随分と長くなってしまったので2つに分けています。
「はじめようか」
京はそう言いながら構え、笑った。
同時に廻らせるのはどう戦おうかという物、勝つことは前提条件、そして勝つにしても京はある程度のプロセスを踏まなければならない。ネギの成長度合い、実力の有無、そして神楽坂明日菜の魔法完全無効化能力の実態調査、この2つを完遂し、尚且つエヴァンジェリンの条件を汲まなければならないのだ。
実際相対してみて、意外と面倒くさいことに京は気付く。
「っと」
次の瞬間、京は僅かに上半身を反らし、突然やってきた攻撃を避けた。
攻撃をしたのは先ほどまで這い蹲り、京が見下ろしていた小太郎だった。手加減が過ぎたか、それとも小太郎の体が想像以上に頑丈だったか、どちらにせよ見誤ったのには違いない。
続けざまに放たれる渾身の蹴り、しかしそれは京の体に掠らせることもできず放った矢先に
そのまま小太郎は意識圏を足場に京から退くように跳躍、ネギの隣に着地した。
「ネギ、気を付けろ、あの兄ちゃんの武器も攻撃もなんかおかしい」
「……」
「小太郎くん! 大丈夫なの?」
「手加減されとったわ、おかげでまだ動けるんやけどな。釈然としないわ」
小太郎もわかっていた。自分が手加減されていたことに、それに悔しそうに顔を歪ませていた。
敵が3人に増え、面倒なことになりつつある。作戦会議などさせる気も無かった。
一向に攻撃に来ない相手に、痺れを切らしたのは京だった。
「来ないなら、こちらからいくよ」
京はそこから地を蹴り、前進を開始した。
時間を掛けてはいけない。この学園中の敵を全て相手取る気など無い。月詠の結界によってかなり気付かれにくくはなっても増援はそこらにうようよと集まろうとしているのだ。それに押し切られると言う結果も絶対に無いとは言い切れない。更にその中に学園の切り札のような強者がいないとも限らないからだ。
それに受け身は、性に合わない。
疾風の如く迫る京に対する3人は構えることでそれを迎え撃つ気概を見せた。
「上等」
京はそこからネギに向かって蹴りを放とうと跳躍。
「
京が跳躍したとき、ネギも詠唱を完了していた。
ネギの体に火がつくように黄色い光が発生、包んでいく。
更に両手を胸の前に構え、一息、更に一歩力強く踏み出して両手を突き出した。
「双撞掌!」
同時に振り下ろされる京の踵落とし、それはネギの両の手と激突、衝撃とともに互いの体が軋んだ。
ネギは更にスゥと息を吸い込み、前足に更に力を篭めることで活を入れた。
「ハッ!」
「ぅぉっ……!」
その衝撃によって京は宙に飛ばされた。少々の想定外、止めるならまだしも更にそこから返すとは思わなかった。拳法、その類だろう。どんな種類のものかは見当もつかないが魔法と拳法をこの短期間で戦闘に生かせるなら相応に訓練を積んだのだろう。
そして、ネギの体に纏われている魔力、魔力を自身に纏わせる身体強化は先に戦ったときは数秒程度だったはず、なるほど舐めて掛かると足元を掬われるのかもしれないと感心に似たものを京は抱いた。
そんな思いも束の間、追撃をかけるように京の両サイドから明日菜と小太郎が、すぐそこまでいる。
だが
「これも消えない……!」
そう明日菜は悔しそうに言葉を零す。
それは未だ自分の能力がどんなものかというものを理解していないということだった。
打ち消せないなら打ち消せないでその理由を推察程度はできるだろう。それは自分の能力が魔法完全無効化能力であるということを知っているという前提の話、どうしようもない。
「姉ちゃんの攻撃でも消せないんか、気の防御やないってことか」
どうするか、どう戦ってくるか、相手次第だ。京はその隙を突いて調査に当たらせてもらう。
それからはほぼ一方的な展開が続く。
意識圏が破れない以上、大人にじゃれ付く子供のように相手にせず、ネギのみとの戦闘をしていた。
「驚いた。前とは段違いだ」
ネギとの戦闘のみ、意識圏を解いて、肉弾戦をする。動き、格闘技術だけなら京よりおそらく上だ。
力任せともいえる京の攻撃を上手いこと捌いている。
「ええ加減にせいや!」
「無視するな!」
そこに割り込むように、ネギの攻撃と同調して、2人が懐に潜り込んでくる。
それを軽々と交わして、京は距離をとった。
「一瞬でいいです。隙を作ってください! 僕が一気に畳み掛けます!」
「オーケー! 任せたわよネギ!」
「しゃーない、付き合ってやるわ」
ネギの提案に同調する敵一同。
それは京を打ち破る策、または技があるということだ。エヴァンジェリンが吹き込んでおいたものかなと一瞬思い浮かぶ。一方的なだけでは面白くないだろう、的な。
彼女の高笑いが思い浮かぶようだ。
「いいよ、きな」
新たに渾身の一撃を放ってくるというなら望むところだ。
京は一歩も動かない。両手を広げて誘うように、来い、そう表した。
「上等や! 一泡吹かせてやるわっ!」
「えぇ!」
小太郎と明日菜が再び京に仕掛ける。
ハリセンによるなぎ払うかのような一撃、小太郎による拳打、だがその悉くは京の意識圏を破ることは叶わない。その攻撃は時間稼ぎにもならないかった。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」
始まるネギの詠唱。
だがこのまま打ち破る術を持っていてもこのままでは外れることは間違いない。
今を以って足止め役として盾としての機能は彼女等にはありはしなかった。
明日菜と小太郎もそれはわかっていた。
その時、チャンスは現れる。
京の展開する意識圏がふと消えた。
「消えたで!」
それが何故かを小太郎達は理解していない。だがこれはチャンスでもあった。
ネギの攻撃、来るとわかっているならば難なく避けられる。だからこそ今すぐにでも重い一撃を京に叩き込み、動きを一瞬でも止めなければならない。だがそれは鉄壁とも呼べる防御結界が邪魔をしていた。それが消えた。
その瞬間、京の懐に一瞬で小太郎が入り込んだ。
「お返しや!」
「っ」
ズンと小太郎の繰り出した肘が京の腹に深々と突き刺さった。
一瞬、京の目元が衝撃で歪む。
「
そこで京が離れようと体を翻そうとする。
それを頭上から明日菜が攻撃することでそれを止めた。
京も右手に持つナイフでそれをガードするがそこには完全な隙が出来上がっている。
俺たちの勝ちだ。そう小太郎は思い、笑う。
しかし、小太郎は京の顔を覗き込んだとき、それは違うことを悟った。
「
ネギの頭上には雷で構成された巨大な斧。
ネギは右手を振り下ろす。それに追従するように頭上の雷斧も京目掛けて振り下ろされた。
「ハハ」
それを京は、笑って迎え入れた。
小太郎が見上げたとき、フードの陰で顔の輪郭すらもわからないはずだった。だが闇の中で光る京の右の3つ目と左目は確かに笑うように歪んでいたのだ。それは小太郎が笑んだものと同種のものだった。
してやったり、と。
全力で振り下ろされた拳は戻せない。
小太郎と明日菜もこのままでは巻き込むだろう。だが小太郎は京の一撃を加え、明日菜も防御はされはしたものの京の動きを止めた。2人はこの隙に離脱することが可能だ。
小太郎も明日菜も、両者ともにそれがわかっていた。だからこそ全力で後方に、着弾地点から離脱しようと跳躍する。
そして、壁に寄りかかるようにして、それは防がれた。
「っ!?」
その瞬間、2人の目は見開かれた。
背に伝わる感触、ドンと壁のようなものに背から体当たりをかますようにそれは止まった。その動きは殆どなく、精々が30cmほど京から離れただけだった。
頭上には今まさに迫っている雷斧がそこにある。
全て、想定内だった。
意識圏は消えることなど破られるか、それとも自分の意思で消すかの2つだ。今回は後者、自分の意思で意識圏を消して、彼等を誘い込ませた。自分の懐に、何発か食らうことを覚悟の上でだ。
何発食らっても関係ない。何故ならその後で特大の一撃を食らうことを承知しているからだ。そして、その一撃を貰うのは京だけではない。再び発生した意識圏の内側にいる彼等も一緒に食らうこととなる。
罠だった。京に攻撃を加えさせ、近寄ったところで囲み、逃げ場を無くす。
「お前……!」
「ハハ、歯ぁ食いしばれよ?」
口だけを吊り上げて、京は笑った。
同時に着弾する雷の大斧。
轟音と共に砂塵を撒き散らしながら爆発が起こる。
「ぁ、明日菜さん! 小太郎くん!」
悲鳴が上がった。
自分が放った必殺の一撃、それが仲間を巻き込んでしまった。自責の念からか悲痛極まりない感情が伝わってくる。
煙が晴れ、そこには一人の人影が見えた。
だがその人影はネギの期待する人物のものではないとシルエットだけでもわかってしまう。
「……ケホ……」
軽く咳き込むように黒い煤煙を吐いて、そこには京が立っていた。
その足元には黒焦げになって倒れる小太郎と無傷で倒れこむ明日菜がそこにいる。
「一人退場、検証終了」
この罠の目的は2つ、小太郎の排除、そして明日菜の魔法完全無効化能力の確認だった。そしてそれは成功する。確認するにも京は魔法が使えない。ならば敵の攻撃を利用する他無かった。長い時間をかけることもできず小太郎は邪魔だった。京がダメージを受けることと差し引いても良い成果だ。
明日菜は無傷だった。服のみが焼け焦げ、直視に耐えない姿を晒しているが傷はなし、目の前で起こったことに目を回して昏倒しているだけだった。
任務はとりあえずの結果を得る。
だが京は気に食わないことがあった。
ダメージをものともしない様に京はその場から直進する。向かうは、ネギだ。
「……っ!」
茫然自失としていたネギに肘下の部位をネギの首に押し付け押し倒し組み伏せる。
首を圧迫されてか、引き離そうとネギは京の右腕を掴むがびくともしなかった。
そして京は疑問を口にした。
「お前、手抜いただろ」
現在のネギの実力でいえば、先に戦った職員達よりも些か実力としては劣るだろう。それが京の感想である。
だが戦いにおけるセンス、潜在能力は計り知れない。足元を掬われる可能性も無くはなかった。
京の受けた雷の斧も相応の覚悟を持って受けたのだ。そして、京の予想に反してそこまでのダメージを京に与えることはなかった。拍子抜けもいいところだ。
こんなものではないだろう。見たことはないがエヴァンジェリンの教育はそこまで甘くは無いはずだ。
「俺はお前の友達を傷つけたんじゃなかったのか、それに怒ったんじゃなかったのか?」
ミシミシと音をたてながらネギは地面に沈んでいく。
「何でここにきた。お前はいても立ってもいられずにここに着たんじゃないのか? 実力差があることは前の戦いでわかっていたろうに、何故手を抜いた? 必要があったのか?」
確かに1週間やそこらでは見違えるほどに、笑ってしまう程にネギは強くなっていた。
しかし、だ。そこまで強くなっていても
何故、最後の最後で手を抜いた。
「……悪い人には見えなかった……から…」
「ぁ?」
「木乃香さんを逃がしてくれたから……」
「おい」
それを聞いて京は脱力した。押さえつけるネギから身を引き、離れた。めんどくさそうに頭を掻きながら溜息をついた。
「締まらないなぁ」
完全に毒気を抜かれたのかどうしようかと思案をめぐらせる。しかし、京の中では答えは決まっていた。
この戦いは終わりだ。もう全て、更に戦ってもわかることはない。
神楽坂明日菜の完全魔法無効化能力の存在確認、ネギ・スプリングフィールドについて、異常すぎる成長速度、エヴァンジェリンが師に着いた事により半年経てばどうなるかは未知数、ただし年相応に精神は未熟。
そうフェイトに伝えるだけだ。
類稀な戦闘センス、潜在能力を持つ少年、だが内面は戦闘向きとはとても言えない。お人好しな10歳程の少年だ。
敵として容赦なく挑むには不可解すぎる京の行動、憎むに憎みきれずにある種の疑問と共に京と相対してしまった結果がこれだ。
大人のように割り切れはしない。彼はまだ少年だから、それを求めるのは酷で、割り切らないほうがむしろ良いのではないだろうか
そう結論付けて、京は踵を返し、その場を離れた。
「待ってください!」
「やることはやったから、これで終りにさせてもらうよ。悪かったね」
背を向けて呼び止める気を無視し、一声だけネギに言葉を渡す。
そして、徐に足を止めるとある方向に顔を向けた。その先には一見何もない背の高い草木があるだけだ。だが京にはそこに潜むものがいるのは見えている。
おもむろに右手に握る空断を草むらに振るった。
「ひっ……」
そこには赤毛にそばかすの少女。
京の持つ
京は少女を見下ろすように傍に立った。
「夏見さんっ!?」
傍に立ち得体の知れない風体である京を見て怯えの悲鳴を上げた少女、そしてその少女を知っているでのであろうネギが倒れながらも驚きの悲鳴を上げていた。
「あ、あの、わたし、小太郎君が外に出てっちゃったから、夜、遅いし、連れもどそう、って」
「……しまった」
ここに京は自分の失態を理解した。
見たところ、ネギの反応、そして少女を見て、明らかに部外者なのだろうと思う。
しかし、部外者なら月詠の結界に逸らされここに至ることすらありえない。
ならば何故か、それは刃旗の欠点に起因する。
刃旗において欠点が2つある。1つは顕醒すると右手の刃旗核が外部に露出することだ。それは正に心臓部とも呼ぶべきウィークポイントであり、それが破壊されれば即座に人として死ぬ。強力な防御力と引き換えの紙のように脆弱な弱点を得てしまうのだ。
そして、今この状況を作り出しているのが2つ目の欠点。顕醒時、戦闘形態となるとき刃旗核は眩い光を放つ。その光が拙い。その光を見た者は認識阻害や忘却の異能に対して強い耐性を持ってしまう。夏見と呼ばれた少女がここに来れたのも僅かながらこの光を目にしてしまい月詠の結界が効かなかったからだろう。
どちらにせよこの戦いを見られた。一般人と目される少女を巻き込んだというには違いない。
それに対して京がとる行動とは
「ま、いいか」
気にしないことであった。
別に見られたからといて京にデメリットは存在しない。むしろ困るのは学園側だ。そして、正義を謳う彼らだ。彼女を悪いようにはしないだろう。何をする理由も手段も京にはなかった。
京としても初めの戦いのときからこっそりと見られていることに気づいていて、とりあえず確認したに過ぎなかったのだ。もしも偵察している敵なら昏倒させようと思っていたのに予想外のものが引っかかってしまった。
「夏美さん! 離れてください!」
「おい、俺は見境なしじゃ……いや、違わないか」
目の前の少女は京を前に涙すら浮かべている。普通に傷つく。
これ以上ここにいてもよいこともやることもない。
「何もしやしないよ」
取り繕うように少女に声を掛ける。その言葉が如何に胡散臭く信用ならないものでもだ。
下手に時間を食ってしまったと思いながらその場を離れようとする。
しかし、もう全てが遅かった。
僅かな時間、少女に要した時間が拙かった。
京の危惧していた事の1つ、学園の切り札ともなりうる強者が既に結界を補足、侵入し京を捉えていたのだから。
「……!!」
京は咄嗟に、体をずらす。
その時、京の顔の掠って何かが飛来した。
フードが吹き飛び、避けきれなかったのか僅かに抉れた頬から血が流れ出す。
「っ……!」
攻撃のあった方向を睨みつける。
そこには眼鏡を掛けた渋めの男が立っていた。
そして、第3幕が始まるのだった。