マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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先日、プロローグを完全改稿したのでよろしければ見てみてください。


第61話

「やってくれるよ、本当に」

 

 京の目の前には小さな都市が見えていた。

 おかしな都市だ。自律型移動都市(レギオス)とは円形の土台の上に都市が立ち並んでいるもの、しかし、ほとんど建築物という建築物が見当たらない。これは移動型円形台だ。

 そして、その外延部には一人の老人が椅子に腰掛けながらツェルニを見ていた。

 今回の厄介事の主だろう。面倒なことをしてくれる。

 目的はわかる。すなわち、レヴァンティンに関する事、おそらくは殲滅だろう。でなければこんな堂々と接近するわけはない。そしてこれは京にとっては看過できないことだ。

 あのまま都市と都市が接近し乗り込むとか、ハッキリ言って冗談ではない。そしてレヴァンティンとの戦闘に発展、そのまま両都市が崩壊、予知しないでもわかることだ。

 いや、その前に

 

「その前に終わる、か」

 

 ツェルニと小型都市の間、そこに巨大な人型汚染獣が発生(・・)していた。

 それは一から形作られるように、骨格を構成し、肉が生まれ、それは汚染獣を構成していた。それはツェルニから守るように立ち塞がって、小型都市を迎え撃とうとしていた。

 十中八九これをやっているのはレヴァンティン、京が察知できてレヴァンティンが察知できないはずはない。最も簡単な方法、迎撃という形で歓迎しようとしているのだ。

 京は思案する。

 さて、どうしたものか。敵の戦力というものはわからないがこの世界で戦ってきて最も強かったと思うのがレヴァンティンだ。互角とはいかないだろう。

 京の取りえる行動は3つ、無視を決め込むか、レヴァンティンに加勢してあの都市を近づけさせないか、小型都市に加勢するか、だ。

 これに正解はないだろう。自分のメリットとなりえる選択肢を選ばなくてはならない。

 そして、決めた。

 

「まぁ、とりあえず」

 

 止まってもらおうか

 あの都市に加勢するも、加勢しないもまずはツェルニに近づけさせないのが第一、余計な厄介事を運んでくる前に止まってもらう。

 既に都市は射程圏内、なるべく穏便に止まってもらうとしよう。

 京は右手を頭上に掲げる。

 そして

 

 パチン。

 

 指を鳴らした。

 瞬間、空から、雲を割って

 何かが飛来した。

 ここからでも聞こえるような衝撃音と共に直撃した都市は停止する。

 それと共に、京は停止した都市に乗り込んでいった。

 

「……へぇ」

 

 都市に降り立つ。

 なるほど、面白い都市だ。

 そして

 

「お邪魔しているよ」

 

「何者だ」

 

 都市の主がそこにいた。

 京の首筋にはニーナのものより細い鉄鞭が添えられ、こちらに敵意を向けられていた。突如現れた相手としては妥当な行動だ。

 敵意の目を向けるのは一人の老人。

 黒い礼服に身を包んだ白髪の男、しかし、体から発せられる剄は天剣授受者にも劣らない。

 京はそれに黙って親指をツェルニのある方に向け、ジェスチャーで示した。

 

「学び舎にお前のようなものがいるものか」

 

 それは至極尤もな感想、そしてその後に続けられる言葉は2人共に同じものだ。

 

「「邪魔をするな」」

 

 火花が散った。

 

「余計な事をするな、これは俺が処理する」

 

「ここは己の戦場だ。若造、邪魔をするな」

 

 互いに平行線、相手側の決意は固そうなだけに両者は対立したまま動かない。

 しかし、この現状で有利というなら京だ。

 

「なら、永遠に停止してもらう」

 

 京と老人、そこにいる外延部に再び空を割って何かが飛来した。そして都市に当たるか当たらないかというほどスレスレで着弾する。

 ニッと不敵に京は笑った。

 

「これを仕出かしてのはお前か」

 

「そうとも」

 

 小型都市に一撃、そして今の一撃、その着弾点からは大きな植物の芽が出ていた。

 これを行ったのは京、あの戦いが終わってから真っ先にしたこと。

 対遠距離砲撃型汚染獣の秘密兵器、空を越えて宙を漂う植物で出来た衛星、そこから発射された植物の巨大な種がこの攻撃の正体だ。自らが出張らずとも仕留められる攻撃手段、問題は衛星を打ち上げるのに多大な時間と労力を払うこと、そして最近になって完成したものだ。

 

「貴様……」

 

「次は外さない」

 

 この世界において、京が強力な武芸者に対して優位に立てるものとは都市外での行動が出来るという点である。

 生身で行動可能ということはそれだけで有利、他の武芸者は一撃を貰えばそれで都市外装備が壊れアウト、同様に都市が死ぬということは汚染物質から守られなくなる。

 この状況は京にとって有利、迎撃されようと弾数はほぼ無限、都市に照準した時点で老人に勝つ手段はない。

 

「目的もわかる。狙いもわかる。だが、ここは引いてもらいたい」

 

「……」

 

「頼む」

 

「……いいだろう」

 

 京が選んだ選択肢は折衷案、老人は敵ではない。むしろ共通の敵を持つ味方といって差し支えないだろう。

 立場が逆なら同じ事をしている。多少の犠牲は已む無し、それにも賛同する。だが失ってはいけない犠牲というのもある。だからこそ威嚇を以って頼んでいる。

 そして、老人はそれを了承する。

 それを聞いて京も胸を撫で下ろした。

 

「……まったく、とんだ邪魔が入った」

 

 ギシリと軋む音を立てて、老人は椅子に腰掛けた。

 

「すまないね」

 

 緊張が解けたように京は地面に座り込む。

 とにかく不毛な争いの可能性はなくなった。

 

「あなたは何だ? グレンダン以外にもイグナシスの真実を知って戦おうとしている者がいるのか?」

 

 それは最初から思っていた疑問だった。

 レヴァンティンとわかっていて撃滅に動こうとしている時点である程度は把握しているのだろう。そして、他の天剣も見られず、単独でレヴァンティンに挑もうとしているということはグレンダンとは別の組織と考えても考えすぎではあるまい。

 

「そうだな、あえて言うなら電子精霊側、といったところか」

 

「……知らないな」

 

「そういうお前はグレンダン、いや眠り姫の側か」

 

「一応は」

 

 互いに沈黙が支配する。

 電子精霊側とグレンダンとの間は仲が悪いのだろうか、そんなことも思ってしまう。

 

「差し支えなければ教えて欲しいんだが」

 

「教えたところで何も得るものはないだろうが、いいだろう」

 

 リグザリオという人物がいた。かつて亜空間増設装置を作ったアルケミストの1人だ。彼女はアイレインとサヤの旅に同行し、世界の結末を見届けた。そしてサヤの作った世界に生きたままいたのだ。サヤは取り込んだ人間の魂を内包し世界を構成したが、人々が生きる基盤、すなわち自律型移動都市(レギオス)を作ったのはリグザリオなのだ。

 仙鶯都市シュナイバルにあるリグザリオ機関、人工子宮のような装置によって電子精霊を生み出し、やがてシュナイバルを旅立ち都市を作る。そうやって世界に都市は広がっていった。

 そして、世界に広がる電子精霊たち、その全てはこの世界の成り立ちを把握している。自らの中で生きる人間たち、それを黙って滅ぼされるわけもない。電子精霊たちは自らのネットワークを持ってグレンダンとは別に行動を起こしていたのだ。

 

「なるほど、ね」

 

 京の左目には見える。

 廃貴族とは違った純粋な電子精霊、その集合体が3体、いや4体あの老人に憑いている。

 廃貴族1体であそこまで強化できるのだ。廃貴族ではないとしても4体入ればどれだけ強くなれるか、電子精霊の戦い方とはこういうことかと納得する。

 だが

 

「その状態でレヴァンティンに勝てるのか?」

 

 その状態でも天剣授受者に匹敵するかどうかというレベル、とてもではないが無謀ではないかと京は思う。

 

「手がないわけではない」

 

 しかし、それは京の気鬱だったようだ。

 

「ナノセルロイド、ナノマシンの集合体という化け物。奴等はオーロラ粒子をエネルギー源としている。この世界に充満している粒子だ。エネルギーは無限にあるといっていい。そして奴等は増殖を繰り返し、真実化け物といった姿になった。お前は見たのではないか? 頂点の一角を」

 

「あの巨大さの訳はそれか」

 

 ナノセルロイド・マザーⅢ・ドゥリンダナ、それが成長を繰り返した果ての姿というわけだ。

 そして、その最上位、レヴァンティンは

 

「奴はレヴァンティンはそれを更に昇華している。冗談といっていい規模のナノマシンを奴は空中に漂わせ。それを掌握している。それがどういう意味かわかるか?」

 

「あぁ」

 

 レヴァンティンは空中に自らを構成するナノマシンを散布、世界中に散らばった自らの端子はどんな情報をも掴むだろう。先に見せた巨大な人型汚染獣もレヴァンティンの一部を集めた攻撃手段ということだ。人型だけが奴の全貌ではないということ、まだ京の知らない脅威を持つ、規格外すぎて笑ってしまう。

 

「この都市は戦場都市アーマドゥーン、戦場となることに特化した都市。故にこの都市は我等が有利に運ぶ戦場となる」

 

 ナノマシンの侵入を防ぐエアフィルターが巡らされた都市、レヴァンティンをここに誘い込むことが出来れば奴の能力を大幅に制限することが出来る。

 なるほど、勝算はあったわけだ。

 

「良い事を聞いた。ありがとう」

 

「ふん……」

 

 そしてゆっくりと都市が後退を初め、ツェルニから離れていく。

 

「次はない」

 

「あぁ、わかってる」

 

 もう話すことはない。そう言っているのだろう。

 京もその場を後にしようとする。

 

「そういえば名前は、俺は京」

 

「……ジルドレイド・アントーク」

 

「そうかい」

 

 アントーク、京の聞き間違いでないならニーナの縁者か、不思議と縁というものがあるものだ。

 

「では、次は戦場で」

 

 アーマドゥーンを後にする。

 そうして、一時の面倒事は事前に終わりと告げるのだった。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 それからしばらく経った後。

 

「さて……」

 

 この半年何も起きなかった分、予想の斜め上をぶっちぎって事が起こっているわけだが、事態は大きく動き出しているといって過言ではないだろう。

 レヴァンティンは謎の思惑を持って動き、レヴァンティン開放によって精霊サイドも動きは活発となっている。

 グレンダンでも京の知らないところで動きがあるはず、いつ最終決戦が始まるとも限らない。

 自分ができることはなにか、考えるべきだろう。

 そして、まず初めにやるべきことは

 

「なんでお前がここにいる」

 

「お邪魔しています」

 

 メイシェンの家に堂々といるヴァティを何とかすることこそ急務と考える。

 ちなみにメイシェンは所用で出かけていた。

 

「だから、何で、お前が、ここに、いる?」

 

「バイトの帰りに、メイシェン先輩に誘われて、私は、ここに、います」

 

「……あぁ、そう……」

 

 緊張感がない。

 ジルレイドやグレンダンの者達がこの現状ならば即戦闘に発展している。だがそんなこともできるわけもなく、追い出すこともできず、悶々と京はしていた。

 

「あなたに、目的はありますか?」

 

「あん?」

 

「質問です」

 

 突然の質問に京は首をかしげた。

 適当に答えることも出来る。だがそれはレヴァンティンを知る上で重要な気もして、あえて真面目に答えた。

 

「目的、ね」

 

 物語の変更、改変、目的にして手段、そしてそれによって得られる結果、エントリー・モード制限解除、それによって本来自分のいた世界に帰ること、言ってしまえばそれが最終的な目的ともいえる。

 往々にしてそれが叶うことがないのが問題といえば問題か

 

「あぁ、あるよ」

 

 京はそう色々な思いが詰まった言葉を吐いた。

 

「もし、それを喪失したらどうしますか?」

 

 それは例えば京が聖杯戦争で負けたら、この世界で役に立たなかったら、どうなっていたかということ、制限は解除されず、この世界に縛られたまま何もすることは出来ない、そうなったら。

 

「お前は何か目的でも失くしたのか?」

 

「質問に質問で返さないでください」

 

 そう言われ口ごもる。

 ふと自分の失敗した結末を思い浮かべて、あまり良い気にならなかったからだ。

 

「わからない」

 

 それが京の答えだった。

 京ではその問いに答えることは出来ない。

 戦って、戦って、戦った。ハッキリ言って京は物心ついたときからそれしかしていない。

 帰る目的、それは約束したからである。それが自発的に動き続ける要因。戦っている以外は流されるように生きていたはずだ。誰かの庇護下に入って、何も考えず、今も、昔も。

 ヴァティの問いに応えられるだけの言葉を持つことは出来ない。

 

「そう、ですか」

 

 それきり、会話はなかった。

 ヴァティの、レヴァンティンの目的を知ることはできなかったというわけだ。

 どこか懸命で、そう言ったレイフォンの言葉を思い出し、なんともいえない気分になってくる。

 

「どうしたの?」

 

 そこにメイシェンが帰ってきた。

 部屋に充満するなんともいえない空気に首をかしげている。

 

「なんでもない」

 

「なんでもないです」

 

 そう、2人は言った。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「いくぞ!」

 

 ニーナがそう宣言する。

 今学期初めの学内対抗試合が幕を開けようとしていた。

 第14小隊vs第17小隊である。

 

「さて、やってきました! 今学期初の学内対抗試合、まもなく始まります!」

 

 そうアナウンサーが叫ぶ。

 それと同時に応援や歓声が会場に木霊した。

 

「去年の武芸大会では並々ならぬ活躍を見せ、我学園ツェルニを勝利へと導いた立役者! 第17小隊の登場だ!」

 

 歓声が一気に大きくなる。

 あまりいい気分にはならない。

 余裕綽々の顔で手を振るシャーニッドのようになりたいとメイシェンは思った。

 そこにいつもの幼馴染と後輩のミィフィ、ナルキ、ヴァティが見えて、少しだけ気分を取り戻し、控えめに手を振った。

 

「対するは堅実な試合で多くの実績を残す第14小隊! 新たなに1年ルーキーを加え、去年の再来となるか!」

 

 その発言と共に敵の小隊が姿を現した。

 新たな1年生、クラリーベル・ロンスマイア、グレンダン出身の強力な武芸者、京は知らなかったが彼女とは一悶着あったのだそうだ。

 そして、レイフォンを狙う者の一人、メイシェンと同じアパートに住む知り合いでもある。

 

 両小隊がここに対峙した。

 

 各々が戦闘位置に着いていく。

 もう慣れたものだ。実戦を経験して小隊全体が大幅に強くなっている。

 それは敵にも言えることだろう。

 安全装置が付いた錬金鋼であれば戦いは長引く、クラリーベルを相手するのはレイフォンなのだそうだ。つまり、今回は頼ってばかりもいられない。

 だが、もう

 

『問題ない。もうメイシェンに死角はない』

 

 この1年で、京の強化策は全て終わった。

 攻撃力、防御力、技、そのどれもが高水準に達している。

 単体攻撃という点においては侮れない。

 

「うん」

 

 小細工が通用しない防御力、全てを突破する攻撃力、そして人体の有効的な破壊方法の技。

 ありとあらゆる補助能力、技を兼ね備え、最後に京が発動した能力とは、全霊を出せる能力だ。

 

 ゆっくりとメイシェンは構えた。

 

 

 

 

 

――――――――影技 SHADOW SKILLよりエレ・ラグ、影技(シャドウ・スキル)――――――――

 

 

 

 

 

 ゆっくりと深呼吸し、息を吐き出す。

 

 全霊の集中と己の極限を引き出すために

 

 紡ぐ。

 

 

――――――――武技言語・開始――――――――

 

 

「我は無敵なり」

 

 自分は無敵、己が最強、かなう者など誰もいない。

 

「我が影技にかなうものなし」

 

 己が身一つで相手を打ち倒す戦闘術、見せてやろう。人体の凶器を

 

「我が一撃は無敵なり」

 

 受けてみるがいい、我最強の一撃を

 

 

 戦いの幕が開けた。

 




お待たせしました。2話目になります。
既に色々なフラグを圧し折っているためか、書く事があんまりない感じで思ったより早く完結してしまうかもしれません。
そして、50個目の能力になります。増えたなぁと感慨深いものです。
レギオスで新しい能力は残り1つ、既存の能力も魅せられたらなと思います。

新たな能力の詳細は次の話で
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