――――――――――――モノノ怪より薬屋、退魔の剣 発動――――――――――――
騒然となっている場に一人の人型が舞い降りる。
「皆々様方、そやつに潜む、形と真と理、お聞かせ願いたく候」
手にするのは不気味な鬼の顔がついた赤い短刀、鞘に入っており、刀身がどんなものかはわからない。
現れた京を見て、レイフォン達は驚きに目を見開いた。
「あなたは…」
メイシェンを病院を連れて行ったときに既に顔合わせは済んでいる。こちらが敵と判断されることはない。
そして今は京に何故ここにいると問うている暇はなかった。
廃貴族に支配されたディンを救い出さなければならない。
「形と真と理、教えてもらいたい」
改めて京がそう口を開く。
「さすれば、あの化け物、斬ってみせよう」
この武器だけでは廃貴族を斬ることはできない。
封印を解くには形と真と理、この3つを紐解き、初めて鞘から抜き放つ事ができる。
「お前にはそれができるのか?」
「無論」
ニーナの問いを即答し、断言で返す。
ディンはまだ動かない。
今ここで廃貴族を何とかできるのは京しかいなかった。ならば頼るしかない。
「真、とは?」
「真とは事の有様」
すなわち、化け物の発生原因、何故化けてしまったかという因果を表す。
「理、とは?」
「理とは心の有様」
すなわち、取り付かれるに至った思い、繋がりという縁を表す。
そして
「形は、目の前にある」
形とは、姿の有様。
ディンの背後に鎮座する黄金の雄山羊、それが姿だ。
「黄金の雄山羊、それがこの化け物、廃貴族の―――――――形」
―――――――カチン
短刀に取り付けられた鬼の顔がカチンと歯を鳴らす。
まずは1つ目、1つ目の封印が解けた。
そしてそれを見計らったかのようにフェリから念威で連絡が入る。
『お話、聞きました』
『あぁ、面倒なことになったようだね』
カリアンの声も聞こえる。
フェリが中継という形でカリアンと京達を繋いでいるのだろう。
そして、京が現れてからの会話は既にカリアンにも伝わっていた。
カリアンが語る。
『君達の持ってきた情報でわかったことだ。君達がアレと出会った廃都市の名は白炎都市メルニクス、高さに挑み続けた都市だ』
白炎都市メルニクス、高さをひたすらに求め続けた都市、月まで届けと、ただただそれだけを求め続けた都市。
その都市の建物は皆白く、高く聳え立つ建築物は都市外から見れば白く輝く炎に見えた。
故に白炎都市。
そしてフェリも口を開く。
『サリンバン教導傭兵団の団長に聞きました。廃貴族とは電子精霊が都市を滅ばされ、その憎しみによって姿を変えた物。失った都市から汚染獣たちを駆逐するべく宿主を探す、と』
そう、やはり京の勘は当たっていた。
廃都市メルニクスで出会った廃貴族は、都市メルニクスに宿る変わり果てた電子精霊だったのだ。
故に、あの廃貴族、黄金の雄山羊の名は
「廃貴族メルニクス」
京の目が目の前の廃貴族、メルニクスを見据える。
「守るべき都市を失い憎悪に狂った電子精霊、狂い変わり果てた電子精霊メルニクスは憎悪の果てに廃貴族となってしまった」
そう、それこそが
「それこそが―――――――真」
―――――――カチン
2つ目の封印が解ける。
都市を失い、切望のままに死ぬはずだった電子精霊メルニクス、しかし、その際限のない憎しみはメルニクスを廃貴族とすることで生き長らえさせた。
それが真。
「それでは、理を…」
「ちょっと待つさ~」
そして最後の封印を解くべく、理を聞こうと京が口を開いたときだった。
ディンに鎖が襲い掛かり、雁字搦めに拘束する。
そして、耳障りな間延びした声と共に見知った男が現れた。
「殺されちゃ困るさ~、廃貴族はおれっちたちが貰っていくさ~」
廃貴族は宿主がいなければ実体が存在しないために霞を掴むようなもので捕獲は不可能に近い。
ならば宿主に宿っている状態ならどうか
答えは可能、だ。
廃貴族が宿った器ごと捕獲する。その為にハイア達はその機会を窺っていた。
「いやぁ、丁度よく宿ってくれて助かったさ~、そいつごとおれっちたちが貰って……っ!」
そう言いかけて、ハイアは咄嗟に手に持つ刀を背後に振るった。
ズドンと大きな音がして何かが砕け散る音が聞こえた。
「ちっ…」
舌打ちと共に背後にテレポーテーション京がいる。
振るう左の異形の木の腕は地面にめり込んでいた。
「いきなり酷いさ~」
そういいつつもハイアから一筋の汗が流れていた。
次元跳躍に近い瞬間移動、それには移動する気配も姿もなく、突然襲い掛かってきたのだ。
「知ったことか」
京から凄まじい怒気が放たれる。
メイシェンを傷付けられて、その原因が目の前にいるのだ。
京の行う行為は自明の理だった。
「今はそれどころじゃない! 落ち着け!」
「……」
ニーナの叫びにメイシェンの言葉を思い出し、凄まじい形相でハイアを睨みつけながらその場を動かなくなった。
代わりにニーナが前に出る。
「ディンは我が都市の生徒だ! 手出しなどさせん!」
「へぇ? 本気で言ってるさ?」
ハイアを中心に30人ほどの武芸者が現れる。
ディンを縛る武芸者を含め33人、かなりの数だ。
そしてその全てがツェルニの学生と比較しても圧倒的武威を誇る歴戦の者達だ。ニーナ達では1人相手にするだけでもキツイだろう。
「サリンバン教導傭兵団を相手にして? お前ら未熟者の学生共が? おれっちたちの相手にできると本気で思っているさ?」
優位はハイア達だ。
暴れられでもしようものならツェルニは大騒ぎになってしまう。そして何よりハイアの強さの上限はまだ見えていない。
事態は猶予を待ってくれない。
しかし
「スターライトブレイカーEX」
ハイアの隣を極大の桃色の閃光が通り過ぎた。
「なっ!」
「御託はいいんだよ」
謎の閃光に驚く武芸者達を冷たい目で見ながら京が言った。
「こいよ、お前達が何人蜂の巣になるか見物だ」
京は既に汚染物質を克服した。もうなにも縛るものはない。完全に、十全に力を発揮する事ができる。
京が武装を顕現化させる。
右手にはサイコバズーカー、左手には「2」の刻印がされた銃弾を詰め込んだ古式銃キャスター、伸びた髪にはCOFFINと二丁拳銃ケルベロスが構えられ、背後には魔力の充填が完了した魔法陣が3つと炎を宿した魔剣が待機していた。
異常ともいえる光景に相手の武芸者は躊躇する。
一人で戦争でも始めようかという重武装、そしてあれらは麻酔弾などという生易しい代物は詰まっていない。
動けば何人か殺られる。何故かそんな直感があった。
「行け、そして語れ、理を」
レイフォンとニーナは頷き、動き出し始めたディンを抑えに向かう。
ハイアは京と対峙したまま互いに動かなかった。
動けば最後、京から放たれる弾丸と魔法、炎の嵐は確実に命を奪っていく。
ハイアが動こうとすれば京は引き金を引くだろう、仲間達に向かって、現に京の持つ銃口は全てハイアではなく仲間達に向いていた。
メイシェンにあれだけの力を与えた元凶だと知っているハイアはアレがただの脅しの道具には見えない、故に迂闊に動く事ができなかった。
京の右目の複眼の一つがディンに向く。
そこでは戦闘が始まっていた。
「ふっ!」
そこではレイフォンが剣を振るい、ディンが振るうワイヤーを器用には弾いていっていた。
ディンの体に力が漲り、振るうワイヤーは地面を割り、その力は元の自分の者とはとても思えないレベルに達している。
これが廃貴族の力、汚染獣を滅ぼすために憑依し、力を与える。
そこにシャーニッドが京の隣に降り立った。
「あれは2年前のことだったかねぇ」
喋りながらもシャーニッドは手に持つ狙撃銃を構えながら語っていく。
「俺とディンとダルシェナは元々第10小隊にいたのさ、3人で学園都市を守るんだって誓い合った」
だがそれがそもそもの擦れ違いの始まりだった。
「まぁでも? 脆いもんだったよ、だって全員が都市を守るって言っても根本がバラバラだった」
シャーニッドが語る物語は青春の1ページに過ぎないものだった。
ディンは2年前の武芸大会で大敗し、無念のまま卒業した第10小隊の隊長の事が好きだった。その志を継ぎ、彼女に代わって学園を守るのだと誓った。
ダルシェナはディンのことが好きだった。共にその夢を追いかけたいと都市を守ると誓った。
そして、シャーニッドはダルシェナの事が好きだった。彼女の背を守りたいと都市を守ると誓った。
「誰も報われねぇ、そんな関係が壊れるのは早かった」
三角関係にすらならない一直線の関係、その関係が瓦解するのは早かった。
シャーニッドは早々に気付いたのだ。この関係が長く続かないことに
だから自分から身を引いた。
「俺達の誓いは本物だった。だが純粋じゃなかった」
そこで終ればよかった。
恋愛感情によってできた擦れ違い、シャーニッドが早々に身を引くことで全てが終ればよかった。
「だけど、あいつは頑固でねぇ」
それをディンは許さなかった。
何故だと、あの誓いは嘘だったのかと、怒りに怒った。さもありなん、好きだった人は卒業し、もうここにはいない。想い人が都市にいない中、都市を守るという思いは3人の中で一番強かった。
そして今年、再び武芸大会が行われる時期にディンは手に出してはならないものに手を出した。
「あいつはディジーに手を出した」
またの名を剄脈加速薬、一時的に剄の力を大幅に増幅する薬である。効果としては非常に強力だ。
だがそれには続きがある。副作用として20%程の確立で剄脈に異常をきたすのだ。最悪の場合、剄脈に悪性腫瘍ができて植物人間、武芸者を失う危険性から多くの都市で違法となっているものである。勿論、ツェルニも然りだ。
「そうか、夜のあれは…」
「正確にはディンをつけていたダルシェナをつけていたんだけどな」
見るものが見ればわかる。
剄がそう簡単に大幅に増幅するものではない。普段から共にいたシャーニッドとダルシェナはその違いに気付いていた。そしてそれに思い当たる節もあった。
それほどに守りたかったのだ、ツェルニを、元は好きだった人の守れなかったものを守りたいと考えていたのかもしれない。だが今のディンの思いは本物だ。例え違法な薬に手を出したとしても守りたいと思っている。
「まぁそれで、俺達第17小隊は一計を案じたわけさ」
違法な手を使うディンを、そして体を壊す前に止めることとなった。
方法とはレイフォンの持つ剄技、封心突、剄脈の中枢に針状にまで凝縮した衝剄を打ち込む技だ。
それによってディンを半年は再起不能にし、武芸大会が終わるまでは強制的に安静にさせようという作戦だった。
丁度その時、メイシェンがハイアに襲われていた為、こちらにその話が伝わることはなかったが
「だが、アレが邪魔してくれちゃったせいでこの様よ」
「そうか…」
作戦は成功した。
ディンの首筋にレイフォンが封心突を打ち込むことに成功する事ができた。
しかし、メルニクスが現れた為に状況が変わった。
メルニクスの強化によって封心突は解除され、今も暴走し、レイフォン達と戦っている。
話が終る。
全てを了解した。
封心突を打ち込まれ、自分がこの先どうなるかを教えられた時、ディンはどう思ったか
それは絶望。
そして憤怒。
自分は守れない。無力。何故だ。どうして。力が欲しい。
そしてそれと同じ想いを胸中に秘めるものがいた。
都市が汚染獣によって蹂躙されていく。都市を守れなかった。
それは絶望。
そして憤怒。
自分は見ていることだけしかできない。無力。何故だ。どうして。憎い。滅びろ。我を手に取れ。
1人と1体は巡り合った。
「守れなかった無念と怒り、それがディンとメルニクスを引き合わせた」
そう、それこそが
「それこそが―――――――理」
―――――――カチン
3つ目の封印が解ける。
「形と真と理、お聞き申した」
形、黄金の雄山羊、廃貴族メルニクス。
真、都市を守れなかった無念、怒り、妄執に取り付かれ電子精霊が廃貴族へと変じた物。
理、都市を守れないと絶望するディンと自らを扱えとメルニクスが出会い。結びついた。
短刀が宙に浮き、京の目の前に止まった。
今まで出した装備が全て消える。
ハイア達が何故だと息を呑んだ。
簡単な話、もう全てが終る。
「人に取り憑き、力を宿らせ、破滅に向かって突き進ませる化け物」
力を与えるだけではない。メルニクスはディンを闘争に向かって突き進まさせる。汚染獣が絶えるまで、宿主が死ぬまで、それは早速呪いだ。
「故に、斬らねばならぬ」
だからここで全ての遺恨を断ち切らせていただく。
「よって、清め、払うぞ、化け物よ」
自分も同じことをしている。力を与え、闘争に向かっている。
だが京とメルニクスは違う。絆が違う、思いが違う、在り方が違う。
同じ化け物でも自分は好い化け物でありたい、そう思う。
だから
だから
だから
「解き――――」
清め、払おう。
「放つ!」
『ときはなぁああああああああつ!!!!』
短剣に付いた鬼が叫ぶを上げる。
瞬間、京の姿が移り変わるように反転した。
鏡に映る自分と移り変わるように
それは一瞬で変わった。
全ての色が反転し、真っ白い髪とと黒い肌、金色の衣を着た者へと変じる。
同時に周りの武芸者が一斉に京に襲い掛かった。
だがもう全てが遅い、遅すぎる。
京が短剣を手に取り、抜いた。
チャキン
その刀身は光り輝く赤い万華鏡のようであった。
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あれから1週間ほどが経った。
「メイはもう体調は大丈夫なの?」
ミィフィが少しだけ心配そうにメイシェンに言った。
「うん、もう大丈夫。この前も合宿行ったくらいなんだから」
笑ってもう平気だとメイシェンが答える。
もう本当に何もないようだ。
「そうか、よかった」
以前のハイアの襲撃で遊べず仕舞いだったので改めてメイシェンとナルキ、ミィフィは頃合を見て集まり、ケーキを突いていた。
メイシェンもディンの一件から翌日には全快し、修練に励んでいる。
「そういえば私、合宿で必殺技覚えたんだよ!」
そう言ってメイシェンが同年代では明らかにトップクラスの胸を張り上げる。
「ぇ? あぁ…、それは…すごいね…」
何と反応していいかわからない。
もうナルキとミィフィの知るメイシェンではなくなりつつあることを改めて2人は実感するのだった。
果たしてこれは良い傾向なのか悪い傾向なのか、2人には判断が付かない。
「そういえばあの人は?」
「お留守番」
「ぇ~、連れてくればよかったのに~!」
ナルキの問いに対してメイシェンが事も無さげに答える。
それにミィフィは不満たっぷりといった感じで抗議していた。
「だってミィ、変なこというでしょ?」
「変なこととはなんだ! 断固抗議します!」
そう言ってミィフィがケーキを思い切りほうばった。
リスのようだ。
「ミィは弄り倒したかっただけなんだな、これが」
「実も蓋もないことをー」
ナルキの突っ込みにミィフィはグッタリとテーブルに突っ伏した。
忙しないことだとそれを見てメイシェンとナルキは笑う。
「メイシェンの赤裸々な秘密を沢山用意していたというのに…」
「ちょ…ちょっと!」
ミィフィのポツリと漏らした言葉にメイシェンが真っ赤になった。
しばらくは京とミィフィは遭遇させてはならないと心の中で固く誓う。
そして、楽しい時間は過ぎていくのだった。
あの時は鮮烈だった。
京の退魔の剣の封印開放、通称「ハイパーモード」となった京は辺りの障害物を適当に蹴散らし、メルニクスを両断するに至った。
ディンは剄脈に異常をきたしていたが現象術式によって多少は回復し、後は目を覚ますのを待つばかりである。
その傍にはシャーニッドとダルシェナ、彼ら3人の関係は果たして直ったのかはわけらない。
そしてメルニクスだ。
なんと生きていた。断ち切ったのはその憎しみ、命までは獲らなかったのだ。
今でもツェルニ内で偶に幽霊騒ぎを起こしながら徘徊している。今の彼の胸中は誰も知ることはできない。
こうして騒がしくも平和な日々が戻ってきたのだ。
「ただいま~」
メイシェンが帰宅する。
だがメイシェンの挨拶に答えるものは誰もいなかった。
「…京?」
いつもなら帰りを待っているだろう京がいない。
おかしいなと思いながらメイシェンはリビングに入った。
「……?」
するとそこにテーブルの上に置かれている1通の封筒があった。
何か胸騒ぎを感じながらメイシェンはそれを手に取る。
メイシェンへ
ちょっと友人に会いに出かけてきます。
早めには戻ってくる予定です。
ごめんね。
京
やたらと淡白な手紙だった。
そして封筒が重いことに気づいてそれを逆さまにするとなにやら小物が落ちてきた。
白と黒の勾玉、勾玉には色の違う小さな宝玉が6つづつ付けられており、不思議な力を放っていた。
それを握り締め、メイシェンが一つ零した。
「なんなのよ…もう」
レギオス編第一部終了しました!
いかがだったでしょうか? 楽しんでもらえたなら幸いです。
最後の勾玉、あれだけでわかる人がいたらすごい気がする。
感想などあれば嬉しいです。
原作名:モノノ怪
ジャンル:アニメ
使用者:薬屋
能力:退魔の剣
退魔の力を有する魔刀。
圧倒的な力を有するが固い封印で縛られており封印を解かない限り抜くことはできない。
封印は相手の形、真、理を知ることで開放される。
封印が解けると使用者も通称「ハイパーモード」と呼ばれる自身が反転した状態になり、非常に強くなる。
とモノノ怪でした。
他のアニメとは全く違う画風の色物。
日本画などの要素をふんだんに取り入れており、その表現方法は秀逸の一言。
ホラーを謳い、テンポや言葉回しもすごく良いです。
本当に面白いので是非手に取ってみてください。
続編作ってくれてもいいのに…(チラッ