マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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レギオス編最終回、ここまでお付き合いありがとうございます。
それとごめんなさい、次回で最終回と宣言してしまったため文章力が3倍に膨れ上がっています。
長々としていますがどうぞ。


第67話

「ハハ、助かるね」

 

 目の前の2人がとても頼もしく見えた。

 世界中から集まった都市、それらが加勢に入る。

 中々見られる光景ではないだろう。中々に壮観だ。

 しかし

 

「アレはかなり厄介だぞ」

 

「あぁ、廃貴族ヴェルゼンハイム、奴は我等電子精霊側の失態だな」

 

 ジルドレイドが炎を纏った獣、廃貴族ヴェルゼンハイムをどこか哀しそうな目で見つめていた。

 電子精霊の成れの果て、廃貴族、それが行き着くところまで行ってしまったのがあの存在、もはや思考というものすら存在しまい。

 

「手はあるか? いくら接触できても接近戦は無謀だぞ」

 

 先ほどまで遣り合って京にはあの脅威がどれほどのものかわかっている。

 ジルレイドの参加によって有効打を与えられる手札が増えた。だがそれでもあの炎の塊に殴りかかるというのは常軌を逸していると言わざる得ない。

 事実、ジルレイドの体のあちこちが黒く焦げ、肉の焼ける匂いがしていた。

 しかし、そんな京の忠告をよそにジルドレイドは一笑し、告げた。

 

「老い先短いこの身だ。ここで果てても本望というものだ」

 

 ジルドレイド・アントーク、都市を生み出す都市「仙鶯都市シュナイバル」の守護神と呼ばれた古強者である。

 電子精霊を愛し、愛された存在、4体の電子精霊を宿し、天剣と並ぶ実力を持った人物だった。

 しかし、彼はもう既に齢100を超える老人である。活剄による肉体活性、そして少しでも延命を図るために人工冬眠までして今ここに立っている。

 つまり、ジルレイドは既に限界であり、ここを死地としているということだった。

 それをおくびにも出さず、相対する。

 

「それにな。曾孫の代までこの重荷を継がせる必要もあるまい」

 

 ジルドレイド以上にニーナは電子精霊と融和性が高い。それは薄々と感じて知っていた。

 そして、それをさせる気もなかった。

 弾き飛ばされたヴェルゼンハイムが動き出す。

 

「話は終わりだ」

 

「了解だ。レイフォン、とりあえずあの化物を何とかする」

 

「わかりました」

 

 目の前の敵が全てではない。

 あの不気味な塔も何を意味しているかわからず、もう一体の汚染獣も一筋縄ではいかない厄介な存在のようだ。

 どちらかが先に倒し加勢に入れるか、といったところか。

 このまま時間稼ぎをする気はない。

 

「やられっぱなしも、癪に障る!」

 

 京とジルドレイド、レイフォンは一斉に飛び出した。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「しゃらくさいっ!」

 

 振るわれる拳とそこから発せられる凄まじい規模の衝剄。

 相対しているのはアルシェイラ、そして汚染獣・ダインスレイフ。

 ダインスレイフはアルシェイラの放った特大の衝剄を食らい、体の4割が砕け散った。名付きクラスの老成体でも一撃で粉砕できるほどに練り上げられた衝剄、これで決まったかと思われた。

 

「邪ァァァァァアアア!!」

 

 しかし、体の大部分を失いながらもダインスレイフは動き出す。

 背がひび割れ、そこから新たに新生したダインスレイフが姿を現した。体を硬そうな外殻が覆い。進化している。

 これで4回目だ。

 既に3回、普通の汚染獣なら絶命しているダメージを負わせている。実際、倒したという手応えはあった。

 だがその度に、新たに脱皮を繰り返し、更に性能を上げた化物として生き返っている。

 恐ろしくはその対応速度、自らの経験を即座に体に反映し、進化を超高速で行っている。

 既に高機動化、遠距離砲撃能力、強固な外殻など新たな能力を得て、段々と実力の差を縮めてきている。

 一度鞘から抜いてしまうと、生き血を浴びて完全に吸うまで鞘に納まらないといわれた魔剣、ダインスレイフの名を冠するだけはあり、それは人類を絶滅させるまで滅びないということの現われなのか。

 

「ったく、何なのよアレは」

 

 忌々しそうにダインスレイフを睨みつける。

 

「レヴァンティンが汚染獣の原型というなら、あれが汚染獣の終着点なんだろう」

 

 隣に並び立ち、リンテンスが冷静に分析する。

 汚染獣も元はナノマシンの集合体、変貌に変貌を遂げ、生物的になってしまったが本質は機械のそれなのだ。

 世代を経て独自の進化を行う汚染獣、それを最効率で馬鹿げた速度で行っているということ、無限の進化、それは汚染獣の終着点といっても過言ではない。

 

「御託はいいわよ。要は復活させないくらいバラバラにしてやればいいんでしょ」

 

 そう気楽に言ってのけるアルシェイラ。

 

「できれば苦労はない」

 

「やってやるわよ。もう力をセーブする必要もなくなったしね」

 

 冷静なリンテンスの突込みにもどこ吹く風であった。

 アルシェイラの抑えていた力が更に溢れ出す、天剣が全員掛かって倒せるかわからないほどの実力、本気で動けば都市が崩壊する。だがそれを気にする必要はもうない。

 月が割れ、全ての元凶がここにいるという事実、それはもう汚染物質の発生が止まったということであり、目の前の親玉を倒してしまえばそれで都市があろうとなかろうと問題ないのだ。シェルターの人々とエアフィルターさえ無事ならそれ以外は壊れてしまってもいい。だからこそ存分に力を出す。

 

「ふっ!」

 

 アルシェイラは全力で跳躍、同時に都市に深い亀裂が入る。

 それに対するようにダインスレイフは背に生えた筒のような砲をアルシェイラに向け、自身の細胞で練り上げた弾丸を放つ。

 

「甘い」

 

 しかし、そんな遅い攻撃を最強の天剣と謳われるリンテンスが見逃すはずはない。

 アルシェイラの背後でリンテンスが編みこむように手を動かした。

 

―――繰弦曲・雪崩崩し

 

 アルシェイラの目の前にリンテンスが編んだ蜘蛛の巣状に張り巡らせた鋼糸が発生、それと同時にダインスレイフの放った弾丸が着弾、糸一本一本に流された防御剄は巨大な弾丸を解体、四散させる。

 そのままアルシェイラは一直線に飛び掛った。

 同時に外殻を砕き割り、内蔵に直接食らわせる渾身のボディブロー、女王に技などいらない。規格外の剄と規格外の肉体による単純にして敗れない攻撃、それだけでいい。

 突き刺さる拳と共に、内部に膨大な剄が流れ込む。力任せに、ただ己の剄を一気に流し込む。

 それによって体内に劇物を流し込まれたダインスレイフは風船のように膨張した。

 更に止めを刺すべく、ダインスレイフの周囲に無数の糸が渦巻き、白く反射する。

 そして

 

―――繰弦曲・魔弾

 

 全方位から放たれる鋼糸の刺突。

 それは限界まで膨らんだ風船に一斉に針を突き刺すように、群がり、刺し、破裂させる。

 

「ォォォォオオン!?」

 

 雄叫びを上げながら爆散するダインスレイフ。

 数百という肉片となって都市に散った。

 

「どんななものよ」

 

「油断するな」

 

 戦場にしては本当に気楽そうなアルシェイラに無意味とはわかっていてもリンテンスは無愛想にそれを切って捨てようとする。

 

「私から油断を取ったら何が残るって言うのよ」

 

「その馬鹿げた体力だけだな」

 

 気の抜けたやり取りをしながら他の戦局に目を向ける。

 そこには特大の紅の閃光がヴェルゼンハイムを包み、掻き消している光景だった。

 

「へぇ、なかなかやるじゃない」

 

 これで2体、ラスボス的なものは倒した。

 危機的状況だったのは間違いないがそれでもこんなものかという思いもアルシェイラの中にはあった。

 しかし、その楽観視も即座に打ち砕かれることになる。

 

「あら」

 

 アルシェイラはその場から咄嗟に跳び、退いた。

 自分がいた場所に、何かが殺到し、堆く積もる。

 紫色液体を滴りながら、それは不気味で有機的だった。

 

 肉塊だった。

 

「生きてたの」

 

 振るわれる拳と共に、砕け散る肉塊。

 爆せる轟音と共に、煙が舞い、視界を遮った。

 都市中に散らばった肉片という肉片は再び動き出す。その1つ1つが意思を持つようにずりずりと這いずって、跳び回りながら、それは終結し形を作っていった。

 

「邪ァァァァァァァァアアア!!」

 

 再び生き返ったダインスレイフ、これで5回目。

 

「ベヒモトと同じ特性だな」

 

「なんだっけ、忘れちゃったわ」

 

「……数年前に俺とレイフォン、サヴァリスで片付けた名付きだ。細胞の1つ1つが汚染獣という軍にして個の汚染獣、例えバラバラにしても戻ってくる」

 

「で、どう倒したのよ?」

 

「細胞として機能できないほどに粉微塵に切り裂き砕いて消し飛ばした」

 

 新たなる特性、いや、これはおそらく元々持っている特性だろう。

 そして、挙げられた倒し方というのも中々に難しい、ベヒモトは軍という特性を持ち、今のダインスレイフと非常に似通っている。違いがあるとすれば、それは体を構成する汚染獣のスペックの違い。手の平大にまで砕かれてもそれは生物として活動できていた。それがダインスレイフの高速進化の種なのかもしれない。

 もう既に目の前の汚染獣はかつてグレンダンを襲った老生体を凌駕するほどに進化してしまった。対抗できているのは今戦っている2人が規格外の存在だからに他ならない。

 

「しょうがないわね」

 

 再び相対し、都市に鎮座するダインスレイフを見据える。

 更なる変貌を遂げたあの化物に、進化し、自分達を越える前に殺ることが果たしてできるだろうか

 

「オォォォォォォォォォオオオオオン!!」

 

 ダインスレイフは雄叫びを上げる。

 何かに呼びかけるように

 その叫びと共に、それに応えるように、漆黒の空に影が生まれ、大地が震えた。

 それは汚染獣だった。幼生体から老生体まで数限りないこの世界の支配者もまたこの戦場に集まっていく。

 夥しい汚染獣の群れ、それは汚染獣の新たな王であるダインスレイフに要請に応え、ここに終結する。

 しかし、それら有象無象を相手にしている暇はない。

 あくまで敵はダインスレイフ、奴を倒すことが全てだ。

 そして始まる6回戦。

 

「……いくぞ」

 

「そろそろ派手にやりましょうか!」

 

 今のところは戦績5勝0負、まだまだこちらの勝ち越しだ。

 ならば次は再起する事が不可能なくらいに叩きのめすまで

 2人は飛び出した。

 

 そして、夜闇に染まった空に太陽が光臨した。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「……どうだ?」

 

「……手応えは、あった」

 

 荒い息を吐きながら、ヴェルゼンハイムがいたであろう場所を見つめた。

 3人の連携、ナンバー「8」ととっておきの「9」の弾丸、そして成虫化一歩手前のかっこう虫の超強化による紅の破壊光、それを直撃させることに成功した。

 跡形もなく消し飛ばした、はずだ。炎の一片すら目前に広がる大地には存在しない。

 だがその代償は重かった。

 各々が相当な重傷を負ってしまった。体のあちこちが炭化し、砕けている。

 ジルレイドは左腕を失い。京は右半身が既にかっこう虫に完全に食われ感覚がなく、ゆっくりと更に侵食を再開し始めている。唯一直接の攻撃に参加せずサポートに徹していたレイフォンがまだ動ける程度といったところだった。

 

「ヤバいな、これは」

 

 そう呟く。

 限界、それが京が最もよくわかっていた。

 頭の半分も侵食され、右顔も虫のそれに変わりつつある。それによって体の支配権ももっていかれそうになってしまった。

 もっと撃て、もっと食わせろ、最後まで、そう言っている。

 意識が途切れたら最後、一気に成虫化される。それは死を意味していて、今の京の最大の敵は自身の能力という皮肉にもならないものだった。

 戦闘参加はこれまで、足手纏いになってしまう。あとは無理やりこの虫を引き剥がさなければ京の体を乗っ取った成虫化かっこう虫という最悪の化物を解き放つことになるからだ。

 十分に仕事はしたはずだ。

 

 どこからか、奇怪な雄叫びが聞こえた。

 それに応えるように現れる汚染獣の大群、もう既に他の都市からも火の手が上がり大戦争の様相を見せている。

 都市中央の塔からも弾丸のように黒い弾が乱射され、ミミズのような不定形の化物が飛び出し、他の天剣をこれ以上増殖しないようにとその場に縛り付けている。

 他の汚染獣は任せてしまってもいいだろう。最も厄介なものをグレンダンが片付ける。

 

「京さんは下がってください。後は僕達が」

 

「あぁ……」

 

 体を引きずりながらその場を後にしようとする。

 しかし、それを許さないものがいた。

 

 夜闇に白い光が満ちる。

 

 それは神々しく輝くいて

 

 それは1つの太陽だった。

 

 空から舞い降りるは憤怒の化身・ヴェルゼンハイム。

 この程度で、こんなものでこの怒りが消えるかと言うように、それはそこにいた。

 燃え盛っていた赤い炎は内に秘めて、静かな白い光という名の炎を発しながら新生したヴェルゼンハイムはこちらを見据えている。

 

「っ……!」

 

 それに対していつでも動けるように3人はジリと地面を踏みしめた。

 今のあれに勝てるのかと誰もが思う。それほどに圧倒的な力がアレから感じられたから。

 しかし、ヴェルゼンハイムはこちらに見向きもせずに違う方向に動き出した。

 

「ちぃっ!」

 

 それに真っ先に気づいたのは京だった。

 都市中心部、その地下、サヤとメイシェンがいる場所に奴は向かおうとしている。

 静かに憤怒するあの化物はその力を撒き散らすのではなく、指向性を持って全ての破壊に動き出してしまった。

 

 

「怨」

 

 

 小さく、それは唱えるようにヴェルゼンハイムは鳴いた。

 その体の周囲に光が集まるように収束すると白い球体となる。

 そして、ミラーボールライトのようにいくつもの細い閃光が球体から飛び出す。

 それは無差別破壊だった。

 放射される白い光に当たれば蒸発するように融解し、消し飛ばされる。それは無差別に、手当たり次第に撒き散らされ、汚染獣も都市も巻き込んで破壊の限りを尽くさんとしていた。

 なぞるように照らされた部分から全てが無くなる裁きの光、それを掻い潜るように京は走る。

 

「っ!」

 

 白い球体となったヴェルゼンハイムはゆっくりと都市中心部へ動き出そうとしていた。

 狙いは、サヤ。

 遥か地下にメイシェンと共に身を隠している。

 そこまで行かせてなるものか

 今の自分が行ったところで何になるというのか、そんなことを自問自答している暇もありはしない。ただ自分の衝動に従って無理やりに足を動かし、その場所に向かう。

 以前のヴァティとの戦いで跡形も無くなった王宮跡地、そこにぽつんと開いた空洞、そこからサヤの元にいける。

 だがその前には黒い塔、立ち塞がるようにそれはあった。

 

「邪魔だ!」

 

 殺到する弾丸を避けもせず、一直線に走り抜ける。

 防御に回していた左腕が砕け、体に弾丸が突き刺さり、突き抜け、血が噴出した。しかし、それでも足を止めることはない。

 肘から先が無くなった左腕を前に突き出し跳躍。

 

―――世界最大級、ひとすくい100tの超巨大バケット

 

「ローディングショベルの構え」

 

 左腕から鋼のショベルが生える。

 それは変形、巨大化し、100mを超える巨大ショベルとなった。

 それを振り

 

「ローディングボルテクスクエイク!!」

 

 下ろす。

 ごっそりと黒い塔を抉り取った。

 更に、京の目の前に巨大な魔方陣が発生、追撃を掛ける。

 

「消し飛べ」

 

―――デアボリックエミッション

 

 破壊の星光、放たれた桃色の閃光は抉られた部分を更に削り取り、塔を真っ二つに圧し折る。

 すぐさま再生を開始する黒い塔だったがその間だけは猛攻が鳴りを潜めた。

 

「クロックアップ」

 

 その隙に加速して、空洞に飛び込む。通路を高速で移動、地下へと下っていく。

 頭上からは何かが溶かされ、こちらに迫っている音が聞こえていた。

 あせる心を鎮めながら更に地下へ、地下へ。

 そして、一際広い空間にサヤ達はいた。

 

「京!」

 

 その姿を確認すると、醜く歪んだ右半身など気にも掛けずにメイシェンが駆け寄ってくる。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫だ。話は後にしよう。ここから離れたい、こちらに敵が向かってきている」

 

「わかりました」

 

 サヤ、メイシェン、ヴァティを連れ出し、別ルートから脱出を図る。

 体から飛び出させた蔓でメイシェン達を縛り、そのまま担ぐように移動を開始した。

 そして、別口から出ることに成功し、都市中心からかなり離れたところに出ることができた。

 

「ふぅ……」

 

 同時にデルボネと連絡を取り、自分の現在位置をレイフォンとジルレイドに伝えることも忘れない。

 壁を背に、深く息をついた。

 敵はこちらを察知できるだろうか、少なくてもある程度かく乱できなければ話にならない。

 

「戦況はどうなっていますか?」

 

 そこにヴァティが質問を投げる。

 もうナノマシンの把握すらできない故に外の状況が気になるのだろう。

 

「芳しくない。外は乱戦、中も乱戦、こちらが押され始めているってところか」

 

 都市外では、呼び寄せられた汚染獣の大群とそれをグレンダンに近づけさせまいとする都市郡が激しい戦いを繰り広げている。

 中ではダインスレイフと女王、リンテンスが激しい攻防を繰り広げ、他の天剣は月から流れ出した黒い塔の対応に追われている。そして最後にヴェルゼンハイムが無差別に攻撃を撒き散らしているといったところか

 どこか一角が崩れれば戦況は大きく傾く、そしてこちらにはサヤという弱点が存在し、もしサヤがやられれば世界は終わり、全ての命がゼロ領域に溶ける。

 あちらはただ一心不乱に暴れていればいいだけに守るものが多いこちらは若干不利だ。

 それが着実に戦況に反映されてきている。

 

「なにか、アレに対抗する案でもないか?」

 

「もはやあれらは私の手から離れています。手立てはありません」

 

 わかっていても縋りたくなってくる。

 ヴェルゼンハイム、もはや炎でなく光の熱波と変貌したあの化物に打つ手がない。 

 確実に消滅させたはずだったのに、詰めが甘かったということか

 

「なにかできることはあれば、言ってね」

 

 そう言うメイシェン。

 

「ありがとう、だけど今は何も無い。サヤと共にいてくれ」

 

 だがもうできることは何も無い。

 にべも無くそう言い切った。

 

「デルボネが追って安全なルートを提示するはずだ。それに従って逃げてくれ」

 

「京は?」

 

「足止め」

 

 立ち上がり、異形と化した右腕を挙げる。

 

「あなたは既に限界のはず、今の私から見てもそれは明白です。何故まだ戦おうとするのですか?」

 

「ついさっきのお前みたいな感じだ」

 

「……」

 

「ハハ、お互い意地っ張りなんだよ」

 

 そして轟音と共にヴェルゼンハイムがサヤを捕捉した。

 

「早く行け」

 

 ヴァティは頷いて、メイシェンとサヤの手を引き、そこから離れる。

 メイシェンが何かを叫んでいたが、それを聞き取ることはできなかった。

 

「はて、さて」

 

 白く輝くヴェルゼンハイム、それがこちらに迫っている。

 拙い。本当に、全く打つ手が無い。

 ジルレイドはまだサヤの防衛に当たるようにデルボネから伝えた。レイフォンはヴェルゼンハイムに対する有効打が無い為、戦略的にも有効活用するため他に移っていった。

 つまり、加勢はない。

 格好つけて送り出したはいいものの、一体どこまで足止めできることやら

 そして、生きていられるかどうか

 

拘束する支配者(バインドドミネーター)

 

 足掻くだけ、足掻かせてもらおう。

 

「オーダー、最善を尽くせ」

 

 背後に現れた拘束の支配者、放たれた杭は全て京に突き刺さる。

 痛みは無い。

 ただ自身に起こるであろう事を京はもう既に予知していた。

 それを回避する手段はない。それはここから離れなければいけないからだ。

 目の前にはヴェルゼンハイムが迫っていて、真後ろにはメイシェン達がいる。動けない。

 

「いきますか」

 

 自身の未来、予知による自分の先は残り3分しかなかった。

 それより先は、存在しない。

 

―――上等

 

 生き汚さに掛けては自分は一級品だと自負している。

 今回も何とかすればよいことだ。

 

 目前にはヴェルゼンハイムが迫っていた。

 「10」の弾丸を装填、備える。

 地を蹴って、ヴェルゼンハイムに特攻を開始した。

 

「怨」

 

 ヴェルゼンハイムは大口を開け、そこからは先よりも大きい白光が飛び出そうとしている。

 こちらには見向きもせずに

 狙いは、遥か先に逃げている者達。

 瞬く間に蒸発するであろう熱波を放った。

 

「おい、どこ見てやがる」

 

―――鏡影反転(ビフロンズ)

 

 お前の相手はここにいる。

 テレポートによってヴェルゼンハイムの口元にまで移動、近寄るだけでも肌が焼け、体液が沸騰した。それを歯を食いしばり耐えて、自らの前面に空間を歪ませた巨大な反射鏡を出現させる。

 それが出現するのと白光が放たれるのは同時、京の目の前でそれは進路を歪め、屈折、湾曲しその光はヴェルゼンハイムに突き刺さる。

 

「ガァァァァァァアアア!?」

 

 初めて、悲鳴らしい悲鳴を聞いた。

 

「ハッ、どうよ。お前の自身の攻撃の味は」

 

 口元を歪めて嘲笑する。

 狙いをつけた全力の攻撃なだけに絶好のタイミングで直撃に成功。

 精霊の攻撃なら精霊に効くだろうという目算だったが当たったようだ。

 止めは、いけるか

 

「怨ぉォォォォォォォオオン!!」

 

 ヴェルゼンハイムは叫びを上げる。

 同時に体が白く発光し、再び球体を作り始めた。

 アレが来る。

 

「サンイシイコクニムカウ サンゴヤクナク サンフミヤシロニ ムシサンサンヤミニナク」

 

 背から悪魔の3対の羽が生える。

 同時に髪が伸び、それは巨大な拳の形となった。

 そして跳躍。

 

 飛翔。

 

 接近。

 

 攻撃。

 

「サイン!」

 

 殴って

 

「コサイン!」

 

 殴って

 

「タンジェントォ!!」

 

 殴り飛ばす。

 ヴェルゼンハイムは遥か後方に吹き飛ばされて、沈む。

 殴りかかった髪はもう既に燃え尽き、腰まであった髪は首元に掛かるまでしかない。全身も大火傷、だがまだ、まだ、まだ動ける。

 追撃を掛け、飛び掛る。

 ヴェルゼンハイムの目と鼻の先に舞い降りて

 

 カチリ。

 

「食らえ」

 

 トリガーを引く感覚と共に、ヴェルゼンハイムに全力の閃光を叩き込む。

 反動で京も後方に弾き飛ばされ、地面に背から叩きつけられた。

 

「ガッ、……クッ」

 

 中々に効いただろう。

 

 そう思い。

 

 前を向いた先には

 

 ヴェルゼンハイムの巨大な手があって

 

 咄嗟に回避しようにもそれは僅かに京を捉えて

 

 右腕(・・)と右足が消し飛んだ。

 

 

 

 プツン、と何かが切れた。

 

 

 

「ァ……」

 

 

 

 糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 

 重大な損傷であれど、命に別状はない。

 

 だがそれでも、もう終っていた。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

『こちらに』

 

 デルボネの指示に従い、安全なルートを通っていく。

 周りには何人かの天剣の人達が戦いながらもこちらにも注意を配っていた。

 

「あの……」

 

 メイシェンはしどろもどろながらデルボネの念威端子に話しかける。

 

『どうしたのかしら?』

 

「京は、どうなっていますか?」

 

 それだけが気掛かりで、胸騒ぎがして、問いかけた。

 

『……えぇ、まだ戦っていますよ』

 

「よかった」

 

 それだけで少しホッとして体の緊張が少しだけ解けた。

 できるだけ都市中心の黒い塔を避けて、都市の外周を回るように逃げていく、猫に追い詰められる鼠のようにその逃避は長く続かないだろう。

 走るメイシェンには汗が見え始め、残る2人も無表情なところは変わりはしないものの次第にそのペースは落ち始めていた。

 

「人間とは、不便なものですね」

 

「えぇ、まったくです」

 

 なんとも不思議なやり取りに苦笑する。

 でも何故かこうなってしまうと2人は意外と息が合っているのかもしれないなどとも思ってしまう。

 

「ヴァティは、これが終ったら学園に戻ってくれるの?」

 

「はい、それが許されるなら」

 

「そっか」

 

 こんな時だからこそ、無意味な会話をする。

 不安に殺されないように

 しかし、危機は別のところからも迫っていた。

 

 ふと、サヤが足を止めた。

 

「どうしましたか」

 

 ヴァティが問いかける。

 サヤの人形のような無表情な顔は凍りついている様に見えた。

 

「これは」

 

 空をサヤは見上げた。

 黒い穴が開いていた。

 空に、漆黒の空に、闇色の穴が開いていた。

 覗いてはならない。そこは行ってはならない場所、その名はゼロ領域、全ての願望が成就される悪夢の世界だ。

 サヤの世界に数穴が開いた。

 サヤ自身はまだ健在なのに、何故

 

「あの塔です。見通しが甘かった」

 

 最大の危機というものは手遅れになってからやってくる。

 もっと早く気づくべきだったのだ。

 サヤの世界、このレギオスという世界とて1つの亜空間、旧世界の住人たるイグナシスに属する者達なら空間干渉も可能だったということを

 孔が開いたなら塞がらなければならない。

 だが今どこにそんな余裕があるというのか

 

「サヤ、このままでは」

 

「わかっています。直ちに私の機能を行使し孔を塞ぎます」

 

 祈るように手を組んで目を閉じ、瞑想しているように微動だにしなくなった。

 修復を開始しようとしたのだ。

 だが開いた孔からは膨大なオーロラ粒子が流れ、この地に集う汚染獣とヴェルゼンハイムに更なる力を与えてしまう。

 活性化し、大地の彼方此方で汚染獣の叫びが木霊する。

 そして更にサヤ達にも災厄が追いつく。

 

「そんなっ!」

 

 叫びを上げたのはメイシェンだった。

 待ちを破壊しながら目前にヴェルゼンハイムが迫っている。

 それは足止めをしていた京を突破してきたということで、それが意味するところを理解してしまったからこその悲鳴だった。

 しかし、それでも諦める理由にはならない。

 

「メイシェン、ここは私が」

 

 ヴァティが前に出る。

 それは優しく、諭すように語り掛けた。

 

「ほんの少しだけですが、ナノマシンの制御は私には残っています。先に逃げてください」

 

「でも、今のヴァティは……」

 

「彼も言っていたように意地っ張りなんだと思います」

 

 ヴァティは笑った。

 そこに悲壮感はない。

 しかし、そんなやり取りも茶番だと、一笑にするように目の前のヴェルゼンハイムは必滅の白光を湛えていた。

 もうそれを真正面から受け止められる者は、いない。

 

「っ!」

 

 咄嗟に、メイシェンの体は動いた。

 ヴァティの前に出て、手を広げる。庇っているつもりなのか、無意味なのに

 目の前の光は全てを灰燼と化させるだろう。

 だが咄嗟に、衝動的に動いてしまった。

 

 

「怨」

 

 

 それは容赦なく放たれる。

 無意味だと嘲笑うように、すべての怒りをぶつける様に、この世界に止めの一撃を放った。

 視界が白で染まる。真っ白な破壊の白に染まっていく。

 しかし、腕引かれて

 ガバリと、地面に引き倒され、視界が黒く染まった。

 それと同時に、サヤの目の前にも影が現れる。

 

 そして、白光は全てを覆い、破壊し尽くした。

 

 ……

 

「ぁ……」

 

 光が収まる。

 小さく、声が出た。

 辺りは焦土と化し、数刻前にあった街並みに見る影はない。

 そして、自分が今倒れていて、何かが覆い被さっているような重さを感じた。

 何かに、手を掛ける。

 それは白い華奢な肩だ。

 もうそれがなんなのか、理解して、わかってしまった。

 

「ヴァ……ティ……?」

 

 メイシェンは護られていた。

 抱きしめて、代わりに白光を一身に受けて、それは自身の役目を完全にこなしていた。

 ヴァティの背は、砕けている。削り、抉られ、彫刻を砕いたような白い断面が覗き、ヴァティが人の体でないことを物語っていた。

 

「ヴァティ!」

 

「無事で、なにより、です」

 

 ヴァティが半死半生の身でそう言ってのけた。

 自身の状態は既に調査済み、既に自分がスクラップ同然なのはわかっている。

 再生能力も硬度も京により剥奪されている。助かる見込みはなかった。

 

「こんな場面に出くわすとは、悪い冗談のようだ」

 

 そこにはもう1人、護る者がいた。

 ジルドレイドであった。

 サヤに直撃するであろう白光を防ぎ、見事に護ってみせる。

 その代償もまた凄惨たるものだった。焼かれていない場所など無い、もう一歩も動けないであろうことは明白だった。

 

「ありがとうございます。私からは礼をすることしかできませんが」

 

 そう淡々とサヤは告げる。

 既に孔の修復は済んだ。

 だが、またいつ干渉され穿たれるかわかったものではない。

 

「なに、この世界を作り出しただけで十分に役目は終えている。あなたはただ自身の願いにだけ目を向けているばいい」

 

 炭化した両足が砕けて、ジルドレイドは膝をついた。片方しない腕で、細い鉄鞭を支えにやっとのことで体勢を保つ。

 

「拙いな」

 

 小さくジルドレイドは嘆いた。

 追い詰められている。今も王手から苦し紛れに逃げているだけに過ぎない。

 完全な終わりが近づいてきていた。

 

「怨ォォォォォォォン!」

 

 勝利の雄叫びを上げるように叫びながら、ヴェルゼンハイムは逃れられない一撃を与えようとこちらに突進してくる。

 ジルレイドは両足を失い動けず、メイシェンはヴァティを抱いたまま動けない、サヤも同じだ。

 あの突進を物理的に止めることができるのはジルドレイドと京しかいない。そして、そのどちらも行動不能できない。

 

 はずだった。

 

「……」

 

 突如として、ヴェルゼンハイムが吹き飛んだ。

 スタリ、と軽い着地音と共に新たに加勢が現れる。

 そのシルエットは見間違いも無いものだった。

 

「京!」

 

「……」

 

 損失した右腕と右足の代用に植物の腕を生やして、静かにそこに立つ。

 

「ヴァティが…、京…!」

 

「……」

 

 メイシェンの必死の呼びかけに京は答えなかった。

 応えられなかった。

 その違和感にいち早く気づいたのはジルドレイド。

 

「お前……」

 

 反応しないのでなく、できない。

 かっこう虫が取り付いた右腕を粉砕されたことで、欠落者、心を失った生きた屍と化していた。

 今はただ拘束する支配者による命令により、最善を尽くす行動を取るだけの人形である。

 心が死んでもまだ動く、それこそが京の選んだ選択であった。

 京は飛び出し、己を省みない特攻を開始する。

 

「京……」

 

 メイシェンの言葉は届かない。

 届く場所にいないから

 

 でも、それが届いたとしたら?

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「……」

 

 夕暮れの丘で、黒い木に腰掛けながら全てを見ていた。

 ここは心の中に根付く心象の世界。

 今し方、自分の体が決死の特攻を始めたところだ。

 

「ハハ、我ながら無茶をする」

 

 あぁ、これは駄目だなと思いながら自分自身の戦いを諦め混じりの視線で傍観する。

 孤立奮闘、その言葉が相応しい戦いぶりだ。

 他の場所も劣勢が見える。

 黒い塔はレイフォンが参加したことでなんとか破壊はできたようだが、ダインスレイフは20回目の死から新生したことで遂にアルシェイラとリンテンスの手に負えなくなった。

 グレンダンに加戦した都市郡も一時ゼロ領域と繋がり膨大なオーロラ粒子が溢れたことで急激な成長をしてしまった汚染獣の大群が一気に蹂躙を始めている。

 そして、目の前の自分は持ってあと数刻、それで最後の防衛は終わり、天剣が駆けつけたとてヴェルゼンハイムには為す術が無く、そのまま終るだろう。

 

「これはもう駄目、かな」

 

 詰みだ。

 

 だから

 

「諦めるしかない」

 

 黒い大樹に向き合って、眺めた。

 

 この世界にはどの世界よりも長く居た。

 怒涛の戦いの日々はそのほんの少しの間のもので、あとは安穏としたものだった気がする。

 それは退屈でもあり、目的を為せない悶々とした日々でもあり、幸福という奴だったのかもしれない。

 

 だから、諦めてしまおう。

 

「俺のこの物語はこれにて終了、ってね」

 

 目的を諦めよう。

 今回は自分の失敗だ。この物語に流されすぎた自分の結末。

 だから後始末をしてしまおう。

 遠い昔に送り出してくれた紫色の髪の少女にもう少し長くなりそうだと胸の内で謝って

 

 嗚呼、そうか

 

「フ、ハハ、ハハハハハハハ」

 

 なるほど、これが自分の夢だったのか

 随分と身勝手な夢があったものだ。こんな自分に相応しい物だ。

 最後の最後に気づいて、今更過ぎて、笑ってしまう。

 

 

――――――京!

 

 

「今行きますよ、と」

 

 不敵に笑いながら、どこからか来た声に応える。

 自分の精神が虫を破壊されたことで完全に破壊された。

 自分が今このちっぽけな世界で今もいられるのは、思いの結晶がここにあるからだ。

 

 漆黒の花は、咲き乱れて

 

 満開となった。

 

 京が咲かせられたのはおよそ半分、メイシェンとある意味繋がっていることで彼女の思いの花もまた咲いていた。

 

「さぁ、見せてやろう」

 

 ここから這い出て、意識の残り香である自分が動ける時間など、ほんの数分。

 だが十分だ。

 戦況は、最悪、まもなく負ける。

 

 故に、どんでん返しを見せてやろう。

 

 ご都合主義を見せてやろう。

 

 大逆転を、この戦いをただの茶番に変えてやる。

 

 だから

 

 

「今日は死ぬにはいい日だ!」

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 京の体はヴェルゼンハイムの攻撃を食らい、血と煙を噴出しながら倒れた。

 メイシェンのちょうど隣に墜落し、遂に動かなくなる。

 

「もういいよ……! もういいから!」

 

 あまりの痛ましい姿にそう叫ぶ。

 涙が京の頬を濡らした。

 

「ハハ、それはダメだろう」

 

 硬い木の手がメイシェンの涙を掬った。

 ムクリと起き上がって、最後の再生を開始する。

 もう肉自体が足りない。故に木で全てを補強して、立ち上がった。

 

「なんで、そんなに」

 

 飛び掛るメイシェンを抱きしめて

 最後のお願いをする。

 

「これから、最後の攻撃を行うよ」

 

「あなたは何故、そこまでするのですか」

 

 何故そこまでするのかと、何故そんな体になってまで動こうとするのかと問われる。

 愚問だ。

 

「これが、俺の全てだからさ」

 

 ニッと笑ってそう応えた。

 

「メイシェン、最後のお願いだ。最後に力を貸しておくれ」

 

「……うん、京の為に、力を使うよ」

 

「ありがとう、あと、ごめん」

 

 目の前にはヴェルゼンハイム、今までよくもやってくれた。

 

 京の影が伸びてゆく。

 

 伸びて、伸びて

 

 高く昇って、空に亀裂を作る。

 

 亀裂は枝分かれし、大きく、広がっていく。

 

 都市の中心に聳えるように、都市にいる全てのものに、それはそのように見えた。

 

 白い花びらが舞う。

 

 目の前には、巨大な木が、都市を覆い尽くすほどの巨大な一本の白い花を満開にした桜の木が聳え立っていた。

 

 花びら一枚一枚が思いを篭められた思いの産物。

 

 それら全ての力は、奇跡を起こして

 

「これは……」

 

 サヤが目を見開いた。

 巨大な桜は、サヤの作った大地に根付いて、破壊する。

 人の避難場所、楽土として作られたサヤ、だがもういいだろう。

 全てをあるべき姿に戻す。

 壊れたサヤの世界、そして覗かせるゼロ領域の闇。

 それと共にゼロ領域に花びらが舞い散った。

 漆黒の空は、真実の意味で、夜空となる。

 星が輝く、夜の空へと

 

「まさか、地球だなんて」

 

 サヤの楽土といえど、それも亜空間であることに変わりはなく、それは星の寿命と比べれば遥かに寿命は小さい。元は地球の表面上に亜空間を重ね掛けしたこの世界だ。

 そんな世界、いらないだろう。

 それが全ての発端だというなら、全部、全部、消してやる。

 理屈などいらない。これはそういうものだから

 全ての亜空間、ゼロ領域を消し去って、真の大地へと戻す。

 

 これで全ての戦いの根底を覆してやった。

 

 最後は、後片付けだ。

 

 

「ソイル……我が力」

 

 

 現れる黄金の召喚器。

 それはかつてない光を帯びて、眩い光を放つ。

 京に渦巻く螺旋のエネルギーは畝って、凄まじいエネルギーを収束させていく。

 

「ヴァティ、お前を使う」

 

「……えぇ、既に死んでいく身、使ってください」

 

 突然の京の言葉に、ヴァティはどこか晴れやかな顔でそれに応えた。

 そして最後にメイシェンに顔を向ける。

 

「メイシェン、ありがとう。やり直すことはできませんでしたが、私は人になれました。それで満足です。だから、ありがとう」

 

 魔銃から光が溢れて、ヴァティに降り注ぐ。

 光に触れたヴァティの体は光となって、空を漂っていく。

 

「……ヴァティ……」

 

 メイシェンは消え往くヴァティの体に目を伏せて、立ち上がった。

 もう泣いてなどいられないから

 

 

 さぁ、始めよう。

 

 

 光は収束し、弾丸へと変じる。

 

 ヴァティ・レン。

 兵器として生まれて、人になることを望まれた矛盾の存在だった。

 人になろうと足掻いて、そして全てを失った。

 そして、全ての思いの丈をぶつけて、負けて、本当に何もかもを失って、認められて、人になったのだ。

 彼女が人として生きた時間は本当に短い。

 だが、全てをやり直すことを由として

 自分の未来に、その瞳は何を映したのか

 其れは無限の可能性。

 其れは無限の希望。

 

 

「"瞳に満ちる光"ティアレインボー」

 

 

 宙を舞うように虹色に輝くソイルの弾丸が姿を現す。

 全ての可能性と希望を表した無限の色。

 虹の涙。

 それはヴァティ・レンの命の結晶。

 

 京がそれを指で弾くと弾丸は魔銃に吸い込まれるように装填される。

 1つ目。

 そして、京の隣に一人の人影が並び立つ。

 

「己を使え」

 

 ジルドレイド、そう言って笑った。

 同じくして、光となって消え去る。

 

 ジルドレイド・アントーク。

 彼は武芸者、生粋の武芸者だった。

 ただ護るために、精霊を愛して、愛されて、共に生き、駆け抜けた。

 それから遥かな時がたった今でもそれが変わることはない。

 己が護るべき全ての為に、敵を粉砕すべし。

 彼の意思を折ることはできない。

 鉄の塊だから、鋼でできているから

 彼の意思はそれほどまでに強く、決して砕けはしない。

 鋼の心は、砕けない。

 

 

「"究極の魂"ソウルガンメタル」

 

 

 鈍く、鋭く輝く鋼色のソイルが充填されたソイルの弾丸が姿を現す。

 けして砕けない不屈と覚悟を湛えた色。

 鋼の魂。

 それはジルドレイド・アントークの命の結晶。

 

 それもまた魔銃に吸い込まれるように装填される。

 2つ目。

 

「そして……」

 

 これが最後だ。

 ヴェルゼンハイムを指差して

 告げる。

 

「お前に相応しいソイルは決まったァ!」

 

 胸に手を当てて

 京の体が光り輝いて、魔銃を残して消えていく。

 

 京。

 彼は無為だ。何も無い。

 だから、得体の知れないものと契約して、分不相応な力を得て、今ここにいる。

 好き勝手に、お前の都合など知らないと、物語に茶々を入れるのだ。

 それが与えられた力と共に得た意義であり、彼の全てなのだから。

 数多の経験と力を得て、形作られた彼。

 しかし、一番初めの彼は何だっただろうか

 何も無い。まっさらだったのだ。

 それは純白の無地、空の己に他ならない。

 

 

「"我が命の螺旋"エンドレスホワイト」

 

 

 一片の曇りもない純白のソイルが充填された弾丸が姿を現す。

 全ての始まりと終わりを意味する色。

 永遠の白。

 それは京の命の結晶。

 

 最後の弾丸が魔銃に装填される。

 3色の命の結晶、ソイルが揃った。

 ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなる。そしてドリルも唸るように回転していた。

 

 メイシェンが右腕を翳せば、それは収まるように装着される。

 頬に涙が一筋流れた。

 

「もう、全部終わりにしよう」

 

 砲身が黄金に輝く。

 その砲身は真上に、天に向けられた。

 これが全てを粉砕する最期の力。

 

 

――――――究極召喚――――――

 

 

 トリガーが、引かれた。

 

 涙の虹、鋼の魂、永遠の白、3つの光が螺旋を描いて、交わって 

 

 召喚するは砲撃獣、龍神、究極の召還獣。

 

 今ここに、姿を現す。

 

 その名は…

 

 

 

 

 

――――――撃ち砕け…! 召喚獣! バハムート!!――――――

 

 

 

 虹色の羽をはためかせた白銀の龍が姿を現す。

 それは究極召喚獣バハムート、魔銃で召喚可能な召喚獣の頂点に君臨する自らの分身ともいえる存在。

 魔銃を模した頭部の銃口が光り輝きく。

 

 

――――――ガンズ・フレア――――――

 

 

 そして

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 カラン、と音がして魔銃がメイシェンの手からスルリと抜け地面に落ちた。

 魔銃も全ての力を出し切り、本来の持ち主もこの世界にはいないことで光の粒子となって消え去ってしまう。

 メイシェンは力が抜けたように地面にへたりこんだ。

 

「……」

 

 放心したように空を見つめる。

 そこには満天の星と本物の月が夜空を彩っていた。

 しかし、今のメイシェンには何の感慨も浮かばない。

 最後は本当に呆気なく、全てが終ってしまった。

 全てを破砕して、撃ち砕いて、駆逐して、終る。

 そして、メイシェンの手からも零れ落ちるように全てがなくなってしまった。

 メイシェンの周りにはもう誰もいない。

 

「どうして」

 

 こんなことになってしまったのか

 全てが終った。もう柵も何もなくなったというのに

 何故、共に喜び合える人が誰もいないのか

 

「どうして」

 

 自分に力を与えたのか

 与えなければこんな場所で、こんな気持ちにならずにすんだのに

 

「君の、せいだよ」

 

 全て京のせいだ。

 自由気ままに、勝手に動き回って、巻き込み巻き込まれ、いつもどんな気持ちだったことか

 そして最後に勝手にいなくなってしまった。

 ふざけるなとそう言ってやりたい。

 しかし、もういないのだ。ヴァティもいなくなってしまった。

 それはもう空虚しかない。

 

「あぁ、ここにいたか」

 

 知らない男の声がした。

 振り返れば、そこには見知らぬ男が立っている。

 黒いコートを羽織った黒髪に右目を眼帯で覆った無気力そうな男。

 そしてその傍らにはコートの先を詰まんでもう放さないというようなサヤの姿があった。

 少しだけ、恨めしく思ってしまう。

 

「こんにちわ、お嬢さん」

 

 その男はそう言った。

 英雄、その響きに皮肉はない。

 

「誰、ですか?」

 

「おっと、名乗りが遅れたか、すまんね。アイレイン・ガーフィート、サヤの保護者ってところかね」

 

「アイレインさんが私に、何か」

 

 その2人は今はない自分の姿に見えて、冷たく返してしまった。

 

「いや、用があるのは俺じゃなくてサヤなんだけどな」

 

 そう言って、アイレインはサヤに目線を移した。

 サヤはメイシェンを真っ直ぐに見つめて、告げる。

 

「確定情報ではありませんが、彼、京と呼ばれる人物はおそらくまだ死んでいません」

 

「ぇ?」

 

 本当に突然に言葉にメイシェンは固まった。

 生きている。だが京はメイシェンの目の前で消えたはず。

 

「私は人の魂を自身に収める"楽土"としての機能があります。亜空間が取り払われたことで私の機能は無駄なものとなりましたがそれでも感知程度はできます。そして、ここにある魂はジルドレイドの分しか観測されていません」

 

 弾丸と打ち出されても魂の残り香のようなものはある。それをサヤは察知することができた。

 そして、3つの弾丸になった魂のうち、ジルドレイドしか観測されていないということは、まだ可能性があるということだ。

 

「あなたが一番よく理解していると思いますが彼は私たちの常識では考えられないことをしています。可能性はあると思いますが」

 

 それは一つの天啓だった。

 そして、同時に確信をする。

 京はまだ死んでいない、もしかすれば…

 少しだけ元気が出た。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、私にはこれだけしかできませんが、もしかすればあたなに余計な事を告げてしまったのかもしれません」

 

「ううん、十分です」

 

「それなら、何よりです」

 

 それだけ告げて、サヤとアイレインはどこかに消えていった。

 一人ポツンとまた取り残される。

 だが寂しさはなかった。

 

 空を見上げれば星が見えて

 

 それはとても綺麗だと思えた。




と、レギオス編完結しました。
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。
物語にもかなり粗がありましたが、それでも完結に持っていけることができました。
皆さんのご声援のおかげだと思っています、多謝。

次回からは舞台を変え、新章に突入します。
ここからが折り返し地点といった感じでしょうか、分量的には5分の3といったところ

次回○○゛○!編
乞うご期待ください。
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