『……きました』
静かに、デルボネが告げた。
もう敵が開放されていることは京からの情報でわかっている。
その為にデルボネが超広範囲を常に監視し、見つけた。
時が、きた。
「やっとか、さ~」
間延びした言葉を発しながら既に復元済みの刀を肩に担いで笑った。
ハイアだ。
ドゥリンダナ戦で天剣授受者候補でもあったクラリーベルを破り、その後自らが率いるサリンバン教導傭兵団で目覚しい成果を立て、その後女王様のノリと勢いでいつの間にか天剣授受者になっていた。
本人もよくわかっていない。ただ貰えるものなら貰っておこうとなっただけであった。
正直、世界の命運を左右する最終決戦と言われてもピンと来ていない。それはきっと他の天剣も同じだろう。
ただ1つわかっているのは、目の前の敵がグレンダンを害そうとしている事実、それだけで戦うには十分に過ぎる。
『あぁ、そうだわ、ハイアさん、この戦いが終わったら……』
「あん? ばあさんが何妙なもん立てようとしてるさ?」
『私の孫とお見合いしてみませんか?』
「俺に立てようとするんじゃないさー!」
ふふ、と笑って誤魔化された。しかし、言ってることは結構本気っぽかったのが気に掛かる。
和ませようとしているのだろうか、誰も気負っている者などいないが、それが彼女の性分なのだろう。
「ふん、遅かったくらいだ」
そう言ったのは不機嫌そうな顔で無精髭を生やし、黒いコートを着た男、鋼糸使いリンテンス、天剣において最強と言われる人物である。
いつか、いつかと待っていた者もいる。そういうことだ。
「えぇ、面白くなりそうです、出来れば一人でやりたかったところですが」
サヴァリスが笑いながら賛同する。
目の前の獲物がどれだけ魅せてくれるか、どれだけ戦えるかとワクワクしていた。
「俺としては当分来なくてよかったけどね」
めんどくさそうにトロイアットは呟いた。
「まったく、あなたという人は……」
女王の影武者も勤めるレイピア使い、カナリスが諌めるようにそう言う。
皆、緊張感などとてもなかった。
それは実力に裏打ちされた自信の表れともいえる。
「見えたよ」
話は終わりだと天剣授受者、盾の騎士リヴァースが区切りをつけた。
そこにはグレンダンの外延部に降り立った人型が見える。
奴が敵だ。
どこかの学生服を着ている。あまりにも場違いな服装、だがそれが油断できる要素でないことはわかっている。 皆が一斉に構えた。
手甲使い、サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス
レイピア使い、カナリス・エアリフォス・リヴィン
念威操者、デルボネ・キュアンティス・ミューラ
盾使い、リヴァース・イージナス・エルメン
太刀使い、カウンティア・ヴァルモン・ファーネス
長弓使い、ティグリス・ノイエラン・ロンスマイア
長剣使い、カルヴァーン・ゲオルディウス・ミッドノット
大砲使い、バーメリン・スワッティス・ノルネ
杖使い、トロイアット・ギャバネスト・フィランディン
鉄球使い、ルイメイ・ガーラント・メックリング
刀使い、ハイア・ヴォルフシュテイン・ライア
鋼糸使い、リンテンス・サーヴォレイド・ハーデン
計12人、史上最強の武芸者、天剣授受者達。
対するは前世界を駆逐し、破壊せしめた汚染獣の母にして頂点、ナノセルロイド・マザーⅠ・レヴァンティン。
さぁ、戦いの始まりだ。
「先陣はこの老いぼれが切らせてもらおうかの」
構えたのは長弓使いディグリス。
既にその長弓は構えられ、極光を発するほどの矢が引かれている。
次いで、射出。
一発で千の汚染獣を葬ることのできるその光矢は
「……」
レヴァンティンの腕の一振りで弾かれた。
弾かれた先、都市外の荒野に巨大なクレーターが出来上がる。
「ほぅ……」
その光景にディグリスは眉を顰めた。
かつてここまで練った矢を受け止めるどころか弾く輩はいなかった。なるほど、相応の敵というわけかと本当の意味で理解する。
「無駄です」
レヴァンティンはそう告げた。
「あなた達では私に勝てない。下がりなさい。戦って死ぬなら安寧の中で死ぬほうがいいでしょう?」
「はっ!」
誰かが鼻で笑った。
その時にはもう、カルヴァーン、サヴァリス、ハイアが左右と頭上から襲い掛かっていた。
既に各々が持つ武器は振り下ろされ、必殺の様相を叩き出している。
しかし、先の一撃を弾いたレヴァンティン、それにも即座に対応するように腕を動かそうとして
停止した。
そこには光の反射でしか見えないほどの極細の鋼糸がレヴァンティンに巻きつき、体の自由を奪っていた。
そして、3名の攻撃はレヴァンティンに触れ
そのまますり抜けた。
よくよく見れば、攻撃が当たろうとしている箇所がもう既になくなり、すり抜けたということ。
レヴァンティンは攻撃が当たろうとした瞬間、自らの体の一部を分解し、避けて見せたのだ。
それはレヴァンティンが3人の攻撃、その軌道全てを把握していたということに他ならない。
「っ!?」
更に体を縛る鋼糸も何も無かったようにすり抜け、レヴァンティンは前進を開始する。
「おっとお嬢さん、今度は俺がエスコートする番だ」
レヴァンティンの頭上にはトロイアットが杖を掲げ、全ての準備を終えていた。
外力系衝剄化錬変化―――
「毘琉遮那!」
トロイアットの叫びと同時、空に光の球体が発生する。
そこから発生したそれは辺りを照らし、更にはそこから光が照射される。それは熱線だ。当たれば即座に蒸発するレベルの高熱。
それをレヴァンティンはまるで知っていたかのように体をずらし、紙一重で回避した。
「クソ穴を開けろ」
「潰れて死ね」
それに呼応するようにバーメリンがチャージが完了した砲を放ち、ルイメイが真っ赤に赤熱した鉄球を投擲する。
極大の光弾と燃え盛る鉄球は目標に激突、先ほどのような回避方法は出来まい。全身を消し飛ばすような一撃だ。
大爆発とともに粉塵が発生する。
それを天剣達は黙って見ていた。
そして、そこにはいた。
「最終通告です」
いつから現れたのかレヴァンティンの足元から白い無機質な茨が生えていた。
それはレヴァンティンを守るように展開し、盾となり、両者の攻撃を全てカットしていたのだ。
いつからそんなものがあったのか、恐るべきはその硬度でも汎用性でもなく、発生速度、一瞬など生易しい刹那の間にアレは生成されたのだ。
「これ以上の妨害は障害と認識し、排除行動に移らせて頂きます」
「さっきまでは眼中になかったってか?」
その言葉に全ての天剣授受者が反応した。
皆、プライドがある。天剣持つものとしての矜持がある。
「いくらでも邪魔してやるよ」
鉄球を担ぎ、怒りを貼り付けながらルイメイは言った。
「……いいでしょう。あなた達を「異民」認定、排除行動に入ります」
学生服姿だった10代半ばに見えるレヴァンティンが10代後半の白いスーツを着た外観に変わる。
そして、レヴァンティンの周囲から茨が発生した。
まるで先まで何かの錯覚で見えていなかったように既にそれはあった。
白い無機質な茨、太いもの、細いもの、大小様々な白い茨が展開している。
それは展開し、広がり、雄生体並みの大きさまでに膨れ上がっていた。
「さて、どうするさ~?」
「このまま突っ込んでも返り討ちが見えますね」
相手の情報が足りなさ過ぎる。
自分達の直接攻撃をすり抜けさせた不可解な回避方法、目の前の白い茨、相手の手の内がそれだけで終わってくれると嬉しいがそれを相手に求めるには安く見すぎだろう。
何か策が欲しい。相手の手札を全て曝け出し、その隙を突ける策が
『ハイア・ヴォルフシュテイン・ライア、あなたなら出来るでしょう?』
「あん?」
『先の戦いでも見事な率い方でした。それは他の天剣達も見ているはず』
「まぁできなくはないさ」
12人もいる中で、ハッキリ言って連携など全く取れていない。先ほども各々が好き勝手動いてそれっぽく見えただけで、無駄がありすぎる有様だったのだ。
一人一人が比喩表現でもない一騎当千、それらは基本単機で戦うことを強いられ、連携など出来るのはハイアを含めて2名ほどしかいない。
そして、新米であるハイアに他の天剣授受者が従うかといえば
「策があるんなら早く言え、ないなら突っ込むぞ」
「ま、従っておいてもいい展開かね、これは」
『あら、意外と素直ですのね』
あっさりと認められた。
それを聞いてハイアは一瞬、呆気に取られる。
天剣になったのがもっと遅ければその提案など一蹴されているだろう。だが半年、それだけの間とドゥリンダナとの戦闘でハイアの実力は示されている。デルボネに後押しされたのも大きい。
まずは、相手の種を暴いていこう。
「それじゃ、いくさ」
天剣達の全ての能力、力は知っている。各々の持ち味を生かして少ない情報から相手に一撃を入れる算段を即座に組む。
それをデルボネが皆に伝え、作戦の始まりだと思ったときだった。
レヴァンティンがいる。
影からゴボリと現れていく。
1人、2人、3人、それは加速度的に増え、やがて100を超える数のレヴァンティンの複製が姿を表した。
「おいおい、冗談だろ」
目の錯覚ではない。
一体どれだけ馬鹿げた能力を持っているのか
「いきなさい」
本体の号令によって、100のレヴァンティン複生体は都市の中心に走り出した。
「ちぃっ!」
これでは防戦一方になってしまう。
最後の砦には女王が控えているがそこまで到達させるということは天剣達の負けを意味している。それはいけない。
「落ち着け」
先陣を切っていたレヴァンティン複生体の首が飛んだ。
そこにはいつからいたのかリンテンスが鋼糸を操り、防衛線を張っている。
「これは俺が排除する。本体はお前等がやれ」
複生体といえども馬鹿にならない力を有しているそれらを1人で相手取ると言ったリンテンス、しかし、それほどの力があるからこその言葉だ。
そしてまた1体、複生体の胴が寸断される。
それと同時にリンテンスに群がるように複生体は襲い掛かっていた。
「助かるさ」
それを尻目にハイア達も動く。
「いくさ!」
ハイアとて天剣に成った時から強くなっている。
―――旋剄・流
水が地面の上を流れるように、不規則にその軌道を読ませずに近づく。
先陣を切ったのはハイア、己が立てた作戦、まずは突破口を開くとしたらハイアだろう。
―――竜旋剄
衝剄活剄混合変化、竜旋剄、竜巻のように回転しながらハイアは斬撃を見舞おうとする。
だがレヴァンティンにはその動きが手に取るようにわかる。手を振るように動かすとそれに呼応するように茨が殺到する。
「ウザ死ね」
その茨をバーメリンとディグリスが打ち抜き、四散させた。
竜旋剄変化―――
盾になるように茨が立ちはだかる。
「はん! まだまだ!」
それを真一文字に切り裂いたのはカウンティアだった。
更に即座に再生しようとした茨をトロイアットが焼き払う。
全ての道が切り開かれた。
―――風鎌
発生していた竜巻を刀に収束、風の鎌として振り下ろす。カマイタチとなって襲い掛かった刃はレヴァンティンに直撃しようとし
反射される。
「っ!?」
―――金剛剄
それに即座に立ちはだかったのはリヴァース、守ることに特化した彼ならなんということはない。反射され返された刃を受け止め、弾く。
絶妙な連携が防がれた。
いや、違う。
これすらもハイアの布石だ。
レヴァンティンの真後ろに人影が舞い降りた。
それは2名、サヴァリスとその真後ろにカナリスがいる。
サヴァリスの奥義とカナリスの奥義が発動していた。
サヴァリスの姿がぶれるようにそこにいる。小さな残像がサヴァリスを揺らがせているのだ。それはサヴァリスの奥義、千人衝の応用発展技。
―――咆剄殺・仙人掌
サヴァリスは千に分かれてそこにいる。一つの個として千となる秘技、超密集陣形、仙人掌。
そして、千なるサヴァリスから放たれるは千の咆剄殺、重ねられた破壊の咆哮はレヴァンティンを分解しつくさんと襲い掛かる。
まだだ。
―――舞曲・神楽巫女
それに合わせてカナリスはレイピアを突き出す。
キン、と静かに音を立てた。
それだけだ。何も起こっているようには見えない。
彼女は音を使う音撃の使い手、振動攻撃に長けた武芸者だ。そして、カナリスが放った技は舞曲・神楽巫女、その効果は剄技の増幅効果。
静かに、しかし圧倒的な剄を乗せた振動波はサヴァリスの破壊の咆哮を更なる次元へと引き上げる。
圧倒的な分子結合破壊攻撃、それによって辺りが分解され、粉となって辺りに散る。
更に一押し。
最後を任されたのはルイメイ。
鉄球を手に持ち、天から墜落すかのごとく落下していた。
―――激昂
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
鉄球が赤熱する。
それと同じく、ルイメイ自身も赤く炎の飛沫を上げる。
ルイメイが灼熱の炎弾となって着弾する。
響く轟音。
それと共にグレンダンの外延部が砕け散った。
「っ!」
舞っていた粉塵と共にルイメイの炎は着火し、粉塵爆発が辺りに更なる被害を及ぼす。
いくらやってもやりすぎということはない。
これでいくらかのダメージは与えられたと思いたかった。
しかし
それでも
「無駄と、言いました」
それは健在だったかのように立っている。
そこには巨大な巨人が手を差し出し、レヴァンティンを包んでいた。
巨大な人型汚染獣、レヴァンティンの新たな手札によってそれらは全て防がれた。
「いや、多少効いたみたいですね」
ハイアの隣にサヴァリスとカナリスが着地する。
体中に血が滲んでいた。
忽然と現れた巨人と茨に対処し、ギリギリで避けられてこの様だった。
「ルイメイさんのは流石に防がれたようですが、確かにこちらの攻撃は当たった」
よく見ればレヴァンティンの体は煤けた様に僅かに黒ずんでいる。
しかし、それは時間と共になくなり、すぐに元の綺麗な状態に戻ってしまった。
「体の何割か削ったんですけどね、即座に再生されましたよ」
見ればレヴァンティンの周りが不自然に抉れている。
ハイアがそれの気づく前にそれを目の前で見ていたサヴァリスは答えを出していた。
「周囲の物質を分解して自らの再生を行える。全くとんだ能力だ」
おそらくそれで間違いない。
レヴァンティンの能力は多い。
1つ目は自らの体を一部分解しての回避行動、斬撃や打撃ではすり抜けられてしまう。
2つ目は白い茨、どこからでもいくらでも瞬時に生え、攻撃も防御もこなす攻防一体の厄介な力
3つ目はあの巨大な人型汚染獣、弱いわけはないだろう、詳細は不明
4つ目は周囲の物質を分解しての自らの再生。
5つ目は自らの分身を作り出す能力
最後に攻撃の反射
そして最もたるが天剣達の攻撃を全て察知し対処できる反射神経と圧倒的な運動能力だろう。
圧倒的で穴という穴がない。
次の手はどうするか
だが次の手を考えさせてくれるほど排除行動に移ったレヴァンティンに容赦はない。
巨人型汚染獣の体という体から銀色のレンズのようなものが発生した。
そこから何が来るか、天剣達は瞬時に理解し、散った。
同時に巨人の体から光の線が照射される。
『私を忘れてもらっては困りますわ』
大半の閃光は空中で曲がり、空に消え、地上に降り、都市を傷つけさせなかった。
デルボネは念威の応用によって空気中の念威を操り、放たれた光線を湾曲させることに成功した。
だが1つだけ、巨人の頭から放たれた極大の光線を曲げることができず、王宮があった場所に直撃すると着弾地点は何もなかったように消えた。
ふざけた威力だ。今ので都市の5分の1が蒸発した。都市の人間は地下シェルターに避難し、女王も都市の中核にいるため人的被害はないがそれでも酷い惨状だった。
「奴だけでも厄介だってのに、また面倒なのがでたか、さ~」
あれは光線の発射砲台だ。
それも無数に体から発射レンズを出せるときた。
対汚染獣でも言える事だが1発でもまともに被弾すれば死が確定する戦い。非常に厄介と言わざる得ない。
更に茨は成長を繰り返し、巨大化してきている。いずれは茨に都市が飲み込まれるだろう。消し飛ばした傍から再生する為、どうすることもできない。
本体はその両方に守られ、使役する茨と巨人よりも強いときた。
防衛線といえども攻勢に出て行かなければ勝つことができない。だが相手を削るどころか勢いを増している始末だった。
このままではジリ貧、いや負ける。
「……それがどうかしましたか」
無謀な戦いに単騎特攻し、切り抜けるのが天剣授受者、これしきの攻防などまだまだ序の口だ。
汚染獣の1体や2体増えたところでそれがどうしたという。
「埒が明かないので先に行きますよ。勝手に合わせて下さい」
自らの体の具合を確かめながらサヴァリスが躍り出た。
単に我慢できなくなっただけだ。目の前に強い敵がいる。お預けはもういい。
「俺も行くぞ。舐められてばかりでやってられるか」
鉄球を担ぎ、ルイメイも特攻を開始した。
「勝手な奴ばかりさ~、ならこっちも便乗して利用させてもらうさ」
全ての天剣はまずどれを潰すかを心得ていた。
1人で戦い一騎当千を誇るが故にその観察眼や経験、それは段違いで優先事項というものをわかっている。
まずは
「そのでかいのさ!」
都市の防衛という点で、最も厄介なのはあの巨人、勿論大本であるレヴァンティンを何とかしなければならないのは確かだが何気なく撃たれるあの光線はそれだけで都市を大幅に削る。
ならば潰すしかないだろう。
―――夜叉駆け
地面に刀を突き立て、疾走する。
ガリガリと火花を散らしながら、巨人の体を駆け上がり、1つの線を引いていく。
茨から発射される棘を掻い潜り、巨人から発射される光線を避けながら、斬線は延びていく。
そのまま頭上まで
しかし、それは半ばで止まった。食い込んでいた刀が弾かれたからだった。
硬化していた。
更に更に、天剣の攻撃を弾くほどに体に再構成を掛けて
そして、更に巨人は次の行動に出る。
体中にあったレンズが消え去り、胸部中央に巨大なレンズが現れる。
「っ!」
拙い。
それを感じたのは全員だった。
光が収束するようにレンズが光り輝いていく、それは極限に溜められ、都市を貫通するかのごとく巨大な光線を放つ気なのだろう。
させない。
―――金色夜叉
―――飢狼駆
カルヴァーンとカウンティアが己が武器に溜めた剄を奔らせ、大気を揺るがす斬撃を放つ。
ビキリ、とレンズに罅が入った。
それだけだ。
「ちぃっ!」
収束が終わる。
このまま発射されれば2人は瞬く間に融解、都市ごと纏めて消し飛ぶ。
「リブ!」
カウンティアが最後に武器を構え、恋人の名を叫んだ。
最後に一太刀、いや死ぬ気などない。活路を見つける。それだけだ。
それでも光るレンズはそのまま光線を放ち……。
待て。
一人の影がカウンティアとカルヴァーンの前に現れる。
矛を守るのは盾の仕事だ。
矛盾、最強の矛と最強の盾、どちらが強いかと戦ってどちらも砕けたのだという。それは彼と彼女には当てはまらない。最強の盾に守られて矛は最強となりえるのだ。最強の矛を守りきるからこそ盾は最強なのだ。
だから
「ティア」
恋人の危機に、矛を守るために盾が立ち塞がるのは当然。
全身鎧と両手に構えられた巨大な盾、立ち塞がるはリヴァース・イージナス・エルメン。
彼は振り返らない。守るべきものが背にあるから、前だけを見て敵と対峙し続ける。
ゼロ距離でリヴァースは全てを守るために己の最大の盾を発動した。
―――金剛剄・壁
巨人から放たれた光線とリヴァースの金剛剄が発動したのは同時だった。
直撃した瞬間、光線は花を咲かせるように四散、都市を一切傷つけず、背後の全てを守り通す。
バキン、とリヴァースの盾が砕けた。
見れば、リヴァースの鎧はあちこちが罅割れ、血が滴り落ちている。
落下するリヴァースを尻目に、カウンティアが跳んだ。
「はぁぁぁぁああ!!」
レンズの中心に太刀を突き立てる。
先の攻撃で罅が入ったレンズは今の攻撃で完全に砕けた。
同時に太刀から流し込まれた狂気染みた規模の剄が内部を破壊し、巨人の背を貫通した。
「よくやった」
墜落していたリヴァースを鋼糸が受け止めていた。
そこにはリンテンスがいる。
鉤爪のような天剣からは無数の糸が伸びていた。
それを手繰るように操り、揃えて、並べて、編んで、それは巨人の頭上に展開させる。
蜘蛛の巣のように鋼糸で編まれた縛殺の陣形。
その名は
―――繰弦曲・天ノ叢蜘蛛
蜘蛛の糸に絡め取られ、しかし縛ることなく、巨人はバラバラに縛殺される。
「流石、リンテンスの旦那」
「お前も働け」
「やることはちゃーんとやってますよ」
リヴァースが倒れた。だがその代わりに巨人を倒すことに成功する。
そして
「……冗談きついぜ」
バラバラになった巨人が消え去り、更にもう1体の巨人が現れた。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
血飛沫が舞う。
巨人と天剣達が戦っている時、もう一方では激しい戦闘が繰り広げられていた。
「ハハハ!」
狂笑を上げながらサヴァリスは特攻を繰り返す。
対峙している者はレヴァンティン、相手にとってこれ以上のものはいるか、他に一人しか知らない。
地を蹴って、茨に沿いながら、雨と降ろうとする棘の連弾を掻い潜り、レヴァンティンへと猛進する。
「まだ、まだ……!」
こんなものではない。
もっと自分を楽しませてくれ
血沸き、肉踊る、この戦いを。
レヴァンティンが右手を向けると手の平から剣が生えるように現れる。
「それは始めて見ますね!」
玩具を与えられた子供のように屈託なく笑う。
レヴァンティンの前の前に降り立ったサヴァリスは、振るわれる剣によって斬られ、消滅した。
レヴァンティンが左手を無造作に振るう。
それによって地中から茨が生え、そこにいたサヴァリスを串刺しにしてまた消えた。
そこにはいる、サヴァリスがいる。千の残像となってそこにいる。
全ての残像が構えを取った。
―――砲剄殺・掌破
周りを囲むサヴァリスの分身全てから砲剄殺が放たれる。
全包囲からの破壊の咆哮、それに対してレヴァンティンは
剣を振るう。
「効きましたかね?」
そして、次は体を動かそうとして
左腕がもうないことに気づいた。
「……ハハ」
それがどうした。
「ハハ、ハハハハハ!!」
意にも介さずに猛進する。
腕の1つがどうした。
まだ、まだだ。
戦い足りない。腹が満ちていない。
サヴァリスは回避を止める。
そのまま真っ直ぐ、レヴァンティンに突進を開始した。
だがそれは自殺行為に等しい。
突き出される茨がサヴァリスを貫き、切り裂いていく。
しかし、猛進を止めない。
右腕はくれてやろう。
ルッケンス、絶理の一
―――剛力徹破・突
レヴァンティンを守るように展開した茨を突き破り、サヴァリスの拳はレヴァンティンに届いた。
胸部を貫通し、内外破壊はレヴァンティンを襲う。
それをレヴァンティンは無機質な目で見下ろしていた。
これすらも有効打となっていない。
再生を開始した茨は貫通していた右腕を食いちぎり、サヴァリスを吹き飛ばす。
「ガハッ……ァ…」
両腕が消えた。
既に他の部位も限界を超えた。
それでも、それでも
「ハハ、まだ、まだ……!」
まだ、動く部位がある。
口がある、足がある、体がある。
まだ、戦える。
―――砲剄殺
吼える様にサヴァリスは咆哮した。
ルッケンス秘奥、砲剄殺、格闘を主体とするルッケンス家において何故咆哮による攻撃が秘奥なのか
サヴァリスは戦闘狂だ。戦いにしか興味がない。
そして、それはルッケンス初代も同じだった。
満身創痍でも、腕がなくなろうが、足がなくなろうが、首から下がなくなろうが、それでも戦うという狂気の沙汰としか言いようがない理念、それこそがこの攻撃の真髄。
死の瞬間まで戦闘に浸っていたい、それを体現した攻撃こそが砲剄殺。
あぁ、なんだとサヴァリスは笑った。
自分はルッケンスの異端とばかり思っていたが、なんだ、ルッケンスを体現したのは自分だったのか
砲剄殺を受けながらも動じもせず、レヴァンティンがそこまで迫っていた。
振るう剣はサヴァリスの首を刈り取り、終わらせるのだろう。
頭だけになっても叫べるだろうか
面白い試みかもしれない。
あぁ、いいじゃないか
充足した。
満足だ。
最後の言葉を咆哮という雄たけびに変えて
歓喜を表現する。
しかし
『残念だが、そこまでだ』
咆哮が止まった。
死んだか
いや、違う。
サヴァリスを廻っていた呪いの魔法が今、発動した。
レヴァンティンが剣を振るおうとしたその瞬間、サヴァリスの腹から3m近いキノコが生える。
巨大なキノコには手と足が生え、不気味で場違いな姿を現していた。
そして、その巨大なキノコの腹から、グシュリと音がして
白い手が生えた。
その手には銃が握られている。
それは間髪入れずに引き金を引き、白い閃光を発生させた。
流石に反応できなかったレヴァンティンは吹き飛び、都市外へと弾き飛ばされる。
そして
もう1つの手が生えた。
2つの手はキノコの腹を割くように、戸を開けるように、切り開いて、縦に裂いて、姿を現す。
純白のアーマーを纏って、それは現れた。
「ヴァティ」
本番だ。
「もう一度、お話、しようか」
さぁ、説得を始めよう。
滅茶苦茶長い戦闘でしたがまだ3話続きます。
次回! ヴァティ・レンvsメイシェンwith京 全力全開の戦いです。
乞うご期待ください。