柏木戦隊エルクゥファイブ   作:きゃら める

2 / 6
第二話 その名はキルイル

          * 序 *

 

 いつからだったろう。自分が姉だと自覚し始めたのは。

「千鶴ちゃんはお姉ちゃんだもんね」

 確か近所の人に言われたその言葉を、幼い私がなんと答えたのか、憶えていない。そのときにはもう、私は梓たちの姉だったから、たぶん頷いたんだと思う。

 私は鬼の血を継ぐ柏木家の長女として生まれた。梓や楓や初音が生まれて、姉となった。両親を、賢治叔父様を失い、鶴来屋の会長となって、私は常に人の上に立つ者であることを感じ、意識するようになっていった。

 それは人によっては贅沢な悩みと言われるかも知れない。長女であることも、姉であることも、会長であることも、すべての立場を捨てて、ひとりの人間として、ひとりの女としてありたいと思うことがある。そう願ってしまうことがある。

 物心着いた頃には姉であった私は、普通の幼子のように泣いている時間はなかった。両親に、賢治叔父様に、自分のすべてを捨てて泣きついている時間はなかった。

 戦いは始まってしまった。いつ終わるとも知れず、耕一さんや妹たち、そして自分がいつ死ぬとも知れない戦い。

 果たして自分がひとりの人間として、ひとりの女として、本当の自分の涙を流せるときが来るだろうか。

 私の心は泣いていた。幼子のように。肩に掛かる重さに堪えるしかない私は、いつも心の中で泣いていた。

 

          * 1 *

 

「くそっ」

 口汚いののしりが峰沢の口から漏れる。

 光の襲来から続いていた忙しさがひと段落してきて、久方ぶりに丸一日の休暇が取れた。早めに身体を休めようと床に入った途端、電話がかかってきた。つまり、虐殺事件の第一報。

 それ以来署に詰めてもう昼時になろうとしていたが、いまのいままで峰沢は一睡もできずにいた。しかし彼にとっては自分のことはどうでもよかった。

 いま峰沢のいるフロアで電話応対に追われている多くの署員は皆、勤務時間超過で疲労の色が濃くなってきている。ここにいる以外の署員もまた、待機や非番に関わらず出勤して、絶え間なくやってくる仕事に追われていた。

 光の襲来以上の騒ぎとなっている署内。署員にかかっている大きな負担に、峰沢は頭を痛めていた。

 ――しかし、いったいなんだったんだ?

 土曜の夜に発生した大量虐殺を伴うテロ事件。午前中に行った記者会見ではそう発表した。けれどもそれ以外のことは調査中とした。

 発表した内容以上のことを、峰沢も、隆山警察署の誰もが把握していなかった。現場検証などはひと通り終わっていたし、事件を起こした犯人たちの遺体も署に安置されていたが、わかっていることはあまりに少ない。警察官五名を含む二十名を越える死者、その数倍になる重軽傷者が出ていたが、信憑性のある犯行声明などは出ていなかった。そして派遣した武装した警官隊が到着した頃には、生存者が言うエルクゥファイブと名乗る者たちによって、数十名の虐殺者たちは撃退され、事態は収拾していた。

「いったい、なにがあったんだ?」

 口に出して、峰沢は言う。

 峰沢自身も足を運んで見た現場は、人間がなにかをしてできたものとは思えない惨状だった。量も量なら数も数の血痕。爆発跡はないのにちらばる大量の瓦礫。果たしてどうすればそんな事態を引き起こせるのか、彼には想像もつかなかった。

 事件再発を避けるという理由と、便乗した犯罪が起きないよう、署員のかなりの人数を裂いて街の巡回をさせているが、人数が足りず、県警本部に応援も要請している。しかし警察官や機動隊の応援がどれだけ来ようとも、普通の人間ではあれだけのことを起こせる者たちに対処できるとは思えなかった。

「まるで昔話の鬼が現れたかのようですね」

 考え込んでいた峰沢の机の上に、言葉とともに湯気の立つ湯飲みが置かれた。顔を上げるとにっこりと笑んだ幸子が立っている。

「そうだな。確かに鬼が起こしたような事件だ」

 いつもならば仕事をしろと叱咤するところだったが、やめる。疲れが読みとれる彼女の表情から、彼女の退勤時間は自分と同じ昨日の夕方で、今日は一日休みだったはずなのを思い出したからだった。

 ――鬼。確かにそうだな。

 幸子の言葉は言い得て妙だった。事件現場の惨状を思い出し、鬼の団体が暴れたのであれば納得できるような気がした。同時に署の地下に収容された事件の犯人の遺体が、収容直後は尋常でないほどたくましい体格であったのに、しばらくすると普通の人間サイズの身体になったことが思い出される。

 犯人たちが鬼だと言うならば納得もできる。光の襲来以来続いていた妙な胸騒ぎと事件とも言えない不審者の目撃は、まさに前兆だったのだ。前兆は最悪の形で、大量虐殺事件という形で実現したのだった。

「鬼だと言うなら、俺たちはどうやって奴らを対処すればいいんだろうな」

「昔話の次郎右衛門さんも復活してくれるのを祈るか、今回事件を収めてくれたエルクゥファイブさんたちに頼むしかないでしょうね」

 気楽に言う幸子の言葉に反論しようとした峰沢だったが、言葉が見つからず、そうかも知れないな、と言って口元に寄せた湯飲みを傾けた。幸子もまた、机の横に立ってお茶を飲んでいた。

 そんなときだった。

「あら? どうしたのかしら」

「どうした? 遠藤巡査」

 立ち去る様子もなくお茶を飲んでいた幸子があげた声に、峰沢はフロアの入り口を見る。

 ざわついてきた署内。フロアの外から近づいてくるそれは、峰沢と幸子が注目する入り口をくぐってやってきた。

「何者だ?」

「さぁ? 自衛隊の方々かと……」

 その言葉通り、入り口をくぐってやってきた数名の男たちは、ふたりを除いて灰色と黒を基調にした都市迷彩服を身につけていた。迷彩服の自衛官はそれぞれに小銃を天井に向けつつ持ち、先頭を歩く制服を着た者もまた、腰に拳銃を所持しているのが見えた。

 唖然とする署員たちを無視してフロアを横切りまっすぐ峰沢の机にやって来、制服姿の隊長らしい人物が口を開いた。

「県警本部より要請を受けて応援に参りました、陸上自衛隊の香坂です。今回の大量虐殺事件に関して、市民を守り警察を手伝うよう言われてきております。こちらの所長は倒れられているそうなので、その代理となる副署長殿の元へと参上いたしました。早速ですが陣を敷くために駐車場をお借りしたいと思います」

 言いながら突き出された書類を手に取る。書類には県警本部長からの自衛隊に対する応援要請の写しと、防衛庁からの出動承認文書、それから部隊編成や「市民の安全を守るため」などの出動目的が書かれていた。

 ――なにかがヘンだ。

 ひと通り目を通した文書をもう一度ゆっくりと読み直しながら、峰沢は香坂たち自衛隊の様子に目を配る。

 人間では対処できないだろう、という自分の印象としての感想は、本部に対する報告書で行っていた。同じように本部が一般警察官や機動隊などでは対応できないと考え、自衛隊に本部からの要請が行ったのは理解できる。しかし書類を見る限り派遣されてきたのはかなり大きな部隊のようだった。それに事件からまだ丸一日と経過していない。それなのに自衛隊はまるで事前に準備をしていたかのように部隊を整えて隆山にやってきていた。

 ――なにか裏があるな。

 警察官として培ってきた勘がそう告げている。

 香坂は笑顔を見せているが、愛想であるのは明らか。彼の後ろで控えている小銃を手にする自衛官が緊張しているのは見えたが、今回の事件の概要を知っているだろう彼らが恐怖しているようには峰沢には思えなかった。

 それに陣を敷くという香坂の言葉。書類にも記されているその真意は、自衛隊が同様の事件の再発を予期し、その確信を持っているということではないだろうか。

 ――それともうひとつ。

 書類から顔を上げて目の前に居並ぶ面々の顔をひとりひとり眺めていく。制服姿の香坂と迷彩服の自衛官たちに混じって、ひとりだけ白衣姿の長身の男がいる。自衛隊員というより学者かなにかのように見える彼の顔に浮かんだかすかな笑みが、峰沢には不穏なものに思えて仕方がなかった。

 ――虐殺事件ひとつでは収まりそうにないな。

 穏やかでない予感にため息が出そうになりながら、しかし正式な書類を拒絶する権限は峰沢にはなかった。

「第二第三駐車場をお貸ししましょう。詳しい話はまた後ほど、会議室ででも」

「ありがとうございます」

 笑みを残して立ち去っていく香坂たちの背中を見送り、峰沢は冷えてしまったお茶をひと口飲む。

「副署長……」

「遠藤巡査は持ち場に戻ってくれ。おそらく通信関係でそちらにも手伝うことが出てくるだろう」

「わかりました。副署長もあまり無理はなさらずに」

 険しい顔のまま礼をし、幸子も去っていった。

 ――隆山では、これからなにが起こる?

 光の襲来、虐殺事件とエルクゥファイブ、そして自衛隊の応援。平和な温泉街だった隆山は変わった。すべての事件は、おそらくこれから起こることも全部、ひとつにつながっていくような気がする。

 ――俺はそのすべてを見ることができるだろうか。今回の事件ひとつすら見ることができない俺に……。

 天井を振り仰ぎ、峰沢は事件の現場でどんなことが起こったのか、想像の中で思い描いていた。

 

            *

 

 敵の回りを回るように走り出した途端、グレーのプロテクタースーツをまとうエルクゥが私の行く手を阻んだ。

 私たちと違って灰色と黒を基調にした変身スーツを身にまとう敵。色は違ってもプロテクターの形も腰に佩いた短剣も同じ。同じエルクゥの道具を使って身にまとっているとするならば、変身スーツの能力はおそらく同等なんだろう。

『とりあえずこいつら、グレーエルクゥ』

 一瞬感じた恐怖はでも、ネーミングセンスのない梓の言葉――テレパシーによってほぐれてしまう。梓も戦闘を開始したのを背後の視界――スーツの機能なのか、意識すると視界の外も見える――で確認して、私もグレーエルクゥと対峙する。

 短剣は使わず、グレーエルクゥは両の爪を適当とも言える乱雑さで振るってくる。轟音と暴風を伴う攻撃を慎重に避けつつ、一気に距離を詰めた。すれ違う瞬間、右手に持った短剣を逆手に構える。柄頭に左手を添えて、大振りの攻撃によってがら空きになったグレーエルクゥの脇腹に深く突き刺した。

 手に伝わってくる、短剣が肉に刺さっていく嫌な感触。動きが止まってしまったそのとき、倒れていくグレーエルクゥから吹き出た返り血が私の身体に降りかかる。

 ――怖い……。

 次のグレーエルクゥが私の行く手を阻む。立ち止まると同時に背後に、左右に現れ、囲まれてしまった。

 一体を簡単に倒したことで警戒しているらしい。短剣や爪を構えつつ、グレーエルクゥは距離を取って襲ってこない。私もまた、対峙したまま攻撃できないでいた。

 ――怖い……。怖い……。

 右手に残った感触。身体にかかった返り血を左手で触ると、すでにべっとりとなってきていた。

 心が震えてしまっている。でもその様子を妹たちに悟られてはならない。彼女たちに私の感覚を精神感応で伝えないために、恐怖を心の中に押し込め、歯を食いしばってグレーエルクゥにこちらから仕掛ける。

 グレーエルクゥは正直、強くなかった。いや、弱いとさえ言えた。普通の人間では捕らえられないほどの動きはでも、同じエルクゥである私たちにとってはけっして早いものではなかった。全員男のエルクゥなのか力は強いけれど、それも楓や初音に勝るくらいで、私ならば同等、梓には負けている程度のものだった。

 感じられるグレーエルクゥの命の炎は弱い。柳川という刑事がそうだったように、私や耕一さん、妹たちもそうなように、エルクゥの命の炎は人間のそれより強いのが当たり前だと思っていた。それなのに、グレーエルクゥから感じられる炎は、ともすると人間のそれより弱いとすら感じることがあった。

 逆手に持った短剣で敵の短剣を受け止め、左手を振りかぶる前に懐に飛び込み、爪で脇腹を凪ぐ。スーツとともに肉を切り裂かれひるんだ敵にトドメの短剣を打ち込もうとするけど、一瞬迷って、繰り出したのは短剣ではなく足蹴りだった。

「私は姉だから」

 ヘルメットの中でつぶやきながら、短剣を振るい、爪で凪ぐ。私と梓が敵を少しずつ押していき、その後ろで楓と初音が傷ついた人を助け出していく。

 グレーエルクゥの予想外の弱さから、初めてであるこの戦いで誰かが傷つくことはなさそうだった。そのことに安心しつつも、手を緩めることなく敵を圧倒する。でもトドメとなる一撃には迷ってしまっていた。

 ――怖い。怖い。

 幼子のように心が同じ言葉を繰り返す。戦いを続けながらも剣を受け止める衝撃が、敵を殴りつける感触が私の心を細らせていく。

 ふと、戦いの中に生まれた間隙。次々と仲間を倒していく私たちに警戒を強めたらしく、グレーエルクゥは遠巻きに構えて手を出しかねている。

 ――耕一さんは、大丈夫だろうか。

 敵が集まっている向こうにいて姿の見えない耕一さん。エルクゥの感覚が彼の健在を伝えていたが、確かあちらには女性の司令官もいたはずだった。

『惚けてちゃダメだよ、ホワイト!』

 テレパシーとともにブルーの残像を率いて梓が飛び込んでくる。連携して動き、梓に前方の敵を任せて私は後方の敵に向かって距離を詰める。

 ――気をつけてください、耕一さんも。

 

 

「エルクゥファイブ、なんて、ふざけた名前をっ!」

 名乗りの言葉とともにグレーエルクゥの間に飛び込んだ耕一が戦闘を開始してしばらく。柏木姉妹の方にできるだけ敵が行かないよう派手な戦いをしていた彼の動きは、そんないまひとつつたない日本語の言葉とともに止まることとなった。

 指示されたのかグレーエルクゥは耕一から一定の距離を離して近づいてこない。言葉の主の方に目を向けると、耕一に向かって女司令官が細身の長剣の切っ先を向けていた。

「いいじゃないか、そんなこと」

 突然の指摘にふてくされて、耕一が反論する。どうやらこれから戦うべき敵は女司令官らしい。彼はそちらに身体を向け、構えを取った。

「よく、ないっ! 陰陽戦隊アベノンジャーみたいだろぅ!」

 アベノンジャーと言えば、現在全国放送されている特撮戦隊ヒーロー番組のことだった。全員安部晴明の血族だという正義の味方が、菅原道真の亡霊を首領とする悪の軍団と戦うというもの。今時の味付けがされ、レッドの男とホワイトの女性が幼なじみの従兄妹の関係ながら淡い恋愛関係にあり、その上ブラックの男がホワイトに好意を抱き、さらに敵の女司令官がレッドに強い想いを抱くという凄まじい展開は、小さな男の子ばかりでなく小さな女の子から大人の女性までを惹きつけている、――らしかったが耕一はよく知らなかった。というより、エルクゥの女司令官がなぜアベノンジャーのことを知っているかの方が気になっていた。

「……なんでそんなテレビ番組のこと、知ってるんだ?」

 襲来したエルクゥとの戦闘中だ、ということを頭の中で理解しながらも思わず問うてしまう耕一。油断なく短剣を構えつつも、しかし――。

「――見てるからだ」

「……」

 女司令官の言葉で、構えた短剣に込めた力が弱まるのを感じる。

「見てるからだっ!! とくっ、に、鬼神将軍の右腕、邪皇女シルヴィーヌには、アベノンジャーを倒してほしいっ」

「悪役に肩入れかっ!」

 なんとなくずれた会話に叫び声で返した耕一に、女司令官は、悪いかっ、と言いながら長剣をひらめかせて突っ込んできた。

 抜けていた力をかろうじて込め直し、長剣を受け止める。しかしヘルメットに触れるほどのところでかろうじて受け止めたために、耕一は冷や汗をかいていた。

「シルヴィーヌ、こそ、真の炎を持つ、者だっ!」

 ――負けそうだ。

 長剣に力を込められ、膝をついてしまう。踏ん張ってみるが、押し返すことができない。

 ――こいつの気迫に、勝てない……。

 実際の力よりも、耕一はシルヴィーヌを応援する彼女の気迫に押されつつあった。

「アベノンレッドみたいな、お前、など、シルヴィーヌの、代わりに、あたしが、倒して、やる!」

 剣を引いた女司令官は強烈な蹴りを放ってくる。どうにか両腕でガードしたが、耕一は地を滑って吹き飛ばされた。距離が保てたことで対峙し直し、耕一は打って出る。

 剣と剣、爪と爪が交錯し、蹴りが互いの身体を打つ。体当たりで身体をぶつけ合い、ふたりで距離を取った。

 ――強い。

 耕一は正直にそう感じる。力はわずかに自分が上、スピードはほぼ同等。剣の間合いは女司令官に分があり、全体としては耕一の方が強かったが、戦闘経験の差なのか、彼は押されていた。

 そしてなによりも耕一が思うことは――。

 ――きれいだ。きれいな炎だ。

 これが純血のエルクゥの炎なのか、女司令官から感じる炎は色で表すならば、一点の濁りもない緋色。柏木姉妹の炎もきれいだと思っていたが、わずかに自分より弱いと感じる炎の強さはともかく、戦いながらも耕一は女司令官の命の炎に魅せられていた。

 グレーエルクゥの邪魔が入らず続いた一騎打ちはしばらく続き、互いにさしたる傷を負うことなく、唐突に終わった。

「どうしたんだ?」

 飛び退き大きく距離を離した女司令官に問いかける。しかし次の瞬間、彼は気づく。誰かの意志が彼女に向かって飛んでいることに。

 ちっ、と舌打ちした彼女は言う。

「撤退、だ」

「なにかあったのか?」

 命をかけた戦いながらも、女司令官との戦いに清々しさを感じ始めていた耕一は驚く。

「命令だから、仕方が、ない」

 悔しそうに唇を噛み、彼女は耕一に背を向ける。グレーエルクゥたちもまた、彼女の動きにあわせて傷ついた仲間を背負い、耕一の側を離れ飛び去っていく。

「キルイルの血を継ぐエルクゥ、エスナル、だ! エルクゥファイブの、赤いの!」

「……エルクゥレッドだ」

「――エルクゥレッド、ワタシの名を、忘れるなよっ!」

 そう言って女司令官――エスナルもまた細身の長剣をしまい、緋色の炎を残して宙を舞った。

 突然のことに耕一はその場に立ち尽くす。

 エスナルが消えていった空を見つめているうちに、いままで感じなかった情景が戻ってくる。なにかが燃えている匂い。誰かのうめき声。遠くから聞こえてくるサイレン。

 力なく下ろされた両手。その左手に誰かの手が添えられる。見てみると、イエロー――初音が耕一のことを見上げていた。他の姉妹もまた彼のもとに集まってきていた。

 ――勝ったんだ。

 戦いはまだ始まったばかりだった。敵、キルイルの目的も、規模も、まだわからなかった。それでも初めての戦いを、耕一たちエルクゥファイブは死者を出すことなく終え、エスナルたちを撤退させた。

 負けなかったことは勝ったこととは言えない。けれども自分も姉妹も命を落とすことがなかったのなら、耕一にとってそれは勝利だと感じられた。

『勝ったんだな、俺たち』

『うん』

 応えて手を握ってくる初音の手を、耕一は握り返す。スーツ越しにも伝わる手の暖かさに彼は勝利を感じていた。

 

          * 2 *

 

「確かに必要かも知れないな」

「いや、あたしは絶対必要だと思う」

「……そうかなぁ」

 食卓を囲んで、真剣な顔をした耕一さんと梓が立ち上がって顔をつきあわせている。私と初音は顔を見合わせて困っていた。

 キルイルと名乗るエルクゥの襲撃から、一日半が経っていた。襲撃があった翌日の日曜はみんながみんな遅く起きてきて、気がつくと過ぎてしまっていた。そうして月曜の今日、いつもよりも早く起きて朝食を済ませ、五人でこうして話し合っていた。

「本当に必要でしょうか?」

 私が疑問の言葉を口にしたのに対して、拳を握りしめた梓が言う。

「絶対に必要だ、千鶴姉。エルクゥファイブの変身ポーズは!!」

「格好いい変身ポーズがないとらしくないかも知れないなぁ」

 叫び声とともに梓が拳を高く掲げ、向かい合って立つ耕一さんもうんうん、と頷いている。話に参加していないような楓はでも、食卓から一歩離れた位置でさっきからずっと手を振り上げたり足を踏み鳴らしたり、そんなことをしては考え込んだりと忙しくしている。――つまり、梓や耕一さんの言葉に同意しているらしい。

 ――意外とそういうのに詳しいのかしら、楓……。

「変身ポーズ以外にも決めポーズ、必殺技も考えなくちゃ!」

 熱弁を振るう梓に対し、私と初音は「はははっ」と乾いた笑いを漏らしているしかなかった。

 ふと見ると、そろそろ登校の時間が迫りつつあった。話を続けているみんなに私は声をかける。

「とにかく、耕一さんと楓はできる限り待機で。梓と初音はちゃんと学校に行ってね。キルイルの襲撃があっても無理に学校を抜け出す必要はないから。私もちゃんと仕事に行きます。耕一さんと楓を中心に、参加できる人が戦いに参加すること。それから無理は絶対しないこと。とくにひとりで勝手に戦い始めたりしないこと。いいわね? みんな」

「はぁーい。ってかぁ耕一、ついに完全なプー太郎になっちゃったなぁ」

「休学しただけだぞ、俺は。っていうか俺、待機中なにしてればいいんだ……」

 和やかな雰囲気とともにキルイルと名乗った者たちの襲撃後初めての作戦会議、もとい打ち合わせは終わった。梓と初音は順に学校に行き、耕一さんは新聞を広げてできる限りの情報を集め始めていた。――楓は、変身スーツなどエルクゥの道具を研究するために高校を休学しているため、蔵の地下に見つかった柏木家が代々エルクゥの道具を集めていた秘密倉庫に行っているのだと思う。

 私もまた、鶴来屋に向かうために自室で出勤用のスーツに着替える。部屋着を脱いで、両手を胸の前に持ってきて眺めてみる。

 いまひとつ物足りない胸の近くの、両手。グレーエルクゥを刺したときの感触がいまも残っていて、見ているだけでそれを思いだし、震えが来る。

 さっきまでのみんなの様子では、キルイルとの戦いでの衝撃は少ないように見えた。でも戦いが終わった翌日の昨日は、いつもは朝が早い梓でも昼過ぎに起きてきたくらいで、みんな呆然としている間に過ぎてしまっていた。今日は全員早く起きてきて元気そうにしていたけど、表に現れないだけで、生死をかけた戦いによるショックは少なからず残っているはずだった。

 ぎゅっ、と手を握りしめてから、着替えを再開する。

 あと何回、こんな戦いをしなければならないだろうか。今回は誰も犠牲にならずに済んだけれど、いつ誰が怪我を負わないとも、――死んでしまわないとも限らない。そして私たちは、どれほどの敵を傷つけていかなければならないのだろうか。

 すべてが怖かった。きっちりスーツを着て、ネクタイとともに気を引き締めたつもりでも、手の震えは止まらなかった。

 私は姉だった。柏木家の主だった。鶴来屋の会長だった。人の上に立つ人間である私は、人前で弱みを見せるわけにはいかなかった。

 ひとつ深呼吸して、唇を引き締める。鞄を手に取って部屋を出る。ふっ、と息を吐いて気分を入れ替えた。

「頑張らないとね」

 

            *

 

「――――っ! ……!!」

「…………。――――」

「――!? …………」

 ディセレルとエスナルが理解できない言葉――エルクゥの言葉でなにかを言い合っているのを、柳川は無言で眺めていた。

 言葉こそわからなかったが、その内容はだいたい理解できていた。おそらく先日の襲撃の際、耕一との戦いの途中で撤退命令を出したために、エスナルが噛みついているのだろう。しかしディセレルは取り合う様子がない。言葉ひとつひとつに答えつつも、面倒そうに手を振りエスナルを退けようとしていた。

 結局あきらめたのか、ちっ、と舌打ちしたエスナルは柳川を鋭く一度睨みつけ、足を踏みならしながら去っていった。

「時間を取らせたな。こっちだ」

 日本語でそう言い、ディセレルは踵を返す。

 金属やプラスティックでできているとは思えない、微妙な弾力とかすかな暖かみを感じる壁。それは生物の内臓を思わせる、かすかにクリーム色を含んだ白色の材質でつくられている。約二メートル間隔の照明は、蛍光灯とは違う柔らかな光を放っている。辻ごとにある標識の違いを除けば変化のない廊下。おそらくキルイルたちが乗ってきたのだろう宇宙船の船内を、柳川はディセレルの背中を見ながら彼女の後を追うように歩いていた。

 柳川はこの女、ディセレルに負けた。

 半歩後ろから見る彼女は、日本人に近いアジア形の顔かたちをしていながらも、どこか違う雰囲気がある。服で見えないが身体は締まってこそいるが、鬼化したとしてもさほどの筋力があるわけではない。あの夜攻撃を受けたとき、ディセレルの動きは柳川の目にしっかり見えていたはずだった。負けている部分などひとつとしてなかったはずなのに、柳川はディセレルに負けた。それも指一本触れることができず、一撃で。

 ディセレルから感じられる力は先ほどまでいたエスナルよりも弱いものだった。そしてエスナルは耕一と互角に戦ったという。心の中の鬼に振り回されていたときにあった自信ほど、自分は強くないことを柳川は意識せざるを得なかった。

「お前が負けた理由がわかるか?」

 柳川の心を読んだかのように、ディセレルは振り返りすらせず問うてくる。

「……」

 柳川はなにも返事をしない。自分が弱かったからという以外の理由が思いつけないということもあったが、そんなことを問うてくるディセレルの真意がわからなかったからだった。

「それは私が真に目覚めたエルクゥだからであり、同時に女であるからだ」

 女のエルクゥは弱い。柳川はそのように認識していた。事実として、自分を襲った柏木千鶴や柏木梓は炎も力もスピードも、柳川に勝っていなかった。ディセレルについても同様のことが言えたが、しかし彼は現実としてディセレルに負けた。彼女の言葉の真意を、柳川は伺い知ることができなかった。

「私の言葉の意味は、もうすぐわかるだろう」

 わずかに振り向きあざけるでもない不思議な笑みを見せ、ディセレルは先に進む。

 今日はディセレルに言われ、どういう目的かは知らされていなかったが、与えられた部屋からかなり遠い場所まで連れてこられている。先ほどのディセレルの言葉から、誰かに会うのだろうと柳川は推測していた。それは行く先からだんだんと強くなってくる、エルクゥの気配からも肯定されている。

 ディセレルに負けてこの場所に連れてこられて約半月、柳川はひと通りの尋問と身体検査、エルクゥの能力の検査などをされたあとは、とくに牢屋などに入れられるわけでもなく、ある程度自由に過ごすことを許された。貴之も社会的地位も失った柳川は、実際のところ与えられた部屋から出るのはディセレルに呼ばれたときくらいで、行動範囲は狭い。また検査などで使う部屋も与えられた部屋やディセレルの私室から遠い場所にはなかった。

 見えてきた天井に届くほどの扉。その前に立ったディセレルが手をかざすと、振り仰ぐほどのその扉は自然に開いていった。

 中は廊下よりもさらに広い空間だった。廊下から続く中央には奥に向かって絨毯のようなものが敷かれ、船内では初めて見る装飾が施された柱がその左右に並んでいた。

 進み出たディセレルの後に着いていく柳川。少し歩いていくと、ベールのかかった段があり、その手前の絨毯の左右に人が並んでいるのが見えてくる。そしてその誰もが、グレーのプロテクタースーツを身にまとう意志の弱いエルクゥとは違うことに柳川は気づいた。

 人数にして十名ほど。男女は様々であるが、ディセレルやエスナルと同等、もしくはそれ以上の力を感じる彼らは、それぞれに鋭い視線を柳川に投げかけている。

「……」

 その中でもひと際強い炎を持つエルクゥを見、柳川の足が止まった。狩猟者らしい凶悪な顔が並ぶ中でも、群を抜いて悪辣な雰囲気を漂わせるその男から感じる波動は欲望などと呼べる激しさではなく、柳川の背筋に冷や汗を吹き出させる類のものだった。――その男の波動は、命の炎は、激しく強烈なだけでなく、なにもしていないのに殺意に溢れていた。同時に男からディセレルやエスナル、そして他の者たちからも感じるものとは少し違う、雰囲気というべき印象を感じていた。

「こいつが、例の原住民、か? 殺すにも、甲斐がなさそうなほど、弱々しいな」

 柳川を意識してのことなのか、男は日本語を使ってディセレルに話しかける。

「お前の、遊び道具か? こいつは」

「ゲディガ。柳川の措置についてはお前の感知するところではない。彼にはしてほしいことはあるが、決定するのはお前ではない」

 ふんっ、と鼻を鳴らして黙るゲディガを無視し、ヴェールの手前までやってきたディセレルは膝をつき、顔を伏せる。彼女の目配せに柳川も膝をつくが、顔までは伏せない。

「ミフィル様、柳川を連れて参りました」

 ディセレルの言葉とともにヴェールが左右に引かれ、その奥にいた者が姿を現す。

「なっ……」

 その人物を見た瞬間、柳川は声を漏らしていた。

 王座と思われる豪奢な椅子に腰掛けているのは、小さいとも言えるほど小柄な女性。不安そうな表情を浮かべている侍女を王座の後ろに従える彼女は、触れれば折れてしまいそうな身体をしていても、その雰囲気は女王と言うに足るものであり、ディセレルやゲディガとは異なる大きな力を感じる。

 ――これが、真のエルクゥ。女王のエルクゥか。

 彼女の持つ炎を言葉で表すならば、無色。完璧なまでに色のない炎を持つ彼女は、畏怖とも言うべきものを放ち、柳川は視線を合わせていられず顔を伏せた。

 床に頭をつけそうになりながら、柳川は先ほどのディセレルの言葉を身をもって痛感していた。男の持つ物理的なものとは違う、強烈な力をミフィルから感じている。

 柳川自身も持っていると感じることができる、精神感応の力。その存在に気づいていても、柳川には鬼の力に付随するもとでしかないと思っていた。しかしミフィルから感じる畏怖には、確実にエルクゥの精神感応の力が含まれていた。礼を尽くす気などない柳川に頭を下げさせているのは、まさにその力だった。

「ヴェルハの背に乗り地球にやってきた、キルイルの血を引くエルクゥを率いる者、ミフィルです。ディセレルより話は聞いております。なにかと不都合があるかとは思いますが、ご容赦を。もし叶うならばディセレルに協力をお願いしたいと思います。そしてわたくしの希望の手助けをお願いしたいと思います」

 身体に見合う細い、しかし頭に染みてくるような強い意志の籠もった言葉でミフィルは言う。押さえつけられているわけでもないのに顔を上げられず、柳川は彼女の言葉を受け止めていた。

 

            *

 

「ふぅ」

 ため息をもらして天井を振り仰ぐ。

 今日は一日鶴来屋に関係する人々と電話で話したり、書類を整理したり、ホテル内を見て回ったりと、終わらないほどに仕事があった。

 とくに先のキルイルエルクゥ襲撃による影響が大きい。泊まり客にも怪我人や亡くなった人が、少数だけれども出ていた。その状況を把握して警察と話したり家族に電話したりという仕事は、ことが重大であるがために私がやらなければならず、そして気が重かった。

「耕一さんたちは、どうしているかな……」

 仕事で疲れた以上にそのことが気になって、いまひとつ仕事が手に着かない。

 今日は残業になってしまったから、家の方ではもう夕食を終えている時間のはず。あの日からいままでは、キルイルの次の動きは感じられない。耕一さんは昼間はヨークの発掘作業をしていたろうし、梓と初音は昼間の訓練で疲れてそろそろ休んでいるかも知れない。楓はたぶん、いまも倉庫にあった地下室で発掘したエルクゥの道具の研究を続けているんだろう。

 研究を続けながら楓はどんなことを考えているだろう。エルクゥだった頃の前世の記憶が曖昧な私や梓や初音と違って、楓だけはエルクゥの力とともに前世の記憶のすべてが覚醒している。だからこそエルクゥの道具の使い方がわかるのだし、その分耕一さん――次郎衛門への想いも強いはず。

 ――でも私も……。

「会長、ひと息入れませんか?」

 軽いノックとともに会長室に入ってきたのは、社長の足立さん。左手にカップをふたつ乗せたお盆を手に私の机に近づいてきた。

「ありがとうございます」

「根を詰めてばかりでは疲れてしまいますよ」

 湯気の立つカップのひとつを私の前に置いて、足立さんはお盆の上のカップに口を寄せる。彼の優しい笑顔がいまの私に安心を与えてくれた。

 彼もわかっているだろう、いまの鶴来屋の、隆山の状況が。早々に到着した自衛隊の巡回である程度の落ち着きは取り戻していても、ホテルには一般の泊まり客はほとんどいない。明後日中には温泉目的のお客さんは全員帰ってしまうことになっていた。いま泊まっているのは昨日の早朝辺りから押し寄せた報道関係者と野次馬ばかり。事件の真相がわからない限りは温泉客が帰ってくることはないだろう。街には鬼の再来の噂がささやかれ、地元住民も疎開をする人が現れ始めていたし、鶴来屋の従業員も少なくなく長期休暇の申請が出ていて、それを止めることはできなかった。おそらくこの先もっと多くの従業員が疎開してしまうだろうと会議で予想が立てられている。もしくはさらに状況が悪くなった場合、鶴来屋の休業するほどまでに従業員もお客も、街の人もいなくなってしまうだろう。

「これから先が大変ですね、鶴来屋も、隆山も。我々のするべきことは多くなるでしょうね」

「えぇ」

 足立さんの言葉に応えて、もうひと口コーヒーを飲む。

 隆山は温泉で成り立つ町。温泉目的などの行楽客が来なくなれば、隆山は衰退していく。

 ホテルや民宿ばかりでなく、食堂やお土産屋さんなど大きな組織や小さな個人まで、隆山は温泉客目当てのお店などが協力しあってできてきた町だから、助け合っていかなければならない。鶴来屋は大きい分、その中心とならなければならなければなってくるはずだ。

「やれることをやりましょう、とりあえず。私たちにはそれくらいしかないでしょうから」

「そうですね。やっと仕事にも慣れてきたし、人間関係も落ち着いてきたというのに、大変ですよ、まったく」

 気楽そうな笑みを浮かべる足立さんに、私は悪態をつく。それが彼なりのねぎらいだとわかっているから、私もまた調子を合わせて笑いあった。

「もし」

 そう言って彼はカップを机に置き、真剣な顔をする。

「もしなにかがあっても鶴来屋は私が守ります」

「足立さん……」

 彼がどんな意味を込めてその言葉を言っているのかははっきりとしない。

 柏木の家に恩があって仕えているという足立さん。お父さんや賢治叔父さんが彼に柏木の血の秘密を話しているとは聞いていない。でも私が生まれる前から鶴来屋で仕事をしている彼は、聞いていなくても気づいているのだろう、私たち柏木の家の者たちがなにをし始めたのかを。

「鶴来屋は柏木のものです。経営能力の優劣ではなく、柏木が礎にあるからこその鶴来屋なのだと」

「――えぇ」

「会長にもし、なにかがあってこの部屋に来られなくなっても大丈夫です。私や、柏木を、そしてあなたを慕う者たちとともに守っていきます。……ちーちゃんが帰ってくるまで」

 張りつめていた顔にふっと笑顔を見せた足立さん。その決意を充分に受け取って私は笑みを返す。

「そのときは、お願いします」

 

          * 3 *

 

 ブラインドを指で引き下ろしたそこに見える第二駐車場は、いつも見慣れた場所ではなくなっていた。

 町はずれの山並みの側にある隆山警察署には無駄に広い駐車場が三つもある。いま長瀬が見下ろしているそこには自衛隊の仮設建築物が建ち、その場所からは見えない第三駐車場には自衛隊車両や装甲車が並び、自衛官用に仮設住宅が整備されつつあるはずだった。

「……」

 三階の窓から変わっていく第二駐車場の全景に厳しい視線を向けながら、コーヒーのカップを手にした長瀬は考えていた。

 昨日やってきた自衛隊は、峰沢の承認の上に借り上げた駐車場にあっという間に陣を敷いた。第二第三駐車場ばかりでなく、山の向こうにはここよりも大きな中継施設が築き上げられているという話も聞いていた。

 ――機動隊では手に余るかも知れないが、自衛隊が出て来るには早すぎる、か。

 コーヒーを飲みながら長瀬は考え込む。

 報道に対する発表では、テロリストによる事件であろう、という曖昧な見解を出していた。事件の真相は目下調査中で、安全確保のために自衛隊が分隊単位で小銃を所持して巡回をする、ということで落ち着いてはいる。小銃所持による巡回の効果は大きく、拳銃が効かなかったという話は市民に伝わってしまっているが、拳銃よりも大きな小銃ならば、ということで恐怖をまとわりつかせていた町は静けさを取り戻しつつあった。

 ――しかし、おかしい。

 機動隊では対応できないから自衛隊が出てくるのは理解できる。動きが早いにしても事態が事態なのだから理解できないわけでもない。

 けれども駐車場に陣を張り、巡回する自衛官にはすべて小銃が渡され、戦車こそ来ていないが装甲車がかなりの数来ている。過剰とも言える装備はもちろんのこと、駐車場に陣を敷くということは、彼らに命令を出した上の人間は隆山でもう一度、もしくはそれ以上の襲撃があると想定しているということであり、その根拠となる情報なり証拠なりを把握しているということだった。

 ――鬼の再来の噂話よりも、大きなことがあるな。

 そのことには峰沢も勘のいい他の署員も薄々気づいてはいることだろう。

 もうひとつ、長瀬には気がかりなことがあった。

 第二駐車場の半分ほどを占めている大きな仮設建築物。それはなにかの研究施設らしい。署に安置されていたテロリストの死体がその建物に運び込まれていることを、長瀬は知っていた。

「なにかが、おかしい」

「なにがおかしいんでしょう?」

 ん? とかけられた声に振り向くと、いつのまにかそこにはカジュアルなスーツに身を包んだ遠藤幸子が立っていた。

「お帰りですか?」

「あぁ、一応な。シフト上は準待機に過ぎないが、ね。遠藤君も帰宅かね?」

「やっと通信室から解放されましたよ」

「……君はけっこう峰沢副署長の回りにいるのを見ていたような気がしましたが」

 そうですか? ととぼけて笑み、長瀬の隣までやってきた彼女は、同じようにブラインドを指で押さえて外を見る。

「副署長の様子はどうです?」

「仮眠が一時間だけ。一応状況はひと段落したんですから一度帰ってゆっくりすればいいですのに、責任感ばかり強いんですから」

 よく見ている、という言葉は心の内にしまっておいて、長瀬もまた外を見た。

「おかしいのは、あれですか?」

「えぇ。腑に落ちない点が多すぎますね」

「それはみなさんおっしゃっていましたけど……。自衛隊が来たからこそ町が落ち着いたのも確かですね」

「そうなんですけどね。――あれは」

「どうかされました?」

 見下ろす研究施設の扉から、二名の自衛官を連れて出てきた白衣の男が見えた。自衛隊が持ち込んだ照明車に照らされて確認できたその顔は、長瀬の知っている人物だった。

「権蔵叔父……、いや、幻蔵?!」

「誰ですか? あの方は。自衛隊の方のようには見えませんが」

 幸子も長瀬の見ている人物が誰なのかわかったのだろう。訊かれて長瀬は半分無意識に説明する。

「私の親戚で、生物学……いや、科学全般のマッドサイエンティストとも言える人ですよ。危険な研究をして学会から追放され、長瀬家の繋がりも断たれて、権蔵という本名を捨てて幻蔵と名乗っている――。しかし、なぜあの人が自衛隊と一緒に……」

「どんなことをなさったんですか? 危険な研究って」

「私もあまり知りませんが、確か人間の能力の限界を知るための研究で、生体実験をしたという噂を聞いたことがありますね」

 幻蔵は第三駐車場の方に向かい、長瀬の視界からは見えなくなっていた。あり得るはずがない状況に、彼はただ幻蔵が消えた方向を見つめ続けていた。

「念のため、副署長に報告してきます」

「いえ、私が行きましょう。心配させ過ぎてなにもなくても問題でしょうし」

 言って長瀬は歩き出し、フォローします、と幸子も着いてくる。彼女のフォローの内容が微妙に気になりながらも、長瀬は幻蔵のことで頭がいっぱいになりつつあった。

 今回の事件と重装備の自衛隊出動、巨大な研究施設と幻蔵の登場。それは刑事としての勘以上に長瀬に危険な匂いを感じさせていた。

 鬼の再来に、昔話の次郎衛門の代わりとも言うべきエルクゥファイブと名乗った五人の者たち。自衛隊と幻蔵はそれにどのように関わるのだろうか。

 ――隆山はこれからもっと荒れることになる。

 隆山を舞台になにかが起こり始めているのはわかっていた。しかしそれがなんなのか長瀬にはわからない。いまの彼には、今後も同じような事件が起こるだろう確信だけがあった。

 

            *

 

 そろそろ温くなってきたお茶を耕一はひと口飲む。

 居間にいるのは彼ひとり。初音と梓は訓練で疲れていたので寝た、というより、耕一が寝かせた。楓は倉庫の地下室に引っ込んだままだったが、起きているだろうからには緊急時にはすぐに動ける。楓とふたりで待機するということで説得して、寝かせてしまった。おそらくまだ、初戦のショックが残っているだろうから。

 ――俺はなにもできてないな……。

 従妹たちを気遣ってやることはできる。大学を休学してきた彼には充分な時間があって、常に待機していることはできる。襲来したエルクゥ、キルイルとの戦いが始まったいま、それが重要なことであることはわかっていたが、屋敷にいてじっとしているのはなにもしていない気がしてやるせなかった。

「俺にもなにかできないかな……」

 ふぅ、とため息をもらしたとき、電話が鳴った。

 楓は倉庫、初音と梓は寝ている。千鶴は残業らしくまだ帰ってきていなかった。電話に出られるのは自分だけだったので、仕方なく耕一は立ち上がって玄関近くの電話に向かう。

「――はい、柏木です」

『柏木耕一さん、ですね』

 取った電話の相手は女性だった。声に聞き憶えはない。誰なのかと問う暇も与えず、女性は言う。

『自衛隊がやってきたのはご存じですね?』

「え? あぁ、はい」

 感情を押し殺したような声で、落ち着いた雰囲気を漂わせる女性は続ける。

『テロ事件が再び起こった場合への対策、というのが表向きの理由です』

「表向き?」

『自衛隊の目的は別にあります。それがなんなのかはわかりませんが、エルクゥファイブであるあなた方は気をつけて下さい。自衛隊はあなた方を含めたエルクゥに対し、なにかをしようとしています』

「ちょっ、ちょっと待って下さい。あなたは誰ですかっ!」

 話の内容の意外性はもちろんのこと、自分たちがエルクゥファイブであることを知っている女性に耕一は驚く。女性は彼の問いに慌てる様子もなく、言う。

『わたくしはあなた方の敵ではありません。ですが味方でもありません。隆山の平和を願うもの、とだけ言っておきます』

 それだけ言って、電話は切れてしまった。

 受話器を置いて耕一は女性の正体について考えてみるが、自分と柏木四姉妹、それに柳川に襲われた由美子や響子以外に、自分たちがエルクゥファイブであることを知っている者は思いつかなかった。そしていまの電話の女性はその誰でもない声だった。

「ただいま帰りました」

 ちょうどそのとき、玄関を開けて千鶴が帰ってきた。

「千鶴さん、あの――」

 一瞬みんなを集めて話そうかと思ったが、考え直す。

「ちょっとふたりで話しがしたいんですけど、いいですか?」

「……なんでしょう? とりあえず着替えてきますので、少ししてから私の部屋に来て下さい」

 深刻な顔をしている耕一の表情から重大な話であることを読んだのだろう。千鶴は細かいことを訊かずに自分の部屋へと向かう。

 その背を見送りながら、耕一は嫌な予感を感じていた。

 

            *

 

 さっとシャワーを浴びて部屋着に着替えた後、耕一さんを自分の部屋に招き入れる。固い表情の彼に、なにか深刻なことがあったのだとわかる。

「あの……、千鶴さんが帰ってくる少し前に電話があって――」

 隣の部屋で寝ているらしい梓のことを気にしてか、彼は私の部屋という密室にあるのに潜めた声で話を始める。手短に話されたその内容に、私はただ驚くより他なかった。

「キルイルとの戦いだけで大変なのに、この上自衛隊に不穏な動きがあるなんて……」

「うん……。そのこともそうなんだけど、電話をくれた女性のことも気になるんだよなぁ」

「そうですね」

 まだ私たちは当面の敵であるキルイルエルクゥのことすらほとんど実体を把握していない。どれくらいの数で、なにを目的としているのかも知らない。そのキルイルに勝てるかどうかもわからないのに、隆山を守りに来たはずの自衛隊にまでおかしな動きがあるなんて、どうすればいいのかわからなかった。

「注意しないといけないなぁ……。俺たちの正体、ばれないようにしないと」

「そうですね。キルイルのことはいままで通りに。自衛隊は……、様子を見ながら対策を立てていきましょう。女性は味方ではない、って自分で言ったんでしょうけど、敵でもないんですから、正体もわからないですし、とりあえず動きがあったら考えましょう」

「うん。初音ちゃんたちには――」

「とりあえず言わないように。ヘンに不安がらせてもいけないですから」

 私の言葉に頷いて、難しい顔をする耕一さん。私たちのことを、隆山のことを真剣に考えていて、不安はあるのだろうけれど、頑張っているのがわかった。

 男としての耕一さんの顔。それはもう私の想い出の中にある少しひねくれていて、でもかわいい耕ちゃんではない。頼れるひとりの男の顔だった。

 ――いつか、私も幸せになれるだろうか。

 両親を失い、賢治叔父様を失い、耕一さんだけは鬼の覚醒によって失うことはなかったけれど、キルイルとの戦いで妹たちの誰かが、もしかしたら耕一さんが失われてしまうかも知れない。

 私は妹たちの支えとならなくてはならなくて、この家をいま支えている人間で、鶴来屋の会長だった。いつも誰かの上に立っていることを忘れることはなかったけれど、ひとりのときは不安や悩みに押しつぶされそうになることもあった。

 ――長女になんて生まれなければよかった。

 そんなことを考えながら、言葉を交わしあう耕一さんの顔を眺めつつ私は微笑んでしまっていた。

「どっ、どうしたんですか? 千鶴さん」

 耕一さんの肩にそっと頭を預けると、彼はうろたえて声を上げる。少しの間、と言ってそのまま目をつむった。

「この戦いが終わるまで、私は姉であり、この家の家主であり、鶴来屋の会長です。でも本当の私はひとりの女で、親と叔父様を失って涙を堪えている子供です」

「……」

 なにも言わず、じっとしている耕一さん。

「耕一さんの気持ちがどこにあるのかはわかっています。――でもいまは、いまだけは、肩を貸していてください。そしたら私は、戦いが終わるまで姉でいられますから」

「……うん」

 なでるでもなく、髪に手を置いてくれる耕一さん。

 いつか私も背負っているものをすべて捨てて、ひとりの女になれるときがくるだろうか。そんな相手が現れるだろうか。自分自身の幸せをつかむことができるだろうか。

 わからなかった。わからなかったけれど、でもそうなるためにはキルイルとの戦いを終わらせなくてはならなかった。

 ――絶対に負けない。みんなで一緒に、隆山を守りきってみせる。

「ありがとう、耕一さん」

 目をつむったまま礼を言う私は、決意を新たにしていた。

 

          * 4 *

 

「女である私がお前に勝てた理由がわかったろう。私にはミフィル様ほどの力はないが、な」

 謁見を終えた柳川はディセレルとともに彼女の私室に入り、お茶――それは明らかに日本の緑茶を飲んでひと息入れていた。

 地球にあるものに近い研究機材や資料となる本が机の上や下に雑然と置かれている部屋が、ディセレルの私室のひとつだった。雑誌や新聞の類、日本語で書かれた書籍など、地球で集められたものも少なからずある。

 部屋の様子を見る限り、ディセレルは整理が得意ではない。女性にも関わらず、というのは地球人特有の偏見なのだろう。整理はもっぱらバミデリ――柳川がディセレルに負けたときにいた大柄の男エルクゥ――がやっていた。いま飲んでいるお茶も、そのバミデリが淹れて持ってきたものだった。……体格の割に細かいことが得意らしい。

 熱いお茶をずるずるとそこら辺のおばちゃんのように音を立ててひと口飲んだディセレルは、湯飲みをテーブルに置いて椅子に身体をもたせかける。そして柳川の顔を面白そうに見た。

「エルクゥは例外なく女性を中心に構成される。ミフィル様を見てわかったろう。男のエルクゥは肉体的な力を、女性のエルクゥは男よりも強力な精神感応力を持つ。精神感応力が強い者は、弱い者の精神に圧力をかけることができる。お前がミフィル様に頭を下げることになったのも、お前が私に負けたのも、精神感応力によるものだ。ミフィル様は意識せずともその強すぎる力を放出してしまっているし、私は意識的に精神に干渉してお前が気づかない程度に動きを鈍らせた。エルクゥの中でも、とくに皇家血筋の者は男も女も能力が高い。ミフィル様はもちろんのこと、私も皇家の血筋だ。エスナルもそうだが、彼女は血が薄いらしい」

 解説を終えて、ディセレルは残りのお茶を飲み干す。柳川を立たせたままの彼女は、楽しそうな表情を浮かべていた。

 ミフィルを見た時点で、それはわかっていたことだった。しかしいまひとつ腑に落ちないことがあった。

「私がお前を自由にする理由、か?」

 精神感応力を使っているようには思えないが、ディセレルはいつも心が読めるかのように柳川の考えていることを言い当てる。

 ディセレルの申し出をミフィルが認め、柳川はディセレルの研究に協力することを条件に、自由を与えられた。どこで手に入れてきたのか、自由とともにきっちりとした日本製のスーツが与えられていた。洗濯やアイロンがけは、バミデリがやってくれるらしい……。

「ありがとう、と言うべきか?」

「礼はいらない。私はお前に興味があるから、そうしたまでだ」

 そう言って彼女は笑みを浮かべた。それは少し、悲しげなもののように柳川には思えた。

「我々が地球にやってきた理由はなんだと思う? 柳川。それはこの星から仲間の救難信号が発せられていたこともある。だがそれだけではない。お前も見ただろう、グレーのスーツを着たキルイルの者を。あれを見て、どう思った?」

 いまひとつ要領を得ない言葉の後そう訊かれて、柳川は少し考え込む。

 グレーのスーツを着たエルクゥは船内ではあまり見かけることはなかったが、ディセレルに負けたときや、他にも何度か見かけていた。

 彼らの意志が弱いのはすぐに気がついた。いつも意志の強いエルクゥとともに行動しているからわからないが、もし単独で行動しているとしたら、彼らはまともに生活できるのかどうかも怪しかった。欲望に炎を揺らすことはあっても、明確な意志を感じることは一度としてなかった。なによりも――。

「あれは本当に鬼……、エルクゥなのか?」

「確かに我々の同族、キルイルの血を引く者たちだ。しかし意志は弱い。あれは通常のエルクゥではない。血が薄まり、力を失いつつある者たちだ。――その意味はつまり、キルイルが、正確にはエルクゥそのものが、衰え、滅びつつあるということだ」

「……」

 刺すような鋭い視線を柳川に向けるディセレル。

「我々エルクゥは真なるレザムを失い、さまよう民となった。身体を休める場所を、そして魂が還る場所を失ったのだ。真なるレザムを失ったのは、エルクゥの血が弱まったからであり、それよりもなによりも、魂が弱まっていったからだ。いまではキルイルの中で意志のあるエルクゥが生まれることは希だ。グレーのエルクゥばかりが生まれてくる。このままでは我々の世代でキルイルは終わる」

 滅び行く自分たちの運命を語りながら、ディセレルは笑っていた。笑いながら、柳川のことを睨み続けていた。

「エルクゥの身体は死んでも、魂はレザムに還り、生まれ変わる。前世の記憶を脈々と引き継ぎながら。しかし転生し、記憶を保持し続けることは、喜びなどの正の感情とともに憎しみや悲しみの負の感情も蓄積していくことだ。誕生は正の変化。死とは逆に、負の変化だ。記憶を保持するエルクゥの誕生は正の位置からは始まらない。前世の死という負を背負いながら始まる。それが魂を衰えさせていった。キルイルがこの星にやってきたのは弱まった血に新たな力を注ぐことだが、私の目的は別だ。負を蓄積していくエルクゥが滅びずに繁栄していく方法があるのか、私はそれが知りたい。その鍵は、お前にあるような気がしている」

 ひとりで語る彼女の言葉を、柳川はただ聞いていた。

 彼女の想いは理解できるものではなかった。同時に、柳川にとって興味のある話ではなかった。

 ディセレルはキルイルの中でもミフィルに次ぐ地位を持っているという。人間の狩りにいく際の許可も彼女が出すものであれば、統制も彼女が執っている。地球の研究においても彼女が一番に行っているものだった。だからこそ多くのことを考え、実行しているのだろう。柳川には、その程度の感想しかなかった。

「わかっているか? 柳川。私がお前にこんなことを語っている本当の意味を」

「……」

 鋭かった視線が和らぎ、楽しそうな色を瞳に湛えてディセレルは笑う。

「お前は我らの同族と呼ぶに足る力を持つ者だ。私がお前に勝ったのは皇家の血を引く女のエルクゥであると同時に、真に目覚めたエルクゥであるからだ。しかしお前は、この私に勝てるだけの力を内に秘めている」

「なに?」

 興味のある言葉に柳川は反応する。不適に笑うディセレルの顔を覗き込んでいた。

「さすがにこの話には興味があるか――。エルクゥの本質は魂にある。その血を継ぐ身体は魂を受け止める器に過ぎない。エルクゥは狩猟者であり、人間の本質は獣だとお前は言ったな?」

「あぁ」

「魂が衰えれば身体に振り回される。本能に理性が負けるのは、お前が真のエルクゥとして覚醒していないということだ」

「真の、エルクゥ?」

 ディセレルは柳川の心を見透かすように、瞳を見つめてくる。人間として本性を隠して生活していたとき、彼は心を覗き込まれることを恐れていたが、彼女に瞳を覗かれても、なぜか嫌な気はしなかった。

「身体は魂の器であると同時に、エルクゥの本質の一部でもある。理性と本能が分離している時点で、お前は真のエルクゥとしての覚醒はできない。お前はもっと強くなる。真の覚醒をしたとき、柳川、お前は耕一という男よりも、そしておそらくゲディガよりも強くなれる。この地球上で最強の力を得られるはずだ。知ることだ、柳川。真のエルクゥというものを。エルクゥファイブたちよりも、お前は真のエルクゥに近い位置にある」

 もう柳川は問わなかった。ディセレルの言葉によって、彼の中に新しい意欲がわき起こっていた。

「最強の力」

 握った手に力がこもるのがわかる。耕一たちに負け、貴之が死んだと知ってからなくしていた活力が戻ってくるのがわかった。

「俺は勝つ。耕一に、エルクゥファイブに、すべてのエルクゥに」

 みなぎる力に、柳川は咆哮を上げていた。

 

              「その名はキルイル」 了




次回予告

 キルイルの襲撃をどうにか退けた私たち、エルクゥファイブ。安心しているのもつかの間、見えない場所ではたくさんの不穏な思惑が不気味にうごめいていた……。
「っていうか、俺たちってすんげぇ味方少ないよな」
 あら耕一さん。――確かにそうですね。気づいて黙認してくれたり、できる範囲で手伝ってくださる肩はいますけど、戦いについては孤立無援ですよね。
「正義の味方というのは、そういうもの」
 そうは言うけどね、楓。自衛隊もおかしな様子があるし、戦い続けるのも大変なのよ。
「鶴来屋も大変そうだよね」
 このまま戦いが続けばお客さんも減って、会長の私は率先して給料減らさないと……、って、そんな話じゃないのよ、初音。
 それよりどうしたの? 梓。ずっと黙っちゃって。
「――うぉ~っ! 次回はあたしが主役だ!! キルイルを全員ぶっ倒してやるぜ!」
 そんな話だったかしら? ……うん、頑張ってね、梓。
「なんだよ、その含みのある言い方は」
 いいのいいの、気にしなくて。
 というか、耕一さん! 初音! 梓を心配する振りしてこっそり手をつないだりしてないで! つきあってるのは仕方ないとしても、私の見える場所でいちゃいちゃするのは禁止です!!
 というか、私が幸せになれるときなんてくるのかしら……。
 でもね、足立さん。お見合い写真や結構相談所の資料を用意するのは早いですから! 抱えるほど準備しなくても、そこまでせっぱ詰まってませんから!!
 と、とにかく次回、柏木戦隊エルクゥファイブ第三話「残酷な現実、冷徹な決意」、請うご期待。

             次回につづく……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。