マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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第50話

「ゲフッ…ハッ…ァァ」

 

 京は血の塊を吐き出す。

 あぁ、まったく、手間取らせてくれる。

 京の胸には巨大な空洞ができていた。直径30cmほどの大穴だ。根を張る植物が何とか繋げなければ重みで上半身と両腕が千切れていただろう。

 風通しが良すぎて困る。

 

「だけど…これで…」

 

 縁が出来た。

 狼面衆がマイアスを縁としてシュナイバルへ至ろうとしたように、京はサヴァリスを縁としたかった。

 ()は蒔いた。

 その代償がこの様なのではあるが

 全身ボロボロ、血仙蟲とは別に様々な能力が働いている京にとって胸の大穴は大ダメージではあるが致命傷にはなりえない。狙うなら頭を潰すべきだった。

 結果は上々といったところだろう。

 京の目が細まる。

 煙が晴れた。

 

「それで…まだ動けますか」

 

「いや、満身創痍だ」

 

 そこには膝を着いたサヴァリスがいた。

 どの口が言うか、そうサヴァリスは笑う。

 サヴァリスの体を突き破って巨大なキノコが無数に生えていた。右目からもキノコが飛び出し、その機能を完全に破壊していた。

 煙を吐き出す直前、サヴァリスは体に絡まった植物を引き千切り後退することで直撃は逃れられていた。でもなければただのキノコの群生と化してグレンダンに郵送され、哀れな帰還を果たしたことだろう。

 普通の人間ならあれで即死している。だが流石は天剣授受者といったところだろうか、頑丈だ。

 

「早く摘出しないと死ぬぞ」

 

 早く医者に行けとそう促す。

 この戦いは完全に終わった。

 京もこのダメージではまともに動けない、サヴァリスも同様だ。

 

「痛み分け、ですかね」

 

「……それでいいならそれで」

 

 実際してやられたと思う。

 メイシェンの弱点は自分にも言えることだと改めて実感する。

 不思議と突然襲われたことに関しては怒りはこみ上げてこなかった。

 上手いこと自分の不死の一端を捉えられ、見事に潰された。そして猛攻を掻い潜り、更に戦闘不能の一撃を貰ってしまった。

 実際、弱点のようなものがあったとはいえ、それを突くのは並みでは不可能だ。素人のような動きでも身体能力の過剰すぎる強化によってそんなものは霞んでいる。全身の分子結合破壊など誰にでもできる物ではない。要は相手がその隙を突ける程に未だかつてなく強く、上手く立ち回られたという話だった。

 それにあれはあれで京の全力ではあったのだ。形振り構わなければこの都市が沈む。

 都市中央がキノコの園に変貌させてしまったのは、ちょっと悪いと思っているのだが、都市の人々がシェルターに避難していてくれて幸いだった。

 目的は果たしたし、この借りは後でキッチリ返してもらうとしよう。

 

「で、リーリンさんはどうなってますかね?」

 

「ぁ……」

 

 忘れていた。

 この圏内にいたということは煙を食らっている可能性が大きいというか、確実だろう。

 この周りの膨大なキノコの内のどれかがリーリンだと思うとゾッとしない。

 京の顔色が血の気が失せたように青白くなった。

 同時に色々と察したサヴァリスも冷や汗をダラダラと流していた。

 

「オイ! 京!」

 

 そこにキールの声が聞こえる。

 振り返ると重そうに昏倒しているリーリンを引っ張りながらこちらに近づいていた。

 ホッと胸を撫で下ろしたのは2人一緒だった。

 

「それで、返していただけると嬉しいのですが」

 

「その様でどうする?」

 

「……」

 

 人の事は言えたものではないがサヴァリスの様は酷いものだった。場所によっては再生手術も必要だ、京が治す気は勿論ない。

 それでリーリンをどうするという話でもないだろう。

 

「まぁ…、彼女の目的地まで俺が運んでやるというのは?」

 

 護衛というからには目的地まで付いて行くつもりだったのだろう。キールとジバクくんも世話になっているだけに無碍にも出来ない。

 そういう折り合いを付けた京の提案だった。

 

「頼めるなら、グレンダンに戻って治療しなければなりませんし…、その前に陛下に殺されるかもしれませんが」

 

 割と本気で言ってる辺り、そのグレンダンの女王様は恐ろしい奴なのだろう。

 同情はしないが

 

「次は…本気で」

 

「お断りだ」

 

 そう言いながらサヴァリスは体を引き摺りながら立ち上がり、どこかへと消えていった。

 

「はぁ…」

 

 サヴァリスが見えなくなった後、京は崩れ落ちる。

 流石に胸に大穴を空けて、虚勢を張るのももう限界だった。

 

「運がいいんだか悪いんだか」

 

 偶然キールを迎えに立ち寄った都市でイグナシスの部下かなにかと思しき者と遭遇、シュナイバルの重要性を確信し、更に天剣授受者と相対することとなった。

 そして結果は満身創痍のこの様だ。

 天剣授受者はあんな性格破綻者ばかりなのだろうか、結局何も聞けず仕舞いだった。

 まぁ問題はない。

 

「大丈夫か?」

 

「ジ!」

 

「いや、死にはしない程度かな」

 

 三日ほど眠れば直るだろう。

 たぶん、おそらく。

 

「で、この人どこに向かおうとしてたんだ?」

 

「ツェルニッつー学園都市だ」

 

「…へぇ」

 

 もうこれは偶然だろうか、手間が省ける分、問題はないし気にすることもないのだが

 そこにキールが少し待っていろと言った後、どこかに行ってしまう。

 待ちながら京はリーリンを揺さり、起こそうとした。

 

「ぅ…、ううん……きゃっ!?」

 

「……失礼な」

 

 京の顔を見て驚きに声を上げられるのはちょっと傷つく。

 ハッとしてリーリンは謝ると、今度は胸の大穴を見て狼狽するなど非常に忙しなく、これまでの説明に移るのに時間が掛かってしまった。

 

「と、いうことで俺が君をツェルニまで送るよ」

 

「…どうやって?」

 

「こうやって」

 

 リーリンの疑問に京が腕を出すと着いた時計のひとつが光った。

 指し示すは午前5時。

 

「デントホールの二人の老女を救った少女、目も眩むような白い絹を着るのは誰のため?」

 

 呼び出すは白い衣を着た家事精霊。

 

「午前5時の「白い婦人(シルキー・フラウ)」!」

 

 すると突然箪笥が現れる。

 その扉が開くと真っ白な肌に真っ白な髪、真っ白な絹を着た少女が顔を覗かせた。

 

「こんにちわ、シルキー・フラウ、呼び出したのは初めてなわけだが、契約は続行でいいかな?」

 

 ジッと京の顔を眺め、コクコクと頷く。

 よかった、一応は認めてくれたようだ。

 箪笥の中は京の自宅、ツェルニの家と繋がっているのだ。

 行きは長旅、帰りは早い。

 そこにキールが帰ってきた。

 

「それは…、ありがとう」

 

 それは箱だった。質素だがそれはどこか品があり、大事なものである事がわかった。

 

「んじゃ、帰るぞ」

 

「ぁ…あの…」

 

 そう言う京にリーリンは少し躊躇していたようだった。

 それはそうかもしれない。

 突然現れたキールの飼い主という化け物染みた容姿の男、そしてこの世界の住人からは奇怪としか見られない力を使っていた。不審がられても仕方ない。

 だがリーリンは京の提案に乗るしかないのだ。

 

「別にバスに乗ってツェルニに行くこともできるけど、おそらく半年は掛かるよ」

 

「ぇ?」

 

 その言葉はリーリンにとっても予想外のことだったようだった。

 

「どうして?」

 

 リーリンの疑問は確かだ。

 それに京は答える。

 京も一時帰還を負傷とは別の理由でもう決めていたからだ。

 

「今この都市は汚染獣に侵攻されている。現状ならおそらく撃退できるだろう。だけど汚染獣がこの辺りにいるということはバスは当分来ない。来たとしてもそのバスがツェルニを経由する確証もない」

 

「ぅっ…」

 

「まぁ、1ヶ月もすればバスは動き始めるだろう。もしかすればそこに運よく現れたバスで行けた…、ということはないんだ」

 

 そう言って京は指を向ける。

 そこには特になにもない荒野が広がっていた。

 だが京の目には見えている。あの先に何があるのか

 

「ツェルニがこっちに向かってきている」

 

「ぇ? まさか…」

 

「あぁ、そのまさか、武芸大会さ」

 

 京が飛び立って、キール達のいるマイアスを見つけた時点でわかっていたことだ。

 武芸大会が始まろうとしている。

 これは小隊員でもあるメイシェンの装備として京は戻る必要があるということ。

 そしてリーリンにとっては

 

「武芸大会が始まればバスは当分来ない。戦闘が始まれば君はシェルターに避難だ。ツェルニに移る時はこない」

 

 京の提案を受けざる得ないという事だ。

 

「無理にとは言わない。キール達の恩人だ。尊重しよう。だけどこのままではツェルニに着くのはいつになるかわからないよ?」

 

 そこまでだった。

 そんな現状になっているとわかれば躊躇などしていられない。

 

「わかりました。お願いします」

 

「じゃぁ、その箪笥の中に入って」

 

 リーリンが戸惑うように箪笥の中に入っていく。

 その後姿を京はじっと眺めていた。

 新たな力が宿った左目はじっと、じっと、興味深そうに見つめていた。

 

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 

「そろそろ機嫌を…」

 

 カチッ。

 

「ぁっ! ちょっ……」

 

 あれからメイシェンはあまり機嫌がよろしくなかった。

 京が何とかしようとしても即ピンクローターに封印され取り付く暇もない。

 何故ここまで怒っているのか

 何も話そうとしないからだ。適当にはぐらかそうとするからだ。

 突然どこかに行ってしまい心配したと思えば大怪我をして帰ってきて更に心配した。ついでに知らない女を連れてきた……それはまぁ原因の1つだ。

 メイシェンが家を出ると同時に封印から開放される。

 

「あぁ…、どうしたものか」

 

 開放された京はどうしようかと頭を抱える。

 もう既に巻き込んでいるのにこれ以上巻き込むのもどうかと思う。そして危険だ。

 天剣授受者が京の予想を遥かに超えた強さを持っていた以上、本格的に生き死にの世界に突入するのは間違いない。そして、メイシェンを守る余裕も京にはない。

 そして話さないとどうなるか

 すずか誘拐の事件がフラッシュバックする。話していればあそこまで酷い事態にはならなかった。そしてその再現を行う気は全くない。

 つまり、話してどうにかするしかないのだ。

 

「しょうがない…」

 

 隠すべきところは隠して話してしまおう。

 大幅にニュアンスを変えた説明を聞いて納得してもらえればいいが

 そう思いながら気分転換に外に出る。

 都市内はどことなく緊迫した空気に包まれていた。

 京がカリアンに都市の進行方向にあるものを教えた為、来るべき戦いに備えてより実戦的な練習や集団行動などの修練に明け暮れている。

 何しろ先が無い戦いなのだ。負けられない戦いになることは必定だった。

 メイシェンへの言い訳を考えながら歩いていると夕方になっていた。

 何時間考え込んでいたのやら

 すると見知った人影に出会った。

 

「ぁ…、こんにちわ」

 

「…こんにちわ」

 

 レイフォンだった。

 こちらに気付いたように振り替えると少し戸惑うように挨拶をしてくる。

 それに釣られて京も返した。

 京はあまり小隊員とは仲が悪くはないが良くもない。そしてそこまで関係しようとも思わない。

 何故ならここにいる時は自分はあくまで道具として役割を果たすだけだから

 

「あの…、リーリンのこと、ありがとうございました」

 

「あぁ、いいよ。別に」

 

 事も無げに答える。

 そして礼を言わなければいけないのは京も同じだからだ。

 

「キールとジバクくんが世話になったって聞いたよ、ありがとう」

 

「いえ…、世話になったのはこっちも同じなので…」

 

 そう返されると再び2人の間に静寂が訪れた。

 あまり会話が続かない。

 しかし、レイフォンはそうではなかった。

 

「サヴァリスさんと戦ったって本当ですか?」

 

「うん、確かだよ」

 

「そうですか…」

 

 レイフォンはそれ以上問わなかった。

 どちらが勝ったか、そういう意味ではない。

 サヴァリスがあの場所にいたのが問題なのだ。

 それはリーリンと共に居合わせていた理由も考え、今までの事件を察すると答えは出る。

 

「廃貴族が狙いでこっちにやってこようとしていたのは間違いないと思うよ」

 

「やっぱりそうですか」

 

 ハイアのいたサリンバン教導傭兵団、狙いは廃貴族だ。そして何故廃貴族を狙っているかといえばそれはサリンバン教導傭兵団のバックにいる存在が欲しているからだ。

 その名は槍殻都市グレンダン、その王家の命令でサリンバン教導傭兵団は結成され、長い時を掛けて探してきている。これは全て隠すほどのようなことでもないようだった。

 廃貴族が発見され、そのことをグレンダンに報告したのだろう。そして派遣されていたのがサヴァリスである。

 廃貴族を手に入れたところで天剣授受者には到底敵わないと京は見ているがまだ別の使用法があるのか、更に力を王家は求めているか、それは定かではない。

 

「当分は来ないだろう、そこそこに重傷は負わせたし」

 

「グレンダンに戻ってツェルニまで来るには相当時間掛かりますからね」

 

 戦いの件は深く話していなかったがなんとか受け入れてもらっていた。

 

「当面の問題は回避できたわけだが」

 

「まだサリンバン教導傭兵団が残ってます」

 

 あれだけの騒ぎを起こしていながらサリンバン教導傭兵団は追放されていなかった。

 もう1つの顔でもある教導部隊としての力は未熟者の集まりであるツェルニにとっても重要な話だからだ。

 そして虎視眈々と教師面の影で狙っている。

 回収してくれるならありがたい話だ。だが器ごと、そしてそれがツェルニの生徒である以上、ツェルニに準じる者達はそれを許す事ができない。

 

「たが廃貴族はあの状態だ」

 

 京が退魔の剣で斬ったことにより、廃貴族の様子は変わってきている。

 誰に取り付くでもなく、未だツェルニを徘徊している。

 器に入っていない以上、捕まえるのは不可能だ。

 何か行動を起こすとすれば都市に危険が迫ったときか、あるいは…

 

「様子見でいいと思うけどね」

 

 そう言って京は笑った。少しだけ任せろと胸を張るように。

 先の事がどうなるかなどわからない。その時、なんとかすればいい。

 釣られてレイフォンも笑った。

 

「そういえば隊長、怒ってましたよ」

 

「……」

 

 そこで急に話が変わった。

 ちょっと痛いところを突いてくる。

 レイフォンは更に続けた。

 

「メイも元気ないし」

 

「ぅっ……」

 

「あなたがいない間、欠員が出たんでゴタゴタしたんですよ」

 

「…それは…すまなかった」

 

 京が帰ってくると、第17小隊に新たなメンバーが加わっていた。

 それはかつて戦った第10小隊の副隊長ダルシェナ・シェ・マテルナだった。

 隊長が廃貴族によって倒れたため、そのまま瓦解するように解散したのをシャーニッドがどんな魔法を使ったかはわからないが勧誘してきたのだ。

 メイシェンはもう立派に前衛役を務めていた、それがいなくなった時の穴は大きい。

 その原因を作った京に対して隊長のニーナは怒っていた。

 

「明日会ったら、怒られますよ」

 

「引き篭ってるから大丈夫だ」

 

 それは勿論ピンクローターの中に

 これからは忙しくなるだろう、あと1ヶ月程でマイアスと対戦だ。

 そしてまだメイシェン強化プランは進行している。

 サヴァリスとの対戦で思うところもあった。多少の軌道修正も考えなければいけない。

 そしてその前に

 

「その前にメイと早く仲直りしてください」

 

「…ごめんなさい」

 

 なんだかんだで内情は筒抜けだ。

 それは誰のせいかと思うとツインテールの少女が目に浮かんだ。

 

「それじゃぁ」

 

「また明日」

 

 そうしていつの間にか別れていた。

 レイフォンの背を見送りながら思う。

 優しそうに笑ったレイフォン、いい奴なのだろう。

 先天性鈍感病がなければもっといい奴なのに

 そう思いながら帰路に着く。

 外から見たアパートの窓からは光が漏れていた。

 もうすでにメイシェンは帰宅しているのだろう。

 

「…………………よし」

 

 気合を入れ、アパートに入ってゆく。

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 

「まっ、そういうわけだ」

 

「ふーん……」

 

 結論から言うと、土壇場でヘタレた京は帰還という目的や介入という手段は全く語らず、キールとジバクくんを迎えに行っていたという言い訳にも似た説明によってギリギリで切り抜けてしまった。

 メイシェンも納得できなさそうな顔をしながら一定の理解を示してくれた。

 キール達はフラフラとどこかに行っている。長い間1つの都市に縛られ窮屈だったのだそうだ。

 

「もうどこにも行かない?」

 

「当分は…」

 

「じゃぁ、許します」

 

 武芸大会が終わるまではそのつもりだ。

 2つか3つの都市と戦うこととなるだろう。最低でも2勝はしなければならない。

 少なくとも1ヶ月後が始まりだ。

 

「頑張らないとね」

 

「うん」

 

 武芸大会が迫っている。

 そして別のモノもまた迫ろうとしていた。

 1つの都市と空に浮かぶモノ、それはまだ先のことだがその渦中に入るのか、蚊帳の外となるのかはまだわからなかった。

 




50話目に入りました!
なんだかんだで続けられそうで良かったです。
まだ第2部に入ったばかりですがこれからも頑張ります。
オリ展開出来ればいいなと思いましたが固定イベントで進むレギオスでは難しく、進行を変える程度が私の限界だったようです…。

やっぱり日常回ってあった方がいいですか?

感想など、お待ちしております。
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