「りゅ…龍之介…」
暗い暗い下水道の空間で嘆きの声が響く。
「ゴフッ…」
嗚咽の声を漏らすのは1人の優男
キャスターのサーヴァントのマスター、雨生龍之介であった。
龍之介の胸から生えているのは3本の鍵剣。
その凶行を行ったものは言峰綺礼。
アサシン張りの奇襲によってそれは起こっていた。
「喜べ青年、君の望みはこれだ。」
綺礼が告げる、真実を
瞬間、龍之介の目は見開かれた。
「あぁ…なんだ…こういうことだったのかぁ」
納得したような惚れ惚れとした笑みを浮かべる。
死を知りたかった男、そして自らの死にこれを実感していた。
胸から溢れるように噴出する血を手で掬い、恍惚とした顔でそれを眺める。
あぁ、なんだ、こんなところにあったのか
こんな身近なところにあったのかと少々の理不尽を感じながら
「ぁ~…、ありがとう」
今際の際の言葉は感謝。
ニコリと、本当に、本当に惚れ惚れとするような笑顔を浮かべその言葉を吐き出す。
同時に龍之介の手は力なく落ちた。
それに思わず綺礼も顔を顰めてしまう。
「…つまらん…」
苦悶や絶望を糧にする綺礼にとってあの笑顔は不愉快極まりないものだった。
それにしてもギルガメッシュのあの苦悶と屈辱の顔は堪らなかった。
自分の愉悦について物知り顔で説かれた時、真っ先に見たいと思ったのはあのサーヴァントの絶望の表情であった。
あの時の充足感といえば凄まじいものだった、惜しむらくはそれが自分によってできなかったことくらいだろうか
もう綺礼は立ち止まらない、自らの愉悦の為に邁進するのみ。
キャスターは黙ってこちらを見ている。
「なんだ…復讐はしないのか?」
そう言いつつも龍之介の令呪は既に取り出され自分の腕に移植済みである。
「いえ…龍之介は貴方に感謝を述べていた、ならば復讐などする必要もありますまい」
悲しそうにキャスターは目を伏せる。
そこに怒りの感情は露ほどにも感じられなかった。
「そうか」
だがこれは綺礼にとっては予定の範疇、マスターとして自分の望みの為に己の最適なサーヴァントを己のものとするための行動だった。
「交渉だ、キャスターのサーヴァントよ。マスターとして君の望み、セイバーを己の物とするのに協力しよう、その代わりにこの世を地獄に変えてくれ」
それを聞き、キャスターの口が三日月に歪む。
新たな同志が現れた、その喜びに
そしてそれを成し遂げてくれるであろう、綺礼の右腕を覆い尽くすほどの令呪に
「ええ…えぇ!!いいでしょう。龍之介は先に逝ってしまいましたが、それは彼の望みだった。これに感謝を、新たなマスターよ。そして、約束しましょう、この世を地獄に変えると、神をこの世から引き摺り出してやるのです!!」
不敵に笑うマスターと狂気の笑みを浮かべるキャスター
ここに新たな契約は完了し、物語は一気に加速することとなる。
「そうだな、早速行動に出るとしよう」
「いいでしょうマスターよ、どちらに向かわれるので?」
「あぁ…、ランサーのマスターに挨拶をな」
厭らしい笑みを浮かべる綺礼
「わかりました、マスターよ」
そして2人は闇の中に消えた。
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「イタイイタイイタイイタイイタイ!!」
帰還してから少々時間が経つと桜が突然悲鳴を上げた。
あぁ、そういえばリングバインドとチェーンバインド使っていたなと納得すると同時に心の中で合掌する。
原因はもうわかっているだけに、そして反動である以上直すことができないために目を覆う。
とりあえず桜をソファーに寝かせる。
桜が筋肉痛に耐えながらジト目でこちらを睨んでいる。
思わず目を逸らすが何も悪いことはしていないはずだ。
「で、どうだったんだ?交渉とやらに行ってきたのだろう?」
ライダーが聞いてくる。
わかっているはずなのにと京は思うが突っ込まない。
これは臣下としての武功がなんたらという話なのだろう。
それに京は苦笑いしながらも答えた。
「交渉は決裂、ギルガメッシュと戦闘になりこれに勝利、マスターはセイバーのマスターに殺された」
簡潔に答える。
「流石は余の臣下だ!2度負けることなく勝利をもたらしたことは栄誉に値する!」
ライダーは満足そうに頷きながら京に賞賛を送った。
「ありがたきお言葉」
ライダーは大真面目にやっているのだろう、苦笑しながらもできる限りの応える。
「それにしてもセイバーのマスターにやられたのか…どうやったんだ?」
ウェイバーがそう疑問を口にする。
「狙撃だ。桜も同時に狙っていた、漁夫の利でも取ろうとたくらんでいたんだろうさ」
実際広範囲での場の樹海化とキノコの煙のばら撒きで混沌としてなければ京の復帰前に見つかり、両者ともに殺されていた可能性も否定はできない。
「残りのサーヴァントは3体、終わりが見えた。」
京とライダーを残し残りのサーヴァントはセイバー、ランサー、キャスターだ。
セイバーはまだランサーの宝具の呪いが残っている、まだ脅威とは成り得ない。
ランサーはもう問題になる要素はない。
キャスターはいつ動き出してもおかしくない状況。
こちらから動くならば居場所の分からないキャスターを探すよりもエクスカリバーが使えない状態のセイバーを狙うのが順当か
少なくともこの聖杯戦争は数日中に終るだろう。
「うむ、あと3日も掛からんだろう。」
「あぁ、そうだライダー」
不意に伝えるのが遅れたと気付いた京が声を掛ける。
「ん?どうした?」
「それなりに聖杯に魔力が溜まった、今なら受肉できるぞ」
「なんと!!」
ギルガメッシュは英雄王と呼ばれるだけはあり単体で英霊3体分の魔力を有している。
今まで他に退場したサーヴァントは2体、つまり実質5体分の魔力が溜まっているというわけである。
この世界の内側の範囲内の願いなら5体分あれば十分、受肉程度の願いなら叶えることができる。
「そうか…、だがまだよい。祝杯と勝利の美酒は全てが終った後でだ!」
「そうかい」
半ば予想していただけに驚きはしないが
そういうところは嫌いではない。
この後の話をライダーとでも話そうか、そう思ったときだった。
ドクン。
「っ!?」
聖杯にサーヴァントの魂が1体入ったことを感じた。
何だ、何のサーヴァントだと思考を巡らせる。
残るサーヴァントはキャスター、セイバー、ランサー、現状どれが退場してもおかしくない状況だ。
キャスターがランサー、そのどちらかだと考える。
倒したのもそのどちらか一方。
セイバーのマスターはあの場にいた、セイバーが単独で倒せるとは思えない。
順当に考えるならばランサーが勝利したのだろう。
ランサーの宝具はキャスターに対して天敵になりえるものだ。
だがそう上手くはいかないのも聖杯戦争、今はまだ憶測の範囲を出ない。
「ライダー」
「なんだ?」
「サーヴァントが1体倒された」
「ふぅむ」
ライダーは少し熟考し
「出るぞ!」
外に向かうライダー
だがそれをウェイバーが止める。
「待て!まだ魔力回復が十分じゃない!」
「むぅ」
「俺ももう魔力がほとんどない、役に立てそうにないな」
ライダーはあまり魔力が残っていない、ウェイバーがマスターとして未熟な為、自前の魔力で使用するしかない以上令呪のバックアップ込みで王の軍勢一発といったところだろう。
京はもはや宝具の一発どころかスキルすら使う事が出来ない、それほどに京の内蔵魔力は空っぽだ。
敵のどれが動いたか、それさえ分かればこちらも対処を決める事が出来るのにと歯噛みする。
「モンスターよ、辺りの索敵はできんかのぅ?」
「すまないが難しい、魔力のほとんどを消費してしまった、半日は無理だろう」
なんともタイミングが悪い、まるでこちらの動きを読んでいたのかのような…
「言峰綺礼…」
こちらの動きを知ることができる者がいた。
遠坂時臣と組んでいた言峰綺礼だ、奴なら交渉についても知らされ、こちらの行動も読まれていた可能性が高い。
こちらの消耗し横槍が入らないところでの行動、理には適っている。
暫く動けないのも予想されていたのだろうか
「ちっ」
思わず舌打ちをする。
そこに
チリーン。
鐘が鳴った。
「鐘が…」
「あぁ…侵入者だ」
展開が早すぎる。
敵サーヴァント1体が退場し、そして次の事態が起こっている。
そしてこちらの戦力は大幅に激減している以上予断は許されない状況だ。
「こんな時に…」
屋上に上がり辺りを見渡す。
そして目を見開いた。
「なんだ…これは…」
「キャスターの海魔か」
「それにしても数が異常すぎる」
声に出たのはそれぞれに驚きの声
こちらに向かっていたのは100とも200とも尽かぬ海魔の群れだった。
数が異常だ、魔力が持つはずがない。
だが現にここに召還されている。
そしてこれでわかったことが1つ。
恐らく退場したのがランサーだということ。
セイバーが倒される可能性はマスターが動いている以上限りなく低く、キャスターがこの異常な光景を発生させている元凶というならランサーが倒されたのも頷ける。
「分が悪いな」
「あぁ、このまま戦っても本体が見つからん、ジリ貧だろう」
例え海魔を血祭りに上げようともその死体を生贄とし再召喚される。つまり倒すことに意味はないと言うことだ。
狙うなら召喚者であるキャスターかその宝具を狙うしかない。
あんなものに体力と魔力を消費しても無意味だ。
「雁夜、動けるか?」
「あぁ…大丈夫…だ」
無理そうだ、立っているのもやっとの状態、桜は地獄の筋肉痛で立つことすら間々ならない。
京は魔力が底を尽き、ライダーも全快の状態ではない。
「一時…撤退か」
「残念だがそれしかあるまい」
今の状態では分が悪い。
ならばここはこちらが体力を回復するのを待つべきだ。
ライダーの戦車に全員乗り込む。
「…狭いのぅ」
「我慢してくれ」
5人で乗り込むには流石に狭すぎるがしょうがない。
飛び立つ戦車。
そして、上空から見えたものは驚愕の光景だった。
「これは…」
「おいおい…洒落にならないぞ…」
眼下に広がるのは地獄。
海魔、海魔、海魔。
遠目からでも大きなもの、小さなもの、様々な海魔が冬木の地を蹂躙している。
そして、その最もたるは
新都のセンタービルを半壊させ鎮座する巨大な海魔だった。
「聖杯戦争、これで終ったな」
ウェイバーがそうポツリと嘆く。
それも確かだ、中心部では人など生きていられないだろう、早速隠蔽どころの話ではない。
戦争どころか怪獣大決戦だ。
全てが終った日には協会と教会の連中が雪崩れ込んでくるのは想像に易い。
そしてこの状態はある1つの意味も示していた。
「どこに逃げる?」
「逃げ場なんぞないだろう」
今でこそ手がつけられない大群だ。
逃げていればその分人を食べ数が増えていくだろう、それこそ鼠算式に
そう、つまり
「今、ここで、戦わねばならんということだ」
できるだけ早く倒さなければその分勝率は下がるというわけだ。
京が回復するまでに待っていれば冬木市は無くなっている事だろう。
拙い状況、なんの手も思いつかない。
いや、例え京が全開の状態だったとしてもあの大群を何とかすることは出来ないかもしれない。
思わずこの地獄の攻撃を見つめながら拳を握り締める。
「モンスター」
そこに桜が呼びかけた。
「どうした?」
「私は大丈夫だよ?」
「…」
それは自分の魔力を使えということだろう、今まで自分の体内魔力で何とかしていた分それはうれしい申し出だが
桜の潜在能力なら宝具を数回使うことは可能だろう。
それでもこちらの不利に変わりはないが
「だが…」
それでもと京が拒否しようと声を出そうとするが。
「モンスター」
桜の言葉を遮られる。
「頑張って」
有無を言わせない言葉、そう言われてしまえばもう返す言葉などない。
やれることをやろう。
おそらくこれが最後の出撃だ。
不安材料は五万とあるだがやらなければならない。
「ありがとう」
「うん!」
戦車から飛び降り髪を羽に変えて飛び立つ。
「先行する、皆をどこか安全なところに」
「わかった、すぐに合流するとしよう」
ライダーと別れ飛び立つ。
目指すはセンタービル、巨大海魔にキャスターがいると予想して向かう。
夜はまだ終らない。
次回、vsキャスター
ここからは全速力で駆けていきます。
乞うご期待ください。