ぁ!!!」

 

 狂っていても歴戦の英雄。ただ一点のみを穿つかのような殺気を、本能で察知したローズリィが己の剣を抜き放ち、自身の命を刈り取る何かを防いだ。

 

 煌めく剣閃と貫く光が衝突し、爆発が起こる。

 

「なっ!?」

 

「キャっ!」

 

 粉塵が舞い、制御を失った魔力が霧散し突風が生まれる。

 マシュは咄嗟に立香を支え、立香はその風圧に身体が持っていかれないよう、しゃがみ踏ん張ることで飛ばされることを回避した。

 

「今度はなんなの!?」

 

「この魔力は…………」

 

 風によって次第に土埃が飛ばされ視界が晴れていく。

 

 

 

 

 

 明瞭となっていく目の前の光景に、彼女達が見たのはポカリと空いたクレーターと、光が飛んできた方向を睨むローズリィの姿であった。

 

「お■えは………■れだ?」

 

 ローズリィは四方八方にばらまいていた殺気を、その方向へと鋭く向ける。

 慌てて一同がその方向へと目を向ける。

 

 

 そこには一人の美しい死神がいた。

 

 紫色のタイツのような衣服を身に纏い、完成された美のような肢体を露にした女。

 宝石のように紅い目と、手に持つ二本の紅く禍々しい槍が、視る者に死を連想させる。

 

 誰もが彼女の登場に驚き、その一挙一動を目にする中。

 女はそれらの視線を気にした様子も見せず、ただローズリィの下へ、気品を感じさせる足取りで近付いて行く。

 

 そんな彼女が、警戒し睨み続けるローズリィに話し掛けた。

 

「獣にまで堕ちたと思っておったが…………ふふ。安心したぞ? 未だ、人の理は外れていなかったようだな」

 

「…………誰だと言っている!」

 

 ローズリィが女に剣を向ければ、剣先から黒炎の柱が伸びて女を襲う。

 並みのサーヴァントすら一撃で殺せるその炎。だが、女は槍を横に薙ぐだけで一瞬にして霧散させた。

 

「私の事を覚えておらんか。まあ………わかってはおったが、悲しいものだな。あれほど可愛がってやったのに。いや、本当に悲しいぞ」

 

 悲しい悲しいと言っておきながら、その目は獲物を狙う狩人の目をローズリィに向けていた。

 相手の全てを見透かすかのような視線が、ローズリィの頭を一瞬で冷却させる。

 彼女は最大の警戒を女に向けながら、ファブニールの上に乗るオルタへと声を掛けた。

 

「ジャンヌ。一時撤退…………いえ、貴女達だけでも逃げて下さい。あのサーヴァントは私でも面倒な相手です…………貴女を守りながらでは到底勝てないでしょう」

 

「えっ?」

 

「ふむ、その判断は間違っていないが…………おぬしも退くがいい、狂った忠犬よ。今この場で殺り合えば、貴様はともかく周りがどうなるかわからんのでな。

 ましてやそこの女、勢い余って聖杯諸とも串刺しにしてしまうやもしれん」

 

「…………わかりました。今は、退きましょう」

 

「ちょっ!?」

 

 女の提案を承諾すると、ローズリィはファヴニールの上へと跳んでジャンヌの傍に着地する。

 突然の出来事に付いていけないオルタを抱き抱えながら、ローズリィは他の三騎のサーヴァントが乗っていることを確認して、ファヴニールに告げた。

 

「飛びなさいファヴニール。腹立たしいけど、今ジャンヌがここにいては危険です。それくらい貴方もわかるでしょう?」

 

「GYURAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 かの邪竜はローズリィに従うと、勢い良く飛び上がることで突風を産み出し、そのままオルレアンの都市へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「行ったか」

 

 ファブニールを見届けた後。女は呟くと、踵を返してジャンヌ達の方へ向かって来た。

 

 驚きの連続で立香達が動けない中、ジークフリートだけが安心したように彼女に声を掛ける。

 

「すまないランサー。貴女がいなければ危ないところだった」

 

「なに。礼には及ばんよ竜殺しの英雄。もともと、私の狙いはあの狂犬だけだからな。然して手間もかかってはおらん」

 

 ジークフリートと知己の様子を見せるサーヴァントの女に、立香達は少し前に彼が話していたもう一人のサーヴァントだと気付く。

 さっきのローズリィとの攻防を改めて思い出し、立香はそのサーヴァントに声を掛けた。

 

「貴女が、もう一人のリヨンの守り神なの?」

 

「ん? ああ…………おぬし等か。この事変を救う為に呼ばれた最後のマスターとそのサーヴァント。いや、デミ・サーヴァントか…………。

 なに。私はただやって来るワイバーン()を狩っていただけだ」

 

『竜種が獣扱いって…………中々、飛び抜けた思考のサーヴァントだなぁ』

 

 話を聞いていたロマニがボソリと呟くと、そのサーヴァントは鋭い目付きで彼を睨む。

 その目力に、画面越しである筈のロマニは心臓を射ぬかれたような、そんな気持ちにさせられた。

 

「遠見の魔術か…………趣味ではないな。根性もなっとらん」

 

『す、すいません…………』

 

「あ、あの。貴女はリィルの事を知っている様子でしたが、どう言った方なのですか?」

 

 話が拗れ始めたことに気付き、見計らっていたジャンヌが話を切り替える。

 と言うよりも、ジャンヌはただ早くに聞きたかった。先程、ローズリィを知っている様子で話していた彼女にジャンヌは疑問を抱いたのだ。

 

 ローズリィと会っているなら当然ずっと一緒にいたジャンヌも会っている筈。なのにジャンヌですら知らないのだから疑問が残る一方。そのためにも、彼女に話が聞きたくてしょうがなかったのだろう。

 

「おお、そうだったな。自己紹介がまだだったか。

 我が名はスカサハ。クラスはランサーだ」

 

「スカサハ…………えっ!?」

 

「スカサハ……! 影の国の門番。以前特異点で助けて下さったキャスターさんの師匠さんですね!」

 

 スカサハと聞いて、あまり歴史を知らない立香やマリーを除く皆が驚くこととなった。

 

 

 スカサハ。影の国の門番にして、国を支配する女王。

 かつて特異点Fでマシュと立香が出会ったキャスターであるクーフーリンが師事していた人物だ。

 

「そんなに有名な人なのジャンヌ?」

 

「そうですマリー…………人であると同時に、神に近い存在。只者ではないと思っていましたが、これ程とは…………」

 

「本来なら私はサーヴァントとして呼ばれ無いのだが…………人類史全てが燃え尽き、私の国も燃え尽きた。

 まさか、このような形で儂の願いが叶うことになるとはな…………」

 

 その美貌とは裏腹に、年期を感じさせる重苦しい溜め息を吐くスカサハ。

 嬉しいような納得いかないような、複雑な表情をしていた。

 

 彼女の正体はケルト神話の大英雄、スカサハであることはわかった。

 だが、それではローズリィとの関係性が見当たらない。ジャンヌはその事への疑問を口にした。

 

「ですが、何故貴女がリィルの事を…………」

 

「そうだな…………この話は長くなる。そこのマスターもあやつの魔力に当てられて疲れておろう?

 まずは、私が魔術を施した街に戻ってから話してやろう」

 

 そう言ってスカサハは、リヨンの方向へと歩き出した。

 皆もその提案に納得したのか、彼女の後に付いていく。

 

 

 ただジャンヌだけは一度振り替えって、ローズリィが飛んでいった方向に視線を向けた。

 

「リィル…………」

 

 悲しげな表情で空を少しだけ見続けた後。彼女は振り替えって、ゆっくりと皆の跡を追ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、話が重すぎると言われてしまいましたので、ここは自重すべきか悩むぅ。

彼は誤字ではありません。むしろ地の文以外でリィルのこと彼女呼ばわりしてたら教えて下さい。
リィルは男装しております

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