マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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少々時間が掛かりました申し訳ない。
アニメの設定も混ぜてあります。


第66話

『ヴァティ・レン、お前には愛と正義が足りない』

 

 お前はいわば悪役だ。

 英雄(ヒーロー)ではない。

 故に、物語を望むエンディングに至らせるならばそれは悪役ではなく英雄(ヒーロー)

 なればこそ、お前は英雄(ヒーロー)であるべきだった。

 理不尽な押し付け、結果論ではある。だがこれも1つの事実。

 お前には愛と正義が足りなかった。

 だから教えてやろう。

 

 これが愛と正義の味方の必殺技だ。

 

「これが最後」

 

 全ての能力を全開。

 

『クロックアップ』

 

 思考加速及び身体能力強化開始。

 

『MACHSPEED』

 

 3倍加速開始。

 

『SLOW』

 

 世界遅延開始。

 

『3.14159265358979323846264338327950288419716939937510582097494459230781640628620899862803482534211706798214808651328230664709384』

 

 リザレクション始動、脚部限定ノイズ化及び強化開始。

 

『雷神招来』

 

 脚部限定雷化。

 

『食いつきが足りないぞクソ虫』

 

 かっこう虫、侵食率300%、強化限界突破。

 

『オーダー、限界を超えろ』

 

 生体リミッター強制解除、極限強化。

 

 ギチギチともうどうにかなってしまうほどの強化が発生する。

 歪に、無理な強化が祟り体中のアーマーに亀裂が走った。

 これが正真正銘最後の攻撃、最大最高の一撃だ。

 

 背に取り付けられた金属推進装置に火がつく。

 

 極限にして窮極の一撃、今ここに

 

「……いきます!」

 

 放つ。

 

 地を蹴り穿って

 その場には残像と巨大なクレーターを残してメイシェンが消失する。

 

 風よりも、音よりも、雷よりも速く。

 

 駆け抜けて、疾走して、飛翔して

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

 

 窮極の蹴りを放つ。

 

「……」

 

 対するヴァティ、全ての力を拳に乗せて

 

 拳を振り下ろした。

 

 全てのナノマシンの力を運動能力、反射神経に回したヴァティは神速の攻撃でさえ捉える。

 

 メイシェンの動きを見切ったカウンターの一撃。

 

 それは蹴りがヴァティに直撃するよりも早く、メイシェンに直撃した。

 

 

 

 ドン。

 

 

 

「……!」

 

 それは確かに直撃していた。

 

 ヴァティの拳にメイシェンの足が水平にあてがわれている。

 

 メイシェンは屈むように、力を溜めるように、ヴァティの拳に着地していた。

 

 これが攻撃だと思ったのか

 

 ここからがこの必殺技の真骨頂。

 

 まだこの攻撃には5つの力が足りていないのだから

 

 メイシェンは弾かれるようにヴァティの拳を蹴り、真後ろに跳躍した。

 

 

――――――加速+

 

 

 ヴァティの全力の拳をエネルギーに変えて、更に加速。

 

 後方に跳躍した先には都市、グレンダン。

 

 グレンダンの外壁に着地、余りの威力に巨大な都市が傾いた。

 

 更にその反動を利用して、空に跳ぶ。

 

 

――――――反動+

 

 

 空には能力で構成していた分厚い空気の壁がそこにある。

 

 体を反転、空に着地、更に跳躍、落下する。

 

 

――――――重力+

 

 

 それはヴァティを基点として、跳躍を3回、その軌道は正三角を描く。

 

 そして、最後に足される力こそは

 

 

――――――愛+正義

 

 

 受けてみろ

 

 これこそが

 

 

――――――加速+反動+重力+愛+正義=

 

 

 

『「新  必  殺」』

 

 

 

――――――(トライアングル)直翅目蹴撃(ライダーキック)――――――

 

 

 

 真っ逆さまに、メイシェンが襲い掛かる。

 

 避けさせなどしない。

 

「……」

 

 避ける気などない。

 

 同時に発生するインパクト、大気を揺るがす衝撃。 

 

「くっ……!」

 

 両腕をクロスさせ、ヴァティは蹴りを受け止めた。

 

 ヴァティは極限の意思を以って、それに耐えた。

 

 よろめきながらも、それに耐え、笑う。

 

「こんなものですか、メイシェン」

 

 

――――――まさか

 

 

 空中に立つメイシェンの勢いは全く衰えていない。

 

 まだ終らない、終っていない。

 

 英雄(ライダー)を名乗る男の一人は言った。

 

 馬鹿の一つ覚えでも100回繰り返せば技になる。

 

「愛!」

 

 勢いを失わないまま、更に一撃。

 

「愛!」

 

 二撃。

 

「愛!」

 

 三撃。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

 四撃、五撃、六撃、七撃、八撃、九撃、十撃。

 

「愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛!」

 

 二十撃、三十撃、四十撃、五十撃、六十撃、七十撃、八十撃、九十撃、九十九撃。

 

 一撃、一撃が全力全壊の超連続攻撃。

 

 一撃貰うごとにヴァティの体は地面に沈み、亀裂が入り、壊れていく。

 

 そして最後の百撃。

 

「正義!」

 

 正義の一撃。

 

 地面にめり込むようにヴァティは100回の直撃を完全にくらう。

 凄まじい衝撃とともに砂煙が舞った。

 

 静かに着地し、事の結果を見つめる。

 そして、砂煙を切り開いて、それは現れた。

 

「っ!」

 

 ヴァティが拳を振りかぶり、そこにいた。

 全力を出し切り、動くこともできない。

 ヴァティはメイシェンの全力に耐え、もう目の前にいる。

 振るわれる拳。

 

 ポスン。

 

 拳は軽かった。

 力なく、それはメイシェンの胸に当たった。

 それは軽く、だがとても重い。

 戦っていたことも忘れて、メイシェンはヴァティを抱きしめる。 

 

「遂行、しなければ、ならないことが」

 

 まだ諦めず、まだ動く。

 完全に倒した。

 だがこれは所詮一時的なもの、世界中に広がるヴァティの一部であるナノマシンは未だ健在で、再生に力を回せば即回復するだろう。

 

「止めておけ、諦めの感情が視えている」

 

 ガシリと、それを横合いから掴む者がいた。

 京だ。

 即座に合体を解除し、それをさせなかった。

 京には視えている。

 ヴァティから発せられる言葉に言霊が発生していることを、そして、それが意味するところは

 

「お前は十二分に人間に近づいた」

 

 人でなければ、確たる意思が無ければ言霊など発生しない。

 それはヴァティの過去の目的に、確かに近づけていたということだった。

 そして、その言葉には既に諦めの形が見えていた。負けを心の中で認めたのだ。

 最後の一撃はヴァティの心根を圧し折るには十分だった。

 それでも、ヴァティは動かざる得ない。何故ならばヴァティは兵器であり、その機能しかないからだ。

 兵器に愛などという目的を持たせた結果がヴァティの失敗の全てに他ならない。

 なればこそ

 

「お前を助けてくれる奴に、確か俺の名前も入っていたかね。それなら、それに倣おう」

 

 我武者羅に動いた。もう、いいだろう。

 目的を全てなくしても、兵器としての己がその先を邪魔するというのならば

 

 それすらも破壊してみせる。

 

 

 ―――奥義

 

 

「百鬼封檻」

 

 

 禍々しい黒い闘気が発生し、ヴァティを包む。

 抵抗されること無く、それは侵食していく。

 

「……ぁ」

 

 ヴァティが、今度こそ崩れ落ちた。

 それをメイシェンが咄嗟に支える。

 

「人間レベルにまで機能を全て落とした。もうお前には何の力も無い」

 

 百鬼封檻、全ての能力を常人にまで落とす奥義。

 例え機械でも、人の心を持ったのであればそれは効く。

 これでお前は一個人としての人間となんら変わることはない。

 

「目的を遂行する力はもうお前にない。お前の目的は全て折れたぞ、どうする?」

 

「……好きに、してください」

 

「だ、そうだ」

 

 ニッと京がメイシェンに笑いかけた。

 それに釣られてメイシェンも笑う。

 周囲には拘束する支配者によって汚染物質が排除されている。といっても長くは持たない。

 2人を抱えて、グレンダン外延部に降り立った。

 

 これにて一件落着というわけだ。

 

「見てるんだろう?」

 

『あら、わかりますか?』

 

 虚空に話し掛けると、そこから応答が返ってくる。

 デルボネだ。

 もう見られているという感覚はなんとなくわかってきていた。

 

「レヴァンティンを無力化した」

 

『えぇ、これ以上手を出すなと仰りたいのでしょう?』

 

「話が早いのは助かるよ」

 

 このまま天剣に更に襲われるというのは不毛極まりない。

 誰一人死んでいないので一悶着は起きないと信じたかった。

 

「その必要はありません」

 

 ふと、どこからか声がして振り返る。

 そこには黒い少女、サヤと女王様がいた。

 サヤは無表情に、女王様は玩具を取られた子供のように不機嫌そうな顔をしている。大方考えていることはわかった。

 ここに現れたということは既に事のあらましは把握しているのだろう。

 サヤは真っ直ぐにヴァティに向かって歩を進めていた。

 

「お久しぶりです」

 

「えぇ」

 

 無表情な2人は見つめあったまま動かない。

 かつて2人の間で何があったかはわからない。だが互いに因縁があるのだろう。その視線からは2人しかわからない蟠りというものが存在した。

 

「あなたは人に近づいて、いえ、なったのですか?」

 

「わかりません。ただ、そう認めてくれる人がいるなら、そうなのでしょう」

 

 2人とも元は機械、自らの機能が自らの願いを裏切ったか裏切らなかったかの違いしか差は本来無かった。

 そして、その差はもう無かった。

 

「変わりましたね」

 

「そう、ですか」

 

 それ以降会話はなかった。

 特に話すことも無かったのだろう。ただ1つ確認をしたかったのか

 それでもヴァティの表情は心なしか和らいだように見えた。

 続々と天剣達もサヤの元へと集まってくる。

 

「終ったのか、さ~?」

 

「なんか途中から蚊帳の外だった気がするんだけど」

 

「お風呂に入りたい」

 

 戦いに参加して無事だった全ての者がここに集ったのだ。

 京とハイアは一瞬目を合わせると目を逸らさせた。

 他の天剣達も知らない協力者と力をなくしたヴァティを少しだけ驚きの目で見をしたものの、それだけで即切り換えたのがわかった。

 

「残念だが」

 

 京は一つの区切りをつけて、切り出す。

 

「次、だろ?」

 

「ぇ?」

 

 その言葉にメイシェンが首を傾げる。

 何を言っているのかわからないといった様子だった。

 空を見上げて、暗くなった空を見つめる。

 釣られて、メイシェンと天剣達も空を見上げる。

 その言葉を正確に把握しているのはサヤと女王、ヴァティだけだった。

 残りの天剣は疑問符を浮かべている。

 だがその疑問はすぐに解消されることとなる。

 

「きます」

 

 サヤが言ったその瞬間。

 

 月が砕けた。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 月が砕けた。

 それによって開放される。

 悪意が、解き放たれる。

 主を失っても、それを抱いたものが既に死んでいても、その意思は生きて、月から流れ出した。

 

 そしてもう1つ。

 

 月の中で培養された怒りの塊、かつて守護者だった物の成れの果てが炎を纏って現れる。

 

 イグナシス最後の落とし子、汚染獣・ダインスレイフ

 憤怒の化身、廃貴族ヴェルゼンハイム

 

 竜を模した巨大な汚染獣と炎を纏った巨大な獣がこの地に放たれた。

 それと同じくして、月から水が流れるように黒いナニカが流れ出し、グレンダンに降り注ぐ、それは都市中心に固まり凝固し、1つの塔を作り出した。

 有機的な異様な塔、グレンダンを侵食しながらそれも最後の障害として立ちはだかった。

 

「さて、最後の仕事だ」

 

 それに応えるように京も前に出た。

 片手に世界の墓標を出して、不敵に笑った。

 レヴァンティンでさえも前哨戦に過ぎない。

 

 これが最後の戦い。最終決戦の真の幕開けだ。

 

「京」

 

 呼び止めるように、メイシェンが声を掛ける。

 京はそれに足を止めることだけで応えた。

 私も、と言い掛けてそれを京が遮った。

 

「それはいけない」

 

「どうして」

 

「これが俺のケジメだからだ」

 

 その意味をメイシェンが理解することは無い。

 好き勝手に動いて、物語に茶々を入れて、良くも悪くもする。もしかすれば自分が動かなければもっといい終わりを迎えたのかもしれない。

 自分は余計なことをしている。

 だがそんなことは知ったことではい。

 自分は動き続けなければならないからだ。

 それでも、だからこそ結末は自分の手で、それがケジメの1つだと思っている。

 もうエントリー・モードは開放され、目的が終っていたとしても、これが後始末なのだ。

 

 拒絶の意思を持って、メイシェンを突き放す。

 

「メイの戦いはこれで終わり、これは俺の戦いだ」

 

 一瞬、サヤを見る。

 サヤは黙って頷いた。

 サヤの近くが地下シェルターよりも、他のどこよりも安全だから。

 

「それじゃ、いきますか」

 

 京は跳躍、飛び出した。

 

「京!」

 

「ちゃんと戻るさ」

 

 背に聞こえる不安に片手で応えて、目の前の敵を見据える。

 一方は巨大な竜を模した汚染獣、それほど脅威は感じない。精々が名付きクラスの老生体といったところだろう。

 問題はもう1体、炎を纏った巨大な獣、見たところ廃貴族に似た雰囲気を感じるがそれとは別のものだとも直感が告げている。

 狂気の咆哮を上げながら2体はグレンダンの頭上から落下してくる。

 女王、アルシェイラの隣に並ぶ。

 

「俺はあの炎纏ってる奴やるけど、異論は?」

 

「無いわよ。精々私があのトカゲ片付けるまで時間稼ぎでもしてなさい」

 

「……はいはい」

 

 それぞれに分かれて、飛び出す。

 

 目の前には既にそれはいる。

 あの敵は拙い。京の推測が正しければ、アレは武芸者にとって鬼門だ。

 襲い掛かる炎の獣に対して、京は剣を投擲した。

 全力で投擲した剣は炎の獣に弧を描きながら襲い掛かり、横腹の部分に突き刺さろうと直撃し

 すり抜けた。

 

「あぁ、クソ、やっぱりか」

 

 ブーメランのように戻ってきた剣をキャッチし、忌々しそうに睨む。

 そこにはもう目の前の獣が大口を開けて京を噛み砕かんとしていた。

 あまりの巨体、避けることは困難と判断し、両手をクロスさせ、髪を自身の周囲に伸ばし、卵のように防御に入る。

 次の瞬間、獣は京を飲み込んだ。

 

「ぢぃい!」

 

 超高熱の嵐が京を襲う。

 それを歯を食いしばり耐える。

 

「調子に……乗るな!」

 

 サイコボマーを全身から発動させ、自身を巨大な爆弾に見立て大爆発を引き起こす。

 体内での大爆発、これならどうか

 緑色の発光と共に爆発が静まるとそこには全身から煙を噴き上げながらも無事な京の姿があった。

 だが京の真下の獣は未だ降下を続けている。

 獣にダメージといったものは全く無い。

 

「廃貴族、か」

 

 あれは非実体にして半実体、体を炎で構成された化物というわけだ。

 何故あんな変貌を遂げたかはわからないがあの廃貴族はなんらかの力を取り入れ、炎を纏っているのだ。

 炎を纏った幽霊だと思えばいい。それはどんな物理攻撃も非実体故にすり抜け、炎を消し去ろうにもそれを出しているのは廃貴族、元を叩かなければ消えることは無い。

 京が食らったのも飲み込まれたわけではなく、通り過ぎただけ、それだけで甚大なダメージを被ってしまう。

 最もキツいのは武芸者、剄による攻撃でアレに対して有効な攻撃というものは存在しない。

 だからこそ

 京はこの獣を相手取るといったのだ。

 

 カチリ。

 

 取り出すは古式銃キャスター、装填されるは『5』の弾丸。

 それと共にかっこう虫が現れ、銃身に留まると侵食を開始する。メキメキと音を立てながら、神経が銃に突き立てられ、侵食して、グリップを伝わり京の右腕にも侵食を初めた。

 

「グ…ゥ……」

 

 痛みを噛み締めて、京も降下する。

 落下して、落下して、獣と並んだ。

 落ちる先はグレンダン、そのまま都市に侵入することを許してはならない。

 トリガーを引く。

 それと同時に発生する黄緑色の閃光、それは獣を捉え、突き刺し、灰色の大地に弾き飛ばした。

 

「……」

 

 都市の外延部に立ちながら、それを見つめる。

 妨害されたと認識した獣は京を怒りの視線をもって攻撃対象とした。

 それでいい。

 

「こいよ、遊んでやらぁ」

 

「怨ォォォォォォォオオン!!」

 

 獣は怨念の篭った咆哮を上げて、こちらに特攻を仕掛ける。

 それに対して、京は都市から離れ、できるだけ獣をおびき寄せるように距離を置こうとした。

 ただ無心に特攻を仕掛ける獣、正直、それだけで辛い。

 相手からすればそれしかできないだけなのかもしれない。ただの獣のように襲い掛かり、噛み付き、その巨大な腕を振り下ろす。単純な攻撃方法だ。

 だがそれだけで強いのだ。

 大きさは500m以上、動きも早くそれを避けるのはかなり困難で、触れれば超高熱に焼かれ灰になる。

 そして、京の持ちえる手札で、アレに効果がある攻撃方法は2通りしかない。

 キャスターによる対霊の効果を持つ閃光、もう1つは明けの明星、髪による精身体への直接攻撃。

 後者をやる気はない。炎の塊に殴りかかるほど無謀ではない。

 

「威力が足りない、かな」

 

 「6」の弾丸を装填しながら嘆く。

 効果はある。だが有効打になるほど威力が無い。

 

「食え」

 

 かっこう虫の更なる侵食が始まる。

 かっこう虫は銃に完全に同化し、緑色の肉が銃を覆い、腕を覆い、右腕1つが完全な銃身と化していた。

 心のどこかで警鈴が鳴り響いている。これ以上は取り返しの付かないことになると

 知ったことか、そう心の中で一蹴する。

 かつてもうこれ以上は使わないと思っていたかっこう虫に頼らざる得ない状況、今の現状は切迫していのだ。

 銃口にエネルギーが収束し、夢を削り取られたエネルギーと魔弾のエネルギーを融合し、更なる閃光を放つ。

 

「怨ォォォォォオオン!!」

 

 対する炎の獣、大口を開けると同時に赤い閃光が放出される。

 2つの閃光が相対し、相殺、打ち消しあってしまった。

 それに舌打ちしながら、次の弾丸の装填に入る。

 しかし、それを獣は許さず。その巨大な腕を横薙ぎに振るった。

 振るわれた腕は京を捉え、通り過ぎる。

 

「ち……ぃい」

 

 炎熱が体のあちこちを炭化させ、死滅させる。

 再生を遅らせる炎と氷は京の弱点の1つである。相性が悪いのもいただけない。こちらの手があまり無いことをいいことにやりたい放題だ。

 思わず後退した先には都市があり、そこに着地する。

 そこにドンと背に当たるものを感じ目を向ける。

 そこにはアルシェイラがいた。

 

「まだ終ってないのか」

 

 あの程度の敵に女王とあろうものが何をしているのか、そう責めるように言う。

 

「んなこと言われなくてもわかってんのよ。もう3回は殺したわ」

 

「……なるほど」

 

 横目でもう一体の化物を見れば姿がガラリと変わっていた。

 要所を固い鱗が守り、背中から筒のような砲が飛び出している。

 なるほど、以前よりも強く見える。

 あれも一筋縄ではいかなかったか、あと納得もした。

 

「あんたも動きが悪いんじゃないの? まるでなっていないわ」

 

「言われなくてもわかってる……よっ!」

 

 4発目の閃光を放ちながら返された悪態にわかっていると愚痴る。

 京の動きは悪かった。先のレヴァンティンの時とはかなり差がある。

 体力もエネルギーもままある。だがダメージはかなり溜まっていた。

 ヴァティとの戦い。メイシェンに行動の全てを任し、サポートに徹していた京であったが99%以上のダメージを肩代わりしていたのは京だった。ただの人間であるメイシェンが耐えられるダメージまでそれを抑え、何度も被弾した。それは相当なダメージで傷はなくとも体に相当な負荷をかけている。

 そして、止めの百鬼封檻、相手を常人の域にまで能力を永遠に低下させる強力な奥義だが勿論そんな都合のいい効果ばかりではなく、デメリット効果も存在する。それは使用者の寿命が15年前後縮むという凄惨極まりない代償だ。しかし、今の京に寿命という概念は極めて薄く、その効果はあってないようなもの。だがそれは15年寿命が縮むほどに体に負荷が掛かるという裏返しでもあり、それが今、15年分の代償を一気に食らっている現状だった。

 顔に出さずとも十分に自らの体のことは理解している。そして、言い訳しても今の現状に光明が見えるわけも無く、今できる全力であの敵に対処しなければならない。

 

「ままならないな」

 

 そう愚痴りながら先の閃光で再び吹き飛ばされ、都市から離れた獣を見つめる。

 そう長く相手をしていられない。

 残り弾数6発、それを撃ち終われば最後、あの炎の塊と肉弾戦を繰り広げる破目になる。それは頂けない。分が悪いなんてものではない。

 見据える先には怒りに炎を更に滾らせた獣一体。その怒りをぶつけるかの如く、再び突進を開始する。

 馬鹿の一つ覚えのように突進、特攻、もう少し様子見でもしていてもらいたい。

 装填される『8』の弾丸、そして更なるかっこう虫の侵食。

 右腕は更に肥大化、口径が大きくなり、目が現れ、それは1つの口を開けた龍のような外観に変化していた。

 そして、更に侵食、侵食、侵食。

 

「っっっ!」

 

 京の意思を越えて、侵食が発生する。

 限界が訪れ始めていた。

 侵食を止めることができず、侵食領域は右半身まで食らわれ始めている。

 

「ガ、ァァァ嗚呼!!」

 

 渾身の力で右腕を地面に叩きつけ、黙らせる。

 それによって侵食が止まり、一時の安定を取り戻した。

 滝のような汗を流し、息を整える。

 自分が大層な夢を抱けるほど大した器でないことは自負しているがそれにしても限界が早い。

 ここにきて、自分の人間としての小ささが仇になろうとは

 自らが招いた危機に停止している間に獣はもう目の前に迫っていた。

 

 拙い。

 

 背には都市がある。砲撃も間に合わない。

 次の手を考える思考猶予も無い。一瞬の出来事に停止した。

 それでも、と炎に焼かれることを覚悟で銃口を獣に向ける。

 こちらが消し炭になるのが先か、その前に砲撃し、仕切り直しに持っていけるか

 もう目前にそれはいる。

 そして

 

 肩にポンと手を置かれた。

 

 突然のことに、危機的状態にもかかわらずそちらに顔を向ける。

 しかし、そこには誰もいなかった。

 同時に響く、轟音。

 再び、正面を向いたとき、その男はいた。

 

「遅れた」

 

 2本の細い鉄鞭を持ち、体に黄色い剄を纏いながら佇む老齢の男、ジルレイド・アントーク。

 電子精霊に対抗するなら電子精霊、4体の電子精霊を宿した鉄鞭の一撃は目の前の獣を触れ、殴り飛ばして見せた。

 だがそれだけでは敵は終らない。

 吹き飛ばされた獣、咆哮と共に炎を吐き出した。

 都市を包まんとする火炎を更に飛び出したもう1つの影が迎え撃つ。

 

 外力系衝剄連弾変化―――

 

―――天剣技・静一閃

 

 火炎の波を剣撃の波が迎え撃つ。

 刀の一閃と共に放たれる膨大な剄は波となって、津波の如くゆっくりと進んでいく、それによって火炎は波に攫われる炎の如く、その姿を消した。

 京の目の前にもう1つの影が降り立った。

 黒い都市外装備、あぁ、それはかつてよく見たもの、第17小隊の装備だ。

 

「なんでここにいる、レイフォン」

 

 レイフォン・アルセイフ、何故ここにいるのか

 

「勝手に先行した小隊メンバーの尻拭いは同じメンバーがする。って隊長が言ってました」

 

 そう苦く笑うレイフォン。

 その目線の先には灰色の大地が広がっている。

 そこには薄っすらと、影が見えてきていた。

 

『今、ここに集う全都市に告ぐ』

 

 灰色の大地、その地平線を埋め尽くすように、都市が現れる。

 

『世界に終末の危機が迫っている。それを一都市に任せてよいだろうか、否、断じて否だ』

 

 世界中から集まった都市がここに終結しようとしていた。

 

『我等は現実と向き合い。戦う意思を示した者達だ』

 

 電子精霊、都市に宿る魂、人々を守る守護者達。

 そして、イグナシスに対抗すべく牙を研いでいたのは何もグレンダンだけではない。

 

『明日を掴み取るのだ! 運命を切り開くのは自らの手で!』

 

 都市と都市で密かに繋がり合い。機を待っていた。

 今がその時だ。

 電子精霊としての力、それは都市の力、自律型移動都市(レギオス)に住まう全ての人間の力に他ならない。

 電子精霊とその運命を知らされた人々は戦うことを選んだ。

 全てをグレンダンと運命に選ばれた天剣に委ねる事を拒否した。

 故に

 

『戦おう! 自律型移動都市(レギオス)の人々よ!』

 

 今ここに集い、参戦する。

 

 反撃の狼煙が上がった。

 




と愛(物理)からラスト一歩手前まででした。
ダインスレイフの設定は少し独自設定を加えています。


次回、レギオス編最終回!乞うご期待ください。
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