マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

35 / 89
鋼殻のレギオス編、始まります。
おそらく名前しか知らない人も多いかと思います。
出来るだけ作中で世界観などの説明など入れながら話を進めていきますのでよろしくおねがいします。



鋼殻のレギオス編
第33話


 メイシェン・トリンデンには秘密がある。

 親友のナルキとミィフィにも教えていない秘密だ。

 

『ほら、急がないと、入学式に遅れてしまう』

 

 声の主は鞄の中から

 ひょっこりと小さな顔を出して外を眺めている。

 20cmくらいの大きさのお人形のような人。

 

「…だったら!…もっと早く!…起こして…くれても!」

 

 全力疾走しながら文句を言う。

 

『いやいや、あまりにも幸せそうな寝顔だったから、ね』

 

「そんな…!気遣いはっ!無用ですっ!」

 

 息も絶え絶えに軽口を叩きあいながらも走る。

 今日は学園都市ツェルニの一般科への入学式、そして寝坊して遅刻しそうになっている。

 周りは洒落た作りの店が並ぶ、本当ならゆっくり眺めて行きたいところだがそれどころではない。

 学生もちらほらと見えるが少ない、しかも全員走っている。

 

『頑張れ、見えてきた』

 

 見えてきたのは大きな建物、大講堂だ。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 目的地に到着する。

 入学式当日から遅刻しそうになるとは何たる不覚。

 

『やっぱりアパートじゃなくて一般寮に住めばよかったのに』

 

「しょうがないよ、だって京がいるもの」

 

 そう言われると京は言い返せない。

 自分のために態々遠いところから通おうとしているのだから

 

『むぅ…』

 

 そう唸り声が聞こえる。

 自分の並ぶ場所を探す。

 

「ミィフィ、あそこだ」

 

「いたいた!メイっち、こっちこっち!」

 

 金髪のツインテールの小柄な少女が遠くで手を振っている、隣には色黒で長身の少女。

 同じ都市からやってきた幼馴染のミィフィとナルキだ。

 少しほっとして小走りに向かう。

 だがそこに

 

「テメェ!」

 

「来いよ、恥知らずが!」

 

 1人の男子生徒が吹き飛ばされメイシェンの目の前を通り過ぎた。

 

「…ぇ?」

 

 突然の状況に驚き固まるメイシェン。

 

「やってやる…やってやるよ!!」

 

 吹き飛ばされた男子生徒は目を血走らせ吹き飛ばした生徒に突進する。

 都市間でのいがみ合いといったところだろう。ここにまで持ち出さないで欲しい。

 吹き飛ばした生徒も頭に血が上っているのか同じく向かう。

 その間にはメイシェンがいるのに、気付かない、相手しか見えていない。

 両生徒の動きは素人にしても常軌を逸していた、武芸科なのだろう。

 

「「死ねぇ!」」

 

 このままでは巻き込まれる、そう思った時

 

『余所でやれ』

 

 冷たい声と同時に風の槍が2人の男子生徒を吹き飛ばした。

 

『大丈夫?早くここから離れよう』

 

 メイシェン・トリンデンには秘密がある。

 親友にも話していない秘密だ。

 それはいつも共にいる家族同然の存在。

 物に宿る神様、九十九神「京」だった。

 

 駆け足でミィフィの元へ行く。

 背後では再び乱闘を再開した生徒が1人の男子生徒に鎮圧されているのだった。

 

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 

 目を覚ますとそこにはどことも知れない部屋の中だった。

 寝かされているのは白いベットの上

 見る限り、普通の家庭の寝室のようだった。

 

「ぅっ…」

 

 また体に激痛が走る。

 この感覚には覚えがある。

 対植物用の猛毒を食らった感覚と同じだ。

 植物以外の部位はこの世界とはかけ離れた構造である為効かないが植物は別だ。

 即座に世界中の植物をリンクし解析に入ろうとするが

 

「…なに?」

 

 驚愕が口に出る。

 植物が全くない、今までの世界の0.0001%程しかない。

 京の毒耐性とは、毒の構成を世界中の植物とリンクし解析し、効かない体に再構成を掛けることである。

 植物が少なければその分解析も遅れる。

 ここまで世界に植物が死滅していると解析が終わる前に死ぬだろう。

 

「ン…グゥ…」

 

 体中から痛みが走る。

 冷や汗が流れる。

 左腕は付け根から黒く染まり普段なら即座に再生するだろうが全く再生する気配がない。

 このまま内臓や脳内に根を張る植物に移れば一溜りもない。

 どうするどうすると思考が巡る。

 そこにギィとドアを開ける音が聞こえた。

 

「おや、起きたようだね」

 

 声の主に目を向ける。

 そこに立っていたのは黒い髪の20代後半の男。

 京はハッと気づいたように右手で顔を触る。

 見られた、左腕はなくなっているので問題ないが顔の右側面は異形と化し、頭からは羊のような巻角が生えている、どう見ても人のそれではない。

 

「大丈夫かい?見たところ武芸者に見えるけど…?」

 

 しかし物怖じしない。

 京は疑問に感じる。

 少なくとも警戒はされるはずだ。

 

「起きたのね、よかったわぁ」

 

 食事を乗せたお盆を持った女性が入ってくる。

 背後に隠れるように8歳ほどの少女がいる、2人に似ている、娘だろうか?

 

「私達の家の前で倒れていたのを娘が見つけてね、運び込んだんだ」

 

「…ありがとうございます」

 

 未だにこの状況を把握できない京は困惑しながらも礼を言う。

 少女は顔を真っ赤にさせて母の背に隠れた。

 

「あの…」

 

 京は恐る恐るといったように声を掛ける。

 

「なんだい?」

 

「俺の顔を見て何も…?」

 

 何も思わないのか?そこまでは声に出なかった。

 こうなるとわかっていて体を編成させたが怖がられるのはやはり辛いものがある。

 

「深くは聞かないよ、目の前に傷ついた人がいるんだ、助けるのは当然だろう?」

 

 そう言う、依然として善意以外何も感じない。

 

 あぁ…そうかと気付く。

 

 この一家はそういう気質なのだ。

 似たような一家を知っている、高町一家だ。こちらから一方的に邪険にしてしまったが…、少し後悔する。

 

「治るまでここにいてくれていい、それに汚染物質に少し侵されているようだ、これを打つといい」

 

「…汚染物質…?」

 

 注射器のようなものを渡される。

 汚染物質、頭のどこかで引っ掛かるがピンとこない。

 とりあえず薬を打つが植物にはやはり効かない。

 未だに頭には鈍痛が響いている。

 一刻の猶予もない。

 

「すみませんが…」

 

 ここはもうこの一家の好意に預かるしかない。

 いつか絶対に恩は返すと心に誓って

 

「他言無用でお願いします」

 

 京の体が透けていく

 それに驚きつつも先を眺める一家。

 そして、京が消えたベットの上にあったものは

 

 ピ〇クローターだった。

 

「「……………………………」」

 

「…?」

 

 両親は流石に黙り込む。

 娘はなんなのかわからずキョトンと首を傾けた。

 

『俺は九十九神の京と申します』

 

 どこからか声が聞こえる。

 自身について一部をバラし事情を説明する。

 気が付けばここにいたこと、自分には汚染物質が薬で治せず、この形態になることで事なきを得ていること

 勿論全てではないが今の九十九神状態の説明にはなる。

 京は一時本体を分解しピンクロー〇ーの中に移すことで汚染物質の侵攻を止めている状態だ。

 植物がこの世界に少ない以上、ゆっくりでも解析していくしかない、年単位は掛かるだろう。

 そしてなにより京は九十九神としての属性が全面に出ている。つまり使用者、所有者がいない限り動くことも出来ない。

 

「99年間、愛着を持って使われたものには意志が宿る…か」

 

 なんとも複雑そうな目を向けられる、これは京にもわかる。

 なにせ〇ンクローターなのだから

 おもむろに娘がピンクロー〇ーを手に取り。ダイヤルを回す、興味があったのだろうか

 

 ブブブブブブ

 

 激しく震動する。

 

「「………………」」

 

 なんともいえない空気が流れる。

 

『おっと、出られた』

 

 そこに現れるのは京、だが角がなくなり右目や左腕が人間のものになっている。

 依代から流れ出す意思の力を実体化させることで任意の姿になることができる、あくまでベースは京なので誰かに成りすましたりはできないが

 

「改めてありがとうございます」

 

 頭を下げる。

 あのまま野晒しでは意識が覚めるのも遅かったかもしれない。

 そうなれば手遅れだった。

 つまり命の恩人だ。

 

「いいんだ、それは娘に言ってあげてくれ」

 

 京は屈んで娘と視線を合わせる。

 娘は未だ母の背に隠れてしまっているが

 

「ありがとう、お陰で助かった」

 

 ニッと笑う。

 娘は少し母の背から顔を出し言う。

 

「…どういたしまして」

 

「俺は京、君は?」

 

「メイシェン・トリンデン」

 

 これが京とメイシェンの出会いだった。

 これから8年続く付き合いの、始まりだった。

 

「ぁ、そうだ。」

 

 突然気付いたように

 

「ここはどこでしょう?」

 

 当たり前のことを聞くのだった。

 キョトンとした顔の夫妻は笑って答える。

 

「ここは交通都市ヨルテムさ」

 

 鋼殻のレギオス、瞬時に京は思い浮かんだ。

 汚染物質と呼ばれる謎の粒子によって地球全土の生物が死滅した世界、唯一汚染物質に適応した凶暴な巨大生物「汚染獣」が世界を闊歩し、人間は自律型移動都市(レギオス)と呼ばれる円方の土台に都市が築かれそれに多脚が取り付けられた建造物でしか生きることができない。そんな世界だ。

 

「交通都市?」

 

「そう、数ある都市の交流の中心点ともいえる都市、ヨルテムだ」

 

 自律型移動都市(レギオス)は世界中に散らばっており、その都市1つで全ての自給自足が成り立っている。その為、都市間の交流は必要性が薄いため都市によって特色がある。また何かの機能に特化した都市も存在し、牧畜に特化した半分森のような都市、教育機関として特化し運営を学生が取り仕切り、都市にはほとんど学生しかいない学園都市など多岐にわたる。

 また、常に汚染獣によって襲われる危険性があるため常に移動し、回避行動を取っている。

 交通都市ヨルテム、数ある都市の全ての位置を把握している都市である。その為、都市間の唯一の交通手段である放浪バスと呼ばれる多脚のバスが必ずヨルテムを経由する必要がある。故に交通都市、交通に特化した都市である。

 

「何も知らないようだね?」

 

 京の様子を見かねて聞いてくる。

 

「道具なものなので人のあり方はちょっと…」

 

 正直京もこの世界については設定しか知らない。

 それにキールとジバクくんのことも心配だ、自分の傍にいなかったということはどこか別の都市に飛ばされてしまったのだろうか、奴らなら何とか乗り切ってくれそうだが心配なのには変わりない。

 エントリー・モードで選択したキーワードがわからないのだ、本来あるべきものがなかったりイレギュラーの発生など、不安要素が多い。

 この状態の自分では探すこともままならない、2人の無事を祈るばかりである。

 

「ゆっくりと知ればいいさ、私達は君を受け入れよう」

 

 ニコリと笑う、トリンデン夫妻。

 高町夫妻に被って見えた、お人よし過ぎるだろう、そう思う。

 そして、京はこの世界での生活を始めたのだった。

 

 それからは本当に普通の生活だった。

 共働きのトリンデン夫妻に代わりメイシェンの面倒を見たり、炊事選択の手伝いなど。

 行動にはかなり制限が掛かっているが、穏やかな生活だった。

 所有者であるトリンデン夫妻からあまり離れられない、5kmなら離れられるがそれでもかなり短いほうだ。

 そしてキール達を探しに行けない。

 放浪バスの運転手にもキール達のことを毎回聞いているが依然情報は掴めななかった。

 本体が表に出られない以上、京は能力の大半が使用できなくなっている。

 汚染物質を何とかしない限りどうにもならない。

 まだ、すずかの元に返るのは当分先のようだ。

 そして、7年、それだけの時間が経つ。

 

「7年…?」

 

 なにかどこかで引っ掛かりを覚えた。

 大事なことな気がするが思い出せない。

 

「それじゃぁ、行ってくるね」

 

 メイシェンが学園都市ツェルニに向かう日が来た。

 将来は菓子職人になると学園都市の一般教養科に行く希望を出したのだ。

 それを両親は快く了承、晴れて受験にも合格し、出発の時である。

 

「頑張るんだぞ」

 

「うん」

 

 笑顔で送り出す父

 そして

 

「メイ、忘れ物よ」

 

 ハイ、とメイシェンにある物を渡す母。

 メイシェンが手を開けるとそこにあったのは

 ピンクロ〇ターだった。

 

『お供だそうだ』

 

 どこからか声が響く。

 なんの心配もなく送り出すのも京が付いていくという理由もあるのだろう。

 母が京に見えないようにメイシェンに向かって軽くウィンクをする。

 少しだけメイシェンの頬が赤くなった。

 

「「いってらっしゃい」」

 

 かくして物語は始まろうとしていた。




主人公の今回の立ち位置はシャーマンキングの持ち霊やエレメンタルジェレイドのエディルレイドにかなり近いものです。
主人公が直接戦うのはたまーにくらい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。