マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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第29話

「そんな馬鹿な…、こんな馬鹿な話があってたまるか!!」

 

 絶望の叫びを上げるはギルガメッシュのマスターである遠坂時臣。

 

「ありえない…最強の英雄であるギルガメッシュが…」

 

 万全の準備を以て挑んだこの聖杯戦争、さらに自身の娘がマスターになっていたという僥倖、ただ自分はもたらされる勝利を更に確固たるものにするために娘とそのサーヴァントを呼び出したはずだった。

 しかし、なんだ、これは。

 辺りに広がるのは焼けた木々の残骸とキノコの山、そしてあちこちには穿たれたような跡とぽっかりと何もなくなっている更地、そこに立っているのは己のサーヴァントではなく人ではありえない異形の形をしたサーヴァントだった。

 これを見れば誰にでも分かる。勝ったのは異形のサーヴァント、モンスターだ。

 果たしてどこで狂ってしまったのか

 自分はだた娘にこちらに来るよう命じただけだった。最悪仲間になることをサーヴァントが拒んでもマスターは自分の娘だ、令呪でも使わせればいい。それだけであの厄介な宝具を持つライダーの戦力を大幅に削ることができる。

 そう思っていた。

 結果は滅茶苦茶、娘はサーヴァントかライダーのマスターにでも暗示を掛けられていたのか、すぐさま戦闘に発展、それまでは予想の範疇内だった。

 ギルガメッシュを倒されるまでは。

 

「まだだ…」

 

 冷静さを取り戻す。

 余裕を以て優雅たれ、その吟詩は伊達ではない。

 時臣は探す、自分の娘を

 探し出し、暗示を解き、あの異形のサーヴァントを自分のサーヴァントにするように娘に言うのだ。

 そうすれば安泰だ、ギルガメッシュよりも強いサーヴァントなのだ、そうだ何も問題はない。

 そう自分に言い聞かせて、彷徨うように探す。

 幸いモンスターはあの場から動いていない、体から煙を噴出しながら倒れ伏している。

 僥倖だ、まだ形勢は自分にある。

 自身の使える全ての手を使って探る。

 

 そして、見つけた。

 

「やっと見つけたよ桜」

 

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 

「やっと見つけたよ桜」

 

 桜の目の前に父親だったものが現れる。

 自分を地獄に突き落とした元凶、もうどうでもいいことだ。

 暖かそうな顔をして近づいてくる、昔は滅多にしてくれなかった笑み、とても好きな顔だった。

 

「寄るな」

 

 間に立ち塞がったのは雁夜

 雁夜は続ける。

 

「お前のサーヴァントはもう倒されたぞ?お前の負けだ、さっさとどこかに失せろ」

 

 本当なら今すぐにでも殴り倒したいのだろう、握り拳で手が震えている。

 だが今やるべきことは桜の保護、私情に駆られている時ではない。

 

「黙れ」

 

 静かに力強く、余裕のない声で時臣は睨みつけた。

 

「まだ私は負けていない、何故ならマスターたる私はまだ生きているのだから」

 

 マスターさえ生きていれば再契約もできる、まだ負けていない、それは確かなこと。

 桜に寄ろうと早足に近寄る。

 止まれと、近づくなと雁夜が阻むが

 

「邪魔だ!」

 

 右手に持つ杖から炎が噴出し雁夜を薙いだ。

 

「ぐわぁっ!?」

 

 吹き飛ばされ焼かれる雁夜

 この一撃でもう満身創痍だ。刻印蟲を取り除いたことによりただの一般人となってしまった雁夜では防ぐ手立てなどない、耐えることさえ不可能だ。

 

「雁夜おじさん!」

 

 桜は顔を青くして叫ぶが雁夜からは返事はない。

 時臣はなおも桜に近寄る。

 桜は動けない、それは恐怖でか、目の前の惨状でか

 時臣は桜の肩を両手で掴み目を覗き込む。

 桜は見上げるように父の目を見た。

 そして

 

「…こないでっ!」

 

 思い切り突き飛ばした。

 もうアレが父親などとは微塵も思っていない。

 地獄に突き落とされた。

 でも、もしも、なにか自分の与り知らないところでなにかあったのかもしれない。

 まだ許す事が出来た、一言すまないと言って貰えれば、きっとまだ許す事が出来た。

 だが返答は違った。

 道具のようにしか思われていなかった。

 だから、もうアレを父親とは思わない。

 

 桜は時臣が本当に自分の事を思って養子に出したことを知らない、例えそれが魔術師として歪んだとしていても、確かにそれは愛だった。だが、それが桜に伝わることはない。

 時臣は桜が今まで行われた陵辱を知らない、間桐の魔術を深く知らなかったが故に。だから桜の思いも分からない。

 

 2人は決定的に擦れ違っていた。

 そして

 2人が分かり合うことはもう、ない。

 

「リングバインド」

 

「なっ!?」

 

 唱えるは拒絶の魔法。

 時臣の両手両足を拘束した光の輪は時臣をその場に固定し動けなくした。

 

「チェーンバインド」

 

 更に鎖状のバインドが時臣を雁字搦めにする。

 きつくきつく、息をさせないほどに

 

「桜…!」

 

「黙って」

 

 桜は時臣を睨みつける。

 時臣は何が起こったかわからないという顔だ。

 桜はそのまま時臣の横を通り過ぎ雁夜の元へと走り寄っていく。

 

「雁夜おじさん…雁夜おじさん!」

 

 揺さぶるが返事がない、まだ息をしているあたり生きていることがわかるが要治療なのは桜の目で見てもわかる。

 

「モンスター!」

 

 自分の最も信頼するサーヴァントを呼ぶが返事がない、動いていない。

 死んではいないだろうが動けないのは確かだ。

 雁夜を小さな体でモンスターの元へ引きずっていく

 

「待て!桜!」

 

 声が聞こえるが気にすることはない。

 謝罪など今更求めない、悔い改めることもないだろう。

 もう桜は時臣のことなどどうとも思っていない、そう欠片ほども

 時臣は自身の宝石を使いバインドを破壊し桜の元へと走っていく。

 時臣は既に桜が暗示になど掛けられていないと看破していた。

 なら何故、とそして桜の自分に対する態度から妙な焦燥に駆られ桜に走り寄る。

 その時、時臣は先ほどまで考えていたことなど全て忘れてしまっていた。

 

「…桜!」

 

 時臣が桜に手を伸ばす。

 しかし

 

 その手は異形の手によって掴み取られていた。

 

「ごめん、ちょっと休憩してた」

 

 そこにはさっきまで更地で倒れていた京がいた。

 実際復帰までに時間が掛かったが原因は体力もほぼ尽きかけていたが一番の問題は体の不具合だった。

 能力を使用する上で自分の体を作り変える行為、これでけでもかなりの負担だが今回は訳が違った、仮にも神と名のつくモノに体を変成させ、馴染む前に攻勢に出てしまったのが拙かった。

 今でこそ馴染んだが今回の能力追加で京の体は更に混沌としたものになっているだろう、自分の属性を考えるだけで眩暈がするほどだ。

 

「ううん、大丈夫」

 

 桜は笑う、しかしどこか無理がある笑顔。

 優しく右手で桜の頭を撫でる。

 

「…」

 

 まるで自分がいないように振舞う桜を見て時臣は歩みを止める。

 京が時臣をちらりと見る。

 その顔は、余人には理解できないものが渦巻いている、そんなものだった。

 

「交渉は決裂した、戦いもこちらの勝ちだ」

 

 京が宣言する。

 もう桜と関わらせることは百害あって一利もないと身を以って思い知った。

 桜を庇うように背にやり、時臣と向かい合う。

 

「…消えろ」

 

 これは最後通告だと言う様に

 そして掴んでいた左手を離す。

 桜が一瞬、時臣を見て、目を逸らした。

 

「まぁ…いい」

 

 そして時臣が吹っ切れたように言う。

 

「遠坂の血が流れる者が聖杯を手にするのだ、問題はない…」

 

 それは本心、だが今の時臣にはなにか自分に言い聞かせているようにも見えた。

 

「お前がその先を見ることはないよ」

 

 京がそう何気なく口にする。

 

「だって」

 

 桜を撫でていた右手を桜の目を覆い隠すように塞いだ。

 

「ここで死ぬから」

 

「なに?」

 

 タァン。

 

 突如時臣の頭がトマトが潰れたように撃ち抜かれた。

 崩れ落ちる時臣の体

 そして京の左腕には桜の頭を撃ち抜こうとしていた弾丸が掴まれていた。

 桜をそのまま抱き寄せ、雁夜を担ぎそのまま離れる。

 

 狙撃は予知でもうわかっていたことだ。

 狙撃したのは確認しないのでもわかる、切嗣と舞弥だろう。

 なぜ時臣を助けなかったか、助ける必要も意味もなかったから

 これ以降邪魔にしかならないだろう、聖杯戦争が終ってからも懸念事項にしかならない。

 反省も後悔も期待してはいない、何故なら桜がもうそれを期待していないのだから、よって見殺しにした。

 

「雁夜」

 

「………」

 

 雁夜は京が割って入ってから意識が戻っていたが何も言わなかった。

 

「お前の目的は終ったようだが、他人の手で」

 

「………」

 

 雁夜は何も言わない、目の前で悲惨な死に方をした、それを見てどう思ったのか。

 

「お前の目的は全て終ったよ」

 

 わかっていることを全て告げる。

 

「………わかってるっ!!」

 

 搾り出すような声だった。

 

「ならこれからの身の振り方でも考えておいてくれ」

 

 淡々と言う、これ以上雁夜に言うことはない、あとは自分の問題だ。

 雁夜にはしっかりと立ち直ってもらいたいと京は思っている。何故ならこの戦争が終れば自分は消えるしかないのだから、桜を任せることができる者は少ない。

 

「帰ろうか」

 

「うん」

 

 桜も銃声と目を塞がれた意味などとうに理解できているだろう、それでも声には動揺など全く感じられない。

 桜はもう早速決別してるようだよ、と心の中で雁夜に声をかけ夜を駆けていくのだった。

 

 京は考える。

 この戦いの裏に

 パッと見れば桜がマスターだとバレたことによって起こった必然の様なもの。

 だがバラした者が問題なのだ。

 言峰綺礼、ギルガメッシュがまだ時臣のサーヴァントだった時点で彼はサーヴァントを持っていない。

 だからといって時臣の味方でもないだろう。

 何故ならこの場に現れなかったから、師の危機には現れるはずだろう、彼がいたなら逃していたかもしれない。

 このタイミングで何故バラしたのか、わからない。

 ギルガメッシュを倒すのが目的だったのだろうか

 ライダー陣営の戦力を削るのが目的だったのだろうか

 時間稼ぎだったのだろうか

 両者の消耗を狙っていたのだろうか

 どちらにしても綺礼の思惑通りに事が進んだことに間違いはないだろう。

 

「ちっ…」

 

 何かが動き出している。そんな予感があった。

 そしてそれを知る由は京にはない。

 相手が行動を起こすとき、いや、もう行動を起こしているのかもしれない。

 

 ギルガメッシュを倒せたことに満足しながらも、それが手のひらの上で行われていることに複雑な心境を覚えながら帰還するのだった。 

 

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 

 帰還する。

 

「おぉ、遅かったではないか」

 

 ライダーがそれを迎えた。

 京は少しだけムッとする。

 ギルガメッシュとの戦闘、アレはもう危機とかピンチとかそういうものを通り越して絶体絶命の状態だった。

 もし桜が令呪を使ってくれていなければ間違いなく死んでいた。

 助けに来てくれるのではなかったのかと少々不満な表情をしても罰は当たるまい。

 

「信じていたのでなぁ?」

 

 ライダーが京の考えを見透かしたようにそう答えた。

 信じていた。都合のいい言葉だと思う。もしそれで自分が倒されようものなら裏切られたとでも言うのだろうか

 

「これはお主らに必要な戦いだったのだろう?」

 

 確かに、この戦いで粗方の過去は清算した。

 桜は遠坂と決別し、自分でたっていけるだろう。雁夜はまだ少々怪しいが

 これにもしライダーが介入していればわだかまりを残していた可能性も考えられない話ではない。

 そこまで考えていたのかと関心しかけて、止めた。

 あの豪気な質がそんな繊細なことを考えるとは思えない。直感的なものだろう。

 そして何気なくウェイバーの手には水晶玉が握られていた。

 何も無視していたわけではなかったのだ。

 まぁ、それならいいかと無理矢理納得する京だった。

 

 

 京達はわからない。

 既に綺礼は大きく動いていると、気付いていながらもそれを察知する事が出来なかった。

 そしてこの聖杯戦争が既に大詰めを迎えていることに

 既に状況は大きく動き出しているのだ。

 それは京の予想を大きく外れ、聖杯の崩壊による大惨事よりも酷いものになりかけていることに

 京達は未だ生き残れたことに安堵することしか出来なかった。




いきなりですがこれで終盤に入ります。
残りはあと3話、いい感じに終ればいいのですが…
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