グレンダンと分離マザーIIIドゥリンダナとの激しい戦闘が行われている。
空は雨が降っていた。違う、雨のごとき汚染獣弾がグレンダンに降り注いでいたのだ。
その数はもはや万では効かないだろう。降り注ぐ汚染獣1体1体がそこらの雄生体レベル、それが途方も無い数で絶え間なくドゥリンダナから生まれグレンダンに降り注いでいる。
こんな攻撃を食らえばひとたまりも無いだろう。普通の都市なら一刻と持つはずが無い。
しかし、ここはグレンダンだ。最終戦争の最前線にして、眠り姫を守る最強の剣がいる最強の都市。
都市の一角から、光弾が射出されている。
その光弾は万単位の汚染獣弾を一発も外すことなく、正確無比に打ち抜いていく。
その現実離れした正確さもさることながら、光弾は剄を濃縮し打ち出した剄弾と呼ばれるエネルギー弾だ。それを絶えず撃ち出し続ける彼女の剄の内蔵量も驚嘆すべきことの1つだろう。
バーメリン・スワッティス・ノルネ
不健康そうな白い肌と奇抜な黒い衣装を着た20代の女性。
バズーカ砲のような天剣スワッティスを持つ天剣授受者の1人、汚染獣弾の大半を冗談染みた砲撃で撃ち落しているのは彼女だ。
そして地上から放たれる光の中で、一際眩い一筋の光の筋が空を割り、ドゥリンダナに着弾、巨大なクレーターを作り出した。
ティグリス・ノイエラン・ロンスマイア
がっしりとした体付きに長い髭を伸ばした好々爺といった印象の老人。
長弓型の天剣ノイエランを持つ古参の天剣授受者の1人、齢80は超えようかという年齢ながら鍛え抜かれた肉体と練り上げられた剄は衰えを見せる気配が無い。
バーメリンとは違い、長弓は連射ができない。その代わり、一撃に練られる剄は段違い、閃光を発するレベルまで練り上げられた矢は発射されると同時に周囲に暴力的な衝撃波を発しながら通り過ぎた汚染獣弾をミンチに変え、着弾し凄まじいインパクトを発生させる。
更に空に2つの影が現れる。
グレンダン唯一のコンビを組む天剣授受者、最強の矛と最強の盾の異名を持つ矛盾コンビだ。
空の一角に一際多くの汚染獣弾が舞い落ちる。
それを見計らったように1つの影がその目の前に立ち塞がった。
―――金剛剄・壁
広大な壁となって展開した金剛剄は汚染獣弾を1つ残らず防御し、反射によって圧殺した。
リヴァース・イージナス・エルメン
小さな背丈に全身をくまなく分厚い鎧が覆っている。
全身鎧という攻撃を全く度外視した天剣イージナスを持つ天剣授受者、その特性は究極の防御。
彼は金剛剄だけを練り上げ、最奥の域にまで至った武芸者。彼の技をコピーしたレイフォンや教えられたニーナ、彼等の金剛剄などリヴァースに比べれば児戯にも劣る。
そして、彼に守られる最強の矛、リヴァースを飛び越えて最前線へと躍り出た。
―――餓狼駆
飛び出したのは改造した都市外装備に身を包んだ長身の女性。
手に持つ青龍偃月刀を構え、振り下ろす。
その一撃は餓狼の駆ける爪撃、一直線に伸びる斬撃は、ドゥリンダナを抉り、削り、貫通した。
巨大なドゥリンダナに数穴が空けられ、月明かりが彼女を照らす。
カウンティア・ヴァルモン・ファーネス
青龍偃月刀型の天剣ヴァルモンを持つ天剣授受者、防御を全て無視した超攻撃型の戦闘スタイルは攻撃力において天剣の中でも屈指の実力を誇る。
京はその様子を横目に彷徨っていた。
おそらく見えている以外でも他の天剣授受者達は仕事をこなしているのだろう。
派手な戦闘だ。
しかし、これだけ善戦していても今行われているのは防戦、ドゥリンダナに致命的なダメージはなく、消耗も見られない。
与えられたダメージも即座に再生されている。
何か一手が足りない。そう思わせる戦いだった。
まぁそれも今はどうでもいい。
「ちっ……」
路地裏をゆっくりと動きながら京は息を整えていた。
わかっているが消耗が激しい。出血は止まったが体中が悲鳴を上げている。
自分が直接動く類の能力はほぼ使えないといっていい、それは京の大半の手札が使えないということだ。
当ても無く彷徨っているのはその為、今の自分にここがどこかというのはわからない。
「フェリ、いないか?」
ほんの試しに虚空に向かって話しかける。
だが予想通り、返事はなかった。いればあちらから話しかけていることだろう。
何者かに念威を妨害されている可能性が高い。
「どうするか」
京の今回の目的が失敗という結果で終わった以上、やることは無くなった。
あとはレイフォンに言っていた通り合流したい。足手纏いが増えるだけだが自分のことはまだ何とかできる。
が、合流しようにもどこにいるかもわからないのでどうしようもなく、道中の武芸者に見つかろうものなら面倒なことになるのは必至、結構色々と拙いこととなっている。
さっそく手詰まりだ。
何か手はないかと考えていると
『お困りのようですね』
京の耳に直接声が響いた。しわがれた女性の声だ。
京に念威が来ている。
「誰、かな」
突然話しかけられたことに若干の驚きを感じ、同時に警戒する。
ここはグレンダン、孤立無援の状態の自分を察知し話しかけたということは何らかの目的、思惑があるということだ。
『これは失礼、私、デルボネ・キュアンティス・ミューラと申します。それだけで通じてくださると手間が省けますわ』
「……天剣が俺に何の用かな」
天剣授受者全ての概要はレイフォンから聞き及んでいる。
デルボネ・キュアンティス・ミューラ
天剣授受者唯一の念威操者、天剣キュアンティスを持つ最高の念威操者である。
天剣と合わさった彼女の念威はおよそ際限というものがない。
探査、探知、通信という点において数百キロメルを超える広大な領域は全て彼女の手の平の上だ。しかし、それでもレヴァンティンの解放は見透かせなかったようだが
して、その天剣が自分に何の用か、敵対行為はしていない、それっぽいことはしたが、あまり目的という目的が思い浮かばずデルボネの言葉を京は待った。
『いえね、お困りのようでしたので手を貸そうかと』
「願ってもない話だ。でも、そんなことをしているなら空のアレを何とかするのが先決じゃないか?」
京にとっては願ってもない提案、しかし、それを素直に鵜呑みにするほど京は純粋ではないし馬鹿ではない。
当たり障りのない返答をして、相手の出方を窺った。
『勿論ですわ、それをあなたも手伝ってくれれば助かります』
なるほど、食えない婆さんだ。
しかし、今の京は何もできない。
「この有様で何かできるなら初めから手助けを必要とはしていない」
『本当に?』
「……」
以前、同じやり取りをしたことがあった。
同じ念威操者が言った言葉。そして、この展開は2回目、ということだろう。
あぁ、なるほど、と京は思う。
あの老生体との戦いを見ていたのは女王だけではなかったというわけか
まったく、念威操者というものはプライバシーもあったものではない。
『あの異質な力、あなたの力はあれが全てではないでしょう?まだ隠し種があるのではなくって?』
ほら、きた。
「意外と突っかかってくるね」
それは事実だが相手からすればそれは予想だ。その言葉の中には希望的観測といったものが含まれている。
やけにこだわるなと思った。
『えぇ、現状は切迫しています』
「それはどうして、善戦しているように見えるけど」
見れば防戦とはいえ、拮抗している。
そして、あの女王様が前線に出てきていないのだ。まだグレンダンは全力を出しているわけではない。それをして状況が切迫しているということは京の知らない何かがあるということなのだろう。
『確かに、アレに対し私達天剣は遅れを取っていない。しかし、それがいつまでも続くわけではないのです』
なるほど、真理だ。天剣授受者の規格外の剄の内臓量といえどそれには限界というものがある。あの猛攻を凌ぐだけで相当な力を使っていることだろう。
しかし、それだけでは明確な答えになっていない。
「倒す策は?」
『眠り姫曰く、あれは膨大なナノマシンの集合体、しかし、あの巨大な質量を統率するためにはコアが必要、それを叩けばいいということです』
ドゥリンダナはナノセルロイド、あの巨体全てがナノマシンによって構成されているということだ。ナノマシンはその1つ1つが機械、巨大な体を維持するためにはそれを統率するコアがあるということ、それを見つけるのは至難、あの巨大すぎる体からコアを見つけるのにどれだけの時間がかかるか
「なるほど、なるほど。問題はそのコアの在り処というわけだ」
『その通り、多少時間をかければ私が見つけ出します。しかし……』
―――その間に天剣がいくつか欠けるだろう
「……」
京はそれを黙って聞く。
まだあるのだろうと
『そして、そのコアを狙い撃つのはアルシェイラ様、しかしあの方の本気は都市が耐えきれたとして1発、それが外れれば終わりです』
女王が実質動けない。動けば強すぎる存在に都市が耐えられないから、それをするということは最後の一撃に限られる。
つまりはこういうことだ。
少しの間、何人かの天剣を犠牲にしてコアを探索、それが見つかり次第、女王が前線に出てコアを潰す。
なるほど、勝利への筋書きはできているというわけだ。
そして、この声の主は欲張っている。
『誰も欠けて欲しくない。そう思うのは欲張りかしら?』
「なにもそうと決まっているわけではないだろう」
『長年グレンダンを守って、全てを見渡してきた老いぼれにはある程度見えるのです。この空気と流れ、これは犠牲がある脅威だ、と』
その言葉を一笑に付すことは京にできそうにない。
戦いにおいての年季が、経験が違う。それを否定する材料は京にはない。
彼女も覚悟があるだろう。自らも死ぬという覚悟を持っている。周りの犠牲さえも黙認する覚悟も持っている。
しかし、彼女の手の平の上で、また別の結末を見せてくれるであろう可能性を見つけてしまった。
今の時間さえ惜しいだろう、それを態々割いてまで京に念威を飛ばしている。
「残念だが今の俺ではどうにもならない」
『……そう、残念です」
「だけど」
今の京にあれを倒すという手段はない。新たな能力も1つたりとも思いつかない。
だが、しかし
「可能性がないわけではない。だから、連れて行ってくれ」
京にはどうしようもない現状、それは
そしてこれは同時に賭けだ。
案内している時間など本当はない。それを押して京を手助けする。それによって別の結末を見ることができるか、それとも目論見は外れ、予想よりも多い犠牲を払うか
鍵を握るのは一人の少女だ。なんの力も持たない一人の人間だ。
デルボネは選択する。
『いいでしょう』
「わかった」
探し人の特徴を伝え、即座に見つけ出したデルボネが案内を始める。
軋む体に鞭を打ち、京は駆け足で進んでいった。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
「痛い、痛い、痛い」
「死にたくない……死にた……」
レイフォン一行は道中、戸惑いを感じ始めていた。
ハイアとクラリーベルの戦いによって注目が始まり、グレンダンでは有名人であるレイフォンが人目につこうものならその動揺は一気に広がる。少し前までは多数の追手などがやってきていたのだ。
しかし、今はその影はなく、通りには血の跡や倒れ伏している武芸者、中には死体も見え隠れしている。
何故こんなことになっているのか、それは見なくてもわかる。
空に映るあの存在のせいだ。
舞い落ちる汚染獣弾、それを撃ち落とす天剣達、その撃墜率は99.999%、しかし、100%ではないのだ。
撃ち出した汚染獣弾は億に達しようとしている。その撃ち洩らしがグレンダンで暴れているのだ。
何も戦う者が天剣だけというわけではない。グレンダンの武芸者達は対陣を引き、それを統率された動きで狩っていく。
戦いは本格的に広がっていた。それはもうレイフォン達に構っていられないということでもある。
「……」
酷い惨状、ツェルニではほとんど汚染獣を都市内に入れることはなかった。入れた結果は目の前の現実が物語っている。
例えグレンダンの武芸者達が強いといってもドゥリンダナから放たれる汚染獣もまた通常より遥かに強いのだ。むしろ、よく戦っているといえる。しかし、それでも武芸者の数は刻一刻と減っているのだ。
その光景はレイフォン以外の者達にとって生存戦という戦いがどいうものか知り、息を呑むには十分な光景だった。
「レイとん……」
そこでメイシェンが口を開いた。
「今、探す必要はあるの? 手伝わなくて、いいの?」
「……」
それは皆、心のどこかで思っていることだった。
攫われたリーリン、だが今のこの状況はもうどうこうする状況とは違う別の大きな問題があるのではないか、つまり、2つの都市の存続の危機ということだ。
グレンダンがやられれば必然的にツェルニも滅ぶ。
連れ戻しても帰る場所がないのでは意味がない。それは誰にでもわかることだ。
「レイフォン」
ニーナが前に出た。
それをレイフォンは手で制す。
「いえ、わかってます。メイの言う通りだ」
レイフォンもリーリンが攫われ、心に刺さるやり取りがあり、更に己の初心を取り戻す。短時間で様々なことがあり、焦る気持ちと冷静さが足りていなかっただけだ。
己の守るべきものがリーリンだけではなく、グレンダンにいる家族もいると再認識するには十分すぎる言葉だった。
「加勢、してきます」
「でもよ、お前はグレンダンを追放扱いじゃないんだっけ?」
「こんな状況でそんなこと言いはしないでしょう」
何も言われないということはないだろうが戦いが終わるまでは敵対されることはないだろう。
基本的に天剣は単独で動くことがほとんど、彼らの邪魔をすることもない。
「ま、確かに」
「しばらく、安全なところにいてくれませんか?」
「あぁ、わかった」
それを了承して、レイフォンを送り出す。
それを見送るのは4名、ニーナ、シャーニッド、フェリ、メイシェン、その中でフェリを除く者達は共通の思いを胸に抱く。
無力感。
共に行くと言わなかったのはそれがもはや自分たちの手の及ぶ範疇ではないとわかっているから
連れ戻しにグレンダンに潜入するまではこんなことになるとは誰も予想していなかった。今ならわかる。京が指をさした方向が意味することを
各々が目的を持って戦闘に臨んでいる。だが自分たちにはそれに参加する資格が、実力がない。
ニーナはメルニクスがいる。まだ扱い切れていないとはいえ歯噛みする程度だ。
シャーニッドは現実を割り切って見て、納得することができる。
しかし、3人の中でメイシェンには無理だった。
「どうして」
メイシェンの呟きは誰にも聞こえることがなかった。
どうして、こんなことになっているのか
どうして、ここに京がいないのか
どうして、力を自分に貸したのか
誰かの為になる力があるなら助けたいと願ったではないか
ならば何故京はここにいない、この状況を打破することができない。
送り出すことしかできなかった自分が恨めしい、レイフォンが羨ましい。
力を得ることがなければ今頃きっとツェルニで震えているだけだったはずなのに、今では別の思いが胸を締め付ける。
いつも一緒だったのに
手に握る宝玉も時ではないと発動する兆しは無い。
「どうして」
その時、影が頭上を覆った。
「ちっ!?」
シャーニッドが小脇にメイシェンを抱え、その場を脱する。
体勢も何もない緊急回避による咄嗟の行動、隣にはフェリを抱えたニーナの姿もある。
滑るように4人は地面を転がった。
「っっ」
痛みに顔を歪ませながら感覚が鋭敏なニーナとシャーニッドの2人は目の前に現れた影に眉をひそめた。
拙い。
あれは、自分たちの手に負えないものだ。
人型の汚染獣、基本的に虫に似た形の汚染獣、老生体にでもならない限りその形態に違いという違いは特にない。では目の前のアレは何か、例外というわけだ。そんな例外はいらないし、きっと碌なものではないのだろう。
「2人とも離れろ!!」
ニーナが叫ぶ。
ビクリとメイシェンの肩が震える。
また、守られてばかりか
「行きましょう」
沈黙するメイシェンの腕を掴んでフェリが走り出す。
「先輩たちは……!」
2人だけであれは、きっと
「それでも、私達は邪魔なだけです」
抑揚の無い声で、それでもフェリの顔には焦りの色が浮かんでいた。
これからどうなってしまうか、予想がついているように
振り返れば汚染獣が今まさに腕を振り下そうとしているところだった。
振り下ろされたらどうなってしまうのか
きっと、きっと
つい、つい立ち止まってしまって、その光景を見つめてしまった。
でも誰もが思い描いた光景は
―――七つ牙
それを裏切るものだった。
「ハッハァー!」
突如として7つの竜巻が汚染獣を取り囲み圧殺した。
小さな小さな肉片となって散らばった汚染獣は、いとも簡単に滅殺されてしまったのだ。
何があった。今の一瞬で、何が起こったのか
汚染獣がミンチに変わるまで、それは刹那の間だった。この現状を把握できるものはこの中で起こした張本人しか知りえないだろう。
呆然と固まる4人をよそに、1人の人影が舞い降りた。
「大丈夫かな? 麗しいお嬢さん」
舞い降りた男を一言で表現するならこう答える。
軽薄。
白いハットとコート、オレンジ色のサングラスを掛けた見るからに軽そうな男、彼がこれを起こした張本人だ。
この中にいる者は彼の名を知らないだろう。
だがグレンダンにおいて彼は有名人の1人だ。
トロイアット・ギャバネスト・フィランディン
ロッド型の天剣ギャバネストを持つ天剣授受者の1人、化錬剄を得意とし、剄を様々な形で変化させ戦う様は魔法使いの如き姿に見えるだろう。見た目は手品師のそれだが
「え、えと。あの、ありがとうございます」
そして、彼の特徴として
「お礼はベットで」
女好きというのがある。
「……は?」
その瞬間、女性陣は固まった。
シャーニッドだけが興味深そうに頷いている。
「あぁ! いや! 未成熟な果実に手を出すのも……、いや、しかし、1年、いや2年あればもっと……」
勝手に悩んでいるトロイアットに周りが抱いた感謝の気持ちというものは消え失せた。
だがその冷たい空気にトロイアットは気づくことは無い。
皆が顔を引き攣らせたのは言うまでもなかった。
「ぇ? 早くしろと? わかってます、わかってますって! そう急かさないでも、あぁ、はいはいわかりましたよっと」
突然独り言のように呟きだしたトロイアットはしょうがないなと肩を竦ませ、メイシェンへに体を向けた。
「な、なんですか?」
二歩三歩と後ろに下がり警戒する。
命の危機より貞操の危機を感じた。
そこにズビシ、とトロイアットは指を向けた。
「往くがいい、君の求めるものはそこにある」
キリッとした顔でかっこいいこと言ったと格好付けているがいい加減威厳がないことに少し気づいて欲しい。
「そして……、あれ?」
そして二の句を告げようとしたとき、そこにもうメイシェンはいなかった。
「ま、やることはやったんで、あとはお任せしますよ、と」
ハットを目深に被り、跳躍、再びトロイアットは戦場に行ってしまったのだった。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
走る、走る、走る。
指を指された方角に、きっと彼はいるから
息も絶え絶えに、足を速めるその先に
逸る気持ちを押さえつけて、メイシェンは地を蹴る。
「ぁっ!?」
何かに躓いて、メイシェンの体勢が崩れる。
それを
「おっと」
誰かが受け止めた。
「まったく、一人にしたくないから頼んだのにレイフォンは一体何を……」
それはずっと想っていた人で
「京!」
「無事で何より」
そう言う彼は無事ではなかった。
いつに無く酷い姿
どんな言葉を掛けたら言いかわからない。
心配の言葉を投げるか、労いの言葉を掛けるか、それとも怒るか
でも今掛けるべき言葉はそれではない。
「京」
「なんだい?」
「あなたはこれを止められる?」
「残念だけど、もう無理だ」
「なら、私なら」
「できるとも、君が望みさえすれば、だって俺は」
君の物だから、勝手にどこかに行ってしまうことも多いが、それはこの世界で変わらない。
「うん、そうだよね、そう、だよね」
彼の言葉を噛み締めて、私はアレの目の前に立つ。
目の前の空に浮かぶ異形の化け物
怖くなんてない、恐れてなんてやるのものか
「ナノセルロイド・マザーⅢ・ドゥリンダナ、グレンダンを覆い隠す化け物、分の悪い相手だね」
させない、させない、お前になんて
あらゆる攻撃を無に変え、自らの分身を産み落とし続ける化け物
お前になんて、やらせない。
「言って、私はなにをすればいいの?」
合体もできない。ただの人間に何ができるのか
「命じればいい」
「俺は今から騎士となろう」
「汚染獣の頂点に立つ1つの化け物、だが、俺の影は砕けまい」
さぁ、命令を
「京、お願い」
「イエス、マイマスター」
――――紫影のソナーニルよりA、クリッター使い――――
彼の、京の影が、ゴボリと波打って
「さぁ、来い」
それはカタチを造っていく
「女王の言葉を借りて。来たれ、我が影、我がカタチ」
それは蠢く様に、這い出るように、飛び出すように
溢れ出る。
マスターたるメイシェンの言葉を借りて、それは正しくカタチを造っていく
それは鋼、メイシェンを守る鋼の従者
それは影、ブリキの木こり
それは騎士、愛をなくしたブリキの男
その名を、私は知っている。
――――両断するもの
「勇壮なる
鋼が軋む音と共に、それはやってくる。
女王に仇名す敵を両断せんが為に
「強固なる鎧の守り――――」
彼の影から現れる。
「そして、両断する
その名は
「勇壮なる鋼の騎士 クリッター・ランバージャック!!」
申し訳ありません。
めちゃくちゃ長くなりそうなので戦闘はぶった切らせていただきました。
次回がメイン戦闘となります。
スチームパンクシリーズ5大チートの1つ
お分かりの方はお分かりかと思います。
次回、第2部完! メイシェンアルティメットモード、乞うご期待ください。
感想などあればとても嬉しいです。