「輝装・
現れるは暗青色の鉄腕。
対極を掴む天秤の両手。
それは輝装段階、第一の力、全てを掴む序章の一節に過ぎない。
その御手は
始まりにして風を掴み。
半ばにして虚空を掴み。
終りにして万象を掴む。
大気が砕ける音と共に京の主兵装である鋼の両腕が機能を全開にした。
「アーティファクト……ッ!」
現れた武器にネギ達は警戒、新ためて構えを取る。
「もう少し、付き合ってくれよ」
京の鋼の両腕からは青白い炎が噴出していた。
空気中の水分が凍りつき、霜を発しながら目に見える形の冷気の炎を湛えている。
京の周囲は既に極低温の地獄へと変わっていた。
「兄貴、奴のは氷結系のアーティファクトですぜ!」
「うん! わかってる!」
ネギ達の行動も早かった。
ネギはすぐさま詠唱を開始、明日菜はそれを護るべくハリセンを持ちながら突撃を開始する。
だがそれらは全て京の挙動よりも悉く遅った。
「ふっ!」
右腕を地面に叩きつけるように突き刺す。
同時に地面が氷り付き、地面を伝道した極冷の波動は地にいる全ての者を凍り付かせる。
一瞬にして周囲数十mが氷の世界へと変貌、そしてその範囲には敵対する者達を捕らえていた。
「明日菜さんっ!」
「っ! 足が凍って……!」
明日菜は駆け出した動きのまま足が凍りつき、その場に縛り付けられた。本来なら足が完全に氷り砕けるところだが魔法の強化によって表面だけで済んでいるようだった。勿論それを見越しての攻撃だが。
京は地を蹴り、前へ。
それは以前のスピードとは比較にならないほどに速く、不意を討った格好となった。
瞬時に右腕の冷却機能を停止、明日菜の腹に優しく触れるように添える。
「どっちもあまり戦闘経験ないみたいだね、見ればわかるよ」
そう一言残して、思い切り押した。
「きゃぁっ!?」
吹き飛ばされ、その方向にはネギがいる。
同時に自ら吹き飛ばした明日菜に並ぶように自らも前進を開始していた。
吹き飛ばされネギに向かう明日菜が盾になり、詠唱が完了したネギは魔法を撃つことができない。
戦闘での立ち回りにおいては京の方が上手なのは明らかだった。
急激に変わる戦闘展開、それに伴ってネギは一瞬固まってしまう。
だがそれでも彼等はただの素人というわけではなかった。
「ネギ! いきな…さいっ!」
咄嗟にか明日菜は京がネギの魔法によって吹き飛ばされたときと同じように体を捻り着地、その勢いのままネギに走り向かうと襟を掴んで京にぶん投げた。
明日菜の一声で我に返ったネギ、更に既に詠唱済みの魔法を至近距離で京に放つ。
「はんっ!」
それに笑いながら、京もまた
「
「炎熱機関部分限定収束」
大気を魔素を一瞬にして蒸発させて、吹き荒れる武装解除という名の風を炎の熱波が迎え撃つ。
2つの風はお互いを掻き消して
それに勝ったのは
「うぁっ!」
京だ。
直接の打撃だけは回避できたものの繰り出された熱波はネギを襲った。
息をすれば喉が焼けるだろう。触れるだけで痛みが走るほどだ。
前進していた足を止め、京はその成り行きを見つめる。
「ネギっ!」
「ぅっ…、大丈夫です」
そのネギを受け止めていたのは明日菜、翻弄されたものの戦意はどちらも全く衰えていない。
心の中で時間を刻み、京は思う。
自分に似ているなと、それは性格とか戦闘スタイルではなく戦い方、以前の自分などは超人級の肉体と空手の型を達人クラスにはできても実戦はしたことがないという矛盾の塊のようなものだった。彼等は才能や修練は積んでいても実戦と言うものはほぼないと言っていいのだろう。それ故に扱いやすい。
あちらを攻勢に回さなければ翻弄できる。かつてサヴァリスにやられた手だ。
「炎と氷のアーティファクト……、そんなものがあるなんて」
「だからって私たちが諦める理由にはならないわ」
京の右手は赤い炎が灯り、左手は青い炎が灯っている。
熱自在操作、それがこの両腕に搭載された能力である。
「諦めるかい?」
実力差は明白、たとえ1対2でも覆し難い力の差がここにはあった。
「僕は生徒を助け出すまで、諦めません……!」
「……それでいい」
それに明日菜も頷いて、ネギと明日菜、2人揃って京に猛進を開始した。
それに対し、京はその場を動かず炎熱の右手を振るった。
発生する炎の壁。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!
「まだそんなものを持ってたか」
ネギの背後に現れる8人の風で構成された分身、それらは全て実体が伴っている。
「
ネギの号令と同時、分身は突撃を開始する。
5体の分身が炎の壁を突き抜け消滅、そらに直接攻撃しようとした残り3体は京の振るう両腕によって消滅した。
そこでほんの僅かに、時間ができる。
「せぇいっ!」
目の前には明日菜、全力で振るわれるハリセンは当たれば意識が朦朧となるくらいには痛いだろう。
それを黙って食らうはずもなく、余裕を持って京は氷を湛えた左腕で受け止める。
凍りつくハリセンとそれを握る明日菜の両腕、痛みに顔をしかめながらも明日菜は笑った。それは信頼を含んだ笑みだ。
「
時間稼ぎ、ネギの分身と明日菜は役目を全て終えていた。
背にあった大きな杖に跨って、それは凄まじいスピードで京に迫る。
「
自身に魔力を浸透、自分の従者にしたように自身を強化、そして瞬間的に加速したことで爆発的な攻撃力を生む。
ズン、とネギの魔力が篭った拳を京は受けた。
衝撃が背を突き抜けて背後まで及ぶ。
「これなら……!」
ネギ自身にとっても即席にして最大の攻撃、コンクリートですら粉々に砕くであろうその威力。
だがしかし。
惜しむらくは
「……まぁまぁ効いたよ」
京自身の防御力を甘く見ていたことだろう。
見れば京の体はその半分が氷っていた。
分厚い氷の鎧、そして、
繰り出されていたネギの拳は氷り付き、京から離れることすら許さなかった。
「これで終わりかな」
振るわれる炎の右、それはネギの魔法障壁を紙の如く貫き、宙に浮かせた。
「ガハッ……ゴホッ…」
墜落し咽びながらネギはそれでも立ち上がろうとする。
「ぁ、兄貴ぃ……」
先のネギに振るった右腕の炎で氷の拘束が溶けたのか明日菜は気合で離脱、ネギの元へ走っていった。
それに追い討ちはかけず、京はゆっくりとネギ達に向かって歩いていった。
「ネギッ! 大丈夫!」
「まだ……いけます」
実際良くやったほうだと思う。
最後は中々に魅せて、良い攻撃を打ってきた。
だから、これで終わりだ。
京の思惑も含めて、目的も遂行済み、彼等をこのまま縛ることは由とはできない。
ネギ達の前に京は見下ろすように傍に立つ。
「ッ……!」
ネギを庇うようにして明日菜は身を縮めた。
京が赤く灯った右腕を前に出す。
そこからは熱くはない心地よい程度の熱が発せられた。
ネギと明日菜を氷りつかせていた氷が解けていく。
そして、京はそのまま親指を向け、こう言った。
「行っていいよ」
その言葉を誰が予想しただろうか、止めを刺されると思われただけにネギ達の顔は少し面白いものだった。
「行っていいってあんた!」
「あぁ、もう俺の仕事は終ったんだ。いや、彼女ならまだ間に合う。あっちに真っ直ぐ進むといい、○○駅であの猿のきぐるみは降りる手はずになってるから、今から全速力で向かえば丁度間に合うんじゃないかな」
そう言いながら、自分達の目的を瓦解させる情報をベラベラと垂れ流す。
ここまで戦えて、まだ余力があるなら千草を止める事はできるだろう。
止めることができるならそれは全て京の思惑通りだ。
「迷う暇はないだろう? これから君達は遠くに連れ去られた近衛木乃香を探す段階で手間取るんだ。ここは1つ俺の話に乗ってみるという賭けしかない。理由が欲しいなら、俺が君達に止めを刺さなかった。それだけで十分じゃないかな?」
畳み掛けるように京はネギ達の選択肢を塞いでゆく。
千草を追っているだけならまだ良かった。だがもう姿を見失い当てもなく千草が逃げていった方角に進むしかないだろう。刀を持った少女が抑えていると信じて、それが無謀だと言うのは彼女等でもわかることだ。
そして、今から行けば間に合うと止めを刺さなかったことを根拠に助け舟を出す。
「……信じていいんですか」
「何に誓うこともできないが、で、どうするんだ?」
京の問いにネギ達は立ち上がり、京に背を向けて走り出すことで答えた。
「結構」
それに満足そうに京は笑った。
ネギ達は見えなくなり、辺りは暗闇に戻っていった。
装備を解除、光になってそれは消えていく。
この世界での始めての戦い。かなり手を抜き、できるだけ傷つけないように戦っていた。事実、ネギ達は掠り傷や軽い火傷程度しか負っていない。
このまま行けば丁度千草と正面で鉢合わせだ。
「ハハ……」
計画通りだ。
「どうして逃がしたんや?」
隣には納得行かないような顔の小太郎がいつの間にかそこに立っていた。
「なんだ、出番もないままに終って欲しかったか?」
実際、あのまま止めを刺し、気絶させていればおそらく計画は成功していただろう。
それは避けたい。
これは京だけの思惑であり、フェイトにすら伝えていないことだった。
「面白いもん見たし負けたわけでもないし、逃がしたことについては別にいいんやけど、なんかなぁ」
そう釈然としない小太郎、思うことがないわけでもないのだろう。
逆にあの戦いで魅せたネギに興味を持った様子でもある。
「それに戦いたいんじゃないのか?」
「そりゃ勿論!」
「なら気にするな、次はお前の番だ。俺は邪魔しない」
それもそうかと拳を握り締めて闘志を燃やす小太郎を尻目に京は帰りの道を歩く。
どこからか見られているような視線を感じなから。
今回の計画は失敗、フェイトから下される評価はどうなるか
全く問題ない。
京の右手には封筒が持たれている。
最後に攻撃したときに抜いておいた物だ。
それには「親書」と大きく書かれている。
フェイトから誰が親書を持っているかは知らされていた。京の目的の大半はネギに照準されていたのだ。
「任務完了、ってね」
それを粉々に破り捨て、放り投げる。
小さな紙くずとなって目的の1つは空に舞ったのだった。
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
「あのがきんちょ共ーーーっ!」
千草は荒れていた。
それはもう怒り狂っていた。
何故かといえば、それは予想通り彼女は近衛木乃香を取り返されてしまったからだ。
「まぁまぁ」
それを宥めるようにフェイトが言っているが様子見を決め込んだ時点で説得力はない。
「なぁなぁ、それで次の計画はどうするんや」
戦いたくてうずうずとしている小太郎と
「あぁ……、刹那はん……」
なにやら恋する乙女のような瞳で刀を持っていた少女であろう名を呼びながら刀を振り回している。
そして、それを興味なさげに見つめる京。
端的に言って纏まりというのがなかった。
どうしてこうなったかということなどこの現状が物語っている。
「はぁ……」
そう溜息を零して千草は項垂れた。
上手くいきそうだった計画、それは半数の様子見と言う名の仕事放棄と京と月詠の足止め失敗によって終った。
「奴がスプリングフィールドだったのが原因か……」
そう千草が漏らす。
「スプリングフィールド?」
その言葉に疑問を感じて京は千草に問いかける。
不機嫌そうに千草は答えた。
「ナギ・スプリングフィールド、20年前に大戦を終結に持ち込んだ英雄、あの坊やは年齢的にも容姿でもあの英雄の息子に間違いはないってことや、あんたも見たやろ? ガキであんなに強いなんてことはない」
「あぁ、うん、なるほど」
一方的に打ちのめしてしまった為あまり疑問に感じていなかった。
今思えばあの年齢であの実力は異常なのだ。
そして、ナギという名前が出た瞬間、フェイトの周囲の温度が下がった気がしたのは京だけが気づけていた。
「まぁ今後相手がどう動くかわからへん、旅館内の潜入はもう無理と見てええやろ、後は外出時を狙うしかない」
そう締め括り、今のところは様子見だと明日は揃って働いてもらうからねと言い残して疲れを癒すために眠りに入った。
それに倣って消えていく者もいれば眠りに着く者もいる。
そして、残されたのはフェイトと京だった。
「それで、
「おかしいな……、責められるようなことはしていないはずですが」
始まった追求、それに京は白々しくも答えた。
フェイトからくる威圧が強くなる。
ネギ達を逃がした行為、それがバレなくて追求されないなどとは思っていない。
常に監視は受けていたし、それを逃れる気もなかった。
だからここで言い逃れる必要がある。
「完全なる世界に対して不利益な行動ではなかったはずだ。いや、不利益な結果を齎せないように俺はこれから行動していくつもりです。それに一定の成果は出した」
全ての狙い、思惑は話さず、ある程度結果を出したのだから信じろと言った。
京ができるのはここまで、フェイトの裁量がどこまであるかに全てを任せる。
「……まぁいいだろう」
そう言って、フェイトは消えていった。
「あぁ、辛い」
それに溜息をついて近くにあった木に背を凭れた。
実際、許さない死ねと言われたら戦うつもりだった。が、勝てる気は本調子ならあれど今は無い。精々2,3発お見舞いできる程度で終るだろう。
そして、おそらくだがハードルが高くなった。
表情からは見えなかったがあれは不機嫌というものだったと思う。
失敗したかなと思いながらそれでも後悔はなかった。
計画には従う。はい成功で終らせる気はない。
何故なら自分は引っ掻き回す存在だから、その存在意義を止める気はない。
「さぁ、次だ」
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
「余裕だねぇ」
次の日、ネギ達を監視して思った感想はそれだった。
見れば観光を他の級友達と共に楽しんでいる。
その前日には誘拐されかかったのにも関わらず、だ。誘拐されたことを近衛木乃香は覚えていないのだろう。何故、周りの護衛は知らせないのか、千草によればそれは温室育ち、魔法の存在意すら知らされていないのだという。
だが現に一度は不意を突かれている前回、それはもはや愚考と言うほかない。
旅館にて篭城を張れば少なくともこちらからの手出しは控え気味になったというのに、態々攫ってくださいと言っているようなものだ。
「まぁ、やりやすいからどうでもいいんだけどねぇ」
近衛木乃香の周りにはネギ、明日菜、そして刹那と呼ばれた少女が囲むように護っていた。
それが相手側にとって最大限の限界だったのだろう。
相手の思いを考慮に入れる必要はない。
その中でネギだけが意気消沈した様子を醸し出していた。無理も無い。親書を奪われていたと後々になって気づいたのだろう。その大仕事を失敗してしまった彼の心情は計りかねるものがある。
それでも幾分か周りに励まされていたのか元気を取り戻しつつあった。
「それで、どうするんですか、千草さん」
「今度は俺が先陣切るで」
張り切った様子で小太郎が言った。
彼が先陣を切るとしてどうするか
「戦力分散は考えた方が良いやろうなぁ」
近衛木乃香を護るものは3人、ネギ、明日菜、刹那、ネギは魔法使いであり、明日菜は式紙を封じる何かを持っているのだそうだ。残る刹那は気と月詠と同じく神鳴流を使うという。実力的には刹那の方が若干上と言ったところで全体的に戦力はままあるといえる。
フェイトか京が出た時点で戦力差が覆るのは明白だが、それはおそらくどちらの本意となる結果にはならない。
京はどう動けばいいのか
それは決まっていないが何をさせてはいけないかは把握していた。
フェイトを動かせてはいけない。
彼はこの中で敵味方問わずに考えて異物だ。実力的に考えてこの状況を何の策も練らずに終らせてしまうことができるだろう。
だがフェイトはそれをしない。つまり、まだ京を見ているということでもあり、他に見たい何かがあるということだ。だからこそまだ傍観に徹している。
これがラストチャンスと見て問題ない。次の日で標的は帰ってしまうのだから今日何かアクションを起こすしかない。
だから
「俺が分断する」
ここで京が動かなければならない。
京の思惑には多分な私情が混ざっている。
それは過去のことが要因でもあった。
京の目的はこうだ。
近衛木乃香を誘拐させず、全ての計画を達成させること
先に行くと言って千草の元からいなくなる。
京の裏切りにも似た計画が進んでいた。
と初戦闘から次回の戦闘まででした。
ネギま!編はおそらく20話前後(予定)、いかに戦闘があるかないかによって話数が変動しますがその辺りを目安に考えています。