「…あれ?」
メイシェンが目を覚ます。
いつもとは違うベッド、病院のような部屋であった。
『起きたみたいだね?』
京から声が聞こえる。
どうしてここにいるのだろうか、そんなことをぼんやりと思い。
今までのことがフラッシュバックした。
「…ぁ」
そうだ、自分はシェルター内で瓦礫の下敷きになり京に助けられたのだ。
メイシェンの顔が茹蛸のように赤くなる、最後に口付けしたことを思い出したのだろう。
そして京の力を借りて汚染獣と戦った。
夢だといわれれば信じてしまいそうな突拍子もない話である。
『夢じゃないよ』
心を見透かされたように京が突っ込む。
そう、夢ではない。これは現実だった。
『眠ってから3日も経ってる』
「そんなに…」
戦いの後自分は倒れ、ここに運ばれた。
「あんな力を持っていたんだね」
『隠していたことは申し訳ないと思ってる』
7年も共にいて隠し事をされていたとは少し悲しい。
『この力を使うつもりはなかったんだ。メイが瓦礫の下敷きになって、助けるためにメイの意識に共鳴させた。そして、力を手にした。」
そして京にも予想外の意志の力をみせ京を完全に使いこなしたのだ。
『もう後戻りはできない。』
派手に暴れてしまった、もうバレているだろう。
『メイに力を貸したのは俺だ。すまない』
瓦礫の下敷きになったとき、メイシェンは死んでいた。
そして京が持つ蘇生方法は呪いに限りなく近いものと九十九神の同化しかなかった。
そしてメイシェンを蘇生し、あの場を切り抜けるために九十九神の力を行使した。
メイシェンもそれを承諾し京を使った。
今の京は九十九神、道具である。京を使ってなにをするかは全て主人が決めることだ。
「そうだね…、でも後悔はしてないよ。ミィフィとナッキが無事だったんだもの」
『…むぅ』
死ぬ気で護るのは確かだ。
実家に帰すことも視野に入れていた京はその意志の固さに唸るだけである。
「それに私の夢は菓子職人だよ」
ニコリとメイシェンが笑う。
あぁ、7年に及んだ日常が終ったと京は思った。
メイシェンが菓子職人の夢に戻れるまでは必ず護ろうと京は誓う。
『しょうがないな…』
京も覚悟を決めなければならない。
自分が力を貸したのだ、責任はとらねばならない。
『さて、これから起こるだろう事についてだ』
「うん?」
キョトンとしている。起きたばかりだ、現状を把握できていないことはわかる。
『まずはメイが得た俺の力について、間違いなく問われるだろう』
メイシェンは剄脈など微塵たりとも持っていないただの少女、武芸者ではないのだ。
『起きた事がわかればすぐに会うことになるはずだ。武芸科長か…生徒会長が妥当かな』
武芸科を取り仕切る武芸科長と全てを取り仕切っている生徒会長、間違いなく問い詰められるだろう。
『今の内にある程度の誤魔化しと言い訳を考えておいたほうがいいかもしれない』
それが通じるかは疑問だが、まだ学園都市に来たばかりだが生徒会長の噂は聞いている。非常にやり手なのだそうだ。数いる生徒会長候補を情報戦と権謀術数を駆使して潰している。
いいような駒にされないようにはしなければならない。
最悪自分を没収ということにもなりかねない。
「そっか…、うん。わかった」
それから誤魔化しと言い訳を練り何とかする方針を固めるのだった。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
「さて…、話を窺いたいのだけどいいかな」
「はははぃ、だ、大丈夫でしゅ」
『ぁ、ダメだコレ…』
自分の作戦が如何に甘かったことを悟った京だった。
生徒会長と2人きりという状態になったメイシェンは極度の緊張で人見知り、引っ込み思案、極度の赤面性が全て発動し呂律すら回らなくなっている。
もう問いに対する回答など全て吹き飛んでいるだろう。
メイシェンの対面にいるのはカリアン・ロス、生徒会長だ。
銀髪銀目の長身の眼鏡を掛けた好青年、そんな出で立ちだ。
「そう緊張することはないよ、尋問というわけではないのだから」
柔和な笑みを浮かべて席に座るように促す。
笑みが胡散臭い。
「は、はぃぃ…」
「私の名前は知ってると思うが一応ね、カリアン・ロスだ。君はメイシェン・トリンデン君であっているね」
「はぃ…」
顔を真っ赤にして下を向いて答えるメイシェン
「そう怯えたようにされるとこっちが恐縮してしまうよ…、私は感謝しているんだ。この学園を護ってくれたことにね」
カリアンは続ける。
「それにしても君は武芸者ではないはずだ、剄脈もない普通の人間、いくら調べてもそういう結果しかでてこない。なにかあるのかね?」
きた、核心を突く問いだ。
「ぇ…えと、えと」
ダメだ、目が渦を巻いている。
このままではズルズルと全て引き出されてしまうだろう。
しょうがないな、と京が動く。
「マスターはご覧の有様だ、俺が話をしよう」
「きょ…京!?」
「落ち着け」
「あぅ…」
京が実体化しメイシェンの隣に現れる。
メイシェンは京の突っ込みにやっと平常心が戻ってきたようだ。
突然の京の出現に一瞬カリアンの目が見開かれるがすぐに元に戻る、随分と冷静だ。
「ほぅ…、察するに君が彼女の力の要因だと考えるが…」
「ご明察だ」
2人が見つめ合う、互いの意図を読むように
京は実際心の中で冷や汗をダラダラと流していた。戦闘能力はあれど交渉術など皆無、メイシェンの代わりに弱みを握られぬよう不敵な表情をするのに必死だった。
メイシェンは2人を交互に見ながらオロオロとしている。
そしてカリアンがフッと笑い口を開いた。
「簡潔にいこう、私は君の力が欲しい。」
「どういった意図で?」
「まぁそう急かさないで欲しいね、君達はこの都市の現状について知っているかな?」
「いや…」
「私も…」
「ふむ、都市のエネルギー源はセルニウムが必要なのは知っての通り、そして各都市はセルニウム鉱山を複数所有している。そしてこれを奪い合うために戦争、学園都市では武芸大会を行って鉱山の奪い合いをしている訳だが」
そこでカリアンの顔が鋭くなった。
「この学園都市ツェルニでは保有している鉱山が1つしかない、この意味がわかるね?」
つまり後がないということ、武芸大会に負けでもすれば都市は死ぬ。
平和そうに見えて崖っぷちなのだ
「つまり鉄頭徹尾、武芸大会の為の戦力が欲しいと」
「あぁ、勿論先のような汚染獣の防衛も期待したいところなのだが、目的でいえばそうなるね」
「…」
「君達には武芸科へ転科してもらい武芸者としてこちらについてもらいたい、勿論こちらも対価を支払おう、こちらからは奨学金ランクをAにする。後は君達からの要望にもできる限り応えるつもりだ。」
予想外に下手に出られやや困惑とする。こちらの情報が皆無なのが原因だろうか一介の学生にここまでするというのはよっぽどだろう。
裏があるようにしか思えないと京はいぶかしむ。
そこにメイシェンが手を挙げた。
「ぇ…えと、なんでカリアンさんは…この都市をそこまでして護ろうと…?」
学園都市は学生しかいないといえる、カリアンは6年生、つまりあと1年もすれば卒業しそれからはこの都市にくることもないのだ。
そんな一時的な場でしかないこの都市を何故護ろうとするのか
「尤もな質問だ。今年で私は卒業、そしてこの都市に来ることはもうないだろう。だけどね、5年もここで暮らした都市を私は愛しているのだよ、それを失うのは悲しい、そう思うのは可笑しいかな?」
「いいえ」
真実なのだろうか、京はそれでも信じられない。
「京、受けよう?」
メイシェンが裾を引っ張りそう言う。
主人にそう言われてしまえば受けるしかない。
それに相手の出す待遇はそこまで悪くはない。度々要望が来ることは間違いないだろうが
「わかった、受けよう」
「そう言ってもらえると嬉しいよ、すぐに制服も手配させよう」
満足そうな笑みを浮かべるカリアン
「あぁそれと」
「ふむ、なにかな?」
「俺はここの学生じゃないんだが…」
「ここは学園都市だ、生徒以外はここにはいられないが…、理由は聞いても?」
メイシェンの力を話さなければならない上で京の素性も話さなければならない為京について教えても問題はない。
「そもそも俺は人間ではないんだ。九十九神という物に宿る電子精霊のようなものと思ってくれればいい」
自分について九十九神の部分だけを説明する。
そして、それによる装備化という能力も
「ふむ…、興味深い話だ。君以外にはいないのかね?」
「俺以外は確認したことはない」
この世界にいるはずもない。
「君がいれば、誰にでもあのような能力を持つことができると?」
「メイ以外に使われる気はないよ」
そう断言する。
「ふむ…、まぁ別段問題はない。許可しよう。ただ大っぴらに行動されると流石に庇いきれないが」
「感謝する。あとは、そうだな。今後なにかあれば「お願い」を1つ叶えてもらいたい」
「私ができる範囲だが…、まぁいいだろう」
一種の保険のようなものだ、これから何か問題があるとも限らない。
「こんなものでいいかな、メイシェンは?」
「えと…特には…」
欲がないことだ、それでこそとうものだが
「メイシェンの処遇としてはどするんだ?剄脈がない人間を武芸科には入れられないだろう?」
「そうだね、トリンデン君には最近開発された特殊な
妥当なところだろう。
剄と声に反応し手のひらサイズの物でも記憶したものなら剣や槍と様々な物に変化することができる。
武芸者の剄を奔らせることによって様々の効果を出すこともできる。また種類も多く各武芸者に適したものが選ばれる。
「あとはそうだね、小隊に入ってもらいたいと思うのだが…」
コンコンッ
ドアのノック音が聞こえる。
それと同時に京が消えた。
「あぁ、丁度いいところに来た。入ってくれたまえ」
入ってきたのは以前に遭遇した彼女、ニーナだった。
「失礼します。話があると窺ったのですが…」
「うん、そこにいる彼女なのだがね。君の部隊で預かってもらえないかな?」
「またですか…」
呆れたような顔をする、以前にもあったような顔だ。
「なに、彼女がどれくらい強いかは知っているだろう?君の小隊には得がたい人材だと思うが」
「それは…力不足と?」
ムッとした顔で睨む。
だがカリアンは笑みを崩さない。
「まだ君の小隊は4人だろう?最低人数ギリギリだ、最大は7名、彼がいくら強いといっても4人では行動が制限される、違うかい?」
「それは…」
「無理矢理押し付けようというわけではない、後でまた彼女と話せばいい、悪い話ではないはずだが?」
「…わかりました」
渋々といった感じに了承を得る。
そしてメイシェンの方に振り返り
「放課後に修練場に来てくれないだろうか?そこで話がしたい」
「は、はひ!」
上ずったようなメイシェンの声に毒気を抜かれたような顔になったニーナは優しく告げる。
「そう身構えないで欲しい、小隊を紹介しよう、それからだ。」
「はぃぃ…」
苦笑いしながらニーナが退出する。
そしてメイシェンも話が終り制服を貰い退出した、既に制服が用意されていた辺り周到だ。
帰り道メイシェンと話す。
『学内対抗試合なんて出たらメイの心臓止まりそうだ』
「うん…」
予想が付くのだろう、沈んでいる。
『早く直さないとな…』
「うん…」
難しいと思うが
先行き不安な武芸科としての始まりだった。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
放課後
メイシェンは武芸科の制服に着替え修練場に向かっていた。
武芸科の制服を着ていてもまったく武芸者に見えない、微笑ましいレベルだ。
『なんだか着られてる』
「わかってるよ…」
自分でもそう思うのだろう俯いている。
それはこれから小隊のメンバーと会わなければならない緊張も含まれている。
『知り合いのレイフォンだっているんだ、そう緊張することはないだろう?』
「わかってるけど…」
それでも緊張してしまうのはどうしようもない。
修練場が見えてくる。
出口に誰か立っている、ニーナだ。
「来たか、こっちだ。付いてきてくれ」
「はぃ…」
『ほら、深呼吸だ深呼吸』
「うん」
深呼吸するが途中で咽ている。
これはダメだな、と京は思った。
休憩場所のようなところに案内される。
そこにはニーナを含め5人の男女がいた。
「ようこそ第17小隊へ、私が隊長のニーナ・アントークだ。」
金髪ショートの凛々しい出で立ちの少女ニーナ。
「兄に引っかかったようですね、ご愁傷様です。フェリ・ロスです。」
銀髪銀目の人形のように整った顔の少女フェリ。
「これまた美少女が来たねぇ~、俺はシャーニッド・エリプトン、狙撃手をやってる。よろしくな」
後ろでまとめた長髪の軽い感じがする男、シャーニッド
「僕は小隊の錬金鋼の整備を担当してる、ハーレイだ。よかったら君が持ってる特殊な錬金鋼をみせてくれると嬉しいな」
未知の技術に興味津々の少年、ハーレイ。
「君までここに来るなんて…、とりあえず、レイフォン・アルセイフだ。よろしく」
茶髪の優しそうな少年、レイフォン。
ここに第17小隊のメンバーが揃ったわけだ。
「えと…えと、メ、メイシェン・トリンデンです!よ…よろしくねがいしましゅ!」
盛大に噛んだ。
茹蛸のように真っ赤になるメイシェン。
シャーニッドなどは笑いを堪えるように肩を震わせている。
他のメンバーは微笑ましいものを見るような目だ。
「まぁ、そう硬くなるな、会長に乗せられた形になるのは不服ではあるが君が欲しいというのは事実だ。」
それに、とニーナが付け加える。
「会長からの推薦でもある。君に拒否権はない。」
武芸大会で期待されるということは中心となる小隊に入るということ、必須事項なのだ。
「レイフォンの時とは違ってやけに優しいじゃねぇか、あの時は有無を言わさずに武器持たせて試験だって戦ったのに」
「わ…私だってそうしたいのは山々だが…」
チラッとメイシェンを見る。
シャーニッドが納得するように笑う。
「ガッチガチの堅物ニーナも小動物苛めるようなことはしないか」
「どういう意味だ!」
「まぁまぁ、それでどうするの?彼女が小隊に入るのは決定なんでしょう?」
「うむ」
「俺には全然強そうには見えないけどなぁ~、念威操者って訳でもないんだろう?」
その通りだ、彼女自身に力などは微塵もない。
あくまで強いのは彼女の意思であるのだから。
「メイシェン、これから模擬戦をする、強いということはわかるが私にも君の戦い方がわからない、君のポジションを決める上でも重要だ。」
「は、はい…」
幾分か落ち着きを取り戻したメイシェンが了承する。
だがその表情は更に硬くなっていた。
対人戦はメイシェンには初めて、他人に手を上げたことのないような彼女には少々酷な話。しかし、この事情を知る者はいないし、この流れはもう変えようがなかった。
『模擬戦だ。本気でやるわけじゃない』
平気だとは京は言わなかったがフォローを入れる。
『それに俺が付いてる』
そう言われメイシェンは少しだけ硬さが取れた。
「では私が相手を…と言いたいところだが、レイフォン、お前に任せた。」
「ぼ、僕ですか?」
「ニーナ、流石にレイフォン当てるのはどうよ?力量差ありすぎるだろ?」
「いや…、大丈夫なはずだ、いいなレイフォン」
「…わかりました」
修練場に向かう。
中々に広い、流石といったところだろうか
「武器はどれにする?」
「わ、私はいいです…」
「…その特殊な錬金鋼とかいうの使うの?」
「はい」
「そっか、興味深いね」
ハーレイがそう嬉しそうにいった。
「では始めようか」
ニーナが号令を掛ける。
「レストーション01」
レイフォンが呟くと同時に手に握られていた小さなスティック上の錬金鋼が青い剣へと姿を変える。
メイシェンも発動させる。
「HEAVEN'S WIND」
『彼女に祝福を!』
「『GIVE&GREAT HER HAPPINESS!!』」
風がメイシェン巻き装備化と思われたが
「…あれ?」
『ぁー……』
装備されていたのは純白の手のガントレットと足の軽装だけだった。
『適応率15%…、これは…ちょっと拙い』
意思が全く足りない。
緊張なども減衰の要因になっているだろうがそれでも低い。
以前のアレが異常だったのだが
「へぇ、手甲か…?顔に似合わず肉弾戦ってか」
シャーニッドはそう言うが軽くとんでもない事になっている。
「手を抜く必要はないぞ?全身装甲はどうした?」
「全身装甲!?」
「すみません…、まだ同調が難しいので…」
嘘ではない、捉え方は違うだろうが
「しょうがないな…、まぁ大丈夫だろう」
『能力同時発動は2個までだ』
「うん…、じゃぁジョイスティックを」
『…了解』
手にジュイスティックが現れる。
それが開始の合図だった。
「始め!」
ニーナが号令をかける。
「ふっ!」
まずは小手調べか素早く正面から突っ込み剣を振るうが
「…ぇ?きゃっ!」
何もできずにメイシェンは吹き飛ばされた。
「…あれ?」
レイフォンも予想外なのだろう、あっけに取られている。
京が風で衝撃を和らげたためダメージは少ない。
『やっぱり…』
京が予想していたように言う。
『使い方、わからなかったね?』
「…うん」
予想通り。
『同調率が低すぎる。これだと武器を持っただけで使いこなせない』
京の場合、能力が発動したと同時に使い方も十全に把握できる。
が、メイシェンは京ではない。完全同調によって前回はフルで戦えたがこれでは赤ん坊にパソコンを持たせたようなものだ。使い方が分からなければ話にならない。
「それじゃぁ…どうすれば…」
メイシェンが俯く
これでは京の能力が使えても宝の持ち腐れだ。
「どうした!真面目にやらんか!」
流石にニーナからも渇が飛ぶ
『まぁ…これならなんとかなるかなぁ…でもなぁ…』
京は悩む、これなら使い方もなにもないが
「私は大丈夫」
危険という意味での心配ではないのだがそう言われれば出すしかない。
ジョイスティックが消え、代わりに現れたのは黒い眼帯。
『さぁ、左目に装着だ』
「う、うん」
左目に装着する。
メイシェンから突風が巻き起こりメイシェンの体から淡い光が放つ。
ラブリー眼帯、これは対象を二代目柳生十兵衛とするものだ、これならば使い方も何も無い。
だが京は忘れていた、この武装の副次効果を
「二代目柳生十兵衛、見参」
現れたのは軽装を纏った長身の美しい女性、黒い髪が腰まで掛かり女性的な体付きながら引き締まった体とまるで元の人物とは思えない。
メイシェンは腰に掛かった2本の太刀を抜く。
「…メイシェンか…?」
「はい、隊長。申し訳ない、仕切り直しを」
凛とした声で応える。
ここまで来て京も異変に気付いた。
『メイシェン…?』
「京、闘いが始まるのだ、あまり声を掛けないで貰おう。気が散ってしまう」
『ぇ?ぁ、はい、ごめんなさい…』
あまりの風格に京は引っ込んだ。
「どうなってんだ?いきなり美人のねーちゃんになったぞ」
「うん…、特殊だとは聞いてたけど…」
いきなり小柄で気弱そうな少女が凛とした長身の美人になられては誰でもそう思う。
「改めて…、始め!」
号令がかけられる。
先手はレイフォン、先と同じように速攻を掛けようとする
「ふっ!」
だが同時に動いていたメイシェンも同じく斬りかかっていた。
切り結ぶ。
ギリギリと2本の刀と剣の鍔迫り合いで火花が散る。
「その年でそこまでの技量、かなりの修練を積んだと見る」
「同い年だと思うんだけど…ねっ!」
レイフォンは更に剣に力を込めメイシェンを弾き飛ばす。
弾き飛ばされも即座に体制を建て直しレイフォンに迫るメイシェン
二刀の太刀を振るう、振るう、振るう。
「くっ」
押されるレイフォン。
レイフォンとてサイハーデン流という流派を修めていう兵だ。本来の武器は刀、剣を使っていることで上手く力を出せないことも今の現状に起因している。
何故刀を使わないかはわからないが
だがこの現状を作る最大の差は流派の差、汚染獣と戦争、化け物と人、それを戦い抜くために導き出された剣術、それがサイハーデン流。対して人を斬る、人を殺す、ただそれだけの為に研磨された剣術、柳生新陰流。目指したものの違いがここに現れている。
「はぁっ!」
「ぐっ!」
一瞬の隙を突きメイシェンがレイフォンを蹴り飛ばす。
すぐさま立ち上がられるもそれなりのダメージは負わせられたようだ。
「本気でこい、手を抜いて私を倒せると思うな」
『俺の知ってるメイシェンじゃない…』
ボソリと京が嘆いた。
ラブリー眼帯。京の能力で無理矢理つけているが実際は女性限定の武装である。
そしてラブリー眼帯には付けられる対象にはある条件が課せられる。それは
「ぽちゃぽちゃのぷりんぷりんのぼんぼーん」
奇しくもメイシェンはその条件に全て当て嵌まっていた。
つまり京以上に使いこなすことができる。
そしてその副次効果とは性格改変、戦闘に向いていない性格でも武士然とした性格になるものである。
ちなみに二重人格ではない。
「なぁ誰だあれ?」
「僕に聞かないでよ…」
この戦闘以前にメイシェンの変わりように皆驚いている。
「内剄か外剄、使えますか…?」
レイフォンが問う。
剄脈という特殊な器官を有する武芸者は体に剄路といわれる神経を持ち、エネルギーたる剄を体に巡らせ活用することで様々な技法を行うことができる。
内力系活剄、剄を体に作用させ肉体のあらゆる能力を強化する力。
外力系衝剄、体外に剄を放出し衝撃波などの破壊をもたらす能力。
他にも気配を消す殺剄や剄を炎などに変質させる化錬剄など多岐にわたる。
「そんなものはないっ!」
「ぇっ!?」
メイシェンの答えにレイフォンは戸惑う。
あの動きを内剄なしで行ったのかというように
「そもそも私には剄脈など微塵たりとも存在しない」
「それは…どういう…」
「君たち武芸者にできることは私には一切できない、そう思ってもらえればいい」
「ならどうやって…」
「これが人間の肉体の辿り着ける場所だ」
メイシェンが構える。
「本気でこいと言ったぞ」
少し殺気も混ぜて睨む。
「…わかりました」
レイフォンが構える、以前とは違い、気配も威圧感も段違いだ。
メイシェンは細く笑む、それは期待と嬉しさに
次の瞬間レイフォンが消えた。
―――旋剄
内系の1つ、脚力強化による高速移動。
レイフォンは死角からメイシェンに迫り斬撃を見舞おうとするが
「ふっ」
弾かれる。
その瞬間にはもうレイフォンの姿はない。
高速のヒット&ウェイ、それをギリギリで対処する。
「人の形をしているならば…」
それは人の動きの延長線だろう、読めない訳がない。
だからといってこの状況はメイシェンの劣勢、このままでは徐々に削られる。
「京、加速だ」
『ヤー』
短く京が応え能力が発動する。
『クロックアップ』
瞬間、世界が止まる、いや少しずつ動いている。
脳が80倍に回転し認識が早くなったのだ。
その中でも平然と移動する影が1つ、レイフォンだ。
『制限時間は1分』
「了解したっ!」
レイフォンよりも倍の高速でメイシェンが迫る。
レイフォンの目が驚きで見開かれる。
続けざまに行われる斬り合い。
先状況と逆の展開。
だがレイフォンもこの状況には甘んじない。
―――衝剄
剄を衝撃波として放つがその先にメイシェンはいない。
「はぁあ!」
レイフォンの死角からメイシェンが切りかかる。
―――疾影
メイシェンの二刀が空を斬る。
レイフォンは衝剄を避けられたと理解した瞬間に強力な気配を発散、そして殺剄を行うことでメイシェンに残像を見せた。
「っ!?」
メイシェンが気付くももう遅い。
背後から切りかかるレイフォンの影が見える。
転がるように身を飛ばしす。
僅かに剣が体を掠る。
「「………」」
再び見詰め合うように構える。
踏み込んだのは同時。
振りかぶる剣が交差する。
―――閃断
ベキッ
レイフォンの剣に剄を乗せた強烈な一撃がメイシェンの太刀に罅を入れた。
このままでは砕ける。
そう判断したメイシェンは離脱しようとした時
世界が元の速さに戻った。
「っ!?」
『1分です、サー』
メキメキと軋みを上げる太刀
だがレイフォンは折れるのを待つほど悠長ではない。
―――触壊
手に持つ太刀に奇妙な感覚を抱いた瞬間
バキンッ
太刀が砕けた、それも硝子が砕けるように粉々に
触壊は相手の武器に剄を流し破壊する技だ、名刀とはいえただの鋼では話にならない。
なんとか塚の部分で受け流す。
しかしもうメイシェンの動きはレイフォンに追いつけず武器も砕かれた。
レイフォンの剣が再び振り落とされる。
最後の一撃
そう誰もが思った。
メイシェンさえも
だが最後の一撃をどうするかはメイシェンが決める。
ギシリ。
金属が軋む音がする。
「柳生新陰流奥義…」
メイシェンの両の手による掌底によって剣がメイシェンに当たる寸前で停止していた。
「…無刀取り」
『ZOOM』
メキメキと剣が悲鳴を上げる。
このまま砕く心算だ。
そして…
「レストーション02」
剣の刀身が無数の鋼糸に代わりメイシェンを絡め取った。
錬金鋼は剄を流すことによって変化する、そしてその変化は1つとは限らないのだ。
「…ここまでか…」
「ですね」
足掻かずメイシェンは目を閉じる。
「終わりだ。よくやった2人共」
「あぁ、滅多に見られない闘いだったなぁ」
「どういう仕組みなんだろう…」
糸が解かれる。
ゆっくりと立ち上がりメンバーの元へ行く。
その佇まいは生徒というより猛者だ。
年齢も20代前半に設定されている為風格が違う。
「…メイシェン…か?」
「はい、隊長。不甲斐ないところをお見せしました。」
『いやいや、全然見えないって』
京が心の中で呟く。
ニーナも対処に困っている。
そこでメイシェンが眼帯を外した。
光とともに元の姿に戻る。
「ぁ…、え、えと、ありがとうございました!」
元に戻ったメイシェンは思い切り頭を下げて礼を言った。
「ぁ…、うん、ありがとうございました。」
釣られてレイフォンも礼をとった。
「はっはっは、面白い奴が入ったもんだ。」
面白いものでも見たようにニヤリと笑っているシャーニッド。
「ま、これからもよろしくな」
「は、はい!」
「それではこれからはメイシェンは放課後にここに来てメンバーと練習することになる」
「はい!」
その後は各自の練習となり解散の流れとなった。
ちなみにメイシェンは前衛だそうだ。
レイフォンとメイシェンが攻め、ニーナは防御に回りながら指令、シャーニッドの狙撃、フェリのサポートだ。
本来ニーナは防御向き、そして司令塔が前衛に出ざる得なかったことの危険が無くなりだいぶ安定したと少し嬉しそうに語っていた。
そして軽く全体の練習をした後は解散。
各自帰っていったのだった。
『いつものメイシェンだ…、よかったぁ…』
「だからなんなのよ、もう…」
さっきからこの調子の京を宥めながら帰っていく。
それを遠くからずっと見ていた者がいた。
「…」
フェリだった。
自己紹介から何一つ喋らずこちらを監視するようにずっと注視していた。
彼女が見ていたものはメイシェンか、それとも…
メイシェンvsレイフォンまでの流れでした。
剄技はかなり使い勝手が良いせいでかなり強いですね。
というよりほとんど使えるレイフォンが強いのですが…
メイシェンの使える能力はかなり限定されます。
特化というか…
小細工系は主人公が担当みたいな