マイナー能力者が往く異世界記   作:じろー

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第72話

「実は良い人?」

 

 はて、と木乃香は首を傾げた。

 

「ハハ、それこそまさか、俺は悪者だよ」

 

 それに苦笑しながら京は首を振った。

 少し優しくしたからとそう思ってしまうなど楽観視もいいところ、実際魔力を根こそぎ吸い出して来いなど言われていれば容赦なく実行している。

 京は誘拐が嫌いだ。嫌いというか、散々な目に遭わされたからどこか否定的な目で見てしまう。

 誘拐された者を追う気持ちというものもわかるし、その点においてはネギ達と共感できる部分もあった。だからできるだけ優しめな出力で攻撃、後の戦闘で支障がないレベルのダメージに抑えている。彼等を多少なりとも助ける結果になろうとも、だ。

 フェイトの計画、それにある程度反しても誘拐の排除はしたい、そう思う程度には京は計画に対して消極的だったといえる。

 そう思えば今回の初任務、京の痛いところをついた運が悪すぎるものだったのかもしれないと思った。

 

「良い人は誘拐なんてしない。俺が言うのもアレだがもう少し警戒心を持って……」

 

「でも、もううちにはなにもしないんやろ?」

 

「まぁ、そうだけど……」

 

 聞く耳を持たないとはこのことかと溜息が出そうになる。

 実際京が木乃香の友に手を上げた所を見られてはいない。父親との戦闘程度だ。それがどこか相手が誘拐犯だという現実味を無くしているのだろう。

 ほほんとした雰囲気の少女、彼女のからすればもう京は恐れる対象でないのか、その判断は直感に近いものだった。

 

「まぁ、話は終わりだ。それじゃ気をつけて、……これも俺が言うことじゃないか」

 

 話は終わりだと話を切り上げ、立ち上がる。

 足元に数滴の血が滴り落ちた。

 詠春にやられた傷は多い。しかも長い間全開で体を動かしていたため傷も塞がっていなかったようだった。

 

「ぁっ……」

 

 引き止めるように木乃香は手を差し伸べた。

 その瞬間、手の平から眩い光が辺りを照らす。

 

「っ!?」

 

 突然のことに京は目を見開き、それに反応することができなかった。

 光が収まっていく。

 それと共に京は体の違和感を把握していた。

 傷が塞がっている。

 

「……なんのつもりだ?」

 

 治療の魔法が使えたのは驚いた。

 いや、そもそも存在を知らなかったのではなかっただろうかと疑問はあったがそれは全て捨て置く。

 何故、自分を治したかだ。

 

「ぇ?」

 

 しかし、京の問いかけに木乃香は再度首を傾げた。

 その反応に大体のことを把握した。魔法は知らない。だがそれが覚醒する切欠のようなものは既にあったのだ。それは京が関知するところでもないし、その発露が偶然京に降り掛かっただけのことなのだろう。

 どちらにしろ木乃香が魔法を知るのは時間の問題だったということ、どうでもいいが。

 

「今、君が魔法を使って俺を治した」

 

「そっかぁ、よかったわぁ」

 

 木乃香はほんわかと微笑む。

 それに頭痛がして京は片手で頭を抑えた。

 

「俺は君の友人達を傷つけている。それについて思うところは?」

 

「怒ってるえ? でもあんさんは他の人たちとは何か違う感じがしたから」

 

 問題は無い。そう言うのだろうか

 

「まだ俺は動くよ。君達にまだ迷惑をかける。怪我をさせる。それでもそう言うか?」

 

「そうやなぁ……、その治療に免じて抑え目にして欲しいんやけど」

 

「無理な相談だ」

 

 それきり黙りこんだ京を見て、今度こそ話は終ったことを理解して木乃香は立ち上がった。

 一瞬、京を見て小走りに走り去っていく。

 その背に向かって京は一言声を掛けた。

 

「もう君の仲間達じゃ手に負える事ではない。もう関わることもないだろうさ」

 

 だから君の心配している事は起きない。そう言った。

 これから京が行うことは彼等の手に負えるものではない。それほどの大事であり、この計画を締め括るものであるからだ。

 故に、木乃香が危惧する仲間の危機は起こらない。無駄だから、無駄死にになるからだ。尤も、力不足をわかっていて特攻されれば話は別だが。

 

「"ありがとう"」

 

「……」

 

 ボソリと囁かれた言葉を京は聞く。

 その感謝の言葉の意味がなんのことかは京にはわからなかった。

 なにか釈然としないものを感じながら京は自分の目的の場所へ向かっていったのだった。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「やぁ、遅かったね」

 

「念のために少々遠くまで逃げてまして」

 

 泉の上に立てられた巨大な岩の上にフェイトはいた。

 その隣に京も着地する。

 

「それは?」

 

 隣に降り立った京を見て、フェイトは京の手からぶら下げている物に目を向けた。

 

「どこからか見ている者がいたようです」

 

 ガシャンと音を立てて京の持つそれが地面に落ちる。

 丸い球体の金属、そこからはプロペラがくっ付いている。どこかで見たことがあるような気がして、サーチャーに形状が似ていることを思い出した。

 敵の誰かが放ったものかなと特に気にもせず、京はその動きを止めた金属の塊を踏み潰す。

 

「ふぅん」

 

 それに興味があるのかなないのかフェイトはよくわからない相槌をうった。

 

「他の仲間は?」

 

「彼女達かい? 放って置いたよ。用済みだしね。でもこの一件が終れば何人かは勧誘しようかなとは思っているけど、君とは違って扱いやすそうだしね」

 

「ハハ…」

 

 君の操っていた機械は回収しておいたからともフェイトは最後に付け加える。

 それに京は深い追求はしなかった。それは自ら地雷を踏みに行く行為と等しいものだったからだ。

 フェイトの皮肉にも京は笑って返すしかできない。

 

「彼女を逃がして、これからどうするつもりだい?」

 

 来た。

 

「問題ないです。千草がいない以上、彼女は必要ない」

 

 千草が捕まった以上、本来の計画は潰えている。木乃香も実際必要はなかった。

 だが裏で糸を引いていたフェイトとその目的を推察していた京はこれで終ることを由としていない。

 京からしてもこのままでは事実上の失敗と言う結果に終る以上、ここで動かなければならなかった。

 

「それで君はどうする? このまま作戦終了で終らせることはどういうことかもわかっているだろう?」

 

「勿論、その為に1つ確認したい」

 

「なんだい?」

 

「貴方が得たいのは敵のデータ、違いますか?」

 

「……概ね間違ってはいないね」

 

 この推察はかなり後になってからわかったことである。

 最初、千草との顔合わせから誘拐の経緯と理由を聞いたとき、それはフェイトの求めるものではないと思えた。そもそも誘拐という計画を企てたのは千草だ。フェイトは千草を決起させるよう促しただけであり、誘拐についてはどうでもいいと見ている。そう判断した。

 そして、1度目の襲撃、フェイトは様子見と言ったのだ。彼が出れば全てが終わると言うのにだ。そして、京がネギ達を逃がしたことについて不問とされた瞬間、それは確信に変わった。

 ネギの経歴、その時のフェイトの様子をみればそれはわかった。英雄の息子、それがどこまでやれるか見たかったのだ。

 2度目の襲撃、こちらが各個撃破されている中、それでもフェイトは京が1人残るまで様子身をやめなかった。そして全員が集合した瞬間、合わせた様に現れたのだ。

 そこまでの経緯でやっと全てを察することができた。

 実際、それを察して行動に移るまで京の行動は綱渡りだったのは間違いない。

 

「ネギ君の勤める学園、麻帆良学園は意外と隠蔽に長けていてね。彼の情報は殆ど掴めなかったんだよ」

 

 実際フェイトにも学園での内容、教師としての動きしか掴むことしかできなかった。

 そして、数少ない情報からネギの京都修学旅行を聞きつけ、敵となるものを嗾けたのである。

 何故ネギを気に掛けるか、それはわからなかったが英雄の息子という以外にも理由があるのだろう。

 

「それで、収穫は?」

 

「あぁ、かなり良い収穫だった。思わぬところで黄昏の姫御子を見つけるとは思わなかったしね。彼も僕等の敵になりえる存在だとわかった。彼の味方になりそうなパートナーを含めてね。君の勝手な行動の副産物だとしても上々だよ」

 

 知らない単語がいくつかと引っ掛かりを覚える言葉もあった。だがそれをフェイトは語ることは無いだろう。何故かそんな気がした。

 完全なる世界としてネギ達の情報が欲しかった。それは何の為かはわからないがまだ京の知らない何かがあるのだろう。

 

「だが、君自体の評価はあまり良くない。君は僕の目的を察してそれに反しないように彼女達の計画を邪魔したに過ぎない。結果として良い結果にはなったけれど、結果論だけを君に求めているわけじゃないんだ。それはわかっているだろう?」

 

 そう、表の結果としてはネギ達から戦力を引き出せるだけ引き出して窮地に陥っただけということだ。実際計画通りにやれば誘拐した木乃香を餌にいくらでも戦う機会はあった。手っ取り早く事が終ったとはいえ、それは偶然の産物に過ぎず京の成果とは言い難い。

 

「勿論だ。わかっていますよ」

 

 だからここで挽回しなければならない。

 

「リョウメンスクナノカミ、実際どれくらい強いですかね?」

 

「……感じる魔力量から見るに、僕でもある程度苦戦するくらいには強いかな」

 

 フェイトの力量は実際どの程度のものかわからない。だが今まで京が戦った者の中でもかなり上位に位置することは確かだろう。

 そのフェイトをして相当強いと言わしめるのだ。それなりに凶悪なのだ。

 

「彼等と戦った場合は?」

 

「今の彼等に為す術はないよ」

 

「そう、それはよかった」

 

 ネギ達全員、あのメンバーで掛かってもリョウメンスクナノカミは対応できない。ならばフェイトの要望に応えさせる事ができる。

 ならば京のやることは1つだ。

 

「なら、危険分子の排除、または彼等からもう一手引き出す、というのはどうですか?」

 

「……どうやって?」

 

「リョウメンスクナノカミの封印解除、この地で暴れさせます」

 

 そう言って京は笑った。

 それによってどうなるかも全て考慮に入れアッサリとどうでもいいと切り伏せた京の笑みはとても善人のものではなかった。

 

「まだ彼等に切り札があるならここで切ってくる。無いなら彼等は終わりです」

 

 それによって京都が更地になろうと知ったことではない。

 リョウメンスクナノカミが開放されればどうなるかは京にもわからない。単純に獣を檻から出すだけ、首輪も無い。だがそれでいい。彼等はそれを黙って見過ごせない。

 

「それが最終的な目的だったのでは?」

 

「間違ってはいないけどね」

 

「そこのところもわかっていますよ、止められなければ俺がアレを潰します」

 

 殺傷禁止、それは全てに有効だ。

 千草がもし誘拐に成功、リョウメンスクナノカミを無事召喚し手綱を握ったならそれは大きな被害を生み出すだろう。

 それを完全なる世界は許さない。

 自らが蒔いた種は元凶が収拾する。ほんの少し暴れたところでフェイト自身が終わりを告げたことだろう。

 つまり、京がいなくとも初めからこれは茶番もいいところだったわけだ。

 京はその過程を1つ省いたに過ぎず、結果が同じならフェイトも文句はあるまい。

 

 

 

 

 

――――――DEFENSE DEVILよりゲーリーピーター・シュガル、数学魔術――――――

 

 

 

 

 

 胸元から一冊の本を取り出し開く。

 本のページにはびっしりと数式が書き込まれており、余程優秀なものでなければその数式の意味を理解することは不可能だろう。

 捲れていたページが、止まる。

 

「見つけた」

 

 なるほど、と京は感嘆の声を上げる。

 緻密な封印式、リョウメンスクナノカミを雁字搦めに縛り押さえつけるレベルの高度な封印だ。所々力任せな部分も見受けられるがそれを差し引いてもそれは芸術と呼ぶに相応しいものだろう。

 だが所詮は一定の法則が存在する人が作り上げた封印体系。

 どんな縄で縛り上げたにせよ、それは結び方が存在する。ならば解き方が存在するのもまた当然。

 そして、それは数という文字によって表現することができる。

 

「解法、ナビエ-ストークス方程式、代入は可能、っと」

 

 パチン、と指を鳴らせばそれは全て終る。

 幾重にも重ねられた封印式、その最も強力な封印を解いた。

 あとは放置で問題ない。

 自分を縛る鎖が1つ解けたことにリョウメンスクナノカミは気付いただろう。あとは地力で力任せに破って這い出てくるだけだ。

 それを自分たちは眺めていればいい。

 

 

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 

 

「聞いていいですか?」

 

「……なんだい?」

 

「リョウメンスクナノカミ、本当に強いんです?」

 

 京達の目の前には予想外の代物が映っていた。

 氷漬けになったリョウメンスクナノカミ、それを高笑いで見下ろす少女の姿。

 簡潔に説明しよう。リョウメンスクナノカミ解放後、3分で復活の時は終わり倒された。

 馬鹿げていて、冗談にもならない。それほどの力の差で、鬼神と呼ばれたあの氷の彫刻がとてもではないが強いものには見えなかった。

 

「あぁ、そこらの魔法使いが何千と集まったところでどうにもならない程度には強いよ」

 

「なら、あれは」

 

 少女の方がそれを凌駕するほどに化物だということだ。

 

闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)……」

 

 ボソリとフェイトはその光景を眺めながら呟いた。

 フェイトは彼女を知っているということだった。

 

「知り合いで?」

 

「魔法世界にいる君がアレを知らないのは不思議でならないね。有名人さ」

 

 京との取り交わしの中、フェイトの目は鋭く闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)と呼ばれた少女を射抜いていた。

 厄介なのがいたと言うように

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、真祖吸血鬼(ハイ・デイライトウォーカー)、魔法世界最強種の一角さ」

 

「ははぁ」

 

 それを京は気の抜けた声で相槌をうった。

 呆気に取られていると言ってもいい。

 

「で、様子見ならアレ放置でいいんですよね?」

 

 全盛期なら対吸血鬼決戦能力があるが今は無い。今のところ彼女に勝てる要素は無く、京も自分の力量は心得ているため、さっさとづらがろうとフェイトに促した。

 だが

 

「いや、もう捕捉された」

 

 もう遅かった。

 

 

「おや、盗み見なぞ不躾じゃないか、せっかくこの私を見ることができたんだ。もっと近くで見ていけよ」

 

 

 それは背後から音も無く現れる。

 京の背後、影の中から上半身だけを出して這いよるようにそれはいた。

 鮮やかな金髪に黒いワンピースとマントを着た愛らしいと言えるほどの美少女、だが今の京達にとっては死神にも等しい存在だった。

 虚を突いた出現、それはフェイトですらも不意を突かれるものだった。

 それは京も同じ、このまま不意の一撃を貰えばどうなるかわかったものではない。

 

 だが

 

「……!」

 

 不意打ちは京の十八番だ。

 手には黒い本が握られている。

 エヴァンジェリンが京に掴みかかるよりも早く、それは既に発動していた。

 

「eiθ=cosθ+isinθ!」

 

 エヴァンジェリンが京の腕を掴む、だが同時に力なく地に落ちる。

 ボトリ、と少女の右腕だったものが無残に切り落とされたのだ。

 それは京以外にとっては予想外の反撃だったろう。

 目の前には禍々しい白金の刃が一つ、京とエヴァンジェリンの間を割るように空間の割れ目を裂いて飛び出ている。

 数学魔術、それは数式を用いた魔術手段、数という概念を使った法則と定理を操る魔術である。

 先の不意打ちも複素平面における極座標形式、京の円形の範囲から虚数空間より攻撃する回避不能のトラップだ。

 万が一に備えての防衛手段、まさか京も使うことになろうとは思いもしていなかった。

 

「y=mx+n!!」

 

 本を開き、エヴァンジェリンに向かって突き出す。

 本からは複数の連結刃が発生し、真っ直ぐ彼女に向かって追撃を開始した。

 しかし

 

「ふん!」

 

 それを嘲笑うようにエヴァンジェリンは振るう左腕でそれを苦も無く砕いた。

 更に落ちた右腕はいつの間にか蝙蝠へと変じ、彼女に集まり元の形に戻ってゆく。

 

「これは……」

 

 拙いのではないか、そう京は直感した。

 数ある能力を引き出し身につけて自分から養った力はほとんどと言って無いが今までの戦闘経験は京にも与えるものがあった。

 死亡フラグ的な直感である。

 片手で数え切れないほど死に掛けて、一度死んだ自分だからこそ理解できるこの空気、気配、直感、あぁこれ拙いなといった物だ。

 要するに相手の力量と戦った場合の結果を即座に判断できる直感的なものである。

 そして、今の京とエヴァンジュエリンの間は致命的だ。

 そう思っている間にも彼女の拳は目の前にある。

 

「チ……ガァァっ!?」

 

 ギリギリでガードに成功する。

 ガードできたのはただの運、木の防衛本能が働いてくれたのが幸いした。

 しかし、同時に左腕が砕ける。

 そして、ガードを突き破って京の胸に拳が突き刺さり吹き飛ばしたのだ。

 数十mを吹き飛ばされ、湖の辺に投げ出される。

 被っていたローブのフードがガサリと落ちた。

 

「ほぅ……」

 

 仰向けに倒れる京を跨って見下ろす様にエヴァンジェリンはそこに立っていた。

 先ほどのサディスティックな笑みからどこか興味を持ったような笑みで、エヴァンジェリンは顔を近づけた。

 

「お前、何だ?」

 

 彼女の目に見える京はどのように映るのか

 そして、京の反応は

 

「知るか、自分で考えろ」

 

 炎が返答代わりにエヴァンジェリンを襲う。

 吹き飛ばされる最中に輝装を起動、ダメージを最小限に抑えていた結果だった。

 それに愉しそうにエヴァンジェリンは微笑む。

 

「あの胸糞悪い呪縛から解き放たれて今日はやけに僥倖だと思ったが、まさか同族に会えるとは、400年生きたが同族は始めて見たぞ」

 

「……」

 

「何を黙っている? 違わないだろう。元人間の化物」

 

 全てを避けられ目と鼻の先まで詰め寄られて、京はそれでも黙った。

 彼女の言葉は今更のものだ。どうこう思うものではない。

 だが初見で京の正体を見破られたのは初めてで、それに面食らっただけだった。

 

「できればしょっ引いて来いと言われたが……、惜しいな。どうするか」

 

「逃がすってのはどうだ?」

 

「ハハハ! 却下だ!」

 

 振るおうとした右腕が砕かれた。

 

「ちっ……」

 

 ハッキリ言ってしまえば窮地だ。しかし、どこか冷静でもいられた。

 京の能力では未だアレに達するのは無理だ。

 いや、違うか。

 今の段階では無理なだけだ。

 それに今は

 

「障壁突破"石の槍(ドリユ・ぺトラス)"」

 

 彼女と戦う必要はなく、勝つ意味も無い。

 機を伺っていたフェイトが行動を開始していた。

 フェイトの詠唱完了とともに地面から無数の石の槍が生え、エヴァンジェリンに殺到する。

 

「チッ……、もう一人いたんだったか」

 

 それに対し後退することでそれを回避される。

 だがその一瞬の間で十分。

 フェイトは既に京の背後にいて、そのまま襟を掴んで引っ張った。

 

「グェッ」

 

 思い切り引っ張られたからかカエルが潰れる断末魔のような声で京は為されるがままに引っ張られた。

 フェイトの進み先には水溜りがあり、その先にフェイトはするりと入り込んでいく。

 水を使った転移魔法、それによってこれから脱するのだ。

 

 しかし

 

 その寸前に京は地面に落ちた。

 京の襟には握られたままのフェイトの手があって、それが切り落とされたことを物語っていた。

 

「ぁ、ごめん。無理みたいだ」

 

 そう言って、フェイトはもう一方の手を上げてサヨナラの合図をした。

 

「って、オイ!」

 

 それに思わず京は突っ込みを入れた。

 まさか見捨てられるとは思わなかったからだ。

 

「ちなみに君は合格だ。その底がまだ読めない力を考慮に入れてね。だから後で何とかするよ」

 

 京の突っ込みにご丁寧に返して、フェイトは消えて言った。

 例え助けるといっても今ここで見捨てたことには変わりないだろう。彼の判断もわかるにはわかるがわかりたくない。

 そして

 

「どうした? 飼い主に捨てられた子犬のような顔をして、私が拾ってやろうか、ん?」

 

 愉快そうに笑うエヴァンジュエリンがそこに立っていた。

 ちなみに断じてそんな情けない顔などしていない。

 

「ハハ……」

 

 早すぎる天罰が下ったかなと京は顔を引き攣らせて笑うのだった。

 

 こうして京のこの世界での活動はなんとも情けないもので締め括られるのだった。

 




と京都襲撃編はおしまいです。
次回はちょっとした幕間になります。

分量が安定しない…ううむ。

作品名:DEFENSE DEVIL
ジャンル:漫画
能力:数学魔術
使用者:ゲーリーピーター・シュガル
数式を用いた魔術手段、数という概念を使った法則と定理を操る魔術。
真っ向からの戦闘には向いていなく、トラップや不意打ちによる攻撃、相手の封印や式を解除することに長けている。
攻撃に用いた場合は数式に準えた軌道で白刃の刃が発生し、敵を攻撃する。
ちなみに数式が書いてあればどんな本でもよく、真理に近い数式であればあるほど強力になる。
限りなく真理に近いある数式とは…

とDEFENSE DEVILでした。
魔界弁護士として悪徳死神から免罪を勝ち取るといった物語でしたが段々とただのバトルものになっていきます。
おい、弁護士業はどうした。
面白いからいいんですけどね……、そう突っ込まずにはいられないそんな漫画でした。
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