マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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第71話

「や、また会ったね」

 

 ネギ達の前に京が立ちはだかった。

 ここはシネマ村、白昼堂々と襲うのにこれ以上良い場所は無い。ここまで追いやったのは月詠と千草、死角から攻撃し追い立てるようにここまで誘き寄せていた。

 そして、警戒を強くするネギ達の前に京達は現れた形となる。

 少々予想外だったのは

 

「また会いましたなぁ、死合いましょか~」

 

「俺はあのチビ助とやるわ」

 

 戦闘好き(バトルマニア)戦闘狂(バトルジャンキー)が勝手にくっついてきたことだった。

 曰く、抜け駆けは許さないのだそうだ。一緒にしないで欲しい。

 程なくして、相対するネギ達もそれぞれの武器を構えた。

 

「あんた達は……!」

 

 忌々しそうな明日菜の声が聞こえる。

 まだ懲りてなかったのかとまた追い返してやるとの決意も篭められていた。

 ネギも続けて京に疑問を投げる。

 

「……僕の持っていた親書はどうしましたか?」

 

「さてね、ただ言えることはもう君の手元には絶対に戻らないといったところかな」

 

 それに京は当然だと返した。深く被ったローブのせいで表情は見えないがそれは薄ら笑いを浮かべていると声で誰しもが判断できるほどの嘲笑だった。

 

「情報料だよ。妥当だったろう?」

 

「……もういいです。喋らないでください」

 

 京の言葉を受けて、ネギも様々なことを受け止め、覚悟を決めたようだった。

 一触触発、微動だにせず互いは動かない。

 ただその中で

 

「ぇ? なんなん?」

 

「なにか即席の劇でもやってるの?」

 

 その渦中の真っ只中にいるはずの木乃香と事情を知らない他のクラスメートは何が起こったのかわからずにいたようだった。

 方や黒いローブを着た胡散臭い京とドレスを着た月詠、学生服の小太郎、対するは刀とハリセンを持った少女と杖を持った少年、緊迫した空気は流れどそれを冗談に感じてしまう程度にはお遊戯感丸出しである。

 

「あのローブを着た男が怪しいなぁ、なんだかラスボスというか黒幕っぽい感じがするねぇ」

 

「そうですか? 逆に中ボス的な安っぽさもあるです」

 

 嫌な寸評も下されているがそれは聞き流す。

 次第に何事かとギャラリーも集まっていた。

 

「お嬢様、下がっていてください」

 

「ぁ……、うん、気を付けて」

 

 なんとなくかこの現状を察したのだろう。刹那の言葉に木乃香は黙って下がった。

 

起動(ジェネレイト)

 

 京も両腕に輝装を纏い、戦闘準備を完了した。

 これはただの茶番に過ぎない。敵味方双方の目的が何故か合致しているという不毛な争いだ。

 内部からの裏切りに似た思惑、それがこの戦いを無意味なものへと変貌させている。それを知るのは企む京ただ一人であり、この戦いの裏を知る者はいなかった。

 

「茶番は茶番らしくってね、月詠さん」

 

「はいな~」

 

 月詠が腕を振る。

 それと共に袖から大量の札が現れ、一瞬眩い光と煙が舞い出た。

 

「ひゃっきやこぉ~~~~!!」

 

 現れるは可愛らしくデフォルメされた妖怪達、それは大量の物量を以ってその場を混乱に地に変えた。

 個々の戦闘力は全くと言っていいほどあの妖怪達には存在していない。だが騒然としたこの場は仲間の現状がわからなくなってしまう程度にはその役目を果たしていた。

 自分だけで分断するつもりだったがこうなってしまっては是非もない。

 この騒ぎに乗じて、京達は襲い掛かった。

 小太郎と月詠の標的は決まっている。

 

「にとーれんげきざんてつせーん!」

 

「狗音噛鹿尖!」

 

 月詠の小太刀二刀による斬撃を刹那が受け止め、狼状ののエネルギー波を小太郎が振るう拳から放射、ネギの放つ魔法弾と相殺しあった。

 そして、当然残った者が戦うこととなる。

 妖怪達を掻き分けて、京は流れるように木乃香へ向かう。

 

「逃がしたと思えば捕まえようとしたり、なんなのよあんたは!」

 

 それを明日菜が迎え撃つ形となった。

 

「ご尤もだね、耳が痛いよ」

 

 それに苦く笑いながら振る下ろされるハリセンを右腕で受け止めた。

 同時に灯る青い炎。それに気付いて明日菜は咄嗟に飛び退いた。過去の教訓という奴だろう。

 京は前進を止めない。

 

「君じゃ俺をどうすることもできないよ、わかっているだろう?」

 

 迫る京に明日菜は動けなかった。

 何故なら自分の背後には木乃香がいる。避ける、後退の類はできない。そのまま京が明日菜を無視して行ってしまう可能性が遥かに高いからだ。

 だからといって打ち合うかというのも現実的ではない。先日の戦いではネギと明日菜の2人で京に歯が立たなかったのだ。そして、その戦いでも京と明日菜の相性は最悪、明日菜の攻撃はほぼ無意味であり近寄ろうものなら問答無用の凍結が待っている。遠距離の攻撃を持っていない明日菜は既に詰んでいると言っていい現状だった。

 

「くっ……!」

 

 優しく振るわれた拳をハリセンで受け止める。

 当然のようにそこから氷り始めるハリセンと握る両腕、手首から肘、やがて肩にかけて凍結が侵食していく。

 既に時間の問題、完全に凍り付けばこの戦いは結末を迎える。

 

「きゃぁっ!?」

 

「木乃香っ!」

 

 そして、背後から聞こえる木乃香の悲鳴。

 京に攻撃されていることも忘れそちらに振り返れば千草が木乃香を捕まえているところだった。

 

「ほな、木乃香お嬢さまは貰っていきますえ」

 

 ニヤリと笑う千草。

 

「お嬢様!」

 

「余所見はあきまへん、うちを見ておくれやす~!」

 

 咄嗟に助けに入ろうとする刹那も月詠の猛攻から脱することはできないようだった。

 ネギも小太郎に若干圧倒され、こちらに加勢することもできていない。

 これで離脱すればこちら側の目的は完遂される。

 そう思った時だった。

 

 

「うちの娘に手を出そうとはいい度胸ですね」

 

 

 チャキン、と千草の首に刀が添えられていた。

 それにビクリと千草が反応するが全てが遅い。

 誰も見えなかった。気付けなかった。しかし、それはそこにいて敵側のありえないはずの切り札が切られた瞬間だった。

 首筋に刀を添えるは一人の壮年の男、不健康そうな顔にメガネをかけて、だがその眼光は鷹の如く鋭い。

 

「長っ!?」

 

「お父様!」

 

 近衛詠春、関西呪術協会の長でありターゲットである木乃香の父親でもある。

 同時に彼は20年前に戦乱を鎮めた英雄の一角、たとえ全盛期を過ぎていたとしても剣士として上位にいまだ君臨しているのは間違いない。

 拙いところで厄介な増援が来た。

 

「……」

 

 瞬間、京の動きは早かった。

 続く左腕の一撃によって明日菜の下半身を凍結、完全に無力化した明日菜を置いて京は千草の元へ迫っていた。

 拙いなと京は思った。

 

 この現状、ほぼ間違いなく京が原因であったからだ。

 親書の奪取、それが全ての引き金となってしまっていた。関東魔法協会の長からネギへと渡されていた親書、勿論それが敵の妨害に合い奪われてしまったとなればそれは関東魔法協会の長に即任務失敗の方を告げられることとなる。それだけならよかった。関東魔法協会の長の姓は近衛、近衛詠春の義父であり木乃香の祖父である。同時に告げられる木乃香の誘拐未遂の一件、それが父である近衛詠春に伝えられないはずが無い。そして、娘の一大事を聞いて動かない父親など存在しない。

 ネギ達を圧倒し実質逃がしてもらうなどの実力差を見せ付けられていれば当然の帰結、自分達の手に負えないかもしれないと、それは近衛詠春の乱入だけでは済まされなかった。

 

 詠春に迫る間近、京は咄嗟に右腕を振るった。

 

「っ!」

 

 同時に鳴る銃声と金属が弾ける音。

 京の死角から銃弾が京に放たれていた。そちらを見やれば僅かに見える人影とこちらに照準を向けるレンズが光って見える。

 

「狙撃手か……」

 

 厄介だなと一人一人の対応が面倒なだけに手が足りない。

 だがそれだけではなかった。

 京の背後から何かが襲いかかる。

 振り返り様に炎熱の腕を振るい、それを弾く。だが先の弾丸とは違いそれは轟音と共に凄まじい衝撃が京を襲い一瞬体勢が崩れた。

 それは京の背丈ほどもありそうな巨大な四刃の手裏剣、それが高速で投げつけられていたのだ。

 そして、現れる2つの人影。

 それは京を挟むように右と左の両サイドから襲い掛かってきていた。

 

「ふっ!」

 

「恰ッ!」

 

 隙を突いた挟撃、手裏剣を弾き飛ばした腕は防御に回せず、受け止められる体勢でもない。

 咄嗟に体を捻り、急所だけは避けるように京は動いた。

 続く衝撃。

 

「ち……ぃ…」

 

 意識が飛びそうになる内部浸透系の打撃、それに耐えて続けられる二打目を許さず、氷結と炎が京の周囲に展開される。

 それに跳び退いて、京に攻撃した2人が見えた。

 

「硬いでござるなぁ」

 

「なんか変な手応えだったアルね」

 

 並ぶように降り立った2人は少女だった。チャイナ服を着た170は越えているであろう長身の少女と小柄で褐色肌の少女、彼女等が京に攻撃を加えた張本人だった。

 彼女等もまた木乃香を護る者達の一人、刹那が呼び寄せた者達の一人である。

 刹那は仕事仲間であり級友でもあるスナイパー龍宮真名に助けを求め、そこに偶然居合わせた忍者と格闘家が駆け付け今この事態に発展する。

 これにて計4人、しかも相当強力な助っ人が現れることになる。それもこれも原因は京、親書を破壊し、実質の勝ちに持っていったことで刹那の危機感を煽ってしまったのが駄目だった。ついでに運も無かった。

 しかし、この結果もどうしようもないとも言える。京の思惑がある以上、ネギ達に勝たなければ親書は破壊できなかったし倒されたフリはできなかった。どちらにせよ避けられないことだったと言える。

 

「ヤバいなぁ、これは」

 

 主に自分の立場が。

 このまま失敗の上、捕縛などと言う結果になれば京は間違いなくフェイトによる石化コースが待っている。

 既に劣勢も劣勢、多勢に無勢では負けが見えてきている。逃げられるかどうかも怪しい。

 だが

 

「まぁ、悪くない」

 

 千草からすれば致命的な現状だがフェイト及び完全なる世界にしてみては凡そ悪くないものである。

 なにせここに戦える者はほぼ全て揃っているとも言えるのだから。

 

「余所見は危ないでござるよ?」

 

「わかってるさ」

 

 金属が弾ける音が響き渡る。

 振るわれる巨大な十字手裏剣、それを京は受け止めていた。

 続けざま京による反撃、接触部分からの凍結が起こる。

 しかし、それは空振りに終る。

 

「分身……っ!」

 

「正解にござる」

 

 十字手裏剣を通して伝播する凍結は彼女に触れた瞬間に消え去った。

 京の周囲には認識できるだけであと15の影が見える。

 どれも彼女であって彼女でない。それは高速移動による残像であり、それを捉えるのは至難だろう。

 周囲から同時に襲い掛かられる。

 それを京は迎え撃つ。

 

「まだまだ!」

 

 冷気を湛える両腕は瞬時に赤く変化、両腕から炎が迸ると共に京を中心とした炎の柱が出来上がる。

 炎による全包囲防御、これによって今まさに襲い掛からんとしていた分身を半分消し飛ばす。

 一時的に敵の攻撃が止む、だがそれは京も攻撃ができないのも同じ、時間稼ぎはむしろ敵側が望むものだろう。

 だから一瞬でいい。

 この間が欲しかったのだから。

 あちらが増援を呼んだなら、こちらも呼ぶまで。

 京は紡ぐ。

 

 

 

 

 

「快傑蒸気探偵団より鳴滝、強力     ……発動」

 

 

 

 

 

 手に現れる手の平大のメダルのようなエンブレム。

 その中心を京は押した。

 

「来い……! 強力!」

 

 轟音が発生する。

 炎が止むと共に、それはいた。

 京の背後に控える鋼の巨人、悠に5mはある巨体、黒光りする鋼の体、蒸気を発する伸びた煙突。

 自己認識型巨大人形、オートマトン、石炭を原料とする蒸気機関のロボが姿を現した。

 

「ゴォォオ!!」

 

 それは雄雄しく雄叫びを上げた。

 

「ロボットが出てきたアル!」

 

「面白いことになってきたでござるなぁ」

 

 3対1が3対2になった。それだけでこの戦いを制するには十分。

 京は強力合図する。

 

「行くぞ」

 

「ゴォ!」

 

 それと共に強力の右腕の2本指のマジックアームのような腕が展開、同時に巨大なドリルが現れた。

 それを真一文字に強力は振るう。

 ドリルは地面をなぞりながら地を削り、溝を作りながら蹂躙を開始した。

 同時に京も飛び出す。

 

「任せた」

 

 1人か2人相手にしてほしいと言う意味を篭めて、強力はそれに更なる攻撃をすることで答えた。

 強力、巨大ゆえに動きはある程度遅い。だがその巨体と鋼の体は防御力としては十分であり、戦うことが必然としているのであれば問題は無い。

 彼等は守る側、こちらは攻撃する側だ。こちらは暴れればよく、相手は止めるために戦わなければならない。たとえ強力の攻撃を容易に避けることができてもその攻撃を止めるためには2人以上の力は必要となる。そして、あの程度の攻撃なら倒されることはない。

 それを尻目に京は木乃香を護る詠春に襲い掛かった。

 千草は既に倒されており、詠春の足元で昏倒している。

 

「主犯格は倒させてもらったがまだ動くのかね?」

 

「あぁ、勿論、こっちにも色々あるのさ」

 

 振るわれる鋼の腕とそれを受け止める詠春の刀の間で火花が散る。

 この一合だけで相手がどの程度やるのか、どれほど厄介なのかと理解した。

 

「成程、それは君からも色々と聞かなければならないかな」

 

「遠慮する……よっ!」

 

 足を一歩前に、更に腕を振り上げ、力尽くで鍔迫り合いを崩し、更に残った腕を突き出す。

 同時に放たれる炎の球弾。

 それに対し、相手の行動も早かった。

 詠春は即座に後方に木乃香を抱えながら跳躍、更に炎弾に向かって刀を振るった。

 

「神鳴流奥義 斬空閃!」

 

 炎弾を切り裂いて、振るわれた刀から発生した斬撃が京に襲い掛かる。

 京は駆ける足を更に速く、体勢を低くし、掻い潜るように擦り抜けることで回避した。

 だがそれも予想の内か、詠春の攻撃は終っていなかった。

 

「神鳴流秘剣 風塵乱舞!」

 

 剣を持たないもう一方の腕を振れば、そこからは無数の手裏剣が放たれる。

 それは弧を描きながら、または直進しながら再び京に襲い掛かった。

 

「らぁっ!」

 

 炎を発する右腕を地面に叩きつける。

 それと同時に爆炎と砂埃が発生、姿が見えなくなった。

 手裏剣は吸い込まれるように煙の中へと消えていく。

 そして

 ザッ、と地面を踏みしめる音が詠春の背後から聞こえた。

 

「っ!」

 

「これならどうだ」

 

 挟み込むように打ち込まれる炎熱の右と凍結の左。

 だがそれも

 

「まだまだ、若い者には負けんよ」

 

 受け止められた。

 しかし、無事とはいかない。右の攻撃は刀によって阻まれるが炎が刀と左腕を焼いている、左の攻撃は詠春の気の篭った右腕で受け止められているがそれも氷の侵食は止められていなかった。

 

「つ…ぅ…」

 

 それは京も同じだった。

 このまま詠春と一進一退の戦いは面倒だと判断、攻撃を合えて受け一気に接近することを選んだ京にも被害はあった。気が篭められた手裏剣は京が思う以上に殺傷力があり、京の体に浅くは無い傷を負わせていた。

 京の体からも血が滴り落ちている。

 2人の顔には苦悶が浮かんでいるがどちらも引くことは無かった。

 このままいけばダメージを与え続けている京の方が有利か、そう思われた時。

 

「長さん!」

 

 それを打ち破ったのは京にとって予想外の人物だった。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・光の7矢(・セリエス・ルーキス)!」

 

 予想外の方向から飛んできた7発の光の魔弾。

 常にスナイパーの位置を把握し、撃たれない位置取りをしていた京は範囲外からの攻撃に反応できなかった。

 7発の魔弾が京の背に突き刺さる。

 

「な…にぃ……!」

 

 京の力が弱まった隙を見て詠春も巻き返し、京を弾き飛ばす。

 これによってまた距離ができてしまった。

 ゴン、と重い音と共に弾き飛ばされた京の背に硬い触感が伝わる。

 背には強力がいた。

 あまり傷ついてはいないがある程度押されていたようだ。

 そして、京と強力を囲むように敵はそこにいる。

 先の魔弾を放ったネギが、そして刹那もそこにいて、京以外もう既に倒されていたということだった。

 

「おや、俺の仲間はどうした?」

 

「倒した。残るはお前だけだ」

 

「不甲斐ないね」

 

 それは自身を含めての自嘲、作戦だとか企めるほど京は立案力はない。行き当たりばったりでこうしたらいいかなと安易に行動した結果がこれだ。

 敵は8人、まだ問題は無いだろう。最大で相手にした人数は11、大人数を相手にすることはある程度慣れている。

 

「諦めて投降してください」

 

「はっ!」

 

 それに京は笑った。

 お前たちは何を言っているのだろうか、舐めていないだろうか

 

「まだまだ」

 

 

――――――次号展開準備完了――――――

 

 

 心臓から機械音声が発せられる。

 更なる力を、この両腕に託して。

 

「―――展…」

 

 

「待て」

 

 

 京が更なる展開の口上を口にしようとした瞬間、それを遮って止める者がいた。

 強力の肩に乗って、それは皆を見下ろすようにそこにいる。

 フェイト、こちらの切り札が切られてしまった。

 それに顔を顰めるのは京、ここにきて来てしまったかと

 

「京、君のソレは手加減できる類のものではないだろう?」

 

「……」

 

 天秤の魔拳の次段階、虚空の魔拳は振るえば簡単に死ぬだろう。

 それをフェイトは許していない。

 

「僕達の課した制約、覚えているね」

 

「あぁ、……わかってる」

 

 できるだけ相手に死傷者は出さないこと、それが組織にいるのに守らなければいけないことだ。

 それはフェイトを含めて、全てが全力を出せないことと同義となる。使命、それが彼等をそうさせるから、京もそれは破れない。

 

「ここは僕が相手をしよう。丁度いいタイミングでもあった」

 

 無表情に言うフェイト、それを堂々と宣言する姿は敵など歯牙にも掛けないと絶対の自身の表れとも取れる。

 

「それ以外については君に任せるよ(・・・・・・)

 

「……了解」

 

 京はそれを聞いて、項垂れる。

 戦闘中にも拘らず、自分の仕事は一端は終えたかと、そして、まだ見限られていないことに若干の安堵を示した。

 千草に対しては全力で裏切っていたがフェイトに対してはそのような行為はしていない。

 彼にしてもこの現状は京の思惑の産物にしても悪くはない状態、故にまだ問題ないと看做されているのだろう。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト、小さき王(バージリスケ・ガレオーテ)八つ足の蜥蜴(メタ・コークトー・ポドーン・カイ)邪眼の主よ(カコイン・オンマトイン)時を奪う(プノエーン・トゥ・イウー・トン)毒の吐息を(クロノン・パライルーサン)

 

 フェイトが詠唱を始まる。

 それはさせないと全員がフェイトに向かって飛び掛った。

 それに対して、京は自らの最大の力を持って円柱を発生させ、それを防ぐ。各々が全力を出せば突破は問題ないだろう。だが詠唱をするほんの数秒の時間稼ぎには十分すぎる時間だ。

 詠唱が終ったことを確認すると同時、京は跳んだ。

 

石の息吹(プノエー・ペトラス)!」

 

 フェイトの魔法が発動、灰色の煙が爆散し広がった。

 

「っ! これは……」

 

「石化魔法!?」

 

 ある者はなんとか回避し、あるものは魔法が掠り、体の端から石になり始めていた。

 それを横目にそれが自分の失敗の末路を見ているようであまりいい気分にはならなかった。

 

「きゃっ!?」

 

 ついでだと木乃香を掻っ攫い。その場を全力で離脱する。

 

「木乃香さん!」

 

「お嬢様!」

 

「今の君達の相手は僕だよ」

 

 京を追いかけようとするネギ、刹那をフェイトは立ち塞がり邪魔をする。

 そうこうしているうちに京は見えなくなった。

 

「ぉ、お嬢様ッーーーー!!」

 

 護れなかった者の叫びが響き渡った。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

 そして、小一時間程逃げ切ったあとの事、既に日は暮れ始めていた。

 湖の近くの林の中で京は木乃香を降ろし、一息つく。

 

「ふぅ」

 

 かなり全力で走り回った為、少なくない疲労が京に降り掛かっていた。

 一昔前は体力なんてほぼ無限だったんだけどなと遠い目をしながら木乃香を起こしに掛かる。

 

「ん……ぅ…」

 

 揺さぶれば木乃香は目を覚ます。

 

「こんばんわ」

 

「……っ!?」

 

 目を覚ました木乃香は目の前に京の姿を見ると身を竦ませた。

 誘拐犯が目の前にいれば反応としては普通だろう。京の素顔でも見せれば昏倒くらいはしてくれるかもしれない。

 

「そう身構えないでくれると助かる。話がし辛いからね」

 

 肩を竦ませて両手を上げながら何もしないよとジェスチャーで表す。

 

「うちをどうするつもりなん?」

 

 それに対して木乃香は気丈にも今後について聞いてきた。目元には涙が溜まっているし本心としては恐怖で一杯だろう。

 それでも彼女の芯としては強いほうなのだろうなと誰かを思い出した。

 

「別にどうにも」

 

「へ?」

 

 決死の質問、それに対しての京の切り返しに木乃香は素っ頓狂な顔になる。

 

「別に君の事は俺としてはどうでもいいんだよね、まぁ形なりに君を攫っておけば成功ということにはなるかな、なんて思ってね」

 

 今こんなことになっているわけだ。と京は笑った、様に見えた。

 

「他に聞いてもええ?」

 

「あぁ、答えられる範囲でいいなら答えよう」

 

「なんでうちが……」

 

 木乃香がどうして誘拐されるという憂い目に合ったか、まずはその話からだった。

 それに京は簡潔に答える。実は君は代々伝わる呪術師の家系で魔力量がヤバイから悪いことに利用されそうになったんだよと、率直に。

 

「というわけさ、君に隠していた理由は大方理由はつくけれど、それは君自身が聞いた方がいいことだと思うよ」

 

「うちを帰してくれるん?」

 

「帰すさ、もう頃合だし君には手を出さない。あとは旅館に帰るもよし、あの小さな先生のところに行くもよし、送り届けはしないけどね」

 

「そうなん?」

 

 そこでホッとしたのか木乃香は顔が綻んだ。安心したのだろう。だがちょっとは警戒して欲しい。

 度胸があるのかないのか、大らかな部類なのだろうと関わったことのない部類の人種に京は戸惑いを思えた。

 

「あんさん達はうちを攫って悪いことをしようとしていたんよね? どうしてうちを逃がすん?」

 

「突っ込むねぇ……」

 

 段々と質問が遠慮の無いものになってくる。

 これが最後の質問かなと京は答えた。

 

「1つ、俺達悪い組織も一枚岩じゃないって事」

 

 フェイトがいて、後は自身を含めて駒だ。そして、京という好き勝手に動く輩もいる。纏まりが無いにも程がある組織だったのは確かだ。

 

「2つ、別に君がいなくてもどうにかなっちゃうんだよね」

 

 リョウメンスクナノカミ、召喚し使役するのに大量の魔力が必要なだけであり、別の方法で呼び出すのであればそれは京でもできる。だがそれは千草が許さないだろうが。

 と、黒塗りの本を懐から出して京は笑った。

 そして、これが最後の理由。

 くだらない理由だ。

 

 

 

「俺、誘拐は嫌いなんだよねー」

 




と次回、京都襲撃編は終了です。といってももう戦闘という戦闘はないのでさくっと終わる感じになりますが。
2つ目の能力はロボ、搭乗タイプではなく一緒に戦っている小型気味なロボでした。

作品名:快傑蒸気探偵団
ジャンル:漫画&アニメ
使用者:鳴海
能力:強力
自己認識型巨大人形、オートマトンと呼ばれる小型ロボット。
主兵装は右腕のドリルと強力プロペラ。
重合金Rという特殊な合金で覆われており非常に頑丈、まだ思考が存在し自力で動くことができる。
動力は石炭。

と快傑蒸気探偵団でした。
石炭しか燃料がないという蒸気機関の発達した世界観のこの作品、懐かしいですね。
登場する変態…もとい敵役達が最後のほうに輝いていた記憶。
OPなどは今でも良曲だと思います。
ちなみに本作では強力内に博士の脳ミソが入っていると設定は無く、アニメ設定に準拠していますのでご理解をば。
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