薔薇の騎士   作:ヘイ!タクシー!

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ちょいグロいかも


ドンレミ襲撃

二人が七歳になった頃だ。

二人の歳になると、皆が親の仕事を手伝わされる様になる。

二人もその例に漏れず、ジャンヌは他の兄姉達と一緒に農業の手伝いを、ローズリィは駐屯所まで父親の手伝いをしに行っている。

 

彼女達が住むフランスとイングランドは戦争中だった。

ただでさえ昔は子供や大人は区別なく働いていたのに、人手が足りない今、子供達は遊ぶ暇なく働いていた。

 

その代わりと言っていいのかはわからないが、ダルク家とゲール家はお隣の上に仲が良いため、ちょくちょく夕飯などの食事を一緒に取っていた。

 

 

今日は風がとても強い。

そんな日にも普段同様にダルク家で一緒に食事を取っていた時だった。

家の外が騒がしくなり始めた。

 

「ブルゴーニュの奴等が攻めてきたぞぉ!!!」

 

「自警団や戦える者は門前に集合しろ!戦えない者は中央広場に避難しろ!」

 

その大きな声を聞いた大人達は一斉に動き出す。

 

「ジャック行くぞ!ローズリィはイザベルやジャンヌ達と広場に行きなさい!」

 

「イザベル。子供達を頼んだぞ」

 

「わかってます。行くわよピエール、ジャンヌ。ほら、ローズリィも」

 

急な展開に子供達がついていけない中、ジャンヌの母であるイザベルが子供達を外に連れ出す。

状況がよく分からない子供達ではあったが、大人の切羽詰まった様子に追いやられて外に出るのだった。

 

ローズリィもそれに倣いジャンヌの後から外に出る。と、門の方から怒号と叫び声が聴こえてきた。思わず皆が門の方へと振り向く中、ローズリィは自分の家の玄関に向かった。

 

(さっきの話と今の叫び声………誰かが私達の村に攻めてきたんですね。なら、武器を持たなきゃ)

 

ローズリィの行動は、半ば反射的だった。武器を取りに行く為に行動し、次いで付随するように武器を持たなきゃと言う使命感に移る。

まるで、身体が戦争を欲しているようだった。

 

玄関に置いていた、刃の潰れた愛用の剣を手に取ったローズリィは、ジャンヌと再び合流した。

その時、イザベルに離れないよう言われたが、彼女はまったく気にした素振りも見せなかった。

 

 

四人が広場に着くと、そこには村の女子供達が集まっていた。イザベルは子供達から離れると、大人の女性達の所へと向かい、ピエールもまた男友達の集まりへと向かう。

 

置き去りにされたジャンヌとローズリィだったが、ジャンヌは気丈に振る舞おうとローズリィに少し緊張した笑顔を向ける。

 

「リィル、大丈夫ですか?私が付いていますから、怖くなったら言ってくださいね」

 

「ん………怖くはない、よ?……でも、ギュッてしてもらいたい……です」

 

「ええ」

 

ジャンヌは了承するとローズリィに優しく抱き付く。

ジャンヌの強張っていた表情が和らぎ、ローズリィの無表情な顔が少しだけ綻ぶ。

数年前より成長して少しだけ大人っぽくなった二人だが、抱き付くと言った行為は今も変わらず健在だった。

 

ここだけ切り取れば微笑ましい光景なのだが、現実はそう甘くなかった。

門の方向から一際大きな叫び声と共に、真っ赤に夜空を照らす炎が立ち上がったのだ。

 

何かが瓦解するような喧ましい音を立てる門の方向を、広場に集まる皆が不安そうに見つめる。

 

「………」

 

「ん………ジャンヌ?」

 

「大丈夫です………きっと大丈夫ですから……」

 

少しだけ抱き付きが強くなったジャンヌに疑問の顔を向けるローズリィ。

そんな彼女に自分の心配が伝わらないように、自分に言い聞かせるように、ただ大丈夫だと言い続けるジャンヌ。

ジャンヌの気遣いが伝わったのかどうかわからないが、ローズリィはただ無言で頷いてジャンヌを抱き締め返す。

 

広場の皆が次第に不安が募っていき、ストレスがピークに達しようとしていた時だった。

約十人程の騎馬に乗った甲冑を着る兵士が、大通りを通って広場に駆けて来るのが皆に見えた。

 

兵士達の手には大きな松明と剣が握られていた。

 

「あ………ぶ、ブルゴーニュの兵士よ!!皆逃げて!!」

 

「家に隠れては駄目だ!反対側の村の出口に逃げろ!」

 

大人達が駆けて来る兵士の正体を理解すると、女性達は素早く子供達を連れて避難を開始し、2・3人の広場にいた男達が盾になるべく前に出ていった。

 

「ッ!逃げますよリィル!!」

 

「ん」

 

広場に集まる皆が逃げ惑う中、ジャンヌもローズリィの手を取り駆け出す。

ただ皆は非力な子供や女性の大人ばかりだ。まして戦力は大人3人のみ。

 

当然騎馬に乗る兵士達に敵う筈もなく、男達は一突きで殺され、逃げ惑う人々を嘲笑うかよ様に家を放火された後、すぐに彼等に追い付き虐殺を始めた。

 

「ぶぐぇッ!!」

 

「あ"ッ!?」

 

「マ、ママぁ……おぐッ!」

 

「いだい……いだいよぉ………」

 

馬に轢き殺されて地面に真っ赤な染みを作る者。剣で首を切られて殺される者。槍で胴体を刺し殺される者。致命傷を負ってジワジワと殺される者。

 

様々な方法で村人の子供達を殺していく兵士達からジャンヌは必死に逃げた。

度重なる悲鳴から目を背け、手にある感触の主を逃がすために幾つもの通り道を駆け抜ける。でなければ二人とも殺されてしまうから。

 

 

家と家の間に隠れるのは駄目だ。

谷と、襲撃に備えて建てられた城壁に囲まれた村の出口は二つ。

風が強い今日は隠れれば火で炙られ、村に残れば他の兵士達に殺される。

だから最速で出口に向かい、狙われないよう運に任せながら逃げるしか生きる術はなかった。

 

一人が殺されればその分他の者が逃げる時間を稼げる。まして放火しながら追ってきているのだ。集まっていた人の2/3ほどは外に逃げられるだろう。だから村人達はその2/3に入るために必死に逃げる。

外に出ても危険はあるが、村に残って囮になるよりはマシだった。

 

 

そうやって皆は逃げる。無力な子供でしかないジャンヌもただ逃げるために走った。生きるために。ローズリィと一緒に明日を迎えるために。

 

だけど、現実はそう甘くなかった。

 

馬の蹄が地面を鳴らす音が後ろから近付いてくる。そして、確実に二人に向かってくるのがジャンヌにはわかった。

 

(私はいい……でも、リィルだけは……!お願いします主よ。リィルを、彼女を救ってください!!)

 

確実に死の気配が近付いてくるのを背中に感じながら、ジャンヌは藁にもすがる思いで神に祈った。

どうしようもないから。自分ではローズリィを守ることができないから。今までずっと、本当の妹のように接してきた大切な彼女だけでも、守りたかったから。

 

だからジャンヌは神に祈った。奇跡が起きることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

結果で言うならば、二人は助かった。

但し、奇跡が起きたわけではない。ただ、当たり前のようにそこに現実があっただけだった。

 

 

__________

 

 

 

ローズリィは背後から迫る馬と兵士の存在を認識していた。

このまま何もせずに傍観していれば、自身はともかく、確実にジャンヌは轢かれて死んでしまうと予想を付けたローズリィ。

彼女は刃が潰れた、先だけが鋭利な細長い剣を右手に持った。

 

知識はある。それに見合った身体を動かすこともできる。

 

だからローズリィは、前を走るジャンヌを己の内に引き寄せ、馬が通る直前に横に避ける。

馬の通り抜け様に、その細長く鋭い剣の切っ先で、馬の足の関節に突き刺した。

 

『ーーーーーー!!!!』

 

「ぃぎゅぇッ!?」

 

突如の足の痛みに暴れ回る騎馬。その馬は騎乗者の兵士を振り落とすと、道の奥へと走り抜けて行った。

落馬した兵士は頭から地面に落ち、首から鈍い音を立てて絶命した。

 

「……………」

 

「はぁ、ッはぁ………」

 

阿鼻叫喚溢れる村の中、無言のローズリィと息を切らすジャンヌの周りだけはやけに静かだった。

 

 


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